ハジメに敗れ気絶していた女魔人族、カトレアはクリムゾンたちが敗北して少ししてから目を覚ます。
最初に見えたのは勇者の仲間の治癒師、香織だった。
彼女は目を覚ましたカトレアを見て安心したように言う。
「目が覚めた?」
「あんた、どういうつもりで……」
しかしカトレアは、警戒心を隠すことなく香織をにらみつける。
その視線を感じていないのか、香織はあっけらかんとして言い放った。
「いや、もう戦いはそっちの負けで終わったし」
「はぁ!?」
香織の言葉にカトレアは驚きを隠せない。
彼女の認識では自分が倒れてもクリムゾンたち三人がまだいるはずで、彼らはそう簡単に倒せる相手ではないと思っているからだ。
だが現実は非情だ。彼女が当てにしていた三人のうち、二人はここじゃないどこかへ飛ばされ、最後の一人であるブルースは――
「さあ吐け! 魔人族側に召喚された神の使徒について吐け!!」
「あぁん!!」
「吐くのじゃ! ぬしの知ってること全てを!!」
「もっと!!」
ボンテージを着たユエとティオにムチ打ちされて、悦ぶことしか出来ていない。
「うわぁ……」
「これはひどい」
ブルースが痛めつけられている光景を見て、思わずドン引きする香織とカトレア。
それを振り切るかのように、香織は無理矢理話を振った。
「そういえばあなたが起きたら南雲君たちが“しゃかりき! ニャンパラカーニバル„を極めるって言ってたから、覚悟したほうがいいと思うよ」
「……なんだいそれ?」
カトレアとしては何気ない疑問だった。
しかし、香織はさっきまで普通に話していたのとは一転し、どこか怒りを滲ませ、睨みつけながらカトレアに言い放つ。
「いくら人間族と魔人族が戦争中だからって、それを女の子に言わせるの!?」
「あたし本当になにさせられるんだい!?」
カトレアが未知という恐怖に対して叫んでいると、ハジメたちが彼女のもとへ向かってくる。
「“しゃかりき! ニャンパラカーニバル„とは古代フリカッケ文明を起源にした――」
「メルヘン、ゲットォ!!」
「未来その手に 飛び立つFalco 翔るキミよ 夢よつかめ」
「幸村ァ!」
「それが師に対する口の利き方かァ!!」
ハジメは解説しながらカトレアに近づいていくと、いきなり首領パッチがバットでハジメを打ち上げ、天の助は合わせて歌う。
それを見た鈴は思わず叫び、返答として今度は打ち上げられたもののすぐに着地したハジメが鈴と同じように叫んだ。
一連の流れを見たカトレアは茫然とした様子で呟く。
「こんなに訳分かんなくて意味のないムーヴある?」
「よくあるよくある」
彼女の呟きに香織は酷い返答をし、それに対しハジメは何一つ気にすることなく話は進んでいった。
「さて、女魔人族。君には色々情報を吐いてもらおうか」
「……何もあたしを尋問しなくても、あっちのコンバット・ブルースの方が吐いてくれんじゃないのかい?」
ハジメの言葉に飄々と返すカトレア。
彼女は魔人族の中でも指折りの戦士であり、また高い忠誠心の持ち主でもあった。
そんな彼女からすれば、人間族に情報を渡すなど論外だった。
が、彼女と違いブルースは魔人族に忠誠心などないし、彼女はブルースには勝てない。故に、情報を吐こうが何しようがどうしようもなかった。
彼女の疑問に、ハジメは顔を横に向け、彼女もそれに追随してから彼は返答した。
「あいつはユエとティオにムチ打ちを食らいすぎたから。半身浴で一旦治療している」
その言葉の通り、二人の視線の先には右半身が埋まったブルースの姿が。
「死ぬだろアレ!?」
「いや大丈夫でしょ。それよりも、僕の質問に答えてもらおうか?」
「……何だい?」
目の前のハジメが何を考えているのか全く理解できないカトレアは、ハジメの質問を聞いて思考を分析することにした。
それがとんだ悪手だと知るのはここからだ。
「お前たち魔人族の所に、僕らの世界から――」
「敗者として、貴様には魔人族の主食をところてんへ変えるように尽力してもらおうか」
ハジメが問うより前に、天の助が『ところてん促進』と書かれたタスキをカトレアの肩に掛けながら、世迷言をほざく。
当然ハジメは激怒した。
「底知れぬこんにゃくの闇に沈め!!」
「ぎゃああああああああああああ!!」
「「天の助二等兵に敬礼!!」」
ハジメの手で天の助の穴という穴にこんにゃくが押し込められ、その光景を見た首領パッチと鈴は敬礼して傍観した。
