【完結】ありふれたハジケリストは世界最狂   作:味音ショユ

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今回、前半は勇者サイドです。
それと同時にボーボボ時空の宗教について独自解釈しているので、苦手な方はハジメサイドだけ読んでください。


第4章 炎と水と。あ、草はもうちょっと後で
奥義43 砂漠にて舞い踊る僕ら


 ハジメ達はカトレアと魔人族側の神の使徒を倒した後、メルド達騎士団と光輝達に別れを告げて再び旅立った。

 メルドはハジメ達を特に引き留めなかったが、光輝は引き留めようとした。光輝としては戦力になるうえ、ハジメが戻ることで彼を当てにし、今まで戦わず引きこもっていたクラスメイト達が再び戦線に戻ってくれるだろうと考えたからだ。

 

 だがハジメはこれを「やることがある」とだけ言い残し、ロクな説明もせず拒否した。

 ハジメが説明しなかったのは、自分達の旅の理由を説明する際に、この世界がエヒトの遊戯盤であり、人間族と魔人族の戦争は神の意志で無為に続けられているという事実を告げねばならないが、それをこの世界の住人であり、今まで懸命に戦ってきたメルドの前で話すのは躊躇われたことと、愛子に話しているのでいずれそっちから伝わるだろうと考えたからである。

 だが光輝からすればハジメはロクに説明もしないまま、好き勝手しているようにしか見えず、受け入れることに不満が生まれた。

 ちなみにハジメの判断を聞いた雫は、彼なりに何か考えがあるのだろうと信じて送り出し、他のクラスメイト達はハジケリストを制御できるわけがないと匙を投げた。

 

 更に光輝の不満はこれだけではなかった。

 この戦い以降、光輝達の訓練に人殺しに対する覚悟をつける訓練が追加された。

 この訓練には光輝のみならず、クラスメイトのほぼ全員が反対したが、イシュタル達教会と国王の言葉によりあえなく追加された。

 

 イシュタルからすれば何を今更躊躇っているのか理解不能だった。

 光輝達がトータスにやってきたあの日、彼らは戦争に参加するといったのだ。しかも相手は『人間ではない』魔人族。殺すのに抵抗があるということが理解できない。

 しかしメルドが必要だというなら、人殺しの訓練もさせよう。というのが彼の考えだ。

 

 この考えをメルドから又聞きした光輝達は、イシュタルを形容しがたい怪物としか思えなくなっていった。

 これは光輝達の宗教観が日本に染まっているからではなく、彼らの故郷である地球基準でまともな価値観の持ち主なら誰もが抱く感情だ。

 

 そもそもこの光輝達が暮らしてきた地球では、宗教というのは形骸化して長い。なぜなら、昔は奇跡と呼ばれた事柄が真拳使いやハジケリストなら気軽に起こせるからである。

 おかげで今では、キリスト教のクリスマスやイスラム教のラマダーンのような行事だけが形式的に残っているくらいだ。

 マルハーゲ帝国は宗教弾圧をしなかったので、宗教自体は残っているがその信仰はとてつもなく緩い。

 例えるならキリスト教の由来の行事を楽しんだ後、一週間も経たず寺が鳴らす鐘の音を聞き、次の日は神社に行くという、年末年始の日本人みたいな信仰心が光輝達のいる地球のデフォルトだ。

 宗教戦争など歴史の授業で習ったことがある程度の知識しかない。対岸の火事を通り越して、もはや過去の遺物でしかないのだ。

 

 だが魔人族からすればそんな事情を酌量する義理はなく、光輝達は人間族である限り敵でしかない。

 ならばとばかりに光輝は「南雲みたいに殺さずにすませる!」と言い放ったが、メルドに冷たく無理だと断言された。

 それに光輝は反論できなかった。彼はカトレアに敗れたが、ハジメは彼女を倒し、更に強いであろう魔人族側の神の使徒を倒した。

 

「力が欲しい」

 

 拳を握りしめ、悔し気に呟く光輝に誰も何も言えない。

 彼を中心とし、どこか不穏な空気が漂うが、いまだ何かが起きる気配はなくただ訓練だけで徒に時間は過ぎ去っていく。

 さて、そんな時に南雲ハジメは何をしているのだろうか。時は少し戻る。

 

 


 

 

 光輝達と別れたハジメ達は豆型の車に乗ってグリューエン砂漠を走っている。

 砂嵐が吹き荒れ、暑さが容赦なく襲う環境でも車の中は冷房を効かせ、運転手をユエに任せ、それ以外各自涼みながらのんびりしている。

 ただし、この車の中にティオはいない。

 人型をとっていると忘れがちだが、ティオは竜人族。そして竜は地球でいうなら爬虫類に近い生物だ。そして爬虫類は外気温で自身の体温を調整する。

 つまり、冷房が効きすぎると体が冷えて調子を崩すタイプなのだ。だからティオは外に出て、自身の足で車と並走していた。

 後ろ歩きで。

 

