奥義81 ハジケリストよく死ぬ
ハジメ達がハルツィナ樹海から帰還し、フェアベルゲンで休息をとってから翌日、彼らは年中雪と氷で覆われているシュネー雪原、そこにある最後の大迷宮、氷雪洞窟を目指し飛行船で進行していた。
その間、ハジメが樹海でリューティスに貰った導道の羅針盤を、目的地を地球にして使用してみた。すると――
「だからよ、止まるんじゃねえぞ……」
魔力の消費量があまりに膨大過ぎて、彼は死んでしまった。
どうやら違う世界を目的地に設定すると、魔力の消費量が著しく増大するらしく、今はユエが氷雪洞窟を目的地にして使用しているが、特に死亡する様子は見せない。
「そもそもハジメさんの魔力量が分からないから、今一つ消費量の差もよく分からないんですけど」
「別の世界を目的地にすると消費量は“マジヤババナイト〟って感じだけど、同じ世界なら”吸ってるこれ? ねえ?〟になる」
(結局よく分からないですぅ……)
そんなシアの疑問が晴れない一幕もあったが、そうこうしている間にハジメ達は目的地である氷雪洞窟付近まで到着した。
肝心の洞窟は、シュネー雪原にある亀裂の奥にある為、直接乗り付けることはできないのだ。なので少し離れた所から一旦降り、そこから歩いていく必要がある。
だから早速降りようとする龍太郎だが、ここでティオが待ったをかけた。
「何ですかティオさん?」
「アレを見るのじゃ」
そう言ってティオは窓の外を指差す。その先にある光景は――
カチーン
という擬音が発生しそうなほど見事に凍り付いた、首領パッチの姿だった。
(いつ外に出たのよ……?)
「外はとても寒いからの。迂闊に出ると首領パッチの二の舞じゃ。というわけで――」
ここでティオは言葉を区切り、いつの間にか生き返ったハジメの方を見る。彼はティオの言葉を引き継ぎ、懐からある物を取り出しながら話し始めた。
「ここに昨日天の助に作らせた、寒さを防ぐアーティファクトがあるから、皆持っていくように」
「がんばりまちた」
ハジメの言葉に対して得意げな表情を見せる天の助。彼は昨日の作業風景を思い返していた。
『作れ――っ! 錬成士の力で馬車馬のように寒さを防ぐアーティファクトを作れ――――っ!!』
『ヒィィィィィ、やるべさぁ! やるからどうかおっ母さんだけは……!!』
『それは貴様の仕事次第だな。ゲヘヘヘヘ……!』
「何ですかこの邪悪な回想!?」
シアのツッコミを背に、ハジメは懐からアーティファクトを取り出し、皆に渡していく。
「わぁ……!」
「綺麗ですぅ!」
ハジメが雫とシアに渡したのは雪の結晶をモチーフにしたペンダント型のアーティファクト。水色がかった半透明な石が光を吸い込み瞬くので、とても美しい作りだ。ちなみに渡した当人も同じものを持っている。
「ちなみにオレはぬの結晶型だぜ!!」
「知ってたですぅ」
天の助がハジメ達と同じ材質の石で造られた“ぬ〟型のアーティファクトを見せつけるが、シアは適当に流した。
すると、ユエ、鈴、龍太郎の三人が不満気な表情でハジメを睨みながら、代表として龍太郎が文句をつけてきた。
「あのな、何なんだよこのアーティファクトの形!?」
龍太郎が叫びながらハジメに突き出したものは、鋭い眼光にチョビ髭を生やし、シルクハットを被ったダンディなおじさん、の形をした雪だるまだった。
「いいじゃん別に」
『『『騒がしい坊やだ』』』
「喋んのかよ雪だるま!?」
「なにそれこわい」
まさかの仕様にビビるユエの一方で、ダンディな雪だるま三体は葉巻を取り出して火をつけ、吸い始めた。
だがその灰がこぼれ、自身に掛かったので体はジュワジュワという音と共に少しずつ水に融解していく。
「溶けてる! 溶けてるわよ体!?」
『『『フッ……』』』
「何余裕ぶってるんですかこの雪だるま」
とりあえず雪だるま達の火を消すハジメ達だが、彼らの後ろでは香織が怒りの炎を燃やしていた。
「龍太郎君と鈴ちゃんにユエさんはまだいいじゃん。私のアーティファクトこれなんだけど」
そう言って香織が取り出したのは、ただの石ころに“あーてぃふぁくと〟と書かれたものだった。
「流石に雑すぎない!?」
「この小説の白崎さんの扱いは大体こんなもんだよ。そんなにいい扱いされたいならよそのハジカオ小説のとこに行きなさい!!」
(お母さん!?)
