ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第51話 「それぞれの思い」

 その知らせは、いつからハグリッドのところに来ていたのだろう。ハリーたち3人がハグリッドの小屋を訪れたとき、ハグリッドは、真っ赤に泣き腫らした目をして部屋の中に立っていた。涙が滝のように流れ落ちているのが見えた。

 

「どうしたの、ハグリッド」

「ハグリッド、何事なの?」

 

 ロンもハーマイオニーも、そう聞かずにはいられなかった。もちろん、ハリーもだ。

 

「何があったの、ハグリッド」

「これを見てくれや、3人とも」

 

 ハグリッドが、手紙をハリーへと差し出す。きっと、なにかの公式な手紙なのだろう。それらしい大げさな飾りのつけられたものを、3人が頭を寄せ合うようにしてのぞき込む。

 

『ヒッポグリフによる生徒負傷事件を調査した結果、貴殿に責任はないとするダンブルドア校長の主張を、我々は受け入れることに決定しました。されど、ヒッポグリフに対する懸念が解消したわけではありません。よってこの件は、今後「危険生物処理委員会」による審理がされることになります。来る4月20日、最初の事情聴取が行われます。当日、ヒッポグリフとともに、ロンドンの委員会事務所まで出頭ください。』

 

 ハリーたち3人は、クリスマスの休暇中も学校に残っていた。そしてハグリッドのところへと遊びに来たところ、この場面にでくわしたというわけだ。

 

「これってつまり、どういうことなんだろう」

「これはね、ロン。ハグリッドに責任はないけど、バックピークについては、これから『危険生物処理委員会』がよく調べるってことなのよ。つまり、バックピークが処罰される可能性があるってことね」

「じゃあ、大変じゃないか。なんとかしないと」

「ええ、そうね。だからハグリッドが、ちゃんと弁護しないといけないわ。審理があるんだもの、バックピークが安全だって証明しないといけないわ」

 

 3人がやってきても、まだぐずくずと泣き続けていたハグリッドだが、さすがにもう、泣いてる場合ではないと思ったのだろう。ハーマイオニーの言うことに、返事をしてみせた。

 

「しかし、オレに何ができる?『危険生物処理委員会』の連中は、こういった生きものを目の敵にしちょるんだ」

「できるわ。わたしが調べてあげる。バックピークの弁護に役立ちそうなこと、いっぱい調べるわ。審査のとき、それを提出すればいいのよ。どうせまだアルテシアは戻ってこないし、時間はあるわ」

「なぁ、なんでそこにアルテシアの名前がでてくるんだよ?」

「うるさいわね、ロン。いまは、バックピークのことを話してるの。ねぇ、ハグリッド。それでなんとかなるわよ、きっと」

 

 うなずいてはみせたものの、ハグリッドの表情は晴れない。まだ、安心できないのだろう。

 

「そんでも、たぶん同じことだと思うぞ」

「どうして? あたし、ちゃんとバックピークが危険じゃないって証明してみせるわ」

「ありがとよ。おまえさんがそう言ってくれるのは、すごくうれしいさ。だが今度のとこは、どれもこれもルシウス・マルフォイの手のなかにあるようなもんだ。やつを怖がっとる者も多い。やつの思うとおりとなるのに決まっちょる」

「でも、ハグリッド。これは、裁判なのよ。そこで不正なんか許されるはずないわ。そうでしょ」

「それも、わかっちょる。そうだな、もう、そうするしかねぇ。おれががんばらんと、裁判で負けたら終わりだ」

 

 そうなったら、ハグリッドがバックピークという名を付けたヒッポグリフは、いわゆる処分されるということになる。それは、なんとか避けねばならない。

 

「ダンブルドアに相談してみるのはどうなの、ハグリッド」

「ああ、ハリー。すでにあの方は、いろいろとしてくだすった。もうこれ以上はむずかしかろう」

「じゃあ、アルテシアに頼んでみるってのはどうだい」

「あぁ? アルテシアといやぁ、森によく行く娘っこだな。あいつに、何ができる?」

 

 ハグリッドは、アルテシアとそれほど親しいわけではない。ときどき、森の中を散歩したいとやってくるアルテシアとつかのま話をするくらいのものだ。

 

