ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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遅くなりましたが、続きです。

ダイジェスト版のようなものがあればいいというのが、感想の欄にありました。ああ、たしかにそうだって作者も思いました。すぐに、というわけにはいきませんけど、そのうち実現したいと思っています。


第118話 「魔法使いの屋敷にて」

 ある魔法使いの屋敷にアルテシア・ミル・クリミアーナの姿があった。ヴォルデモートとの会談のために訪れたのだが、その応接の部屋にとどめられたまま、どれくらいの時間が過ぎたのか。

 そのことを、アルテシアは考えないようにしていた。いずれにしろ、ここにいるしかないのだ。ならば監視役のつもりで一緒にいる男から、なにか情報が引き出せないかと、そちらのほうに注意を向ける。だがワームテール、あるいはピーター・ぺティグリューという名の男は、ろくな情報を持っていないようだ。意識して隠しているのなら大したものだが、実際には何も知らない、いや知らされていないのではないか。

 話をするだけ無駄だと判断したアルテシアが、ついには話をするのが苦痛となってきたころとなって、ようやくにしてヴォルデモートが顔を見せた。ワームテールにはお茶の用意を命じ、アルテシアの対面に座った。

 

「お待たせしてしまったかな。申し訳ない」

 

 と、そんなことはちっとも思っていないであろう言葉を口にする。アルテシアも、軽くほほえんで見せただけ。スネイプは、姿を見せない。どうやら、本当にこの屋敷にはいないらしい。その気になればそれを確かめるくらいのことは簡単なアルテシアだが、そのためには魔法を使うことになってしまうため、自重している。

 いま、この屋敷の中にいるのはほんの数人。テーブルを挟んでソファーに座っている2人と、言いつけどおりに飲み物を用意し、並べていく男くらいなのだろう。

 

「心細いのではないか」

 

 アルテシアは、何も言わない。ただ静かに、ヴォルデモートを見つめていた。ヴォルデモートのほうは、その視線には応えずワームテールに部屋を出て行くようにと指示をする。そして、改めてアルテシアをみた。

 

「正直に言ったらどうだ。セブルス・スネイプはどうしたのだろう。なぜいないのだろう。自分は置いていかれたのか。いないと不安だと」

「そうですね」

「言っておくが、セブルスだけではないぞ。この屋敷には誰もいない。おまえとオレの2人だけだ。そのほうが、じっくり話ができると思わんか」

 

 実際にはワームテールがいるのだが、ヴォルデモートのなかでは数に入っていないらしい。それにはアルテシアは、ただ軽く微笑んでみせただけ

 

「小娘。おまえがあの男からなにを聞かされていたかは知らん。知らんが、何も期待はするな。セブルス・スネイプは、ダンブルドアの手駒ではない。オレさまの忠実なる部下であり、デス・イーターだ」

「仮にそうだとしても、わたしの先生です。スネイプ先生には、たくさんのことを教えていただいたきました。それで十分です」

「ほう。これは傑作だ。たとえば何だ? あの男が、いったいおまえに何を教えたというのだ」

 

 だがその問いに、アルテシアが答えることはなかった。いくらかの間があったのは確かだが、アルテシアが答えるより速くヴォルデモートが言葉を続けたからだ。彼にとっては、スネイプの教師振りなどどうでもいいことなのだろう。

 

「そういえば部下の1人が言っておったな。おまえと相対したとき、杖になにかされて魔法を打てなかったと。だがその方法をセブルスが教えたのだとは思わん。おそらくはクリミアーナ家の秘術なのだ。そうであろう?」

 

 だがアルテシアは、軽く首を傾げて見せただけ。ヴォルデモートの言うことに思い当たることがなかったからだ。

 

「ベラトリックス・レストレンジという魔女がいる。もちろん忠実な部下であり、極めて優秀な魔女だが、さて。おまえとどちらが上か、勝負してみないか。向こうはやる気満々だったぞ」

 

 と言われても、どう返事をすればいいものか。それが思いつかないアルテシアは無言を守る。

 

「どうした。この勝敗には、非常に興味があるのだが」

「とりあえず、ご遠慮させていただきます」

「まあ、よかろう。ともあれ、おまえたちの魔法は実に興味深いものだ。独特な学習法も面白い。ダンブルドアにしても、それらを間近に見るため、そばに置くためにおまえをホグワーツに入れたのであろうことは疑いがない」

