ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 前回より、ずいぶんとまがあいてしまいましたが、よければ続きを読んでやってください。この先も、年内いっぱいはこんなものだと思います。お仕事、忙しい時期なのです。しかも、衆議院解散するとかしないとか言ってるし。
 物語は、例のあれの奪還作戦です。さて、どうなりますことやら。


第65話 「にじ色奪還作戦」

 校長室には、マクゴナガルとスネイプがいた。ダンブルドアに呼ばれ校長室に来ているのだが、肝心のダンブルドアは、魔法省や他校の校長先生との話し合いが長引いているらしく、ここにはいない。

 

「ともあれ、待つしかありませんな」

「ええ。紅茶でもいれましょう」

 

 その準備は手慣れたものであり、紅茶の用意はすぐに終わった。それが早すぎたということでもないだろうが、その用意が終わってもダンブルドアは戻って来てはいない。

 

「どう、お考えですかな」

「4人目の代表について、でしょう。どうやって名前を書いた羊皮紙をゴブレットに入れたのかは気になりますが、ともあれハリー・ポッターの出場については認めざるをえないと思いますね」

「同感ですな。選ばれてしまったからには、そうするしかない。だが、どうせならあの娘を参加させてみたかった。ポッターなどよりは、よほど見応えがあったとは思われませんか」

 

 手にしていた紅茶のカップを、ゆっくりとテーブルへと戻す。

 

「わたしは、これでよかったと思っているんです。たしかに、アルテシアならば活躍するでしょう。でも、その後に医務室ではかわいそうですからね」

「なるほど。それはそうと、校長が抱え込んでしまったものがあったなら、少しは事情が変わったりするのですかな」

「ああ、そうですね。あれを返してもらえるようにと、知恵をしぼる必要はあるでしょう」

「そもそもの話、あれが戻ってきた場合とそうでない場合とで、どういうことになるのです? あの娘にも聞いてみましたが、あやつは」

 

 スネイプがそこで言うのをやめたのは、マクゴナガルが静止したからだ。校長室で話すようなことではない、というのがその理由。いくらダンブルドアがいないとはいえ、ここには歴代校長の肖像画という、いくつもの目と耳がある。肖像画に描かれた過去の校長が見聞きしたことは、ダンブルドアに伝わることになると考えるべきなのだ。

 

「ああ、なるほど。ダンブルドアに聞かせるのはまずいということですかな」

「これは、アルテシアの名誉に関わることです」

「たしかに、そのようなことをあの娘も言っておりましたな。だが、ならばなおさらでしょう。このままでは済ませられない」

「もちろんです」

 

 それ以上、マクゴナガルは何も言わなかったし、スネイプも問うようなことはしなかった。ただ静かに紅茶を飲み、ダンブルドアが戻ってくるのを待った。

 

 

  ※

 

 

「ああ、アルテシア。よく来てくれました。このところ三校対抗試合の準備などで忙しかったのですが、今日はじっくり話したいと思っていますよ。時間はありますね?」

「はい。でもマクゴナガル先生、先生は近くにいてくださるだけで」

「いいえ、そういうわけにはいきません。わたしにも、考えがあるのです。いろいろと思い悩みもしましたが、決めました。そのことをあなたに話しておこうと思い、ここへ呼んだのです」

 

 アルテシアは、マクゴナガルの執務室に来ていた。ここに来るのは、もう何度目になるのか。もはや、その回数すらもわからないほどになっている。

 

「まず白状しておきますが、あなたのにじ色の玉をダンブルドアが持っていることは、ずいぶん前から知っていました。それをあなたに言わなかったこと、それについては申し訳ないと思っています」

「ご存じだった、のですか」

「なぜそれを、あなたに伝えなかったのか。いまとなっては言い訳にすらなりませんが、わたしがこの手で、あなたに渡したかったのです。そのとき、あなたの驚く顔が見たかった。嬉しそうなあなたの顔が見られると思ったのです。喜ぶあなたが見られるのだと」

 

 それがマクゴナガルの、偽らざる気持ちであるのかもしれない。だが、なんとなくいつものマクゴナガルらしくない。そんな思いがアルテシアの頭をよぎる。決めたと言うが、いったいなにを決めたのか。

 

