ハジメ達が深淵を抜けるとそこは、空中でした。
『うわあああああああああああああああああ!?』
何の準備もしていなかったので、重力に従って落下する一行。
そんな中、ユエは両手を広げ天の助は彼女の腰を優しく支えている状況で、叫ぶ。
「私、飛んでる!」
「そうだな!!」
蹴りウサギが遊んでいるとしか思えない二人にキレる中、今度は首領パッチがマイクを取り出し歌い始めた。
「まっさかさーまーにー、堕ちてdesire」
「本当に落ちてますよ!!」
ツッコミを入れるシアの横で、鈴があることに気付いた。
「……あれ、エリリンは?」
「そういえばフリードさんもいませんね……?」
恵理に続いてフリードもいないことに気付いた一同は慌てて辺りを見回す。すると、彼らの上空から、何やら悲鳴とも叫び声とも判別しがたい声が聞こえてきた。
「ぬぐにゅおおおおおおおおおお!?」
(本当に判別しがたいですぅ)
シアがそんな感想を内心で抱きつつ皆が上を見ると、フリードが奇怪な叫び声を上げながら落ちてくる。
「ふんぬらバット! ごんぐらグローブ! セットで合わせてサンキュッパ!!」
「なんて値切り……フリード、ひょっとして在庫処分に必死なの!?」
「その通りだ南雲ハジメ」
「もう訳分かんねえ!!」
一瞬でさっきまで叫んでいたとは思えないほど冷静にハジメと会話するフリードに、蹴りウサギは理解を放棄した。
一方、フリードはハジメにある疑問をぶつける。
「ところで南雲ハジメ。なぜ抵抗もなく呑気に落下している? そこの竜人族を変身させて飛ばないのか?」
「ティオの変身のこと忘れてた!」
「フリーフォールが楽しくての、つい変身する気になれなかったのじゃ……」
「フリーフォールじゃないですぅ!!」
「飛べよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
衝撃の告白をしたティオにハジメの怒りは爆発し、慌てて彼女は黒竜に変身し、皆は彼女の背に乗る。
一同はひとまず息をつこうとするが、ここで鈴は勢いよくフリードの胸倉を掴み問い詰め始めた。
「エリリンは!?」
「……そういえばいないな? 一緒に深淵に突き落とされたはずだが……」
鈴に問われたフリードは思わず見回すが、彼の視界に恵理は存在しない。
そこに天の助が助け舟を出した。
「あいつ神の使徒の体と偽装闇拳あるし、オレらから身を隠してどっか飛んでったんじゃね?」
「そんな……」
天の助の推測を聞いてへたり込む鈴。しかし恵理の立場を思えば無理もない、と鈴と首領パッチ以外は思う。
なにせ、自らの意志でトータスとクラスメイト達を裏切った挙句、敗れ去ってしまったのだから。
恵理の居場所はこの世界のどこにもないだろう。生きるだけなら闇拳の力でなんとでもなるだろうが、少なくともこっちに戻ってくることはないに違いない。
「そんな世界鈴は認めない……今より鈴がトータスを掌握する!!」
「あの、ラスボス戦終わった後に戦闘吹っ掛けないでくれない?」
「……ダメ?」
「え、何? ラスボス戦の後のイベント戦闘みたいに処理されたいの? エボン=ジュになりたいの?」
「やっぱダメだよねー」
恵理を受け入れない現実に対し一瞬凄む鈴だったが、ハジメとユエが脅しつけるとあっさり大人しくなった。
実の所、鈴にも恵理をトータスやクラスメイト達が受け入れる理由が存在しないことと、そもそも恵理自身が受け入れられるつもりがないことを理解しているのだ。これでは鈴が何をしてもただの徒労でしかない。
それでも彼女はまた一緒にいたいと思っているのだが、諦めるしかないのもまた摂理。
結局、彼女は俯いて現状を受け入れるしかない。
「ズーン……」
「口でズーンって言いながら落ち込む人初めて見た」
落ち込んでいる鈴を尻目に、ティオは高度を徐々に落とし王都の傍へと着陸する。