「ハグリッド、アルテシアは森に行ってるの? 森って、禁じられた森のことよね?」

「森の奥には入らんっちゅうことで約束しとるし、行くまえには、ちゃんとオレに言いに来よる」

「でも、森への立ち入りは禁止されているはずでしょう」

「そうだけんど、あいつはいいんだ。散歩ぐらい、させてやれや」

 

 さすがにあきれたようすのハーマイオニーだが、いま問題なのは、そのことではない。それにハーマイオニー自身、あの森の中に入りたいなどとは思っていないので、うらやましいということもない。どうでもいいというのか本当のところだ。

 

「そうだわ。ねぇ、ロン。アルテシアに何を頼むの?」

「ヒッポグリフのバックピークが訴えられたのって、ドラコ・マルフォイのケガのせいなんだろ。マルフォイが、ケガしたのは自分のせいだって認めればいい。そうすりゃ、バックピークは許してもらえるだろ。アルテシアが頼めば、きっとOKするさ」

「いんや、それもいい考えだが、あいつらは、オレが気にいらんのだ。追い出したいと思っとるのに、OKなんぞするはずがない」

「いや、ハグリッド。可能性があるんなら、なんでもやってみるべきだ。ロン、それ、アルテシアに頼んでみて」

 

 もちろん、ロンはうなずいた。だがハリーは、それだけではないとばかりに、ハーマイオニーを見る。

 

「ハーマイオニー、アルテシアが戻ってこないって、どういうことだい」

「あ、そうだ。それ、ボクも気になったんだ」

 

 だがハーマイオニーは、その指摘を受けても、まったく気にしていないようだ。

 

「クリミアーナの魔法書を調べたいのよ。あそこになにが書かれているのか、あたしたちは知らなきゃいけないわ。あなたたちがどう思ってるのかしらないけど、アルテシアはあの本の影響を強く受けてるはずよ。あたしも本好きだからわかるの。アルテシアが毎日なにを学んでいるのか、知っておいた方がいいのに決まっている」

「なんだよ、それ。いったい、どういうこと?」

 

 ハリーもロンも、ハーマイオニーの言うことがよくわからないらしい。ハグリッドも、ただ、黙って聞いているだけだ。

 

「あたしもそうだけど、本好きはね、書かれていることを自然に受け入れてしまうってことが、よくあるの。アルテシアに聞いたことあるけど、アルテシアは、あの魔法書を3歳のときから毎日読んでるの。毎日よ。何度も何度も繰り返して読みながら育ってきたんだもの、影響を受けないはずないわ。でしょ?」

「ハーマイオニー、キミの言うこともわかるけど、あいつが帰ってこないってどういうこと?」

「ああ、だっていま、実家に帰ってるでしょ。あたしの部屋は、パーバティもラベンダーもそうだから、あたし1人なの。いまのうちなら、探せるでしょ。帰ってくるまでに魔法書に目を通しておきたいの」

 

 その説明には、誰もがあぜんとならざるを得なかった。なにしろハーマイオニーは、アルテシアが留守の間に荷物を調べ、魔法書を読もうとしているというのだ。

 

「でも、宿題やらなにやらで、そんなことしているヒマがぜんぜんないわ。バックピークのことも調べなきゃだし、いつになるか」

 

 休暇中にもかかわらず、ハーマイオニーは、なかなか忙しそうだ。

 

 

  ※

 

 

 マクゴナガルは、悩んでいた。なんとかして、ダンブルドアの持つ、あの『にじいろ』の玉を手に入れたいのだが、その方法が思いつかないのである。

 あの『にじいろ』の玉は、アルテシアのものだ。それで間違いない。より正確には、アルテシアに渡されるべきもの、ということになるのだろうが、ダンブルドアが持っていてよいものでは、決してない。なんとかしなければいけない。

 だが、ダンブルドアの留守中に校長室へと入り込み、あの玉を持ち出すようなことは、マクゴナガルにはできなかった。彼女のプライドが、そんなことを許さないのである。仮に、そこに目をつぶることができたとしても、そうして持ち出したあの玉をアルテシアに渡すとき、後ろめたさを感じないはずがない。はたして、それに耐えられるのかどうか。

 

(とても無理でしょうね、わたしには)

 

 そんなことはできない。マクゴナガルは、そう思っている。だが、あの玉をダンブルドアのもとに、いつまでもおいておくこともまた、できはしないのだ。できるだけはやく、アルテシアに渡さねばならない。

