ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第133話 「その前日」

「宴会?」

 

 ハリーたち3人組がホグワーツに戻って来たという、ソフィアからの報告。だがその内容に、大臣室にいる誰もが、そんな意外そうな疑問の声を上げた。

 

「そう、宴会です。一応、グリフィンドールの人たちが中心になっての歓迎会ってことらしいですけどね。ポッターさんたちが無事に戻って来たことを祝うんだそうです」

「なるほどね。状況考えると、ちょっとあきれる気持ちはあるけど、わからないでもないってところかな」

 

 今ホグワーツでは、ヴォルデモートによる襲撃への対策が急務となっている。多くのデス・イーターたちを率いた来訪にどう備えるのか。さまざま準備をし防衛体制を整えてきたとはいえ、彼らにとっては不安はあるだろう。そこへハリー・ポッターが戻ってきたのである。生き残った男の子であり、ここ何年ものあいだ、例のあの人と戦ってきているのだ。すがりたくなる気にもなろうというものだ。

 またハリー側にしても、苦しい旅の末に戻ってきたところ、学校では着々と対ヴォルデモートの対策が進んでいたのだ。そんななかへ、自分たちが大歓迎で迎えられたのである。気持ちが高揚してきたとしても、おかしくはなさそうだ、と。

 なるほど、ルーピンの言うとおりかもしれない。だが今、そんなことをしている場合なのだろうかという思いは当然のようにある。ルーピンの言葉が途切れたところで、アルテシアが、軽く首を振った。

 

「でも、やめさせるのって無理だと思いますよ。なにしろ、すごく盛り上がってますから」

「だろうね。いいわ、とりあえず口出しするのは止めておきましょう。作戦前のいい息抜きになるのかもしれないし」

「そうした方がいいね。ヘタをすると、変に不満を持つかもしれない。明日一日の余裕があるし、目をつぶるのもいいと思うね」

 

 ただ、とルーピンは人差し指を立てて見せた。気になるところが1つあるという。

 

「ハリーたちの旅の目的だよ。彼らは分霊箱を探していたはずだ。戻って来たということは、分霊箱の処分が終わったということでいいんだろうか。どう思う?」

 

 そう問いかけられたアルテシアだが、すぐさまそれを否定する。分霊箱化した虹色の玉はともかく、他にあと1つ、それがホグワーツに隠されていることは確実である。なによりそのことは、ヴォルデモート自身が認めていると、アルテシアが告げる。

 

「なんとなんと、レイブンクローの失われた髪飾りが分霊箱とされ、しかもそれがホグワーツにあるとはね」

 

 その回収のため、例のあの人はホグワーツ襲撃を決めたのだろう。少なくともその目的の1つであるはずだと、ルーピンは言う。それはアルテシアたちも同じ考えだが、分霊箱のことなど何も知らないスーザンが声を上げる。

 

「分霊箱ってのが何なのかよくわかりませんけど、ポッターたちは、それを探しに戻って来た。そうは考えられませんか」

「だと思いたいですけどね。でもあの様子じゃどうなんだか、ちょっと怪しい感じがします」

 

 だがスーザンの意見に、ソフィアはまったく同意する様子はない。分霊箱を見つけることができず、あきらめて戻って来た可能性すらあると言うのだ。そもそもハリーたちは、分霊箱を見つけたのだろうか。いったい、いくつ処分したのだろうか。

 

「まあ、その話はともかくとしてだね。分霊箱がホグワーツにある。だったら、あらかじめそれを見つけておいたほうがいい。きっと大きなアドバンテージになると思うよ」

「ですよね。でも心配しなくてもハリーたちが探すんじゃないですか。そのために旅をしていたはずですから」

「うん。そうなんだけどね。でも今聞いたところじゃ、そんなことは頭の中から飛んじゃってるんじゃないかって思うんだ」

 