そして天の助が沈黙したところで、ハジメはカトレアに向き直り中断された話を再開した。
「もう一回言うよ。お前たち魔人族のところに、僕らの世界から来た奴について聞かせてもらう」
「聞かせてもらおう、って言われてもね……」
カトレアにとって、ハジメの質問は想定のうちの一つではあったが、答えようがないものだった。
なぜなら、彼女は知らないからだ。自分たちが神の使徒と呼ぶ者たちの正確な人数、能力の詳細、その全てを。
だからたとえ拷問されたとしても答えようがない。
「あいにく、あたしはそんなことを知れる立場じゃないからね、知らないさ」
「宇宙の果てを知らないように?」
「その例えもよく分かんないけどねえ」
鈴の合いの手を適当に流しながら返答するカトレア。すると、今度はブルースの尋問を終えたユエとティオがドヤ顔で歩いてきた。
「ハジメ、尋問終わった?」
「いや、尋問ってよく考えたら何聞けばいいか分かんなくてちょっと困ってるところ。一応、他の神の使徒について聞いたけど、知らないって言うし」
「ふーん?」
ユエは一瞬だけ真顔になり、カトレアの表情を盗み見る。しかし、一秒後にはまた元のドヤ顔に戻しハジメにこう言った。
「ハジメ、多分だけど魔人族側の神の使徒はまだいる」
「え、何でそんなことが分かるの?」
「まさか、
「流石パチ戯ボーイ。私の千年アイテムとトゥーンは無敵デース」
「ユエサス。オレは結束の力で必ずお前を倒し、爺ちゃんを取り戻す!!」
「早く話進めて」
ドパンドパンドパン
なぜか
そしてこの間、ティオは特に何もしていない。
「や、闇のゲームに中断は許されまセーン……」
しかしハジメのカードコンボで決着はつき、闇のゲームは終了した。
「……負けた以上は説明する。この女魔人族には動揺が無さすぎる。恐らくだけどここで自分が死んでも、後詰めがいるということだと思う」
「でもそれは、強力な味方がいるってだけじゃないの?」
「魔人族がそんなに強いなら、ハジメたちが来る前に戦争はとっくに終わってる」
「あっ」
そう、ユエの予測は当たっていた。
カトレアから見れば、コンバット・ブルースたちを倒したのはハジメ以外ありえない。が、それにしては飄々としすぎていた。もしも彼らが最高戦力なら、この時点で魔人族に勝ち目はなくなってしまう。にも拘わらず、カトレアは特に心配していなかった。
それは、カトレアから見ればまだ強大な戦力が残っており、仮に自分がここで死んでも問題ないと判断したからに他ならない。
そしてその戦力とは、ハジメたちがトータスに呼ばれた後やって来た魔人族側の神の使徒だということもすぐに理解できる話だ。
「で、合ってるのこれ?」
「合ってるよ、ムカつくことにね」
一応ハジメはカトレアに確認をとってみたが、彼女は苛立ち交じりに肯定する。
そのまま敵の能力を聞こうとも思ったが、彼女曰く知らないとのことだった。
ハジメとしても別に知っているとは思ってなかったので、話はこれで終いだ。
「で、
「やはり魔人族の主食をところてんに変える運動を……」
「そういう種族単位で尊厳を貶めるのはどうかと思うのじゃ」
「何でだよ!? ところてんはおいしいだろ!?」
「主食にならない」
「じゃあ、間をとってコーラを主食にするか」
ハジメたちが何の実にもならない話し合いをしていると、今まで遠くにいた光輝、メルド、シアがハジメたちの元へ向かってきた。
やってきたシアに天の助が問う。
「シア、お前今までなにしてたんだ?」
「ハジメさんの今までのこととか、清水さんのことを説明してたですぅ!!」
「あぁ、そういえば説明してなかった……」
シアの言葉で説明不足に気づくハジメ。
一方、光輝は何を思っているのかただカトレアを見つめ、それを煩わしく思った彼女に話しかけられていた。
「何だいキンキン勇者。あたしをじっと見つめてさ」
「キンキン勇者!?」
謎の呼ばれ方をして思わず動揺する光輝。だがそれも一瞬。すぐに気を取り直して光輝はカトレアに話しかけた。
「いや、なんというか……魔人族も人間だったんだなって」
「はぁ? え、何? あたしたちのこと魔物の同類とでも思ってたのかい?」
カトレアの言葉に光輝は気まずげにそっぽを向く。
彼としては、人間をそんな風に見るなどあってはいけないと思っているが、それを当人に向かって謝れるほどの度量はなかった。
「度量の問題じゃないだろ!?」
(いきなりどうしたコイツ)