そこには動かなくなった大量の神の使徒が倒れ、疲弊しきった人間族の兵士達が何かを確かめるかのようにハジメ達を見上げている。
ハジメは彼らの視線を受け、誰もが待ち望んでいるであろう報告を皆に聞こえるよう叫んだ。
「泣き叫べ劣等! 今宵、ここに神はいない!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
「あ、いいんですねそれで」
シアはハジメの言い回しはあんまりなものだと思ったが、皆は喜びを露わにするのでまあいいかと思い直した。
「皆の者、私は何もできなかった……」
歓喜に包まれる人間族とは対照的に、その場に居合わせるハメになったフリードのテンションは低い。
それはそうだろう。魔人族の未来を思い、あえて悪に屈したというのに、結局のところ彼は何も成していない。
やり遂げたのは南雲ハジメと仲間であって、フリード・バグアーではない。
それでも彼は魔人族の領地へと、魔王城へと帰ってきた。
興奮に包まれた人間族の目を盗み、空間魔法を使って転移する位容易であった。
「何を言っておられるのですか!」
そんなフリードに対し、明るく声を掛けたのはカトレアだった。更に後ろにはミハイルも続く。
「カトレアの言う通りです! あなたが魔人族を思い、どれだけ貢献してきたか、それを知らぬものはいません!!」
二人の後にも魔人族の兵士達が口々にフリードを励まそうとあらゆる言葉を掛ける。
それらを聞いて彼は泣いた。恥も外聞も無く、ただひたすらに涙を流した。
これほど優しい言葉をかけてくれる部下の存在に、これほどの言葉を掛けられる価値のない自分自身に。
故に彼は決意する。
グッ
拳を握り締め、涙に濡れ腫らした目元をぬぐいながら、フリードは魔人族の皆にこういった。
「皆の者、私は魔国ガーランドから離れようと思う」
『…………』
フリードの言葉に沈痛の気持ちを露わにしつつも、どこか予想していたのか声が出ない魔人族一同。
そんな彼らにフリードは分かっているとは思うが、と前置きしつつ、言葉の意図について説明を始めた。
「まず私はエヒトとの戦いにおいて、奴に与した存在だ。この時点で本来なら極刑ものだ」
別に本当に処刑されても構わんが、と後ろに加えつつ、フリードは話を続ける。
「そんな存在が国内にのうのうとしていれば、他国は隙を見せたとばかりにあれやこれや言うだろう。今の所、人間族と魔人族で戦争できるとは思わんが、口出しして国同士の交渉に何が出ても困る。だからこそ私は――」
ここでフリードは懐をゴソゴソと弄り、中から黒いドラゴンの頭を模した仮面を取り出す。
「この仮面をつけて『謎のドラゴン仮面F』を名乗り、各地をさすらい、人助けなどを遂行していこうと思う」
フリードの言葉に誰も何も言えなかった。
彼の言いたいことは分かる。自分が生存していることが露見するとガーランドの立場が悪くなると考え、正体を隠したうえで国を出ていこうとしていることは。
だが仮面で変装するのは果たして意味があるのだろうか。それに加えその仮面ははっきり言ってダサいのではないだろうか。
とフリードの話を聞いていた魔人族は皆そう思ったが、国を捨てるという彼の決意の重さを前に何も言えない。
「分かったら返事位しなさいよ!!(CV広橋涼)」
「フリード様の声と性格が急に変わった!?」
突然変貌するフリードにツッコミを入れるミハイルだが、当のフリードは構うことなく仮面を指差しながら皆に違う話を始めた。CVは広橋涼のまま。
(声変わりっぱなし!?)
「この仮面は凄いのだぞ。実は付けると装着者の身元が気にならなくなる、特殊な魔法がかかったアーティファクトでな――」
(仮面のプレゼン始めた―――――――――!? しかも凄い効果持ってる!?)
