前回までのあらすじ
るしあガチ恋勢の山下に哀しき過去……
シア「山下さんのことはもういいんですよ!!」
ユエ「異常V愛者」
ハジメ「貴様――ッ! 山下さんを愚弄する気かぁっ!!」
首領パッチ「ダーク・山下はVへの恋心をコントロールできない……」
ユエの突然の凶行にハジメ達四人は驚くことができたが、この場にいる大半は反応すらできなかった。
殴り飛ばされ地面を転がる魔王。
それと同時に彼がかけていた魔法が解除されたのか、動かなくなっていた筈の神の使徒や死んでいた筈のフリードが再び起動する。否、正しくは最初から何もなかったように平然としていた。
しかし彼らの間に漂うのは、予想外な光景に戸惑うある種異様とも言える静寂。
そんな中、魔王の傍からか細い声が響いた。
「くっ……すまねえ、ドジっちまった……!」
「「「アリさ―――――――ん!!」」」
「アリ!?」
自らを悔やむような声をあげるのは、一匹の小さなアリ。
そう、魔王が転がった衝撃で、アリが死にかけていた。
彼はハジメに向けて遺言を残そうとする。
「そこのお前、俺を見たな? これでお前とも縁が――」
「えいっ」
ブチッとアリを叩き潰してハジメは言う。
「悪縁は断ち切るに限る」
「「アリさ―――――――ん!?」」
「殺したですぅ!? 悪縁扱い!?」
アリの突然の死に泣き叫ぶ首領パッチと天の助。
それを無視して、龍太郎は戸惑いながら目の前の光景に対して疑問を呟く。
「な、何でユエさんが叔父さんを殴り飛ばすんだ……? 光輝なら分かるか?」
「ああ、あの人の発言はおかしい」
竜太郎の疑問に対し、光輝は感じていた疑問点を口にし始めた。
「まず、ユエさんを封印していた件についてだけど、三百年も放っておくのは流石に変だ。どこかで開放することもできただろうし、それが無理でも様子を見に来るくらいはしてもいいはずだ」
「それだけじゃないわ」
光輝の言葉に今度は雫が続く。
それにショックを受けるのは香織だ。
「え? 雫ちゃんも分かってるの? ひょっとして何がおかしいのか分かってないの、私と龍太郎君だけ?」
「大丈夫! 鈴も分かってないから!!」
「それ誇らしげに言うことじゃなくない?」
オロオロしながら周りの人を見回す香織に対し、とりあえずフォローをする鈴。
そんな彼女に対し、横で見ていた恵理が冷たくツッコミを入れた。
「首領パッチさん達もそうだよね!?」
しかし鈴は、ここで首領パッチ達を例に出し、縋るような目で見つめる。
その視線に対し首領パッチと天の助は、ドヤ顔で宣言した
「分かってるに決まってるぜ」
「つまりこういうことだろ?」
『スギ死ねぇ! スギ花粉死ねぇ!!』
二人のイメージ像は、クリントンがブルドーザーで杉の木を一本一本斬り倒していく姿だった。
「明らかに微塵も関係ないですぅ!!」
「アメリカにスギ花粉は無くない?」
シアとハジメの無慈悲なツッコミでバカ二人が凹む中、雫はこれら一切を無視して話し始めた。
「……戦力を集めていたって言うなら、七大迷宮の解放者の話が出ないのはおかしいわ。彼らこそ真っ先に思いつく戦力でしょうに」
「……ん。後は、私に対する封印措置。どう考えてもあれは、叔父様自身が死んだとしても決して見つからないようにしていた。秘匿が完全すぎる」
「うむ。それに他にも粗を探そうと思えばいくらでも出てくるのう」
雫の言葉にユエとティオが追従するが、ここでハジメがツッコミを入れる。
「いや、ティオは何も言ってないじゃん。なに自分も分かってましたみたいな態度してるのさ」
