前回のあらすじ
ハジメ達、VRでスナッフムービーを見た。の巻き。
シア「雑な纏め方ですぅ!!」
趣味の悪い映像を見せられてトマトで手をニチャニチャにしたハジメは、シアと天の助を連れてさっきまでいた甲板から船内に入っていた。
なぜハジメが船内に入ることを選んだかというと、彼曰くこうだ。
「あの映像で王様が船内に入っていったでしょ? あれ多分僕らも入れっていう暗示だと思う。というか他に行くところないし、もうそこでよくない?」
「ぶん投げまくりですね」
シアのツッコミを無視して、ずかずかと前に進むハジメ。
そのシアと天の助の二人を顧みない態度に対し、天の助が「これが、亭主関白なのね……現存していたなんて……!」と驚愕しているが、シアは天の助に聞きたいことがあったので聞いてみた。
「何か、ハジメさんの様子おかしくないですか?」
「ん? ああ、あれは単に胸糞悪い映像見せられてイラついてるだけだぞ」
「そうなんですか?」
天の助の言葉が意外だったので、つい聞き返してしまうシア。
確かにあの映像は見てて嫌な気分になったが、ハジメはそれを引きずるようなタイプだとシアは思っていなかった。
見終えた直後は怒っていたが、それで苛立つのは終えてまた普段通りに振る舞う気がしていた。
だが天の助は大したことないとばかりにこう言う。
「まあオレが適当にネタ振ればすぐにいつも通りさ」
「はぁ」
シアの気のない返事も何のその。天の助は少し先を歩いているハジメに走って追いつき、話しかけた。
「何か静かだな。船の中にはモンスターもいないし、クリオネの所とはえらい違いだ」
「ああ。迷宮の戦力は軒並み
(うん?)
二人の会話がこの時点でどこか聞き覚えのある会話だったので、思わず怪訝な顔をしてしまうシア。
しかしそんなことでこの二人は止まらない。
「まっ、そんなのもう関係ないけどな!」
「上機嫌だね?」
「そりゃそうだろ。オレらは楽できるし、タカキも頑張ってたし、首領パッチも頑張らないと!」
「せやな~」
(酷い会話ですぅ!)
シアが内心でツッコミをするせいで、二人の会話は滞りなく進んでいく。
(そうだ。僕達が積み上げたテトリスは、全部無駄じゃなかった。これからもエタらない限り、ネタは続く!)
ここでいきなり角から女の子が現れる。
手足の関節をあらぬ角度に曲げながら、ケタケタと奇怪な笑い声を響かせる様はまさしく怨霊というほかあるまい。
その怨霊が、シアに向かって突進していく。
「危ないシア!!」
ハジメは咄嗟に天の助を盾にしながら、シアと怨霊の間に割って入る。
その結果攻撃を食らうのは、天の助だった。
「ぐふっ!」
「団長? 何やってんだよ、団長!!」
「ハジメさんのせいですよね!?」
天の助にダメージを与えたはずの怨霊。
しかし次の瞬間、ハジメは天の助を放しそのまま天井を仰ぐ。
その瞳は紅く染まり、奇怪な言葉を口にした。
「我は怨霊。今よりこの世界を掌握する」
「ハジメさんが取り憑かれた――――――!? しかもえらく大仰なこと言ってるですぅ!!」
「そしてあんたはここで、ふゆと死ぬのよ……!」
「誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ」
「何ですかこの会話」
片方が怨霊に取り憑かれているのにも関わらず、普段と変わらないペースの会話をする二人について行けないシア。
一方、怨霊は納豆を構えて天の助に向かって飛び掛かる。
しかし。
「
いつの間にか戦車に乗り込んでいた天の助が、容赦なく怨霊に砲弾を撃ち込んだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
「ハジメさんに対する配慮が微塵もないですぅ――――!!」
「我が浄化されていくううう!!」
「何で!?」
