ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第26話 「アルテシアの悩み」

 ダンブルドアのもとに、コリン・クリービーが石にされたという報告が届いたとき、ハリー・ポッターは、医務室にいた。というのも、この日のクィディッチの試合で骨折してしまったからだ。

 医務室のマダム・ポンフリーによれば、単なる骨折であれば、あっという間に直せたらしい。だがハリーの場合は、骨折直後にロックハートがその治療を試みて失敗、腕の骨がきれいさっぱり消え去ってしまったのだ。なくなった骨を復活させるには、それ相応の時間がかかるし、耐えがたい痛みが伴うものらしい。そんなわけで医務室にいるのだ。

 マダム・ポンフリーが言ったとおり、夜中となっても痛みのためにろくに眠ることもできない。だがそれでも、つかの間うとうとしたのに違いない。誰かのいる気配がしたから目が覚めたのか、目が覚めたから気づいたのか。それはハリーにはわからなかったが、とにかく目が覚めた。夜中のことであり真っ暗だったが、そこに誰かが、いた。

 

「誰、そこにいるのは誰?」

「ドビーでございます、ハリー・ポッター」

「ドビー? ドビーだって! ほんとにドビーなのか」

 

 ハリーは、あわてた。まさか、ドビーがホグワーツにいるなんて。もしそうなら、聞いておきたいこと、聞かねばならないことがある。

 

「ハリー・ポッター。あなたは、学校に戻ってきてしまった。ドビーめが警告したのに、戻ってきてしまった。なぜです。危険なのに、なぜ。どうして、ここにいるのです?」

「ドビー。ぼくはね、スリザリンとのクィディッチの試合で腕を骨折したんだ。だから医務室に」

「存じております。ハリー・ポッターを家に帰らせるために、ドビーのブラッジャーでそうしたのでございますから」

「キミのブラッジャーだって? どういう意味だい? ブラッジャーでぼくを殺そうとしたって?」

 

 ハリーは大声を出した。だがドビーは、その大きな目でハリーを見つめ、悲しげにつぶやいた。

 

「ドビーめは、考えました。学校にとどまるよりも、たとえ大けがをしたにせよ、家に送り返される方がよいのでございます。ハリー・ポッターは、けがを理由に、家に帰るべきなのです。ふたたび『秘密の部屋』が開かれたのです。学校にいてはいけないのです」

「秘密の部屋だって! キミは、秘密の部屋のことを知ってるんだね。ふたたびってどういうこと? これが初めてじゃないんだね」

 

 ドビーは、ハッとしたように立ちすくむ。だが、それもほんのわずかのこと。次の一瞬には、ベッドの脇机にあった水差しをつかみ、自分の頭を殴ろうとした。ハリーは、あわてて骨折していない方の手で、水差しを持ったドビーの手をつかんで止める。

 

「おしおきなんか、しなくていい。それより、ぼくに話して。なぜこんなことをしたのか、キミはそれを話すべきなんじゃないかと思うよ」

「ああぁ、ドビーは悪い子、とっても悪い子……」

「ねぇ、ドビー。秘密の部屋は、ほんとにあるんだね? 以前に開いたのは誰なの? 今度は誰が開いたの?」

「ドビーには言えません。言えないのでございます。ドビーは言ってはいけないのです」

 

 あいかわらず、ドビーとは会話にならない。ハリーは、そう思わずにはいられなかった。初めて会ったときも、こんな調子だった。肝心のことになると自分を罰しようとするので、止めるのに大変なのだ。

 ドビーの手が、ゆっくりと水差しの方へと伸びていく。水差しを持たせてはいけない。ハリーは、すぐさま、その痩せこけた手首をつかんだ。その、あまりに細い手首をつかんだまま、ハリーは考えた。聞き方を工夫すべきなのだ。イエスかノーか、そんな返事ができる質問をし、ドビーがどう反応するか。それで判断すればいいんじゃないかと思ったのだ。

 

「なあ、トビー。答えなくてもいい。ただ、うなづいてくれればいい。秘密の部屋は、ほんとうにあるんだね?」

 

