前回までのあらすじ
ユエ(?)「我が名は尊鷹」
ハジメ「なにっ」
大体こんな感じだった。
シア「知らない人が憑依してるんですけど!?」
ユエの口から飛び出たエヒトの名前。
神の使徒達が歓喜の表情を一斉に浮かべる中、ハジメ達は半信半疑になってしまう。
しかし、首領パッチと天の助の二人は彼女の言葉を真実だと確信していた。
「ウ、ウソだろ……」
「ユエの奴が乗っ取られるなんて……!」
「そ、そんな……ユエさんがハジメさんを殺しにかかるなんて、いつものことじゃないですか! まだ乗っ取られているって決まった訳じゃ――」
「見ろ」
エヒトが憑依したことが信じられないシアが二人に叫ぶが、首領パッチは彼女の言葉を静止して、震える手でユエの背後を指差す。
そこには、いつの間にか彼女に背負われたのぼり旗があり、こう書かれていた。
『私の体に今、エヒトが
「滅茶苦茶アピールしてるですぅ!! あれユエさんの意識残ってますよね!?」
『だからはよ倒して。はよ』
「旗で会話しないでもらえます!?」
「何だこれは!?」
シアのツッコミが響く中、背中の旗に気付いたエヒトはすぐさま取り出し、そのまま勢いよくへし折る。
この光景を目にしたハジメの決断は早かった。
「しめた。エヒトはまだユエを乗っ取りきれてない! 今なら間に合うかも! 納豆真拳奥義――」
ハジメは今の状況を好機と捉え、即座に飛び掛かる。
しかしエヒトはそう簡単な相手ではなかった。
「エヒトの名において命ずる――“動くな”」
「っ!? へぶっ!!」
エヒトが一言呟くと、ハジメの体はまるで凍り付いたかのように動かなくなった。そのせいで地面に落ちて間抜けな悲鳴をあげるが、誰もそんなことに注視しない。
気づけば彼は、バスローブを纏い玉座に腰掛け、並々たっぷりとグレープジュースが入ったワイングラスを右手で掲げていた。
「う……動けんッ! ばかなッ!?」
「いやそれよりも大分偉そうに固まってるわね!?」
「だけどこの状態でも攻撃はできる!」
するとハジメの座っている玉座からジェットエンジンが生え、勢いよく噴射され、エヒトへ向かって一直線に突っ込んでいく。
「奥義、玉座ジェットアタック!!」
「何ですかその攻撃!?」
スッ
なお、ハジメの突撃はあまりにも一直線過ぎたので、エヒトが少し体を移動させるだけで、あっさりと回避される。
「ほう、我の“神言„の影響下でありながらそれほどに動けるか。大したものだ」
「神言……?」
「武田……?」
「首領パッチさん、それ信玄ですぅ」
だがエヒトが見せる表情は感心したような笑みだ。対し、ハジメと首領パッチは訝し気にエヒトを見つめる。
事実、エヒトは自分の魔法を破ったハジメに対し感心していた。
ならばとばかりに、エヒトはユエの体を使って次の手を打つ。
「さあ、これはどうする? 貴様の仲間の魔法だぞ」
そう言って右手を掲げたエヒトが繰り出したのは、火、雷、氷、風、土で作られた五体の龍。
これぞユエの魔法の一つ“五天龍„。五つの属性魔法に重力魔法を組み合わせ、五体の龍を生み出して攻撃を繰り出す魔法である。
「ここは妾と」
「オレに任せろ!」
ティオと天の助が叫ぶ。
まず天の助が天高く跳び上がる。次にティオが竜の姿を取り、いつの間にか甲冑を身に纏った天の助が上に乗ったかと思うと、二人は声高々に宣言した。
「「降臨!
