ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第120話 「6年目の終わり」

 大広間に、生徒たちが集められていた。ダンブルドアの葬儀の時間がくるまで待機しているのである。さすがにダンブルドアの葬儀ということもあり、多くの人がホグワーツを訪れていた。学校近くのホグズミード村で宿を取った者たちもいれば、魔法省の役人のようにホグワーツに泊まった者などさまざまであるが、ホグズミードの宿は不足気味であったらしい。

 大広間で待機しているのは、そのときまでに家族が迎えに来るなどして帰宅した生徒たちも一定数いるため、生徒たち全員という訳ではない。

 

「あれから少し、調べてみたんだけど」

 

 グリフィンドールの生徒たちが集まったテーブルの片隅で、ハーマイオニーが両隣にいるハリーとロンに話しかける。大広間ではあちこちでおしゃべりが行われており、ちょっとした内緒話などはそんな喧噪に紛れてしまうと考えたのだろう。

 

「図書館でかい? 何を調べたんだよ」

「いいえ、図書館じゃないわ。そうね、いろいろと考えてみたっていうのが正しいのかしら」

「そんなことはいいよ。それで?」

 

 いくつか気になることがある、とハーマイオニーは言った。あの夜ダンブルドアは学校を留守にしており、そこへデス・イーターたちが襲撃してきたのだが、それは偶然なのかどうか。

 

「いないのを知ってたって言うのか。それって、誰かスパイでもいるってことになるよな」

「それにね、ロン。あのときはアルテシアも学校にいなかったのよ」

 

 デス・イーターたちの襲撃は、ダンブルドアの留守を狙ってのことなのか。あるいは、アルテシア。それとも、まったくの偶然なのか。

 

「そんなの、わからないさ。わからないけど、今さらどうでもいいこと、かもしれないな」

「ええ、そうなのかも。でもねハリー」

「いいんだ、ハーマイオニー。どっちにしろぼくには、そんな余裕はないからね。やらなきゃいけないことがある」

 

 何をするのか。それをハリーは言わないし、ハーマイオニーも尋ねない。そんなことしなくても、どちらも承知しているのだろう。少しだけの沈黙の時間。

 

「だけどハリー。探すにしても、なにか目処はあるの? なんのあてもなく探しても時間を無駄にするだけだと思うわ」

「でも、探すしかないんだ。見つけなきゃ、ヴォルデモートを倒せない。そうだろ?」

「そうだけど……」

「残っている分霊箱は、ヘルガ・ハッフルパフのカップとスリザリンのロケット、それにグリフィンドールかレイブンクローの何かと蛇だ。ダンブルドアがそう言ってた」

 

 それらが分霊箱であること。それは間違いないのだから、とにかくそれらを探しだし破壊する。まずはそれを目標にするのだとハリーは言った。ロンが何かを言いかけたが、ハーマイオニーのほうが早かった。

 

「落ち着いて、ハリー。闇雲に突き進んではダメ。何事にも準備は必要なのよ。落ち着いて、ゆっくりと始めたほうがいいと思うわ」

「そんな余裕はないんだ。ヴォルデモートは派手に動き出し始めた。ホグワーツだって襲われたじゃないか」

「ええ、そうよね。でもハリー、まずはスリザリンのロケットがどうなってるのか、そこから始めましょう。R.A.B のことだって調べたほうがいいと思うわ」

「そうだぜ、ハリー。思い出したんだけど、3年生になったときにみんなでダイアゴン横丁の宿に泊まったことがあったじゃないか。ガラガラさんの話が出たのはそのときだ」

「ええ、ハリー。そのことであたしたち、ウィーズリーさんに話を聞くべきだと思う。きっと、いろいろなことがわかるはずよ」

 

 ウィーズリー夫妻に聞けば、ガラティアのことはわかる。そう言ったのは、ハーマイオニーだけではなかった。ロンも同じである。だがハリーは、そんな必要はないと言い張るばかり。ハーマイオニーは、大きなため息をつくしかなかった。

 

「ハリー、思い出して欲しいんだけど」

「何をだよ」

「あなたはダンブルドアから、スリザリンのロケットが魔法省にあることを聞いてるのよ。あたしたちにそう話してくれたじゃないの」

「えっ!?」

 