 とんでもない話だよねと、ルーピンは苦笑する。すぐ目の前に、例のあの人との戦いがある。その準備が進んでいる。そんな場に接したことで、もはやそれしか見えていないんじゃないか。ハリーには、そんなところがあるように思うのだと。

 

「その先頭にいる、そんなつもりかもしれないね。今夜は仕方ないとしても、明日になって落ち着けば、たぶんハーマイオニー嬢あたりがうまく言い聞かせるだろうとは思うけど」

「不安、ですか」

「まぁね。でも、心配はしてないよ。いずれにしろ、失われた髪飾りはキミの手元にやってくる。そんな気がするからね」

 

 結局、ハリーたちは分霊箱を探さない。ルーピンはそう考えているようだ。だがそれでいいのか、何も問題はないのか。そのあたりの良否について、アルテシアは判断できない。できない理由は、情報不足。その一言につきる。

 

「ええと、今日の話題としていたことは、予定外の件も含めて話し終わったので、これでお開きとしましょうか」

 

 ちょうど話が途切れたところを見計らったように、ティアラが書類を整理しつつ声をかける。異論は出ないようだ。

 

「では皆さん、それぞれ自分の役割、しっかりとお願いしますね。それからミス・ボーンズ、魔法法執行部会議の際には連絡しますので、出席よろしくお願いします」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げたスーザンに、ティアラが満足そうに微笑み、もう一言。

 

「ゆっくりお休みください。ホグワーツでは、もうじき消灯時間。さすがにポッターの歓迎会とやらも終わる頃でしょうから」

 

 

  ※

 

 

 アルテシア、ソフィア、スーザンの3人がホグワーツに戻って来ていた。と言っても、ドアを1つ通っただけなのだが、スーザンにとっては、大臣室で過ごした時間がかなり負担になっていたのだろう。そこにあるソファへと座り込み、大きくため息をついた。

 ちなみにここは、ホグワーツでのアルテシアの執務室である。

 

「大丈夫、スーザン。疲れた?」

「疲れたよぉ、もう、なんで大臣室? いきなりはないって。先に言っといてよ」

「あのお、ボーンズさん。お忘れかも知れませんけど、目の前にいるこの人、現役の魔法大臣なんですからね」

 

 ソファでぐったりとしている、その姿。暗に批判でもするかのようなソフィアの指摘。だがスーザンは、その視線をチラとアルテシアに向けただけだった。

 

「知ってるよ。知ってるけど、今は大丈夫。今は、友だちのアルテシアにしか見えないから」

「あらら、うまいこと言いますね、ボーンズさん」

「ゴメンね、ちょっとだけ休ませて。そしたら寮に戻るから」

 

 もしかしたら、このまま寝てしまうのでは。そんな心配をしつつも、アルテシアは紅茶の用意を始め、ソフィアがそれを手伝う。

 

「ああ、ソフィア。分霊箱のことだけど」

「あたしも、そのつもりでいます。髪飾り、探しとくんですよね」

「お願いできる?」

「わかりました」

 

 だが一応、明日はハリーたちを優先するようにとの指示がでる。つまりは、取りかかるのは明後日からということだ。

 

「いいですけど、明後日はあの人たちが攻めてくるはずの日ですよね。そんな時間、あるかな」

「大丈夫、どこにあるのか目星はついてるから」

「へえ、そうなんですか」

 

 そんなに難しいことではない、とアルテシアが笑う。いかにヴォルデモートとて、いやヴォルデモートである限り、ホグワーツへの出入りは容易なことではない。ならばこそ、誰にも見つかることのない、自分の目が届かずとも大丈夫な場所、そんな保管場所が必要、ということになる。

 

「あ、わかった」

 

 寝ていたはずの、いや、寝ているだろうと勝手に思い込んでいたことになるのか。声を上げたのは、スーザンだ。

 

「あら、スーザン。起きてたんだね」

「まあ、ね。たぶん必要の部屋だと思うよ」

「だろうね。わたしもそう思うけど、とりあえず、これどうぞ。口に合うといいんだけど」

 

