ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 長らく空いてしまいましたが、再開します。
 物語はいま、7章めに入ったところ。闇の勢力が台頭し、デス・イーターの襲撃もあってダンブルドアは亡くなっています。

 7章ではヴォルデモートとの決着を付けることになるのですが、アルテシアは、ダンブルドアから手出し無用と言われています。それはハリーの役目だからというのです。そのハリーからは、協力はいらないと言われており、もろもろの説明も拒まれています。
 そんな状況で、何ができるのか。アルテシアは、自分が自分であるためにと、動き始めていきます。
 そのアルテシアへ正式にホグワーツの教授となるよう依頼が来たり、ゴーストの灰色のレディとの話で、初期の魔法書についての情報を得たりもしています。

 自分の役目を果たすため……

 スネイプはヴォルデモートのもとを訪れ、アルテシアのもとへは、ハーマイオニーが訪ねてきました。そんなところからの再開です。



第123話 「ハーマイオニーの訪れ」

「セブルスか、危うく遅刻するところだったな。ここに座れ」

 

 ヴォルデモートが、彼のすぐ右側の席を指し示す。すぐさまスネイプが、言われた場所へと腰を下ろした。今日、この時間に集まるようにと指示が出され、ルシウス・マルフォイの屋敷へとデス・イーターたちが集結したところである。スネイプが来たのは、その最後だった。

 

「わが君、いい話がございます」

「そうか。だが、少し待て。その話がもし、ポッターという子どもを移動させるという話ならば」

 

 ピクリ、とスネイプの右眉が動いた。スネイプが持ってきた話とは、まさにその話だったからだ。デス・イーターたちの中から、1人の男が立ち上がる。

 

「申し上げてもよろしいですか」

 

 男の名は、ヤックスリー。ヴォルデモートの許可を待っていたが、ヴォルデモートは無言のままだ。ならばとヤックスリーは、チラとスネイプへと視線を向けたあとで言葉を続ける。

 

「ポッターめは、母親による保護魔法が切れる直前、すなわち17の誕生日を迎える前日までは動かないとの情報がございます」

「ほう、それが本当なら何よりだが、どこからの情報だ」

「闇祓いのドーリッシュでございます。彼の証言だけでは偽情報である可能性は捨てきれませんが、その日は闇祓いたちに動員指令が出されているのを確認しました。ドーリッシュの言うように、その当日を待って、全ての闇祓いを動員し子どもを移動させる計画であるとの裏付けとなります。信憑性があるのです」

 

 ヴォルデモートが、スネイプを見る。スネイプは、軽く笑みを浮かべてみせた。

 

「私には、別の情報がございます」

「言ってみろ」

「はい。まずは闇祓い局が、ポッター保護のために動くことはないだろうということ。騎士団側は我々が魔法省に潜入しているものと考えており、騎士団メンバーだけで行うつもりでいるのです」

「ほう」

 

 ヴォルデモートから、特に異論は出ない。話を続けろということだ。スネイプが、軽くうなずく。

 

「ヤックスリーが得たのは、こちら側を惑わせるための偽情報でしょう。そうしておいて、不死鳥の騎士団は誕生日よりも早く、次の土曜の夕方にはハリー・ポッターを今の住居から移動させてしまうことにしたようです」

「土曜の、夕方か」

 

 ヴォルデモートの赤い瞳が、スネイプの黒い眼をしっかりと見据える。見ているものが、恐怖のあまり目を逸らしてしまうほどの強い視線。それがウソなのか本当か、相手の心を探っているのだろう。集まったデス・イーターたちは、緊張感とともに息を潜めて成り行きを見守り、スネイプのほうは、普段通りの落ち着いた様子でヴォルデモートへと顔を向けている。

 ややあって、ヴォルデモートが唇のない口元を歪め、笑みに似た表情をみせた。

 

「よろしい。それで騎士団は、あの子どもをどこへ隠そうというのだ?」

「はっ。騎士団のうちの誰かの家だと思われますが、しかとはまだ。なれど、その場所にはできうるかぎりの保護魔法がかけられることになるでしょう。私が思うに、それまでがチャンスかと。ポッターの誕生日を待っていては、機会を失うでしょう」

「むぅ、保護魔法か。やっかいだな。セブルス、あの娘はどうしている?」

「は? 娘、でございますか」

 

 もちろん、アルテシアのことだろう。そう思ったに違いないのだが、そんな言い方になっていた。

 

