偽典・女神転生ーツァラトゥストラはかく語りき 作:tomoko86355
一応人物紹介。
明は、ライドウがとある事情で引き取った養子。
鋼牙は、葛葉四家の人間ですが、悪魔召喚術師の能力はありません。
共に法具を使って鬼に変化出来ます。
ハルは、ライドウと月子の間に出来た実子。
神の器として国会議事堂の地下に軟禁状態です。
東京都「山谷」
ドヤ街と呼ばれ、かつては日雇い労働者が肩を寄せ合って暮らしていた街。
しかし、高齢化が進み、彼等が住んでいた簡易宿泊所も外国人相手のバックパッカー向けのホテルとして姿を変えてしまう。
そして、18年前に起こった未曽有の大災害・・・・第二次関東大震災。
その影響は、当然「山谷」にも多大なる被害を及ぼした。
震災後、日本は国連の協力の元、大規模な復興作業が行われた。
東京23区再生計画と銘打った大規模な再興は、山谷のある台頭区を除いて順調に行われた。
台頭区の山谷だけ復興が遅れた理由は、その治安の悪さ故であった。
不法就労による外国人の移民流入。
ボランティアに紛れた窃盗目的の犯罪者。
そして、震災によって親を失い生き場を無くしたストリートチルドレン。
そんな輩が、地震によって崩れた簡易宿泊所に住みついてしまったのだ。
山谷、歓楽街の一区画。
未だ震災の爪痕が残るその場所に蛍光灯の看板で『椿屋』と書かれたその店はあった。
リーズナブルな金額で上手い食事と酒を提供する事で有名なこの店は、山谷を中心に活動するチーマー達の溜り場となっていた。
その店に二人組の如何にも何処かのチームに所属していると思われる不良少年達が訪れる。
店に入った二人は、別段何かを注文する訳ではなく、真っ直ぐにジュークボックスの前で煙草をくゆらせている背の高い青年の所へ向かった。
2mは優にあるだろうか?
長く伸ばした前髪で双眸を隠したその青年は、ぼんやりとした表情で、ジュークボックスの中で回る円形のメモリーボードを眺めている。
「いたいた、探したぜ?”用心棒”さんよぉ。」
二人組の一人、短く刈り込んだ短髪の青年がジュークボックスの前に居る少年に声を掛けた。
「獲物を隅田川方面に追い込んだ・・・撮影は出来てるから早く来てくれ。」
「・・・分かったよ。」
長い前髪の少年は、短くそう応えると、ジュークボックスの傍に置かれているプラスチックの灰皿で煙草を揉み消した。
浅草・二天門船着き場。
昼間は観光客で賑わうこの場所も、夜には全く別の顔を見せる。
水上バスが停泊しているその船着き場を一人の少女が息を切らせながら懸命に走っていた。
「ヒヒヒヒヒっ!ヒヒャハハハハハハハハハハ!!」
その後をスーツをだらしなく着崩した30代半ばと思われる中年男性が、口から涎を垂らしながら追い掛ける。
愛らしい顔を恐怖で歪め、つぶらな瞳に涙を溜めた少女は、とうとう船着き場の先端まで追い詰められ、完全に逃げ場を失ってしまった。
「ヒヒッ、もう鬼ごっこは終わりだよ?お嬢ちゃん。」
恐る恐る此方を振り返る少女に向かって、サラリーマン風の男が不気味に相貌を崩した。
久し振りに味わえる人間の・・・しかも子供の肉。
こんな上等な御馳走、絶対に逃がして何かやるものか。
恐怖と憎悪は特上のスパイス。
ゆっくりと絶望を与えた上で、柔らかいその肉を味わい尽くしてやる。
醜く歪んだ笑顔を浮かべたサラリーマン姿の怪物を、突然光の海が覆い尽くす。
「な!何だぁ?????」
強烈なヘッドライトの光で視界が一瞬真っ白になる。
頭の中を無数に飛び回るクエスチョンマーク。
そんな化け物を尻目に一人の背の高い人物が光の洪水を背に現れた。
「明くぅん!!!!」
頬を微かに紅くした少女が、その人物の元へと走っていく。
「待てぇ!!俺の御馳走!!」
目の前を横切る黒髪の少女に向かって、怪物が手を伸ばした。
刹那、その鋭い爪を伸ばした右掌が爆散する。
「ぎゃぁあああああああああ!」
