【完結】ありふれたハジケリストは世界最狂   作:味音ショユ

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待たせちまってすまなかったな!(悟空風)

……ありふれ一章を面白く書いてる二次作家はすごいなあ……。
原作だと一番面白い所とか言われてるけど、弄りにくいんだよなあ……。


奥義9 迷宮道中馬鹿栗毛

 封印の部屋にいる四人は、宴をしながらお互いのことについて話し合っていた。

 

「ふーん、ユエはずっと閉じ込められてたのか」

「そう。欲に目を眩ませた叔父が私を殺そうとしたけど、私の“自動再生„で殺しきれないからやむを得ずここに封印したの」

「大変だったんだな……。よし、キングオブ不幸の称号はお前にやるよ!」

「クイーンじゃね?」

「どっちにしろいらない」

「ちょっと待って。僕本でさ、吸血鬼族は三百年前に滅んだって見たんだけど……」

 

 ハジメのその言葉に、思わずバカ三人はユエをジロジロと見てしまう。

 そしてそれぞれボソッ、と呟いた。

 

「三百歳……。ロリババア……」

「B・B・A! バ・バ・ア!!」

「お婆ちゃーん、お小遣いちょうだーい!!」

「ハジメ以外誰も呟いてねえ!?」

「“凍雨„」

 

 ハジメ達の容赦ない言葉にキレたユエが魔法を発動すると、鋭い氷の針がまるで雨の様にハジメ達に降ってきた。それを三人は回避できない。

 

「「「ぎゃああああああああああああああ!!」」」

「女性に年齢の話はマナー違反」

「容赦の欠片もねえ!!」

「どうせ死なない」

「そりゃそうだけどさ……」

 

 呆れる蹴りウサギを尻目に、ハジメ達はすぐに復活しユエに抗議。裁判すら辞さない構えで、すぐそこにある裁判所に駆け込む。

 

「何で裁判所あるんだよ!?」

 

 そこでハジメ達は裁判長の巨大ムカデに懸命に訴えるが、彼の返答は冷たい物だった。

 

「ドュフ、ユエちゃんは可愛いから無罪です。というか怒らせるそっちが悪いでしょ常識的に考えて」

 

 ドパンドパンドパン

 

 気づけば、天の助は裁判長を撃ち殺していた。

 

「殺した!?」

「ぶっ殺すと心の中で思ったなら、その時既に行動は終わってるんだッ!」

「ぶっちゃけキモかった。今時あんなの現実にはいない」

「だろだろ?」

 

 ムカデを殺したことで盛り上がる天の助とユエ。そんな天の助に向かって首領パッチは

 

 ドパンドパンドパン

 

 躊躇なく発砲した。

 

「こいつは、死んでいいハジケリストだから」

「そうなの!?」

「プロシュート兄貴のネタはオレが前にやったってのに、こんなに短いスパンでもう一度やるなんざハジケリストの名折れだろ」

「厳しっ!?」

「ああ、そうだ首領パッチ。真のハジケリストを目指す。それが僕達の唯一のルールだからな」

「ハジ之内君……」

 

 いつの間にか城之内のコスプレをしたハジメが、首領パッチをかばい立てする。そんな首領パッチに向かってハジメは

 

 ドパンドパンドパン

 

 躊躇なく発砲した。

 

「何で!?」

「こいつは、僕のカレーパンを食べた」

「それだけかよ!?」

 

 その後、ハジメが首領パッチと天の助にじょうろで水をかけて復活させてから、肝心なことを話し始めた。

 

「肝心な話って、何?」

「いや、ユエが仲間になったって体で話進めてたけど、ユエ的にはどうなの?」

「なるよ」

 

 その言葉を聞いたバカ三人は、左手首に×と付けた状態で左腕を空に掲げる。

 

「「「オレ(僕)達は、ずっと仲間だ!」」」

「ワン○ースかよ」

「しかもそれ別れ際のシーンだし」

 

 こうしてユエが仲間になった。

 その後、出発の為に準備をしていたハジメ達だったが、ユエはあることが気になったので尋ねる。

 

