いや笑えませんけど。
……でも二章を二話で終わらせるのは予想外でした
トロッコに乗り移動した先は、灰色の壁面と程ほどの明るさを保った空間に、十メートル四方の立方体の物体がいくつも浮かび、一定間隔で移動する不思議な場所だった。
「3Dマ○オのアクションステージみたいだ」
「この形態のステージサン○ャインでよく見たな」
ハジメと天の助が好き勝手な感想を述べている一方、ユエはいくつもある立方体の中心にある、巨大な物体、というよりもはや足場に目をやっている。
「定石で考えるなら、あそこにボスがいる」
「じゃあさっさと行こうぜ。この――」
ユエの言葉に首領パッチは返答しながら
「大砲でな!」
近くに備え付けてあった、大砲に身体を突っ込んだ。
「何で大砲が!?」
「マ○オだとよく見る光景」
「行くぜぇ―――――――――っ!!」
首領パッチの叫びの直後、爆音が響きそのまま飛んでいく。
大砲ごと。
「まさかの光景!!」
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
そして首領パッチは、目標としている足場とはまるで違う方向に跳んでいき、そのまま落下していった。
「大変ですぅ―――――――――――っ!?」
「正直予想してた」
「呼び戻すの面倒くせえな」
「クッキーか何かで呼べるかな」
首領パッチを心配するシア。一方バカ三人は愚痴を呟きながら宙を舞い、目標となる足場を目指そうとする。
「飛んでる――――――――――――っ!?」
「ほら、シアも早く」
「いや私飛べません!!」
「全く、仕方ないな」
ハジメがそう呟くと、バカ三人は体育祭などでよく見る騎馬の構えをし、上にシアを乗せてから、再び宙を舞う。
「なぜ騎馬?」
シアの疑問には誰も答えることは無く、特に障害も無いまま足場に到着。
足場に着いたハジメはまず、床に大量のクリップをぶちまける。すると、落下していった首領パッチが執念で足場までバタフライで戻ってきて、クリップを貪り食う。
「バタフライで!?」
「ゲッヘッヘ……、このクリップは全部オイラのだ……。グハァ!!」
そしてそのままクリップは食べられないことに気付き、吐き出してからキレる。
「何でオレにクリップを食わせたハジメェ!!」
「勝手に食べただけじゃん!?」
喧嘩しだしたハジメと首領パッチの背で、大剣を携え、全身甲冑のデザインをして、数メートル大のゴーレムが五十体上から舞い降り、さながら騎士の如く整列し、胸の前で大剣を構える。
そして騎士の主、王としてデザインは騎士ゴーレムと同じだが全長が二十メートル弱、右手は赤熱化し、左手には鎖を巻きつけてフレイル型のモーニングスターを装備したゴーレムが同じように降りてきた。
「遂にやって来たわに! ハジケリストの諸君!!」
その巨大ゴーレムから響くのは、入口でも聞いたこの迷宮の主、ミレディ・ライセンの声。前に見た姿との違い、見た目と声の噛み合わなさに戸惑いながら、おずおずとシアはミレディに尋ねる。
「あの、その姿は……?」
「キャラデザ変えた?」
「これボス仕様だから。ぶっちゃけるけど本体は別にあるよ。可愛いミレディちゃんが無くなるなんて世界の損失だしね~」
「いやあなたの本体がそれでも私は消し飛ばす気満々だけど」
「怖っ!?」
ユエの発言に恐れおののくミレディ。一方、残りのバカ三人は
「いいよいいよ仕上がってるよそのゴーレムボディ!」
「キレてるよー! 筋肉キレてるよー!!」
「肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい!」
なぜかミレディに向かって、ボディビル大会のかけ声をかけていた。
「何で急に!?」
そして声を掛けられた彼女も、ノリノリでサイドチェストやモストマスキュラーなどのポージングを見せつける。