「むろん、ダンブルドアとは何度も交渉しました。ですが、いい返事はもらえない。ならば、無断で持ち出すしかないと考えたこともあるのです。ですが、校長室へと入り込みそれを持ち出すことはできませんでした。あなたのものだとわかっているのに、手がだせなかったのです」

「そんなこと、気にしないでください。返さない方が悪いんだってことくらい、誰でもわかることです」

 

 マクゴナガルが、なぜ手出しできなかったのか。その気持ちを、アルテシアはわかると思った。アルテシアもまた、ソフィアやパチル姉妹にあれこれと言われたが、取り戻そうとはしなかった。それと同じようなことなのだと思う。そして改めて、アルテシアは自分に問いかける。あの玉を、いつまでダンブルドアのもとに置いておくのかと。ダンブルドアがあの玉をどう判断するのか、それを聞いてみたいという理由はあるにせよ、そのままにしておいていいのか、と。

 

「ごめんなさいね、アルテシア。あれがどれほど大切なものか、理解はしているつもりなのにほおっておくようなことをしてしまって」

「大丈夫ですよ、先生。なんの問題もないです。必要なときには取り戻すだけ。そのつもりでいますから」

「それを聞いて、ほっとしたのは確かです。ですが、アルテシア。わたしにも、立場というものがあります。副校長であり教師であるからには、それを止めねばなりません。ですがミネルバ・マクゴナガル個人としては、そんなことできない。したくない」

「先生」

「もちろん、悩みましたよ。自分はどちらにあるべきなのか。どちらを優先するべきなのか。学校側に立つべきか、あなたの側にいるべきか」

 

 マクゴナガルの表情を見る限りでは、すでにその結論は出ているようだ。みずからの気持ちの整理がついたからこそ、アルテシアを呼び、こんな話をしているのに違いない。決めた、というのはそのことなのだろう。

 

「言っておきますが、魔法書を読んでいることとは関係ありませんよ。あの本のことがなくても、わたしは同じことを考えたでしょう。なぜなら、あなたの寝顔を思い出したからです」

 

 アルテシアは、何も言わない。言う言葉がみつからないのかもしれないが、マクゴナガルは、かまわずに話を続ける。

 

「あなたは知らないかもしれませんが、わたしとあなたは、ずっと以前に会っていますよ。そのときあなたは、毛布にくるまってすやすやと眠っていました」

「そ、そうでしたか」

「あなたのお母さまがどういうつもりで引き合わせたのか。もうそれを知ることはできませんが、そんなことはどうでもよろしい。肝心なのは、寝顔しか見せてはくれなかったけど、わたしたちは出会っているということです」

「あの、先生」

「いわば、あなたはわたしの娘のようなものです。誰になにを言われようとも、かまいません。わたしはもう、決めました。この件に関しては、ダンブルドアはあきらかに間違っています。ならばわたしがあなたに協力するくらい、許されてもいいはずです」

 

 マクゴナガルにとってのダンブルドアは、ほとんど全てのことで尊敬することのできる、偉大な魔法使いだ。だが少なくとも、この件に限っては間違いを犯している。マクゴナガルは、そう思っている。そう思っているのになぜ、いままで放置していたのか。さまざま思うことはあるが、そんなことは、今さらどうでもいいことだと切って捨てればいい。マクゴナガルは、そう考えていた。

 あの日、マクゴナガルの前で毛布にくるまり、すやすやと眠っていたアルテシア。どうやらそのときの寝顔が、そう決意させたらしい。

 

「でも、先生。ほんとにいいのでしょうか」

「かまいません。先ほどあなたが言ったように、返さない方が悪いのです。この件では、あなたに味方するつもりでいます」

 

 どうしても必要なことなのに、自分にはできない。ならばせめて、それをやろうとする者の邪魔だけはしない。マクゴナガルは、そう言っているのだろう。そう考えたアルテシアは、ゆっくりとうなずいてみせた。

 

「ありがとうございます、先生。もちろん、取り戻したいと思っています。お許しいただけて、嬉しいです。校長先生には気づかれないようにしますので」

「いいえ、むしろ気づかれるくらいがいいのでないかという気もしますけどね」

「でも、騒ぎになるかもしれません。あえてそんなことしなくてもいいんじゃないでしょうか。もしマクゴナガル先生が、わたしに魔法を使ってもよいと言ってくださったなら、いい方法があるにはあるんです」