「仮にあの娘が保護魔法を施したならばだが、もはやその隠れ家を見つけ出せるとは思わぬ方が良いだろう。一旦見失えばそれまで、ということになる」

「恐れながら、わが君。例え忠誠の呪文だろうと、打ち破る方法はあるのです。あきらめるなど無用かと思いますが」

「黙れ、ヤックスリー。おまえは、魔法省を落とすことを考えておればよい。進捗状況はどうなのだ」

「そ、それにつきましては、もちろん進展しております。たいへんな苦労と努力の結果、魔法法執行部長のパイアス・シックネスを引き入れることに成功しております」

 

 つまりは、服従の呪文である。計画では、現魔法大臣の後釜に据え、傀儡として操ることになっている。要は、魔法界の政権奪取を画策しているのだ。

 

「油断は禁物だぞ、ヤックスリー。しくじれば、現大臣の命を奪う目論見は崩れ魔法省を意のままとする日が遠のくことになる」

「心得ております、わが君。大丈夫ですとも、すでに同胞が数名、魔法省内に入り込んでおりますので」

「ほう、それは結構なことだな。だが」

 

 そして視線は、またスネイプへと戻る。ここは、ヴォルデモートの意図に沿った返事が必要になる場面。スネイプが、軽く頭を下げた。

 

「騎士団の面々は、魔法省と関係のあるものを信用しておりません。ゆえに、魔法省による監視・規制が懸念される移動手段は避けるでしょう。すなわち、ポッターは」

「ますます結構なことだ」

 

 望んだ答えだったのだろう。スネイプが言い終わるのを、ヴォルデモートは待ってはいなかった。

 

「つまりポッターめの移動手段は限られる。奴が外へと出てくるなら、捕らえるのはたやすいことだ。このオレさま自らが手を下し、あやつを始末することができる。ハリー・ポッターを殺すのは、他の誰でもない。オレさまとなるだろう。だが」

 

 またも、ヴォルデモートがスネイプに視線を向ける。自分で言うのではなく誰かに言わせることでの効果を狙っているのだろう。望まれた内容の返答でなければ怒りを買うという意味で、スネイプにとっては迷惑でしかない。だがもちろん、そんなことを表情に出すような彼ではない。

 

「わが君、ご安心を。誰にも邪魔などさせません。何なりとお命じください。なんであれお望み通りにしてみせます」

 

 この答えは、望まれたものではない。ヴォルデモートがすぐに話を続けなかったことが、その証明。だがスネイプは、それをわかった上で、あえてそんな返事をしたのである。ここでアルテシアの名前を出すわけにはいかない、というのがその理由。

 

「ふん、わかっておらんな。だが、まあいい」

 

 すっと、視線が動く。身体の向きまで変え、ヴォルデモートは居並ぶデス・イーターたちのなかの1人をにらみつけた。

 

「ベラトリックス、おまえの犯した失態がいま、大失態へと姿を変えたようだ」

 

 その瞬間、その魔女が、まさに凍り付いた。耐えがたいような緊張感が、その魔女から動きを奪ったのだ。

 

「よもや忘れてはいまいな。おまえの失態が、クリミアーナの小娘に自由を与え、ハリー・ポッターの逃走劇に手を貸すことを可能にしたのだ。すると、どうなると思うかね?」

「わ、わが君、私は、私は……」

「なんだ、ベラ? 言いたいことがあれば聞こう」

「ち、誓ってあの娘に、手出しなどさせません。この私が、必ず仕留めてご覧に入れます」

「ああ、そうだな。そうしてもらえれば助かるが、さて。おまえの大失態が、単なる失態で終わる可能性はどれほどあるものか」

 

 ヴォルデモートが、今度は顔だけを動かして別の者へと注目する。そこにいたのは、ドラコだ。父ルシウスと母ナルシッサに挟まれる形で、デス・イーターたちの中にいたのである。

 

「失態といえば、ドラコ。キミの名誉を挽回するための策のことだ。そんなものがあればの話だが、まだ聞かされていなかったと思うが」

 

 ドラコには、返事ができない。うつむいたまま、言葉が出てこないのだ。代わりに、ナルシッサが顔を上げる。

 

「わっ、わが君、もちろん息子も考えております。ですがドラコは、まだほんの子どもで」

「子どもか。なるほど、子どもだな。そう、そのとおり。あの娘も、間違いなく子どもなのだ。ベラ」

 

