偽典・女神転生ーツァラトゥストラはかく語りき 作:tomoko86355
『テメンニグル編』でもちこっと出てきましたが、くずのは探偵事務所の所長、葛葉キョウジとバージルは義理の親子関係という設定です。
魔界の北に位置する酷寒の地―ホド。
大地が全て凍てつき、生命の息吹を根こそぎ刈り取るこの地は、四大魔王―バァルが支配している。
その氷の国の更に外れ、険しい山々が連なるミティカス山地に人影があった。
今にも強風で吹き飛ばされそうになりながらも、両手に持ったトレッチングポールを岩場に突き刺し、一歩また一歩と前に進んで行く。
「おやっさん!これじゃ俺達まで遭難しちまう!今回はこれぐらいにしとこうぜ!」
傍らに付き従う、魔獣グリフォンが強風に必死に抗いながら羽根を動かす。
まるで凶器の様な氷の礫が、容赦なく二人の躰に突き刺さった。
「分かってる・・・・でも、後少しでアイツを見つけられそうなんだ・・・。」
ゴーグルとマスクで顔を隠している為、どんな容姿をしているのか分からない。
だが、グリフォンに応えた言葉と声質、そしてがっしりとした体躯からして、壮年の男性である事が分かる。
壮年の男は、愛用のGUMPを腰に吊るしているガンホルスターから取り出し、確認した。
蝶の羽の如く展開した液晶パネルに一つの光点が映し出されている。
微かに明滅を繰り返すソレは、彼のたった一人の息子―バージルのモノであった。
「バージル・・・。」
マスクの下で男・・・・13代目・葛葉キョウジが唇を噛み締めた。
無事でいてくれ、どんな姿に変わり果てても構わないから、生きていてくれ。
その一念をポールに込めて、猛吹雪に抗いながら前へと進む。
「お?猫ちゃんがバージルを見つけたってよ!」
キョウジの仲魔―魔獣・シャドウがある一点に向かって唸っている。
同胞の言葉を理解出来るグリフォンがすぐに訳して、主人であるキョウジに伝えた。
必死に腰を覆い尽くす雪をかき分け、シャドウが立っている崖の先端まで辿り着く。
深い切れ目を覗き込むと、崖下に人型をした何かが横たわっているのが見えた。
「・・・・!バージル!!」
崖を滑り降り、その人型の所まで近づく。
刹那、探偵は言葉を失った。
余りにも変わり果てた愛しい息子の姿。
左腕は付け根から欠損しており、傷口は結晶化されて塞がれている。
右足も左腕と同様の状態であった。
そして何よりも探偵を絶望の淵に叩き付けたのは、バージルの顔。
左側面が全て崩壊し、蒼白い結晶で埋め尽くされている。
「こ・・・こりゃぁ、酷ぇ・・・。」
何時もは、下らない軽口を叩く魔獣も、この時ばかりは何も言えない状態であった。
キョウジは、マスクを外すと愛しい息子を抱き上げる。
躰の大半を覆い尽くす蒼白い結晶の正体は、彼が義理の息子・バージルと別れる際に渡した『ソーマの雫』である。
魔帝による人智を超えた改造手術、その上、17代目・葛葉ライドウとの激闘がバージルの半人半妖の強靭な肉体を完全に崩壊させた。
魔力を根こそぎ奪われ、人間の形を保てなくなったバージルは、無意識に義理の父親から渡された『ソーマの雫』を使ったのだろう。