「そのことはともかく、あなたは14歳を過ぎましたね。どうです? なにか変化を感じますか」

 

 クリミアーナの魔女は、通常13歳から14歳で魔法の力に目覚める。当てはまらない場合もあるが、そんな例がほとんどである。その年齢になれば、魔法力とのバランスもうまくとれるようになり、身体への過度の負担はなくなるとされていた。

 

「すみません、3年生の終わりからずっと魔法は使っていないので、よくわからないんですが」

 

 そう言ったアルテシアを、マクゴナガルがじっと見つめる。3年生の終わりとは、つまりシリウス・ブラックをめぐる騒動に一応の決着がついたときのことになる。そのとき、アルテシアが何をしたのか。マクゴナガルは、そのことを知らなかった。間違いなく何かしたはずだと思ってはいるが、あえて尋ねることはしていないのだ。

 

「では、試してみる必要がありますね。ちょうどいいじゃないですか。いい方法があるのなら、やってみなさい。必要なら、魔法も使ってよろしい」

「で、でも。いま、ここで、ですか」

「そうです。14歳となったことでなにか変わったのか、変わらなかったのか。それを知るためにも、魔法を使ってみる必要はあるのです。機会としては適当だと思いますよ」

 

 こういう話になろうとは、さすがにアルテシアも思っていなかった。そのためか、なにをするでもなく、ただマクゴナガルを見るだけだ。いったい、マクゴナガルはどうしてしまったのか。

 

「なにも気にすることはありませんよ、アルテシア。わたしは、わたしです。思ったようにするだけ。この件に関しては、あなたの判断に任せるのが最善でしょう。そのほうがいい結果を得ることにつながると、そう信じています。いずれにしろ、あれはあなたのもの。本来の持ち主の手に渡るのが一番ですし、ここで自分にはできなかったことをとやかく言うのは、いいことではありません」

「でも先生、ほんとうにいいんでしょうか。魔法を使って取り戻してもいいんですよね」

 

 おそるおそるといった感じで上目づかいに見てくるアルテシアに、マクゴナガルはゆっくりとうなずいてみせた。

 

「もちろんですよ、アルテシア。さまざまに考え抜いての結論です。もう、迷っていられるときは過ぎたのです。いまは、そうすべきとき。マダム・ポンフリーには叱られるかもしれませんが、わたしがちゃんと見ています。ときには割り切ることも必要でしょう」

「でも、先生。先生の目の前で、約束を破ることになってしまいます。処罰に値するようなことだと思いますけど」

「いいのです。責任はわたしにあるのですから、遠慮せず思い切りやりなさい。本当に必要なことであれば約束など気にしなくてよいと、そう言ってあったはずですよ」

「それは、そうなんですけど」

 

 こんなマクゴナガルは、初めてだった。そんな戸惑いが、アルテシアの行動を鈍らせてはいたが、マクゴナガルがやってよいと言っているのだから、やることは決まっていた。

 

 

  ※

 

 

「すまんの。ながらくお待たせしてしまったな」

「いいえ、校長。いろいろと大変なのはわかっておりますよ」

 

 アルテシアとマクゴナガルとが2人で話をしているころ、ようやくダンブルドアが、校長室に戻ってきた。

 

「おや、マクゴナガル先生はどうしたのかね?」

「しばらく待っておられましたが、約束の時間になったとかで。お話は、また後日にお伺いすると言っておりましたな」

「そうかね。まあ、たしかにずいぶんと遅くなってはしまったが」

「どうされますかな。また後日ということでもよいですし、わたしが呼びに行ってもかまいませんが」

 

 テーブルには、紅茶の用意がされていた。されてはいたが、すっかり冷めきってしまっている。なにしろ、マクゴナガルが用意してからずいぶんと時間がたっているのだから仕方のないことだ。

 

「いや、かまわんよ。それよりセブルス、せっかく待っていてもらったのじゃから、キミに状況だけでも説明しておこう」

「そうですか」

「時間がかかったのは、対抗試合の代表者をどうするか、ということでもめたからじゃよ」

「ポッターの参加は認めないと、そういうことですかな」

「そうではない。ゴブレットが選んだ以上、ハリーを含めた4人は選手として参加することになる。じゃが、ボーバトン側からも2人めの代表を認めるようにと要求がでたのじゃよ。これをどうするかで延々と話し合っておったのじゃ」

