ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第52話 「ルーピンの特別授業」

 ここは、クリミアーナ家の書斎。その中央あたりにある閲覧用のテーブルに、めずらしく10冊ほどの本が散乱していた。そんなことは、かつてハーマイオニーがやって以来のことである。あのときは、もっと多くの本が山積みにされていた。

 アルテシアがそんなことをするのは、まさしくめずらしいことだった。なぜなら、自分の魔法書が1冊あれば、勉強にはこと足りるからで、たくさんの本をテーブルに置いておく必要はないのだ。

 そんなありさまを、書斎に入ってきたパルマが見とがめる。

 

「まあまあ、アルテシアさま。しばらく見ないうちに、だらしなくなっちまったですね。どういうことです? あの先生さまにご意見したほうがいいですかね」

「ああ、ごめんなさい、パルマさん。すぐに片付けるわ。ちょっとね、実験してみようと思っただけ。うまくいかなかったけど」

 

 書斎へと入ってきたパルマの指摘に、アルテシアはあわてて立ち上がるとそばにある本を、手に取る。それを書架へと戻していくのだが、パルマは見ているだけで、手伝おうとはしなかった。

 

「実験って、なにをするつもりだったんです?」

「学校でね、見たことがあるんだ。離れてたからよくわからなかったけど、あれと同じことができるんだとしたら。そしたら、今度のこと、説明できるんじゃないかなって」

「今度のことって、なんです? まさか、なにか危ないことでもやろうってんじゃないでしょうね。あの先生さまから、よーく言いつけられてるんですよ、あたしは。アルテシアさまのこと、ちゃんと見てないと大変なことになるっておどかすんですよ、あの先生さまはね。まさか、そんなことしちゃいねぇですよね?」

 

 マクゴナガルには、ルミアーナ家にお邪魔してから戻るという伝言を引き受けてもらっている。きっとそのときに、パルマにそんなことを言ったのだろう。アルテシアは、笑ってみせた。

 

「心配しないで、危ないことはしない。これは危なくなんかないから、大丈夫だよ」

「ホントでしょうね。まあ、アルテシアさまがあたしにウソを言うとは思いませんけども」

 

 その代わりに、言うべきことを言わない。そんなことはよくある話だが、はたしてアルテシアの場合はどうなのだろう。出しっ放しとなっていた本を整理し終えると、アルテシアは、魔法書の置かれた書棚の前に立った。

 

「パルマさん、魔法書のことは知ってるわよね?」

「ええ、もちろん。あたしにそれが読めたら、なんて思ったこともありましたけど、いまはそんなもんに興味はねぇです。そう言われてんですよ、あたしは」

「え? パルマさん、どういうことなの?」

「マーニャさまとお約束したんですよ。生まれてくる娘のことを頼むっておっしゃった。この娘をちゃんと育てたいんだって言ってましたよ。みんなが幸せに暮らすために必要なこと。もちろん、お引き受けしましたよ。これまで大事に、大切にお育てしてきたつもりなんですけどね」

 

 パルマは、いったい何を言ってるのか。いくぶん首をかしげてみせたアルテシアだったが、母とパルマがとても仲が良かったのは覚えている。きっと、いろんな話がされていたのだろう。

 

「あの、パルマさん」

「アルテシアさまは、ご自分の立場も考えなきゃいけません。ご存じですかね、クリミアーナ家は、アルテシアさまがおひとりなんですよ。わたしらにとって、大事で大切な人なんですよ。先生さまに言われたからってことじゃねぇですけど、ほんとに危ないこととかしないでくださいよ」

「う、うん。わかってるよ。気をつける」

「で、実験ってのは? どうなったんです?」

 

 それを説明しようとしていたのだが、ちょっと話が脱線した。そんなところだろう。アルテシアは、軽く苦笑い。

 

「ええとね、魔法書って、クリミアーナの魔女が自分の知識や魔法力なんかを詰め込んでつくるんだけど、その逆はどうなんだろうって思ったの。そんなこと、できるのかなって」