 ドビーがうなずく。そのすぐあとで、ドビーはその手を動かそうとした。水差しをとろうとしたのだろう。だがハリーが、そうさせなかった。

 

「いいかい、ドビー。秘密の部屋の怪物はマグル生まれを襲う、そんなうわさがあるんだ。キミもそう思うかい?」

「ハリー・ポッターは寝ていましたが、さきほど、襲われた者がベッドに寝かされました。ドビーは、ハリー・ポッターがそうならないようにしたいのです。ハリー・ポッターは、まず自分を助けなければいけないのです」

 

 またもドビーの手が動くが、ハリーはその手から水差しを守った。どうやら、また誰かが襲われたらしい。そしてその誰かは、いま医務室にいる。それが誰かを聞いてみたいところだが、ドビーに聞いても面倒が増えるだけだ。それが誰かは、夜があければわかるのだから。

 

「ところで、ドビー。キミはアルテシアのことを知ってるだろ。アルテシアも危険なの?」

「ドビーめは、アルテシアという人を知りません。危険かどうか、わかりません」

「え? でもキミは、クリミアーナがどうとかって言ってただろ?」

 

 ドビーの手は、動かない。これはどういうことだ? ハリーは、首を傾げた。

 

「クリミアーナでしたら、存じております。奥さまが、たまに話をされます。ですが、ハリー・ポッター」

「なんだい」

「クリミアーナには、近づいてはいけません。離れていなければいけないのです」

「どういうことだい?」

 

 ドビーが水差しを取ろうとしないので、ハリーも、ドビーの手を離していた。もちろん油断はできないので、水差しはハリーが持っている。

 

「ずっと昔から、そう言われているのです。クリミアーナに近づいてはいけないと」

「昔から? でもなぜ、近づいちゃいけないの?」

 

 そのとき、部屋の明かりがともされた。部屋に入ってきたのは、マダム・ポンフリー。その声がするのと、パチッという大きな音がしたのとがほぼ同時だった。

 

「話し声がしますが、誰ですか? おや、今の音はなんです?」

「ああ、いえ、その。ちょっと寝ぼけてたのかもしれません」

「寝ぼけていた、ですって。なるほど。それで、その水差しをどうするつもりなのです?」

「え? ああ、いえ。おかしいな、なんでこんなの持ってたんだろう」

 

 ドビーに渡さないためにと、水差しを持ったままだったのだ。そのドビーの姿はない。いつのまにか、いなくなってしまっていた。

 

「まあ、いいでしょう。具合はどうです? まだ痛むはずですが」

「あ、痛いです。でも、ずいぶんましになりました」

「それはよかった。とにかく、しっかり直さないと。どうせ、朝になればわかるでしょうから言いますが、ミスター・フィルチの猫のように、今度は1年生が石にされました。あなたも、気をつけるのですよ」

 

 マダム・ポンフリーに腕の具合を見てもらいながら、ハリーはドビーが言ったことを考えていた。

 

 

  ※

 

 

 ダンブルドアと話をした、その翌日。アルテシアは、今度はマクゴナガルのもとを訪れる。といっても、呼び出されたとかそういうことではない。週に1回、いつも2人の間で行っている魔法の勉強会のためだ。いつもは土曜日の午後なのだが、昨日はクィディッチの試合もあったし、ダンブルドアがアルテシアとの話を望んだこともあって、今回は日曜日に変更となったのだ。

 もちろん魔法の勉強のためであり、お互いが先生役となり、それぞれ互いの魔法を学ぶのが目的だ。だが、このごろ学校内で起きていることが話題にならないはずはない。なにしろ、昨夜には2度目の襲撃事件が起こっているのだから。

 

「今日は、わたしの番ですね。勉強のテーマは、先生役の側が決めることになっています。今日は、秘密の部屋のことを話したいのです」

「いいんですか、先生。わたしが、そのことを話しても」

「もちろん。あなたには、じっくりと言って聞かせねばなりませんからね。だから、朝早くから来てもらったのです。夜までかかろうとも、あなたには約束してもらいます。秘密の部屋には関与しない、危険なことはしない、とね」

