だからこそ、このサブタイです。
ハジメ達は現在、ホルアドに来ていた。
なぜオルクス大迷宮の入口があるこの町にいるのかというと、イルワにホルアドのギルド長宛ての手紙配達依頼を受けたからだ。ハジメからすれば元々次の目的地であるグリューエン大砂漠へ行く途中の道程にあるので大した手間では無い。
「ここ通るのひっさびさ~」
「オルクスの攻略、今どうなってんだろうな」
ホルアドの冒険者ギルドを目指す道すがら、ハジメと天の助が駄弁る。攻略の最先端にいる光輝達が今、絶体絶命のピンチだと知らない二人は、まあ会うことがあったら聞くか、位の疑問として考えていた。
そして割とすぐに到着したギルドの扉を開け放つ。金属製の扉がギィィと音を鳴らし、中に居るギラついた目をした荒くれ、という他ない冒険者達が見覚えの無いハジメ達を視線で迎える。
その視線は誰が見てもピリピリしていて、元々荒くれであることを差し引いてもどこか異常を感じさせるものだった。
それらを受けたユエは、神妙な顔をして言う。
「なんだか分からないけど、凄くピリピリしている。こんな時は――」
「フ○キラー?」
「殺虫剤ですよそれ!?」
懐からフマ○ラーを取り出した首領パッチにシアが叫ぶ。一方、ユエはそんな首領パッチを見て呆れながらこう言った。
「こんな時は、歌に決まってる」
「練習したしのう」
「いつの間に!?」
まさかの事実に叫ぶシアを尻目に、ハジメ達五人はマイクを取り出して歌い始めた。
「「「「渇いたー 叫びがー くじけそーうな胸を突ーき刺す」」」」
「選曲古っ!?」
ハジメ、首領パッチ、ユエ、ティオの四人は渇いた叫びを歌う。
しかし――
「いつかふーたーりで行きーたいねー 雪がつーもーるこーろにー」
天の助だけ、違う曲を歌っていた。
「何でGL○Y!?」
一方、いきなり歌いだしたハジメ達にどうすればいいのか分からなくなる荒くれ冒険者達。が、最終的にこいつらおちょくってるだろ、と結論付けた冒険者達は剣呑な雰囲気を更に強くする。
「落ち着いて。こんな時の為に違う歌も練習したじゃん!」
「妾それ知らんのじゃが!?」
「知らないんですか!?」
まさかのティオハブという事態に動揺を隠せないティオとシアの二人。しかし残りの四人はなにも構わず、そのまま歌い始めた。
「「「「目覚めた心は走り出した みーらいを描くため」」」」
「さっきよりは新しい曲になりましたね」
「言うてま○マギも九年前じゃぞ」
選曲に冷静な感想を入れる二人。しかし、その光景を見ていた冒険者達は我慢の限界だった。
「舐めやがって!」
冒険者の一人が、声を荒げながらズカズカと足音を鳴らしながらハジメ達の元へ向かって行く。武器こそ抜いていないものの、殴り掛かる位はするだろう。だがその前に――
「ハッピーウエディング!!」
天の助が冒険者にウエディングケーキを叩きつけて被せ、そのまま叫ぶ。
「今日はユエ雄君とパチ美ちゃんの結婚式だぞ! 静かにしろ!!」
「性別逆にする意味は!?」
シアが叫びながら視線を軽く動かすと、そこには白いタキシードを着たユエと、ウエディングドレスを着た首領パッチが、互いに見つめ合っている。
すぐ奥には神父の格好をしたティオが、不敵な笑みを浮かべながら二人に告げた。
「新郎ユエ雄。新婦パチ美。大人しく妾に忠誠を誓え」
「……迂闊だった」
「しまった! この結婚式は罠か!?」
「何ですかこれ!? どういうことなんですか!?」
なぜかいきなり窮地に陥るユエと首領パッチ。不敵に微笑むティオ。状況について行けないシア。ウエディングケーキを食べながら傍観している天の助。
彼らの諸々を無視し、ハジメはギルドの受付嬢に話しかけた。
「すみません。僕らはフューレンのギルド支部長から、手紙を届ける依頼を受けた冒険者なんですけど……」
「は、はい。少々お待ちください!」
(無視して話進めてる―――――――――――――――!?)