「どうしよっかな、本当」
フリードと同じタイミングで神域から追い出されるものの、偽装闇拳と神の使徒が持つ飛行能力でハジメ達から離れ、名前もないような森に逃げ込んだ恵理が、愚痴るように呟く。
「あーあ」
その場に仰向けて倒れる恵理。地面を這う木の根に頭をぶつける可能性もあるが、彼女はそんなことを気にも留めない。そもそも、今更その程度で怪我を負う体はもう存在しない。
彼女の心は完全に折れてしまった。
ハイドレートを倒せる存在は並大抵ではないと考えていたし、それに打ち勝つため彼女なりに己の実力を高め続ける日々を、ざっと五年ほど続けていたのだ。勿論、怪しまれない程度に周りとの人間関係を構築しつつ、学業などもしていたので純粋に修行漬けだったとは到底言えないが。
だから負けたのだろうか、と恵理は自問する。
そういう問題じゃないか、と恵理は自答した。
鈴パッチの助の戦闘力はいくら融合戦士とはいえ、数年来の修行と神の使徒による底上げのあった恵理を、圧倒的に上回っていた。
彼女の修行の日々は、彼女のなにもかも捨て去った覚悟は何の意味もなかった。
だから諦めてしまった。
諦めて、崇拝する亡き主君と同じ場所に逝きたかったのに、それすら邪魔されてしまった。
だからと言って、別にここから自殺する手段がないわけでは無い。
恵理は適当に拳銃を作り出し、己のこめかみに突き付けた。すると――
ズズズズズ
「ん?」
不思議な音と共に、恵理の目の前の空間が歪んだかと思うと、中から数人ほどのハゲた男の集団が現れた。
恵理はこの集団に見覚えがあった。
「……毛狩り隊?」
恵理の世界の住人であれば、小学校低学年以上ならば誰でも知っている存在。
かつて世界を支配した帝国の、支配の象徴ともいえる組織。
それがなぜか数年の時を経て、まるで関係ないはずの異世界にいる。
恵理が自殺すら忘れ疑問を抱く中、毛狩り隊の隊員の一人が彼女に気付き声をかけてきた。
「現地人か? 人のいない地点に転移してきたはずだが、なぜこんなところにいる?」
「……それは、こっちの台詞だよ毛狩り隊。お前達はもう、滅んだはずだろ」
「ハハハハハハハ!!」
恵理の質問に隊員の一人が嗤う。
彼女の質問があまりにも普通過ぎて。返答を聞いた彼女の反応が楽しみで仕方ないから、毛狩り隊は嗤う。
「確かにマルハーゲ帝国は一度滅び、ピーマン帝国も滅んだ。だが四世様は未だ生きている! 故に四世様は新たな帝国を作り、今度こそボーボボとその一味を滅ぼすのだ! ここにいるのはその為の下地作り! 手始めにこのトータスという世界を支配し、戦力を整えてから奴らに挑む!!」
「ふーん……」
隊員の話に、適当な合の手を入れる恵理。
一方、得意げに説明する毛狩り隊の隊員の後ろでは、別の隊員がある疑問を抱いていた。
「……なあ、何でこの小娘は毛狩り隊のことを知っているんだ? ここは我々が元々いた世界とは別の世界のはずだよな?」
「「「「「!?」」」」」
隊員の言葉にハッとなり、一気に警戒心を露わにする毛狩り隊。
一方、恵理は彼らには目もくれず、あることを思い出していた。
『恵理。お前にだけは、なぜ私が地上を乗っ取ろうとしているかを話しておこう』
『はっ!!』
それは、恵理がハイドレートと語らった昔の思い出。
たまたま闇の世界に赴く用があり、そこでハイドレートがいるのならと恵理を呼びつけたのだ。
『そうかしこまる必要はないが……まあいい。恵理、私がツルリーナ四世の弟であることは以前話したな?』
『はい! それは丁度半年前のことです!!』
『だが私の扱いは酷いものだった。あれは帝王の子供ではなく、ただの下僕としての扱いだった』
過去を語るハイドレートには、当人も意識していないが強い憎しみを携えた顔をしていた。