「融合モンスターみたいなの出てきたですぅ!? ステータス両方ともぬ!?」
“ユエの
「いや相手
シアのツッコミを受けて大口を開けて唖然とする天の助とティオ。
「“五天龍„」
「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」
「当然の結果が待っていた――――――!!」
そんな彼らはエヒトに成すすべなくやられた。
そしてそのままハジメ達に向けて無慈悲に告げる。
「エヒトの名において命ずる――“跪け„」
この言葉を発したと同時に、ハジメはもとより首領パッチ達や、エヒトが現れてからロクに出番がない光輝達までが動きを止められてしまう。
「これは……さっきのハジメと同じ!?」
「それだけではないぞ」
天の助の叫びにエヒトが一言零すと、ハジメ達は動きを止められた時の体勢から、徐々に跪いていく。
光輝達とシアは左膝を地面に付け、右膝を立てて首を垂れる。その様はまさしく、王に跪く騎士。
彼らからすれば、尊厳を破壊されつくしているに等しかった。
「ふんぬうううううううううう!!」
「くそっ! 動け、動け俺の体!!」
「今動かなきゃ、ドラえもんが安心して綾波を助けられないじゃん!!」
「ドラえもんが!? 綾波!?」
体が動かない絶望から思わず叫ぶシアに、後に続く光輝と鈴。声こそ出していないものの、香織と龍太郎も同じ表情をしていた。なお、雫は鈴の発言に驚いてツッコミに回っていた。
一方、ハジメ達はこうなっていた。
「「お召し上がりください」」
まず、ティオは天の助を皿に盛った状態で土下座。
「完膚なきまでに屈服しているわね!?」
首領パッチは三点倒立。
「何で!?」
最後にハジメは、ゴテゴテとした黄金色の豪奢な服を着た状態で、白馬に乗っていた。
「麻呂を見下すことは許さないざんす」
「さっきより偉くなってない!?」
不遜なものを見下す権力者のような瞳でエヒトを睨むハジメ。
彼はただ睨み続ける。そう、睨むだけ。
だって、彼は動けないから。
(役に立たない!! 私が言えたことじゃないけど)
「ふむ、中々楽しめるかと思ったがこんなものか。せめてもの慈悲だ、我の手にかかることを幸運に思いながらあの世に行くがよい」
エヒトの宣告と同時に、彼の天に掲げた右手の人差し指の上には、極大な炎が燃え上がっている。
それをハジメ達に振り下ろせば最後、彼らの命は終わるだろう。
しかしそうはならない。なぜならば――
「おーふーざーけーは―」
「こ、この声は……!?」
我々はこの声を知っている。この台詞を知っている。
そう、彼女の名は――
「何か、地の文のテンションがおかしいですぅ」
「よくあるじゃろ」
魚雷ガールだ!!
「許さない!!」
『ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!』
そして彼女は飛んできた勢いでエヒトのみならず、ハジメ達十人を吹き飛ばした。
「ぐ、うぅ……」
魚雷ガールに吹き飛ばされ、体から血を流し、フラフラになりながらも立ち上がるエヒト。
だが今の彼の顔には動揺しか浮かんでいなかった。
「馬鹿な……! 今の我がこれほどの傷を……!? やはりまだ我の魂が体に馴染んでいないというのか……?」
動揺しながらも自身を分析するエヒト。
そう、彼は未だユエの体に馴染んではいなかった。
もしも憑依される側がエヒトに対し心を惜しみなく開く狂信者ならば、既に体は彼の物だろう。
しかしユエは信者どころか、神に抗うハジメの仲間。すなわち反逆者である。
時間を掛ければ話は変わるが、少なくとも現状では自在に扱えるわけでは無いのだ。
『そゆこと♡』
その証拠に、ユエの意識が表示されるのぼり旗が、エヒトの言葉を真実だと肯定する。
バキッ
それはそれとして、エヒトは旗をへし折り、続けて右手を上にあげる。その動作だけで、今度は光が下から上へと一直線に発生した。
「信じられん、と言いたいがやはりハジケリスト相手ではこうなるか。ならば、ここは退かせてもらおう。フリード、恵理も来るがいい。お前達の願いを叶えるなら、ここが正念場だぞ」
「……はっ!」
「はいは~い。じゃあね皆、一緒にいた時間は嫌いじゃなかったよ」
言葉こそ退く、と言っているもののその実余裕でいなくなろうとするエヒトに、フリードは顔を歪ませながら、恵理は軽薄な笑みを浮かべ、光輝達に別れの言葉をかけながら後ろに続く。
魚雷ガールは撤退を阻止すべく突撃を仕掛けようとするものの、無数の神の使徒が鼻メガネやハリセン、パーティーグッズなどで武装することでエヒトのデコイとなって、攻撃から庇い続けていた。
そしてハジメ達はまだ動けなかった。魚雷ガールに吹き飛ばされたが、体勢が変わっただけで、動けるようになったわけでは無い。だがそれでも、ハジメはエヒトを引き留めるために声を出す。
「逃げるな卑怯者! 逃げるなァ!」
エヒトの背を睨みながら叫ぶハジメ。すると、彼の体が徐々にだが立ち上がり始めた。そう、“神言„に抗っているのだ。
しかしそれも、エヒトの次の言葉で止まる。
「エヒト
「ぐぅ……!?」
さっきとは違う名前による神言。だがさっきよりも強力にハジメを縛る。
「エヒト……お前!!」
「三日だ」
怒りと憎悪を滾らせて吠えるハジメに対し、エヒトはどうでもいいかのように冷たく言い捨てた。