「ノリノリだ―――――――――――――――っ!?」
「さて、ポージングも見せたことだし質問をするけどいい? 答えは聞いてないけど」
「そのテンションの高低差やめて。耳キーンってなるから」
「質問をするよ!!」
(絶対に話を進めるという鋼の意志を感じるですぅ)
ミレディの強い意志をくんで大人しくするハジメ達。静かになったハジメ達を見て、ミレディは話しはじめた。
「静かになるまで五分もかかりました。じゃあ聞くけど、君達は何で神代魔法を求めるの? 目的は何?」
ミレディのシンプルな質問。だが言葉に荒々しさや飾り気は無くても、虚偽は許さないという思いは明確に伝わってくる。
その問いに、ハジメは迷うことなく返答した。
「オスカー・オルクスの部屋で僕達はこの世界の真実、エヒト神にまつわる話を聞いた」
「あ、オーくんの所行ったんだ」
「そして決めた。僕達はエヒトを殺して」
そこで一旦言葉を区切り、ハジメだけでなく仲間達も息を大きく吸い一斉に叫んだ。
「英雄になって、なろう主人公ばりのハーレムを手に入れる!!」
「オレが真の主人公になる!!」
「新たなる神となり、ところてんをこの世界の主食とする!!」
「私はヒロインなんだ……! 誰がなんと言おうとこのSSのヒロインなんだ……!!」
「……成り行き?」
訂正。ユエとシア以外のバカ三人が叫んでいた。
一方、ハジメ達の答えを聞いたミレディはというと
「ブッ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
大爆笑していた。二十メートル程のゴーレムの体でありながら、器用に腹を抱えて笑っていた。
やがてひとしきり笑って、まだ笑いが残りながらミレディは言葉を紡ぐ。
「いや、やっぱりハジケリストって凄いね……! 私の予想なんて軽々超えていく……! うん、そんな理由でいいんじゃない? 私達解放者もエヒトを殺したいと思っているのは、別に正義の為じゃないし。酒の席でエヒトぶっ殺して~、とか言ってたし」
「どんな集団だったんですか解放者って……?」
シアが素朴な疑問を口にするが、ミレディは返答することなく、ハジメ達と同じくらいに力強く叫ぶ。
「理由については問題なし! さあ、ボス戦だよ。命をかけて、かかってこい!」
「結局映画本編では言わなかった台詞定期」
ハジメ達ハジケリスト VS ミレディ with GRM50。
この戦いの一番槍を貰ったのは、意外にもユエであった。
「こういうタイプの敵は火力をボスに一点集中させて倒せば雑魚も倒せる、って相場が決まっている」
言いながらユエは天の助の背後に回り、ところてんマグナムを出す為に拳を構える。しかし拳を突きだした瞬間、天の助は身体を捻って回避し、そのままユエの背後に回った。
そして天の助は逆にユエに向かって、拳を振り抜いた。、
「内蔵マグナム!!」
「人殺し―――――――――――っ!!」
「吸血鬼だろ」
首領パッチの冷めたツッコミを添えて、ユエの内臓はミレディに向かっていく。
ベチャッ
「…………」
だが所詮は内蔵。ミレディに何のダメージを与えることも無く、彼女に当たった内臓はそのまま床に落ちた。
「あれ!? 私の内臓何の役にも立ってない!?」
「役立たず!!」
「私!?」
ダメージを与えられなかったユエはハジメに蹴られ、そのままゴーレムの元へ跳ばされる。一方、ゴーレムは飛んできたユエに対し冷静な対処として、上に弾き飛ばした。
「ユエさん踏んだり蹴ったりですぅ――――――――――――!?」
「ありゃりゃ、そこのコンペートーとゼリーもどきは凄いけど他は大したことないのかな?」
「誰がコンペートーだコラァ!? オレは妖精だ!!」
「ところてんを舐めるな――――――――――っ!!」
「フッ……」
