ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第127話 「改革宣言」

「生徒諸君、これからごちそうにありつこうかというところ申し訳ないが、しばし吾輩の話を聞いていただこう」

 

 新学期が始まり、ホグワーツにも新入生を含めた生徒たちが大広間へと集まってきていた。組み分けの儀式も終わり、これから歓迎の晩餐に向かおうというところである。そこで教員席からスネイプが立ち上がったのだが、この段階で校長のあいさつが入るのは、ダンブルドアの時代でも同じである。

 

「すでに承知のこととは思うが、魔法界はいま、激動の中にある。少なくとも、明日もまた今日と同じ日が来るのかどうか心配になる程度にはな」

 

 魔法省が闇の陣営の手に落ちた今、その影響は拡大を続け、魔法界を浸食し始めている。もちろん、ホグワーツも例外ではいられない。実際、生徒たちの全員がホグワーツに戻って来られたわけではない。マグル生まれ登録委員会の影響ばかりではない、今このときにも魔法界に大きな厄災が迫りつつあるのだ、などと述べていく。

 

「それらを踏まえたうえでの今期、このホグワーツについてだが」

 

 そんな魔法界のことはさておくとした上でスネイプは、新校長としてこれらに対処していくためホグワーツにいくつか改革をしていくと宣言する。

 

「その第一が、教員の件である。気づいていない者はおらぬと思うが、本校では、闇の魔術に対する防衛術の担当教授が毎年交代してきた。実力の伴わぬ愚か者が教壇に立つ場面すらもあったが、この先、それではやってはいけぬと考える」

 

 大きく変化していく状況に対応していくため、新任教授を指名。それが、アルテシア・クリミアーナであること。また第二として、新たに週に1回程度ではあるが特別授業を行うクラスを設けるつもりであることなどが発表された。

 

「言っておくが、この特別授業は正規の枠ではないぞ。故に授業は放課後に行い、希望者のみの参加とする。所属の寮監を通して申し込むように」

 

 次第に、大広間にざわめきが広がる。特別授業の内容や担当教授などの詳しい説明もなく、宴の始まりが告げられたのもその理由だろう。ざわざわとした空気の中、各寮のテーブルに料理が並んでいく。もちろん、教員たちの席も同様だ。だが料理に手をつけるまえに、副校長としてスネイプの隣にいたマクゴナガルが彼にささやく。

 

「そんな話、聞いていませんね。何をするつもりなのです?」

「失礼、ふと思いついたもので。詳細については、これから詰めていくこととなるでしょう。で、どうです? このあと校長室で打ち合わせでも」

「……良いでしょう。生徒たちを寮に戻した後でよければ」

「もちろんですとも。そうですな、あの娘も連れてきてくださるとありがたい」

「あぁ、やっぱり。お目当てはアルテシア、なのですね」

 

 それには答えず、スネイプはカトラリーへと手を伸ばした。

 

 

  ※

 

 

「すでに発表したとおりだが、おまえに任せようと考えている。おまえなら、役立てることができるはずだ」

「ですが先生、先生は、わたしにそのクラスをどうしろと」

 

 当然、何らかの思惑があるはず。そう思うのは不自然ではないが、そんなアルテシアの疑問に答えを出したのは、スネイプではなくマクゴナガルだった。

 

「これまでに聞いた話から判断すると、いかようにも利用して良い、ということになるようですね」

「わたしの好きなように、ということですか?」

「ええ、もちろん。スネイプ校長はそれを望んでいるのでしょうし、私もそれで問題はないと思いますね」

 

 どういうことか。腑に落ちない様子のアルテシアだが、マクゴナガルは軽くため息をつくとその視線をスネイプに向ける。

 

「もう少し詳しく言うなら、このクラスでクリミアーナの魔法でも教えるなどして、腹心の仲間を育ててみてはどうかと、そうおっしゃっているのですよ」

「お待ちを。吾輩はそんなことを言ってはおらぬし、思ってもいないのですがね。ですが、まあ。この先どうなるかは、全てこの娘にかかっている。そういうにはなりますがね」

 