「どういうことですかね、それは」

「学校でそんなのを見たのよ。日記帳だったらしいんだけど、なにか不思議な感じがしたわ。魔法、なのかな。あんなことが、わたしにもできるのかどうか、思いつくことやってみようと思ったの。だって、そこから人が出てきたのよ。その当時に日記帳を作った人が」

 

 その日記帳とは、秘密の部屋でみたトム・リドルのものだろう。結局のところ、アルテシアはあの日記帳を手にすることはなかった。遠目にそれをみていただけ。気にはなったが、そこになにか手出しができるような状況ではなかった。

 そんな経験と、その後に起こったこととを考え合わせて導き出したもの。それがこの実験。それを確かめるための実験なのだ。

 

「あの日記帳みたいなことができるのなら、魔法書をつくった魔女を呼び出せるかもって、そんなこと考えたの。できそうな気がしたんだけどダメだった。こういうことだって思ったんだけどな」

 

 いかにも残念そうなアルテシア。つまりアルテシアは、ホグズミードで自分を探していたという女性が、魔法書より生み出された先祖の誰かなのではないかと、そう考えたのだ。あのときのトム・リドルのように、自分で考え行動できるのだとしたら、その女性は、どこでなにをしているのか、あるいは、なにをしたのか。

 

「アルテシアさま、あたしにゃよくわかりません。でもやっぱり、マーニャさまにお会いしたいんですね。それだけはわかりましたよ」

「え? パルマさん。わたしはそんなこと言ってないよ」

「いいえ、そうなんですよ。それであたりまえなんだと思いますね。けどね、アルテシアさま。あたしは目の前で見てましたよ。大丈夫、心配ねぇです。アルテシアさまは、マーニャさまにいっぱい愛されて育ちました。ちゃんとこの目で見てましたから」

「パルマさん」

 

 もしそれが実現できたなら、母親に会うことができる。だがこの実験は、そんなことを考えてのことではない。アルテシアには、そのつもりはなかった。自分のまわりで起きていることの、そのいくつかは説明できるのではないかと思ってのことなのだ。たとえば、自分の杖の芯として使われているモノ。それが何かは不明だが、魔法書の女性がそれを用意し、オリバンダー氏に杖を作らせたのだとしたら。

 あの秘密の部屋でのことは、その可能性を示す実例なのであった。

 

「あたしが、ちゃーんと覚えてます。いつでも話してあげますよ」

「ありがとう、パルマさん」

「おや、そうだった。そろそろ夕食だって言いにきたとこだったですよ」

 

 あと片付けはパルマの担当であったが、その準備はいつも2人ですることになっていた。そろそろ、夕食の準備を始めようということなのだろう。2人は、台所へ向かう。だが準備には、いつもより時間がかかるのではないか。なにしろ2人とも、話すことがいっぱいあると、そう思っていたのだから。

 

 

  ※

 

 

『木曜日の夜8時、場所は魔法史の教室。』

 

 ハリーにとっては、いつもよりずいぶん長く感じられた休暇が終わり、授業が再開されたこの日、こんな知らせがハリーのもとに届けられた。この日の最初の授業は『占い学』。好きな授業ではないうえに気持ちが落ち込むような予言をされるなど、イヤなことがあった後でのこの知らせは、まさに朗報であった。

 ハリーは、このときを待ち望んでいた。これはルーピン先生からの知らせであり、『守護霊の呪文』を学ぶための特別授業の日程に関する通知なのだ。

 そして、アルテシアの姿を探す。アルテシアより先にパーバティを見つけたが、それは単に後か先かの問題。パーバティがいれば、そのそばにはアルテシアがいる。2人は談話室のなかではいつも一緒なのだ。

 

(あいつも、特別授業に来るのかな)

 