 ハリー自身は、すっかり忘れていたようだ。それは、シリウスがアズカバンへ収監されることになったマグルを巻き込んだ爆発事件で亡くなった魔法使いがアルテシアの親族であり、その遺品が見つかったというものだ。遺品は魔法省のものとなったようだが、そのなかにスリザリンのロケットがあったらしい。

 そんな話を、たしかにハリーはダンブルドアから聞いていた。

 

「思い出したか。今日は、2人ともここに来てるぜ。話をする機会はいくらでもある」

「わかった、わかったよ。スリザリンのロケットに関する真実を知るために必要だってことはわかった。そうするよ。だけどぼくは、分霊箱を探しに行くのを止めるつもりはない。ダンブルドアの葬儀が終わったら出発する」

 

 ハリーの決意は固いらしい。そのとき、式服に身を包んだ教師陣たちのいるテーブルから、マクゴナガルが立ち上がった。ダンブルドアの席が空席なのは当然だが、スネイプの席に、ルーファス・スクリムジョールが座っているのが見えた。

 マクゴナガルが立ち上がったことで、大広間のざわめきが、たちまちやんだ。

 

「まもなく時間です」

 

 そんなマクゴナガルの言葉が大広間に響いた。いよいよダンブルドアの葬儀が始まるのだ。

 

「それぞれの寮監に従って、校庭に出てください。グリフィンドール生は、私の後からおいでなさい」

 

 大広間に集まっていた生徒たちが、ほとんど無言のままで立ち上がり、列を作って歩き出す。スリザリンの列の先頭に立つのはスラグホーンである。スネイプの姿はなかった。レイブンクローはフリットウィック、ハッフルパフの生徒たちはスプラウトのあとから。

 玄関ホールに出ると、マダム・ピンスとフィルチがいて列に加わった。正面扉から石段を降り、全員が湖畔へと向かっていく。

 暖かい太陽の光が降り注ぐ湖畔には、何百もの椅子が何列にもわたって並べられていた。その中央には通路が開けられていて、その先に大理石の台が設置されている。

 続々と参列者が詰め掛け、席がまたたくまに埋まっていく。ロンが言ったようにウィーズリー夫妻の姿もある。ハリーたちは、列の奥のほうで湖の際の席に並んで座った。

 

「アルテシア、来てると思うか?」

「さあな。これだけ人がいるんだ。来てるとしても、見つけるのは大変だろう」

「来てないと思うわ。パーバティもいなし、レイブンクローのバドマもいないの。あのソフィアって子もいないそうよ」

 

 魔法省の役人も含めた教師陣も席に着いた。どこからともなく音楽が聞こえ、椅子の間に設けられた一筋の通路を、ハグリッドがゆっくりと歩いてくる。その両腕には、金色の星をちりばめた紫のビロードに包まれたものが抱かれている。ダンブルドアの遺骸がそっと大理石の台に載せられ、葬儀が始まった。

 

 

  ※

 

 

「すみません、遅くなりました。でも、あたしのせいじゃないですよ。ティアラさんですから」

 

 部屋に入ってくるなり、そう言ったのはソフィア。その後ろから、苦笑いを浮かべつつティアラが顔を見せる。あちこち飛び回っているティアラを連れてくることになっていたソフィアだが、ティアラの提案で寄り道をしたのだという。

 

「一応ね、確かめておきたかったんです。彼が死んだって話を聞いて、それが間違いのないのかどうか」

「ホグワーツに行きました。そしたらちょうど、校長先生の葬儀の最中で、たくさんの人が集まっていました」

「うわ。あたしたち、どうする? 行くべきだと思うけど」

 

 その意見に、否やはないとばかり、アルテシアが立ち上がる。

 

「ティアラ、話は後で聞くわ。待ってて」

「いいえ、そういうことなら一緒に行きますよ。何の危険もないとは思いますけど、一応ね」

「わかった」

 

 クリミアーナ家の部屋で話されたのは、それだけだった。

 

 

  ※

 

 

「ハリー!」

 

 ダンブルドアの葬儀が終わり、参列者たちが帰路へとつき始めた頃。ハリーはジニーと2人で、ダンブルドアの墓に背を向け、湖のほとりをゆっくりと歩いていた。そんなハリーを呼び止めたのは、ルーファス・スクリムジョール。

