とある少年の波紋疾走   作:イヌガミケ

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第7話「修業」

翌日。河原の土手の下にジョジョとツェペリはいた。

 

「では早速波紋の修業を始めるぞ」

 

「はい! よろしくお願いします先生!」

 

「その前にジョジョ。お主波紋とはどういうものかは知っていると言ったな。では波紋法で最も重要な体の部位はどこだと思う?」

 

「……呼吸をするための肺ですか?」

 

「その通り! 波紋は特殊な呼吸によって力を発揮する。そして呼吸は肺で行う。つまり波紋の修業は肺の力、肺活量を鍛えることから始まる。どれ……」

 

ツェペリは遠くにある橋を見る。

 

「この橋から向こうの橋を15分以内に10往復走ってみろ」

 

「こっ、この距離をですか!」

 

「何か問題でも?」

 

「い、いえ……」

 

「なら始めるぞ。そうそう15分を超えたらペナルティーとしてさらに5往復走ってもらうからな」

 

「ちょっ……」

 

「レディー、ゴー!」

 

慌ててスタートを切るジョジョ。いくらケガが治ったとはいえ2週間ほど何もしていない体には辛いものであった。

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「17分と48秒か…あと5往復追加だな。ほれほれ、休んどる暇はないぞ」

 

 

 

 

 

「ゼェー…ゼェー……」

 

 キツイ。その一言だけだった。黄泉川のトレーニングとは比較にならないほどのものだった。短距離のようなマラソンが終わったのも束の間、今度は短い距離の走り込みの繰り返し。休憩中は波紋の呼吸法。しかし慣れないせいか苦労して休憩の時間といっても全く休めなかった。休憩にならない休憩が終わったらまた走り込み。それを延々と繰り返し日没近くになってようやく修業が終わった。

 

ツェペリと別れた後、よろよろになって病院に戻っていった。ちなみに昨日河原から戻ってきた時に行った検査の結果、ケガは治っていたが大事をとって10日ほど様子をみることになった。もう退院してもよさそうな気もするが。

 

想像以上にハードな修業が始まってから10日目、波紋の呼吸が少しずつではあるができるようになった頃。ジョジョの退院の日になった。

 

「それにしても驚いたよ。予定よりも早く、しかもこんなに快調に」

 

「まあ、丈夫さが取り柄ですから」

 

「それに10日ほど前とは打って変わって清々しい表情をしているね。心の方も問題なさそうだ。何かいいことでもあったのかな?」

 

部屋を出ようとした時にカエル顔の医者は尋ねた。ジョジョは振り返り答えた。

 

「これから起こるんですよ」

 

 

 

 

 

「退院したようだな」

 

「はい」

 

ジョジョは退院した後ツェペリに河原に呼び出されていた。

 

「なら、本格的に修業できるな。どうだ。波紋の呼吸はできるようになったか?」

 

「意識して出来るまでには……」

 

「そうか。だがいかなる状況でも無意識に波紋の呼吸ができなければ意味がないぞ。そのためにお前にはこれをつけてもらう」

 

突然ツェペリは勢いもつけずに3メートルほどの跳躍をし、ジョジョの上を飛び越える。その直前にガチャリと「何か」を付けた。

 

「こ、これは!」

 

驚いたのも束の間、急に呼吸ができなくなる。

 

「グッ、い……息が……」

 

「お主にはこの波紋法矯正マスクをして生活をしてもらう。このマスクは波紋法の呼吸をすれば何の問題もなく呼吸できる。だがひとたびリズムを乱せば一切呼吸ができなくなるぞ。現にお主はワシの動きに驚き、呼吸を乱した。お主には10キロ走っても呼吸のリズムを乱さないようになる必要がある。そいつは食事と歯を磨くときだけに外してやろう。」

 

 なんだずっと付けているわけじゃないのか、とジョジョはホッとしたが一つ疑問が出てきた。

 

「あれ? でも先生。飯の時といっても退院した今だと昼の時は学校にいるからマスクは外せない。それに朝の時も夜の時も先生がいないから外せない。ということは修業の時しか飯が食えなくなってしまいますよ……」

 

 2人の間に流れる沈黙。

 

「……スマヌ。そこまでは考えていなかった」

 

「オイィィ! どうするんだよ! 放課後の修業の時しか飯が食えないのはッ……グッ、ウゥ」

 

「まあまあ落ち着くんじゃ………そうじゃ! お主の所に住めばよいではないか!」

 

「俺の所!?」

 

「そうすれば昼はともかく朝と晩の心配はなくなるぞ」

 

