ひょっとして、伝わってない!?
アルラウネを倒し、ハジメと首領パッチがユエにキレられてから随分経った。あの後、ハジメが電柱から元に戻るまでユエに蹴られ続けたが、ユエは蹴っていて足が痛くなったのかそれ以上特に何かをすることも無く、そのまま仲直りして迷宮攻略に勤しんでいた。ちなみに天の助は普通に生きていて、しばらくしてからユエと一緒にハジメを攻撃していたが、そっちはパンチで黙らされていた。
そして遂に、ハジメ達は九十九層にまでたどり着いた。次は百層だからボス戦かな、とハジメ達は話し合う。
「なんでボス戦あるって思うんだ?」
蹴りウサギが質問すると、ユエが百層に続く道の入口の少し手前を指差して答える。
「ほらあそこ、セーブポイントある」
「セーブポイント!?」
蹴りウサギがユエの指差す先に目を向けると、そこには薄緑に光る真円の上にカタカナのコを少し傾けたようなものと、その下に細長いクリスタルの様な物が浮かんでいた。
「うわ、FF7のセーブポイントみたいのが本当にあるよ……」
「でもこれに触れても僕ら全回復しないんだけど」
「ユーザフレンドリーって言葉を知らねえのかよ」
セーブポイントに向かって凄むハジメと天の助。それを見た首領パッチは二人を鼻で笑った。
「ハッ、最近のJRPGに毒され過ぎた温いゲーマー共が。そんな奴がいっぱしのゲーマー気取りの口をきくなんて虫唾が走るぜ」
「は? 舐めてんの?」
「オレ等にいっぱしの口きかれたくなかったら、黙らせてみてくださいよセンパァイ……!!」
「あ? テメェ等誰に向かって言ってんだ?」
バカ三人の間で一触触発の空気が張りつめる。その中で悠然とユエは三人に近づき、粛々とただ一言を告げる。
「ラウンド1、ファイッ」
「「「おっしゃ―――――――っ!!」」」
「何煽ってんだ――――――――!?」
ユエのコールに応じて殴り合いを始めるハジメ達。蹴りウサギは慌ててそれを止めようとするが、ユエが耳を掴んで阻む。
「何で止めるんだよ!?」
「心配しなくていい。あれは彼らなりの気力充実法。ああやって互いの気力を高め合っている」
「そ、そうなのか……?」
半信半疑でハジメ達の様子を見る蹴りウサギ。
「打倒ボスキャラ!」
視線の先にはハジメの顔に拳を叩きこむ首領パッチが。
「打倒ボスキャラ!!」
首領パッチの顔面を地面に叩きつける天の助が。
「打倒ボスニアヘルツェゴビナ!!」
天の助の目を潰すハジメの姿があった。
「打倒鴎台高校!!」
「打倒ディアボロ!!」
「打倒鬼舞辻無惨!!」
「バラバラじゃねーか!!」
そしてひたすら殴りあう三人。その勢いで土煙が舞い三人の姿を隠す。
やがて数分後、殴り合いが終わり煙が晴れた先の三人は
「よし……行くよ……」
「あぁ……」
「ハァ……ハァ……」
全身包帯まみれで、フラフラの姿だった。
「死にかけてる―――――――――!?」
そんな状況で出発する三人。その後を着いていくユエと蹴りウサギ。
しばらく歩いていると、三人はなぜか回復し普通に歩いていた。一方、それを見ていた蹴りウサギとユエは別に何かを思う訳でもなくそのまま後ろをついて行く。むしろユエが放ったこの一言の方が蹴りウサギには衝撃だった。
「ハジケリストって、常識通じない」
お前もだよ、と蹴りウサギはツッコミを入れたかった。
そして百層に到着。
そこは、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。螺旋模様と木のツルが巻きついたよう彫刻が彫られている巨大な柱が、一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートル以上あり、地面は平らで綺麗な物である。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。