 スネイプの目が、マクゴナガルの目が、改めてアルテシアへと向けられる。

 

「本当にいいんでしょうか。もしも、本当にそれで良いのなら…… やってみたいことがないわけでもないんですけど」

「ならば、やってみるがいい。口出しはせぬし、マクゴナガル先生も何かと力を貸してくださるだろう。違いますかな?」

 

 だが、そのことにマクゴナガルが答える前に声がした。そういえば、この場所は校長室。肖像画のなかの歴代校長たちには、当然、この話が聞こえていたことになる。そしてそこには、ダンブルドアもいた。

 

「いったい何をやろうというのかね。せっかくの機会じゃからの。その考えを聞かせてほしい」

「これは、校長。いや、ダンブルドア元校長。その話の前に、この娘におっしゃるべきことがあるのではありませんかな」

「いいや、セブルス。そなたの言いたいことは分かる。分かるが、ともあれ聞かせてもらえるかな、アルテシア嬢?」

 

 つまりは、何もかも話せ、ということになる。ダンブルドアから反対でもされたら、この話はなくなるのだろうか。ふとそんな思いがアルテシアをよぎるが、それはさておき。アルテシアはこれまで、ダンブルドアとはあまり話をしてこなかった。ちょうど良い機会というのは、アルテシアも同じなのかもしれない。

 改めて、ダンブルドアに視線を向ける。

 

「魔法界の混乱をどうにかしたい。そう考えてくれておるのじゃろ? どうかね、お嬢さん」

「それが、例のあの人のことをおっしゃっているのなら……」

「いや、そこはちゃんと名前を言うべきじゃよ、お嬢さん。ヴォルデモート卿とな」

 

 話の腰を折る、というつもりはないのかもしれない。アルテシアは、ちょっとだけ首を傾げた後、ニコッと微笑んだ。

 

「でしたら、トム・リドル。そう呼ぶほうがいいんだと思いますけど、わたし、その人に会いました」

「ああ、聞いておるとも。それで、どういう話をしたのかね」

「ご自分の考えを曲げるつもりはないようです。あまり話はできませんでしたけど、説得することは難しいと感じました」

「さもありなん。わしも、同じ考えじゃ。で、どうするのかね? 思うに、お嬢さんの場合はいくつか選択があるのじゃが」

 

 選択? その場にいる誰もが、同じことを思っただろう。それは、どういうことなのかと。その空気を感じたのか、ダンブルドアは軽く笑って見せた。

 

「闇の側に支配されつつある魔法界など見捨て、クリミアーナに帰るのも立派な選択肢じゃろうて。そんな選択を、お嬢さんがするかどうかはさておき、このままホグワーツに隠れておるのでは、らしくはないと思うのじゃが、さて?」

「ダンブルドア、アルテシアに何を期待しているのかは知りませんが、アルテシアにはアルテシアの思った通りにやらせたいのです。口出しは無用に願います」

「ですな。今さらあなたが、あれこれと指示を出すのは適当ではない。賛成しかねますぞ」

「ほっほう、もはやここには、わしの味方はおらぬということかの。ともあれ、お嬢さんの意見を聞こうではないか」

 

 アルテシアが、何と答えるのか。マクゴナガルたちだけではなく、肖像画の歴代校長たちの注目までもがアルテシアに集まる。そんな視線の中、アルテシアは軽くうなずいて見せた。

 

「まずは準備が必要だと思うのです。このホグワーツは、魔法族の学校ですよね。その学び舎を、そこで学ぶ人たちの手で守っていけるようにしたい。そのための特別授業をやってみようかと考えています」