闇夜を切り裂く怪物の悲鳴。
四散した右手首を握り締め、サラリーマン姿の化け物が転げ回る。
「ミーコ!早くコッチに来い!!」
椿屋で”用心棒”を迎えに行った短髪の少年―巧が、黒髪の少女を呼んだ。
巧の乗った改造車のGS400に向かって、ミーコが走る。
「ちゃんとカメラ回せよ?元(ハジメ)。」
ミーコが後ろのシートに乗ったのを確認した巧が同じく椿屋で”用心棒”を迎えに行った仲間の金髪の少年に声を掛ける。
「了解!」
前に撮った動画の収益で買った30万の超高性能望遠デジタルカメラを片手に、CB250の改造車に跨った元がニヤニヤ笑いながら応えた。
中級、とはいえ、相手は大型の悪魔だ。
これなら中々見応えのある良い画が撮れるだろう。
「ぎ・・・貴様等かぁ・・・最近、俺達の仲間を次々殺して回っているのわぁ・・・。」
未だ血を噴き出す右腕を左手で抑えた怪物が、憎々し気にバイクのヘッドライトを背に立つ少年を睨み付ける。
そんな悪魔を長い前髪で双眸を隠した少年が、右手に持った掌に収まるぐらいの大きさをした石を弄びながら、無表情に眺めていた。
今から18年前、天海市を中心に起こった未曽有の大地震・・・第二次関東大震災。
関東全土を襲った巨大地震は、人類が想像だにしなかった最悪な事態を引き起こした。
悪魔と呼ばれる未知の生物。
その生命体が、震源地である天海市を中心に突如として現れ、人々に襲い掛かったのだ。
事態を重く見た日本政府は、悪魔召喚組織の『クズノハ』に討伐を依頼。
『クズノハ』は、人類の盾であるヴァチカン13機関『イスカリオテ』と協力し、呪力で出来た強固な壁を天海市全体に覆う事で、悪魔によるパンデミックを半ば強制的に収束させた。
しかし、事はそれだけでは終わらなかったのである。
「ヒヒッ!餓鬼どもが!余り俺達を舐めるんじゃねぇぞぉ!」
砕けた右手を押さえ、サラリーマン姿の悪魔が呪詛の言葉を吐きながら立ち上がる。
すると、地面が盛り上がり、身の丈程もある大鎌を手に持った悪魔―ヘルカイナ達が姿を現した。
「おい、流石に助っ人に入らないとヤバイんじゃねぇか?」
巧と同じGS400の改造車に跨ったドス六こと秋津睦彦が、矢来銀座の裏街で手に入れたショットガンを構えた。
ざっと見ても、ヘルカイナの数は全部で10体以上いる。
”山谷の用心棒”がいくら強くても、この数の悪魔を相手にするには無理があるだろう。
「馬鹿!下手に俺等が手を出したら、明の邪魔になっちまうだろうが!」
不安がるドス六と違い、巧は”山谷の用心棒”に全般の信頼を預けていた。
あんな程度の低級悪魔の群れ、”用心棒”なら簡単に蹴散らせる。
自分達に出来る事は、明の邪魔にならない様に事が終わるのを見守るだけだ。
「手足を引き千切って・・・・?????」
大量の仲魔を呼んで気が大きくなったサラリーマン姿の悪魔がそう言いかけた時であった。
突然顔に何かの液体がビシャリと振り掛かる。
見るとそれは、自分のすぐ近くに立っていた配下の体液であった。
頭部を爆散したヘルカイナの一体が力なく地面に倒れ込む。
「な?ななななななな?????????」
余りの出来事に意味不明な言葉の羅列が口から洩れた。
その間にも配下のヘルカイナ達が胴体や頭を砕かれ倒されていく。
冷静な人間が明を観察すれば、少年の右手が何かを弾き飛ばしているのが分かっただろう。
弾き飛ばしている物体の正体は、掌に収まるぐらいの小さな石。
此処に来る前に予め拾って来た石に、闘気を十分に乗せ、散弾の様に指で撃ち出しているのである。
「す、すげぇ・・・・。」
改造したGT380に跨る長谷錠が、最早人智を超えた現状に驚愕の呻き声を洩らした。
彼等だって23区の無法地帯と呼ばれる『山谷』で、日々の生活を送っている訳ではない。
低級悪魔に幾度か襲われた事だってある。
だが、これは・・・・・この余りにも現実離れした光景は一体何だ?