崩れ落ちる肉体を結晶化させる事で、辛うじてこの現世に留まらせる事が出来たのだ。
「バージル・・・。」
キョウジは、背負っていた登山用のリュックサックを降ろすと、脇のポケットから注射器が入ったエナメルのケースを取り出した。
魔力の素・エーテルが入った注射器をバージルの首筋に突き刺す。
プランジャーを親指で押し込むと、シリンジに入ったエーテルが息子の体内に入って行った。
「バージル・・・バージル・・・!頼む、返事をしてくれ!」
厚い手袋を外し、腕の中の息子の頬を優しく叩く。
酷寒の空気が、素肌を針の様に突き刺すが、それにも構わずキョウジは、辛抱強く息子の氷の様に冷たい頬を手でさする。
死ぬな・・・死ぬな・・・死ぬな・・・・。
心の中で何度もその言葉を繰り返す。
すると父親の一念が通じたのか、閉ざされていたバージルの瞼が微かに痙攣した。
ゆっくりと開かれる瞳。
視界に唯一心を許した愛する父親の姿を認めた瞬間、バージルの眼から熱い涙の雫が盛り上がった。
「・・・ご、ごめんなさい・・・・・と、とうさん・・・。」
か細い声でそれだけを告げる。
「良いんだ・・・・良いんだ・・・。」
息子の心からの謝罪に、千切れる程唇を噛み締めたキョウジが、懐深く抱き締める。
そして、腰に吊るしてあるガンホルスターから、愛用のGUMPを取り出すと、蝶の羽の如く液晶パネルを展開させた。
「聞こえるか?カロン・・・・バージルを見つけた・・・すぐにそっちに転送してくれ。」
『分かった・・・。』
キョウジの報告に、冥府の渡し守からの返事がすぐに返って来る。
程なくして、二人の躰を転送魔法の淡い光が包んだ。
13代目・葛葉キョウジが魔剣士・スパーダと人間の女性との間に生まれた半人半妖の子・バージルと出会ったのは、今から10数年前である。
東アジアに位置する島嶼(とうしょ)台湾島。
観光地から大分離れた古びたホテルの一室で、壮年の探偵は、皮張りのソファーに座り愛用の煙草を胸のポケットから取り出した。
「俺は子守りじゃねぇんだけどなぁ・・・?」
煙草を口に咥え、使い古したジッポライターで火を点ける。
彼の目の前には、濃いサングラスを掛けた60代後半と思われる口髭が特徴的な男とその隣には、怯えた表情をしている10歳にも満たない幼い少年が、向かいのソファーに座っていた。
「すまない・・・頼めるのは君しかいないんだ。」
サングラスの初老の男は、隣に座る銀髪の少年に視線を移す。
少年―バージルは、血の気が完全に失せた蒼白い顔色で、実の父・スパーダの形見である『閻魔刀』をしっかりと両手で握り締めていた。
「この子はいずれ世界を救う鍵となるやもしれん・・・だからこそ、兄弟達に渡す訳にはいかないのだ。」
「兄弟ねぇ・・・・オタク等、天使達にも色々と事情があるのは知っているけどさ。」
胡散臭気に、不釣り合いな程長い日本刀を大切に抱き締める見事な銀髪をした美少年を眺める。
本当にこの痩せぎすな少年が、最終戦争を止める存在になるとは到底思えなかった。
否、そもそも最終戦争等本当に起こり得るのであろうか?