「なるほど」

 

 そんな要求が出るのは、十分に考えられることだ。各校2人ずつの代表としたほうがより公平であることは間違いないのだから。

 

「マダム・マクシームが言うには、ボーバトンには、非常に優秀な生徒がおるそうでな。代表はフラー・デラクール嬢となったが、ハリー・ポッターが認められるのなら、ティアラ・クローデルというそのお嬢さんも認められてしかるべきだと言うのじゃ」

「しかし、実際に選ばれたのはフラーなる娘でしょう。いまさら代表選手に加えても、結果はみえているのでは」

「まあ、そうかもしれん。じゃがそのティアラ嬢はまだ16歳なのじゃよ。この点でも、つつかれておる」

 

 ゴブレットに名前を入れなかったのは、17歳になっていなかったから。ハリー・ポッターは、その年齢制限にも引っかかっているのだ。ならばティアラも認めよと、そういう主張なのだ。もっともなことではあるだろう。だがそれを、認めるかどうかはまた別の問題。ゴブレットの炎が消えてしまった今となっては、追加での参加など認められるはずがない。

 

「そういったことは、時間はかかるにせよ話し合えば解決することができる。それはよいが、気になるのはハリーが自分でゴブレットに名前を入れてはおるまいということじゃ」

「どうしてそう思われるのです? ハリー・ポッターは、しょっちゅう規則破りをしておりますぞ。今回もそうだとは思われませんか」

「いや、さすがに年齢線をごまかすようなことができようとは思わんよ。誰かが、ハリーの名前を入れたとみるべきじゃろう」

 

 やりたくてもできないはずだと、ダンブルドアはそう言うのだ。では誰が、なんのために? 問題となるのは、当然、そのこと。

 

「いまさら、それを調べることもできんが、とにかくいろいろ、注意をせねばの」

「誰かがポッターを狙っている、ということになりますか」

「そういうことになるじゃろう。じゃが、何のために? その目的がよくわからん。様子を見るしかないが、あれをごまかしてハリーの名前をいれるには、かなりの魔力が必要となる」

「イゴール・カルカロフ。あやつは、どうです? かつての死喰い人ですが」

「ふむ。じゃが、ハリーの名をいれる理由がないじゃろ。自分の学校に有利になるわけではないのじゃからな」

 

 かつて死喰い人であったのは、スネイプも同じだ。ならば、スネイプにも可能だったのではないか。だがダンブルドアは、そのことに触れようとはしないようだ。

 

「誰がやったかはともかく、裏にヴォルデモート卿がいることは疑いがないのう。その指示を受けてのことじゃろう。そうは思わんかね?」

「さあ、わたしにはとんと。なれど校長。闇の帝王のことはともかく、あの娘であれば同じことができたと思われますかな」

「あのお嬢さんのことかね。そうじゃの、できそうな気がするな。あの子の魔法は、実におもしろい。とても興味深いものじゃ」

「闇の魔法については、どうお考えなのです? あの魔法は闇の魔法であり、あの娘は、闇の側だと思っておいでなのですか」

 

 それには、ダンブルドアはすぐには返事を返してこなかった。冷め切った紅茶をカップに注ぎ、それを飲む。

 

「ご存じですかな、校長。あの娘は、その冷めた紅茶を温めなおすことができますぞ」

「それは、さほど難しいことでもあるまい。ともあれあの娘を、ヴォルデモート卿の側へとやるわけにはいかん。そのためにマクゴナガル先生を付けてあるのじゃ」

 

 スネイプが笑みを浮かべた。ほんのわずか、ニヤッとした程度のものだったが、はたしてダンブルドアは気づいたか。そしてスネイプは、なにを思ったのか。

 

「そういうことであれば、校長。あの娘に嫌われるようなことをしないほうがよいのではないですかな」

「嫌われるじゃと。さて、そんなことをしたかの。ま、あまり話をする機会を持てていないのはたしかじゃが」

「あの玉を、返してやればいいと申し上げているのです。いつまでも取り上げたままだと嫌われますぞ」

 

 そのとき、ダンブルドアは思い出した。あのにじ色の玉を持っていたホグズミードの女性が、まさに同じことを言っていた。『嫌われますよ』と。

 

 

