幼き少女は絶望の中で希望に縋る   作:百合好きなmerrick

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細かい設定などはあらすじの通り、とぅりりりりさんの大元の設定へどうぞ。

では、早速⋯⋯。

これは、か弱い少女と諦めていた青年の話。


プロローグa「少女と絶望」

 

少女は幸せだった──少なくとも、その時までは。

 

 

 

 

 

 人が誰しも属性を持って生まれる世界。属性とは神の呪い(祝福)であり贈り物。

 

 これはその属性に悩まされる少女と、属性を使いこなす青年の物語。プロパーテ大陸に君臨する属性至上主義である宗教国家アライメント、その辺境の地で起きる、男女2人の絶望と希望の物語である────

 

 

 

 

 

 その日、家族に別れを告げた金髪の少女は、憂鬱な気持ちで馬車に揺られていた。その長い髪は馬車に揺られて煌びやかに映え、青い瞳は窓から差し込んだ光で綺麗に反射してる。

 

 その少女は窓から零れる眩しい景色を見て、目の前に居る2人の人物から目を逸らしていた。それは嫌悪から来るものではなく、気まずいという遠慮から来る行動。少女は()()()()()に未だに慣れずにいた。

 

「ミーナちゃん、そう緊張しなくても大丈夫よ。元は下流階級の娘だからと言って、貴女を悪いようにはしないから。安心してちょうだい」

「⋯⋯⋯はい」

 

 ミーナと呼ばれた少女は、義母の優しい言葉によそよそしく返事を返す。緊張してるというよりは、どう接すればいいのか分からないと困惑してるようだ。何故なら少女は下流階級でも、この新たな両親は上流階級の貴族だから。少女は珍しくも2つの属性を持って生まれ、それも強力だったために上流階級の家族へ引き取られた。

 

 少女がこの両親と初めて出会ったのは3年前。前の両親が子供のためを思って、新たな親を探し始めてすぐに出会ったのがこの両親。この親達は下流階級の少女達に優しく接し、良くしてくれていた。それ故に前の両親は今の両親の養子にすると決めたのだろう。親元を離れようとしなかった少女の気持ちを差し置いて。

 

「ミーナ。安心しなさい。君以外にも養子は居るのだ。だから、何も怖がる事はないよ」

「⋯⋯はい。そう、ですか。⋯⋯分かりました」

 

 だが、それが幸せな道という事は、誰もが知る事だった。この世は属性至上主義。より強力な属性を持つ者が正義であり、善である。それは階級にも生活にも影響し、生をも左右する。言わば、その者に課せられた運命。この後全てを決するモノ。

 

 しかし、上流階級の養子になったのなら、一先ずは平和に、幸せに暮らす事ができる。要は、彼女も非人間としてではなく、()()としての生を謳歌できる──

 

「ミーナ、ここから先は魔物も出るという。あまり刺激するわけにもいかないし、何かあっては大変だから、窓を閉めていなさい」

「⋯⋯はい」

 

 ──はずだった。

 

「ぐぁっ⋯⋯!?」

「ん、なんだ今の音は? 御者、何かあった⋯⋯っ!?」

 

 それは馬車が暗い森に入ったと同時に起こる。そこで、少女の運命は狂わされた。

 

「待ちかねたぜぇ、貴族さんよォ!」

 

 いつの間にか、馬車は複数の男達に囲まれていた。馬の手綱を握ってた御者は、胸から血を出して息絶えていた。その傷は鋭く、刃物で突き刺されたかのような跡だ。

 

「な、何をする貴様ら! 私が誰か分かっ⋯⋯がぁ、はぁっ⋯⋯!」

 

 すぐさま少女の義父が馬車から飛び出すも、男に刀身が黒く染まった剣で胸を深く突き刺される。剣が引き抜かれると、その切っ先には光り輝く宝玉が突き刺さっていた。先ほどまで無かったはずのそれを男が剣から引き抜くと、黒い剣は粉々に砕け散る。剣は柄すら残らず、跡形もなく消え去った。

 

「分かってるから来てんだよ。おい! 中の奴らも奪い殺せ!」

 

 リーダーらしき男がそう命じると、倒れる義父にも目をくれず、周りの男達は馬車へとなだれ込む。

 

「や、やめなさい! 離しなさいっ!」

「うるせぇアマだなぁ! お前もすぐ死ぬんだよ!」

「や、やめっ⋯⋯あ、がっ⋯⋯は⋯⋯」

 

 その刹那、女性の背後から剣が突き刺さる。それは彼女の夫を突き刺したモノと全く同じ黒い刀身で、引き抜くと光り輝く宝玉が切っ先に付いていた。彼女を突き刺した男は大事そうにその宝玉を奇妙な小瓶に入れた。

 

「手間をかけるな。おい、その子供もこっちへ連れて来い。剣は残り一本しか無いのだからな。大事に、丁寧に。抜き取らなければならない」

「あ、ああ。すまねぇな、ケイさん⋯⋯」

 

 少女の義母を突き刺したのはリーダーらしき男──ケイと呼ばれた者だった。その手に持つ黒い剣や髪と同じ色を持つ目は、冷酷にも少女を見下していた。明らかな敵意──いや、獲物を見るかのような、自分と同じ人間だとは思っていないような目で。

 

「⋯⋯というわけだ。お前もこっちへ来い! 安心しな、痛みなんて一瞬だからよォ!」

「いや⋯⋯っ。来ないでぇ!!」

 

 少女は怯えて抵抗するも、その努力は儚く散る。いとも容易く引き下ろされ、地面に叩き付けられた。そのまま剣を振り下ろされるかという一瞬、何かによって剣は弾かれ、黒い剣が空高く舞う。

 

「10人弱、そして、その装備とその宝玉⋯⋯お前ら、最近ここらで噂の属性狩りだな? その娘から手を離せ」

「だ、誰だ⋯⋯!?」

 

 少女の後ろには、ごく普通の剣を持つ茶髪の男が居た。年齢は20代後半程度で、その黒き瞳は真っ直ぐに敵を視認し、敵意を露わにしている。

 

「⋯⋯お前らの()()()だな。一度で聞けばいいものを、何度も繰り返す。──もう一度だけ言おう。その娘から手を離せ。まぁ⋯⋯離さなくてもお前らは捕まえるがな。俺はハンター、お前ら属性狩りを捕まえる者だ」

「⋯⋯はん、たー⋯⋯?」

 

 少女の運命は、そうして狂わされ。否、終わるはずだった運命が、その青年によって変革させられた。ここから少女の運命の歯車は、徐々に変わる。それが良きものか悪きものかは、この時の少女にはまだ分からなかった。


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