この現世は、事実上、彼等天使達が支配していると言っても過言ではない。
流石にドイツとヨーロッパを支配下にしているドラグール・ヴラド・ツェペシュとイタリアの”現代版ワイルドバンチ”ことブッチ・キャシディとザ・サンダンス・キッドのコンビが少々厄介ではあるが、それでも他の秘密結社(イルミナティ)は、天使達に至って従順な態度を示している。
キョウジは煙草の煙をゆっくりと吐き出した。
その独特な匂いが嫌なのか、少年は顔をしかめると手で煙を追い払う。
「私の知っている人間の中で、君が一番信用たる存在なのだ・・・世界を救う為にも力を貸して欲しい。」
「ケネス・・・・・。」
サングラスの初老の男・・・・ケネス・リードの言葉にキョウジは、この依頼をどう対処すべきか逡巡する。
この男は、組織『クズノハ』での自分の立場を良く理解している。
組織の鼻つまみ者である自分を頼って来たのだから、余程の理由があるのだろう。
「・・・・分かったよ・・・オタクには色々と借りがあるからな・・・。」
座天使(天使の階級の3位)である大天使に頭を下げられては、流石の探偵も了承するより他に術が無かった。
あるかないか分からない最終戦争。
もし、この大天使の言っている事が全て事実であるならば、人類存亡の危機と言っても過言ではない。
既に短くなった煙草を厚い硝子で出来た灰皿に押し付ける。
改めて自分が引き取る事になる少年を見つめる。
見事な銀の髪に薄い蒼の瞳。
高位の悪魔が封じられている魔具『閻魔刀』を握り締めるその姿は、何処となく儚く映った。
半人半妖の少年、バージルとの生活は、当然、順風満帆とはいかなかった。
30数年間生きて来て初めての子育てである。
上手く行かない事は当たり前なのであるが、その一番の原因は、バージルが驚く程、キョウジに対して従順であるという事だった。
己の背中を常に狙われる立場にあるバージルのこれからを考えて、キョウジは自分の持てる最低限の知識と戦う術を教えた。
と、言っても本業である”クズノハの務め”が忙しく、バージルの面倒は自分の造魔である『ニュクス』に任せきりで、親らしい親としての務めはほぼしていない状態であった。
それでも、バージルは何一つ文句も言わずに、学校に通い、頭脳明晰な大人しい少年へと成長していった。
本当にこのままで良いのだろうか?
そんな不安がキョウジの胸を過る。
何時もの様に体術の稽古を付けている時であった。
子供というモノは、本来反抗期があって紆余曲折しながら、大人へと成長していくものである。
しかし、バージルにはそれがまるで無い。
躾けられた飼い犬の様に大人しく、言われるがままに人間としての生活を送っているのだ。
そこには、驚く程、喜怒哀楽がなく、まるで人形と対話している様な気分にさせられる。
何の不平不満を漏らす事無く、普通に成長しているのだから、何ら問題は無いのではないかと思う。
何時ものキョウジなら、些末な問題として放置していた筈だ。
だが、それが無性に気に入らない。
子供なら子供らしく、もっと我儘に接して欲しい。
そう考えてしまう程、キョウジはバージルに対して子としての情を抱いていたのであった。
「撃って来い。」
バージルの前に跪いたキョウジが、大きな両掌を広げた。
体術の基礎訓練を終えた時の事である。
「何故?訓練の時間は終わったでしょ?」
予想外なキョウジの言葉にバージルは訝し気な表情になる。
少年にとってこの男との訓練は最早苦痛でしか無かった。
剣術も体術も全て基礎ばかり・・・自分はもっと新しい事を学びたいのに、キョウジは基本の事しか決して教えようとはしなかった。
「良いから撃って来い。お前の力がどの程度か確かめてやる。」
「・・・・・。」
不満気に唇を尖らせたバージルが、渋々キョウジの掌に向かって拳を撃ち込む。
しかし、その手は乱暴に叩き落とされた。
「痛っ!」
10歳になったばかりの子供に対し、キョウジは全く容赦が無かった。
赤くなった手を押さえるバージルに向かって、再度掌を広げる。
「駄目だ、もう一度早く撃って来い。」
「・・・・・っ。」
腹腔から怒りの炎が灯る。
自分は選ばれた人間だ。
悪魔の軍勢をたった一人で退けた魔剣士・スパーダの優れた血を引く人間だ。