「ふむ。なれど、守ろうとするだけでは解決できぬと思うがの」

「自分たちで守るという意識を持つことは、この先、とても大切になってくると思うのです。大丈夫ですよ、あの人のことならわたしが全て引き受けますから」

「いや、困るな。それは止めてもらいたい。あやつとのことに決着をつけるのは、ハリーでなければならんのじゃ。願わくば、もう少し時間が欲しい。この老いぼれは、今しばらく、時が緩やかに流れてくれるのを望んでおるのじゃよ」

「なぜ、ですか?」

 

 その理由を聞けるのであれば聞いておきたい、とアルテシアは思った。そうすれば、何か別の考え方ができるのかもしれないからだ。すでにハリーには説明を拒まれ、助力すらも拒否されている。ダンブルドアも、それと同じだとするならば。ならば今、自分にできることは限られてくる。

 

「わしはなにも、生徒たちに防衛術を教えるのが悪いというておるのではない。むしろ、お願いしたいくらいじゃよ。このホグワーツを闇の陣営に委ねるのは本意ではないからの」

「ダンブルドア、アルテシアが聞きたいのは理由ですよ。あれをしろ、これをしろ、ではなく、その理由なのです」

「わかっておるとも。じゃが今は、そのときではない。いずれハリーが、話すじゃろう。それまで」

「待て、と。ふっ、それで納得しろとは無茶な話だ。今、まさに今だ。魔法界は、混乱と恐怖、疑心暗鬼の真っ只中にある。それを、そのときが来るまでは放置しておけと、そういうことになってしまう」

 

 そんなことをスネイプが言っている最中、ゆっくりとアルテシアが席を立つ。自然と会話が止まり、視線が集まっていく。

 

「何もしなくていい、何もするでないと、そういうことなのですね。ひとまず、先生のお考えは理解しました。今日のところは、これで失礼します」

 

 ペコリと頭を下げたところで、アルテシアの姿が消えた。ダンブルドアが何か言った、のかもしれないが、さて。それがアルテシアの耳に届いたかどうかはわからない。

 

 

  ※

 

 

 ソフィアが向かっているのは、普段は使われていない空き教室だ。そこで、パチル姉妹と待ち合わせ。いつもより急ぎ足に見えるのは、アルテシアも来ることになっているからだろう。これまでも放課後になるとよく集まっていた場所であり、マクゴナガルから使用許可も貰っている。もっとも、その許可が今も有効であるのかどうかは不明。

 

「おっ、来た来た。アルはまだなんだけどね」

「やっぱり、先生ってことになると忙しいんでしょうね」

 

 所属寮などが違えば、こうでもしないと、顔を見る機会がない。せめて放課後ぐらいはおしゃべりがしたい。これまでは、そんな思いで夕食までのひとときを過ごしていた。今日の目的も同じようなものだが、ソフィアには、是非とも伝えておきたいことがあった。

 

「魔法省が始めたマグル生まれ登録委員会のこと、ご存じですよね?」

「知ってるよ。それに例のあの人のこととかあるし、学校に来てない人、わりといるよね」

「ポッターたち3人は、例のあの人がらみで来てないってことで間違いないと思う」

 

 ソフィアの問いかけには、パドマ、パーバティの順で答えが返ってくる。その答えに、ソフィアが軽くうなずいた。

 

「その登録委員会のこともあるし、あたしたちは、魔法省のほうこそ注意すべきだと思うんです」

「ん? なんで。あの人のことはポッターたちに任せればいいってこと?」

 

 少しだけ首を傾げてから、ソフィアはそれを、否定してみせた。

 

「魔法省がらみのほうが面倒なんですよ。ウチの母が言うには、その委員会の狙いはアルテシアさまだろうって。あたしも、そう思うんですよね」

「どういうこと?」

 

 例のあの人のことは、どうでもいい。少なくともソフィアは、そう思っている。あちらとは単なる力比べをするだけの話であり、勝ち負けは明らか。だが魔法省が絡んでくると、そんな簡単な話ではなくなる。

 