ミレディの発言に自己中心的な理由でキレる首領パッチと天の助。二人を無視してハジメは鼻で笑う。その態度にミレディは疑問を投げかける。
「随分余裕だね?」
「当然さ。ユエは吸血鬼族最後の生き残り。つまりあいつは、ハジケリスト歴三百年の超武術家ってことさ!!」
「武術家ではありませんよね!?」
ハジメの信頼に満ちた言葉。それに答えるか如く、ユエは戦場にもう一度戻ってきた。
「ロードローラーだッ!!」
建設現場で地面を押し固める機械、ロードローラーを携えて。
「どこから持ってきたんですかそれ!?」
「無駄無駄無駄ァ!!」
ロードローラーでゴーレムを押しつぶし、ダメ押しで肘を使ってロードローラー越しに
ユエの猛攻に耐えきれず砕け散るゴーレム。しかし壊れた傍から即座に再構成され、元の形を取り戻そうとする。
「凍柩」
だがその前にユエの魔法で凍らせてしまえば、復活は大きく遅れる。
「嘘!? 何でこの迷宮で上級魔法が使えるの!?」
ユエの放った魔法に驚くミレディ。
この迷宮には強力な魔法分解作用が働いており、実は魔法に関して天才的なユエであっても中級魔法が精々、上級魔法であれば一度が限度レベルでしか魔法が使えない。もしユエ以外であれば、魔法が全て封印されでくの坊以下の扱いが精々となるだろう。
「魔法分解作用については、UNOの時に気付いている」
「UNOの時に一体何が……!?」
「それなら分解されても問題ないだけの魔力をつぎ込めばいいだけ」
「そんな強引な手で……!?」
シンプルな力業で魔法を発動するユエ。その事実に恐れおののくミレディは、自身が操るゴーレムのうち数体をユエに差し向ける。
「へぇ……。向かって来るの? 逃げずにこのYUEに近づいてくるの?」
「もう完全に別の吸血鬼になってませんか!?」
自身を警戒するミレディに向かって余裕の表情を見せるユエ。しかしここで彼女はあることに気付く。
この魔力消費が高い迷宮で、自身は上級魔法を使った。その結果の魔力消費は、今以降魔法を使わず戦ってもなお戦闘に支障が出る程の疲労を受けてしまっている。そしてゴーレムはまだ四十体以上残っている。このことが示すものは――
(ひょっとして私、やっちゃった?)
「ユエさんのバカ―――――――――――――――――――っ!!」
ユエは序盤から、ガス欠になってしまったということである。
なぜこんなに戦術眼がないのか、その理由を説明しよう。
まずユエは吸血鬼として圧倒的な力と魔力、魔法の適性を持っている上に、ハジケリストとして戦うことが出来る。
彼女の力は魔力と魔法の適性だけでそこらの相手は無双できるレベルである。その上ハジケリストとして戦えるのだから、実質叔父に封印されるまでは負けなし。苦戦といえばハジメ達に解放されてから戦ったヒュドラ位である。
そう、ユエは魔法ぶっぱしてれば大抵勝てるので、戦闘で考えると言う経験が殆ど無いのだ。更に言うなら、ここまで魔力を消費することすら初めてである。
そうとは知らないミレディは、数体のゴーレムを一斉にユエに殴り掛からせる。
もしここにいるのがユエだけだったら終わりだろう。
だが彼女は一人じゃない。彼女の背中には
「納豆真拳奥義、
ハジメがゴーレムを拘束して動きを止め
「ハジケ奥義、輪ゴム鉄砲!」
「プルプル真拳奥義、ところてんアロー!」
「何ですかこのしょっぱい攻撃!?」
首領パッチの輪ゴムと、天の助のところてんがゴーレムを砕く。
「砕けた!?」
ミレディが驚いた刹那、ハジメはシアに叫んだ。
「今だ、行くんだシア!!」
ハジメの叫びに、ユエ達も追従する。
「今のうちにミレディを狙って攻撃して。大丈夫。私が鍛えたあなたなら出来る」
「お前修行頑張ってただろ! オレら見てないけど!!」
「行きなさいシンジ君。誰でも無い、あなた自身の為に!!」
(シンジ君?)