ハジメが事情を説明すると、受付嬢にはすぐにホルアドの支部長に話を通してもらい、彼らは応接室に行くことになった。
「フフフ。妾に従えば命だけは助けてやるぞ」
「くっ、殺せ!」
「私はどうなってもいい! だからユエ雄君だけは!!」
「このケーキ砂糖多いな」
ハジメが諸々の手続きをしている間も、ずっと同じことをやっていた四人。そんなバカ四人にハジメはマシンガンで銃撃を浴びせた。
「さっさと行くぞお前ら!!」
「「「「ぎゃあああああああああああああああああ!!」」」」
ギルドの応接室に通されたハジメ達を待っていたのは、左目に大きな傷が入ったガタイのいい六十過ぎの男。名前をロア・バワビスというこのギルドの支部長である。
ハジメは早速彼に手紙を渡そうとするが、その前に別の少年から話しかけられた。
「南雲! 丁度良かった!!」
「うわビックリした!?」
気配など無かったはずなのに、いきなりどこからともなく現れた少年にハジメは慄く。
否、ハジメだけではない。
「誰ですか!?」
「誰!?」
「誰コイツ」
シア、ティオ、ユエの三人もいきなり現れた彼に対し、驚きながらも疑問をぶつけた。
「うーん、こいつどっかで見たような……」
「気配薄男とか、そんなじゃね?」
一方、首領パッチと天の助は少年に見覚えがあるのか、ああでもないこうでもないと話し合っていた。
「誰が気配薄男だ!?」
「あ、サヤエンドウ君だ」
「豆じゃねえよ!!」
「ど、怒涛のツッコミですぅ……」
少年のツッコミの勢い強さにシアが軽く引く。
「俺は遠藤浩介! 南雲達と一緒に召喚されたクラスメイトの一人だよ!!」
「そう言われるといたようないなかったような……」
「いや、僕は覚えてたけどさ」
「ジェラート食いてえ……」
「最後関係ねえな!?」
遠藤の魂が籠った叫びに適当に応じるバカ三人。
とりあえずハジメは遠藤に話を先に進めるように促すことにした。
「で、何で遠藤君がこんな所にいるのさ? 倦怠期?」
「いや違うけど。とにかく聞いてくれ。実は……」
遠藤の説明はこういうものだった。
オルクス大迷宮の九十層で魔人族に襲われたよ。
かろうじて逃げ出したけど天之河達も負けちゃって大ピンチ!
プリーズヘルプアース!!
「……三行で終わっちゃいましたね」
「よし、そういうことなら行こうか」
「顔見せしときたいしな」
「……覚悟を
「ここの純子ちゃんのイケボ興奮する」
「誰だよ純子ちゃん!?」
こうして、特に揉めることもないままハジメ達はあっさり光輝達を助けに向かうことになった。
そして、話はオルクス大迷宮へと移る。
「え、こっからまた勇者サイドするの?」
「テンポ悪くね?」
いるんだよ。必要なんだよ!!
「切実ですぅ……」
オルスク大迷宮にて、光輝達は再び女魔人族と激突していた。
その戦いは拮抗しているとは言い難いが、意外なくらい光輝達は女魔人族に食い下がっていた。
理由は二つ。一つ目は――
「ハジケ流奥義、なめたけフィールド! これで魔物の素早さを一分五厘カット!!」
「なめたけを地面にぶちまけた!? というか効果ショボいわね!?」
鈴のハジケた戦い方にあった。女魔人族にとってハジケリストは未知。故に鈴の戦い方も未知だった。
というか、いきなりなめたけを地面にぶちまける戦いに慣れている方が若干おかしい気もする。
それはともかく、二つ目の理由は恵里の降霊術だ。
彼女の降霊術は、死んだ魔物やコタツを操り、女魔人族が操る魔物にけしかけることで物量による蹂躙を防いでいる。
(
確かに、魔物を操っている方法は降霊術だろう。だが恵里が操る魔物を女魔人族側の魔物にけしかけ、動きを止めた瞬間がおかしい。
恵里は一匹の魔物に対し、数匹の魔物を宛がって動きを止めてから倒しているが、あまりにも女魔人族側の魔物の死亡が早すぎる。
それを女魔人族はこう推測した。
(間違いない。あいつは
一体何をどうやったらそうなるのか、女魔人族には想像もつかない。が、付け入る隙があると判断した。
もしその力が自在に使えるなら、とっくにこっちの軍勢は終わってしまう。
それを少しづつしか使わないのは、単純に使えないのか、使いたくないのか。
(あるいは、見せたくない、とか? あたしだけじゃなく、仲間にも)
女魔人族は考えを巡らせるが、結局のところ答えなど出るはずも無い。
