ビックフットを倒したハジメ達が更に道を進んでいくと、ついに目的地である氷雪洞窟まで到着した。
二等辺三角形の様な綺麗な割れ目が目の前の壁にあり、奥は光が入らないのか外からは見えないものの、ユエが持つ羅針盤は間違いなくそこを指している。
具体的には下で描かれている通りの外見をしていた。
「明らかに違うものが見えますけど!?」
「ラノベならよくあること」
「女キャラの胸の大きさが地の文と挿絵で変わっておったり、特に描写もないのにイラストでは凄いデザインの制服を着ておったりするからのう」
「そういう問題じゃないですぅ!?」
ユエとティオのこの場に合っているのか、そうでないのかよく分からない言葉にシアがツッコミを入れていると、教会から神父の恰好をした首領パッチが現れる。
(とうとう教会って言っちゃいましたよ……洞窟は?)
「「「わぁ~神父様だ~!!」」」
すると、いつの間にか子供の恰好をしたハジメ、天の助、鈴の三人が首領パッチに向かって走っていく。
そんな三人に対し、首領パッチは懐からちりめんじゃこを手に取りつつこう言った。
「さあ皆の者よ。今日もアーホレホレ神に祈るのじゃぞ」
(アーホレホレ神って何よ!?)
首領パッチはそう言うと、アーホレホレ神ことちりめんじゃこを辺り一面にばら撒き始め、天の助と鈴もそれに続く。しかし――
「怪しい宗教!!」
「ごはぁ!?」
ハジメは首領パッチを殴り飛ばした。同時に、さっきまでそこにあった教会も消え、洞窟が姿を取り戻す。
そのままハジメは首領パッチを引きずりつつ、皆を引き連れて氷雪洞窟の中へ入っていった。
氷雪洞窟の中は、さながらミラーハウスだ。
通路は十人が横に並んで歩けるほどの広さにも関わらず、壁が鏡のように反射する氷でできているため、人影が実際よりも多く感じるせいで狭く思える、不思議な迷宮だった。
鏡張りの壁を見ながら、ふと光輝が呟く。
「この壁、こっちからは鏡にしか見えないけど、向こうからは普通に見えているかもしれないぞ」
「な、成程。ありえるな」
光輝の何気ない呟きに龍太郎が頷き、横でティオも賛同し始めた。
「うむ。クリスター神殿しかり月鏡の塔しかり、ダンジョンの鏡には仕掛けが付き物じゃな」
うんうんと頷くティオだが、当の光輝と龍太郎は彼女が何を言っているのか分からず、ただ頭を捻るばかり。
「こ、これがジェネレーションギャップ……! 今時の子はマ〇オストーリーもド〇クエ6も知らぬのか……!!」
例えが伝わっていないと察し、地面に手をついて落ち込むティオだったが、すぐに立ち上がると、ニタリと嫌な笑みを浮かべながら、光輝を肘で突きつつ絡み始めた。
「ん? ではぬしらはどこでそんな発想を得たのかのう? 妾、気になるのう!」
「うわっ! 急に鬱陶しくなったぞティオさん!?」
「流石
明らかに分かってて嫌な絡み方を始めるティオを、心底鬱陶しがる光輝達。
「「「……?」」」
そんな中、雫、香織、鈴の女性陣三人は本気で意味が分からず、ただ首をかしげていた。
一方、この話に加わっていなかったハジメ達はというと。
「丘サーファーだ! 丘サーファーのお通りだ!!」
拍子木*1を鳴らしながら、ハジメが先頭に立って進み、後ろにはアロハシャツを着てサングラスを掛けつつ、右手にはサーフボードを抱えて進むユエと天の助の姿があった。
天の助は格好つけてサングラスを外しながら、キメ顔でこう言う。
「波がオレを呼んでるぜ」
「いや、丘サーファーですよね?」
なぜかキメ顔の天の助に対し、呆れた顔で冷たくツッコミを入れるシア。
その後ろでは、首領パッチがクーラーボックスと釣り竿を持ちながら、天の助と同じようなキメ顔でこう言った。
「鮎がオレを呼んでるぜ」
「渓流釣り!?」
最早丘サーファーが関係なくなっていく状況に、シアがツッコミを超えて困惑し始めると、そこにユエがそっと彼女の肩を叩いて語り掛ける。
「許して。推しのボカロPが、七年ぶりに新作を投稿してテンション上がってる」
「それと丘サーファーに何の関係が……?」
「作者が」
「じゃあハジメさん達関係もないですよね!?」
そんな一幕もあったものの、ハジメ達は氷雪洞窟を進んでいった。
中は迷宮だけあって流石に複雑なものの、羅針盤のおかげで迷うことはなかった。
すると、道中で死体を見つけた。
それも一体や二体ではない。人間だけでなく魔人族も合わせておよそ数十体。共通点といえば、寒さで気絶したまま死んだのか傷一つなく、座り込んだ状態であることだ。
その点に一抹の不安を覚えるも、死体蹴りは気が引けたので、ハジメ達は死体に対し特に何をすることもなく進んでいく。
しばらくすると、彼らは十字路にたどり着いた。そこで次の道を調べようとすると、シアが敵の気配に感づいた。
「皆さん! 四方から敵が沢山来ます!!」
「なん……だと……!?」
シアの言葉通り、敵は十字路全ての道からやって来た。その姿はハジメ達が道中で見た死体であり、彼らはまるでゾンビの様に進軍する。
「Cause this is thriller,thriller night」
「マイケル・ジャクソン!?」
そう、スリラーを歌いながら。これには雫も驚愕した。
しかし首領パッチは慌てない。ユエに目的地の方向を聞き、その方面の通路にたむろするゾンビの群れに対し、ウェットティッシュを一枚一枚丁寧に取り出し投げつけた。
「オラァ! これで顔拭けぇ!! 長い間風呂入ってねえから汚いだろうが!!」
「そんなに気になるかしら!?」
そう、首領パッチは不潔なゾンビが気になって仕方なかったのだ。
しかし、ウェットティッシュは現在地の低温により凍り付き、切れ味を持った手裏剣と化してゾンビ達を切り裂いた。
「思った以上に凶器ね!!」
切り裂かれ一度は地面に崩れ落ちるゾンビの群れ。だがすぐに肉塊がうぞうぞと動き、元の形を取り戻して再びハジメ達に襲い掛かって来る。
「再生能力持ち……!?」
「ゾンビ達は、自分は汚れてないから拭きたくないって、そう言いたいのかよ……!!」
「絶対違いますよ」
首領パッチの言葉を冷たく切り捨てるシア。その間にもゾンビの群れは少しずつハジメ達に向かってくる。
ここで香織がハジメに声をかける。
「南雲君、何とかできないの!?」
「流石白崎さん、必死に出番を勝ち取って来るね。まあいいや、お任せアド〇ーヌ」
(ア〇レーヌって何?)