「アルテシアさまの中では、魔法省は特別な存在なんです。クリミアーナを、その魔法を認めて欲しいと思っておられますから」

「あー、うん。それは知ってる。でもさ、それとマグル生まれ登録委員会がどう関係してくるの?」

 

 聞いてきたのは、パーバティ。もちろんソフィアも説明するつもりだったろう。だが、その話を続けたのはパドマだった。

 

「血筋、のことだよね。純血かどうかを問われたとき、アルテシアはなんて答えるだろう?」

「え? アルテシアって、クリミアーナ家直系の子孫だよね。なんか、問題ある?」

「皆さん、間違えないでくださいね。問題なのはソコじゃないんです。アッチの委員長が、あのアンブリッジだってことなんですから」

 

 その名前の人物を、もちろんパチル姉妹は知っている。その相手に対して良い印象など何一つ持っていない、ということも共通している。

 

「そのうち、ろくでもないことしかけてくるに決まってるんです。だったら、その前につぶしてしまえばいいって考え。皆さんは、どう思いますか?」

「なんだって? つぶす?」

「大まかには準備は終わってるらしいんですけどね。そりゃ魔法省の頂点に立てば、登録委員会がどうとかアンブリッジなんかも気にしなくてもよくなるんでしょうけど、でも、そこまではね。さすがにあたし、気が進まないんですけどね」

 

 そこで、パチル姉妹が顔を見合わせる。どうやら状況が伝わっていない様子に、ソフィアが苦笑い。つまりは、説明が足りていないということだ。

 

「あのですね」

 

 そのことを察したソフィアだったが、より詳しい話をする機会を失することになる。ちょうどアルテシアが、空き教室にやってきたからだ。なにしろ、この空き教室にアルテシアが来るのはしばらくぶりなのだ。かつて毎日のように顔を合わせていた親友同士がそろえば、まずは他愛のないおしゃべりからとなるのは仕方のないところ。

 軽くため息をついたソフィアの前で、ひとしきり、そんな話が続いていく。そして。

 

「そういえば、放課後を利用して特別授業をやるんだよね? あれって、講義の担当はアルテシアなんでしょ。レイブンクローじゃ、みんなそう言ってるんだけど」

「それ、グリフィンドールも同じ。ねぇ、新しい校長はなんにも言ってなかったけど、秘密にする必要ってあるの?」

「秘密っていうか、挨拶のときに思いついたらしいんだけど」

 

 とっさの思いつきなのだから詳しい説明などできようはずがない、というのがスネイプの主張。むしろ、当人の了解なく担当教授として名前を出さなかったことを感謝せよ、と言われたらしい。

 

「うわあ、あの先生らしいのかもしれないけど、それって、多分ウソだよね」

「でしょうね。思いつきなんかで行動するような人じゃないと思う」

「計画的ってことだよね。でもそんなの担当させられて大丈夫なの?」

「大丈夫。わたしの好きなようにしていいって言質はとったし、マクゴナガル先生も賛成してくれたから」

 

 果たして、スネイプにどのような思惑があるのか。それはわからないが、アルテシアはその特別授業を担当するつもりでいることを告げる。

 

「ふーん、好きにしていいってことなら、アルにとってはいいことなのかもね」

「で、何やるつもりなの? 何か、考えてることあるんでしょう?」

 

 そう言ってくるパチル姉妹に、アルテシアは微笑んでみせた。もちろん、計画していることはある。ヴォルデモート卿を中心とした闇の魔法使いたちの脅威が魔法界に広がりつつある今、自分たちで自分たちの場所を守る。まずはそんな力を付けて欲しい、と思っているのだ。

 

「なるほどね。でもホグワーツを守るってことなら、アルテシアが保護魔法かけたほうが早いんじゃないの。そのほうが安全安心だと思うけど」

「あのね、確かにクリミアーナ家と同じだけの保護魔法をかければ、ホグワーツは安全でと思う。だけど、さすがにその魔法を全部は再現できないんだよね」

 