「そう言えば、ハジメ達はどこに向かってるの?」

「最下層だよ。そこまでいけばこの迷宮から出られるって、爪熊が言ってたし」

「……なんで魔物が喋ってるの?」

「さあ? 蹴りウサギ、何で?」

「いや今聞くのかそれ!?」

 

 いきなり世界設定を根本から揺るがす質問をされ、思わず悩んでしまう蹴りウサギ。しばらくそうして悩んでいたが、気付けばユエの方が飽きて四人は出発してしまった。

 

「いや興味ないなら掘り下げるなよ!!」

 

 その所業にキレながら、蹴りウサギも追いかけ始めた。

 

 


 

 

 ユエが仲間になってから、ハジメ達は順調に階層を下っていた。ユエは全属性魔法を持ち、それらを無詠唱でバンバン使えるチート性能だったので、ぶっちゃけハジメ達はハジケ、蹴りウサギはツッコミ以外やることが無くなる位順調だった。

 そんな五人が次に降り立った階層で最初に目にしたものは、樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼と茂っており、容易に通れないことを明確に示していた。

 

「これは地上から行くのは難しそうだし、空中から行こう。納豆真拳奥義、フライングB(ビーン)!!」

 

 ハジメが奥義を発動させると、人が乗れるだけの大きさの納豆型のなにかが現れた。が、どう見ても飛べそうな物体では無い。

 

「飛べんのかこれ?」

「飛ぶには鳥の力を借りるんだ」

 

 ハジメがそう言うと、鳥が数羽現れる。

 その鳥は、トサカを頭に持ち、地面を歩いてやってきた。

 

「鶏じゃねーか!!」

「え、ちょっと待って!? 鶏!?」

 

 慌てたハジメはスマホを取り出し、どこかに電話を掛ける。

 

「ちょっと派遣会社さん? 僕空を飛ぶために鳥が欲しいって言いましたよね!? 鶏が来たんですけど!?」

「派遣バイトなのこの鶏!?」

「時給880円ッス」

「安っ!」

 

 その後、しばらく電話をしていたハジメだったが、やがて話が終わったのか電話を切る。その後、嫌そうな顔をしながら鶏達に向かって言った。

 

「えー、君達にはこの納豆型飛行船を掴んで空を飛んでもらいます」

「すいません。俺ら鶏なんスけど」

「関係ない、飛べ」

「うっす」

 

 ハジメは鶏の反論を睨みをきかせて封殺した。

 

「規定時間飛べなかったら、その分給料から引くから。あ、怪我したら医療費はこっちで負担するんで」

「優しいのか厳しいのかよく分かんねえ……」

 

 こうしてハジメプロデュースの空の旅が始まった。

 当初ハジメ以外の全員が不安げにしていたが、無事空を飛び、気付けば樹海の上を動いていた。

 

「おお、すげえなあ!」

「サラマンダーより、ずっとはやい!」

「乗ったことあんのかオイ」

 

 初めての空の旅にちょっと浮かれるユエと蹴りウサギ。樹海という歩くには物騒な地域も、空の旅なら一気にのんびりした旅に早変わり、と二人はウキウキだった。そうしてしばらく下界を眺めていると、ユエがあることに気付く。

 

「蹴りウサギ、見てあれ」

「ん?」

 

 ユエが指差す方向に蹴りウサギが視線を向けると、巨大な爬虫類、ティラノサウルスによく似た魔物が走っていた。

 

「恐竜いる恐竜!」

「はしゃいでるなあ……」

「あと頭に向日葵生えてる!」

「何で!?」

「“緋愴„」

「この流れで攻撃するのか」

 

 ティラノサウルスを見て騒いだと思った刹那、手元に円錐型の槍を作り出し、一直線にティラノに向かって突き刺さり、そのまま貫通。命中した個所とその周囲の肉を焼きと化して絶命させる。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 そして、ポトリと地面に落ちる頭の花。

 

「何だあの花」

「きっと魔物達に流行中のファッション」

「蹴りウサギは流行に疎いからな」

「うるせえバカ二人! あんなファッションあるか!!」

 

 いつの間にか天の助が話に混ざりながら、ティラノの頭に生えていた花について話す三人。分が悪いと思った蹴りウサギは、あてにならないと思いながらハジメと首領パッチを探す。しかし、飛行船の中に二人の姿は無い。

