清水君が起こした騒動の後始末を愛子達に押し付けてハジメ達は、ウィル達を連れてフューレンを目指し豆型の車を走らせていた。
しかしここで問題発生。ハジメ達は現在六人編成パーティーだが、ここにウィル達が加わると十二人になる。その為、ハジメ達が駆る車に全員乗ることが出来なかった。
なので、天の助とティオの足をロープで縛り車で引きずっていき、さらに首領パッチは自力で転がせることで解決した。
「いや引きずられている二人はそれで大丈夫なんですか!?」
思わずシアは叫び、引きずられている二人の様子を見る。しかし――
「Zzz……」
「うーん、ボジョレーヌーボー……」
ティオは眠り、天の助はワインを嗜んでいた。
「くつろいでる―――――――――!?」
そして転がっている首領パッチは、いつの間にか車を遥かに超えるスピードになり思わず高笑い。
しかし、あまりにもスピードが速すぎて車を追い越し過ぎたのか、いつの間にかストックが一つ減った状態で、謎の台に乗って車の上空に移動していた。
その光景を目撃したユエは、車のハンドルを握りながら一言呟く。
「スクロール行き過ぎるから……」
「今の状態強制スクロールだったんですか!?」
「首領パッチ、Bボタンずっと押し続けてたしね」
「それス○ブラのプリンですぅ!」
ユエとハジメのボケにシアがツッコミを入れる中、首領パッチは謎の台に乗ったまま寝転がり、重苦しい空気を携えながらこう言った。
「ククク、いずれこの空も我が物よ……」
「何キャラなんですか」
シアがハジケリスト達のボケにツッコミを入れ続けるという、最早おなじみと化した光景。しかし、それを見ていたウィルとゲイルは小さく感嘆の声をあげた。
「凄いですね……」
「ああ、あの量のボケを一人で捌くなんてな……」
「じゃあ手伝って下さいよ」
小声でボソボソと話す二人に恨みがましい目を向けるシア。
しかし、そんな彼女に対し二人の返答は冷たかった。
「「無理
二人のシンプルかつ端的な拒絶に、シアはこっそり涙する。その涙も夜の闇が包みこみ、そのまま時が過ぎた。
そして翌朝、ハジメ達は特に障害も無くフューレンに到着。
そこで待っていたものは長蛇の行列だった。観光客から仕事の関係で訪れた人達まで、あらゆる人々が町の門前で入場検査の順番を待っている。
その入場検査待ちの最後尾にハジメ達の乗った車は止まり、乗員が降りた後はハジメ、首領パッチ、天の助が食べて処理した。
「食べられるんですかあの車!?」
「甘納豆の味がするよ」
「お菓子!?」
九人が乗り込めるほどの巨大な甘納豆がバカ三人に食べられるという
が、一人だけ違う行動をとる男がいた。彼はハジメ達の前に並んでいる金髪にピアスを付けて、ケバい女を二人連れたいわゆるチャラ男だ。
彼は連れの女達と順番待ちの長さに愚痴りながら待っていたが、いきなり後ろからやってきた車に対し、驚いたまま茫然と眺めていた。しかし、車から降りてきたシアを見た瞬間、彼の心にあった異常に対する警戒心は全て吹き飛ばされる。
さながら暴風。彼女の外見はそれほどに美しい。
だから彼は、取り巻きの女二人など放っておいてシアに声をかけようとするが
「何ジロジロ見てんだこのチャーハン右大臣が!!」
「ぐばぁ!?」
「チャーハン右大臣!?」
その前に首領パッチの右ストレートでぶっ飛ばされた。
チャラ男をぶっ飛ばした首領パッチはそのままマウントを取り、拳を連打で叩きこむ。
それを見たハジメは大慌てだ。
「落ち着けナマモノ!!」
「「「がはっ!!」」」
咄嗟にティオを振り回して、チャラ男諸共首領パッチを殴り飛ばして止める。
しかし、殴られた首領パッチは泣きながらハジメに言い訳を始めた。
「待ちなさいよ! あのチャラ男、絶対アタイのこといやらしい目で見てたわ!!」
「それは違うよ」
首領パッチの言い訳をハジメが一刀両断している一方、チャラ男は何が起きたかもよく分からないまま、とりあえず起き上がろうとする。その過程で腕を動かすと、なぜか手には柔らかい感触が。何事かと思い手がある場所を見ると、なんとそこにはティオの胸が。
まさかのラッキースケベに、思わず至福に浸るチャラ男。しかしそんな幸せは長く続かない。
「ラッキースケベ禁止条例―――――――!!」
「「ぎゃああああああああああああああああ!!」」
今度は天の助にティオごとロケットランチャーで吹き飛ばされ、さらにチャラ男はさっきまで連れていた女二人の連携攻撃を喰らう。
「「ダブルライダーキック!!」」
「ぐわあああああああああああああああああ!!」
「チャラ男の人踏んだり蹴ったりですぅ――――――――――!?」
「女連れでナンパ企んでたから、しょうがない」
(あの人ナンパしようとしてたんですね……)
ユエの冷たい一言に、シアがそんな意図があったのかと思う中、ケバイ女二人がチャラ男を暴力で制裁する地獄絵図がハジメ達の眼前で広がっている。
が、彼らはそれを特に咎めず、彼女達に順番を譲ってもらって大人しく入場検査を待つことにする。
触らぬ神に祟りなし、そんな諺の実例が確かにここにあった。
順番待ちを乗り越えたハジメ達は真っ直ぐに冒険者ギルドへ向かうと、ハジメの顔を覚えていた受付に応接室へと通された。
出されたお菓子にところてんを添えてくる天の助をしばきながら待つこと五分。いきなり部屋の扉が粉砕しかねない勢いで開かれ、外からこのギルドの支部長イルワが飛び込んでくる。