そんな彼に、ここからは恵理は何を言うでもなくただ神妙に話を聞いている。
『私はただ弟として接して欲しかった。その為に足の裏真拳などという無様なものも身に着けた。しかし結果はこれだ。奴は私を闇の世界に追放した。足の裏がクサイなどという理由でな』
ハイドレートの憎しみ溢れる言葉を受け止める恵理だが後に、ハイドレートの死後に彼女はこの時の話に少々違う感想を抱いていた。
ハイドレート様の身に着けた足の裏真拳は、恐らく強すぎた。
使いようによっては一人で帝国を、全人類を容易く抹殺できるほどの真拳。そんなものをツルリーナ四世は、自分以外の誰かが持つことを恐怖していたのだろう。
それでも四世がハイドレート様を殺さなかったのは、返り討ちを恐れたのと、闇の世界に追放すれば地上に戻ってくることはない、と考えてのことだろうか。
実際に地上へ戻るのには相当の労力を使い、何年も時間をかけてやっとだったので、あまり間違ってはいないのかもしれない。
多分だが、ハイドレート様はもっと弱い真拳を身に着けるべきだった。勿論、あまりに弱すぎても意味はないが、ほどほどの強さである必要があった。
サイバー都市のギガが持つオブジェ真拳で四世と対等なら、その程度で納めればよかったのだ。
いや、オブジェ真拳も相当強いのだが、これにはコストが大きくかかると言う欠点がある。
足の裏真拳にも似たようなリスクがあれば良かったのだろうか。
「余計なこと思い出した……」
「おい小娘!!」
思いにふける恵理に対し、毛狩り隊の一人が無視されていると思ったのか、荒ぶる。
「貴様がなぜ我々を知っているのか、毛狩りの後で尋問してやる!!」
そう言うと、毛狩り隊は一斉に恵理に向かって襲い掛かった。
しかし――
「偽装闇拳!!」
「「「「「ぎゃああああああああああああ!!」」」」」
恵理は虚空に剣を幾本も呼び出し、飛ばすことで毛狩り隊の一同を瞬殺した。
彼女はすぐに一同が現れた空間の歪みを見るが、そこには何もなかった。
元から時限式なのか、こっちに何か問題があると判断して消えたのかは分からないが、とにかく彼女にこれ以上毛狩り隊の殲滅はできないことだけははっきりしていた。
仕方ないので恵理は敗れた毛狩り隊の一同を見て、こう話し始める。
「ボクのことなんてどうでもいいだろ、って言ってもいいけど、一つだけ教えてやる」
恵理が言いながら思うのは、ツルリーナ四世のこと。
ハイドレートが死んだ後もこうして平然と活動している以上、彼の死にツルリーナ四世は何も思っていないのだろう。
それが、彼女にはたまらなく腹立たしい。
ハイドレートの思いを、彼の因縁を知る恵理には、それが許せない。
ピーマン帝国壊滅以降は行方知れずであり、なおかつボーボボとその一味を殺すことを考えていた恵理はツルリーナ四世のことを意識から外していた。
しかし、こうして殺せるかもしれない位置に現れたのなら、殺さないという選択肢は存在しなかった。
自殺しようとすら思うほどの無力感は消えた。終わった後にどうするかは未定だが、少なくとも今は生きたいと思っている。
だから、彼女は宣言する。
「あの時からずっと! ボクはお前達の! ツル・ツルリーナ四世の敵だ!!」
恵理はここに、新たなる帝国に向けて宣戦を布告した。
「ストーリーとゲームパートが分かれてるソシャゲ!! あとステージが多すぎですぅ!!」
「ああ、ブルアカとかエンキルじゃの」
「作者、基本ソシャゲ詳しくないんだけど、最近はこういうのが一般的なの?」
プレイヤーはシナリオの続きを見る為、ステージ攻略をすることにした。
(プレイヤーって誰ですか!? というかこの小説、ソシャゲのストーリーパートだったの!?)
「というわけで、後編に続く」
後編は明日投稿します