 紅茶の用意は、スーザンの分も含めて終わっていたようだ。それを3人で囲み、話が続く。

 

「DAで防衛術の訓練をしたとき使ったことあるんだよね。その部屋って、自分の思い通りの部屋になるのよ。つまりね」

「あー、そうでした。じゃあ、あたし。これから行って、回収してきますから」

 

 スーザンの言葉を遮るかのように、ソフィアが立ち上がる。だがすぐに、アルテシアが止めた。その肩に手を置き、元通りに座らせる。

 

「明後日でいいからね、ソフィア。それで間に合うんだし、明日は、ハリーたちが探すと思うから」

「どうだろう、髪飾りだっけ、あれが分霊箱でホグワーツにあるってこと、知らない可能性ってあるんじゃないのかな」

「いいえ、スーザン。どっちにしても、明日は様子見になると思う。だってわたし、手出しは無用だと言われてるの」

「えっ、なにそれ。誰がそんなこと」

 

 詳しいことはわからないんだけど、とアルテシアは苦笑する。なにしろ、ハリーやダンブルドアからは、その詳細を話してもらっていない。言われたのは、ヴォルデモートと決着をつけるのはハリーでなければならないということだ。故に手出しは無用であり、ハリーからも協力の必要はないと言われている。

 だがそれは、スーザンには受け入れがたい話だったらしい。

 

「でっ、でも、だからって、あの人がホグワーツを襲ってきても知らん顔、なんてしないわよね、ねぇ、アルテシア」

「そうだね、ハリーたちの手に負えなさそうなときには、ね。ところでスーザン、大事なことを思い出したんだけど」

「大事なこと?」

 

 にっこりと笑って、紅茶のお代わりを勧める。そして。

 

「そろそろ消灯時間になるのよ、スーザン。ハッフルパフから減点、されたくないでしょ。わたしもしたくないし、これ飲んだら寮まで送るわ」

 

 だがおしゃべりはとどまることなく続き、そのお代わりを飲み終えるまで、およそ30分ほどかかったのはご愛敬というものか。ハッフルパフ寮の前までアルテシアの転移魔法で移動し、その日は終わった。

 

 

  ※

 

 

「いいかげん、起きなさいよ、あなたたち。これでもずいぶん待っててあげたんだから」

 

 なるほど、朝であるのは間違いない。だが、だからといって起こされる方にとっては、とんでもない話だった。なにしろ、いつもの起床時間となるまでまだ1時間以上はあるのだから。

 

「もう、なんなのよ…… って、ハーマイオニーか。どうしたの」

「あんたたちが戻って来たって話は聞いてるよ。夜通しで宴会するらしいってこともね。ようやく終わったってところ?」

 

 いくらか皮肉っぽく言ったのはラベンダー・ブラウン。その隣のベッドでは、パーバティが眠そうに目をこすっている。そのパーバティのベッドへと座り込むハーマイオニー。

 

「ねぇ、アルテシアは? どうしてベッドが空っぽなの?」

 

 ここは、グリフィンドール女子寮の一室。長らく学校に来ていなかったにせよ、ハーマイオニーの部屋でもあるので、彼女がいるのに不思議はない。だが、アルテシアの場合は事情が違う。

 

「アルは、正式な教授になったからね。学校から自分の部屋をもらって、そっちで寝泊まりしてるんだけど」

「あー、そういうことね。困ったな、アルテシアに大急ぎで相談があったんだけど」

「相談?」

 

 今さら、何の相談が? そんな思いがよぎったのに違いないが、パーバティは、ただラベンダーと顔を見合わせただけで、口に出したりはしなかった。

 

「捜し物があるんだけど、アルテシアの協力がないと見つけられないと思うのよ。時間もないし」

「どういうことなの」

 