「なぜに後ろ歩き!?」

「時オカだとあれが一番速い移動方法だからな」

「Z注目して後ろ歩きで進むその姿、オレにとっては一番RTA走者(サムライ)らしく見えるよ」

「今とんでもないものにサムライってルビ振りませんでした?」

「まあ、最近の時オカRTAはコキリの森でエンディング呼び出したりするから、あんまり後ろ歩きしてるイメージないけど」

 

 ハジメのどうでもいい補足を聞きながら、ティオの後ろ歩きを眺めるシア、天の助、首領パッチの三人。

 ティオは三人に見つめられ、しばらく頑張って走っていたが唐突に「やっぱ無理じゃ!」と叫び、車に乗り込んだ。

 

「ちゃんと砂落としてよ」

「アイスところてん、食うか?」

「ふぅ……。流石ご主人様は容赦がないのう。あとところてんはいらん」

「うまいのに……」

 

 ティオにすげなく断られた天の助は、アイスところてんを自分でむしゃむしゃと食べ始める。

 すると、首領パッチがいきなり醤油瓶を三本取り出し、天の助の鼻の穴と口に押し込み醤油を飲ませ始めた。

 

「飲めやぁ! この醤油飲めやぁ――――――――っ!!」

「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!?」

「いきなりの凶行ですぅ!!」

 

 醤油瓶で鼻と口が塞がれ、息も満足にできず次第に意識が薄れていく中、天の助はこう思った。

 

(この醤油、キッ〇ーマンか!?)

「だから何ですか!?」

「皆、三時の方向を見て」

 

 後ろのバカ騒ぎに混ざることなく淡々と運転していたユエが、唐突に皆に言う。その言葉に全員が従うと、視線の先にはサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっていた。

 サンドワームは平均で二十メートル、大きいもので百メートルになる巨大な魔物だ。グリューエン大砂漠にのみ生息する魔物である。

 そのサンドワームが群れを成し、グルグルと旋回しながら群れの中心にあるものの様子を伺っているようだ。

 

「おかしいのう」

「何が?」

 

 様子を伺っているサンドワームを見て、ティオが怪訝な顔を見せる。それにハジメが疑問を覚えた。

 ハジメの問いにティオは答える。

 

「いや、あのサンドワームという魔物は悪食での。獲物がいるなら即食べるはずなのじゃが……」

「でも食べてないじゃん」

「じゃから不思議なのじゃ」

 疑問が尽きないティオ。しかしその一方、話を聞いていた天の助はある可能性に気付いた。

 

「すなわち、あのサンドワームはオレをおいしく食べてくれるのでは……!!」

「「――!?」」

 

 天の助が提示する可能性に驚愕するハジメと首領パッチ。一行はそれが真実かどうかを確かめる為、あとついでにサンドワーム達がなぜグルグル旋回しているのかを調査する為に、彼らは群れに近づいていく。

 

「そっちついでなんですか!?」

 

 ハジメ達が群れにある程度近づいた後、ハジメは天の助をサンドワームの群れへと投げ込んだ。

 サンドワームの集団へと飛んでいく天の助。そしてサンドワームが獲物を捕食する範囲に入った。

 だがその瞬間、サンドワームの群れは天の助を避けた。

 

「へぶっ!?」

 

 サンドワームが自身を食べることを想定していた天の助は、顔面から着地してしまう。

 しかし天の助はすぐに起き上がり、瞳から血涙を流しながら、怨嗟という怨嗟を地獄から全て集めて一纏めにしたといっても過言じゃないほどの怒りを込めて叫ぶ。

 

「オレを……食ええええええええええ――――――――――――――――――っ!!」

 

 叫びながらサンドワームの群れに走っていく天の助。しかしサンドワーム一匹の例外もなくは避けるばかりで、食べることはおろか近づく個体すらない。

 

「いっそ可哀そうなレベルでソーシャルディスタンスですぅ……」

 

 何を言えばいいか分からず、思わずハジメに助けを求めて顔を向けるシア。しかしシアの目線の先には、コタツに入りグツグツと煮えて真っ赤になっている鍋を睨むハジメ、ユエ、ティオの三人の姿があった。

 

「なぜこの状況で鍋!?」

「砂漠と言ったらキムチ鍋」

 

