流石に暑いうえに砂嵐が吹き荒れる中で話を聞くわけにもいかないので、ハジメ達はビィズを車に乗せる。
乗せられた彼は車という未知と、中の涼しさに驚いていたがそのショックから早々に立ち直り事情を話し始めた。
四日前、アンカジで原因不明の高熱を発し倒れる人が続出したよ。
いっぱいいたからすぐに医療院は飽和状態になっちゃうし、完治なんてむーりー。
そんな中、オアシスから取った飲み水に毒素が入っていることが分かり、更に調べるとオアシスそのものが汚染されていたよ。
やべえ、これじゃストックされている汚染されてない水以外飲めないじゃん!
せや、“静因石〟を粉末状にして飲ませれば何とかなるで! でも今の自分達でも採れる場所はアンカジから遠いし、グリューエン大火山でも採れるけど入れる奴おらへん。
とりあえず王国に救援要請せなあかんけど、強権振りかざせる私がいかないと時間かかってしゃーない。
でもアカンかった。途中で倒れてもうた。
「ということだ」
「何で途中から関西弁になったんですか!?」
「ん?」
「いえ、こっちの話です」
シアの地の文にツッコミを入れるという、ハジケリストや地球の住人にしか理解できない光景は、ビィズからすれば虚空に叫ぶ変な兎人族にしか見えなかった。
が、シアはその視線をスルーした。慣れたものである。
その後もビィズは話し続ける。
「父上や母上、妹もすでに感染していてアンガジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなどできそうもなかった。だから、私が――」
「長い」
「ぐおっ!? 冷たい!!」
話し続けるビィズに、ユエはなぜか持っていた雪を押し付けた。
「何で!?」
「いや、原作の大幅な引用は禁止というハーメルンの規約に引っかかったら嫌だから……」
「理由が酷いですぅ」
「こなあああああああああああゆきいいいいいいいいいいいい!!」
「うるさいですね!?」
「今のは、チ〇ちゃんじゃな?」
「違いますけど!?」
「ふしだらな母と笑いなさい」
「シャ〇子が悪いんだよ」
「原作で言ってないセリフでコンボ決めるのやめてもらっていいですか!?」
ユエ以外バカ全員のボケを処理し、息絶え絶えになるシア。そんな彼女にビィズは訝し気に話しかけた。
「……その、彼らはいつもこうなのか?」
「大体そうです」
シアの返答に、自分はとんでもない奴らに助けられたのでは、という気持ちが湧いてくるビィズ。
そんな彼を気にせず、ハジメ達はアンカジ公国へ向けて車を出発させた。
「ってちょっと待ってくれ! 私は王国に水と救援を――」
「水なら私がなんとかする」
「静因石なら僕らが採ってきますよ。元々グリューエン大火山に用がありますし、これでも僕らは“金„クラスの冒険者ですから」
「“金„クラス……!?」
ハジメ達の冒険者ランクが自身の想像を超えていることに驚愕するビィズ。しかし同時に、彼は希望を見出した。
サンドワームを追い払い、自身の治療ができる冒険者。ここで出会うのが天啓なのだと。
「助けて、くれるのか……!?」
「報酬はもらうから、そのつもりでおるのじゃぞ」
「わては……選挙権が、欲しいでごわすな……」
「オレは公国でところてんの普及をしてもらえば文句はないぞ」
「すみません。この二人の言葉は流してください」
「あ、ああ……」
シアの忠告に従い、ビィズは首領パッチと天の助の戯言を聞き流した。
そうこうしているうちにハジメ達はアンカジ公国に到着。彼らの目に入ったものは、都市を囲む白い壁と、アンガジ全体を覆う巨大な光のドームだった。
「何あのドーム?」
「あれはミラーフォースの様な逆転のカード……!」
「ああ、あのドームは砂や悪意ある者の侵入を防ぐ自慢のアーティファクトだ」
「へぇ……」
ハジメはバリアに感心しながらアンガジの入口から国の中へと入ろうとした。その近くには門番の兵士が立っており、ビィズを見て直立不動で敬礼している。
そしてバリアの中へ入ろうとした瞬間――
「ぐわああああああああ――――――っ!!」
「「ティ、ティオダイ――――ン!!」」
ティオがいきなりバリアにひっかかり、車のリヤガラスを突き破り地面に倒れ伏す。それを見た門番達は慌てて武器をティオに向けるが、ビィズは必死に彼らを押し留めた。
そんな中、ユエはビィズを問い詰める。
「このアーティファクトが防ぐのは悪意ある者じゃないの?」
「いや、これは他にも邪な考えを持つ者も防ぐのだ。ちゃんと言ってなくてすまなかった」
ビィズに頭を下げられ、これ以上問い詰めるのを止めるユエ。代わりにバリアにはじかれたティオ以外のその場にいる全員が彼女に向かって、こいつ何考えてたんだ、と目線で問いかける。
その問いにティオは堂々と答えた。
「妾はただ、乗り心地の良い三角木馬について考えておっただけじゃ!!」
「三角木馬!?」
ティオのまさかの思考に思わず叫ぶシア。
一方、彼の思いを聞いたビィズは優しく語り掛ける。
「大丈夫だティオ殿。私の権力で作り出そうではないか。乗り心地の良い三角木馬を」
「む、麦らァ……!!」
「乗り心地の良い三角木馬って、何?」
「権力って奴か……」
ビィズの器の大きさにユエと首領パッチは驚愕を隠せない。