 ヴォルデモートとの戦いが始まるまでに、なんとしても見つけたいものがあるというのだ。だが、なぜなのか。急ぎの理由などの具体的なことには触れないことに、ラベンダーが明らかな不機嫌顔となっていく。

 

「それって、分霊箱のことだよね。たしかハリー・ポッターご一行の旅の目的って、それを見つけることだったんじゃないの」

「そうだけど、全部を処分はできなかったのよ。でもラベンダー、あなたなぜ、分霊箱のこと知ってるの」

「そんなのは、どうだっていいの。それより、アルテシアに探させようって言うんでしょ。あの子がどんなに忙しいのか知ってて言ってるの」

 

 今現在、ヴォルデモートのホグワーツ来襲が確定しているのだ。さまざま準備が進んでいるとはいえ、その対応などで飛び回っていたアルテシアを、ラベンダーは間近で見ていた。口に出さずにはいられなかったようだが、パーバティがそれを止める。

 

「ハーマイオニー、みんながウワサしてたと思うけど例のあの人がホグワーツを攻めてくるって話、聞いたよね?」

「ええ、知ってるわ。旅先でそれがわかったからホグワーツに戻って来たのよ」

「待って。じゃあハリーも、それを知ってるってことよね。なのにパーティーに夢中って、それって、おかしくない?」

 

 今度は、パーバティの口調にも苛立ちが混じった。だがハーマイオニーは、きょとんとした顔をみせただけ。

 

「あの、パーバティ、それって……」

「あなたがお願いすれば、アルテシアは力を貸してくれると思うわ。大切な友人だからね。その友人が困ってるのに、知らん顔はしないはず。だけどね」

 

 その続きをどうするか。あるいは、迷ったのかもしれない。チラと視線がラベンダーの方へと動いた。それに応えるかのように、ラベンダーが、軽く頷いてみせた。

 

「アルテシアの部屋は教えるよ。でもさ、ハーマイオニー。そんなことやってると、嫌われるよ。イヤじゃない? アルテシアに嫌われるなんてさ」

「な、なによ。何、言ってるの」

「それとも、伝言しようか? なんて言えばいい?」

 

 そう言って微笑むパーバティだが、ハーマイオニーからすぐには返事がない。仕方なくパーバティは、アルテシアに割り当てられた部屋の場所を紙に書き、改めてベッドに潜り込んだ。まだしばらくは、寝ていられる時間があるはずなのだから。

 

 

  ※

 

 

「ありがとう、ヘレナ。いろいろと確かめることもできたし、すごく勉強になったよ」

「そう。喜んでもらえたのなら、 何よりだわ。わたしとしては、復習させられてるような気分だったけど」

 

 ポッターたちがホグワーツへ戻り、グリフィンドール塔が歓迎会一色に染められた日の、その翌日から丸24時間。ヴォルデモート卿のホグワーツ襲撃が予想される日が、ようやく始まろうとする頃である。アルテシアは、レイブンクローのゴーストから魔法の授業を受けていた。しかもその内容というのが、クリミアーナの魔法についてである。間違い、ではない。アルテシアが、ヘレナ・レイブンクローからクリミアーナの魔法の講義を受けたのである。

 

「にしても、よく覚えてたわね。ざっと1000年? おかげでわたしは助かったけど」

「あなたの授業が楽しかったからよ。だから、褒められたくて懸命に学んだ。この身はゴーストになったけど、だからって、それを忘れるなんてできなかっただけ」

「また、勉強するってのはどう? ヘレナなら先生だって、できると思うんだけど」

 

 実際に今、いろいろと教えて貰ったじゃないの、とアルテシアが笑う。ヘレナは何も言わないが、その表情を見る限り、まんざらではないらしい。アルテシアにとっても、この時間はとても有意義なものとなった。