 今はまだ、とその言葉が頭をよぎるが、口にはしない。ともあれアルテシアの住むクリミアーナ家には、その先祖の手によるさまざまな保護魔法が施されている。そのことはこの場にいる全員が承知しており、その再現が難しいことも共通した認識だ。だがそれが、そうでもなくなってきたとアルテシアはいうのである。

 

「どういうことなの?」

「あのね、パーバティ。ロウェナ・レイブンクローが残した部屋を見つけたっていう話はしたでしょう? そこで、いろいろ学ぶことができたってことなんだけど」

 

 もちろん、失われた魔法書がそこにあった、などという話ではない。ロウェナ自身がその部屋に残したもの、伝えようとしてくれたモノ。それらのこともあり、かなりのところまで近づけそうだという話である。

 

「なーるほど。アンタはクリミアーナの魔法はみんな知ってるもんね。あと足りないのは情報、そういうことか」

「ねぇ、その足りないモノが見つかったとして、これからどうなっちゃうのかな」

 

 ソフィアには、何か話しておきたいこと、伝えておきたいことがあったはず。だがソフィアは何も言わず、目の前で続くアルテシアとパチル姉妹の話を、ただじっと聞いていた。

 

 

  ※

 

 

「どのように進めていくのか、何か考え、具体的な計画などはあるのですか? 呼び出しの理由は、そのあたりの話だと思いますよ」

 

 放課後に行うことになった特別授業のことだろう。スネイプによる発表があってから、およそ1週間となる。すでに募集は締め切られ、明日の初回授業を待つばかりとなっていた。いまアルテシアは、その発表をしたスネイプに呼び出されマクゴナガルとともに校長室へと向かっているところである。

 

「予想したより多かった、と聞いていますよ」

「そう、なんですか」

 

 授業参加を希望する生徒の数、のことだろう。この特別授業は自由参加であり、希望する生徒は寮監を通じて申し込むことになる。ただ正規の授業枠ではなく放課後に行われるということで、希望者はそれほどいないだろうと予想されていた。その予想をしたのはスネイプだが、それがハズレたからといって、それをスネイプに言ってもムダというものか。

 

「そんなことはどうでもよい。それよりも、具体的な進め方について聞いておきたいのだ。好きにしてよいという言葉を撤回するつもはないが、内容はあらかじめ把握しておきたい」

 

 案の定、校長室でスネイプはそんなことを口にする。そのことに軽く苦笑いを浮かべたアルテシアだが、マクゴナガルが小さくうなずくのを見て姿勢を正した。

 

「考えているのは、攻防戦です。どこかの空き教室をホグワーツ城に見立て、どう侵入しどう防ぐか。それを実際に経験してもらおうと考えています」

「ふうむ、つまりは模擬戦ということか」

「そうですね。あれこれと考えてもらいながらの体験学習にしたいんです。単に机上で理論を学ぶよりも、実践的なほうがいいと思うんです」

 

 実際にはアルテシアは、自分と生徒たちとの戦いとする予定にしていた。だが希望する生徒の数が多いということで、まずは生徒たちを二手に分け、それぞれを競い合わせることから始めようとしたのである。

 

「私はいいと思いますね。魔法は、実践により身につくものです」

「だが、空き教室などでは現実感に欠けるな。どうせなら、校庭あたりに仮のホグワーツ城でも作ってみればどうだ」

 

 それが理想ではあるだろう。だが、そんな準備をしている時間などはない。特別授業は明日より始まるのだ。

 

「あー、諸君。ちょっといいかの?」

 

 そういえば、ここは校長室だ。不意に聞こえてきたその声は、歴代校長の肖像画のなかの人物だった。

 

「なんでしょうか、ダンブルドア。いまは、生徒指導に関する打ち合わせ中なのですけれど」

「ああ、マクゴナガル先生。もちろん、わかっておるとも。じゃが、この前の話は中途半端となってしまったでな。またとない機会なのじゃからして、ひとつふたつ、質問に答えてほしいと思うての」