  ※

 

 

「まだアイデアだけで、試してみるのはこれが初めてです。まずはにじ色の玉をつくります」

 

 言いながら、左手をマクゴナガルのまえへと差し出し、軽く握られたその手を開いてみせる。何も持ってはいなかったはずのその手に、その手のひらの上に、見覚えのあるにじ色の玉があった。それがそこにあることに、マクゴナガルも少なからず驚いたようだ。杖はもちろんのこと、呪文を唱えたようすすらなかったのだ。

 

「これを、校長室にあるものと入れ替えるんです。うまくいけば、校長先生は気づかない、かもしれません」

「ああ、なるほど。つまり替え玉というわけですね。ですが、問題がありますよ」

「え?」

「あれが、校長室のどこにあるのかわからない、ということです。もしかすると、すでに校長室にはないかもしれない」

「その可能性も考えましたが、保管しておくところなんて、ほかには思いつきません。校長室が一番確実だと思いますけど」

 

 その安全確実の場所から、アルテシアはにじ色の玉を取り戻そうというのだ。ともあれマクゴナガルの言うことはもっともで、その場所が正確にわからない限り、入れ替えることはできない。

 

「保管場所は、これから調べます。そうですね、このテーブルの上に映し出してみますので、先生も見てくださいますか」

「映し出す? まさか」

 

 そのまさか、であったらしい。見覚えのある校長室が、テーブルの上に展開されていく。それは、不思議な光景だった。机や棚などの調度品はもちろん、壁の肖像画までもが映し出される。これはもちろん、校長室での光を、テーブル上へも中継しているからだ。

 

「これは…… なるほど、こうやって隅々まで調べようというのですね」

「はい。それなりに時間もかかるでしょうけど、見つけることさえできれば」

 

 校長室では、ダンブルドアとスネイプとが話をしているらしい。声は聞こえないが、その2人の姿がある。誰もいない方が望ましいが、いたとしても、なんら問題はない。

 テーブルの上には、ダンブルドアの机が映し出されている。しかも、単に拡大しているだけではない。それは机自体のなか、すなわち引き出しなどの内部にまで及ぶことになる。だが開けられていない引き出しの中は暗く、その中をはっきりと見ることはできない。

 

「明かりが必要ですね。やはり、実際に開けないことには」

「大丈夫ですよ。ここから明かりを送り込んでやればいいんです。やったことはないんですけど、重ねてできると思うんですよね」

 

 いったい、どうやっているのか。アルテシアがそう言った瞬間、引き出しの中が光で満たされ、はっきりと見えた。まるで、すぐそこにあるかのように。

 

「しかし、ここまでやって、つらくはないですか? 身体への負担はどうです?」

「いまのところは、平気です」

「そう、それはよかったこと」

 

 そこに、14歳を過ぎたことの影響があるのかどうか。それはまだ、わからない。この程度の魔法使用なら、以前にも何度か経験がある。問題はこの先だ。この先、どこまで継続し続けることができるのか。

 自分の執務室にあるいつもの椅子にすわったままで、ダンブルドアの机を、その引き出しの内部まですべて確認しおえたマクゴナガル。はたして、マクゴナガルはどう思っているのか。ちなみに、例の玉は見つかっていない。

 

「次は、棚の方をみてみます」

「いえ、そこにはいろいろな物が置いてはありますが、違うでしょう。ひと目に触れやすい場所ですからね」

「なるほど、そうですね。でも一応、確かめてみます」

 

 もちろん、そのほうがいい。マクゴナガルも、それは否定しなかった。見落としがないように、じっくりと見ていく。アルテシアが初めて見るような物も置いてあったが、目的はそれではない。にじ色の玉は、みつからない。

 

「やっぱり、ありませんでしたね」

「おそらくは、奧のほうだと思いますね。脇の階段から行くんです。壁面の本棚も怪しいと言えば怪しいのですけどね」

 

 机の後ろ側の壁は、本棚になっている。ゆるい登りの階段が左右の両側にあり、その階段を上り下りすることで、本棚の本を取り出すのだ。左右両側から続く階段は、机のちょうど真後ろでつながっており、そこには中二階のようなスペースがある。下からは、そこに置かれた肘掛けのついた椅子の背もたれのあたりがちらりと見えるだけだが、もちろんその椅子に座って本が読めるだけの広さはあるので、見えないところには、なにか収納庫のようなものがあるかもしれない。