それが、たかが悪魔使いの男に良いようにあしらわれ、馬鹿にされている。
バージルは唇を噛み締めると、先程と違い、腰を捻って十分に体重が乗った一撃をキョウジの右掌に向かって打ち込む。
だが、大の大人を昏倒する程の一撃も簡単にいなされてしまう。
「全然駄目だ・・・もう一度撃って来い。」
再び、掌を血の繋がらぬ息子に向ける。
「・・・・何で?何でこんな事するの?僕の力が見たいなら叩く必要なんて無いじゃ無いですか。」
キョウジの意図が全く掴めない。
持てる力を知りたいなら、もっと別な方法がある筈だ。
「・・・そんなに実の親父は素晴らしいか?バージル。」
「え・・・・・?」
広げていた掌を降ろし、自分の顔を覗き込むキョウジを見つめ返す。
「悪魔召喚術師(オレ)から言わせれば、スパーダは只の悪魔だ。矢来地下道に行けば幾らでも見かける悪魔共と何の変わりも無い。」
「!!?」
その侮蔑とも取れる言葉を聞いた瞬間、バージルの視界が真っ赤に染まった。
拳を握り締め、全身で目の前の探偵に襲い掛かる。
物凄い形相で飛び掛かる少年をあっさりと躱し、畳の上に捻じ伏せてしまう探偵。
いくら半分、上級悪魔の血が流れているとはいえ、その実力の差は歴然としていた。
「畜生!殺してやるぞ!人間如きが!」
尊敬する父親を侮辱され、バージルが叫ぶ。
それは、彼が今まで心の奥底で貯め込んでいた鬱積であった。
この男は、優れた血族である自分に人間と同じ生活を押し付けた。
退屈でしかない学校、ひ弱なクラスの連中。
それでも、一般の子供と同じ立ち居振る舞いをして、何とか自分なりに溶け込もうと努力はしたのだ。
何時か大人に成長し、この男の元から出ていく為に。
「父親を馬鹿にされて腹が立ったか?バージル。」
完全に抑え込まれ、身動き一つ出来ないバージルを見下ろす。
「激しい怒りは、冷静な判断力を奪うが、己を律し、上手くコントロール出来れば立ち上がる原動力にもなる。」
悔し気に自分を睨み付ける蒼い瞳。
その瞳に戸惑いの色が混じる。
「感情を押し殺して生きる事は、引き絞り過ぎた弦と同じだ。何時か弓が壊れ、己を見失ってしまう・・・良いか?バージル、まずは自分の中にある感情をコントロールする事から始めるんだ。」
組み伏せていた少年を立ち上がらせる。
己の心を何処までも見透かす黒曜石の双眸。
その瞳を前に、バージルは悔し気に唇を噛み締めて黙って俯くより他に術がなかった。
(子供なんて一生持たないと決めていたんだがなぁ・・・。)
豪華客船『ビーシンフル号』の中にある研究施設の一区画。
マグネタイトの液体に満たされた培養層に浮かぶ銀髪の青年をキョウジは、黙って見つめている。
無性に煙草を吸いたい気分ではあるが、生憎此処は研究施設の為、当然禁煙である。
北の地―ホド。
その険しい山岳地帯であるミティカス山地で、漸く見つけた我が子・バージル。
7年振りに再会した息子を収容し、欠損した肉体を再生させる為に、腐れ縁である錬金術師のヴィクトルの元を訪れた。
直ぐに再生カプセルに入れたが、再び元の肉体に戻るのは、かなり難しいという。
「人の親になるってのは、並大抵な苦労で出来るもんじゃねぇ・・・特に俺達みたいな人種にはな?17代目。」
強化ガラス越しに我が子の顔をなぞる。
最初は、ただ面倒なだけであった。
何の因果でこんな糞生意気な餓鬼を育てなければならないのかと、常に疑問に思っていた。
しかし、今なら良く分かる。
人の道を踏み外した自分達、悪魔召喚術師が如何に家族の温もりを欲しがっているかを・・・。
そして、嫌な程思い知らされる。
『クズノハの使命』の為に、失った人間らしい感情をこの青年が取り戻させてくれたかを・・・。
「待ってろよ?バージル・・・俺が絶対にお前を元に戻してやるからな?」
キョウジにとってバージルは、最早掛け替えの無い存在となっている。
日々の戦いで摩耗した心を唯一癒してくれる大事な家族。
その家族の為なら、自分はどんな代償を支払う事も厭わない。
端正なバージルの顔の輪郭をなぞっていた手を固く握り締めた。
continuing to Devil May Cry 5。
意味不明なまま終了。