 

 そこでスネイプが、盛大にため息を漏らした。それが返事の代わり、とでも思ったのだろうか。肖像画のダンブルドアは、自身のひげをなでながら話し始めた。

 

「わしは以前、クリミアーナ家を訪ねたことがある。そのことは覚えておるじゃろ、お嬢さん」

 

 アルテシアは、無言のままうなずいた。そのときダンブルドアは、ハリーを連れてやってきている。

 

「あのとき、いくつかの不思議を体験させてもろうた。お嬢さん、アレがクリミアーナ家の保護魔法、そういうことでいいかの?」

「あー、我が輩もそれを体験したことがあるが、まさかおまえ、あの魔法を皆に学ばせるつもりなのか?」

 

 だがアルテシアは、にっこりと笑って首を振る。肯定と否定。その両方を意味しているのだろう。

 

「アレを覚えてもらうとしたなら、数年単位の時間が必要になります。そこまでは考えていません」

「じゃが、お嬢さん。キミならば、それができる。今、それをホグワーツ城にかけてくれれば、闇の側からの侵略は防げる。そうではないかね?」

 

 それは、確かにそうだろう。今それができるかどうかはさておき、ホグワーツにクリミアーナ家と同じ保護魔法を施せば、アルテシアが望まぬモノからホグワーツは守られることになる。だけど、とアルテシアは思う。

 

「ダンブルドア先生、先生は、いまホグワーツにかけられている保護魔法では不十分だと、そうお考えなのですね」

「そうじゃの。今のままでは、あやつのホグワーツへの侵攻を止めることは難しかろう。それを防ぎ時間をかせぐ。そのために必要となるのが、クリミアーナの保護魔法じゃとわしは思うておる」

「それは、わたしが例のあの人へと手を出した、ということにはならないのでしょうか。先生は、例のあの人に手出しは無用だとおっしゃいました。あの人との決着はハリーがつけるのだからと」

 

 その日はいつで、そのとき魔法界はどのような状況となっているのか。ホグワーツは学び舎としての環境を維持できているのかどうか。そんなこともわからぬまま、ただ時間を過ごすことになるのはさすがに許容できない。

 

「その決着がつくのは、いつですか。なぜ、ハリーなのですか。時間が必要なのはなぜですか。ハリーたちは何をしているのですか」

「すまんのう、お嬢さん。疑問を持つのはもっともじゃが、いずれハリーが話すまで待ってもらうしかないのう」

 

 その、待たされる時間。いつとも知れぬハリーが話す気になるときまでの時間は、アルテシア自身が稼ぎ出さねばならない。つまりダンブルドアは、そう言っているのだ。だけど、と再びアルテシアは思う。

 

「だけど、先生。さすがにわたし、それまで何もしないで待つというわけにはいきません」

 

 アルテシアが、ゆっくりと首を振る。スネイプやマクゴナガルは、何も言わずに二人のやりとりを見守っているといったところであり、そんな状況に、ダンブルドアは軽くため息。

 

「その気持ち、わからんではない。じゃが、そうしてもらうしかないのじゃ。ハリーの仲間として共にヴォルデモートに対して欲しかった。あの3人の中に、あの中にお嬢さんがいればよかったのじゃが」

「でも、それは」

「そうじゃとも。なぜか、ハリーはお嬢さんを仲間とはしなかった。そうはならなかった」

「なんと。つまりダンブルドア、あなたはこの娘とポッターとが手を取り合って闇の側と対峙する。そのことを想定し、この娘をホグワーツに入れたと、そういうことですかな」

 

 実際はどうなのか。それについて、ダンブルドアは何も語らない。そこまで秘密にするようなことなのか。アルテシアは、内心でため息をつく。そして。

 