 びくっ、とその魔女の身体が震えた。飛び上がるほどに驚いたらしい。

 

「たかが子どもだ。おまえは、その子どもに出し抜かれ、まんまと逃げられたことになるのだな」

 

 ベラトリックスからは、すぐに返事が返ってこない。心境は、ドラコと同じなのであろう。あのときベラトリックスが、油断していたことだけは間違いない。もし、それがなければ。もし、まともに向かい合っていたならば。そうだ、1対1の戦いであったなら、決して子どもに後れをとることなど、あるはずがない。

 ベラトリックスが、顔を上げた。

 

「たしかに、その。油断したことは認めますが」

「さもありなん。では、ベラ。おまえがあの娘を、このオレさまの前に連れてきてくれる日を楽しみに待つとしよう。それは、さておき」

 

 何か言おうとしたベラトリックスの発言を封じるかのように、最後に大きな声を上げたヴォルデモートは、再びスネイプに目を向けた。

 

「姿くらましではない、何かだ。あのときあの娘が逃げ出せた理由が気になるのだ。何か知っておるか」

「いえ。あの娘には魔法を禁じておりましたし、なにぶん私は、その現場を見ておりませんので」

 

 そのとき、何が起こったのか。スネイプは、そのほとんどを承知しているはず。だがそのことを、ヴォルデモートには話さないことにしたらしい。これもまた、スネイプがスネイプであり続けるための判断、といったところだろう。

 

「あれが移動のための魔法であり、それでポッターが隠れ家へと移動するのであれば」

 

 そのときは、ハリーの隠れ家への移動に何らの手出しもできないだろう。そのうえ、クリミアーナの保護魔法により守られた隠れ家を発見することができない。そんな事態になるのだとするならば。

 それはまるで闇の陣営の、デス・イーターたちの、なによりヴォルデモートの…… 敗北とまではいかないにせよ、大いなる失点であることは間違いない。

 

 

  ※

 

 

 行き先も告げずにヴォルデモートが出て行ってしまうと、デス・イーターの面々も次々と帰宅するなど屋敷を後にしていく。自然解散とでも言うのか、今ではほんの数人が残るのみ。この屋敷の住人であるマルフォイ夫妻と息子のドラコだ。そしてなぜか、スネイプ。

 何か話をしている、という訳ではない。マルフォイ家の者たちが口をつぐんでうなだれている中、ゆっくりとスネイプが席を立つ。そのときのイスを引く音に、さっと顔を上げたのが、夫人のナルシッサだ。

 

「ま、待って、セブルス。帰ってしまうの?」

「さよう。吾輩がここにいても、何もすることがありませんのでね」

 

 少しの間、2人は見つめ合う。そして、スネイプが軽く息を吐いた。

 

「仰りたいことがないのなら、これで失礼する」

「待って、お願いがあるのよ、セブルス。助けて欲しい。私たちを助けて」

 

 くいっ、とスネイプの右眉が跳ね上がる。と同時に、ルシウスとドラコも頭を上げた。

 

「助けろ、とは?」

「主人も息子も、このままでは命を奪われてしまうでしょう。セブルス、お願い。あなたなら、なんとかできるはず」

「ほほう、つまりは吾輩に闇の帝王との間を取りなせと。無駄ですな。あのお方が考えを変えるなど、ありえませんぞ」

「ええ、そうでしょうとも。ですから、セブルス。あなたにお願いするのです。ああ、セブルス。あのお嬢さんに連絡を取ってください。あなたなら、居場所をご存じなのでしょう?」

 

 漏れ聞こえてきたのは、スネイプが発した苦笑。くくっと短く笑った声が、ナルシッサの耳に届いた。

 

「セブルス」

「失礼。だが、つい先ほどの話なのですぞ。まさか、あなたの姉と闇の帝王との話を聞いていなかったとは…… ああ、そうか。そういうことなら、話はわかりますな」

 

 にやりと、薄ら笑いをみせるスネイプ。だがナルシッサには、その意味がわからないようだ。

 

「あの娘を捕らえるなり居場所を知らせるなりすれば、姉上ともどもマルフォイ家のみなさまは安泰になるのだと、それを狙っておいでなのでしょう」

「いいえ、セブルス。違います。違うのです。この期に及んで、そんなことを考えたりはしません」

「さてさて。では、なんだと言うのですかな?」

「もはや、あのお嬢さんだけだと思うからです。それはたぶん、セブルス。あなたも同じなのでは」

 