「砲弾に盛り塩たっぷり、塗り込んでおいたぜ」
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「どうみても塩の名前じゃない!!」
「くっ、僕は怨霊に取り憑かれてたのか……」
こうしてハジメは自我を取り戻した。
しかし船の奥からは次々と、生首と斧を持った男や顔の穴という穴全てが闇に染まった顔の女など、数多の怨霊が襲い掛かってくる。
しかし天の助は一切怯まない。
「発射! 発射! 発射ぁ!!」
「そりゃ、戦車に乗ってたら怯みませんよね」
怨霊に盛り塩を塗り込んだ砲弾を撃ち込み、次々と浄化していく天の助。
それに負けじと、ハジメは普段使う納豆の代わりにあるものを取り出した。
「天の助が塩を使うなら、僕は砂糖で浄化しよう」
「砂糖!?」
ハジメは取り出した砂糖を大さじスプーンで一杯すくい、それを怨霊に振りかける。
「ぐわあああ浄化されるううううう!!」
「砂糖で!?」
ハジメの砂糖は効果覿面。怨霊は消滅した。
この光景を目の当たりにした残っている怨霊は、一斉に恐れをなして逃げ出す。
しかし、ハジメと天の助はここで見逃すような男達ではない。
「ヒャッハー! 怨霊は消毒だ――!!」
「祓いたまえ、清めたまえ。あるべきところへ還りなゲハハハハハハ!!」
二人は醜悪な笑みを浮かべながら、逃げ惑う怨霊を追い回し始めた。
それを見ていたシアは、一言こう呟く。
「どっちが悪役だか分かったもんじゃないですぅ」
ハジメ達が怨霊を追い回しながら進むと、いつの間にか最奥だったのか床に魔法陣が書いてある場所にまでたどり着いていた。
しかし彼らは気付くことなくそれを踏んでしまい、訳も分からないまま移動してしまった。
「怨霊は!? 僕らに消される怨霊はどこ!?」
「あいつらが浄化される時の悲鳴がないと、オレ達はもう駄目なんだよ……!」
「中毒になってません!?」
新手のシリアルキラーみたいなセリフを吐くバカ二人にツッコミを入れつつ、シアは辺りを見回す。
そこは巨大な空間となっており、中心には神殿のような建物があり、神殿の中心に祭壇のような魔法陣が描かれていた。
また、神殿から四方に通路が伸びており、その先端にも魔法陣が描かれていた。
そしてシア達が現在いる場所も、四方ある通路のうち一つである。
「ここがゴールでしょうか……?」
「おいおい何だよ、大したことねーなここ」
「精神リョナメインみたいだし、物理的な難易度は低めなんじゃないの?」
シアの呟きに思い思いのコメントをする天の助とハジメ。
実の所、彼らみたいに潜水する乗り物がないと、ここに入るまでに魔力を多大に消費する上に、亡霊相手にも魔力を消費するので物理的な難易度も決して低くはない。十分にクソゲーである。ハジメ達のスペックとメンタリティが噛み合ったから、難易度が下がったに過ぎないのだ。
しかし、彼らはそのことには思い至らなかった。
そうこうしていると、ハジメ達がいる通路とは違う位置の魔法陣が光る。
その光が収まると同時に現れたのは、首領パッチ、ユエ、ティオ、ヤギの四人だった。
「ヤギ!?」
「ハァ……ハァ……壮絶な試練だったぜ……」
「ヤギさん。あなたがいなければ私達は死んでいた。感謝する」
「ご主人様に勝るとも劣らぬ虐めっぷり。妾は感服したのじゃ」
「ほっほっほ。皆の頑張りがあったからですよ」
「なぜか凄く持ち上げられるですぅ!?」
「メアリー・スーかな?」
謎に持ち上げられているヤギを気にしつつ、ハジメ達は首領パッチ達と合流する。
そのまま話し合うと、どうやら首領パッチ達もハジメ達と同じく、信仰という名の狂気と名付けるにふさわしい映像を見せられた挙句、怨霊と戦わされたらしい。
「私達が戦った怨霊は、ちょっとの攻撃で服が敗れ、下着や乳首を晒すことで惑わせてくる強敵だった」