 アルテシアも、覚えればいいんだ。ハリーはそう思っていた。アルテシアは、ホグワーツ特急で吸魂鬼のために気を失ったと聞いている。それに、吸魂鬼をとても怖がっているらしい。きっと役に立つのに。

 そろそろ8時になる。だが、アルテシアには動き出す様子がない。どうやらルーピンの特別授業は、ぼくだけのようだ。軽くため息をつくと、ハリーは談話室を出て『魔法史』の教室に向かった。

 

「やあ、ハリー。特別授業は、これから毎週木曜日、ここでやることにしよう。守護霊の呪文は、1度や2度やったくらいで覚えられるようなものじゃないからね」

「は、はい。お願いします。この呪文を使ったなら吸魂鬼をやっつけられるんですよね?」

「そうじゃないよ、ハリー。魔法がうまくいけば守護霊が出てくるけど、それはいわばキミの保護者だ。キミと吸魂鬼との問で盾となり、キミを守ってくれるんだ」

「でも、追い払うって聞きましたけど」

 

 これは、ソフィアからの情報だ。ダンブルドアがこの魔法を使ったために、吸魂鬼は逃げていったのだ。ルーピンがうなずく。

 

「とにかくやってみよう。練習には、まね妖怪を使う。こいつはキミの前では吸魂鬼に変身するはずだからね」

「なるほど」

「いいかい、呪文を唱えるときには、なにか一番幸せだったことを思い出すんだ。強く思うことが大切だよ。うまくいけば、守護霊が出てくる」

 

 とにかくやってみることだと、ルーピンは言う。それは、ハリーも同意見だった。

 

「最初は、まね妖怪なしでやってみよう。呪文は、こうだよ。エクスペクト・パトローナム(Expecto patronum:守護霊よ来たれ)」

 

 ハリーも、ルーピンのようにして杖を構える。

 

「やってごらん」

「はい。エクスペクト・パトローナム」

 

 なにも起こらない。もちろんハリーも、いきなり成功するとは思っていない。

 

「なにか幸せなことを思い浮かべるんだ。それに神経を集中すること。いいね?」

「はい。エクスペクト・パトローナム」

 

 幸せなこと。そんな思い出なんて、ぼくにはない。ハリーはそう思っていた。でも、ホグワーツに入学できたこと。友だちができたこと。これらは、まさにそうだ。そして。

 

「エクスペクト・パトローナム」

 

 杖の先から、なにか銀色の霧のようなのものが噴き出した。だがそれは、あっという間に拡散し、消えてしまう。

 

「おぉ、さすがだね。よくやった、ハリー」

「うまくいったんでしょうか? ぼく、初めて箒に乗ったときのことを思い浮かべたんです」

「さすがに成功とは言えないけど、すごいことだよ。初めてでここまでできるとは」

「ありがとうございます」

「よーし。それじゃ、まね妖怪を使ってみよう。いいかい?」

 

 もちろん、ハリーはうなずいた。いまの状態なら、相手がまね妖怪、つまり吸魂鬼のニセモノでも成功するはずだ。そうに決まっている。そんな高揚した気持ちのままで、ハリーが杖を構える。ルーピンが、箱の蓋に手をかける。その箱のなかにまね妖怪がいるのだ。

 箱の中から出てきたのは、予想どおり吸魂鬼。フードに覆われた顔がハリーの方を向き、その手が、ハリーへと伸びる。箱を出た吸魂鬼が、すーっと滑るようにハリーに迫ってくる。

 

「エ、エクスペクト・パトローナム!」

 

 だが、凍えるような冷気がハリーを包んでいく。守護霊は現れない。その代わりに、声が聞こえてきた。

 

(ハリーはやめて、ハリーには手を出さないで)

 

 これは、母親の声。ハッフルパフとのクィディッチの試合のときに聞いた、あの声だ。母親の声が、あのときよりも強く、はっきりと、頭の中に響いた。

 