 例の失われた魔法書がどうなったのか、ヘレナが持ち出した後、それをどうしたのか。その確認のためヘレナに会いに来たのだが、よくよく考えてみれば、ヘレナはクリミアーナ家の先祖より魔法を学んでいた時期があるのだ。しかも当然にして、失われた魔法書を読んだことすらもあるのだ。

 アルテシアには、ロウェナが残してくれたいくつかの資料がある。だがそこには、知識だけではなく、気になることや疑問点などもあった。それらが解決できればいいと、そんな軽い気持ちで始まったのだが、ヘレナはアルテシアが意外に思うほどにその教えを覚えていた。次第に熱が入り、時間は瞬く間に過ぎていった。アルテシアが必要としていた知識が、そこにあった。

 

「とにかくこれで、いろいろと納得できた。ありがとうね、ヘレナ」

 

 疑問や違和感、不思議に思うようなところなど、もう何もない。一般的な授業とは違い、アルテシアの質問にヘレナが答えていくといった形式だったが、むしろそのほうが効率的ですらあったのだろう。意図してのことではないのだろうが、およそ一昼夜に及んだこの授業が最後の要素となり、結果、全てが結びつくことになったのである。

 いくつかに分かれ不明となった部分すらもあったクリミアーナの魔法書だが、この日、それらがアルテシアのもとへと集まり、その頭の中でまとめられていくことになったのだ。まさにそれは、何も書かれていないまっ白のページに続々と文字が連ねられていくようなもの。奥底に眠っていた記憶が蘇るようでもあり、例えるならば、アルテシアにとっての、魔女としての新たなる目覚めといったところだろうか。ともあれ、欠けたページの全てが埋まり、クリミアーナ家本来の、その魔法書が完成したのである。

 思えば、あの日。マクゴナガルがクリミアーナ家を訪ねてこなければ、こんな日が来ただろうか。ホグワーツに入学しなければ、当然レイブンクローとの邂逅はなく、ホグズミード村を訪れることもなかった。ヴォルデモート卿を巡る騒動に巻き込まれることもなかったことにはなるが、それは結果論だ。それぞれに、何かしら意味はあるのだろう。

 

「最後に1つだけ、あなたが持ち出した魔法書だけど、ロウェナの髪飾りと一緒にアルバニアの森に隠したってことで間違いないのよね?」

「……ええ、そうだけど。ごめんなさい、そのことは本当に悪かったと思ってるわ」

「ああ、違うの。確認したいだけ。ね、髪飾りは今も無事なようだけど、本はどうなったと思う?」

「どう、なったかって…… わからないわ。あの時はたしか、大きな木の洞に、本を置いて、その上に髪飾りを置いて……」

 

 それで、どうなったのか。すぐにもその答えを聞きたいところだったが、アルテシアはヘレナの言葉を待った。その頃の記憶をたどるための時間、そんなものが必要だろうと思うからだ。もちろん長い時間が必要、というほどではない。そして。

 

「そう、そうだわ。そのあと、男爵に刺されて…… 気がついたら、ゴーストになってた。きっと何十年も経っていたんだと思う。周りには、知ってる人は誰もいなかった。母も、あなたも、誰も……」

「ごめんなさい、つらいことを思い出させてしまったわね」

「そんなのいいけど、でも、何かの役に立つの?」

 

 それは、まだわからない。アルテシアは、ただ笑顔を見せただけだ。だがこれで、手がかりはつながったのだ。あの本と髪飾りは同じ場所に置かれていた。その髪飾りを手にしたとき、本はどうなっていたのか。もちろん、本としての体裁を保っていたなどとは思わない。だが、なにかしらの痕跡は残っていたはずだ。そしてそれを知るのは、例のあの人のみ。

 幸か不幸か、そのヴォルデモート卿がホグワーツにやってくる。友好的な訪問ではないが、その話をする機会くらいはあるだろう。今のアルテシアにとっては、もはやその本を読む必要はないが、その行く末くらいは知っておきたかった。

 