だが誰もそんな二人の内心など考慮せず、今度は何事もなく入国できたアンカジ公国の風景に目を奪われていた。
「うーん、ゲームに出てきそうなオアシスの街だ。どこかポ〇コロのフェナスシティを思い出させるね」
「ふつくしい……」
「オレもそう思うぜ、とこ馬!」
以上が、バカ三人の街の風景を見た最初の感想である。これで街の情景を完璧にイメージできるはずだ。
「いや、何にも分かりませんけど!?」
「ありふれ二期はよ」
ユエが催促している間にハジメ達は王城に到着した。ちなみに乗っていた車は流石に街の中に入れないので首領パッチの口の中に押し込んだ。
「実に芳醇な酸味……だがそれに負けない苦味がこの車にはあります。実に、実に味がぶつかりあって……非常に味の取り合わせが悪い!!」
「不味いんですね!?」
「ぶっちゃけ吐きそう」
「城では吐かないでくれ!?」
ビィズの懇願を聞き流しながら、一行は領主のいる宮殿へと到着する。
彼の父親である領主ランズィは、息子であるビィズのあまりに早い帰還に驚いていたが、彼が事情を説明すると途端に歓迎ムードを醸し出し始めた。
「醸し出すだけなんですね?」
「あいにく歓迎できるほど今のアンガジに余裕はない」
シアのツッコミをどうとったのか、ランズィは申し訳なさそうに呟く。
それを見たハジメは、早速行動を開始した。
「じゃあ動こうか。ユエは水の確保、首領パッチは患者の治療をお願い」
「分かった。でも魔力が足りる気がしないからハジメも来て」
「おいおい待てよ。オレらがさっきビィズの治療をできたのはハジメの奥義あってだろうが。オレ一人じゃ無理だぞ」
ハジメの指示にユエは割と素直に頷いたが、首領パッチは反論した。
だがその言い分はハジメとしても最もなので、返答代わりに三枚のカードを手渡す。
「これ……おてもやんヒールを永続魔法化したものだから。場に出して回復カードを使えば同じ効果を得られるよ」
「へぇ……」
ハジメが手渡したカードを首領パッチは欲深い目つきで見つめる。
そう、首領パッチはことが済んだら高値でカードを売りさばくつもりだったのだ。
しかし、その事実を知らないまま今度はユエがカードを手渡す。
「私からはギフトカード*1を三枚あげる」
「妾はアニメ版命削りの宝札*2を」
「オレからは現世と冥界の逆転*3をやろう」
「後半手札補充がメインになってません?」
「シナジーなくて
更にティオと天の助がユエに続いて首領パッチにカードを渡すが、受け取った当人はここでの治療以外に使いにくいカードばかりなので微妙な気分だった。
唯一使えそうな命削りの宝札は、アニメ版のせいで公式大会には使えない。首領パッチはその事実に憤慨した。
というわけで首領パッチが微妙な表情を見せていると、ビィズがハジメに話しかけてくる。
「いや待ってくれ。患者は一か所に集まっているわけではないのだ。一人で治療させるというなら患者を集める時間が……」
「それならシアに運んでもらうよ。いい?」
「お任せですぅ!!」
シアはハジメに勢いよく返答すると、首領パッチを抱えていずこかへと向かっていった。
患者が集まっている場所も知らないのに勢いで飛び出したせいで、案内をしようとした兵士が大慌てで追いかけていくエピソードもあったがここでは割愛する。
それはそれとして、ユエはランズィに問う。
「質問だけど、最低でも二百メートル四方の開けた土地はある?」
「それなら農業地帯にいくらでもあるが……」
「ならそこに水場を作らせてもらう」
ユエの言葉に領主親子は一体どうやって、という疑問を顔に浮かべ隠せずにいた。
その表情に気付いたユエは不敵な笑みで二人に告げる。
「気になるならついてくればいい。ハジメ、行くよ」
「僕いる?」
「いる。初代ポケ〇ンのフラッシュくらい必要」
「その気になればなくてもクリアできるじゃん……」
自分の必要度の微妙さに疑問を覚えていると、今度は天の助がハジメに問いかける。
「おいおいハジメさんよぉ。オレは何をすればいいんだ? って決まってるか。おいしくて栄養満点なところてんを患者の皆さんに配ればいいんだろ? 任せとけって」
「いやところてんに栄養はないだろう。食物繊維しかとれんぞ」
「なん……だと……!?」
ビィズからもたらされた事実に天の助が驚愕している一方、さっきからロクにセリフのないティオは顔を赤くし、息を荒げ興奮していた。
「ハァハァ……放置プレイとはたまらんの……」
「あー、じゃあオアシスの調査を天の助と一緒にやってもらおうかな」
「うむ、了解したぞご主人様!!」
さっきのシアに負けないほどの勢いで返答したティオは、天の助の頭を掴んで引きずりながらこの場を去っていった。
そしてビィズは、なぜかハジメを冷たい目で見ていた。
「ハジメ殿……。どうみても年上の女性にご主人様と呼ばせるのは正直どうかと思うのだが……」
「好きで呼ばれてるわけじゃないんだよ……!」
あらぬ誤解を受けていると理解したハジメが静かに怒りを燃やすが、ユエは全く気にすることなくハジメと領主親子を引き連れ、農業地帯へと向かうのだった。
「続くッ!」
「どうでもいいけどシアがいなくなった途端、僕がツッコミになってない?」