 

「少しいいかね。話したいことがあるのだが」

「ぼくにはありません、魔法大臣。失礼します」

「まあ、いいじゃないか。少しでいいんだよ。ほんの少し、一緒に歩いてもいいかね?」

 

 そう言いつつ、ジニーを見る。遠慮して欲しいと、その目が言っているかのようだった。ジニーは、にっこりと笑って見せた。

 

「魔法大臣。ハリーは、魔法界を救うことで大忙しなんです。早めに解放してあげてくださいね」

 

 そう言うと、校舎の方へと駆けていく。仕方なくハリーは、スクリムジョールと歩き始める。

 

「あれは、アーサーの娘だろう。ふむ、恋人なのだろうね?」

「別れ話をしてました。これからのことを考えたら、そうするのが一番いいと思ったので」

「おやおや、そんな大事な話を邪魔して悪かったね」

 

 ちっとも、そんなことは思っていないような顔のスクリムジョールに、ハリーはため息をついた。

 

「あなたには関係ないことです」

「しかし、ハリー。彼女を危険に巻き込みたくないとか、仮にそういうことが別れる理由なんだとしたら」

「だったら、なんだっていうんですか」

「そんな心配はいらないよ。キミが危険を感じているのなら、なにか協力できると思うんだが」

「それはどうも。だけど、魔法省になにかできるとは思えません」

「いやいや、そうでもないよ。これでも、いろいろと準備はしてきているのだ。ダンブルドアとも話し合いはしている」

「何を、ですか?」

 

 さすがにハリーは、立ち止まる。そのことに、スクリムジョールもほっとしたように足を止めた。

 

「今回のことは、とても残念なことだった。ダンブルドアと非常に親しかったことは知っているよ。我々もそうだが、キミもさぞかしショックを受けたことだろうね」

「どんな話をしたんですか?」

「ダンブルドアが死んだ夜のことだが、キミは一緒に学校を抜け出していたそうだね」

 

 そんなことは聞いていない。一気に不機嫌そうな表情となったハリーに、スクリムジョールは苦笑い。

 

「ダンブルドアには秘密主義なところがあってね。肝心なところは話さないのだ。そこで、キミに」

「そのことなら、話すことなどありません。ダンブルドアは誰にも知られたくなかった。誰にも話すなとぼくに」

「いやいや、ハリー。キミは十分に分かっているはずだよ。魔法界のためにはどうするのがよいのか」

「ぼくにはわかりません。何もお話しすることはありません」

 

 驚いたように、半ばあきれたかのように、スクリムジョールが首を振る。

 

「では、ハリー。キミは魔法省には協力しない、したくないとそう言うのだね?」

「とにかく、そういうことです。失礼します」

 

 そう言って離れていこうとするハリーを、もう一度スクリムジョールが呼びとめる。

 

「待ちなさい、ハリー。魔法省はキミの保護をすることになっているのだ。キミのために優秀な闇祓いを配備することができる」

「必要ありません。ぼくが魔法省にお願いしたいのはたった1つだけです」

「聞こう。なんだね?」

 

 ハリーは、ゆっくりと深呼吸でもしているようだった。息を整えてから言うつもりのようだ。それを、スクリムジョールが待つ。

 

「ぼくが魔法省にお願いしたいのは」

「なんだね」

「ぼくには関わらないで欲しい。それだけです」

 

 そう言い残して走り出したハリーを、スクリムジョールは見送るしかなかった。当然、追いつけるはずもない。その残されたスクリムジョールの後ろから、声がした。

 

「ハリーに付ける闇祓いって、誰ですか。話し合いができていたようなことをおっしゃいましたよね?」

「誰だ! ああ、お嬢さん。キミかね」

「話し合いのお相手はダンブルドア校長でしょうか。いつ頃のお話ですか」

「なんと。聞かれていたとは思わなかったが、立ち聞きするなど、お嬢さんには似合わないのではないかね」

 

 そうかもしれないが、意識的にしたことではなかった。たまたま聞こえてしまったのであり、その内容を聞き流すことが無理だっただけのこと。

 

