偽典・女神転生ーツァラトゥストラはかく語りき   作:tomoko86355

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またもやフライング。
ちこっとだけアニメ版の内容を織り交ぜておりまする。
そしてぬるい性表現。
愛の暴走特急となったダンテをライドウは受け止められるのか?


チャプター 5★

深夜1時過ぎ。

眠りを知らぬ不夜城には、仕事を終えた人々や酒場を梯子する連中達で絶えず通りを行き帰りしている。

その中を縫う様に一人の背の高い男が歩いていた。

真紅のロングコートに目の覚める様な銀の髪。

身の丈は2メートルを軽く超えているだろうか?行きかう人々の中でも、頭一つ分高い。

通り過ぎる人が必ず振り返る程、彼は目立っていた。

迷わず、地下通りにある人気が少ない一軒の酒場へと向かう。

腐ったゴミと黴(かび)の饐(す)えた臭いは、何処となく何時も贔屓にしている『ボビーの穴倉』と良く似ていた。

 

樫の木で出来た酒場のドアを開く。

客の来訪を教える為に備え付けられた鈴がカランコロンと涼やかな音をさせた。

「いらっしゃい。」

バーのカウンターテーブルで洗い物をしている店主らしい髭の男が陰気な声で、酒場の客を迎える。

銀髪の大男は、無言でカウンター席へと腰を降ろした。

「ご注文は?」

席に座る客を見ようともせず、店主が棚に磨いていたグラスを戻しながら、不機嫌そうに応対する。

「ストロベリーサンデー。」

組んでいる両手の甲に顎を乗せた銀髪の青年が何時もの様に注文する。

「お客さん・・・。」

余りに常識知らずな注文に店主が困った様に太い眉根を寄せて、銀髪の青年が座るカウンター席を振り返った。

「おいおい、此処は酒場だぜ?お子様はファミレスでも行けよ?」

カウンター席の少し離れた4人用のテーブルで、ポーカーに興じていた男が銀髪の青年に軽口を叩く。

同じ席に座る仲間らしい男達もニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた。

「ほぉ・・・その割には、酒の匂いより血の匂いの方がツンっと来るぜ。」

銀髪の青年がちらりと背後のテーブルに座る男達と店内の様子を伺う。

ポーカーに興じている如何にも荒事師らしい男達が4人。

それと、店内の隅に黒いスーツに身を包む女がいた。

遠くから見ても判るモデル並みに均整が取れた見事なプロポーションにサングラスと長い黒髪。

この場にそぐわぬ美貌の女性は、細いシガリロの煙草をくゆらせ、英国新聞に視線を落としている。

「まぁ、良い・・・それより変な噂を耳にした・・・ここ等でおっかねぇ暴力バーがあるんだと、金の代わりに命を獲られちまうらしい。」

その女に幾ばくかの不信感を抱きながらも、銀髪の青年―ダンテは、視線をカウンターで酒瓶を取り出す店主へと戻す。

「ちっ!!」

カスな手札に舌打ちしたポーカー仲間の一人が、手に持っていたトランプをテーブルに叩き付ける。

「へっ、悪いな・・・・。」

そんな仲間の様子を嘲笑いながら、もう一人の仲間・・・ダンテに軽口を叩いた男が、持っていた自分の手札をテーブルに置こうとした。

「ロイヤルストレートフラッシュか・・・そんな役出してると寿命が縮むぜ?」

テーブルに並べたカードを見る事なく、ダンテが軽口を叩く。

そんなダンテに構う事なく、ポーカーの一人勝ちをして気分が良くなった男は、座っていた席から立ち上がった。

「皆・・・一杯奢るぜ・・・。」

そう言うのと、ダンテが持つ巨銃”エボニー”から鋼の凶器が発射されたのは、ほぼ同時であった。

寸分違わぬ正確さで、額を穿たれ吹き飛ばされる男。