 

 いま、学校内でのもっぱらの話題は、例のあのこと。つまり、秘密の部屋に関することをうわさしあっているのだ。スリザリンの継承者とは誰のことなのか。その敵とは? 誰かが襲われるのか、といった内容だ。この時点では、第2の犠牲者であるコリン・クリービーのことは知られていなかったが、明日の月曜日ともなれば、全校生徒が知ることになるのだろう。

 

「秘密の部屋について、どれくらいのことを知っていますか?」

「ほとんど何も知らない、というのが正直なところなんですけど」

「まあ、そうでしょうね。あなたにとっては、もっと大きな気がかりがあるのですからね」

「ご存じなのですか? お話ししたことはなかったと思うのですが」

 

 知られたからといって困るようなものではないが、知らないはずの相手が知っているとなれば、気持ちのいいものではない。それが、アルテシアの偽らざる気持ちであった。

 

「はばかりながら、このわたしも、クリミアーナの魔法書を学んでいるのですよ。1年と少しですが、されど1年ですからね」

「ああ、そうでした。マクゴナガル先生には、なにも隠し事などできないんだってこと、忘れていました」

「なるほど。ではあなたは、わたしに隠しておくつもりだった。そういうのですね」

 

 ここでまともに返事をするのは、負けを認めるようなもの。アルテシアは、返事ではなく、質問を返すことにした。

 

「先生、1年間の勉強でどれくらい読めるようになるものでしょうか? わたしなんかは、まったく読めなかったのですけど」

「あれは、不思議な本ですね。読むたびに、それを思い知らされるようです。魔法が使えるにはほど遠い感じはしますが、いろいろな知識が得られる。そのことは実感しています」

「魔法書は、お役に立っているようですね。うれしいです」

「貴重な本だと思いますよ。これをずっと伝えていかなければなりません。あなたの使命は重大なのですよ」

 

 その意味を、マクゴナガルはわかっているのだろうか。アルテシアは、そんなことを考えた。自分でも、ときどきわからなくなることがあるというのに。もっともアルテシアの場合は、わからないというよりも、迷いだとするほうがより近いのだろう。だが同時に、何を迷うことがあるのか、とも思う。迷う必要など、なにひとつないのだと。

 

「先生は、クリミアーナ家に生まれた娘が、何を望むのかご存じですか?」

「これはまた、難しいことを聞くのですね。さすがに想像してみるしかありませんが、魔法書だろうと思いますよ。魔法書を学び、立派な魔女となりたい。そう願うのではありませんか」

 

 その答えに、ほっとしたような、あるいは残念でもあるかのような、そんな複雑な思いに包まれるアルテシア。簡単に答えられては、そのことに悩んでいる自分があわれに思えてくるからだ。だがマクゴナガルは、魔法書を学んでいるのだ。自分でも言っていたように、さまざま知識を得たはずなのに、同じ思いをもってくれないのは、なぜだろう。そこに思いが至らないのは、1年あまりという期間のゆえなのか。

 

「違うのですか?」

「わたしは、日々のおだやかな暮らしだと思っています。大切な人、守りたいと思う人、そんな人たちが幸せに暮らせる場所。そこで皆が笑っていられるのなら、おだやかに暮らしていけるのなら、それでいい。わたしは、そう思っています」

「なるほど。それが、クリミアーナ家の考え方なのですね」

「はい。そのためにできることは何か、自分には何ができるのか、いま何をすればいいのか。そんなことを考えるのです」

 

 アルテシアの母マーニャは、自身の身体が弱かったこともあり、なによりもクリミアーナ家を存続させることを願った。クリミアーナの家系を、その血筋を次の世代へとつなげること。それが、何よりの願いであった。それができなければ、クリミアーナ家は途絶えることになる。そうなれば、クリミアーナに住む人たちはどうなるのか。

 結果、マーニャは、医者に反対されながらも自分の命をかけてアルテシアを生むことを選択する。仮にその選択がなかったなら、アルテシアが生まれることはなかった。クリミアーナ家は、マーニャの代でその歴史を終えることになっただろう。