香織の抗議を力業でねじ伏せると、今度は手ぶらのティオが不安げな顔をしてやってくる。
「のう、妾だけ何も貰っておらぬのじゃが……」
「大丈夫大丈夫。今から渡すから」
ハジメはそれだけ言うと、懐から御椀に入った豚汁を取り出し
「オラァ!!」
「あ“ ぁ”つ”ぅ!?」
思いっきりティオの顔面にぶちまけてから、熱さで悶える彼女を見下しつつ説明を始めた。
「この豚汁を顔に掛けると、寒さに強くなるパッシブスキルが一定時間習得扱いになるんだ」
「どういう仕組みですか!?」
「ちなみに首領パッチも同じのを用意してるよ」
「な、成程……流石はご主人様じゃ、こうでなくてはのう♡」
一人悦ぶティオを尻目に、最後にやって来たのは、香織以上の怒りを見せる光輝。
彼の背中には金箔を満遍なく張り付けたランドセルがあり、更に金箔の上には『ゴージャスやろ? ええやろこれ?』と油性マジックで書かれていた。
「なんて不快なランドセル!!」
「いくらなんでもこれはないだろ!? 香織の持ってる方がまだマシだぞ!?」
「そう言うと思って、中にはこんなものを用意しました」
ハジメの言葉に疑いを隠せないものの、とりあえず素直にランドセルの中を検める光輝。
そこで目にしたものは、あるメッセージ。
『別に何もないけど……なんでわざわざ覗き込むの? 気持ち悪っ』
「ウザいなこれ!!」
光輝は迷うことなくランドセルを地面に叩きつけた。
「こんな光輝初めて見るわ……」
彼の様子を見て唖然としている雫を尻目に、ハジメ達は各々アーティファクトを装備し、シュネー雪原に降り立つ。
首領パッチにティオと同じく豚汁を顔面にぶちまけてから、彼らは羅針盤に従い慎重に道を進めようとする――
「わぁ、これが雪ですか! 私初めて見たですぅ!!」
「僕もこんなに積もったのを生で見るのは初めてだね」
「狙うしかないわね……ゲレンデマジック!!」
こともなく、シア、ハジメ、首領パッチの三人は降り積もった雪を見て大はしゃぎだった。
そのまま雪を掬って遊んだり雪合戦をしていたが
ツルッ
「「「あ」」」
三人は足を滑らせ、地面に開いていた亀裂に吸い込まれていった。
「「「ああああああああああああああああああ!!」」」
「落ちた―――――――――――――――――――!?」
「ああ、南雲達ハジケリストはどうでもいいけど、このままじゃシアさんが!!」
「どうでもいい!?」
突然落ちたことに驚く雫と、シアを心配する光輝。あと彼にツッコミを入れる龍太郎。
しかし、そんな三人とは対照的にユエ達はとても落ち着いていた。
「心配しなくても大丈夫。あんまり披露する機会はないけど、シアの身体能力も実は並じゃない」
「と、言うわけじゃ」
そう言ってティオは龍太郎と鈴の首根っこを、ユエは光輝と香織の首根っこをそれぞれ、猫を捕まえたかのように掴み上げる。
そのままティオとユエは、亀裂に向かって歩いていく。
この時、掴まれている四人は察した。二人はこのまま飛び降りるつもりだと。
「嫌! 待って! せめて自分のタイミングで降りさせて! これ結構怖いよ!?」
「へ、変な所*1触らないで! ひゃあん!!」
「大変だねアンタら」
せめて自分の意志で飛び降りたい、と必死に抵抗する鈴と香織だが、そんな二人を天の助はワイン片手に眺めていた。
一方、呑気な天の助を見たユエは懐から、一冊の大きなハードカバーの本を取り出した。彼女はそのままタイトルを読み上げる。
「これは、この前天の助のロッカーで見つけた詩集。タイトルは『天の助恥じらいのポエム集3』だって。これを今から亀裂に投げる」
そう言うと、ユエは手に持った詩集を亀裂に投げ捨て、見事有言実行した。
これを見た天の助の行動は早い。
「オレの人生の汚点――――――――――ッ!!」
天の助は一切の迷いを見せることなく、一直線に詩集を追って亀裂に飛び込んだ。
「なんて迷いのない行動なの……!?」
「それじゃ私達も」
「レッツダイブじゃな」
この言葉の後、彼らは天の助と同じく亀裂に飛び込んだ。なお、雫は自分で飛び込んだ模様。