 シアの質問に返答しているようでしていないユエ。

 すると今度は、キャリアウーマンみたいな恰好をした首領パッチがやってきた。

 

「はぁ~、遅くなったわ。早く晩御飯作らないとあの子達泣いちゃうわ」

「お帰りなのじゃ、ママ」

「あのねあのね、今日は私達が晩御飯を作ったの」

「とってもおいしいキムチ鍋だよ!」

 

 焦る首領パッチに優しい言葉をかけるバカ三人。その言葉に首領パッチは感涙しながらコタツの空いている席に座り

 

「オレは甘党じゃ――――――――――い!!」

 

 キムチ鍋をサンドワームの群れに向かって投げ捨てた。

 そのまま鍋の中身は一匹のサンドワームにかかり、少しずつ液状化させていく。*1

 

「溶けてる――――――――――――――――!? あれ絶対キムチ鍋じゃないですぅ!!

 

 思わず叫ぶシアとは対照的に、ユエは落ち着いた様子で土鍋をコタツの上に置いた。

 

「はい、甘党なママの為の鍋」

 

 中身は土鍋一杯のフ〇ーチェだ。

 

(料理!?)

 

 シアは内心でツッコむが、首領パッチはそれに何の疑問を挟むことなくおいしそうに貪る。

 

「いつの間にかお料理上手くなったのね、ユエ……」

「いやフルー〇ェは料理じゃないと思う」

「どっせい! ですぅ!!」

 

 首領パッチ達のハジケについていけなくなったシアは、天の助とキムチ鍋(?)で怯んでいたサンドワームの群れを追い払った。

 

「あれ!? 僕の戦闘シーンは!?」

 

 そんなものはなかった。

 

「酷い……。一体どうして……」

 

 嘆き悲しむハジメを無視して、ユエ達はサンドワームの群れの中心だった場所に向かう。そこには、食べてもらえず落ち込む天の助と、倒れ、大量の汗をかきながら苦しんでいる白い服を着た青年の姿があった。

 それを見た首領パッチはデュエルディスクからカードをドローした。

 

「魔法カード発動、モウヤンのカレー*2!!」

 

 首領パッチはカード効果で白い人の体力を回復させるが、青年はなおも苦しんだままだ。

 

「回復しませんね?」

「これあれじゃない? その人は単に倒れてるだけじゃなくて、毒か病気持ちなんじゃない?」

「成程。サンドワームがそれを察知していたというなら納得じゃ」

 

 ハジメが提示した可能性にティオが納得したところで、その場にいた全員が青年から二メートル以上離れる。

 しかし、この人を見捨てるのはあまりにも忍びないので、ハジメ達は病気を治してあげることにした。

 

「この状況ならあの技だ。納豆真拳奥義、おてもやんヒール!!」

 

 ハジメが奥義を発動すると、バカ五人が青年を囲み盆踊りをしながら一斉に「おてもやーん。おてもやーん」と唱えだした。

 

「これ回復技なんですか!?」

「おいシア。お前もやれ」

「私も!?」

 

 それにツッコむシアだったが、天の助に手伝えと強要される。

 正直凄く恥ずかしいが、流石に人命には代えられないので大人しく手伝った。

 

「「「「「おてもやーん! おてもやーん!!」」」」」

「……お、おてもやーん」

 

 ノリノリのバカ五人と恥ずかしがるシア。その甲斐あってか青年の症状は徐々に落ちついていく。

 それを見たハジメはおもむろに青年に近づき

 

「さっさと目を覚ませ!!」

「ぶほぉ!?」

「急に厳しい――――――――――――――――!?」

 

 全力で蹴り飛ばした。

 そのまま地を転がる青年。しかし、彼は一通り転がった後すぐに立ち上がり、自分の症状が回復していることに驚いていた。

 するとすぐにハジメたちに気付き、慌てて頭を下げてきた。

 

「あなた方が助けてくれたのか……礼を言う。私の名はビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンガジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 青年、もといビィズの言葉に驚くハジメ。

 アンガジ公国とは、グリューエン大砂漠最大のオアシスである。そこの領主の息子ともなれば、かなりの地位なのは間違いない。

 そんな彼がこんな所でどうして倒れているのか、ハジメ達は早速事情を聞くことにした。

*1
キムチ鍋はそのままサンドワームの一部になりました

*2
自分か相手を選んでライフを200ポイント回復させるカード




前半を読み飛ばした人用の三行で分かるあらすじ

光輝、ハジメがどっか行ったことに不満。
クラスメイト達、人殺しの訓練をさせられることに恐怖。
ついでにイシュタルさんやばくない? という認識が広まりはじめる。
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