 さすがのマクゴナガルも、その階段を上ったことはなかったのだ。

 

「このうえですか」

「そう、この上は本棚だけではありません。そこに、収納庫のようなものがあってもおかしくはないでしょう。ちゃんとみたことはないので、はっきりとは言えませんけどね」

「では、階段を上ります」

 

 テーブルの上の映像が、少しずつ階段へと近づいていく。壁面の本棚には、さすがに多くの本が詰まっていたが、その数はクリミアーナ家の書斎ほどではないようだ。

 

「本棚は、どうしましょうか。本の後ろに隠してあるかもしれないですよね」

「それはあとですね。まずは階段の上からにしましょう」

「はい」

 

 その階段の上には、椅子だけではなく、小さな脇机のようなものが置かれていた。もちろん、その上に本などを置くためのものだろうが、扉がついている。なかに物が入れておけるようになっているようだ。アルテシアの見せる映像が、そのなかを映し出していく。だが、さほど物は入っていなかった。なにかはわからないが、書類の束がいくつかあるだけ。にじ色の玉はないようだ。

 

「では、やはり本棚のなかですね。どれかの本の後ろに隠してあるのでしょう。あるいはもう校長室にはないのかも」

 

 マクゴナガルはそう言ったが、映像は、小さなテーブルのなかから動かなかった。いくつかの書類が置かれた場所がクローズアップされ、大きく映し出される。

 

「こ、これは」

「ここに、なにかあります」

 

 アルテシアに指摘されるまでもなく、マクゴナガルは映し出された映像に釘付けとなった。書類の束は大きく2つに分けられている。片方にはハリー・ポッターの名前が記されており、もう片方はアルテシアの名があった。どちらも、一番上の紙には名前だけしか記されていないが、はたしてその下の2枚目以降には何が記されているのか。

 

「おそらくは、あなたたちについて記録したものでしょう。むろん、その内容に興味はありますが」

 

 アルテシアが指摘したのは、その書類でのことではなかった。ハリーの側とアルテシアの側、その量はどちらかといえばハリーのほうが多いようだが、アルテシアのほうだけその中心部がわずかにへこんでいる。そこになにか、重しとなるような物がおいてでもあるかのように。アルテシアは、そのことを言っているのだ。

 

「なるほど、たしかに」

「たぶんこれ、にじ色ですよ。さすがは校長先生ですね。見えなくしてあるんだと思います」

「おらそく、そうでしょう。あの人は、魔法で自分自身を透明にすることができますから、同じことをしているのでしょう」

 

 ようやく、見つけた。そういうことにはなるが、これでは単に入れ替えただけでは気づかれてしまうことになる。そうしないためには、アルテシアの作り出した替え玉のほうにも同じ魔法をかけ、透明にする必要がある。

 

「先生、先生はこの魔法と同じことができますか?」

「すぐにはムリです。どうやって透明化しているのか、調べてみないと」

「ですか。じゃあ、どうしよう」

 

 アルテシアは、左手で頬杖をしつつ、中指でこめかみのあたりを押さえている。どうするべきか、それを考えているようにも見えたが、マクゴナガルは、別のことを思った。

 

「あなた、まさか頭が痛い、のですか」

「たいしたことないです。あ、でも… あぁっ」

 

 思わず、顔をゆがめる。一瞬だが、するどい痛みが走ったのだ。そしてこの痛みによりわかったことは、14歳を過ぎても、これから普通に魔法が使える、ということにはならなかったということだ。つまりはどうしても、いわば目の前にあるあの玉が必要、ということになる。

 

「止めるのです、アルテシア。場所はわかったのですから、また後日ということにすればよろしい」

「そうですけど、でも、そこにあるのに」

「いいから、止めるんです。言うことを聞きなさい。また医務室で過ごすことに」

 

 なぜかそこで、マクゴナガルは言うのをやめた。マクゴナガルの目の前では、アルテシアがその手ににじ色の玉を持ったまま、気を失ったからだ。

 




 今月中にもう1話、書きたい。本人はそう思っていますが、さてどうなりますか。年が明ければ、従来のペースに戻れるだろうと思ってます。それまでお見捨てなきようお願いしたいです。
 では、また。
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