「時間のほうは大丈夫? 大きな戦いが控えてるんでしょ」

「そうだけど、まだ数人が姿を見せたくらいだね。あの人を含めた全員が集まってから、になるんだと思うよ」

 

 そんなところで、ヘレナとの話し合いは終わった。予想外に時間はかかってしまったが、その分だけ実り多き時間となったことだけは間違いない。

 

 

  ※

 

 

「見つけた! やっと見つけた! アルテシア、あなたに話があるの!」

 

 玄関から校庭へと出ようとしたところ、どこからか、そんな声が飛んできた。その声の主が、まるで姿現しでもしたかのように、あっという間に目の前へと現れる。もちろんホグワーツでは、姿現しはできなくなっているのだが。

 

「ど、どうしたの、ハーマイオニー」

「どうしたもこうしたもないわ、どれだけ探したって思ってるの。寮は出たっていうし、新しい部屋にもいないし」

 

 正式に教授となってから得た部屋のことだろう。ハーマイオニーが探し回っていたという時間、アルテシアは、ヘレナのもとで過ごしていたのだ。見つからなかったのも、当然のことかもしれない。

 

「あなたたちが旅から戻ったのは聞いてるよ。元気そうでよかった」

「ありがとう、それでね、アルテシア。ちょっと相談があるんだけど」

 

 とはいえアルテシアには、取り急ぎ片付けておきたい案件があった。デス・イーター達が出揃うその前に、ホグワーツにかけてある保護魔法を見直しておくつもりで校舎を出ようとしていたところであり、いきなり相談と言われても、正直、困惑を覚えるしかなかった。さて、どうするか。

 ヘレナと学んだことを生かし、防衛体制を強化することはできる。それこそ、クリミアーナ家にかけられた保護魔法レベルにまで。だがそれは、いわば必要にして十分なものを、必要にして十二分なものとするだけのことでしかない。もちろんやったほうがいいのは確かだが、今のままでほぼ問題ないのも間違いではない。

 

「わかった。どこか、座って話そうか。湖の畔でいい?」

 

 その問いに、ハーマイオニーは返事をしたのかどうか。アルテシアが示した手の先にはベンチがあった。湖の畔にいくつか設置されているベンチのひとつだ。

 

「こ、これは……」

「どうぞ、座って。もう夜が明けたし、今日は慌ただしい日になりそうだからね」

 

 話があるなら早くして欲しい、もちろんその裏には、そんな言葉が隠れている。それがわかったのかどうか、ハーマイオニーは苦笑混じりで、持っていたカバンの中へと手を突っ込んだ。

 

「これをね、見つけたいって思ってるんだけど」

「は?」

 

 見つけたいって、では今、手のひらの上にあるものは何だというのだろう。あるいは、何かの冗談なのだろうか。戸惑うアルテシアに、ハーマイオニーは慌てて言葉を付け足す。

 

「ち、違うの。これは旅に出る前にアルテシアに作ってもらったものだけど、あなたじゃないクリミアーナ家の人が、これと同じものを作ったはずなの。大急ぎで、それを見つけなきゃいけないんだけど」

「わたしじゃない、クリミアーナ家の……」

「そうよ。わかる? 見つけられるよね?」

 

 これだけで見つけろ、というのは無理がある。圧倒的に情報不足。手がかりがなさ過ぎる。普通ならばそんな話になるところだが、そうならなかったのは、アルテシアに心当たりがあったから。どこにあるかも知っているのだ。そう、ジニーが魔法省の神秘部より持ち出した、あの虹色の玉のことだ。それは今、いわば分霊箱となっているようなもの。ハーマイオニーがそれを見つけたいというのは理解できる。

 

「スリザリンのロケットがね、分霊箱だったのよ。見つけて回収したんだけど、中身がすり替えられてた。ロケットの中にメッセージがあってね」

 