「魔法書のこと、ご存じなのですよね」

「ああ、知っているぞ。ダンブルドアよりも詳しいはずだ。なにしろ、おまえの一族の家に滞在していたことがある」

 

 それがミルアーナ家であること。そのことはアルテシアも承知しているのだが、ここでは口に出さない。少しずつだが、アルテシアにとっての本題へと話は近づいてきつつあるのだ。この機会を逃すつもりはない。

 

「その家で魔法書をご覧になったのですね。でもそれ、すぐには読めなかったのではないですか」

「そうだな。あれは数年かけて学ばねばならぬものだと聞いた。さしずめ、ホグワーツで7年学ぶようなものだろう」

「どれほど、勉強されましたか。読めるようにはなったのですか」

 

 この問いかけに、ヴォルデモートがどういう返事をしてくるのか。アルテシアにとっては、大きな関心のあるところ。だがもちろん、ヴォルデモートが同じとは限らない。

 

「そんなことが気になるのか。それよりも、オレさまがどうして魔法書の存在を知っていたのか。それを探そうと思ったのか。そちらをこそ気にするべきではないか」

「え?」

 

 言われてみれば、その通りなのかもしれない。そんな思いが、アルテシアの頭の中をよぎる。そもそもアルテシアは、クリミアーナ家など、魔法界では忘れられた存在だと思っていた。ましてや、魔法書のことを知っている人などいるはずがない、と思っていたのである。少なくとも、マクゴナガルがクリミアーナ家を訪ねてくるそのときまでは。

 

「気にならぬと言うならそれでよいが、このオレが、魔法書を学びたい、学ぼうとは思ったのは確かだ。おまえたちの魔法を得ようと考えた。だが結局、そうはしなかった。なぜだかわかるか、小娘」

「あっ、あの、ええと、どういう判断があったのかはわかりませんけど、少なくとも、魔法界を手に入れる役には立たないと思われた。そんなところでしょうか」

 

 もちろん、この話をしたくてここまで来たのだ。まさにその話になろうとしているのに、前の話に戻りたいと思ってしまうことに戸惑いを覚えるアルテシア。

 

「あれはまだ、若い頃の話だ。おまえなど、生まれてもいなかったころのことになる」

 

 この話を進めたいという思いと、前の話に戻りたいという思い。その2つがアルテシアのなかでせめぎ合う。そんなアルテシアに気付いているのかいないのか、ヴォルデモートの話は進んでいく。

 

「たしかルミアーナとかいったはずだが、おまえの家と関わりがあるのは間違いなかろう」

「ええと、確かにそうですけれど、でも、どうしてご存じなのですか?」

 

 その問いには2つの意味が込められているのだが、ヴォルデモートからの返事は1つだけ。すなわち、ルミアーナに関することになる。

 

「特徴のある魔法だからな。ひとめ見ただけで、すぐにわかったのだ。あの家の者はクリミアーナの魔法を使えると」

「なるほど。それで、魔法を学ぶことにはしたのですよね」

「そういうことだが、結局のところあれはオレさまには不要なモノだった。そういうことになる」

「何故です? 魔法書を望まなかったのは何故ですか」

 

 アルテシアにとって重大な関心のある部分であるためか、次第にアルテシアはヴォルデモートの話に引き込まれていく。

 

「欲しい、とは思った。だが時間がかかりすぎるのだ。オレさまにとっては、魔法界を従えるなど難しいことではない。そこまで時間をかける必要を感じなかった」

「しかし、それに対抗しようとする人は多いのでは。たとえばダンブルドア校長が立ちふさがるのではないですか」

「ダンブルドアか。なるほど、あの男であれば邪魔をしてくるであろうな」

「勝てますか?」

 

 どうやらその一言は、ヴォルデモートの気に触ったらしい。いくらかの不機嫌さが混じった顔をアルテシアに向けた。

 

「ダンブルドアなど、問題ではない。肝心なのはおまえだ、小娘」

「わたし、ですか」

「仮におまえがダンブルドアに手を貸し、オレさまの邪魔をしたとしよう。さすれば、状況は大きく変わることになる。だが」

 

 そこまで言って、ヴォルデモートはニヤリと笑って見せた。

 

「あいにくと、そんなことにはならぬのだ。なぜだかわかるか」

 

 問いかけの形となっていたが、ヴォルデモートはアルテシアの返事を待つことなく話を続ける。答えなど求めてはいないらしい。

 

