ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 みなさま、あけましておめでとうございます。
 今年も、魔法の本におつきあいいただけると、嬉しいです。よろしくお願いします。と、これが言いたいがため、元日にアップさせていただきました。
 ということで、お話の続きをお届けします。年の初めの最初から、なにやら騒動が起こるようですが、ご容赦ください。



第8話 「トロール」

 ハロウィーンの日の朝は、パンプキンパイを焼くおいしそうな匂いとともに始まった。そして、この日の授業の目玉はフリットウィック先生の「呪文学」。物を飛ばす練習をしましょう、との言葉に誰もが沸き立った。誰もが、やってみたくてしかたなかったのである。だが、なんのいたずらか。二人ずつ組んでの練習での組み合わせが、波紋を呼ぶことになった。

 いつもならハリーとロンが組むところなのに、今日のハリーの相手はシェーマス・フィネガン。ロンのほうは、このところ気まずい雰囲気のただようハーマイオニーが相手。そんなこんなでパーバティはラベンダーと組むことになり、アルテシアは、1人だけあぶれることになった。

 

「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文を正確に」

 

 フリットウィック先生のキーキー声とともに、あちらこちらで練習が始まるが、パーバティは、なにもできないでいた。アルテシアのほうをチラチラ見つつ、ラベンダーになにか言いたげな視線をむける。その意味をラベンダーは理解していたが、気づかないふりをした。たとえアルテシアを仲間にいれたとしても、意味はない。アルテシアは魔法が使えないので、3人組となるよりも1人にしておいたほうがいいのではないか。ラベンダーはそう思っているし、きっとそのほうが、アルテシアも気が楽なのだ。そうに違いないと思うのだけれど、パーバティはなにか別のことを考えているようだ。

 ラベンダーは、パーバティへと杖を向けた。パーバティだって、そのへんのことはわかっているはずなのだ。わかってはいるが、認めたくない。そんなところなのだろう。あの子も苦労するわね、とラベンダーは思う。

 

「いい? あたしから、やってみるからね」

「あ、うん」

「ウィンガーディアムレヴィオーサ」

 

 だが、空中に浮きあがるはずの羽は、わずかに震動してみせただけ。失敗だった。これはかなり難しいものらしく、まだ誰も成功してはいないらしい。隣にいたロンたちの声が聞こえる。

 

「ウィンガディアムレヴィオサー!」

「言い方がまちがってるわ。ウィン、ガー・ディアムレヴィ・オーサ。『ガー』と長ーくきれいに言わなくちゃダメ」

「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ」

「いいわ、みてなさいよ」

 

 ロンの怒鳴るような声に、ハーマイオニーが甲高い声で応酬。そして、次の瞬間。ハーマイオニーの呪文とともに、羽は空中に浮きあがった。

 

「オーッ、よくできました! 皆さん、見てください。グレンジャーさんがやりました!」

 

 すかさず、フリットウィック先生が歓声をあげる。クラス中の視線が、宙を舞う羽に向けられる。もちろんアルテシアも、その羽をみあげる。そのとき杖を持つ手は、この呪文に必要となる動きをみせていた。なにやらつぶやいているのは、声は聞こえないがあの呪文なのだろう。そんなアルテシアを見ていたのは、パーバティただ1人。

 授業が終わり廊下に出ると、ちょうど、ロンの不機嫌な声が聞こえた。

 

「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」

 

 ハリーだけに聞こえるように言ったつもりなのだろうが、その不機嫌さゆえか、少々声が大きかった。なので、その後ろを歩いていたハーマイオニーにも聞こえたし、そのすぐ後ろにいたアルテシア、パーバティ、ラベンダーの耳にも入った。ハーマイオニーは、その瞬間、ハリーにぶつかりながらも2人を追い越して駆け去って行く。

 「今の、聞こえたみたい」とハリーが言えば「それがどうした?」とロンが返す。ロンは、ハーマオニーのことが少しも気にならないようだ。だが、アルテシアはそうではなかった。ロンの横に来ると、ハーマイオニーが去って行った方を指さす。

 