「それは自分のことじゃあないんですか?(そういえばこの人、普段はどこで生活しているんだろう……)」

 

「いやならそれでもいいぞ。1日1食生活をしたいのならばな。いざとなれば波紋で空腹を和らげることもできるしのう。もっとも、波紋を自由に操ることができればの話だが。今のお主にそれができるかな?」

 

「……」

 

 その後、学生寮内で奇妙な格好をした男の目撃情報が増えていたという。

 

 

 

 

 

 

 退院して次の日には学校へ行った。

 

「大変だったにゃ~ジョジョォ~」

 

「何なん? そのマスク。もしかして新しいファッション?」

 

「先生が付けとけってさ」

 

 ジョジョが能力者の強盗に挑んで返り討ちにあったという噂は学校中に知れ渡っていた。あるものはよくやったと称賛の声を上げ、あるものは調子に乗った報いだと蔑んだ。酷い人はジョジョに絡む者もいた。おそらく注目されたことに対する妬みであろう。

 

「よぉ~勇敢な無能者さんよぉ~」

 

 幸い校内で教師も近くにいたので大した騒ぎにはならなかった。

 

 

 

 

 

 学校に復帰してから4日後。波紋の呼吸も問題なく出来るようになったころ。

 

「今日から休憩中に波紋を練る練習を行う」

 

「(いよいよ実戦的な訓練か)」

 

「5日間マスクをつけていたから波紋の呼吸は問題ないだろう。今回から呼吸によって生じた波紋エネルギーを自在に操れるようになってもらうぞ。ところでジョジョ。例のモノは持ってきたか?」

 

「はい、先生」

 

 そう言いカバンの中から水の入ったペットボトルを取り出しツェペリに差し出す。受け取ったツェペリはペットボトルのキャップを開けひっくり返す。普通なら重力に従って水がこぼれるはずだが中の水はこぼれなかった。ジョジョにとってそれは見たことのある光景だったが生で見るのは初めてだったため少し驚いた。

 

「ジョジョ。どういうなぜこのようになるか分かるか?」

 

「手からくっつく正の波紋を流していたんですね」

 

「うむ、完璧だ」

 

 そう言ってジョジョに逆さのままペットボトルを渡す。ジョジョはそれを受け取り、とりあえず力を込めてみる。しかし水は固まることなく口からこぼれた。慌てて口を戻す。

 

「お主の言うとおり波紋には2種類の、くっつく正の波紋と弾く負の波紋がある。この2つを使いこなすことが重要になる。まずは容器の水を使ってくっつく波紋を操れるようになってもらう。それができるようになったら今度はそこの川の水面で弾く波紋を操れるようになってもらう。そして2つを組み合わせて2つの波紋を同時に操れるようになおかつ1点集中が出来るようになったら次は波紋を送り出す訓練に移る。では早速始めるぞ。まずは走り込みだ!」

 

「はい!」

 

 最初の頃は起き上がれないほどだったが何日も走り込んでいるとバテなくなってきた。

 

 そして休憩中には、

 

「指先のみから波紋を流すんじゃ! 放出する面積を小さくすればするほど勢いは増していく。水を出すホースをイメージするのだ!」

 

「はい!」

 

 波紋を練る訓練を行った。波紋を作り出すことはできるようになったがうまくコントロールができないためか苦戦していた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで波紋が少し練れるようになったある日。いつものように修業を終えてツェペリを先に返し、買い物をした帰りのことだった。

 

「あれぇ~? ひょっとして武城くぅ~ん?」

 

 柄の悪そうな高校生3人組に声をかけられた。何か見覚えがあると思ったら、この前、学校で絡んできたヤツらだと分かった。無視すると面倒なことになると思い、

 

「すみません。急いでいるので」

 

 そう言って帰ろうとした。

 

「無視してんじゃねーぞコラァ!」

 

 しかし回り込まれてしまった。

 

「能力がねえからって調子に乗りやがってよ。俺たちはよォ、数少ない能力者なんだよ。レベルは1だけどよお、あの学校じゃ貴重な存在なんだよォ。学園都市の中で4割に入っている貴重な能力者なんだぜェ。崇められるべき存在なんだよ。それなのにお前! 出しゃばって、能力者である俺たちをさしおいて目立ちやがってよォ!」

 

 ちゃんと断ったはずなのに無視されたと思い込んでしまう程話を聞かないやつだな、と思いながらも何とか穏便に終わらせるために必死になだめた。

 