 スネイプは無表情。それは変わらないのだが、いくらか雰囲気は変わったかもしれない。じっと、ナルシッサに目を向けたままだ。ナルシッサのほうも、同じ。そんな無言の時間が過ぎていくなか、声を上げたのはルシウス。

 

「やめておけ、ナルシッサ。今さらそんな話をしても、無駄だ。無理なのだよ。もう終わりなのだ」

「でも、あなた。あのお嬢さんならきっと」

「きっと、なんだと言うのだね。たかが未成年の小娘に、闇の帝王を倒してくれと頼むのかね。そうすれば、助けてくれるとでもいうのかね。そんなことできるはずがない」

「いや、できないとは、言えまいな」

 

 ぽつりと呟くようなその一言に、マルフォイ家の3人の視線が一斉にその声の主へと動く。すなわち、スネイプへと。

 

「その価値はある、と考える。可能性はゼロではないが、しかし。諦めてしまえば、その瞬間にはゼロとなってしまうのだ。そうは思わないかね、ルシウス・マルフォイ」

「ふっ、さすがはセブルス・スネイプだ。なんとも皮肉な物言いだが、なるほど理屈はそうだろう。だが、あの娘にそれほどの力があろうか。実際に話をしたことはあるが、所詮は小娘だ。とてもそうは思えん」

 

 否定的なルシウスに、スネイプは、やれやれといった感じで首を振り、両手を広げてみせた。もちろんそれが、ルシウスは気に入らない。

 

「なんのマネだ、セブルス」

「何も分かっておられんようなので、あきれているところなのだが」

「なんだと」

 

 思わず知らず、ルシウスの声が大きくなってくる。だがそれくらいでは、スネイプはひるんだりはしない。

 

「面倒だ。これ以上、このことで議論などするつもりはない。おぉ、そうだ。ないといえば、あの娘には、あなたがたを助けねばならぬ理由もなければ義務もないはずだ。そのこと、ご理解いただいておるのかな」

「でもセブルス。それはそうでしょうけれど、一度、頼んでみてくださいな。あなたの言うことならきっと」

「肝心なのは、あの娘がその気になるのかどうかだと思いますな。すなわち」

 

 そこでスネイプは、ドラコへと視線を移した。ドラコの身体が、ビクッと震える。

 

「ドラコ、キミに問うが、例えばあの双子の姉妹が窮地に陥ったとする。そのとき、あの娘はどうすると思うかね?」

「えっ!? ええと、たぶん助けるだろうと」

「だろうな。吾輩もそう考えるが、それはなにも吾輩が指示や依頼をしたから、というわけではない。おわかりかな」

 

 あくまでも友人を思っての行動なのであり、それは、自らの意思によって為されるもの。そのことを理解せよというのが、スネイプの主張である。だがナルシッサは納得しない。

 

「いいえ、セブルス。あなたが頼めば聞き入れてくれるはずです。もう、そうするしか助かる方法がないんです」

「だからあの娘を利用したい、だから力を貸せと。ふむ。吾輩の言うことをご理解いただけてないようだ」

「でも、セブルス。ドラコもそうですが、あなたは、あのお嬢さんから慕われている先生。そのあなたが言えば、きっと願いを聞いてくれます」

 

 いつものスネイプであれば、話にならんとばかり部屋を出ていてもおかしくはないところ。実際、いらいらとしている様子がうかがえる。

 

「慕われているとは思いませんな。どうしてもとおっしゃるのなら、そのように依頼してもよいが、おそらく望みは叶わぬでしょう。そのとき、吾輩のせいだと恨まないで欲しいものですな」

「な、なぜです? あの家の魔女ですよ。たとえ例のあの人だろうと、それより下ということはないはずです」

「吾輩は、どちらが上か下か、という話はしていない」

 

 では、なんだと言うのか。ナルシッサだけでなくルシウスも、いらだつスネイプを疑問の目で見ている。

 

「あの娘は、自ら考え、判断し、行動するのだ。例えばルシウス・マルフォイというデス・イーターに助力するか否かについても、自分が見聞きしてきたことから判断するだろう。今さら吾輩が何を言おうが、さして影響はあるまいと、そう申し上げているのだ」

 

 すなわち結果は既に出ているようなものだと、スネイプは言いたいらしい。そう判断したナルシッサが、がっくりと力を落としたように椅子に身体を預けてみせた。

 