「おまえ、ダンブルドアを嫌っているだろう。セブルス・スネイプの報告などからそう判断したが、どうだ。違うか」

 

 実際はどうなのだろう。束の間、アルテシアは考える。その考えている間にも、ヴォルデモートは話を続けていく。

 

「そのような相手に手を貸そうとはしない。オレさまの理解によればそうなるのだ。ゆえにおまえが、ダンブルドアと手を組むことはない。そこがポッターとは大きく違う」

 

 なるほどヴォルデモートの言うように、ホグワーツでアルテシアは、ハリーのようにはダンブルドアと近しい関係ではない。むしろマクゴナガルと親しいのだが、そこまでヴォルデモートは知っているのかどうか。

 

「なぜおまえをここへ呼んだのか。なぜおまえは、ここへ来たのか。よほどの阿呆でない限り、答えは明らかだ」

「なるほど。ですけどわたしは、あなたの部下になるつもりなどありませんよ」

「さもありなん。だが今、おまえを仲間とするのは、さほど難しいことではない。例えば、こうすればよいのだ」

 

 ヴォルデモートの手の中には、いつのまにか杖が。すばやく振られた杖から発せられた光が、アルテシアの身体を貫く。おそらくは、無言呪文であるのだろう。掛け声もなくいきなり飛び出した光が、あっという間もなくアルテシアの胸のあたりを貫通していく。

 

「ふうむ、何の抵抗もなしとはな。イザとなればこんなものかもしれんが、さて。まだまだ子ども、とでも思えばよいのか」

 

 軽く顔を左右に振る、ヴォルデモート。その視線は、前のめりにテーブルに突っ伏した格好のアルテシアをじっと見つめている。そして、ゆっくりと席を立つ。その視線は、相変わらずテーブルに顔を伏せたままのアルテシアから動かない。

 

「だが、文句など言うべきではあるまい。なにもかもが手に入ったのだ。クリミアーナは我が手に落ちた。オレさまが魔法界を掌握するための障壁が今、取り払われたのだ。すなわち魔法界は、オレのものになったというわけだ」

 

 いまにも得意げに笑い出しそうな、そんなふうにも思えたが、笑い声が発せられることはなかった。そのときちょうど、部屋に入ってきた者がいたからだ。

 

「セブルス、ではないか。なぜ戻ってきた。どうしたというのだ?」

 

 入ってきたのは、セブルス・スネイプ。アルテシアのほうにはチラッと目を向けただけで、すぐさまヴォルデモートの前へと歩み寄る。

 

「ご報告することがございます」

「あ? 報告だと。ああ、ホグワーツ襲撃のことか。失敗したなどとは聞きたくもないが」

「もちろん、朗報でございます。ダンブルドアのことですが」

「おお、どうなった? 仕留めたか」

 

 ゆっくりとうなずくスネイプ。対して、ヴォルデモートは。

 

「本当か。間違いないか。確かなのだな」

「間違いありません。いまホグワーツは、大混乱となっております」

「そうか。当然そうなるだろう。よし、このオレも顔をだしてやるか。ポッターめを見つけることができるかもしれん」

「お気をつけください。不死鳥の者どもが集まっております。ホグワーツの教師陣や、魔法省の闇祓いなども」

 

 そんな注意など必要ないとばかり、ヴォルデモートが声を荒げた。なにしろ、ダンブルドアが消えたのだ。もはや、少しは対抗できそうな者すらいなくなったと言うのである。そして、その手にある杖でアルテシアを指し示す。

 

「見よ。なにより厄介だと思っていたこの娘にしてもが、このありさまなのだ。もはや、このオレを止められる者などいやしない」

 

 そんな言葉を得意げに続けていくヴォルデモートの前で、スネイプは静かに膝をつき、頭を下げた。

 

 

  ※

 

 

 その部屋で、相変わらずアルテシアはテーブルに突っ伏していた。そこにヴォルデモートの姿はなく、スネイプがいるだけ。そう、ヴォルデモートが屋敷を出てしまってからも、スネイプはここに留まっていた。ときおり部屋を出ることはあったが、ずっとこの部屋にいてアルテシアをみていたのである。

 そのスネイプが、ふーっと大きく息を吐いた。それまで部屋の隅のほうに立っていたのだが、ゆっくりと歩を進めていくと、アルテシアの前に座った。

 

「もういいでのはないか。そろそろ話をしたいのだが」

 