今確かに理解できる事柄は一つだけ。最優先で恵里を叩かねば戦況が不利になるという事実のみ。
「だったら!」
そう結論付けた女魔人族の決断は早い。まず操っている魔物を大きく散らし、光輝達全員に襲い掛かる様に動かす。
そして次に彼女当人が動き、恵里を狙って攻撃する。
文章にすればシンプルだが、単純故に逆に対処は難しくなるはずだった。
「させない!!」
しかし、魔物に相対するより先に光輝が女魔人族の狙いに気付き、聖剣を構えて立ちはだかる。
「ああ、もう……! あんたに用はないってのに……!!」
光輝の攻撃を女魔人族は煩わしそうに受け止め、ここまで使わなかった魔物に攻撃させる。
魔物は、頭部が牙の生えた馬で、腕が四本生え、下半身はゴリラの怪物だった。体長は三メートルほどある。その馬頭は拳を突き出したまま停止している。
一方、光輝は馬頭の攻撃を反射でかろうじて防いだが、衝撃までは抑えきれず壁までノーバウンドで弾き飛ばされた。
致命傷は避けたものの、頭を打ち脳震盪になる光輝。勇者が持つ技能で回復自体は難しくないが、回復よりも前に馬頭に攻撃されれば命はない。
「頼んだよ、アハトド!!」
それが分かっているから女魔人族は馬頭、改めアハトドに光輝を任せ、自分は恵里を仕留めにかかった。
何も間違っていないはず、どこもおかしくない普通の判断だ。
しかし、それは大いなる間違い。
馬頭が光輝にトドメを刺そうと、腕を振り上げた瞬間、光輝から凄まじい光があふれ出したかと思うと、いきなりアハトドが上下に分断されていた。
アハトドの死体近くで、光輝が剣を払ったまま止まっていることから、彼の攻撃でこうなったことはすぐに理解できた。
これが光輝の持つ“限界突破„終の派生技能[+覇潰]。通常の限界突破のいわば上位互換。彼はこの技能に、今さっき覚醒したのだ。
対する女魔人族は、何が起きたかは分からないものの、ともかく周囲の魔物を光輝にけしかける。が、光輝はそれらを聖剣の一振りで薙ぎ払う。
そのまま光輝は女魔人族に突っ込んで行き、躊躇なく聖剣を振り下ろす。女魔人族はこれまでか、と思ったが近くにいた魔物が光輝と女魔人族の間に入り、盾となった。
おかげで女魔人族は両断されずに済んだが、袈裟切りにはされたのでどのみち虫の息。長くは持たないだろう。
「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで三文芝居だ」
ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレ展開に、女魔人族は呆れたように呟く。
「
しかし諦観はしない。諦めはしない。彼女には逆転する方法がたった一つ残っている。
本当はこんな手段使いたくない。これを選ぶ位なら死んだ方がマシだ。
でも
こいつはあたしを見ていない。正確には、魔人族と魔物を区別していない。
そんな奴に負けることだけは、絶対に出来ない。だから――
「チィッ!」
舌打ちしながら、女魔人族はポケットからカプセルを一錠取り出し、口に入れる。
光輝はカプセルを魔人族の秘密兵器と考え、飲ませないようにともう一度剣を振るが、それより先に女魔人族はカプセルを飲み込んだ。
それと同時に、今度は彼女から漆黒のオーラが吹き出し、天井まで奔流を巻き上げる。
その奔流に光輝は吹き飛ばされないように耐えたが、次の瞬間女魔人族の拳が彼の顔面に直撃し、成す術もなく吹き飛ばされ、再び壁に激突し、今度は動かなくなった。
「光輝!?」
「ク、クリリ―――――――――――ン!!」
「クリリン!?」
この光景を見た雫と鈴が思わず叫ぶ。
そして二人の叫びを聞いた女魔人族は二人の方を向き、次はお前達だと言わんばかりの嗜虐的な笑みを浮かべる。
「そこまでだ!!」
しかし、そこに新たなる登場人物が。女魔人族は知らないが、雫達はこの声の主を知っている。
その場にいた全員が声のした方を見るとそこには、助けを呼びに行った遠藤が。七十階層で魔法陣の見張りをしてる筈のメルド達騎士団が。
そして、オルクス六十五層で奈落に落ちて以来行方知れずだったハジメ達が、見知らぬ美少女を三人引きつれ――
「ここからは僕達、アメリカラバーズが相手だ!!」
ターバンを頭に纏って立っていた。
「どう見てもインドでしょ!?」
その結果、雫は吠えるのだった。