「ロン、すぐに追いかけて。あなた、ハーマイオニーにあやまるべきよ」

「なんでだよ。そんな必要がどこにあるっていうんだ」

「あなたの言葉が彼女を傷つけたからよ」

「傷つけたって? 冗談じゃない、傷ついたのはこっちだ。キミだってそうだろう。あれだけ言われて傷つかないのか。魔法が使えないことを、いろいろと言われてるじゃないか。知らないわけじゃないんだろう」

 

 その言葉は、アルテシアから表情をうばうこととなった。このところ暗い顔をすることが多くなってはいたが、わずかに残っていたほほえみすらも、消えうせる。パーバティがアルテシアの腕を掴み、引き離す。

 去って行く2人を、ロンとハリー、そしてラベンダーが見送る形となった。

 

「ロナルド・ウィーズリー、余計なことを言ってくれたわね」

「な、なんだよ」

「彼女の顔、見たでしょ。すくなくともあなたは、アルテシアからほほえみを奪った。その罪は大きいかもね」

 

 ハーマイオニーは、その次の授業には出てこなかった。アルテシアは、教室の隅でぼんやりと授業を受けていた。そして夕刻。大広間に向かう途中でハリーとロンは、パーバティとラベンダーのひそひそ話を漏れ聞いた。それによると、ハーマイオニーはトイレで泣いていて、一人にしてくれと言っているらしい。アルテシアは、寮へ着替えに戻ったのだとか。なんでも、気持ちを落ち着けるためということらしい。

 それを聞き、さすがに2人ともバツの悪い思いをしたが、ハロウィーンの飾りつけがされた大広間でのご馳走の魅力には勝てなかった。テーブルに乗った金色の皿にご馳走が現れる。そして、そのご馳走との格闘が始まろうとした、まさにそのときだった。

 全速力で部屋にかけこんで来たクィレル先生が、みんなが見つめる中、ダンブルドアの席へとかけよる。その顔は、なにかにおびえたように、引きつっていた。

 

「ト、トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」

 

 さほど大きな声ではなかったが、誰もがクィレル先生に注目していただけに、その言葉に騒然となった。すぐさまダンブルドアの指示が出て、各寮の監督生の先導で寮に戻ることになった。

 

「トロールなんて、どこから入ってきたんだろう」

 

 そんな会話が、そこかしこで聞こえる。誰もが寮へとむかうなか、それを思い出したのはなんの因果だろうか。ハリーは、ロンの腕をつかんで引き留める。

 

「だめだ。このままじゃ寮に戻れない」

「なんでだよ」

「ハーマイオニーだ。あいつ、トロールのこと知らないよ」

 

 ロンが唇をかんだ。そういえばそうだ。女子トイレで泣いているとかいないとか。

 

「チクショウ!がり勉め!」

 

 彼女に、トロールのことを知らせねばならない。方向転換をし、反対方向に行くハッフルパフの寮生たちに紛れ込む。そして、誰もいなくなった方の廊下をすり抜けてハーマイオニーのいる女子トイレへと行こうとしたのだが、その先にパーバティがいるのをみつけた。

 

「あいつ、まさか」

「たぶん、目的は同じだ。とにかく行こう」

 

 ハリーたちは、またたくまにパーバティに追いついた。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアは、女子トイレにいた。ハーマイオニーがここで泣いていると聞いてやってきたのだが、とてもしずかで、物音すらも聞こえない。だが、ここにいることは間違いない。

 パーバティがウソをついた、などとは考えない。アルテシアは、ゆっくりと中へ入っていく。個室のドアが、一カ所だけ閉まっている。いるとすれば、あそこに違いない。

 だがアルテシアは、そのドアのすぐ前で立ちすくむかのように動きを止めた。中にハーマイオニーがいるのは間違いない。ここまで近づけば、人のいる気配を感じる。同様にハーマイオニーも、誰かがやってきたことには気づいているはずだ。それでも、どちらも声をださない。

 それからしばらくして、ようやくアルテシアの右手が動きをみせた。ドアをノックしようというのだろう。だがその手は、ノックする寸前でとまる。まだどこかに戸惑いのようなものがあるらしい。