床に叩き付けられる刹那、男の躰が爆散し、中から異形の怪物が飛び出す。

その姿は、一言で表すならば悪魔。

現世とは違う、別の次元から這い出て来た怪物は、カウンターに座るダンテに向かって、一直線に襲い掛かる。

それを紙一重で躱すダンテ。

他のポーカー仲間達も席から立ち上がると、次々と異形の魔モノへと姿を変える。

魔法の様な速さで双子の巨銃の片割れ”アイボリー”をホルスターから取り出す魔狩人。

デザートイーグル並みのハンドガンが火を噴き、吐き出された鋼の凶器が悪魔達の躰を引き裂いていく。

「ぐおぉおおおおお!!」

怒りの咆哮を上げる怪物。

ダンテの右腕に鋭い牙を突き立てる。

血管を喰い千切られ、噴き出る血潮。

噛みつかれた衝撃で、握っていた”エボニー”が床へと落ちる。

「やるじゃねぇか・・・ロイヤルストレートフラッシュ。」

己の腕に喰らいつく悪魔に皮肉な笑みを浮かべると、ダンテは店の窓に向かって左の掌を広げた。

刹那、窓を破壊して何かが店内に飛び込んで来る。

月夜に光る銀の鬣と硬い鱗に覆われた長い尾。

口にダンテの愛刀、大剣『リベリオン』を咥えるのは、冥府の門番、魔獣・ケルベロスだ。

首の一振りで、銀髪の魔狩人に組み付いている悪魔を両断。

返す刃で、背後から襲い掛かる悪魔の胴と頭を斬り飛ばす。

「ナイスタイミングだぜ?ワン公。」

「ケルベロスだ。」

ダンテの軽口を一蹴し、魔獣は、口に咥えた大剣を男に投げ渡す。

「下らん仕事を手伝わせおって、子倅が・・・。」

「働かざる者食うべからざる・・・だぜ?ワン公。」

大剣『リベリオン』を受け取ったダンテと、白銀の魔獣が背中合わせに立つ。

店内には、異空間から這い出て来た怪物達が、炯々とした血の様に赤い瞳で魔狩人と魔獣を睨み付けていた。

 

 

マレット島の事件が終結して数日が経つ。

長年連れ添った番を失ったライドウは、四大魔王(カウントフォー)の一人、魔帝・ムンドゥスとの激闘で重傷を負い、現在、ダンテの事務所で世話になっている。

ライドウの所属する超国家機関『クズノハ』に依頼をして来たイギリスの秘密情報部、Secret Intelligence Service、通称M16に所属するトリッシュ(恐らくは偽名)の紹介で、魔導に精通している闇医者に診せ、応急措置を受けた。

その医者の診断によると、数日間は絶対安静なのだという。

 

(ち、全く面倒な事になったな・・・・。)

鋭い牙と爪を剥き出しにして襲い掛かる悪魔を硬い鱗で覆われた長い尾で殴りつける。

頭蓋をあっさりと砕かれ、脳みそを床にぶちまける怪物。

無残な屍を晒す同胞達と同じ様に壁に叩き付けられ、ビクビクと死の痙攣を繰り返す。

背後で戦うダンテも、最後の一体を大剣『リベリオン』を振り下ろした兜割りで仕留めていた。

(早急に日本に帰らねばならぬと言うのに・・・。)

尾に付着した返り血を振り落とし、魔獣は忌々しそうに舌打ちする。

肉体と精神、両方のダメージがかなり深刻なライドウは、未だ眠りの淵から目覚めない。

適切な措置を受けたお陰で、命に別状は無いが、クー・クラックス・クラン、通称KKK団が縄張りにしているこの土地に留まるのは、非常に拙いのだ。

『クズノハ』と事を構えた事は無いが、KKK団は白人至上主義の悪魔崇拝者で構成されている。

かなり過激な思想の連中で、当然、組織の中にはライドウ同様、SS(ダブルエス)クラスの悪魔召喚術師(デビルサマナー)もいるのだ。

今の所、此方の存在には勘づかれてはいないみたいだが、もし知られれば、法外な賞金首目当てに面倒な事態に発展する可能性は十分ある。

(それもこれも、全てはあの馬鹿弟子が招いた事なんだがな・・・。)