 そんな覚悟が、自分にはあるのか。アルテシアは、自分に問いかける。母と同じような立場に立ったとき、困難な場面に直面したとき、迷わずにそんな選択ができるのか。もちろん、できると思いたい。だがいま、その自信は揺らいでいた。

 

「あなたの言いたいことはわかりますが、秘密の部屋に関わることは許しませんよ」

「先生。そうすることが、いい結果を生むのでしょうか。なにもせずにいることが、最善なのでしょうか」

 

 さすがにマクゴナガルは、苦笑いを浮かべた。つまりマクゴナガルも、それがいいことだと思ってはいないということだ。

 

「最初に言いましたが、わたしもクリミアーナの魔法書を学んでいます。クリミアーナの娘としての思いは理解できます。ですがここは、ホグワーツ。わたしはそこの教師なのです。生徒であるあなたを、危険から守りたい。そこから遠ざけたいのです」

「それが、ホグワーツの教師としてできること、するべきことだと」

「そうです。そして、一刻も早く危険を排除する。今回でいえば、秘密の部屋の謎を解き解決すること、となるでしょう。もちろん、教師陣の手で」

 

 それが、ホグワーツの教師としての最善の選択だとマクゴナガルは言う。では、ホグワーツの生徒としての最善の選択とは、何なのだろう。もちろんそれは、あれこれと悩んでいることではないはずだ。それは、わかっているのだけれど。

 

「そしてあなたは、ホグワーツの生徒。教師に頼るのは、おかしなことではありませんよ。気持ちはわかりますが、学校にいるときは、教師の言うことを聞くべきです」

「ですが、先生。わたしは、クリミアーナの、マーニャの娘なのです。そのことを忘れるわけにはいきません」

「では、近頃のあなたのようすは、どういうわけです? 表面上はとりつくろったつもりでも、わかりますよ。ミス・パチルがどれだけ心配しているか、気づいていますか?」

「それは……」

 

 気づいていないはずがない。気づかないはずがない。

 

「わたしにできること、何をすればいいのかは、わかっているつもりです。でも、自信がないんです」

「自信がない?」

「例のあの人に、その人に魔法書を提供したのではないか。クリミアーナに関係する人で、そんなことをした人がいたという疑惑があるのです」

「それが、問題なのですか。そんなこと、あるはずがない。仮にあったとしても、そんなことはその人の責任であって、あなたに罪があるわけではありませんよ」

 

 自信たっぷりにそう言い切ったマクゴナガルだが、言った後で、自分自身も魔法書を提供されていることに気づく。

 

「まさか、まさかそんな」

「それが最善だと、そんな判断がされたのかもしれません。そんな判断をした人がいるかもしれない。わたしも、そうしてしまうかもしれません」

「まちなさい、どういうことです?」

 

 下を向いてしまったアルテシア。なのでマクゴナガルからは、その表情がわからない。だが、声は聞こえる。

 

「ナディア・マーロウという人から、言われたのです。仮にパーバティやパドマを盾とされたとき、あなたはどうするのかと」

「どういうことです?」

 

 アルテシアの表情が見えたなら、それは泣き顔であったのかもしれない。声の調子には、そう思わせるような響きがあった。

 

「その答えが出たとき、もう一度会おうと言われました。でもわたしには、答えが出ない。出せないんです」

「アルテシア……」

「たとえば、パーバティを助けるためには、パドマを犠牲にしなければならない。逆なら逆が。そのとき、どうすればいいのか。例のあの人に魔法書を提供したのは、そんな事情があったのかもしれません」

 

 さすがのマクゴナガルも、かける言葉がなかった。強いて言うなら、アルテシアが仮の問題で悩んでいるのだという、その点くらいであろうか。万が一のとき、実際にそうなったときに考えればいいのではないか、と。

 だがもちろん、アルテシアだってそれくらいのことはわかっている。そういう状況を作らないようにする、というのも1つの方法であることも分かっている。だが問題は、そうなったとき、どうするかということだ。