 分霊箱という言葉が当然のように出てきたが、いいのだろうか。自分が心配するようなことではないのだけれど、とそんなことを思わずにはいられない。なにしろアルテシアは、そのあたりのことを教えてもらっていないのだ。

 

「そこには、虹色の容器のなかへ処分したって書かれてた。つまりは、これよね。これが、新たな分霊箱になったってことでしょ」

 

 なるほど、申し分はわかった。だがあれを、渡すことはできない。あの箱を壊せるとは思わないが、不測の事態は起こりうるのだ。いくら可能性が限りなくゼロだとしても、あれは手元に置いておきたい。

 

「わかった、ハーマイオニー。さすがに渡すことはできないけど、それでもいいなら、今の状況だけは話しておくわ」

 

 ハーマイオニーから返事はない。だが拒否、ということではないのだろう。原因は、突然に現れ、2人が座ったベンチの上に出現した箱だ。どうやらその箱に目を奪われただけではなく、意識までも持って行かれたらしい。

 

「箱の中にあるのが、あなたが言ってた虹色の容器だよ。あ、その箱って開けられないからね」

「えっ、でもこれ。待って。これって、どこにあったの? なぜ、あなたが持ってるの?」

「詳しいことは話せない。ふふっ、あなた達なら、そう言うのかもね」

「えっ」

 

 ごめんなさい、冗談よ。そう言って、笑ってみせる。これくらいの皮肉は言ってもいいだろう、たまにはねと、そんなことをアルテシアは思う。だがもちろん、笑い事ではない。ここからはまじめな話だ。

 

「神秘部での戦い、覚えてるよね? その虹色は、あそこに保管されていたの」

 

 そのときジニーが見つけ、それを持ち帰った。そしてアルテシアの手に渡り、箱の中へと文字通り封じられているのだが、その詳細までを告げる必要はない。これは、意地悪などではない。

 

「虹色の容器だけでも、保管するのには十分。わたしでも、壊すのにはなかり苦労すると思うしね。でも一応、念のために箱に入れてみたの」

「で、でも、壊さないと」

「壊せないのよ、ハーマイオニー。虹色の容器は壊れない。容器を箱から取り出すこともできない。そう断言してもいいよ」

 

 もし壊すのなら、箱を開けようというのなら…… それはいわば、創った魔女との力比べのようなもの。例えばアルテシアとティアラは、ホグワーツで行われた三大魔法学校対抗試合の際に競い合っている。その決着要因となったのが、アルテシアがメッセージを入れたとして渡した虹色の玉である。結局ティアラは、玉を壊すことができず、中身も取り出せなかった。すなわち、アルテシアを上回ることができず、負けを認めるしかなかったという訳だ。

 

「大丈夫だよ、ハーマイオニー。これ、もう分霊箱としては機能しないよ。これがあの人を利することは絶対にない。処分済みだって思ってくれて大丈夫だから」

 

 壊されない限りは、だけどね、と笑ってみせる。これで納得してくれればいいけれど、とハーマイオニーを見るが、さすがにすぐには気持ちの整理ができないのだろう。なにかしら考えているようで、すぐには返事が返ってこない。

 

「…… そうね、わかった。分霊箱のことはそれでいいとして……」

 

 もう1つ、お願いしたいことがあるのだという。その願いを聞いて、アルテシアは内心でため息をつく。それを言い出されるだろうことは、予想の範囲内。だがなぜ、という思いが残るのも確か。そのことの説明を求めても、おそらくはムダだろう。それでも、これだけは聞いておきたい。

 

「ねぇ、ハーマイオニー。だったら1つ教えて欲しいんだけど、いい?」

「そ、そうだよね。でも、ごめんなさい。説明、できないわ」

 

 何もかも知ってるわけじゃない。だから説明は難しい。それがハーマイオニーの言い分だったが、アルテシアが聞きたいのはそのことではなかった。そのことは、求めても応じてはもらえないだろうと、そんなことはわかっていたのだ。

 