「なにやら、思い当たることでも? そういえば、この家にあの娘を招いたことがおありなのでしたな」

「何故でしょう、セブルス。なぜあのお嬢さんは、我が家を守ってくれないのでしょうか」

 

 ナルシッサの力ない言葉に、スネイプは軽く微笑んでみせる。

 

「自分が利益を得るため、あの娘を利用する。そんな考えではロクなことにはならないということでしょうな」

「ああ、でも。そんなつもりなどないのですけれど」

「そうですか、それは失礼。だが仮にそうだと、確かにそうなのだとおっしゃるのなら、可能性はあるやもしれませんぞ」

「ど、どういうことです、セブルス。可能性?」

 

 その質問には答えず、スネイプがドラコのそばへと歩いて行く。ドラコが、慌てたように顔を伏せた。

 

「ドラコ、改めてキミに問う。あの娘はキミを助けてくれるはずだと、そう思うかね?」

 

 ドラコがなんと答えるのか。それは当然のように注目を集めることとなり、両親からの視線を感じてか、簡単には言葉が出てこないようだ。スネイプが、ポンと肩を軽く叩く。

 

「では、質問を変えよう。ドラコ、キミとあの娘とは友人かね」

「えっ?」

 

 それで、少しは答えやすくなったのかどうか。しかし、ドラコから返事がない状況に変わりはない。

 

「もしキミが、心からそう思うのであれば。ならば、あの娘も同じではないだろうか。吾輩はそう思うのだが」

 

 仮に、そうであるならば。あの娘は友人の窮地を見過ごすようなことはしないだろう、そんな娘なのだと言い残し、今度こそスネイプは屋敷を後にした。

 

 

  ※

 

 

 クリミアーナ家へと戻ってきたアルテシアを出迎えたのは、ハーマイオニーだった。正確にはソフィアとパルマもいたのだが、予想もしていなかった人物の印象が強すぎたのである。ちなみにパチル姉妹は自宅へと戻っており、ハーマイオニーとは顔をあわせていない。

 

「ようやく帰ってきたわね、アルテシア」

「え、ええ。でもどうして、ここに?」

「ちょっとね。話したいことがあるの。時間もらっていいわよね?」

 

 そのまま、食堂へと移動する。来客用の部屋でなかったのはパルマの意見があったからで、食堂のほうがお茶などの用意がしやすくなるというのがその理由である。ハーマイオニーが初めての客でなかったから、ということもあるのだろう。

 その場にいるのは、アルテシア、ソフィア、ハーマイオニー、そして、パルマ。それぞれの前に、パルマが飲み物を並べていく。マクゴナガルがいれば紅茶となるのだろうが、今回はアルテシアも好んで飲んでいるクリミアーナ家の特製だ。

 

「アルテシア、あなたに聞きたいことが3つ、それからお願いしたいことが1つあるの。いいわよね?」

「3つと1つって、あの、ハーマイオニー」

「まず、1つめだけど」

 

 どうやら、ハーマイオニーの話は長くなりそうだ。無意識なのだろうが、アルテシアの視線がソフィアへと動く。アルテシアとしては、この場にティアラがいないことが気になっているのだ。とっくに戻っていると思っていたのだが、姿が見えない。ティアラはどうしたのか。ソフィアと相談したいこともあるのだが、この状況でそれは無理。ハーマイオニーを優先するしかなかった。

 

「どこへ行ってたの?」

「え? ええと、ホグワーツで校長先生の葬儀を見て、それからマクゴナガル先生と話をして」

「そうじゃなくて、あの夜のことよ」

 

 あの夜とは、デス・イーターたちがホグワーツを襲撃しダンブルドアが命を落とした夜のことだろう。そうは思ったが、まずは確認だ。

 

「それって、学校が襲われた日のこと?」

「そうよ。あの夜、あなたは学校にいなかった。闇の側の人たちは、そのことを知っていたんじゃないかしら」

 

 その考えをどう思うか。そう聞かれても、アルテシアには答えようがなかったし、なにより、そういう見方があることに驚くばかり。なので、正直にそう告げる。

 

「その可能性は高いと思ってるわ。狙いは校長先生だったと思うけど、でも、どうやって学校に侵入できたのか。気になるのはそこなの。今度のことは謎だらけよ」

「あの、グレンジャーさん。それ、もしかしたらなんですけど」

「なに?」

 

 ソフィアによれば、デス・イーターたちは『姿現わし』で侵入したに違いないという。だがハーマイオニーは、当然のように否定する。

 