「気づいておったし~。皆に先言われただけじゃし~!」
「ウザっ……!」
「ククク……ハーハッハッハッハ!!」
ティオが体育座りで落ち込み始めるのを見て、思わずウザがるハジメだったが、一体どうしたことか、この状況で魔王は唐突に高笑いを始めた。
それを見てユエは怪訝な面持ちを隠せないものの、それでも目の前の叔父に向けて指を突きつけつつ問い詰める。
「……あなたは何者? キャラデザもCVも叔父様だけど、あなたは叔父様じゃない」
「もう少し言い方ないの?」
ユエのあんまりに発言に雫が緩くツッコみを入れる中、魔王は高笑いを止め、フゥと一息吐くと、得意気に語り始めた。
「私は君の言う叔父様だとも。ただし、体だけだがな」
「体だけ……? まさか、憑依?」
「え、また必須タグ追加するの? もう最終章なのに!?」
「それはしなくてもいいんじゃないですかね?」
嗤う魔王に対し、鋭い眼つきで睨みつけるユエ。
一方、ハジメはあらぬ危惧をし、シアはそんな彼に軽く呆れていたが、魔王はガン無視で話を続けた。
「憑依? 有効活用と言って欲しいものだ。せっかくエヒト神様唯一の眷属神であるこの私、アルヴが死んだ肉体を使ってやっているのだぞ? もっとも、貴様の事はこの体を使う直前に記憶から消されていたがな。全く、アレーティアが生きていると知っていれば、なんとしても確保したものの」
「お前が叔父様を殺したの?」
魔王、もといアルヴの挑発的な態度に対し、ユエは殺気を高めて睨みつけ、手元に蒼炎の魔法を発動して止まらせる。
これは“神罰之焔„だ。炎の最上級魔法”蒼天„を重力魔法によって圧縮させ、魂魄魔法により選択した対象のみを焼き尽くすものになっている。その気になれば超広範囲の殲滅にも使えるのだが、今はアルヴのみを対象に定めている。
それを見てもなお、アルヴは余裕の笑みでこう答えた。
「だったらどうする?」
「……殺す!!」
最早迷いはない、とばかりに“神罰之焔„をアルヴに向けて放つユエ。
しかしここで、空に浮かんでいた神の使徒一体が盾となり、蒼炎を受け止めた。“神罰之焔„は対象以外を焼き尽くさないので、使徒は無事だ。
同時に、他の使徒もハジメ達やユエに光のビームを放ってきた。
「使徒達を止めて来い天の助!!」
「正直知ってた――――――――――!!」
ハジメは咄嗟に天の助を空に打ち上げることで、ヘイトの四割を向けることに成功。
「ぎゃああああああああああああ!!」
ダメージを受ける天の助の悲鳴が響く中、残り六割は天の助以外に向けて攻撃する。
「……っ! “聖絶„!!」
「“嵐空„じゃ!!」
神の使徒達の一斉攻撃を、鈴とティオはそれぞれの防御魔法でかろうじて防いだ。
一方、ハジメと首領パッチはこの隙に使徒達に攻撃を仕掛ける。
「納豆真拳奥義、スイカタネマシンガン!!」
「何そのしょっぱい奥義!?」
まずはハジメがスイカを食べて、その種を使徒たちに向けて放つ。
続いて首領パッチが
「レベルアップ! を発動!! これでスイカLV8を特殊召喚!!」
「あのスイカの種レベルモンスターなんですか!?」
首領パッチの魔法を受けた数十個ものスイカの種から芽が出て、その芽がすくすくと育ち、やがて三メートル程の大きさの実を成す。
その実は大きさに見合った人間の手足があり、実を半分に割るのではと思わせるほどの大きな口を持ち、口の中にはどんな硬いものでも噛み砕けそうな鋭い牙が生えていた。
このスイカの名前は、アルティメット・ダークネスイカ!!
