梅雨の変化
今まで僕は特に意味など求めずにただただ、毎日、惰性で学校に通っていた。
高校は想像してよりも退屈で、生活に刺激はなく、新しいクラスになってからはクラスメイトの顔すら覚える気がなかった。
朝起きて顔を洗い着慣れた学ランを着て朝飯を食べから家を出て、バスで駅に向かう、そして、そこから通勤ラッシュ最中の鉄道で1時間半
列車に乗るとサラリーマン特有の加齢臭や汗臭さ、変に着飾ったおばさんの臭い香水の匂いが鼻に着くが一年と2か月も通うともう慣れた。
列車が駅に着くと人の流れに乗って駅を出る。そして見慣れた学ランやセーラー服が多いバスに乗り、学校に向かう
退屈な授業を受けて放課後、今日もバスは使わず、駅までの道のりを歩く、鉄の箱の中とは違い、街路樹の緑の匂いや初夏の日差しが夏の到来を教えてくれる。
僕はこの放課後の学校から駅までの帰り道と学校の図書室に居る時が一番好きだ。
学校から駅までの道はそこそこの距離があり、そこを一人歩いてた。
ふと、強い風が吹き、前を歩く女子生徒の黒い髪を強く揺らす、彼女は風が通り過ぎると、過ぎ去った方向を眺めながら髪をかきあげた。
その瞬間、僕はふと彼女が綺麗だと思った。だが、すぐに思考を戻す、制服からして学校は同じだろうが、学年もクラスも知らない子だからだ。
考えるだけ無駄だし、僕には関係なかったからだ。
その日はそのまま帰路に就いた。
しかし、その日、少しだけ動いた歯車は確実に進んでいた。
明くる日、僕は昼休みの図書室で委員会の仕事をしていた。と言っても普段図書室に来る人は非常に少なく、もっぱら読書をするか新刊を並べたりする位だった。
友達がいなく、クラスの居心地が悪い僕にとって図書室は自分の居場所だった。
僕は、普段の様に本を読んでいると声を掛けられた。
「....あの、これを借りたいんだけど」
耳ざわりよい優しい声が耳に入ってきた。
本にしおりを挟み、ふと、顔を上げるとそこには、先日、帰り道で見かけたあの子がいた。
肩まで伸びた黒い鮮やかな髪、人当たりの良さそうな顔、黒いメガネ
そして、白地に水色の襟の制服の胸元に光るBと書かれた赤いバッチと2年を表す青いスカーフ
僕は驚きのあまり少しの間、固まってしまった。あの日の帰り道で見かけた現在目の前に居るあの子は僕と同じクラスの子だったのだ。
その事実に今初めて気が付いた。2年に上がってからはクラスでは誰とも話さず、誰とも関わろうとしなかったし、行事とかもぼっと過ごしてたからだ。
固まっていた僕を現実に戻したのは、固める原因を作った本人だった。
「どうしたの?西野君、これ借りれないの?」
ふと我に返り、冷静に対応する。
「いや、大丈夫、少しぼーっとしてただけ」
彼女は、ふっと笑い学生証を渡してまた、口を開いた。
「西野君、教室でいつも一人だけど何か困った事があったら相談に乗るよ?」
僕は、あくまでも冷静に机のノートに彼女が借りる本の管理番号とタイトル、学籍番号を記入しながら答える。
どうやら、彼女は川野葉月と言う名前らしい、学年もクラスも僕と同じように書かれてる。
「いや、大丈夫だよ、川野さん、ここは人があまり来ないし本好きだから、教室は少し居心地が悪いだけ」
すると川野さんの声のトーンが少し下がりに言った。
「そうなんだ。ごめんね、邪魔しちゃって」
「いや、いつも人来ないし、全然大丈夫だよ」
本に入れてあるカードにも彼女の名前と学籍番号を記入し、カードを抜き取る。
そして、顔を上げ、彼女が借りた本を彼女に渡した。
本を受け取ると彼女は感謝の言葉をいい扉の方へ向かった。
本を抱えた彼女は図書室の扉を開けたときに振り返り、一呼吸置いてから言った。
「あの!.....また、来てもいい?」
予想外の行動に戸惑ったが答える。
「あ、ああ、もちろん、またおいで」
その言葉を聞いた彼女はほっとしたような表情で言った。