「ひ、ひぃ!貴様本当に人間かぁ?」
成す術も無く、倒れていく同胞達。
そんな悪魔を完全に無視した明が、背後でカメラを回す元を振り返った。
「良い画撮れてるか?」
「駄目だ、これじゃ普通に銃で殺してるのと同じだぜ?」
もっと相手の悪魔には本気になって貰わないと困る。
自分達と同じ様に悪魔を殺している動画は多数ネットに流れている。
此処最近では、『悪魔召喚プログラム』を使って使役した悪魔同士を戦わせる動画も出ているのだ。
インパクトのある画像を動画サイトに投稿しなければ、視聴者にすぐ飽きられてしまう。
「そうか・・・・おい、オッサン。いい加減本来の姿になれよ?何だったら仲魔を呼ぶ時間ぐらいくれてやるぜ。」
元の言葉に思わず舌打ちする。
明日は久し振りの学校だ。
これ以上、無断欠席が続くと進学にも響くし、それに何より、幼馴染の相方が煩い。
「な、舐めやがったなぁ!!ガキィイイイイイイイイイイ!!」
明の態度に憤怒を覚えたサラリーマン姿の悪魔が、擬態を解く。
膨れ上がる肉体。
鎌状になった前足。
ゴキブリやシロアリを連想させる網翅目特有の不気味な躰。
妖獣・エンプーサの上位種、エンプーサクィーンへと姿を変える。
「おほ♡いいねぇいいねぇ♪一気に閲覧数が上がったぜ?」
スマホでこの状況をネット配信していた巧が口元を綻ばせる。
有料会員制のチャンネルには、立ち見の客が沢山押し寄せて、この戦いの行く末をネットを通じて見守っている。
中には高額なアイテムを投げて寄越す連中までいた。
「ふー、早く終わらせねぇと明日の授業にひびくな・・・。」
明は溜息を一つ吐くとレッグポーチから何かを取り出した。
それは音叉と呼ばれる、U字状に別れた金属製の器具であった。
中央に鬼の装飾が彫り込まれている音叉に明は息を吹きかける。
すると涼しい音色が辺りに鳴り響き、波紋の様に音叉を中心にして空間が歪んだ。
それを額に翳すと波紋は次第に大きくなり、明の躰を眩い光が包む。
「よっしゃぁ!きたぜきたぜぇ!!」
撮影担当の元が興奮の雄叫びを上げた。
紅い光の柱を薙ぎ払うかの様にして現れたのは、頭部に鋭角な二本の角を生やした深紅の鬼。
目と鼻は無く、その代わり歌舞伎の隈取の様な文様が顔に刻まれている。
黒と赤を基調にしたメタリックな質感を持つ鎧は、一分の隙も無く全身を覆い、両手には二振りの反り返った刀を持っていた。
東京都港区。
南麻布、南青山、六本木、赤坂等、上流階級が生活している地区として有名な場所である。
「おはようー!咲!」
聖エルミン学園高等部に通う日下・麻津里は、前を歩いている長い黒髪の少女の肩をぽんと軽く叩いた。
「おはよう、今日は朝練無いんだね?」
長い黒髪の美少女―八神・咲が、小等部からの親友に笑顔を向ける。
彼女達は、港区の高校の中でも進学校で有名な『聖エルミン学園』の生徒であった。
右肩に校章であるワッペンを付けており、自由な校風の為、思い思いに制服を着崩している。
スカートを短くして、膝まである長い縞のソックスを履いている麻津里と違い、咲はキチンとした基本的なエルミン学園の制服を着ていた。
「うん、全国大会終わったからねぇー。暫くの間、朝練はお休みなのだ。」
陸上部に所属する麻津里は、天性の運動神経を買われ、一年生の中でも期待のホープである。
既にレギュラーメンバーに選ばれており、全国大会では走り高跳びで惜しくも2位という成績を収めていた。
「あーあ、麻津里が羨ましいなぁ・・・1年生の中で主力選手の一人で、おまけに中等部の時は、高跳びの学生新記録まで出しちゃうんだもん。それに比べて私はウンチだし・・・。」
学園の中でもその人柄の良さから、人望が厚い麻津里は咲にとって眩しい太陽の様な存在だ。