「教えていただけますか、魔法大臣」

「ふむ、どうするかな。ダンブルドアから話すなと言われているので、お嬢さんに教えるわけにはいかないのだが」

「そうですか。では、無理にとはいいません。ごきげんよう」

「あ、待ちなさい」

 

 スクリムジョールには答えるつもりがないのだと、そう判断したアルテシア。だが、スクリムジョールがあわてて呼び止めた。

 

「なにを慌てているのだね。たしかに話すなと、ダンブルドアからは言われた。だが彼は亡くなった。わたしはハリー・ポッターとは違うのだよ」

「どういうことですか」

「約束だからね、それを話してあげることはできない。だが、独り言くらいなら問題はないと思うのだよ」

「あの、それって」

「まさか、それを立ち聞きする者などおるまい。わたしは、ゆっくりと散歩でもしながら帰るとしよう。では失礼」

 

 ニヤリと笑って見せたスクリムジョールが、ゆっくりと湖のほとりを歩き始める。残されたアルテシアは、首をかしげる。そこへ、どこにいたのか、ソフィアが姿を見せた。

 

「素直じゃないですね。普通に話してくれればいいのに」

「一応、自分の立場とか考慮してのことでしょう。もし断ってこっちの機嫌を損ねたら、なんて考えたんだと思いますね」

 

 今度は、ティアラである。姿はなかったはずなのに、話は聞いていたようだ。

 

「どうします?」

「マクゴナガル先生のところへ行きます。なにかご存じかもしれません」

「いいんですか、あの人、なにかしゃべってくれるかもしれませんよ」

「話したくないというものを、無理に聞くことはしません」

「けど、一応様子を見てきますね。なにか役に立つ情報が得られるかもしれません」

 

 そう言った瞬間、ティアラの姿が消えた。苦笑いを浮かべたアルテシアが、校舎の方へと身体を向ける。

 

「行きましょう、ソフィア」

 

 

  ※

 

 

 ハリーは、玄関ホールに向かっていた。もうじきホグワーツ特急が出発するので駅に向かわねばならないのだが、それはロンやハーマイオニーと合流してからのことになる。その2人とジニー、そしてウィーズリー夫妻が玄関ホール前でハリーを待っていた。ハリーの姿を認め、近づいてくる。

 

「スクリムジョールが来たって聞いたけど、何の話だったの?」

「ダンブルドアと何をしていたのか教えろって言われた。それに魔法省からは、専属で闇祓いをつけてくれるらしい」

「闇祓いを!」

 

 こっそりと小声で開いてきたハーマイオニーだったが、思わずもらした驚きの声は全員に聞こえるほど。思わず笑ったウィーズリー氏が、ポンとハリーの肩を叩いた。

 

「そういう話は、たしかにある。それほど危機感を感じていると言うことだよ、ハリー。十分に気をつけないといけないよ」

「わかっています、ウィーズリーさん」

「ふむ。それでキミは、なんと答えたのかね」

「必要ないって断りました。どうにも信用できないんです。それより、おじさん」

 

 ロンたちに言われたからというわけではないのだと、ハリーは自分に言い聞かせる。スリザリンのロケットのことを知るには、必要なことなのだ。

 

「お話ししたいことがあるんですけど」

「いいとも、ハリー。歩きながらでいいかね」

 

 もちろん、ホグワーツ特急の発車時刻に遅れるわけにはいかないからだ。ハリーとアーサーが並んで歩き出し、そのあとをロンたちが続いていく。話の内容には誰もが関心あるようで、聞き逃さないようにと固まっての移動である。

 

「で、何が気になっているのかね」

「ウィーズリーおじさん、ズバリお聞きします。魔法省にある遺品のことです」

「遺品、と言ったかね。ハリー」

「はい。魔法省には、ガラティアさんの遺品があるって聞きました。ガラティアさんのことも知りたいんです」

「ふむ」

 

 それきり黙り込んだようにみえるアーサー。それを見かねたのか、後ろを歩いていたモリーが声を掛ける。

 

「クリミアーナ家の遺品のことだと思いますよ。あのお嬢さんと交渉したじゃありませんか」

「ああ、わかってる。ちょっと思い出していたんだよ。さて、ハリーに話してもいいのかどうか」

「なんですか、おじさん。是非、教えてください」

 