事の始まりは、セルビアの黒手組(ブラックハンド)と中国の天地会を敵に回した事だった。

悪魔を食い物にする彼等のやり方に、腹を立てたライドウが、両組織の支社や各施設を潰して回ったのだった。

当然、自分の顔に泥を塗られた両組織は黙っている筈が無く、ライドウの首に法外な賞金を懸けた。

まぁ、欲に目が眩んだ馬鹿共を悉く返り討ちにしたのは言わずもがななのだが。

「何してる?とっとと帰るぜ。」

大剣を背に収めた銀髪の青年が、未だ店内にいる魔獣を振り返った。

マグネタイトを失い、塵へと還っていく魔モノ共の亡骸。

朝日が完全に天に昇る頃には、跡形もなく消え失せているだろう。

「もう一人バーに客が居たと思ったんだがな。」

確か店内の隅の席に、新聞を読んでいたサングラスの女が居た筈だ。

しかし、悪魔共との戦闘が開始された直後には、既にその姿は何処にも無かった。

闘いに巻き込まれたのかと危惧もしたが、女の死骸すらも見当たらなかった。

「きっと逃げちまったんだろ?それより俺は早く飯を喰って寝たいんだ。ここんとこ睡眠不足なんだよ。」

大あくびをしながら、ダンテが酒場のドアを開けた。

馴染みにしている情報屋のモリソンから今回の依頼料を受け取ったら、最早習慣となっている『ボビーの穴倉』で早目の朝食を採るつもりだ。

苺と生クリームをふんだんに使ったボビー特製のストロベリーサンデーは最高だ。

モリソンや同僚のグルーからは、お子様な食べ物はいい加減卒業しろと嫌味を言われるが、勿論、止めるつもりなど毛頭ない。

「・・・・。」

そんな魔狩人の背を眺めていた魔獣は、やれやれと一つ溜息を零した。

 

「やっぱり・・・ベリアルの言う通りだったわね・・・。」

殺戮が行われた酒場から少し離れた店舗ビルの屋上。

そこに黒いスーツを着た女が淡い光を放つ月を背に立っている。

先程、店内の隅にある席で新聞を読んでいたサングラスの女だ。

濃いサングラスの下では、激しい殺意と憎しみに満ちた金の双眸が、酒場から出て行く深紅のロングコートを纏う銀髪の青年を見つめている。

「今更のうのうと現世に蘇るなんて・・・・・ルーシー・・・。」

紅いルージュの引かれた唇で小さく呟くと、黒髪の美女は、闇の中へと溶け込み消えた。

 

 

誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。

段々と明瞭になる意識。

頬を嬲る炎の熱と、鼻腔に漂う何かが焼ける饐(す)えた臭いが、カオルの意識を現実へと引き戻す。

「カオル!しっかりしてよ!カオル!!」

相棒の電霊『ネミッサ』の声に、雨宮カオルは漸く意識を取り戻す事が出来た。

薄っすらと眼を開けると、心配そうに眉根を寄せるネミッサの顔が見える。

「ね・・・ネミッサ・・・・?」

自分の顔を覗き込むパートナーの姿に、カオルは、此処が天海モノリスで、『スプーキーズ』のリーダー、桜井雅弘に憑依した”ファントムソサエティ”の幹部、魔王サタナエルと戦闘中である事を思い出した。

「戦いはどうなった?リーダーは?スプーキーは一体どうなった?」

激しい頭痛と吐き気を耐えながら周囲の様子を伺う。

魔王サタナエルのメギドラをまともに喰らい、吹き飛ばされてからの記憶がごっそりと抜け落ちている。

ダメージは未だ残っているものの、こうして生きているという事は、自分達はサタナエルに勝利してリーダーである桜井雅弘を救う事が出来たのだろうか?