 あたかもそれが合図となっていたかのようだった。閉じられたままだったアルテシアの目が、ぱっと開かれた。そして、ゆっくりと身体を起こしていく。

 

「闇の帝王はお出かけになった。吾輩は、おまえを見張るようにと指示を受けている」

「そう、ですか」

 

 右を見て、そして左。それからまっすぐに前を向く。軽く、深呼吸。

 

「おまえが今夜、どんな話をして何を思い、そして、どんな決定をしたのか。それを尋ねることはしない。なぜなら、吾輩は吾輩の思ったようにするからだ。なにもかも予定通りに進めていくが、それでかまわんな?」

 

 すぐには、アルテシアから返事はない。もう一度、周囲を見回していく。そして。

 

「ワームテールという方がおられたはずですけど」

「そうだな。屋敷のなかにはいるが、この部屋に近づくことは禁じておいた。もっとも、盗み聞きくらいはしようとするだろうがな」

「それでいいのですか」

 

 ワームテールという男のことを、アルテシアは詳しくは知らない。だがスネイプの口ぶりからは、いささかも気にしていないことがうかがえた。なのでアルテシアも、スネイプと同じように頭の中からその存在を追いやることにした。

 

「これからのことだが」

「はい」

「おまえは、クリミアーナに戻っておれ。そのほうが、なにかと都合がいい」

「それは、誰にとっての、どんな都合なのですか」

 

 その質問にスネイプは、ふんっ、と鼻先で笑って見せた。そんなのは言うまでもない、といったところだろう。

 

「これから、なにかと慌ただしくなる。吾輩の立場も確保しておかねばならん。そういうことだ」

「スネイプ先生にとって、そのほうがよいのですね」

「いまは、そうだ。おまえの面倒などみている余裕がない」

 

 それは、具体的にはどういうことなのだろう。アルテシアは考える。だが難解なその問題には、容易に答えは出てこない。そのための情報が足りないからだ。

 

「学校、ではなくクリミアーナなのですね」

「そうだ。おそらく授業も中止となるだろうから、ちょうど良いではないか」

「それは、校長先生が亡くなられたからですか?」

 

 スネイプの片方の眉が、ぴくりと動いた。だが、それだけのこと。いつもの無表情が崩れることはない。

 

「その通りだが、なぜだ。おまえがそれを知っているはずはないのだが」

「ホグワーツ襲撃のことを、さきほど」

「ああ、あれか。聞こえていたとは思わなかったが、たしかにその話をしたな。帝王はお喜びだった」

「それなのに、学校に戻らなくていいのでしょうか」

 

 戻れば、何かしらすることはあるはず。そんなアルテシアの主張は、即座にスネイプから却下される。

 

「わざわざ、混乱の中に飛び込むことはない。おまえが行けば、さらに拍車をかけることになる。落ち着くまでは離れているほうがよいのだ」

「ですけど」

「やめておけ。今さらおまえが行ってどうなるというのだ。じきに騒動はおさまるだろう」

「だとしても、行った方が」

「いいから、黙って聞け」

 

 アルテシアの言葉をさえぎると、スネイプは、学校には不死鳥の騎士団メンバーや闇祓いたちが駆けつけており、騒動は収束に向っていることを告げる。意気揚々と出かけていったヴォルデモートにしても、すぐに撤退することになるはずだと言うのである。それというのも、襲撃への対処が早かったからであるらしい。

 

「なぜか闇祓いの、それも見習いの者が駆けつけてくるのが早くてな。デス・イーターどもも戸惑ったことだろうが、見習いにしてはなかなかの腕前だった」

「そうですか」

「たしか、その見習いの指導をおまえがしていたはずだな」

 

 それが魔法省より依頼されたアルテシアの仕事なのだから、そうするのが当然。参加自由の勉強会のようなものになってはいるが、今も3名ほどの出席者がいる。学校に駆けつけたのはその3人で、おそらくそれを率いたのはトンクスではないか。アルテシアは、そんなことを考える。

 

「それはさておき」

 

 アルテシアが少し考え込むようなそぶりをみせたからか、スネイプは、話の方向を変えてきた。

 

「その者らの活躍もあって、もうじき、デス・イーターたちが逃げ帰ってくることになるだろう」

「ここへ、ですか」

「そうだ。何人かは拘束されたにせよ、逃げおおせた者も多かろう。このままでは、ここでおまえと顔を合わせることになる」

 