それが、百を超える数実っている。
「何か凄いのになったですぅ―――――――――!?」
そしてアルティメット・ダークネスイカの群れは、一斉に生えている蔓を使徒達に巻き付け動きを封じたかと思うと、そのまま大きく口を広げ、使徒を飲み込む。
スイカの中からゴシャッ、という硬いものを嚙み砕いた音が聞こえたかと思うと、口から赤い液体がしたたり落ちていった。
「何よこの光景!?」
「やたらグロいですぅ!?」
雫とシアがこの状況にドン引きしているが、この間にも状況は刻一刻と変貌していた。
突如、半透明な光の柱がユエ目掛けて落下し、彼女を中に閉じ込めたのだ。
彼女は何とか脱出しようともがくも、動きが制限されているのか碌に動けず、少しずつ彼女の体が浮かび上がり、やがて三メートルほどの高さで止まった。
「ユエを放せ!!」
「あの光の先にあるロシアンパスタ専門店はアタシが行くのよ――――――!!」
「ロシアンパスタ専門店!?」
ユエを解放すべくハジメと首領パッチが光の柱に向けて駆けていくが、それを見たアルヴが指をパチンと鳴らす。
すると、どこからともなく大量の魔物と使徒に、魔人族と人間族の兵士が現れた。ただし、人間族は一人残らず虚ろな目をしている。恵理の魔法で操られているのだ。
「道を開けろ雑魚ども! 納豆真拳奥義、しまむらエデン動物園!!」
「何一つワードがつながってないわよ!?」
ハジメが奥義を発動すると、どこからともなくカバやライオンなど、様々な動物が召喚された。
ただしどの動物も例外なく、目が虚ろでやる気に欠けており、襲い来る敵にも雑に対処するのみだ。
「エサじゃエサじゃ!! 喰らって喰らって喰らい尽くせ!!」
首領パッチはそんな動物達に大量のビーフストロガノフを振る舞うが、彼らはそれを足蹴にし、代表してトラが冷たくこう言い放つ。
「首領パッチさん……あっしらが欲しいのは肉じゃなくて、金なんですよ……! だから出してくださいよ、現金……!!」
「そ、そんなの無理だよぉ……ボクは動物園が与えるものしか渡せないよぅ……」
「じゃあ園長出せよ! あんたみたいな下っ端じゃなくてよぉ!!」
「何この上下関係!?」
「ホッホッホ。ワシを呼んだかね?」
トラに凄まれオドオドする首領パッチの元に、園長である天の助が全身金色のスーツを着て、札束を扇代わりに仰ぎながら現れた。
(園長とんだ成金ね!?)
「え、園長……!」
首領パッチは現れた天の助を見て、オドオドしながら足を掴んだかと思うと
「あんまり舐めた態度取るんじゃねえ―――――――――!!」
「「ぎゃあああああああああああ!!」」
即座にトラに向けて天の助を投げつけた。
そのまま首領パッチはムチを取り出し、天の助と動物達を同時に叩く。
「オレがこの動物園の頂点なんだよ! テメエらカス共はオレに跪くだけが生きる術なんだよ!!」
「すいません首領パッチさん――――――!!」
「どうかお慈悲を我らに――――――――!!」
「この動物園誰も彼もまともじゃないわね!?」
動物達が敵と戦っているのかどうかよく分からない光景を繰り広げつつも、ハジメは光の柱の袂にたどり着く。
「オイコラ、居るのは分かってるんだぞ! 出て来い!! 耳揃えて返せ!!」
「何をですか!?」
懸命に柱を壊そうと何度も攻撃するハジメだが、一向に柱は壊れない。
そうこうしていると、中にいるユエが息も絶え絶えに、辛うじてハジメに向けて言葉を投げた。
「……今出られないから、不在通知表入れといて……!」
「宅急便じゃないんですよ!!」
ユエの言葉を無視して柱を攻撃するハジメだが、どういうわけか徐々に柱が壊れていく。
ピキ ピキピキ
彼はそのまま柱を殴り砕くと、中に腕を突っ込みそのままユエを引きずり出した。
「ハハハ……ざまあないね」
疲弊しながらも不敵な笑みを浮かべるハジメだが、助け出されたユエはさっきまでとは打って変わって、何の感情も見えない能面のような顔をしていた。
「ユエ?」
突如変貌したユエを怪しむハジメだが、ここで横から悲鳴が聞こえた。
「てめえの時代は終わりだぜ園長」
「これからあっしらと首領パッチさんの時代だ!!」
「覚えてろ貴様ら―――――――――!!」
動物達と首領パッチにやられた天の助がハジメに向かって飛んでくる。
「何でもいいから雇ってくれハジメ!」
「ぐばぁ!!」
そのまま天の助はハジメにぶつかり、彼は成すすべもなく地面に倒れ伏した。
ビュン
しかしハジメが倒れたと同時に、何かが空を斬る音が響いた。
皆が音の出どころを見ると、そこには右手で手刀を振るった跡があるユエの姿が。
手の位置を見れば、ハジメの首を狩るつもりなのは明白だ。
「ふむ、外したか」
「……お前、ユエじゃないな? 誰だ!?」
感心したような態度のユエに向かってハジメは問い詰める。
「誰だ? か」
そんな彼に向けて、ユエの形をしたナニカは凄絶な顔で嗤う。
それはこの世の全てを見下すような、あるいはこの世の全てを憎んでいるような、どちらともつかぬ異形の笑みだった。
そして笑みの主は名乗った。
「我が名はエヒト。このトータスの、神だ」
憑依タグはいれません(鋼の意思)