「おい、ハリー。大丈夫か、ハリー!」

「ああ、すみません、先生。大丈夫です」

 

 いつのまにか、床に倒れていたらしい。起き上がるハリーに、ルーピンがチョコレートのかけらを渡す。

 

「どうする? もう1回やってみるかい」

「はい、やらせてください」

 

 チョコレートが、身体を温めてくれる。あの吸魂鬼はニセモノなのだが、さきほどの冷気といい、ハリーに与える影響はホンモノと変わらぬようだ。声すらも、あのときと同じように聞こえた。

 

(どうしてハリーなの。幼い子に手を出さないで)

 

 あの声は、母のものだ。そのあとに、何が起こったのか。ハリーが知っているのは、その結果だけだ。この練習で、あるいはその過程がわかるのかもしれない。そんな期待も、ハリーの中にはあった。だが、実際にまね妖怪の吸魂鬼が現れると、そんな余裕も消え去る。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 やや灰色がかった、霧のようなもの。杖から出たのは、それだけ。残念ながら、守護霊にはなれていない。

 

(リリー、逃げるんだ。忘れたのか、ハリーなら大丈夫だ。キミが死んじゃいけない。こいつは、ぼくが食い止める)

 

 初めて聞く声だった。男の声が引きつったような声で叫び、甲高い笑い声が響く。

 

「ハリー、ハリー、しっかりするんだ」

「あ、ああ、先生。ぼく、また失敗したんですね」

 

 その通りだった。床に倒れていたのがなによりの証拠だろう。だが、まだ耳に残るあの声。あの声は。

 

「父さんだ。父さんの声が聞こえた。きっと、そうなんだ」

「ジェームズの声を聞いたって?」

「きっと、そうです。母をかばってヴォルデモートに向かっていったみたいだった。でも」

 

 ハリーなら大丈夫だと、そう言っていた気がする。それは、なぜ? なぜ、父さんは?

 

「ハリー、今日はもう、これでやめよう。最初に言ったが、1度でできるようなものじゃない。大人の魔法使いでもむずかしい呪文なんだから」

「は、はい。でも先生、たしかぼくの父のことをジェームズって…… 父を知っているんですか」

 

 一瞬、ルーピンはなにか考え込んだようだ。だが、すぐに笑顔を見せる。

 

「そうだよ、実はよく知っている。ホグワーツでは友だちだったからね」

「じゃあ、シリウス・ブラックのこともご存じなんですよね」

「どうして、そう思うんだい」

「いえ、ただぼく、父とブラックとがホグワーツで友だちだったってことを知ってるだけです」

 

 いくらか緊張した顔つきのルーピンだったが、その表情が和らいだ。

 

「そうだよ、わたしとジェームズ、それにシリウス・ブラックともう1人。4人一緒に遊び回ったりしていたよ」

 

 言いながら、ルーピンが板チョコを1枚、ハリーに渡す。

 

「今日は終わりだ。一晩にしては十分過ぎるほどの成果だったと思うよ。また来週の木曜日、続きをやろう」

「はい、先生」

 

 もう1度くらい挑戦してみたかったが、今日のところはこれで満足すべきだろう。そう自分を納得させ、ルーピンにあいさつをして教室を出る。まだ手に持っていたチョコレートの残りを食べながら、グリフィンドール塔へと歩いて行く。

 

(でも、父さんは、おかしなことを言っていた)

 

 ハリーなら大丈夫だ。

 どういう意味なんだろう。あの高笑いはヴォルデモートに決まっている。ヴォルデモートは、父と母を殺し、ぼくも殺そうとした。でも、失敗した。殺せなかった。稲妻型のキズがついたのはともかく、ぼくは、無事だった。殺されることはなかった。もしかすると、父さんと母さんは、そうなることを知っていたのだろうか。なぜ? どうして?

