後ろに振り向けば、そこにいたのは一つ下の学年である男子。
「お前たちというやつは、どうしてそんなにやる気がないんだ!」
「んん~~~?」
「どうしてって言われてもやる気が出ないものは出ないんですよ、士門君。そんなことより、今朝の合同演習はどうでした?」
何かと天馬に突っかかる彼の名前は斑鳩士門。後方に向けて尖った赤い髪と大きな眼鏡をしているのが特徴の少年だ。
彼もまた天馬と同じ天将十二家の一つ、斑鳩家の人間である。外院周助ーーー養父から聞いた話だと何やら複雑な事情をお持ちのようで、分家の人間でありながら今は本家の方でお世話になっているらしい。
「学年いっこ下のてめぇには関係ねぇだ「ある!合同小隊演習で俺たちは同じグループなんだ!」
面倒そうに口を開く天馬の言葉を遮って、士門君は更に詰め寄ってくる。どうにも根っから真面目である彼は天馬との仲が良くない。
「お前たちが朝練をサボったせいで、俺たちのグループだけ今朝何もできなかったんだぞ!!」
「うるせぇなぁ~~~。仲間なんて俺には必要ないって言ってるだろ!」
「……」
天馬の放った何気ない発言に思わず顔が歪む。
天馬がそんな風に常から考えていることは知っているのに………それでも彼の口からそんなことが出るのは何だか嫌なものがある。
「あっ……澪、」
天馬が私の方を見て何か言おうとしたが、そのタイミングで士門君が力強く拳を握り言葉を続ける。
「お前はっ………、諸先輩方に申し訳ないとは思わないのかっ!!俺は鵜宮の方々は皆素晴らしい陰陽師ばかりだと思っていたのにっ…!!」
「じゃあてめぇが鵜宮家に入ればいいだろ斑鳩が嫌なら代わってやろうか?」
やや早口でそう士門君に言う天馬から目を逸らし、私は先に教室に行くことにした。
「お前という男は~~~~っ!!!」
「やんのかぁあ~~~~~っ!!?」
聞こえてくる内容から二人が取っ組み合いを始めそうだなぁと思ったその時、一人の女の子の声が聞こえた。
「やめなさい、二人共!」
肩越しに振り返った視界に入るのは、いかにも委員長然とした女子。
鵜宮泉里、12歳。ほとんどの人が次の鵜宮家当主と目する人だ。
目が合ったので彼女に軽く会釈して階段の方に足を進めてたら、無言で天馬が私の横に並んできた。
「……相も変わらず、泉里さんには弱いですね貴方は」
「うるせぇ」
天馬と士門君との間で諍いが起こるのはいつものことだし、それを泉里さんが止めるのだって見慣れた光景なのだ。
「…………なぁ澪、さっきのは」
「別に気にしてないですよ」
そう言うと天馬は「嘘だ」と言いたげな表情をする。まぁ確かに何かしら思うところがあるのは事実だが。
「だって別に仲間という関係でないと、天馬の隣に居られないってわけでもありませんから」
「……そうかよ」
そう言った天馬が教室の扉を開けたその瞬間、唐突に彼は険しい顔になって動きを止めた。