「あいにくだけど、学校内では『姿現わし』なんかできません。ホントにもう、まだそんなことを知らない人がいたなんて」

「お言葉ですけど、グレンジャーさん。それをできるようにしたからこそ侵入って言えるんじゃないですかね」

「どういうこと、ソフィア。何か知ってるの?」

「あ、はい。知ってるっていうか、その。チラッと聞いたことがあるんです」

 

 アルテシアを真正面に見るようにしながら、ソフィアが話を続ける。ソフィアとしては、アルテシアへの報告、ということにしたいらしい。スリザリン寮内でのことだが、たまたまクラップとゴイルのひそひそ話を聞いてしまったことがあったようだ。部分的だったこともあり、そのときは何のことか分からなかった。だけど今になれば、思い当たることがある。

 

「どこでも姿現わしができる木の輪っかがあるって、そんなことを言ってました。本当にそんなのがあって、ゴイルさんが持っていたとしたら」

「それ、『姿現わし』講習のときのかしら。そういえば、講師をやったトワイクロスさんが、輪っかが一組なくなったとか言ってたっけ」

「ちょっと、なんなのよそれ。その講習なら参加したけど、でもあの輪っかは、ただの目印でしょう?」

 

 ホグワーツの敷地内で『姿現わし』はできない。それは、ハーマイオニーの言うとおり。だがその術を習得するための講習会では、そんなことは言っていられない。実際にやってみる必要があるため、『姿現わし』の防止処置は解除する必要があったのだ。

 

「待って。あのときは、講習のときだけ大広間を『姿現わし』可能にしたんだと思ってた。だけど、そうじゃなかったってことよね。えっ? まさか、あれがあれば、どこだってできるってこと?」

「そう、なのかも。だけど、トワイクロスさんはたしか、無効化しておくから心配ないとおっしゃってたんだけど」

「本人はそのつもりだったんでしょう。そのときはね。でもそれを、うっかり忘れた。よくある話だと思うわ。だけど」

 

 ついうっかりで済ませられるような、そんなものではないのだ。そのために招いてしまうことになった結果を思うとき、やるせない気持ちにさせられる。一気に重苦しい空気に包まれていくなか、ソフィアがハーマイオニーに顔を向けた。

 

「グレンジャーさん、あと聞きたいことってなんですか。3つあるんでしたよね」

「えっ、ええ。そうよ。そうね」

 

 影響は計り知れないが、今さらどうすることもできないのも確か。話題を変えようということだ。

 

「ええと、キレイな色した魔法の玉のことだけど。前に作ってくれたことあったよね」

「ああ、虹色のことだよね。それがどうしたの?」

「あれって容器、何かの入れ物ってことでいいのよね。その中身だけど、取り出すときは壊しちゃっていいんだよね?」

「そうだね。だいたいそういうことだけど、でもハーマイオニー、あなたに渡したのって、もう無いはずだよね」

 

 アルテシアの記憶では、1年生と5年生のときの2度、それを渡している。三頭犬を回避するためとアルテシアを呼び出すための物だ。そのどちらも使用済みのはずなのにと、アルテシアは思っている。

 

「それが、どこかにもう1つあるの。探さないといけないんだけど、あるのは間違いないわ」

 

 どういうことか。アルテシアとソフィアが首を傾げてみせるが、ハーマイオニーは説明を拒否。これはハリーに関わることであり、そのハリーが何も話すなと言っているから、というのがその理由。

 

「話になりませんね、グレンジャーさん。だったら、ポッターさんに了解もらってから出直せって感じです。言っておきますけど、あの虹色は本来、盾なんです。容易なことでは壊せませんよ」

「えっ、盾ですって?」

「どういうことなの、ソフィア」

「あ、はい。ええとですね」

 

 なぜそれを、アルテシアから問われるのか。表情からそんな疑問を感じているらしいことがわかるが、ソフィアとしてはアルテシアに聞かれれば答えるしかない。つまりそれは、たとえて言うならば魔法界にあるプロテゴ(Protego:護れ)のようなものであるらしい。容器としての使用は、いわばその応用なのであり、本来は護身用。球形をとるのは、全方位に対して備えるためということになる。

 

「自分自身をその虹色で覆っておけば、前後左右上下、どこから攻撃されても防ぐことができる。そういう魔法なんです」

「なるほど」

 