「なぁ?ネミッサ教えてくれよ!リーダーは一体何処にいるんだ!」

額が切れているのか、そこから流れ出る血が目に入って、中々よく見えない。

傍らに座る銀の髪を持つ少女に問い掛けると、彼女は何故か顔を俯け、震える手である一点を指差した。

つられて其方に視線を向けるカオル。

するとそこには、まるで何かのオブジェの如く、夥しい(おびただしい)鮮血で壁を汚し、その下で力無く項垂れるスプーキーこと桜井雅弘の姿があった。

 

「はっ!!!!」

開いた隻眼がまず捉えたのは、罅割れた薄汚れた天井であった。

激しい動機と息遣い。

ぐっしょりと汗で濡れたシーツが不快感を伝えている。

「此処は・・・何処だ・・・・。」

ムンドゥスとの最終決戦以降、記憶が不明瞭だ。

ダヴェドの宮廷魔術師であったオルフェウスの助力で、魔帝を倒したところまでは辛うじて覚えている。

しかし、その後どうなったのか、どうやって絶海の孤島・マレット島から脱出したのかまでは覚えていなかった。

「そうだ・・・志郎は・・・・?」

脳裏に砕け散る鎧と鮮血、そして血に濡れた番の姿が過る。

己の腕の中で、満足そうな笑顔を残して消えた番に、彼の死を始めて実感した。

「・・・・くそっ。」

自分自身の不甲斐なさと激しい憤り。

もっと慎重に立ち回るべきだった。

感情に任せて動いてしまった。

悪魔召喚術師(デビルサマナー)とは、常に冷静で注意深い判断力を求められる。

自分は、その一番大事な事を完全に喪失していた。

「らいどぉおおおおおおおおお!!」

全身に走る激痛を堪えながら、上半身を起こした悪魔使いの顔に何かが張り付いた。

仲魔の一人、ハイピクシーのマベルだ。

「やっと意識が戻ったんだね?三日間も眠りっぱなしだったから、口から心臓が出ちゃう程心配したんだぞ!ダンテと奥方様は、仕事でどっか居なくなっちゃうし!」

わんわん大泣きしながら、マベルは早口で捲し立てる。

「ダンテ・・・・そうか、俺を助けたのはアイツなのか・・・。」

薄れゆく記憶の中、見事な銀の髪を持つ青年が、自分をその逞しい腕(かいな)で抱き上げたのを覚えている。

心配そうに自分の顔を見下ろす蒼い瞳。

レッドグレイブ市を中心にして便利屋家業を営む荒事師の男。

その時、寝室のドアを誰かが開けた。

この事務所兼アパートの持ち主、自称、魔狩人(デビルハンター)のダンテだ。

魔帝との激闘で寝込んでいるライドウの様子が気になって、覗きに来たらしい。

「よぉ、大丈夫なのかよ?」

痛々しい包帯に巻かれ、辛うじて上半身を起こしているライドウの傍に歩み寄る。

「ああ、何とかな・・・。」

顔に張り付いている妖精を引っぺがすと、側へと座る銀髪の男を見つめる。

仕事が終わって塒(ねぐら)である事務所に戻って来たばかりらしい。

トレードマークである深紅のロングコートを脱いだその身体からは、僅かな硝煙の香りと血の匂いがした。

「すまねぇな・・・面倒かけた。」

摘まんでいたマベルの羽根を離し、自嘲的な笑みを口元に浮かべる。

どんな結果に終わったにしろ、この青年に救われた事に違いはない。