「三日あれば、いくらハジケリストのこの器でも完全に我の物にできる。その後、このトータスを滅ぼすとしよう。それまでは、ここにいる神の使徒やアルヴとでも遊んでいればいい」
「なっ!?」
エヒトの言葉に驚愕するのはなんとアルヴ。彼は、自分もエヒトと共に戻るとばかり思っていたのだ。
「命令だアルヴヘイト。そこにいるハジケリスト共を始末しろ。やり方は任せる」
「かしこまりました。偉大なるエヒト様」
だがその驚愕も、エヒトに一言命じられればすぐに消え、代わりにハジメ達への殺意へと変換されてしまった。
「ユエエエエエエエエエエエ!!」
「ではなイレギュラー。また会うその日まで、精々足掻くがいい」
この言葉を最後にエヒトは去り、フリードと恵理もまた続く。残るのはアルヴと神の使徒の大群。そしてエヒト達が通った光の柱。
同時に、ハジメ達もかかっていた神言が解け、動けるようになる。
「待て! エヒトオオオオオオオオ!!」
「ハルトオオオオオオオオオオオオ!!」
「唐突に叫び出す兄さんは嫌いじゃ……」
即座に光の柱へと駆け出すハジメ。別に何もしないけどなぜか叫ぶ首領パッチ。
「納豆真拳超奥義、
「粘り!?」
納豆の粘り気を右手に纏って殴りかかるハジメ。しかし光の柱には傷一つつかない。
それでも彼は諦めず攻撃を続けようとするが、そこにインターセプトが入った。
「ベビー真拳奥義、おやすみマミィ!!」
「がはぁ!?」
空からいきなり赤ちゃん用のフード付きカバーオールを纏い、右手の指の間にガラガラをそれぞれ挟む、二メートル近くある金髪の男が降ってきて、ハジメを攻撃した。
「何者じゃ!?」
「あ、あいつは……!!」
突如現れた襲撃者にティオが問いかける一方、首領パッチは知っているのか声を震わせる。
「ほう、そこにいるのは確かボーボボ一味の首領パッチでちゅか。とはいえ知らない顔の方が多いから名乗ってやるでちゅ」
「くっ……!!」
「くっ……!!」
「八十一」
目の前の男から吹き上がる圧倒的な威圧感に思わず怯んでしまう龍太郎と雫。
その光景を見た男は満足気な笑みを浮かべながら、大いに名乗った。
「ボクの名前はバブウ。元ネオマルハーゲ三大王の一人でちゅ」
「ネオマルハーゲ三大王って、柊や
バブウの言葉に思わず自分が知っている名前を零してしまう天の助。すると、バブウは天の助をギロリと睨みつけた。
バブウは昔、ネオマルハーゲ内部の内輪もめの結果、柊の手の者に襲われ敗れた過去がある。だからその名を聞くのは非常に不愉快だった。
しかし、そんな事情を知るものは誰もいない。故に勘定もしない。
「それで、その元三大王が僕らに何の用さ」
「何、アルヴの手伝いをしてやろうと思っただけでちゅ」
「貴様の手助けなど借りぬ!!」
バブウの発言に食って掛かるアルヴ。エヒトに命じられた事柄を、他の誰かに譲るつもりなど彼には毛頭なかった。
しかし、それにバブウは理路整然と諭す。
「落ち着くでちゅ。相手がハジケリストと真拳使いなら、この人数差だとお前でも不覚を取るかもしれないでちゅ。そこで3狩リアでちゅ」
「……確かに、エヒト様が警戒する程の存在。私如きが見くびっていいものではないか。しかし三人目はどうする?」
「でしたら僭越ながら、私にお任せ願えないでしょうか」
バブウの提案を受け入れると共に頭を捻るアルヴ。そんな彼に対し、下手に話に入ってきたのは神の使徒となったイシュタルであった。
「――イシュタルか」
「はい。実の所、偉大なるエヒト様に呼び出されるという名誉を賜っておきながら、かの方の考えを乱し続ける存在をこの手で罰したかったのでございます。ですのでどうか、私を3狩リアの面子に加えていただけないでしょうか」
「ふん、まあ仮にも神の使徒の体を持つならば、頭数くらいにはなるか。いいだろう」
「ありがたき幸せ……!!」
アルヴに自らの提案を受け入れてもらい、恍惚とするイシュタル。
一方、話が3狩リアになったと理解したハジメは、即座にメンバーを選出した。
「3狩リアするって言うのなら、まずは僕。次に首領パッチかな」
「オレか?」
名前を呼ばれ反応する首領パッチ。しかしすぐに大きく口を開け、中に大量のフライドポテトを流し込む。これは『任せろ』という意味の動きだ。
「何ですかそのジェスチャー!?」
「そして最後は魚雷さんに――」
「南雲、俺にやらせてくれ」
そして三人目、魚雷ガールを選出しようとするハジメに対し、自ら売り込みをかけてきたのは光輝だった。
一瞬驚くハジメだが、光輝の真摯な眼つきを見て即座に受け入れることにする。
「……ふうん。まあいいけど、足引っ張らないでよね」
「じゃあ行くか!!」
「いやごめん待って」
メンバーが決まったところで意気揚々と戦いを始めようとする首領パッチを、ハジメはスマホを見ながら引き留める。
「どうした?」
「今やってるソシャゲの体力が回復したから、先に消費しておかないと」
「いきなりソシャゲ廃人みたいなこと言い出したですぅ!?」
まさかの理由で戦いを止めたハジメに驚くシアだったが、首領パッチも彼を見て便乗するように同じくスマホを開く。
「オレもマシュマロ来たっぽいから確認しとこ」
ノリノリで確認する首領パッチ。その内容はこんな感じだった。
「うわ、クソマロ送り付けられてんじゃん……」
「ライナアアアアアアアアアア!!」
「アンタ達ふざけすぎ――――――――――!!」
「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」