 マクゴナガルの考えでは、あの玉の中にはクリミアーナの魔法力が封じられているはずなのだ。アルテシアから聞き出した話とあわせれば、そう考えることができる。本来ならば、それはアルテシアの読む魔法書に記述されており、それを学んだアルテシアが、身につけているはずのもの。そうに違いない。だがなにかの理由で、なにかのために利用されていたのだとしたら。それがなにかは不明だが、それをいまアルテシアのもとに戻そうとしているのだしたら。もしそうならば、どういうことになるのか。

 アルテシアが魔法を使って体調を崩す理由も、そのことで説明できるのかもしれない。14歳となるまでは身体がついていかない、というはっきりとした理由はある。だがもし、それだけではないのだとしたら。

 十分に考えられることだった。本来ならば自分のなかにあるべき魔法力が欠けていることになるのだ。そのことが、影響しないはずがない。そういうことなら、クリミアーナの魔法を使ったために寝込んだりするのも、無理のない話であるように思えてくるのだ。

 もし、考えているとおりであるのなら。

 仮にそういうことであれば、アルテシアはたとえ14歳となってもなお、たびたび医務室の世話になり続けねばならないことになる。それでは、あまりにかわいそうすぎるではないか。あれだけの魔女が、思うように魔法を使えないのだ。マクゴナガルとしても、そんなことはことは望んでいない。なんとかしなければならない。その決意だけは、しっかりと彼女の中にある。

 だが、どうすればいいのか。

 あの『にじいろ』の玉は、クリミアーナ家の魔女により作られたものと考えて間違いない。普通に考えれば、それはブラック家に嫁入りしていた女性が作ったもの、ということになるだろう。その女性は、いま、どこにいるのか。ホグズミードにいた、アルテシアを探していたという女性が、そうなのだろうか。

 

(やはり、会う必要はあるでしょうね)

 

 あの玉は、ダンブルドアのところにある。それが手に入りさえすれば、アルテシアの問題は解決するだろう。だが解決したにせよ、その女性がホグズミードにいるのなら、いやホグズミードでなくてもかまわない。会えるものなら、会って話を聞く必要はある。この先、アルテシアを正しく導いていくために、きっと役に立つのに違いない。

 そういえばシリウス・ブラックは、このことで、なにか知っているのだろうか。ブラック家の嫁であったのだから、彼女と面識があったことも考えられる。ブラックとも話をする必要がある。

 そんなことを考えれば考えるほど、なにか深みにはまっていくような、そんな気持ちを、マクゴナガルはいま味わっていた。

 

 

  ※

 

 

 ダンブルドアは、悩んでいた。目の前にある玉を、いったいどうするべきか。その処置に困っていたのである。それを見せられたとき、持ち前の好奇心というやつが頭を持ち上げてきたのだ。自分でもそれがわかったが、めらめらと燃え上がってくるそれを、押さえることができなかった。いささか感心しない手段ではあったが、それを手に入れてしまったのは、そのためだ。

 誓って言うが、自分のものにしようなどとは思っていない。ただ、それが何であるのかがわかればよかった。わからなければ、調べてみる。それに従っただけのことだが、いまのところ目的は達せられていない。これが何であるのか、わかってはいないのだ。

 これでは、手に入れた意味がない。知りたいことを、知ることができない。それがこんなにも居心地の悪い思いをさせるのだとは、さすがにダンブルドアも、思ってはいなかっただろう。

 もちろん、なにひとつわからないわけではない。あの玉は、クリミアーナ家の魔女によるものだ。それがアルテシアであれば、話は簡単となってくる。だが、そうでないのは明らか。おそらくは、ブラック家に嫁入りしていた女性がなにか関係しているはず。

 ダンブルドアは、そう思っている。だが、その女性に話を聞くことに意味はあるだろうか。あれが何であるのか、教えてくれるだろうか。

 

(その可能性は、薄いじゃろうの)

 

 ダンブルドアは、すでにその女性と会っているのだと、そう考えていた。もしなにかを聞けるとしたら、そのときが絶好の機会であった。そんな機会をあんな形で逸してしまった今、改めてあの家を訪ねても、得られるものはないだろう。