礼を言うのは当たり前だ。

「気にすんな・・・殆どアンタ一人で魔帝の野郎をぶっ倒しちまったみたいなもんだからな。」

悔しいが自分は何も出来なかった。

それどころか、双子の兄、バージルの一件で頭に血が昇り、身勝手な行動に出てしまった。

その結果、予想通り足を引っ張り、ライドウの大切な相棒を失う要因を作ってしまったのである。

「おい?そんな身体で何処行くんだよ?」

呻きながらベッドを降りようとする隻腕の少年を慌てて押し留める。

「何処って、何時までもお前の世話になってる訳にはいかねぇだろ?」

男に掴まれている腕を振り解こうにも、相手の力は予想以上に強く、中々離れない。

おまけにコッチは大怪我を負っているのだ。

「頼むから手を離してくれ、身体中痛くて堪んねぇんだよ。」

「だったら怪我が治るまで此処にいりゃ良いだろうが。」

「お前・・・・・俺がたった一人の家族を殺した奴だって判った上で、そんな能天気な事言ってんのか?」

黒く光る隻眼に睨まれ、銀髪の青年は黙り込む。

十数年前に生き別れた双子の兄、バージル。

この悪魔使いは、魔帝・ムンドゥスによって改造され下部と成り果てたバージルを殺害した。

実際、止めを刺したのはダンテ自身ではあるが、瀕死の状態まで追い詰めたのは他でもない、目の前にいる片手片目の少年である。

「アンタは・・・俺やバージルを救ってくれた・・・・。」

真剣なダンテの蒼い双眸に見つめられ、ライドウは視線を外す。

傍らでは、小さな妖精が事の成り行きを固唾を飲んで眺めていた。

「3年前のテメンニグルの時も、今回のマレット島の時も、アンタは赤の他人の俺達兄弟の為に一生懸命助けようとしてくれた。」

「止せ・・・俺は何もしてねぇ・・・。」

俯くライドウが小さく呟く。

気が付くと、掴んでいた少年の右腕に巻かれた包帯から微かに血が滲んで来ている。

それを見た銀髪の青年は、慌ててその腕を離した。

「もう、アンタ達一体何しているのよ。」

呆れた様子でマベルが主の傍に近づくと、血が滲む箇所に回復魔法を唱えようとした。

それを手で制するライドウ。

怪訝な表情をする妖精に穏やかな笑みを浮かべる。

「これぐらいの傷、舐めときゃ治る。それより、一晩中、看病して疲れてるんだろ?もう大丈夫だからGUMPに戻って休んでくれ。」

「でも・・・・。」

確かにライドウの言う通り、意識不明の重体である主人の為に、無理を押して回復魔法を唱え続けたのは事実である。

魔力の残量はほぼ無いに等しく、介護の為、睡眠不足で正直倒れてしまいそうだった。

「・・・・・分かったよ・・・。」

こういう時のライドウは、とても頑固だ。

表情はとても穏やかだが、その実、余計な世話は受けたくないと無言で拒絶している。

こうなったら、梃子でも自分の考えを曲げない事を知っている妖精は、渋々、デジタル化してGUMPへと戻った。

「そこで座っててくれ・・・包帯巻きなおすから。」

サイドテーブルに置かれている救急セットから、ダンテが新しい包帯を取り出す。

ライドウは、溜息を一つ零すと仕方なしに言う通りにする事にした。

 