 今は、どんな情報でも欲しいときなのだ。当然ハリーは、これを逃すつもりなどない。その気持ちが表情に出ていたのだろう、アーサーが苦笑する。

 

「そうだな。どんな情報であれ、何かしらの役には立つ。わたしだけが知っているより、その機会は多くなるだろう」

 

 そう言って、ロンやハーマイオニーへも目を向ける。みんなに聞いて欲しい、ということになる。

 

「それで、おじさん。どういうことですか」

「実はね、ハリー。ダンブルドアも、キミの言う遺品に興味を持ってね。実物を確認したいと、魔法省まで来たことがあるのだよ」

「ぼく、スリザリンのロケットがあったって聞いたことがあるんです」

「まさに、それだよハリー。そのロケットに、ダンブルドアはことのほか興味を示していた」

「それはあなた、スリザリンのモノとなれば、魔法界にとって貴重品だからでしょう。ダンブルドアだってそう思ったに違いありませんよ」

 

 ロンの母親の言うとおりだが、ダンブルドアがロケットに興味を持ったのには、別の理由がある。ハリーたち3人はそう思ったが、口に出すことはしなかった。分霊箱に関することは、言わない方が良いとの判断だ。

 

「だけどね、モリー。そのロケットは、実のところニセモノだったようだよ」

「えっ、ニセモノだったんですか」

「わたしも、ダンブルドアがこっそりと調べるのに付き合わされただけで、よくはわからないのだけれど、これは違う、と呟いたのは確かに聞いたのだよ」

「そうですか」

「だから、ハリー。遺品の中にあるロケットは、スリザリンのものではない。非常によくできたニセモノなんだと思うよ」

 

 いいや、違う。ハリーは、そう思っていた。ダンブルドアが呟いたのは、分霊箱ではないという意味だ。ダンブルドアは、スリザリンのものかどうかを調べていたのではないはずだ。

 だが、そうなると……

 

「どうしたね、ハリー。知りたいことは終わりかね?」

「あっ、ええと。そうですね……」

 

 遺品の中に、分霊箱はない。すでにダンブルドアが調べているのだから、それで間違いない。ハリーは、そう考えた。何か疑わしい点があるのなら、教えてくれていたはずだ。つまりはもう、遺品に関してこれ以上やることはないのだ。

 

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

「いいんだよ、ハリー。これが何かの役に立つのなら嬉しいよ」

 

 これで話は終わり、ということになる。ハリーは、後の話はホグワーツ特急のなかで、とばかりの目をロンたちへと向ける。その意味が通じたのかロンは小さく頷いた。少し不満げに見えたハーマイオニーも、軽くため息をついたたけで何も言わなかった。

 

 

  ※

 

 

 ソフィアとともにマクゴナガルの執務室を訪れたアルテシアだったが、そこにマクゴナガルの姿はなかった。校舎の中も生徒たちの姿はなく、どこもひっそりとしている感じとなっている。多くいた葬儀参列の人たちも、すでに帰路に就いたのだろう。

 

「どうします?」

「ええと、ちょっと待って」

 

 何を思いついたのか。アルテシアが、マクゴナガルの指定席であった執務机の椅子に座る。そして、机の上に置かれた書類ケースのフタを開けた。ソフィアも、その中をのぞき込む。

 

「あー、なるほど。お手紙ですね」

 

 だが、ケースの中は空である。その空のケースに、アルテシアが手を伸ばす。

 

「何か連絡してくれてるのかも」

 

 スッと、その手がケースのなかに吸い込まれるかのようにして入っていく。ほんの数センチの厚みしかないケースに、なんと肘近くまでが入り込み、そして引き出される。

 

「あったよ。ほら」

 

 実はこのケースは、アルテシアが設置したポストである。ホグワーツ退学処分が濃厚となったとき、ふくろう便ではない別の連絡手段として設置されたもの。マクゴナガルの部屋とクリミアーナのアルテシアの部屋との間を結び、手紙のやりとりをするのである。

 手紙はすでにアルテシアの部屋へと届けられているのだが、それを自分の部屋に帰ることなく、少々強引な方法を用いて受け取った、ということになる。

 

「校長室にいるそうよ。この手紙に気付いたら、すぐに来て欲しいって書いてある」

「あの、あたしもいいんでしょうか。その、校長室なんて」

「いいんじゃないの。行くよ」

 