 そういうことなら当然そうなるが、だからといって、アルテシアにはどうしようもないことだ。戻ってくるなと言える立場ではない。いや、言う必要もない。

 

「ベラトリックス・レストレンジも、戻ってくるだろう。あの女が、やすやすと捕まるはずがないからな」

「その名前、例のあの人も言ってました。どういう人なんですか?」

「気になるか。もしかすると、おまえの宿敵となるかもしれぬ女だ。実力が伴えば、という話にはなるが」

 

 アルテシアが、少しだけ首を傾けてみせた。今ひとつ、スネイプの言うことが頭に響いてこないのだ。

 

「とにかく、だ。デス・イーターどもが戻ってくれば、なにかと面倒になる。今すぐクリミアーナに戻れ。そのうち連絡する」

「そうですか。でも、先生。例のあの人、ヴォルデモート卿も戻ってきますよね」

「ああ、そうだな。あのお人こそ、おいそれと捕まったりはしない」

「だったら」

 

 そういうことなら、すぐクリミアーナに戻るのは避けるべきではないか。ヴォルデモートなりデス・イーターなりの何人かが戻り、アルテシア自身が屋敷にいることを確認させてからのほうがいい。さもないと、困ったことになる。

 

「そんなことは、おまえが気にすることではない」

「いいえ、先生が困ることがわかっているのにそんなこと。それより先生、約束のことですけど」

「なんの約束だ?」

「この屋敷で、わたしは魔法を使ってはいけないと」

 

 そう言ったアルテシアを、スネイプはあきれたように見つめる。

 

「魔法を使わせろ、つまりは戻ってくるデス・イーターらと戦わせろということか。ばかものめ」

「違います、先生。念のために、ということです」

「どういうことだ?」

「だから、念のためにです。予想外のことが起きなければ、それでいいんですけど」

 

 まだ何か言いたそうにはしていたスネイプだったが、ここで時間切れ。屋敷の中が、にわかに騒がしくなってきたからだ。デス・イーターの誰かが戻ってきたようだ。

 

「戻ったか。さて、何人が戻ってきたやら」

「あの、先生」

「話は終わりだ。とにかくおまえは、クリミアーナに戻れ。戻るための魔法だけ使ってよい。連絡するまで、向こうでおとなくししておるのだ。わかったな」

 

 つかつかと歩き、部屋を出て行く。デス・イーターの出迎えなのだろうが、同時にその間にクリミアーナへということでもあるのだろう。だがその思惑とは裏腹に、ややあってこの部屋へと戻ってきたときにも、そこにアルテシアはいたのである。

 

「おーやおや、本当にいたねぇ。あたしゃ、とっくに逃げ出してるって思ってたけどねぇ」

 

 真っ先に部屋に入ってきた魔女が、そんな言葉とともに嘲笑気味な笑みを見せる。続いて、デス・イーターたちが次々と。もちろん、その中にスネイプもいる。そのスネイプは無言のままでアルテシアを見ていたが、アルテシアはその魔女に声をかけた。

 

「ホグワーツ、どんな様子ですか?」

「なんだって?」

「襲撃されたと聞きました。わたし、ちょっと様子を見に行けないんで、教えてもらえたらって」

「さすがに生意気なことを言うねぇ。いいさ、教えてやるよ。あたいとの勝負に勝ったらね」

「勝負?」

 

 きょとんとした顔のアルテシアに、その魔女はなおもあざけるように笑ってみせた。

 

「おまえがここにいることは、聞いてたさ。正直、見張りとしてセブルス・スネイプが番をしてるって聞いて心配はしてたんだけど」

「それは、どういう意味かな。聞いてもよいか」

 

 思わず、なのだろう。ずっと黙っていたスネイプが、そんなことを口走った。その魔女が、待ってましたとばかり、スネイプを見る。

 

「大事な大事な教え子、なんだろう。あたしはね、わが君におまえがこの娘を差し出すはずがない。ずっとそう思ってたんだよ」

「だから、とっくに逃がしている。ここにいるはずがない。そう思っていたと言うのだな」

「ああ、そうさ。どこか、間違ってるところでもあるってのかい?」

 

 その場の空気が一気に凍り付く。その緊張をほぐしたのは、最後にこの部屋に入ってきた男だった。

 

「やめておけ、ベラ。クリミアーナの娘は、ちゃんといるではないか」

「わっ、わが君!」

 