「・・・・お前、結構不器用だろ・・・・・。」

真剣な表情で自分の腕に包帯を巻く銀髪の青年を見下ろす。

躰に巻かれた包帯はどれも歪で、御世辞にも上手いとは到底言えない。

「う、うるせぇな!こちとら人の怪我を看病するとか初めてなんだよ!」

常に怪我が日常茶飯事の荒事師をしているダンテではあるが、意外にも絆創膏一つ貼った経験すらも無い。

己の躰に半分流れる悪魔の血のお陰か、驚異的な再生能力によって、あらゆる怪我を瞬時に治してしまうからだ。

おまけに気の許せる相手としか接しない為、人を介抱した経験などまるで無い。

「もういい貸せ、自分でやるから。」

ライドウは、銀髪の青年から無理矢理包帯を奪い取ると、口と脚を使って器用に血で汚れた包帯を変えていく。

テキパキと無駄のない作業に、ダンテは思わず感心した様に眺めていた。

「驚いたぜ・・・・結構、慣れてるんだな?アンタ。」

「ああ、何時もの事だからな。」

上位悪魔と融合した肉体ではあるが、基本スペックは殆ど人間と変わらない。

ダンテや仲魔の様な優れた再生能力等無いし、銃弾を跳ね返す程の強靭な肉体も無い。

仕事柄、大怪我を負うなどしょっちゅうなので、包帯で自分を捲くどころか、医療針を使って切れた箇所を縫合するのもお手の物だ。

「なぁ?俺の服は何処にあるんだ?流石に素っ裸じゃ外には行けないぜ。」

短時間で綺麗に包帯を巻き直したライドウは、傍らにいる銀髪の青年を見上げる。

「呆れたな・・・アンタまだ帰るつもりでいるのかよ?」

ライドウの寝ているベッドに座るダンテがやれやれと肩を竦めた。

「俺が此処に居るのは色々と拙いんだよ。お前には言ってなかったが、結構ヤバイ奴等に目を付けられてるんだ。」

秘密結社の中でも武闘派で有名な黒手組(ブラックハンド)と天智会は、まだ自分がこのスラム街に居る事を知らない。

まぁ、この辺一帯を取り仕切っているのは、白人至上主義を掲げるKKK団(クー・クラックス・クラン)なのだから、そう簡単に奴等の息が掛かった殺し屋が入り込む事は考えられないのだが。

「だったら俺がソイツ等を追い払ってやるよ。生憎、面倒事には慣れっこでね。」

便利屋家業を始めて既に5年以上が経っている。

ダンテがこの職業に就くまで便利屋等は、裏社会の雑用係でしかなかった。

それを自分の気に入った仕事しか受けず、おまけに仲介屋を通す独自の美学は、到底闇社会の古株達からは受け入れられなかった。

それ故、ダンテを敵視する輩も多く、実際何度も襲われている。

「・・・・・お前に絡んで来るチンピラやマフィア連中とは質が全く違う。奴等は悪魔を手足に使う魔導師ギルドだ。生身の人間相手じゃないんだぞ。」

「なら猶更大歓迎だぜ。人間相手にドンパチやるのは飽き飽きしてたんだよ。」

「お前な・・・・・。」

駄目だ、コイツと会話していると永遠平行線を辿ってしまう。

軽い頭痛を覚えて、ライドウは右の蟀谷(こめかみ)を押さえた。

「兎に角、これ以上、俺に拘わるな。それと、お願いだから服返して頂戴。」

これ以上、コイツと話をしていても時間の無駄だ。

何か着るモノは無いかと室内に視線を走らせるが、何処にも彼が着ていた服は見当たらなかった。

仕方なしにベッドから降りようとしたライドウの右腕をダンテが再び掴む。

「い、痛ぇ!離せってぇ!!」

何の遠慮も配慮すらも無い力。

掴まれた腕から激痛が伝わり、思わず悲鳴を上げるが銀髪の青年は決して離そうとはしなかった。

「冗談じゃねぇ・・・・やっと、やっとアンタを手に入れられたのに、そう簡単に逃がして堪るかよ。」

「ダンテ・・・・・!?」

苦痛の涙で滲む視界が急に反転した。

硬いスプリングのベッドに叩き付けられ、一瞬、息が詰まる。

衝撃で折角、取り変えた包帯から血が滲んで来るが、銀髪の青年はそれを見ても一向に押さえつける力を緩める事は無かった。

「止せ!こんな事しても俺は・・・・・!」

男の意図を察し、抵抗しようとするが、いかせん力の差があり過ぎる。

気が付くと顎を無理矢理掴まれ、噛みつく様な口付けを受けていた。

 