 アルテシアの人差し指が自分を、そしてソフィアを指差し、クルッと輪を描いた瞬間。2人の姿は消えた。

 

 

  ※

 

 

 ホグワーツ特急のコンパートメントの中で、ハリーたちが頭を寄せ合って話をしていた。ちょうど3人だけで、他には誰もいない。

 

「それで結局、どういうことになるんだ?」

「あのロケットは分霊箱じゃなかった。でも、どこかにあるはずなんだ。それを探すよ」

「そのことだけど、ハリー。ウィーズリーさんに、もっと話を聞くべきだったんじゃないかしら」

 

 どういうことか。そんな視線を向けてくる2人にハーマイオニーは、ハリーが見つけてきたロケットに書かれていたガラティアのメッセージのことを説明した。

 

「ガラティアさんは、ロケットの中味を虹色の容器のなかへ処分したのよね。この意味を考えてみたんだけど」

「それは当たり前のことだぜ、うん。考えるのはキミの仕事だ」

「黙りなさい。それでね、ハリー。この場合、2つのことが考えられると思うのよ」

 

 ハリーは、何も言わない。ただ、ハーマイオニーの言葉を待っている。

 

「スリザリンのロケットが分霊箱だったのは間違いないわ。それを処分したのだから、つまり分霊箱は壊されたってことになる」

「そうだ。そうだぜ、ハリー。これでボクたち、分霊箱を3つも減らしたことになるんだ」

「いいえ、ロン。もう1つ、可能性があるの」

「? どういうことだい」

 

 その可能性に、ロンはすぐには気づかなかったようだ。だがハリーは、違ったらしい。

 

「そうか。虹色の容器が分霊箱になったんだ」

「かもしれない、ということよハリー。あくまでも可能性でしかないの。処分という言葉からすると、分霊箱が壊されたと考えるほうが自然だと思う」

「そうだとしても、虹色の容器は探すべきだ。調べないといけない」

「ええ、そうよ。だからハリー、ガラティアさんの遺品の中にそんな物があったのかどうか、ウィーズリーさんに確かめておいた方が良かったんじゃないかと」

 

 言われてみればそのとおりだが、遺品はダンブルドアが調べている。それらしい何かがあったのなら、教えてくれていたはずなのだ。そんな思いが、ハリーの頭をよぎる。

 

「心配ないぜ、ハリー。どうせすぐに会うことになる。いつでも聞けるし、ふくろうを飛ばしてもいいじゃないか」

「そうだな。けど、すぐに会うってどういうこと? ぼくはもう、学校には戻らない。分霊箱を探すんだ」

「もちろん、それにはボクたちも付き合う。だけどその前に、何をするより前に、キミは、ボクのパパとママのところに戻ってこないといけないんだ」

 

 その意味が、ハリーには分からなかった。だが、分霊箱を探すという困難で危険なものに協力すると言われたことだけは理解した。ロンやハーマイオニーをあてのない無謀な計画に巻き込みたくないという気持ちはあるが、素直に嬉しかった

 

「一緒に来るって言うのか、ロン。ぼく、ひとりで行くつもりだったんだけど」

「いいえ、ハリー。3人で力を合わせるべきよ。それに、アルテシアも誘うつもりでいるの。きっと力を貸してくれるわ」

「いや、しかし、それは……」

「諦めろよ、ハリー。一緒に行くことは決定してるんだ。ビルとフラーの結婚式にキミが出席するのも決定事項だぜ」

「結婚式だって!」

 

 ハリーは驚いてロンの顔を見た。これから先、何が起こるのか。どうなるかなんて、まったく予想できない。辛くて苦しい、困難ばかりとなりそうなこの先に、結婚式というイベントが待っている。そのことが、少しだけハリーの気持ちを軽くさせた。

 ホグワーツの6年目が終わった。

 




ダンブルドアの葬儀と、その後のいろいろ。6年目が、これで終わりました。
いよいよ、次回からは最終章になりますね。
ということで、アルテシアのホグワーツ7年目がどういうふうに始まっていくのか。次回は、それについてのお話となる予定。最終章は、ハリーがどうするのかというよりは、アルテシアがどうするのか。そっち側の話が主体になっていく予定です。よければ、おつきあいください。

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