 

「あれ、あいつらどこ行った?」

「首領パッチならこっちだぞ」

 

 天の助の言う方を蹴りウサギが見る。するとそこには

 

「お花畑よ~! お花畑よ~!!」

「「「「「「「「「「シャァアアア!!」」」」」」」」」」

 

 二百体近くの、頭に様々な花を生やした魔物に追われながら、樹海を堪能している首領パッチの姿があった。

 

「バカが一匹下に降りてる――――!?」

 

 そしてその後ろには

 

「環境破壊は気持ちいいゾイ!」

 

 と言いながら火炎放射器で樹海や魔物を燃やすハジメの姿があった。

 

「言ってる台詞が酷過ぎる! てか何で自分から飛行船を出て行くんだ!?」

「そもそも最初から乗ってない」

「乗ってなかったのかよ!?」

「すんませんお客さん」

 

 衝撃の事実に驚きが止まない蹴りウサギの元に、飛んでいる鶏からさらなる追撃が加えられる。

 

「もう無理ッス。飛べないッス」

「え」

 

 その言葉と共に、いきなり落下し始める飛行船。ユエ達は素早く飛び降りて、飛行船から脱出した。

 

「着地!」

「ギャア!」

 

 ユエは、天の助をクッションに着地。蹴りウサギは自分の技能、天歩[+空力]という空中に足場を作る固有魔法で特に苦も無く地上に降り立った。

 そして、飛行船は爆発炎上して辺り一面は火の海と化す。

 

「大惨事だ――――――!?」

 

 ちなみに鶏達は

 

「すんません、こんがり焼けちゃいました」

 

 フライドチキンになっていた。

 

「調理されてる――――――!?」

「あ、うまい」

 

 調理された元鶏を、いつの間にかやってきたハジメはムシャムシャと食べる。一方、ユエ達三人はフライドチキンを敵に投げつけて攻撃していた。

 

「死ねオラァ!」

「くたばれ!」

「消えて」

 

 投げつけられたチキンは爆発し、魔物達を吹き飛ばしていく。

 

「何で爆発するんだよ鶏が!?」

 

 その時、爆発に巻き込まれながらも吹き飛ばされたのは頭の花だけという運のいい魔物が一匹いた。その魔物は、ヴェロキラプトルという某映画でラプトルと呼ばれていた恐竜の様な魔物だった。ラプトルは、花が取れたと同時にさっきまで頭に生えていた花をまるで親の仇の様に踏みつけていた。

 すると、他の花を付けたままの魔物の集団が花が取れたラプトルを集団で苛めている。

 それを見たハジメは思った。

 

「あれがファッションの流行に取り残された奴の末路……」

「絶対違えよ!!」

「ハジメ、あれは多分寄生されている。花を植え付けている本体が居る筈」

「「「あーそっちか」」」

 

 こうして、花を植え付けている本体を探すことになったハジメ達。爆炎が渦巻く中、暑さに耐えながらハジメ達。

 そうこうしていると、ハジメ達は怪しい場所を見つけた。それは、樹海を抜けた先に見える迷宮の壁、その中央にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

 火事でてんやわんやになっている魔物達だったが、頭に花を付けた魔物は縦割れの洞窟へ向かおうとすると、ハジメ達を止めようと動くのだ。まあその直後に、炎に巻かれて息絶えるのだが。

 

「無様なもんだ」

「ひでえ……」

 

 こうして縦割れの洞窟に突入するハジメ達。そのまましばらく歩いていると、大きな広間に辿り着く。広間の奥にはさらに道が続いている。五人は何の警戒もせず進む。

 そしてハジメ達が部屋の中央までたどり着くと、いきなり全方位から緑色の玉が無数に飛んできた。

 それを見てハジメは奥義を発動した。

 

「納豆真拳奥義、桜山ディフェンスクラブ召喚!!」

「「「「「桜山! ファイト、オー!!」」」」」

「誰だよ!?」

 

 ハジメは桜山ディフェンスクラブの部員を五人召喚し、ハジメ達を囲むように守らせる。呼び出された部員達は、手足、時に頭、時にビームで玉を弾いていく。

 