「うん、ありがとう、また来るね」
扉の閉まり、彼女は扉の向こうへ消えていった。ふと顔が出るときに顔が赤かった気がした。
一息つき、今起こった事を頭で整理する。色々予想外の事が起きすぎたのだ。
ほどなく昼休みが終わり、授業が始まった。川野さんは左斜め二つ前だった。
普段と違い、授業に集中できず、気が付いたら川野さんを目で追っていた。
退屈な授業があっと言う間に終わり、放課後、また、一人駅まで歩く
自分らしくないと感じながら自分である結論を出していた。
あの日、風に揺れる彼女の髪と横顔に一目惚れし、今日の昼休みでそれを発病して、今自覚した。
自分が他人を好きになるなんてありえない、だが、惚れているのは事実で、頭に彼女の事が思いついては消えていくのが何よりも証拠だった。
その日、うちに帰り、夕飯を食べて寝ると頭はすっきりしていた。
特に何か変わるわけでもないが、自分の頭の中には川野さんの事が追加された。
それから川野さんとは教室で少しだけ他愛もない話をしたりするようになった。
もちろん、図書室にも頻繁に来るようになり、僕一人場所ではなくなり、帰りもたまに一緒に帰るようになった。
梅雨が終わりかけ、夏が本格的に始まそうな雰囲気が出てきたある日、大雨が降った。
いつも通り登校すると、川野さんが濡れた髪をタオルで拭きながらあいさつしてきた。
「おはよう、西野君、雨凄いね」
「おはよう、川野さん、大分濡れてるようだけどどうしたの?」
一通り吹いたのか彼女はタオルをしまいながら答える。
「家から駅まで歩いてる時に傘、壊れちゃって帰りはバスかな」
「風邪、引かないように気を付けてね」
心なしか顔の赤い彼女が答える。
「ありがとう、気を付けるね」
そんな話をしていると担任の先生が教室に入ってきた。
なんでも低気圧が発達してもっと大雨になるようだった。
もしかしたら早帰りになるかもしれないな、そんな予感を抱いた。
その予感は見事的中し、昼休みで下校するよう担任言われた。
HRが終わり、僕は鍵を借りて図書室を開けた。
携帯の天気予報を改めて確認すると低気圧の後ろから台風も来てるようだったから戸締りが不安だったのだ。
窓のカギを確認し、カーテンを閉め鍵を返却して、昇降口に行った。
もう、ほとんどの生徒が下校し、昇降口は静かだった。
靴を履き替え昇降口を出ると、軒下に川野さんがいた。
「まだ帰ってなかったの?川野さん、バスじゃないの?」
彼女はこちらに振り向くと言った。
「お昼の時間のバスがなくて、大分先になるみたいだったから雨宿りしてようかなって思ったの」
天気予報の事が頭をよぎる。
「川野さん、低気圧の後ろから台風も来てるから早く帰った方がいい、傘、貸すから」
彼女は驚きなからも一つ提案してきた。
「なら、一緒に帰ろ?」
いつもの帰り道、土砂降りの雨、自分が差してる傘には、自分と川野さんが居る。
変な想像をしないように彼女にスピードに合わせて駅へ歩く、二人とも無言だった。
道端のあじさいは久々の雨に喜んでいるようだった。
学校から少し歩いた辺りで川野さんの足が止まった。
そして、か細い声で声を紡ぐ
「あのね、西野君、私ね、ずっと前から西野君の事が好きなの、だから......だからもし西野君が良かったら私と付き合ってほしいなって」
彼女の顔は真っ赤だった。
僕も顔が熱い、きっと彼女の様に赤くなっているのだろう
突然の事で混乱しているが何とか返す
「僕なんかでいいの?」
「うん、西野君がいい」
とびっきりの笑顔で彼女は答える。
「こんな僕でよかったらよろしくね、川野さん」
「うん、よろしくね、徹君、できれば私の事、名前で呼んでほしいな」
どうしようもなくなり、彼女の頭を撫でる。
「葉月、よろしくな」
気持ちよさそうに目を細める葉月を見ると、僕はどうしようもない位に彼女の事が好きなんだなと思った。