「ヤギ殿が人間に欲情する性質だったら、妾達は死んでおったな……!」
「そんなしょっぱいお色気作戦にやられかけてたんですか!?」
シアが軽くキレ掛けている一方、ヤギはハジメに話しかけていた。
「どうかしたのかな、ハジメ君? いつもの君らしくない」
「……実は、エヒトが原因で起きた凶行を見て物凄くムカついてるんですけど、なんかそれだけじゃなく、妙にモヤモヤするというか」
「君は――」
ハジメの言葉を聞いたヤギはスッと目を細め、優しく語り掛けた。
「悲しんでいるんだよ。理由さえあれば人はそこまで凶行を働けるという事実に」
「そう……なんですかね?」
ヤギの言葉に頷きつつもどこか納得のいかないハジメ。それを見たヤギはなぜか嬉しそうに言葉を続ける。
「いや、さっきのは適当だ」
「適当……ですって!?」
「難しく考えなくていいんだよ。君はエヒトに腹を立てている。それだけ把握していれば十分だ。
「……ハッ!?」
ハジメはヤギの話しを聞くことで、自身の気持ちに答えをつける。
「僕は、エヒトをぶっ殺したい。でも生まれて初めての本気の殺意に心が追いつかなったんだ」
「フッ、私はもう用なしだな」
「ならここで消えてもらおうか」
ハジメの言葉を聞いて満足げなヤギに、首領パッチはいきなり火炎放射器を向ける。
そして――
「死ね――――――――――っ!!」
「我が魂はZECTと共にあり!!」
「燃やした―――――――――っ!?」
「明日の朝食は、ジンギスカンで決まりだな!」
「ジンギスカンは羊ですよ!!」
天の助の言葉で朝食が決まったところで、ハジメ達は神代魔法習得の為に魔法陣に乗った。
ここで習得した魔法は“再生魔法„だ。ハルツィナ樹海にあった再生の力そのものである。
魔法の習得が終わると、一人の女性がいきなり現れた。
シアとティオは彼女を見て警戒するが、オルクス大迷宮でオスカー・オルクスが似たようなことをしているのを見たハジメ達がそれを制す。
そのまま映像の彼女はまず解放者の真実を語る。この辺りはハジメ達も今更なので聞き流した。
そして最後に、彼女はメッセージを残す。これは彼女が後世に残したかった言葉だろう。
「どうか神に縋らないで。頼らないで。与えられることに慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて己の足で進んで、あのハジケリストみたいに。どんな難題も答えは貴方の中にしかない。自由な意思の元にこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
そう締めくくり、彼女は淡い光となって姿を消す。
彼女の言葉にトータス育ちの面々は多少感じ入るところがあったが、地球育ちのハジメと天の助は、神憎しのあまり視点が一方的になっているので、もう少し客観性を身につけないと悪いスピーチになってしまうと内心で批評していた。
ちなみに首領パッチは話が長いのでロクに聞いておらず、一人熱唱していた。
「あの日の悲しみさえ! あの日の苦しみさえ! その全てを愛してた、あなたとともに!!」
「なぜに米津玄師?」
首領パッチの歌唱力にシア以外のオーディエンスは大興奮。
しかしそれを遮るが如くいきなりこの空間に海水が流れ込み、ハジメ達は成すすべもなく遺跡の外に流された。
後はこのまま海上まで上がれば迷宮クリア。だがまだ試練は残っている。
ズバアッ
ハジメ達が上へ向かって泳ごうとした瞬間、見覚えのある触手が視界に入った。
そう、巨大クリオネである。
それを見た彼らの反応は
「ハァ……」
「だっりぃ」
「チッ……」
「うざっ」
「今更じゃのう……」
(全員やる気ないですぅ――――――――――!!)
なぜかシア以外全員、気持ちが萎えきっていた。