一方、カトレアとしてはただ呆れていた。
最初は少し腹立たしかったが、考えてみれば人間族側の神の使徒が魔人族を知る方法など、紙の資料か現地人の言葉位だ。そして人間族側にある時点で、資料としてまともな訳がない。そう思えば怒りよりも、そんなにあっさり人の言うこと信じてこいつ大丈夫か、みたいな気持ちしか湧いてこなかった。
「ハジメ」
「メルドさん、お久しぶりです」
光輝とカトレアが睨みあう一方、メルドはハジメに話しかけた。
「早速ですけど、この女魔人族どうします?」
「そう、だな……」
ハジメの質問に一瞬だけ躊躇を見せるも、メルドは即答した。
「ここで斬り捨てるべきだろうな」
「何を言ってるんですかメルド団長!?」
メルドの言葉に即食って掛かる光輝。そんな彼にメルドは、申し訳なさそうな瞳を見せつつ言葉を返す。
「ならどうすればいいと思う?」
「どうすればって……えっと、捕虜にするとか?」
「止めたほうがいい」
光輝の提案を間髪入れず却下するユエ。そんな彼女を光輝は睨みつけるが、ユエは特に気にせず話を続ける。
「もし生かして連れて帰ったら酷い扱いは必至。オズワルド様は話が分かる案件が一番マシかもしれない」
「そ、そんなことあるわけ……」
「人間族の魔人族に対する敵意は深い」
ユエの断言に光輝は救いを求めるが如くハジメたちを見る。その視線の先では――
「いや僕らの方見られても困るよ!? 分かんないし!!」
「拙者も知らぬ」
「武士でござったか……パチ座衛門殿……」
ハジメ、首領パッチ、天の助はユエの言葉が真実かどうか理解する手段がない。
ならばメルドはどうかと光輝が視線を向けると――
「俺は、このユエという少女の言い分に賛成だ」
「そ、そんな……」
「そこで妾から提案がある」
ショックのあまりへたりこむ光輝の横から、ティオが口を出した。
「提案だと?」
「うむ。この女魔人族、妾たちの預かりにできぬか?」
ティオの突然の言葉にメルドは悩むものの、最終的に決断を出した。
「ああ、それはできるが……」
「ならそこの女魔人族、この手紙を魔人族の総本山へと持って帰るのじゃ」
ティオは懐から手紙を出すと、それをカトレアの元へ投げつける。
その光景にシアは思わず疑問を呈する。
「そんな手紙、いつ書いたんですか?」
「妾ほどの胸になると、紙を挟めば戦闘中でも手紙を書くくらい容易じゃ」
「どういうことですか!?」
意味不明な理論に叫ぶシア。しかし、それに追随するかのようにユエの縋り付く声が。
「私にも、やり方を教えて……!!」
「無理じゃ。ユエの貧乳ではな」
縋り付くユエに対し、ティオは無常だった。しかし、そこに余裕綽々な三人が現れる。
「つまり~、アタイたちなら楽勝ってことでしょ~!」
「僕にもできるかなぁ!?」
「できるわ。だってあなた、私たちが認めた巨乳ファイターじゃないの」
そこにいたのは、それぞれ胸にメロン、バレーボール、タコ焼きを詰めた首領パッチ、ハジメ、天の助の三人だった。
「いやぬしらにも無理じゃぞ」
「そもそもできるようになりたいですかこれ!?」
ティオの言葉に隅っこで体育座りをする三人。それを無視してカトレアはティオに尋ねる。
「敗者として勝者の言い分は聞くけどさ。この手紙、何が書いてあるんだい?」
「それをぬしに言う必要はない」
「……そうかい」
尋ねたカトレアも、答えが返ってくるとは思っていなかったのかそれ以上尋ねることなく、埋まっているブルースを掘り返して去っていく。
そして彼女がいなくなったのを確かに確信してから、メルドはこの場にいる皆に叫ぶ。
「お前たち、よく無事だった!! だがまだ油断するな、帰るまでが戦場だ!!」
「遠足みてーだな」
強敵が去った、という安心感に浸りかけている光輝たちに、メルドは容赦なく発破をかける。
そして特に障害もなく地上に出て、ハジメたちは光輝たちと別れ次なる場所を目指す。
「行くのか?」
「はい。すみませんメルドさん、僕らにはやらなきゃいけないことがあります」
「……そうか」
何か言いたげなメルド。しかし、彼は何を言うわけでもなく黙ってハジメたちを見送った。
こうしてハジメたちは旅立つ。
次なる目的地は砂漠にあるアンカジ公国。そこで何が待ち受けているのだろうか。
「ラスト台詞は私が死守する」
「いいや、オレだね!!」
「!?」
そしてユエと首領パッチのラスト台詞の取り合いの決着はどうなるのか。
それは未だ分からない。