「ビーム!?」

 

 しかしこの玉、実は寄生の証である花を植え付ける効果がある。今まで散々見てきた魔物の頭に生えていた花だ。

 その為、部員達は玉を受け止める度に寄生されディフェンスを放棄し、ハジメ達に攻撃してしまう。

 

「すみません、死んでください!」

「納豆真拳奥義、武古貫気(ぶっこぬき)!!」

 

 しかしハジメは部員達に植え付けられた花を、即座に引っこ抜いていく。そのせいで、部員が玉を受ける→花を植え付けられる→ハジメが引っこ抜くの永久機関が誕生していた。

 

「まさに無限ループ!」

「何だこの地味な絵面」

 

 そんな光景がしばらく続いた後。向こうが焦れたのか、新手が姿を現す。

 アウラウネ、人間の女の姿をとった植物のモンスターだ。もっとも、日本では美しい少女の印象が強いが目の前のアルラウネにはそんな印象を持ちようがない程に醜悪な顔をしており、無数のツルが触手の様にウネウネと動いていて気味が悪い。

 それを見て最初に動いたのは天の助だった。

 

「その動きはところてんだけの物だ――――!!」

「絶対違うと思う」

 

 魔剣大根ブレードを構え、アルラウネに向かっていく天の助。しかし軌道上に妨害する何者かの姿が。

 

「天の助……ごめんね……」

 

 その正体はなんとユエだった。彼女の頭には、偶然か必然か、吸血鬼にはよく似合う深紅の薔薇が咲き誇っている。

 ユエは操られていることを悔しく思い、唇から血を流しながら天の助に風の魔法を撃ち込んで切り刻んだ。

 

「魔物さん、ところてんはいかがですか?」

 

 そして天の助は船盛りとなって、アルラウネに己を売り込んでいた。

 アルラウネは躊躇なく玉を撃ちこみ、花を植え付けて天の助を傀儡にする。

 

「何してんのあいつ!?」

 

 蹴りウサギのツッコミを背に、ハジメと首領パッチはどうするか必死に思案していると、ユエと天の助が悲痛な叫びを上げた。

 

「ハジメ! ……私はいいから、撃って!」

「いやいや待て待て! 撃つな撃つな撃つな!!」

 

 覚悟を決めた様子のユエ。それはハジメ達の足手まといになりたくないという固い意志が生み出した、心からの覚悟だ。

 さて、この行動に対しハジメ達は

 

「分かった!」

「オレ達に任せろ!!」

 

 躊躇なくハジメはミサイルランチャー、首領パッチはロケットランチャーを構えて

 

「オラオラオラァ!!」

「死にやがれ――――――――!!」

 

 アルラウネをユエ、天の助諸共砲撃し続けた。

 

「仲間二人に対する配慮がまるでねぇ―――――――!?」

 

 やがて二人が持っていた武器が弾切れとなり、攻撃が終わる。そして攻撃で生じた煙が消えた時立っていたのは一人の少女。

 

「ハァ……ハァ……。ハジメ……」

 

 ユエだった。それを見た首領パッチは

 

「まだ息があったか―――――!!」

「ぎゃああああああ!!」

「えぇ!?」

 

 追撃した。

 一方、ハジメはアルラウネに息があるか確かめる。が、ハジメの心配とは裏腹にアルラウネは完全に息絶えていた。

 それを聞いてふぅ、と安心して息を吐く首領パッチ。しかし危機は終わっていない。

 

「首領パッチ?」

 

 地獄の底から響くような怨嗟の声。その声の正体はさっき追い打ちをかけられたユエだった。ユエは首領パッチに魔法を行使する。

 

「“凍柩„」

 

 ユエが魔法を発動すると、首領パッチの足元が凍りつき、最終的には全身が凍りついてしまう。

 それを見たハジメは迷うことなく逃走を選ぶが、ユエの魔法行使は何よりも早く、ハジメにも同じ魔法が掛けられる。その結果

 

「うわああああああああああ! 電柱になってる――――――――!!」

「何で!?」

 

 ハジメは電柱になった。

 ユエは納得いかず、しばらく電柱になったハジメを蹴り続ける。が、それはまた別の話。


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