 チョコレートを食べ終えても、気持ちは、すっきりとはしなかった。

 

 

  ※

 

 

「なぁ、キミ。ソフィアだったよね。お願いがあるんだ」

 

 ロンが呼び止めたのは、まさしくソフィア。ソフィアは、だいたいいつも、1人で大広間へとやってくる。このときがチャンスだと、ロンはそれを狙っていたのだ。

 

「なんですか。ウィーズリーさんですよね。もう朝食はお済みなんですか」

「ああ、いや。それはこれからだよ。キミと話をしてからだ」

「では、お互いにお腹がすいてるわけですから、手短にお願いします」

 

 廊下の脇へ寄り、2人は話し始める。ハリーやハーマイオニーたちは、いなかった。もちろん、ロンがそうなるようにしたからだ。

 

「お願いしたいことがあるんだ。ドラコ・マルフォイに言ってほしいことがある」

「なにを、ですか」

「知ってるだろ、ドラコがヒッポグリフにケガをさせられたこと。あの件は自分が悪かったんだって、そう言うようにマルフォイに」

「それ、ムリだと思いますよ」

 

 ロンの言葉が終わらぬうちに、ソフィアから返事が返ってくる。拒否した、というわけではないが、ロンの意向には添えないという意味では同じだ。

 

「それに、ずいぶん前のことですよ。さすがにもう、ケガしてるフリもやめてますし、いまさら自分が悪かったなんて言うはずないです」

「そうだけど、仮病だったってことを白状させたいんだ。そうしないと、ヒッポグリフが処分されることになる」

「処分? 命を奪われるってことですか。どうしてそんなことに」

「生徒にケガをさせた危険な生き物ってことにされそうなんだよ。だけどマルフォイが自分のせいだったって認めれば、そうならずに済むと思うんだ」

「それは、そうなのかもしれませんけど」

 

 ソフィアにはめずらしく、言いよどむ。その理由なのかどうかはわからないが、そのときロンは、背後からの声を聞いた。

 

「余計なお世話だぞ、ウィーズリー。あのヒッポグリフがどうなろうと、ぼくの知ったことじゃない」

「あ、いや。けど、処分されるだなんて、あんまりだと思わないか」

 

 後ろにいたのは、ドラコ・マルフォイ。どうやら、話もすっかり聞かれていたらしい。だがドラコは、ロンを無視してソフィアへと目を向ける。

 

「こんなヤツと話なんかするんじゃない。さっさと広間へ行くんだ。食事の時間だろう」

「ええ、そうします。でもマルフォイさん」

「なんだ」

「もし、そのヒッポグリフが処分なんかされたら、アルテシアさんはどう思うんでしょうね」

 

 ドラコとロンの、驚きの混じった視線のなか、ソフィアは足早に大広間へと入っていく。さて、残された2人はどうしたか。

 

「いいか、ウィーズリー。言っておくが、あのヒッポグリフがどうなろうとぼくの知ったことじゃない。だけど、そのことでアルテシアが悲しむのだとしたら。それは、ぼくの本意じゃないんだ」

「マルフォイ、おまえ、どういうつもりだ」

「なにがだ」

「アルテシアのことだ。アルテシアはグリフィンドールだぞ。ちょっかいかけてくるのはやめろよ」

 

 唖然とした顔をしたのは、わずかの間。すぐに、いつものちょっと相手を小馬鹿にするような目つきに変わるドラコ。ロンも精一杯、その目をにらみつける。

 

「はんっ、お笑いぐさだぞ、ウィーズリー。同じ寮だから、なんだ。それで、アルテシアの友だちにでもなったつもりか。おまえごときが、クリミアーナのことをえらそうに語るんじゃない」

「なんだと、マルフォイ。おまえこそ、スリザリンじゃないか。いくらスリザリンでも女の子ぐらいはいるだろう。おまえは、パンジー・パーキンソンで満足しておくべきだ」

 

 どうやら口では、ロンはドラコにかなわないらしい。ドラコのほうには、余裕がみてとれる。

 