人見知りが激しく、口下手な咲は典型的なインドア派で、今時図書館で読書をするのが好きなちょっと陰気な娘である。
「お主、それ本気で言ってるのかね?拙者知っておるのだぞ?学園新聞でエルミン一の美少女高校生に選ばれたって事。」
麻津里は胡乱気に隣を歩く幼馴染を睨み付ける。
小等部からの腐れ縁である八神・咲は、防衛省長官―八神・誠の一人娘である。
曾祖父の時代から続く官僚の血統であり、当然、家柄も南麻布一の良家として有名だ。
生徒会に所属し、頭脳明晰、今の時代失われた大和撫子を絵に描いた様な存在が、八神・咲という美少女であった。
「や・・・やめてよ あ、アレは本当に恥ずかしかったんだからね 」
顔を真っ赤にして拗ねた様に頬を膨らませる。
新聞部の連中に生徒会の広報誌用に一枚写真を撮らせてくれ、と頼まれて渋々引き受けたのが間違いの始まりであった。
まさかあんな学校新聞を出されるとは思ってもみなかったのだ。
題名は確か『聖エルミン学園』美少女コンテストと書かれていた。
その中で、咲はまさかの一位を獲得してしまったのである。
そんな他愛もない会話を二人が交わしている時であった。
バイクの激しいエキゾースト・ノートの音が二人の背後から聞こえる。
何事かと振り返った二人のすぐ脇を突風が通り過ぎて行った。
二人の視界に深紅の外装をした大型のモンスターバイクが映る。
フルフェイスのヘルメットを被っている為、ライダーの顔は分からないが、着ている制服は咲達と同じ、『聖エルミン学園』の男子学生の夏服であった。
「もー!ばっきゃぁあろぉおおお!危ないじゃないのさぁー!!」
此処は学校の通学路、しかも制限速度は30キロぐらいである。
しかし、深紅のモンスターバイクはその制限された速度を遥かに超えるスピードで突っ走っていた。
麻津里が怒りの声を上げるのは当然である。
「遠野君・・・・?」
怒り心頭の麻津里のすぐ傍で、咲はぼんやりとエルミン学園に向かって遠ざかる大型バイクを見送っていた。
放課後、夕陽に染まる空き教室。
一週間振りに登校した遠野明は、幼馴染兼仕事仲間の山刀鋼牙(さんとうこうが)に話があると無理矢理引っ張り込まれた。
「コレ、一体何なんだい?」
グレーのスマートフォンに映る映像を不貞腐れた表情をしている明に見せる。
そこには、鬼に変化した明がエンプーサクィーンの頭部を斬り飛ばしている動画が映し出されていた。
「僕達”八咫烏”の規則は分かっているよね?マダムは、今の所黙っているけど、もし御頭に知られたら・・・・。」
「クズノハの使命を遂行してるんだから、別に問題ねぇだろ?」
只じゃ済まないと言い掛けた鋼牙の言葉を明が乱暴に遮る。
「明・・・・いくら君が御頭のお気に入りでも、周りの連中は納得しない。特に四神の連中は君の事を良く思ってないんだよ?」
呆れた様子で鋼牙が溜息を吐いた。
確かに自分達が所属する『組織・クズノハ』の戒律で、”人間を悪魔から護る”という教えがある。
しかし、それは人知れず行われる事であって、こうやって収益目的の動画としてネットに垂れ流す事ではない。
「”探偵稼業”と言って悪魔狩りして金稼いでいるお前と俺がやってる事と一体何処が違うんだよ?」
一々、姑の如く小言を垂れる鋼牙にうんざりとした様子で明が睨み付けた。
「そ、それは・・・・。」
痛い所を突かれて、黒縁の眼鏡を掛けた少年が押し黙る。
明よりも小柄な体躯をしているこの少年は、師匠である13代目・葛葉キョウジの経営している『くずのは探偵事務所』に居候している。
現在、師であるキョウジは、「極秘任務」と弟子である鋼牙に伝えて、此処数か月間行方不明になっていた。