 この問題は、アルテシアにとって避けることのできない永遠のテーマであるのかもしれない。そのとき、何ができるのか。自分に何ができるのか。いま、何をすればいいのか。常にそのことを考えるのが、クリミアーナの娘なのだから。

 

 

  ※

 

 

 同じ日曜日の朝のこと。パーバティは、ハーマイオニーとともに空き教室にこっそりと入り込んだ。アルテシアは、マクゴナガルのところへと行ってしまい、ハリーは医務室。ロンは、そのハリーを見舞いに行くだろうから、2人だけで話をするのにちょうどよい、という結論になったのだ。ハリーの腕がどうなったか気になってはいるのだが、お見舞いには行くのは、この話が終わってからということにしていた。

 適当な場所に座ったところで、ハーマイオニーが、誰にでも変身できてしまうというポリジュース薬を作ることを提案。それでスリザリンの誰かに変身し、マルフォイの周辺をさぐろうというのだが、パーバティは乗り気ではなかった。

 

「ねぇ、ハーマイオニー。そんなことまでしなくていいと思うよ。ダフネに聞けば、教えてくれるわ」

「いいえ、パーバティ。そのダフネって人のこと、あたしは知らないけど、スリザリンなんでしょ。疑うわけじゃないけど、今回はスリザリン抜きでやりたいの。きっとそのほうが、正確な情報が得られると思うのよ」

 

 そう言われてしまうと、そういうものなのかと納得するしかない。しかたなくパーバティは、ハーマイオニーの薬作りを手伝うことに同意した。だがそれでも、ダフネに協力を求めるべきだという考えは消えない。ダフネはスリザリン寮だが、あの寮の人のなかではよく話をしているほうなのだ。なので、きっと力を貸してくれるだろうとパーバティは思っている。

 それにしても、ポリジュース薬などが、本当に作れるのだろうか。そんなことをしなくても、マルフォイを問い詰めればすむという考えも、パーバティのなかにはある。だがハーマイオニーは、ポリジュース薬を作り、スリザリンの誰かに変身してこっそり聞き出すという方法を選んだのだ。

 

「けど、材料は揃うの? 揃ったとしても、作れるものなの? とっても難しいんでしょ。素朴な疑問で申し訳ないんだけど」

「材料は、クサカゲロウ、ヒル、満月草にニワヤナギ。このあたりは手に入りやすいんだけど、二角獣の角の粉とか毒ツルヘビの皮の千切りは難しいわ。どこで手に入れたらいいのか、わかんない」

「えっ! じゃあ、だめってことじゃないの」

 

 多少、あきれた感じがその声の中に含まれていた。だが、ハーマイオニーは気にしたようすはない。

 

「大丈夫よ。こういうものはあきらめないことが肝心なの。あきらめさえしなければ、なんとかなるのよ」

「そうかもしれないけれど、あなたのことだし、規則破りなんて、するつもりはないんでしょ。だったらあきらめるしかないわよ」

「どういうこと? 規則を破れば材料は揃うの?」

 

 うなずいてはみたものの、あまり気の進まないようすをみせるパーバティ。ということは、あまりお奨めの方法ではないのだろう。

 

「たぶんだけど、スネイプ先生の研究室に行けば置いてあると思うんだ。もちろん、こっそり持ち出すのは規則違反。そのまえにどろぼうだけどね」

「そうだけど、それしかないじゃない。わたしだってそんなことしたくはないけど、このままじゃ、また事件が起こるわよ。被害者はどんどん増えていくわ」

「まあ、たしかにそうなんだけどね。じゃあ、スネイプ先生のほうは、あたしが引き受けるわ」

 

 これには、さすがに驚いた顔となるハーマイオニー。だが、それも一瞬。

 

「それって、パーバティがどろぼうになってくれるってこと?」

「いいえ、スネイプ先生にお願いしてもらってくるつもり」

「それはとてもありがたいことだけど、スネイプには内緒にしておきたいの。だって、スリザリンの寮監でしょ。まずいわよ」

「そういうことは、考えなくてもいいんじゃないかな。アルテシアの名前をだせば、なんとかなると思うんだけど」

 