ハジメ達は特に警戒する事も無く足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく。
「ラスボスのフロアみたいだ」
「ぶっちゃけどこかで見たことある」
ハジメとユエが好き勝手に表しながら奥へと進んで行くと、巨大な扉に行き当たる。全長十メートルはある巨大な両開きの扉に、印象的な七角形の頂点に描かれた紋様を筆頭に美しい彫刻が彫られていた。
そして首領パッチは迷うことなく扉に落書きをしようと走り出し、最後の柱の間を超えると、いきなり扉とハジメ達の間に三十メートル程の巨大な魔法陣が現れた。その魔法陣にハジメは見覚えがあった。自身が奈落に落ちる切っ掛けとなったベヒモスを呼び出したあの魔法陣だ。だがあれは直径十メートル程だったのに対し、目の前の魔法陣は三倍の大きさがある上により複雑だ。
「つまり、ベヒモスより強大な魔物が出て来るって訳かな……」
「ヤダ、アタシ怖い!」
「邪魔」
怯えてユエに抱き着く首領パッチを蹴り飛ばす光景を横に、ハジメ達は魔物が現れるのを待つ。
魔法陣がより強く輝くと、ついに弾けるように光を放つ。
そして光が収まった時現れたのは、体長三十メートル程、それぞれ違う色の紋様を付けた六つの頭に、長い首を持った化け物。例えるならヒュドラだ。
「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」
六対の瞳がハジメ達を睨み、六つの口が咆哮する。それは侵入者に対する裁きか、ここまで来た探索者への敬意か。
赤い紋様が刻まれた頭が口を開き、火炎放射を放つ。
「「奥義、バカガード」」
「「何ィ――――――!?」」
ハジメは首領パッチを、ユエは天の助を盾に炎を防ぐ。やがて炎が収まると、同時にハジメは首領パッチを投げ飛ばした。
「そのまま協力奥義、フレイムバカ爆弾!!」
投げ飛ばされた首領パッチは、赤頭に取りつき、ハジメに向かって語りかける。
「さよなら、ハジさん。どうか死なないで……」
その言葉と共に、彼は自爆した。
辺りに漂う煙は、爆発した事実と威力のすさまじさを物語る。その証拠に、赤頭は影も形も無く消し飛んでいた。
ハジメは思わず叫ぶ。
「首領パッチ――――――――――っ!!」
「何?」
「わあああああああああああああああああ!?」
「じゃあさっき爆発したのは誰だよ!?」
そして後ろから返事が来た。ハジメは驚き、蹴りウサギはツッコミを入れる。
ツッコミの答えはユエから来た。
「ほら見てこれ、バルーンアート」
「さっきの首領パッチバルーンアートだったの!?」
納得がいかない蹴りウサギだったが、とにもかくにもまずは頭を一つ落とせて幸先が良いと思う一同。しかし次の瞬間、白い紋様の入った頭が「クルゥアン!」と叫ぶと、吹き飛ばした筈の赤頭が完全に元通りになった。
「あの白頭が回復役か……」
「ならまずはあいつを潰すぜ!」
「分かった」
青い紋様の頭が口から氷の礫を吐きだし、それを回避しながらハジメと天の助とユエは白頭を狙う。
「ところてんマグナム!」
「“緋槍”!」
ところてんと燃え盛る槍が白頭に迫るが、その前に二つがぶつかり合う。だがそれは対消滅ではなく、合体である。
「「協力奥義、緋槍天マグナム!!」」
燃え盛る槍はところてんを軸に据えることで更に強固と化し、そのまま白頭を貫くはずだった。しかし、その前に黄色の紋様の頭が射線に入り頭を肥大化させ、淡く黄色に輝いたと思ったら緋槍天マグナムを受け止めてしまった。流石に無傷ではないが、その傷も白頭があっさりと治してしまう。
「そんな、盾役までいるなんて……」