後半二人の激励に疑問を覚えながらも、シアはピアニカソードを構えてミレディに突貫する。当然ミレディもゴーレムをけしかけるが、シアはデビルバットゴーストばりの動きで躱し、とうとうミレディに辿り着く。
「とうっ!」
そのままシアはミレディの頭に向かって飛びかかり、ピアニカソードで殴りぬける。が、ミレディゴーレムの内部には、この世界最高の硬度を誇るアザンチウム鉱石で膜を作っていた。なのでダメージが通らない。
シアはそれでも何度も攻撃し、ついにヒビを入れることが出来た。
「でもヒビまでしか許してあーげないっ」
しかしミレディが抵抗しない理由は無い。左手に装備しているモーニングスターを振り回し、シアを遠くに追いやった。
「くっ、なんて硬さだ。昭和の頑固教師さながらだ」
「ハジメさん。その例えはおかしいです」
「でもマジでどーすんだよ!?」
「ところてんギフトセットを使えば、或いは……」
「何も起きませんよ!!」
「核を狙おう」
焦る一同に向かってユエは言う。核を壊すのはゴーレムを倒すセオリーである。ユエは基本に忠実に行くことにした。だがここで違う問題が発生する。
「分かりましたユエさん。それで核の場所はどこでしょう?」
「……知らない」
「えぇ!?」
「任せろ! オレのぬ感覚で見抜く!!」
天の助の言葉と共に、あたりにぬの文字が浮かぶ。そしてぬの文字が最終的に、ミレディの右脇腹に集まった。
「見つけた! 右脇腹が核だな!!」
「え、違うけど?」
「右脇腹目がけて行くぜ!! ぬ―――――――っ!! ぬぬ―――――――――っ!!」
「だから違うって」
ミレディの困惑を無視して彼女の右脇腹に、ぬのハンカチやパジャマなど数多のぬグッズを持ちながら突進する天の助。しかしミレディ本人に辿り着く前に、ゴーレムの集団にボコられ、ボロボロになって戻ってきた。
「ダメだった」
「だろうね」
「コアの場所も見抜けてませんし」
ハジメとシアの酷評に隅でさめざめと泣く天の助を無視して、ミレディが話しかけてきた。
「キャハハ。どうやら手詰まりのようだね? 跪いて命乞いをすれば、外に送っていってレベル上げた後リターンマッチをさせてあげてもよくってよ」
「その必要はないね」
ミレディの嘲笑混じりの言葉に、ハジメは毅然とした態度で即答した。
「そうかな~? いくら君達がハジケリストでも、この状況は無理じゃない?」
「違うよ。
「分かった。私達の全力を見せてあげる」
「ああ、やっちまえ二人とも! オレのターン、ドロー!!」
ハジメの言葉にユエは頷き、首領パッチはデュエルディスクを構えてカードをドロー。そしてそのまま引いたカードを発動させる。
「オレは魔法カード、融合を発動! フィールドのハジメとユエを融合させる!!」
「ゆ、融合だと!?」
天の助の驚きの声をBGMにしながら、ハジメとユエはそれぞれ光となって一つに混じり合っていく。だがそれを、ミレディが棒立ちで見ている理由は無い。
「目の前でやってるんだし、阻止されても文句言っちゃだめだからね~」
ミレディは赤熱化した右手を、迷うことなくハジメとユエに向けて振るう。それを阻止できない限り、融合は止められるとミレディは思っていた。
「……」
だが現実は違う。
ミレディの右手は身長百七十センチ以上、銀髪でスタイル抜群、深紅のパーティードレスを身に纏った美女が、羽子板で受け止めていた。
「羽子板で止めた――――――――――――――――――――っ!?」
「……羽子板セイバーは伊達じゃないわ」
そのまま美女は羽子板セイバーを無造作に振り回し、二十メートル以上はあるミレディを弾き飛ばした。
ミレディは空中で体制を整えながら上手く着地したが、あまりにも簡単に弾き飛ばされたことに驚きが隠せない。
そんな状態の彼女を無視して、美女は羽子板セイバーを突き付けながら名乗った。
「……私は南雲ハジメとユーエスエー・ニャクタロウ・ハジケニウムが融合した戦士、ハジータ。あなたを倒す者よ」
その後ろで、首領パッチ達がコソコソ小声で喋っている。
「もろゴジータじゃねえか……」
「じゃあ次回はハジウムに改名しとくか?」
「改名の可能性あるんですか!?」
ボーボボSSで6000字越えは少し長すぎたかもしれません