「いずれにしろ、どのようにしてホグワーツを守るのか、特別授業の中で、その対処を生徒たちと考えていくことにしたいと思っています」

「いや、お嬢さん。それではチト困るのじゃと、そう言うたはずなのじゃが」

「それは、なぜですか。ハリーも理由は話せないと言いました。それがわからないうちは、わたしとしてもどうしようもないのですけれど」

「ダンブルドア、つまりアルテシアは、アルテシアの思ったように特別授業を進めるしかない。そうさせたのはポッターであり、あなたであること。それはおわかりのはず」

 

 このときダンブルドアの表情に、さほどの変化はない。だが、思ったように話が進まない状況にいらだちはあるのだろう。おなかのあたりで組んだ両手の親指が、せわしなく動きはじめていた。状況打開のために何を言えばいいのか。それを考えているのかもしれない。

 

「わかりました、先生。先生がおっしゃったように、例のあの人とのことはハリーに任せます。どういうことが決着となるのかはよくわかりませんが、それでいいのですよね?」

「む、うむ。まあ、そうじゃの。そうしてもらえればありがたい。ハリーのためにもの」

「それは、ハリーのため、なのですね」

「じゃがの、ホグワーツが攻められたり、多くの人々が悲惨な目に遭ったり、それはこのおいぼれの本意ではない。それはわかってほしい」

 

 あくまでも、ダンブルドアは詳しい説明をしないつもりのようだ。アルテシアを含め、その場にいる人たちの誰もが苦笑する。そして。

 

「ですが、先生。言っておきますが、あの人が何かをしでかし、それを止めなければならない状況となったとき。それを見逃すつもりはありません。そのときは」

「いや、お嬢さん。わしは、そうならないようにと」

「そのときは、相応の対処をします。しないわけにはいかないですから。もちろん、ハリーには手出しをしない、という約束は守ります」

 

 アルテシアは、それを拒否してはいない。一応は、ダンブルドアの要求も通っているカタチなのである。事ここに至っては、もはや反論の余地はない。ダンブルドアは、無言のまま、目を閉じた。

 その様子に苦笑いを浮かべつつ、スネイプ、マクゴナガル、アルテシアの3名は、明日からの特別授業についての話を続けた。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアが担当することになった、放課後の特別授業。今日は、その第一回目である。希望者のみを集めて行われるそのクラスでは今、授業内容の概略が説明されたところである。だが参加者の表情は、一様にさえない。まさに意外なことを聞かされた、といったところなのだろう。互いに顔を見合わせたり何事かささやきあったりと、次第にざわざわとした雰囲気が教室内に広がっていく。

 そんな中で、すっと手があがった。ハッフルパフの生徒たちが集まる一角、その前列に陣取ったスーザン・ボーンズだ。先だって叔母のアメリアをデス・イーターに殺害されるなどしており、闇の陣営の脅威をより身近に感じているであろう人物である。

 

「聞きたいことがあるんだけど」

 

 もちろん、アルテシアはそれを拒んだりはしない。微笑んだまま、軽くうなずいて見せた。

 

「とりあえず、この特別授業をどう進めていくのかはわかったわ。自分たちでホグワーツを守ろうって言う考えにも賛成する。大切なモノをどうやって守るのか。それを学ぶことって大事なんだと思うから。でも、その前にあなたに聞きたいことがあるの」

 

 周りの生徒たちからの声はない。誰もが、じっとスーザン・ボーンズの話に耳を傾けていた。その視線をアルテシアへと向けながら。

 




 スネイプが、学校改革を発表しました。特別授業を実施するというものですが、それを希望する生徒はけっこういたようです。その授業を任されるアルテシアに、ダンブルドアの言葉がどう響いたのか。一方で、ロウェナ・レイブンクローの残した部屋のことも気になっています。マグル生まれ登録委員会のこともあります。この先、なかなか忙しいようです。

 次回は、第128話「特別授業、始まる」(11月19日火曜日の予定)。いよいよ、特別授業がスタート。また123話でハーマイオニーが探すと言っていた、いわゆる虹色の玉の件で進展も……
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