「違うの、そうじゃなくて、ハリーが例のあの人、ヴォルデモート卿に勝てるのかってことなの。間違いなく勝てるんだって、そう思ってていいのかな?」

「え? ええと……」

 

 なぜハリーがヴォルデモートと戦い、その決着をハリーに任せねばならないのか。その理由はさておくとしても、それらは全てハリーの勝利が前提となっているのではないか。少なくとも、アルテシアにはそう思えるのだ。なるほどハリーとて、これまでデス・イーター達と戦ってきた実績がある。だがヴォルデモートは、大勢のデス・イーターを従え、現在進行形で魔法界に恐怖をもたらし大混乱させている魔法使いだ。ハリーの実力を疑いはしないが、容易な相手ではないはず。ましてや、大人と子供。その経験の差も大きいはずなのだ。

 

「わたし、ダンブルドア先生からも、あの人との戦いはハリーに任せるようにと言われてるんだ。約束もさせられた。だからね、ハリーがいないのならともかく、戻って来てるんだから、ハリーに任せてもいいよ。ハーマイオニーの言うとおりにするわ」

「あ、でも、アルテシア……」

「気付いてるとは思うけど、ホグワーツにはいろいろと保護魔法がかけてある。校舎周りには、デス・イーターのなかでもそんなに強くない人しか近づけない、とかね」

 

 例えるならそれは、アルテシアの特別授業で学んだ生徒たちであればなんとか対処可能な相手。それ以上の相手はその周囲にとどめ、アルテシアが魔法省で見習い闇払いの指導を担当した頃の教え子たちが対峙することになっている。そして。

 

「あの人は、禁じられた森の中に閉じ込めておくことになる。強すぎる何人かのデス・イーターもね。だからあの人と戦うのなら、ハリーには森に行くようにって」

 

 もしも勝てない、それが無理だと思うのなら…… そのときは、校舎周りでデス・イーターたちと戦ってくれればいい。それでもずいぶんと助かるんだけど…… そんな風に話を進めてみる。ハーマイオニーからこれといった返事が返ってこないのは、何やら考え込んでいるからだろう。言うべきことは、みんな言ったはずだ。1つくらいは忘れているものがあるかもしれないが、まあ、それはともかくとして、ちょうど頃合いだろう。

 

「戻ろうか、ハーマイオニー。そういえば、もうすぐ試験があるからね」

「えっ、試験……」

 

 こんなときにでも、試験という言葉には反応するらしい。さすがはハーマイオニーだと、ちょっとだけ笑みがこぼれた。そして、ゆっくりとベンチから立つ。

 

「学年末試験よ。学校に来ていなかった人達にも受けてもらわないとね。その成績次第では留年ってことになるかも、だけど」

 

 十分な成績であれば、長期の欠席には目をつぶる。早く言えば、そういうことだ。ちなみに7年生にはN.E.W.T試験(めちゃくちゃ疲れる魔法テスト)がある。もちろん、5年生にはO.W.L試験(普通魔法レベル試験)も。

 

「だったら図書館、行かなくちゃね」

 

 さて、そんな暇があるのかどうか。少なくとも、この数日は無理に違いない。

 




 いよいよ、ホグワーツでの最終決戦のときが迫ってきました。今回は、その直前のお話でして、彼ら彼女らが、そのとき何をしていたのか……

 ハリーたち3人組は無事にホグワーツに合流、歓迎会もしてもらっています。一方でアルテシアは、ゴーストのヘレナ・レイブンクローからのレクチャーを受けています。これで、不足していたモノ全てが揃い、新たに魔女として目覚めたといったところ。
 あとは、闇の側を迎え撃つだけとなりますが、話はそう簡単にはいきません。いろいろあって、対ヴォルデモートの優先権というか、先攻する権利というか、それを持っているのはハリーだからです。

 その戦いがどうなるのか。次回は、第134話 「対決、ヴォルデモート」です。

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