一方、先に落ちた三人の内
「だからよ、止まるんじゃねえぞ……」
ハジメはいつも通り落下の衝撃で死んでいて
「わが子よ……いつの日か、父の恨みを晴らしてくれ……」
「ピッコロ大魔王!?」
首領パッチは口から巨大な生卵を吐き出しながら死にかけていた。
それでも一分もあれば二人は蘇生し、すぐにでも立ち上がろうとしたのだが
「ああああああああああああああああああ!!」
ここで天の助が詩集片手に、ハジメの真上に落下する。
すると
「だからよ、止まるんじゃねえぞ……」
「リスキルされたですぅ――――――――!?」
ハジメは天の助落下の衝撃を受けて、またも死んでいた。
直後、ユエ達も降りてきたのだが、今度は皆の下敷きにならずに済んだ。
そして数分後、蘇生したハジメを筆頭に、一行は氷雪洞窟を目指して進んでいく。
すると、彼らの前に魔物が五体現れた。
その魔物は、白い体毛に全身が覆われた、体長は三メートル以上あるゴリラによく似ている。
だがそいつらは二足歩行に適した体格だった。ならばゴリラではなくこう称そう。
「……ビックフット」
「ビスケット?」
「ビスケットォ!!」
「違うですぅ」
鈴とハジメのバカ二人にシアがツッコミを入れている間にも、ビックフットの群れは彼らめがけて一直線に向かってくる。
対し、ここで天の助が皆の一歩前に出て、得意げな笑みを浮かべながら群れに向かって宣戦布告をする。
「ふん。てめーらはこのところ天の助がぶちぶちに……」
しかし天の助は台詞を噛んだ。そのことに彼はひどく落ち込んでしまう。
「……噛んだぜ」
「図に乗らないで天シロウ」
「下がっていろ天シロウ」
そこに容赦なく追い打ちをかけるユエと首領パッチを背に、今度はハジメが一歩前に出る。
「さあ、死の恐怖を味わいながら、僕に八つ裂きにされるがいい」
その言葉と共に、ハジメは納豆の紐を伸ばしてから、数多のマス目を作り、奥義を発動した。
「納豆真拳奥義、和風サイコロステーキ納豆和え!!」
「それ和えるものかしら!?」
ハジメの放ったマス目状の納豆の紐は、ワイヤー以上の強度を誇る。その為、成すすべなく突っ込んできたビックフット達は細切れにされた。
ただし、一匹だけは咄嗟に右足で踏み切ってジャンプすることで回避。更にはジャンプ中に空中で三回転半し、最後には左足で着地を決めた。
「トリプルアクセルだと!?」
余りの光景に思わず光輝が叫ぶが、その間にもビックフットは追加して連続で三回トリプルアクセルを決めながら、ハジメの元へ向かう。
そして最後には、もう一度トリプルアクセルを決めながらハジメに回し蹴りを決めた。
回し蹴りを食らった彼は、ビックフットの足にある鋭い爪で切り裂かれながら、同時に蹴りの勢いで近くの壁に轟音を発して叩きつけられた。
「だからよ、止まるんじゃねえぞ……」
「今日ちょっと死にすぎですよ!!」
ハジメは死体となった。そんな彼に、ビックフットは容赦なく追い打ちを仕掛けようとするが、ここでシアがピアニカソードでビックフットの足を受け止める。
そのままシアは力を籠め、ピアニカソードを全力で振るうことでビックフットを空中に浮かせた。
直後、シアは跳躍し一瞬でビックフットの上を取る。
ビックフットは咄嗟に頭を守ろうと腕でガードを固めるが、シアは構わずピアニカソードを振るう。すると、ビックフットの腕がひしゃげ、更にはさっきのハジメと同じような勢いで地面に叩きつけられた。
「はああああああああああ!! ですぅ!!」
最早死にかけのビックフットだが、シアは手を緩めず膝を突き立てながら一直線に落下し、相手の喉仏を叩き潰し、決着はついた。
(((((いや怖っ!?)))))
なお、この戦いを見て光輝達五人はシアに内心でビビり倒したという。
しかしその事実は露見することなく、彼らはビックフットの群れの死体に目もくれず、再び氷雪洞窟を目指すのだった。
「あの、ちょっと待ってくれない……?」
一人死んでいたハジメを置き去りにして。