 とにかく、自分で調べねばならない。問題は、中身だ。だが外側の、まるで卵の殻のようなものがくせ者なのだ。このために、中身を知ることができない。いっそのこと、壊してしまおうかとも思う。だがそれも、おそらくは難しいはずだ。これは、あの吸魂鬼を閉じ込めたものと同じだと思われる。となれば、簡単には壊せないはずだ。吸魂鬼を捕らえた玉は壊せないと、アルテシアがそう言っていたではないか。

 どうあっても、壊さずに中身を知る必要がある。ダンブルドアは、改めて自分に言い聞かせる。壊すわけにはいかないのだ。中身がなんであるのかわからない以上、壊したことによる影響すら、予想することはできないのだから。

 

(さて、どうするかの)

 

 まさか、こういう事態になろうとは予想していなかった。まったくの予想外といっていい。だがそれも、これをアルテシアに渡せばそれまでだ。だが、自らのプライドが、そうすることを許さない。仮にこれが危険なものであった場合、それを不用意に渡していいはずがない。それは、校長として無責任な行為といえるだろう。では、この玉を入手した行為はそれでいいのか。そのことはどう説明するのか、という議論はあるだろう。だがそれも、止められぬ好奇心のため。そんなものは、いまさらどうすることもできはしない。

 それはともかく、あの女性は、もともとブラック家の嫁であったのだ。シリウス・ブラックが、何か知っているかもしれない。もしかすると、面識はあったということも考えられる。

 

(あやつに会う意味は、ありそうじゃの)

 

 ダンブルドアは、テーブルの上に置いていた『にじいろ』の玉をその手につかみ、しまい込んだ。とりあえず、そうするしかなかった。

 

 

  ※

 

 

 ハリー・ポッターは、困っていた。というより、心配でたまらないと言ったほうがいいのか。せっかくの炎の雷、世界最高峰の箒であるファイアボルトが、はたして無事に自分の手元へと戻ってくるのかどうか。どうすれば、あれを自分のところへと取り戻すことができるのか。この難題は、そう簡単には解けそうになかった。

 ことの次第は、こういうことである。

 クリスマスの朝、枕元には、ウィーズリーおばさんからの手編みのセーターなどいくつかのプレゼントが置かれていた。そのなかに、ファイアボルトがあったのである。

 だが喜んだのもつかの間、部屋に顔をみせたハーマイオニーによって、なにやら怪しい危険な箒、という烙印を押されてしまい、ついには、先生方の知れるところとなってしまった。

 結果、ファイアボルトは、教師陣の手に渡ることになったのである。その箒に乗っても大丈夫なのかどうか、危険な呪いなどかかけられていないかどうか、そういったことを調べるため、というのが理由だ。

 ファイアボルトに、呪いなどかかっているはずがない。乗っても大丈夫だ。そんなハリーの言い分は、聞き入れられることはなかった。シリウス・ブラックのことがある限り、どんなことでも用心すべき、ということになってしまうのだ。

 

(あの箒を調べるって? どうやって?)

 

 ハリーには、そんなこと、思いもつかなかった。まさか、すべてをバラバラに分解し、枝の一本一本について、呪いの有無を調査するのだろうか。あれやこれやと調べられた結果、どんな状態になってしまうのだろう? 元に戻るのだろうか。

 心配事は、まだある。

 ファイアボルトのことを先生に告げ口したのは、ハーマイオニーだ。おかげでハーマイオニーとのあいだが、おかしなことになってしまったのだ。いまはまだ、互いに気まずい思いをしているだけだが、そのうち、アルテシアと同じように話もしなくなるのではないか。それは、イヤだった。

 それに、ルーピン先生と約束した、守護霊の呪文の練習もある。アルテシアが覚えた方がいいとアドバイスしてくれたものなので、ちゃんと使えるようになりたい。休暇が終われば練習がはじまる。だが、自分にできるのか。覚えることができなければ、次のクィディッチの試合でも吸魂鬼に驚き、箒から落ちることになるのではないか。

 もちろん、そんなことになりたくはなかった。ならなくてすむ方法が、そこにあるのだから。

 

 

  ※

 

 