 ハーマイオニーが気にしているのは、この計画が漏れてしまうことなのだ。漏れてしまえば、それまで。とくにスリザリンの関係者には極秘でなければならないのだ。

 

「やっぱり材料は、あたしが揃える。スネイプには何も言わないでちょうだい」

「いいけど、マルフォイを直接問い詰めるってのはどうなの? 確実で手っ取り早い方法だと思うけど」

「そ、それは。そうか、たしかにそうね。そのほうがいいわ。うわ、そんなこと思いもしなかった」

「ウソ! ハーマイオニーともあろう人が、そんなことに気づかなかったの?」

 

 がっくりと力が抜けた、といったところか。あきれ顔のパーバティだが、それでも話を進める。

 

「じゃあ、あなたとあたしの2人でマルフォイを問い詰めるってことでいいのね」

「ええ。ハリーとロンも連れて数で圧倒したいところだけど、ハリーがいると、かえってマルフォイが元気になるような気がする」

「本当は、アルテシアがいたほうが話はスムーズにいくんだろうけど、アルは連れてかないよ」

「そういえば、マルフォイってアルテシアには悪口言ったりしないよね。なんで?」

 

 その疑問を持っているのはハーマイオニーだけではない。パーバティもそうだし、アルテシアだって答えを知らないだろう。

 

「わかんないけど、マルフォイのお母さんがクリミアーナ家のこと知ってるからじゃないかな。そんなこと話してるの聞いたことある気がする」

「それ、なんだか気持ち悪いわね」

「え?」

「ドビーは、アルテシアのことを知ってた。マルフォイ家もそうなんだとすれば…… ねぇ、魔法史の時間にアルテシアがピンズ先生にした質問、覚えてる?」

 

 少し考えるようなそぶりを見せたパーバティだが、もちろんそれは覚えていた。

 

「あれでしょ。アルテシアのご先祖がホグワーツを視察したことがあるかどうかって」

「あのときピンズ先生は、そのこと調べてみるって言ったけど、どうなったか聞いてる?」

「あれは、昔のことすぎてわからなかったらしいよ。アルが残念そうにしてた」

「ふうん。でもクリミアーナ家は、そんな昔からの魔女の家ってことでしょ。アルテシアは、その正当な跡継ぎっていうか、つまり純血の血筋なんだよね」

「ハーマイオニー、何が言いたいのかわかったから、もう言わないで。言ったら、怒るよ」

 

 怒られてもかまわないと思ったのかもしれない。2歩分ほど距離をあけてから、言葉を続けた。

 

「視察のとき、サラザール・スリザリンと会った。スリザリンはホグワーツを去ることにしていたから、クリミアーナ家からの入学者のためにと、秘密の部屋を作った」

「やめて、ハーマイオニー」

「時は流れ、クリミアーナ家からアルテシアが入学。ドビーがいる家は、きっと秘密の部屋の管理を任されていたんだわ。だから、アルテシアのことを知ってるし、部屋の開け方や開けるとどうなるかも知っていた。危険だと判断したドビーは、ハリーに知らせた」

「言わないでって言ったのに、ひどいよ」

「ごめん。でもアルテシアは、このこと気づいてるんじゃないかしら。昔のことを調べてるみたいだし、ときどき考え込んだりしてるのはそのためなのかも」

 

 怒る、と宣言していたはずのパーバティだが、怒り出すようなことはなかった。むしろ、元気をなくしたように見える。どこかで、同じようなことを考えたことがあるのだろう。

 

「あくまで想像よ、パーバティ。なにが本当なのか、すぐにわかる魔法でもあれば別だけど、そんなのないし。とにかくあたしたちでマルフォイを問い詰めましょう。ポリジュース薬は、また別の機会に作ればいいわ」

「うん、そうだね。なにかわかればいいけど」

 

 マルフォイは、何かを知っているのかいないのか。何もかも話してくれればいいが、あのマルフォイがあいてなのだから、そううまくはいくまい。それにこちらも、ある程度の情報を提供せねばならないだろう。なにも言いたくはないんだけど、とパーバティは思うのだった。

 

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