 どこまで納得できたかはさておき、アルテシアから重ねての質問はなかった。だがハーマイオニーは、黙ってはいない。

 

「でも、壊せるんでしょ。壊すと、中身はどうなるの? 壊さなかったら中身はどうなる?」

「ええと、その玉が壊れない限り、中身は取り出すことはできないわね。壊せるかどうかは、正直に言ってわからないわ。それを作った人との力比べ、みたいなことになるんだと思うけど」

 

 その強度は、術者の技量による。護身用の盾ということになれば、可能な限り強化することになる。それを壊すとなれば、ソフィアが言うように容易なことではないのだろう。

 

「わたしが作ったものならなんとでもなるけど、そうじゃないのよね。でも、ハーマイオニー。あれを作れる人が他にいるとは思えない。なのにそれが、どこかにあるって言うの? ねえ、どういうことなのか話してくれない?」

「アルテシア、あなた、本気でそんなこと言ってるの?」

 

 おそらくは、ガラティアのことだろう。だがアルテシアは、そのことには気づかない。ハーマイオニーが、軽くため息。

 

「聞いた話だけど、魔法省にはあなたの伯母さんだったかな。ガラティアっていう人の遺品があるそうよ。そのなかに、虹色だっけ? それがあったそうなんだけど」

「えっ! 遺品の中に虹色が……」

 

 遺品の中身のことまで、アルテシアは知らなかった。その確認をせずに、魔法省に譲ることを了承している。だけど。

 

「あれ? でもハーマイオニー。あなたさっき、探すって言ってたけど、魔法省にあるのならそんなことしなくても」

「違います、アルテシアさま。グレンジャーさんは、あったって言ったんです。たぶん今、どこにあるかわからなくなってるんだと思います」

 

 だから、探すという言葉になる。だが、なぜ探すのか。もちろん理由があるはずだ。アルテシアが、じっとハーマイオニーを見つめる。

 

「話してはくれないんだよね」

「ごめんなさい、話してはいけないことになってるの。ダンブルドアが誰にも話すなって言ったのよ。だからハリーもそうしてるの」

 

 それは、なぜ? その言葉を、アルテシアはぐっと飲み込んだ。ダンブルドアのいない今、話すかどうかを決めるのはハリーだ。いまハーマイオニーに何を言っても、困らせるだけ。

 

「わかった、理由は聞かない。だけど、その虹色の玉はわたしが探す。それでいいよね?」

 

 元々、クリミアーナのものなのだ。ハーマイオニーに否やはないだろうし、アルテシアにしても、自分ではない誰かが作った虹色の玉を見てみたくなった。自分や母ではない、クリミアーナの魔女の魔法に触れてみたいと思ったし、なによりその虹色の中身は確かめる必要がある。

 

「これで2つめ終わりってことでいいですよね、グレンジャーさん」

「そうね、そういうことでいいわ」

「じゃあ、3つめを早く言ってください。とっとと終わらせたいんですよね」

 

 手早く終わらせたいのは、なにもソフィアだけではない。アルテシアも同じ気持ちであったし、おそらくはハーマイオニーも。

 

「ホントはね、クリミアーナって、アルテシアって何者なのかって聞きたかったの。でも、もういい。やめておくわ」

「どういうことなの」

「虹色もそうだけど、逆転時計の魔法とか、あの黒いノートのことだって不思議の塊なのよ。どうしたらあんなことができるのかわからない。どれも教科書には載ってないし、どんなに図書館で調べてもわからないのよ。なにか秘密があるんだと思う。それを聞きたかったんだけど」

 

 でも、もういいとハーマイオニーは言った。それがクリミアーナであり、アルテシアだと納得するつもりだという。だから、お願いを1つ聞いて欲しいという。

 

「神秘部にあなたを呼んだときの虹色の玉を、もう1度作って欲しいの」

 

 なんのために? アルテシアはそう尋ねはしなかったが、ハーマイオニーは小声でささやいた。お守りにしたいのだと。

 




 次回、第124話は「トンクスのお願い」。

 ハーマイオニーが帰ったあとのクリミアーナ家に、トンクスが訪ねてきます。ハリーが17歳となる誕生日、母親による保護の魔法が切れるため、新たな隠れ家へ移動することになったけれど、その移動がどうにも不安だというのです。だから、力を貸してもらえないかと。
 そのお願いは、アルテシアにとっても、渡りに船とも言えるようなものでした。アルテシアが考えたのは……
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