「ならば次にご飯に詰めて!」
絶望するユエの横で、燃え盛るところてんを弁当に詰めるハジメ。そして新たな奥義を発動する。
「納豆真拳奥義、フライング弁当販売!!」
「何その技!?」
ハジメが弁当を投げると、弁当は六つに分裂しそれぞれの口に押し込まれていく。
「食え~! 食え~!!」
「中身はご飯と納豆に燃え盛るところてん入りの特製幕の内弁当だ!!」
「微塵も幕の内じゃねえ――――――――――!?」
食べることを強要する天の助と、得意気に眺めるハジメ。しかしヒュドラは押し込められた弁当を全て吐きだし、ハジメ達の元へ返す。
「「ギャアアアアアアアア!! 返品ラッシュ―――――――――!!」」
返品された弁当に叩きつけられ、壁までノーバウンドで吹き飛ばされるハジメと天の助。それでもなんてことないように立ち上がり、小さく一言。
「「また、食べてもらえなかったか……」」
「何がしたかったんだよ!?」
「オレも続くぜ!」
二人の攻勢に続くために、首領パッチはデュエルディスクを構えデッキに指を置く。
「オレのターン、ドロー!」
カードを引く首領パッチ。しかしその瞬間、今まで目立った動きを見せなかった黒い紋様の頭が光る。
「IYAAAAAAAAAA!!」
すると首領パッチがいきなり恐怖の叫びを上げ、デッキから手を放し蹲ってしまった。それを見たハジメは慌てて駆け寄ろうとするが、緑の紋様の頭が風刃を無数に放ってくる。
「くっ!」
「“凍獄”」
足を止めそうになるハジメ。しかしユエが魔法を発動すると、辺り一面が一瞬で凍結し風刃を防ぐ氷の壁が出来上がった。その壁も赤頭の火炎放射で解かされてしまうが、ハジメが首領パッチの元へ辿り着くには十分だ。
「ビスケット!」
「……」
首領パッチの元に辿り着き、必死に呼びかけるハジメ。しかし返事はない。
「おい、どうした!? ビスケット!!」
「……」
肩を掴み、必死に揺らしながら呼びかけるハジメ。それでも返事は無い。そして肩はどことか言ってはいけない。
「返事をしろ! ビスケットォ!!」
「いや返事しねえだろそりゃ! ビスケットじゃねえもんそいつ!!」
「…………え……」
ハジメの呼びかけに、やっと蹴りウサギのツッコミが入る。しかし首領パッチは蹴りウサギのツッコミを裏切り、何かを言っている。
「それ以上……オレの前で……梨穂子と希の侮辱は……許さねえ……」
「誰もそんな話してねえよ!!」
「名瀬の兄貴!」
「そこはビスケットじゃねえのかよ!?」
怒涛の蹴りウサギのツッコミに安心感すら覚えるハジメと首領パッチ。そして首領パッチはポツポツと語り始める。
なんでも、黒頭が光ったと思ったらいきなり強烈な不安に襲われ、悪夢を見てしまったらしい。
「ところでその悪夢って?」
「ああ。大量のバニーガールがオレを持て成してきて、オレはその中心で葉巻を吸ってるんだ」
「どこが悪夢だ―――――――――っ!!」
ハジメは首領パッチを蹴り飛ばし、そのままスタンピングに移行した。
「悪夢じゃなかったのかよ! 何だよその夢僕が見たいよ!!」
「見たいのかよ」
「落ち着いてハジメ」
いつの間にかやって来たユエと天の助がハジメを押しとめる。それで落ち着いてハジメは言った。
「まあ、それは置いておこう。それより思ったんだけど、そろそろ僕も全力って奴を見せておこうかなって」
「全力?」
「隠し玉でもあんのか?」
疑問を示すユエと天の助。二人にハジメは不敵な笑みで応える。
「ああ、首領パッチ達にも見せたことない僕の全力の一端。究極奥義って奴をね。それであいつを倒す!」
果たしてハジメの究極奥義とは?
その詳細は、待て次回!
「ここで引くの?」
「次回もチェケラ!!」
「今時チェケラって使わなくね……?」