「なんだ、ウィーズリー。女の子を紹介してほしいのか。なら、そう言えばいいだろう。けど、さっきの子はやめとけ。陰気だし、ちっとも笑わないぞ。アルテシアとは全然違うんだ」

「黙れ」

「さっき、おまえと話をしていたが、あいつが、あんなに話をするのはめずらしい。案外おまえ、気に入られてるのかもしれないぞ。どうだ、嬉しいか」

「うるさい。勝手にしゃべってろ」

 

 2人が話をしたのは、そこまでだった。

 

 

  ※

 

 

「ソフィア、そこに座って。わたしの隣よ」

「はい」

 

 週末の午後、アルテシアとソフィアは、マクゴナガルの執務室を訪れていた。いつもならマクゴナガルとの勉強会の時間なのだが、今日はそこにソフィアが加わっていた。

 マクゴナガルは彼女の執務机に座り、その前にアルテシアとソフィアが座っている。

 

「ミス・ルミアーナ。わたしも、あなたのことをソフィアと呼ばせてもらいますが、かまいませんね?」

「もちろんです、先生。でもわたしがミネルバ先生とお呼びするのは、ダメなんですよね?」

「ああ、なるほど。それもいいかもしれませんね」

「え! いいんですか?」

 

 ソフィアだけではない、アルテシアからも、同じような驚きの声。

 

「わたしは、まったくかまいません。あなたたちの好きなようにお呼びなさい」

「ありがとうございます」

 

 2人ともそう返事をしたが、さて、本当にそう呼ぶのかどうか。表情をみる限りでは、かなり本気のようにみえる。ソフィアが手をあげた。

 

「質問、いいですか? 今日、わたしが呼ばれたのはどういう訳でしょう。なにか、理由があるんですよね?」

「もちろんです。あなたはアルテシアと同じ、クリミアーナの魔法を使いますからね。失礼は承知のうえですが、見比べ、確かめてみたいのです」

「わたしと、比べるっていうんですか」

 

 これにはアルテシアもびっくりしたらしい。ソフィアと顔を見合わせたあとで、マクゴナガルを見る。

 

「そんな、イヤそうな顔をするものではありません。あなたたちも承知しているでしょうが、アルテシアは魔法使用により体調を崩すことがよくあります。このことについて、確かめたいことがあるのです」

「あの、どういうことでしょうか」

 

 さすがにアルテシアも不安げだ。ソフィアを紹介するだけだというそんな軽い気持ちでいただけに、話の展開についていけないのだろう。

 

「ソフィア、あなたは魔法を使用したことで、寝込んだりしたことはあるのですか?」

「あぁ、なるほど。そういうことですか。そういうことなら、わかりました。そのことは、わたしの母とも話をしたことがあります」

「あるのですか、ないのですか。その返事が先です」

「すみません。わたしには、そんな経験はありません。さすがに気持ち悪くなったことは、えーと、3回か4回くらいかな。気分が悪くなったりしましたけど、寝込むほどではありませんでした。しばらく休めば元気になりました」

「そうですか」

 

 このあたりのことは、アルテシアも疑問に思っているところだ。アルテシアとソフィアとが、まったく同じ魔法を使ったわけではないので簡単に判断はできないが、アルテシアのほうが、身体への負担がより大きくなるのは間違いないようだ。

 

「マクゴナガル先生、あ、違った。ミネルバ先生、そのことは、この休暇中にルミアーナ家でさまざま話をしているんです。わたしたちの考えを聞いてもらえますか。わたしたちの結論は」

「お待ちなさい、アルテシア。やはり、ミネルバ先生という呼び方はやめましょう。いままでどおりの呼び方にするように」

「あ、はい。わかりました」

「それで、あなたたちの結論は、アルテシアには何か足りないものがある。そういうことになったのですか?」

 

 まさに、そのとおりであった。ソフィアとその母アディナ、そしてアルテシアもそう考えたのである。

 

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