 ハーマイオニーは、疲れ果てていた。やることが、あまりにも多すぎるのだ。もう手一杯、もう限界だと、いつだってそう思ってるのに、またもやそこへ、やっかいごとが転がり込んでくる。これ以上はムリなのに、さらにムリをしろとでも言わんばかりに、やらねばならないことが増えるのである。ハグリッドのヒッポグリフ、ハリーのファイアボルト、それにアルテシアの魔法書。

 いったい、これ以上、どうしろと言うのか。

 

(ああ、なんだかイライラするわね)

 

 少し気分を変える必要がある。ハーマイオニーは、宿題の手を止めて立ち上がる。自分の机を離れ、アルテシアの机の前へと歩いて行く。考えてみれば、あの笑顔がここにないのも、イライラの原因かもしれない。たとえそれが自分に向けられたものではなくても、見ているだけで気持ちが明るくなれるのだ。

 

(ここ、使わせてもらおうかな)

 

 いまは休暇中であり、アルテシアは学校にいない。なので、この机を使わせてもらっても問題はないだろう。きっと気分が変わるはず。とりあえず、椅子に座ってみる。机の上には、インク壺と羽根ペンが2本置かれているだけ。本だらけの自分の机との違いに、ハーマイオニーは苦笑するしかない。いったいアルテシアは、本などをどこに置いているのだろう。

 引き出しの中…… 開けようとして、手を止める。さすがに勝手に開けるのは気が引ける。ふーっと息を吐いて、背もたれに身体を預ける。

 

(アルテシアは、なんて言うだろう)

 

 このところ、アルテシアとは話をしていなかった。もちろんケンカなどしたつもりはないが、互いのあいだに、話しかけづらい雰囲気があるのは確かだと思う。ロンが言うように、キチンと仲直りという形をとったほうがいいのかもしれない。

 アルテシアは、このことをどう思っているのだろう。アルテシアは、なんと言うだろう。

 ハグリッドのヒッポグリフのこと、ハリーのファイアボルトのこと、そしてアルテシアの魔法書のこと。それぞれについて、意見が聞きたかった。アルテシアなら、ヒッポグリフのバックピークを弁護するためになにをするだろう。送り主不明のファイアボルトに対しては、どういう行動をとるだろうか。そして、魔法書のこと。アルテシアにお願いすれば、見せてくれるのだろうか。

 

(クリミアーナに、行ってみようかな)

 

 なんだか、急にアルテシアに会いたくなってきた。考えてみれば、たった1人で部屋にいるのがよくないのかもしれない。だが、談話室に行くのも気が引ける。なにしろ、ファイアボルトのことではハリーとロンを怒らせてしまっているのだ。ファイアボルトのことを先生に話したことに後悔はない。ハリーのためにしたことだ。きっとアルテシアだって、そうするのに決まっているのだから。

 

 

  ※

 

 

 ロンは、迷っていた。ようやくアルテシアと話をする理由ができたというのに、そうすることがいいのか悪いのか、わからなくなってしまったのである。

 アルテシアと話をするのは、もちろんいいことだ。もしかすると、これがきっかけとなって仲直りができるかもしれない。そうなれば、すぐに以前のようになれるだろう。だが残念なのは、このことがドラコ・マルフォイのやつを喜ばせることにもなることだ。

 なにしろ、ハグリッドのヒッポグリフを助けてくれるようにドラコへお願いしてもらおう、というのだ。どうしたってアルテシアは、ドラコに会いに行くことになる。わざわざあんなヤツのところに、アルテシアを行かせるようなことをしていいのか。いいはずがない。ロンは、そんなことを考えていたのである。

 ハグリッドのヒッポグリフを、なんとか助けたい。これは、そのための手段の1つだ。そのことは、ロンにもわかっている。ハグリッドのためなのだと、なんども割り切ろうとした。だけど、ただそれだけのことがこんなにも難しいだなんて。

 いったいアルテシアは、ドラコのことをどう思っているんだろうか。ドラコのやつが、アルテシアに親しげにしてくるのはなぜなんだろう。

 

(ガラガラさんが、なにか関係してんだよな、きっと)

 

 ガラガラさんは、ブラック家の嫁だった。そしてドラコの母親は、ブラック家の出身。そういうことでドラコは、きっと入学前からアルテシアのことを知っていたんだろう。でも、それがなんだって言うんだ。アルテシアはグリフィンドールだ。スリザリンのくせになれなれしくするな、と言ってやりたい。