香織の内心で抱いた疑問を尻目に、ハジメは奥義を発動した。
「納豆真拳奥義、納豆女神慈愛の抱擁!!」
すると、ハジメの背後に薄いローブを纏い、錫杖を携え後光を放つ茶髪のセミロングの美女が現れ、納豆が盛られた手でゾンビの群れを固めていく。
「この光景のどこに慈悲と抱擁があるんですか!?」
「バラバラにしてないから……」
シアの正論にハジメは反論するも、彼の言葉は酷く心細い。
ともあれ、納豆女神のおかげでゾンビは固まり動きが止まったので、ハジメ達は羅針盤が指す目的地へと一直線に進み、到着した。
そこは東京ドームに匹敵するほど巨大なドーム状の空間で、彼らが今いる場所と反対側にある壁面には、蠢く赤黒い拳大の魔石に『これを壊すとゾンビ死ぬよ』と書かれた紙が貼りつけられていた。
「分かりやすっ!?」
「じゃあ早速」
ドパンドパンドパン
雫のツッコミを背に、ユエが魔石に向かって発砲するも、魔石を守るように氷の壁が隆起し、銃弾を防ぐ。
その後、魔石は細い足を生やし、煽るように壁面を華麗に動き回った。
「防いだ!?」
「おまけにこいつ……動くぞ!? デザインキモっ!?」
「ふむ……」
銃弾を防がれたことにユエが、魔石が動くことに天の助が驚く一方、ティオは顎に右手をやり思考する。
「つまり、あの魔石の意思で壁を自在に操れる上に、魔石自体もキモイデザインで動き回るということじゃな」
「めんどくせぇ」
ティオの分析にげんなりする首領パッチだが、魔石も容赦はしない。辺り一帯を操り、己を守る番人を作り出す。
まずは大鷲を天井から次々と作り出し、今度は壁から狼を数匹、同様に作り出す。
そして最後に、辺りに轟音を響かせながら周りの地形を変えつつ、魔石が自身を体内に取り込ませながら、二十メートルを超える巨大な亀を作り出した。
その光景を見たハジメが思わず呟く。
「とりあえず、鷲のことはフロストイーグル。狼はフロストウルフ、亀はフロストタートルと呼称するのはどうだろう?」
「どうでもいいわよ!!」
雫が思わず叫ぶが、その間に後ろから追ってきていたゾンビの群れがハジメ達に追いつき始める。
これにより、彼らは氷で作られたモンスターとゾンビの集団に襲われながら、掻い潜りつつ魔石を壊さねばならない状況に突入した。
すると、ここで光輝が提案を出す。
「ならここは二手に分かれよう。一方が雑魚を引き付けて、もう片方があの亀を倒すんだ」
「それは良い案だね。じゃあ分担はこんな感じで」
光輝の提案に賛同したハジメは、素早く分担表を取り出した。
| 亀を倒す | 囮をする |
| ・僕 ・首領パッチ ・ユエ ・シア ・ティオ ・天之河君 ・坂上君 ・八重樫さん ・白崎さん ・谷口 | ・天の助 |
「いやおかしいだろ!? 何でオレだけが囮なんだよ!?」
「あと地味に鈴だけ呼び捨てなのが気になるんだけど」
「取り巻きは無視して最大火力を叩き込むのがボス戦のベストだから……」
天の助に詰め寄られたハジメが弁明するが、流石にこれはない、と大半の面子が言い始めたので、今度はユエが分担を決めることになった。
| 亀を倒す | 囮をする |
| ・ハジメ ・首領パッチ ・シア ・雫 ・龍太郎 | ・私 ・天の助 ・ティオ ・天之河 ・香織 ・鈴 |
「私はこれで。異論があるなら足を洗って」
「何からですか!?」
シアのツッコミはともかく、内容には誰も異論を挟まなかったので、この分担でいくことになった。
「嫌だ! オレは囮役嫌だ! 華麗に活躍するボス相手の方が――」
「黙って」
異論は誰も挟まなかった(強弁)
「それじゃあ次回に続くよっ!」
「久々のラスト台詞の取り合いを制するのは、私!」