「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」
「はい! ゲイルさんやハジメさん達のおかげです!」
落ち着きなど一切見せず、視界にウィルを収めた瞬間にイルワはウィルを抱きしめ安否を確認し、ウィルは元気よく返答した。
「さあ、次は俺だ……!」
「いや君は抱きしめんよ。恋人がいるだろうに」
それを見ていたゲイルは次は自分かとばかりに期待して待っていたのだが、イルワは冷たく切り捨てる。
一通りウィルだけでなく、冒険に向かった冒険者達の無事を確認したイルワはそれぞれの家族、友人、恋人が滞在している住所を伝え、ウィル達はハジメに挨拶をしてから去っていく。
彼らが出て行った後、イルワはハジメに向き合い深々と頭を下げた。
「ハジメ君、本当にありがとう。君でなければウィルやゲイル達を生きて連れ戻すことは出来なかっただろう。感謝してもしきれないよ」
「まあ、ウィルとゲイルさん以外骨でしたからね」
「ああ、例の骨法変化術か」
「骨法変化術!?」
イルワが言った怪しげな術の名前に思わずシアが叫ぶと、イルワは得意気に解説してくれた。
彼曰く、一部の冒険者は死に際になると、塩水に浸けることで元に戻れる特殊な仮死状態になれるらしい。だが元に戻る方法が他人に依存するせいで、余程追い込まれない限り使いたがらないとか。
それを聞いたハジメはちょっと引いていた。
「冒険者ヤバイね」
「いや君達ほどじゃないだろう。まあそれよりも、約束のステータスプレートを渡そう。二枚でいいかい?」
「ユエとシアで二枚ですけど……、ティオはいる?」
「妾も、妾も欲しいのじゃ! ばぶぅ!」
「なぜ赤ちゃんに!?」
ハジメの質問に、ティオはおしゃぶりを付けてハイハイしながら返答した。
それを聞いたイルワは、職員を呼んで新品のステータスプレートを持って来させる。
結果、ユエ達のステータスはこうだった。
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ユーエスエー・ニャクタロウ・ハジケニウム 323歳 女 レベル:これは、いいレベルだな……
天職:神子
筋力:うしっ
体力:ひいいいい!
耐性:ヤベェ!
敏捷:なんてこった!
魔力:凄ェ!
魔耐:でかした!
技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法・ハジケリスト
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「彼○島ですぅ―――――――――――!?」
「ちょっと~、技能多くな~い? 打つの疲れるんですけど~?」
「それは知らない」
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シア・ハウリア 16歳 レベル:40
天職:占術師
筋力:60[+最大6100]
体力:80[+最大6120]
耐性:60[+最大6100]
敏捷:85[+最大6125]
魔力:3020
魔耐:3180
技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ][+集中強化]・重力魔法・ツッコミスト
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「私、技能にツッコミが生えてるんですけど!?」
「ありがとうなのじゃ」
「感謝されましても!!」
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ティオ・クラルス 563歳 レベル:野田なのだ
天職:守護者
筋力:すごいのだ
体力:やばいのだ
耐性:ぱないのだ
敏捷:やるのだ
魔力:任せるのだ
魔耐:見せるのだ
技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効率上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法・ハジケリスト
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「これハム○郎ですよね!?」
「ア○イさんじゃねーの?」
「ハ○マンかもしれんぞ」
予想通りツッコミ所満載だったステータスプレートにツッコミを入れ続け、息もハァハァと絶え絶えになるシア。そこでシアは恐るべき事実に気付く。
(あれ……? このパーティ、私以外ハジケリストしかいなくないですか?)
他にツッコミしてくれそうな愛子さんや優花さんは結局ウルの町に居続けていますし、とブツブツ小声で呟くシア。
「このままじゃ、私ツッコミで過労死するんじゃ……!?」
そして膝と両手を地面に付き、最悪の可能性にまで思案を始めてしまうシア。
そんな彼女を見て、ハジメはオロオロしながら一同にある提案をした。
「とりあえず、明日は休みにしようか……! 買い出しとかはシア以外がやることにしてさ」
その提案に皆はうんうんと頷く。
ついでにイルワに後ろ盾になってもらうという報酬を得たハジメ達は、宿へと向かって行った。
去っていくハジメ達を見送りながら、イルワは小さく呟く。
「いや、恩人であることを抜きにしても、あんなのを敵に回すわけにはいかないな」
「そう思うならところてんを食え」
「!?」
なぜか後ろにいた天の助に、イルワは恐怖するほかなかった。