ギシギシと揺れるベッド。

所々、血で汚れたシーツの上にうつ伏せた華奢な体躯をした隻腕の少年が、苦痛から逃れる為か、唯一残された右腕でシーツを握り締めていた。

手酷い行為に縫った傷が開いてしまったのだろう。

躰に巻かれた包帯から血が滲み出て、真っ白いシーツを更に汚している。

白い肌に浮かぶ細かい汗と引き攣れた無数の傷跡。

これが、葛葉ライドウと呼ばれる男が歩んできた道程なのだろうか?

恐らく、ぬるま湯で浸かった自分の人生など笑い飛ばしてしまいそうな程、過酷な地獄を経験して来たに違いない。

「ライドウ・・・好きだ・・・愛してる・・・。」

欲望に濡れた瞳で、己の下に組み伏せている哀れな獲物に愛の言葉を囁く。

これは立派な強姦だ。

レイプしている相手に幾ら愛を囁いた所で、相手には一ミリとて自分の想いが伝わらないのは当然だろう。

でも止められない・・・・止まらない。

何人もの女を抱いた。

時には気に入った同性とも寝た事もある。

しかし、こんな狂気にも似た激情を抱いたのは、葛葉ライドウ只一人だ。

「ひぃっ!!」

肉穴に剛直を更に捻じ込ませた激痛で、少年の華奢な肢体が背後へとしなる。

切れたのか、受け入れた箇所から血が滴り、股から真っ赤な鮮血が伝い落ちる。

「こんな・・・・こんな行為に意味何て無い・・・・魔導師の俺を幾ら犯した所で・・・お前が満たされる事は・・・・。」

歯を食いしばり、苦痛に耐えながら、男の愛の言葉全てを否定する。

そう、魔導士相手の性行為など、パンを食べるのと一緒だ。

これは只の魔力を得る為の虚しい行為だ。

そんなライドウにダンテは忌々しそうに舌打ちすると、疲弊する少年の躰を無理矢理反転させ、膝の上に抱え上げる。

食いしばった歯の間から、くぐもった悲鳴が漏れた。

「アンタから愛が返って来るなんて思ってねぇ・・・俺は、最低な糞野郎だ・・・でも、でも止められないんだよ・・・アンタを見てると・・・。」

かつて小さな妖精に言われた言葉を思い出す。

『愛したらその分愛し返せ何て傲慢よ・・・そんなの好きな人にする事じゃない・・・アンタの愛は彼を傷つけるだけ・・・。』

確かに彼女の言う通りだ。

自分の愛は、この愛しい人を壊すだけ。

「ダンテ・・・・。」

力強く、自分を抱き締める哀れな男。

震える腕は、まるで母親が離れる事を恐れる幼子の様で、こんな酷い行為をされているというのに、不思議と怒りが湧いて来ない。

すっかり包帯が解け、醜い傷跡を晒す右腕を男の広い背中へと回す。

相手からの予想外の行為に、銀髪の青年は驚いて首筋に埋めていた顔を離した。

「ったく・・・クールでスタイリッシュな凄腕の便利屋が何てザマだ。」

もうすぐ40半ばのオッサンに完全に入れあげてるこの青年が可笑しくて堪らない。

裏社会の荒事師共を震え上がらせるこの銀髪の美丈夫が、自分の前では幼い子供の様に映る。

「俺を好きになっても無駄だ・・・俺はお前を愛せない・・・だから・・・。」

他の誰かを愛せという悲しい言葉を唇を塞ぐ事で黙らせる。

唇を噛み締めた時に切れたのか、その口付けは、鉄の錆びた味がした。

 




冒頭に登場した黒髪の美女は、真女神転生で登場した泉の美女です。
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