 でも、それをやってしまうと、かえって迷惑をかけてしまうことになるんじゃないか。それとも、喜んでくれるだろうか。あ、それに、ハグリッドのヒッポグリフのことがある。

 いったい、どうするのがいいのか。はたしてロンは、休暇のあいだに決めることができるのだろうか。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアは、考えていた。ソフィアに腕を引っ張られるようにして連れてこられたルミアーナ家の、その客間にある揺り椅子に腰かけて身体を揺らしつつ、思いをめぐらせているのだ。

 せっかくルミアーナ家へと来たのだから、ソフィアの母アディナに相談してみた。魔法書の中身を部分的に抜き出す、あるいは持ち出すことは可能だと思うか、と。可能だとしても、それで何ができるのか。その返事は、アルテシアが考えていたこととほぼ同じものだった。それはつまり、アディナもアルテシアと同じように考えたということ。2人の考える方向が同じだとなれば、それが正解ではないとしても、かぎりなくそれに近いものであるはずだ。

 

「アルテシアさま、夕食の用意ができましたけど」

 

 部屋のドアが開いた気配はしなかった。たぶんソフィアは、直接ここへ飛んできたのだろう。

 

「まだ、あのことを考えてるんですか。だから、ホグズミードに行こうって言ったのに」

「ごめんね、ソフィア。だけど、ホグズミードにはもう、あの女性はいないわ。パーバティたちも言ってたでしょ、いなかったって」

「そうですけど、パチル姉さんなら、見落としがあっても不思議じゃないです。アルテシアさまが行けば、みつかるかもしれないじゃないですか」

「こらこら、パーバティが聞いたら機嫌悪くするよ。パドマと一緒に2人で探してくれたんだから」

 

 揺り椅子から降り、2人並んでドアへとむかう。今夜もここへ泊まることになっていた。クリミアーナへと戻るのは、明日の午後となる予定である。

 

「でも、魔法書の一部を持ち出す、なんてどうやればできるんですか? そんなことよりも、わたしの杖のときみたいに、なにかに魔法力を書き出せばいい。同じことだと思うんですけど」

「ずいぶん違うと思うよ。自分が持ってるものなら、なにかに封じることはできる。でも、それが自分になかったとしたらどうかな」

「別の魔法書から持ってくるしかないってことですか」

「まあ、そういうことだと思うな。それでなにがしたかったのかわからないけど」

 

 いったい誰が、なにをしたくて、こんなことをしたのか。わからないことだらけだが、それを知ることはできるのだろうか。過去形にしてしまったが、まだ進行形であるという可能性はあるのだろうか。

 この数日というもの、アルテシアは、アディナとソフィアの3人でさまざまな可能性を話し合った。そのうえで導き出された、仮定の話。そう、これは、仮定の話だ。

 ホグズミードでのこともあり、実際に行われたことは間違いないと思われる。誰かがクリミアーナの魔法書の、その一部を持ち出した。やがてその本は、アルテシアのものとなる。アルテシアは、その本を学びながら成長し、ホグワーツ入学に入学。トロールの襲撃事件を経てクリミアーナの血を目覚めさせるが、持ち出されていた部分は、当然、アルテシアのなかにはない。魔法書の中になかったのだから、学ぶことはできなかったのだ。

 魔法使用による体調不良は、そのことが原因ではないのか。肝心のものがないため、そうなるのではないのか。

 もしそうであれば、アルテシアが年齢をかさねてもこのことは解消はされないことになる。おそらくその誰かは、そのことを知っている。アルテシアを探していたのは、持ち出したものを返すためだろう。その誰かは行方不明となってしまったが、過去に持ち出された魔法書の一部は、どこかにあるはずなのだ。

 

「思うんだけど、その人って、もういないんじゃないかな」

「どこかに行っちゃったってことですよね?」

「そうじゃない。秘密の部屋でのこと、覚えてるよね。トム・リドルって人のこと」

「ああ、なんだかイヤな感じのする人でしたね」

「あのときの、日記帳。あれが気になるんだよね。もう壊されたらしいんだけど」

 

 どういうことか。そう尋ねるソフィアに、アルテシアは微笑みだけで返事をした。ちょうど、ルミアーナ家の食堂に着いたからだ。続きは、またあとで。そういうことなのだろう。

 

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