「まっ、待ってくれ。俺は別に目立つつもりで行動したわけじゃあないんだ。それに確かに今はちやほやされているかもしれないが時間が経てば自然と収まって――」

 

「そんなことは問題じゃねーんだよ! いいか、俺たちが上、お前は下なんだ。無能者は能力者に逆らっちゃいけねェ。お前らは地べたに這いつくばっているのがお似合いなんだよ」

 

「……!」

 

 彼はとにかく騒ぎにならないようにしようと努力した。そのためなら多少の罵倒は受け流そうとした。しかし不良が言ったそのセリフを無視することはできなかった。ジョジョの脳裏に浮かぶあの日の出来事、そして言葉。そして次の瞬間、ジョジョは怒りの表情を露わにしていた。

 

「誰がそんなこと決めた! 無能者が下? ふざけんな! 下ってのは力の無い奴じゃねえ。お前らみたいに力を振りかざして弱者を見下す奴のことだ!」

 

「どうやら、教えてやる必要があるみてぇだな。能力者の価値ってのをよぉ!」

 

 子分と思われる2人がジョジョに向かって突っ込んでくる。それをよそにジョジョは持っていた買い物袋を置いた。

 

「余裕ぶっこいてんじゃねーぞ!」

 

 一人がジョジョの腹を殴った。普通なら腹を抱えてうずくまってしまうほどのパンチだったがジョジョ平然としていた。それに驚く不良をよそに今度はジョジョが不良の腹を殴った。何ともなかったかのように立っていたジョジョに対して不良は倒れ込んだ。その直後に近づいてきた不良の攻撃をかわし、先ほどと同じように拳を腹に叩き込んだ。あっという間に2人やられてしまったがリーダ―風の男はジョジョに突っ込んで行った。よく見ると彼の右手が少し黒くなっていた。

 

「見せてやるよ。俺の能力は肉質硬化(メタルボディー)。肉体を硬化させて攻撃はもちろんナイフとかの刃物を防ぐことにも使える。まだ鉄のような強度はねえが殴られるとソコソコ痛いぜ」

 

 無能力者相手の余裕からかご丁寧に能力の解説を始めた。しかしジョジョはもはやただの無能力者ではなかった。彼は構え、男に向かって右の拳を繰り出した。しかし男とはまだ2メートルほどの距離があった。

 

「ハッ! 距離感を見誤ったか!」

 

 攻撃を失敗したな、と彼が思った瞬間、ジョジョの右腕が伸びた。

 

「な、何ィ~!」

 

 そして驚いているリーダー格の男の顔面に叩き込んだ。当たり所が悪かったのか吹っ飛ばされてそのまま倒れて動かなくなった。

 

「イテテ……やっぱ慣れてないせいか外したときの痛みを完全に消せなかったな……」

 

 肩を回しながらつぶやいた。彼は肩と肘の関節を外してパンチのリーチを伸ばしたのだ。関節を外せば当然激痛が走る。しかしジョジョは波紋の力でその痛みを和らげていた。これはツェペリに教わった物ではない。腕が伸びるパンチ――ズームパンチも一撃目を防いだのも彼が見よう見まねで波紋を操ってやってみたものだった。

 

「だが成果はあった。もっと修業を積めばこいつらよりも強い奴らとだって戦えるようになる。なんだろう。スゴく気分がいいぞ」

 

 気分が高揚していたジョジョは置いておいたレジ袋を拾い寮へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「随分遅かったじゃあないか」

 

「いやあ。帰る途中で不良に絡まれましてね」

 

「なんじゃと!」

 

「ああでも安心してください。返り討ちにしましたから」

 

「……波紋を使ったのか」

 

「ええ。それにしても波紋ってすごいですね。波紋を操れるようになっただけでその辺のゴロツキを倒せたんです。これで波紋疾走とか覚えたらもっと――」

 

 言い切る前にツェペリがジョジョを殴り飛ばす。ジョジョはそのまま床に尻餅をつく。

 

「な、何しやがんだ!」

 

「ジョジョ! わしはお前にケンカのやり方のために波紋を教えているんじゃあない! 誇り高き波紋をそんなことに使うのならわしはお主に波紋を教えるのをやめる!」

 

 ツェペリの気迫のこもった表情にジョジョは沈黙した。

 

「今日は泊まっていかん。なぜわしがお主を殴ったのか? それが分かるまで修業は行わない。答えが出たと思ったらいつもの河原に来い」

 

 そう言い残しツェペリは部屋を出て行った。彼が出て行った後に残ったのは静寂だけだった。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

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