 ベラと呼ばれた魔女が、すぐさま男の前に出て跪く。他のデス・イーターたちも同じだ。

 

「このオレの指示通り、セブルスはクリミアーナの娘を連れて来た。指示通り、ここで見張っていた。オレさまに忠実であるからこそ、小娘はここにいるのだ。そうではないか」

 

 しゃべりながらも、部屋の中ほどへと歩を進める。デス・イーターたちからは、なんの反論も聞こえてこない。その男、ヴォルデモートが改めてスネイプを見る。

 

「ご苦労だったな、セブルス。おまえは、これからホグワーツに戻るのだ。小娘の見張りは別の者にまかせることにする」

「わが君、わが君。そのお役目、ぜひともこのわたくしに」

 

 ベラと呼ばれた魔女、すなわちベラトリックス・レストレンジからの願いは、すぐさまヴォルデモートによって許可される。

 

「言わずもがなだとは思うが、十分な注意が必要だぞ。その娘の存在は重要な意味を持つ。手放すことなどできんのだ」

「ご安心ください、わが君。この杖にかけましても」

「それから、セブルス」

 

 ベラトリックスへの話はそれまでとばかり、ヴォルデモートがスネイプへと向き直った。

 

「ダンブルドアが消えた今、ホグワーツを手に入れるという選択肢が生まれた。すなわち、校長職を手に入れるのだ」

「そんなことができますか」

「では、マクゴナガルに譲るのか。なにもせねば、そうなってしまうぞ。他には候補などおるまい」

 

 だからといって、どうしろというのか。あるいはそんなことを思ったとしても、それを表情に出すようなスネイプではなかった。

 

「心配はいらぬぞ。魔法省関係の根回しは、進めておる。おまえは、ホグワーツの教師どもからの支持を得ていくがよい。きっと役立つだろう」

「そうですか」

「わかったなら、早く行け。この件も重要なのだ。必ず実現せねばならん」

 

 ヴォルデモートにそう言われてしまえば、拒否することは難しい。つまりスネイプには、黙ってうなずき静かに部屋を出て行く以外の選択肢はない。

 

「では、わたしは一旦、自宅に戻らせていただきます」

 

 そう言い残してスネイプがいなくなると、邪魔者はいなくなったとばかり、早速にベラトリックスがアルテシアへと向き直る。

 

「では、お嬢ちゃん。勝負といこうか」

 

 すでにベラトリックスの手には、当然のように杖がある。やる気満々といったところだが、アルテシアのほうは杖を出して構えることもなく、立っているだけ。

 

「どうした? 杖くらい出したらどうなんだい」

 

 だが、アルテシアは軽く微笑んでみせただけだった。当然、ベラトリックスはいらだちをみせたが、ヴォルデモートが口を挟んでくる。

 

「あー、言い忘れていたが、ベラ。小娘には、服従の呪文がかけてあるのだ」

「服従の呪文、ですか」

「あのう、わが君。たしかその娘には、インペリオ(Imperio:服従せよ)は効かなかったはずです」

「なんだと」

 

 戻ってきていたデス・イーターたちのなかから、そんな声がかかる。なんでもその男は、かつてアラスター・ムーディーになりすましてホグワーツに潜入していたバーテミウス・クラウチ・ジュニアから聞いたことがあるのだという。

 

「つまり授業で実際にかけてみたが、失敗したというのだな」

「そうです。そのように言っておりました」

「だが、それはあらかじめわかっていたからではないのか。ふいに呪文をかけたなら……」

 

 そんなヴォルデモートの言葉が終わらないうちに、デス・イーターたちのなかから、声が上がる。

 

「あの娘がいないぞ」

「なんだ、消えた? 姿くらまし、したのか」

「いや、違うだろ。音がしなかったぞ」

「何故だ。何をしたんだ?」

 

 デス・イーターたちがヴォルデモートに注目していたほんのわずかの間に、アルテシアがいなくなってしまったのである。

 




 アルテシアと、例のあの人との会談の回でした。この2人に、どのような話をさせるのか。実は、何度も何度も書き直しました。それが時間がかかった原因の一つでもあります。それこそいろんなパターンの話をさせましたけど、書いては消し、書いては消し、というのが続き、こんなところに落ち着きました。
 といいますのも第7章があるからで、この物語はもう少しだけ続くからです。なので、あっさりめで終わらせることにしました。決着つけるのはもう少し先ってことです。
 次回は、校長先生の葬儀などの話です。
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