その所長不在の探偵事務所をこの小柄な眼鏡の少年が、一人で切り盛りしているのである。
暫しの沈黙。
先に折れたのは、意外にも明の方であった。
「・・・・悪かったよ・・・中等部のツレから煩く頼まれて・・・仕方なく引き受けたんだ。」
糞が付くほど真面目な鋼牙が、”八咫烏”の規律に違反してまで『探偵稼業』をしている理由は良く分かる。
師である13代目・葛葉キョウジが帰る場所を彼なりに、必死に護っているのだ。
矢来銀座にある『くずのは探偵事務所』は、組織”クズノハ”から支給される資金によってその殆どが賄われている。
所長が不在、ちゃんとした業務が為されていないと組織が知れば、最悪、事務所は閉鎖となってしまうだろう。
「鬼の力を悪用しようとかは思ってねぇ・・・”八咫烏”の指令もちゃんと従う・・・だから心配すんな。」
「うん・・・・分かってる・・・。」
型破りな行動が何かと目立つ幼馴染みであるが、筋を通す所はちゃんと心得ている。
汚れ仕事ばかり任されてはいるが、明は何ら不平不満を口にする事なく、任務を確実に遂行していた。
それに、彼の養父・・・17代目・葛葉ライドウの存在もある。
義理の父親であるライドウを超える逸材を組織がみすみす手放すとは到底思えなかった。
「・・・・その・・・余計な事だとは思うけど、17代目とはちゃんと話をした方が良いと思う・・・志郎さんの事もあるし・・・・。」
詳しい経緯は知らないが、ライドウは4年前に長年連れ添った番をある事件で失った。
化学班の赤根沢礼子の所で必要最低限の魔力は、一応供給出来てはいるものの、魔力特化型の17代目では、すぐに枯渇してしまう。
きっと今も魔力不足で苦しんでいるに違いない。
「・・・あの人の事はどうでも良い・・・どうせ番が居なくたって・・・。」
そう言いかけた明の脳裏に、自分達十二夜叉大将の長、骸に組み伏せられる養父の姿が過った。
キチンとスーツを着込んだ蝋の如く白い肌と長い濡れ羽色の髪を持つ美青年。
その下で、半裸に剥かれた義理の父は、必死に快楽を堪えようと声を押し殺していた。
「どうかしたの?」
急に黙り込んだ幼馴染みを訝し気に見上げる。
「別に・・・何でもねぇ・・・。」
幼い日に体験した思い出したくも無い悪夢。
大事な家族である妹を失い、信頼する父親は上司に凌辱され、一生消えない烙印を押された。
『目を逸らすな・・・・お前の愛する人が死ぬぞ?』
配下の十二夜叉大将の連中に抑え込まれ、無理矢理、陰惨な光景を最後まで見せられた。
当然、幼馴染みである鋼牙は、自分が上司である骸に過去、何をされたかは知らない。
組織に対し何故、反抗的な態度を取るのかを知らない。
不良グループの『スペクターズ』とつるんで、悪魔狩りの動画をネット配信しているのは、”クズノハ”否、骸に対する一種の意趣返しだ。
でも、鋼牙はその真相を知らない。
否、知らなくて良い。
知れば彼がどんな態度を取るかなど、明白である。
(そうさ・・・コイツは何も関係ない・・・何時も通りの日常を過ごせば良い。)
決して日が差さぬ暗闇に閉ざされた道を歩むのは自分一人だけで良い。
今は馬鹿やってるけど・・・何時か必ずあの人を救ってみせる・・・そして妹の”ハル”も取り戻す。
4年前のあの夜に誓った。
十二夜叉大将の長、化け物龍こと骸をこの手で倒すと。
前置きの続き。
咲と麻津里という二人の少女は、ヒロイン格。
明と鋼牙が悪魔と戦う非日常的な生活を送っている傍らで、普通に学生として生活しているという対比が書けたらなぁっと思って登場させました。
まぁ、この世界の日本は、ある一部の地域が悪魔によって汚染されている為、厚い壁で守られているっていう設定です。