 実のところアルテシアは、ハロウィーンのごちそうなどには目をつむり、寮の部屋に閉じこもって寝てしまうつもりだった。だが寮に戻る口実のためにパーバティに告げた『部屋で着替えてくる』のひと言が、この結果を招くことになった。寮に戻ったアルテシアは、その言葉のままに着替えることにしたのである。ホグワーツの制服から、幼いころより着慣れたクリミアーナの真っ白なローブへ。

 アルテシアがこのローブに袖を通したのはホグワーツ特急以来で、学校内では初めてのことになる。着慣れたその感触が、どこまでも果てしなく落ち込んでいく気持ちを、その心を、かろうじてひっぱりあげてくれたのだ。

 魔法が使えない。そのことに対する周囲の目は、とても厳しかった。もちろんその覚悟はしていたが、予想の範囲を超えていた。学校中が自分を批判しているかのような状況には、耐えがたいものがあった。もしパーバティがいなかったら。たまたま廊下で会ったとき、パドマが笑ってくれなかったら。ハグリッドが森の散歩を許してくれなかったら。そのとき、自分というものを、どれだけ保っていられただろう。いや、すでにもう、自分というものを、その存在を忘れていたのかもしれない。

 だが、いま。真っ白のローブが、思い出させてくれたのだ。ローブにかけられた母の魔法が、思い出させてくれたのだ。わたしは、クリミアーナの娘、クリミアーナのアルテシア。アルテシアは、大きく息を吸い込み、そして吐き出した。ドアをノックする。

 

「ハーマイオニー、そこにいるんでしょ。アルテシアだけど、おなかすかない? 今日は、ハロウィーンのごちそうらしいよ」

 

 返事はない。どうやら、簡単にはいきそうになかった。ハーマイオニーとハリーたちの間になにごとかあったのはたしかであり、あの2人から、特にロンからはかなりきつい言葉を浴びせられていた。立ち直るのにはもっと時間が必要、ということだ。

 

「ねぇ、ハーマイオニー。わたしね、相談したいことがあるんだ。魔法のことなんだけど、あとで・・」

 

 ふいに、アルテシアの言葉が途切れる。そのことに、トイレのなかにいたハーマイオニーは顔をあげた。少し前にようやく泣き止んだところであり、まだほおのあたりが涙に濡れてはいたけれど、その目に涙はたまってはいなかった。

 だがアルテシアは、どうしたのだろう。なぜ、途中で言うのをやめたのか。ドアの外のようすをうかがうが、はっきりしたことはわからない。そばにいるのは間違いないようだが、なぜ急に黙ってしまったのかはわからない。

 声をかけるべきかどうか。ハーマイオニーは、迷った。そうこうしているうちに、ふたたびドアがノックされ、アルテシアの声が聞こえた。

 

「ごめん、ハーマイオニー。またあとで迎えに来るから、そこにいて。いい? 迎えに来るまで、そこにいてよ。出てきちゃだめだよ」

 

 一瞬、返事をしそうになった。したってかまわないのだが、あわてて口を手のひらでおさえる。そのときだった。ものすごい音がして、トイレのなかが震えた。地震ではない。あのものすごい音の衝撃が、この揺れの正体なのだろう。

 

「アルテシア、どうしたの? なにがあったの?」

 

 もう、だまってなどいられなかった。思わず、叫んでいた。これは、ただごとではない。あの、ものすごい音は何だ。

 

「心配ないよ、ハーマイオニー。とにかく、そこにいて。あとで迎えにくるから」

 

 ふたたび、衝撃音。洗面台や鏡などが壊れる音ではないかと、ハーマイオニーは思った。これは、誰かが力任せに壊している音ではないのか。いったい誰がそんなことを。衝撃音が続く。

 もう、じっとしてはいられない。ハーマイオニーは立ち上がり、ドアノブに手をかけた。外のようすを知るには、まずドアを開けねばならない。そっとノブをひねり、ゆっくりと開ける。まず目に入ったのは、床に飛び散った残骸。おそらくは、洗面台の壊れた破片だ。やはり、ただごとではないようだ。視線をあげていくと、正面には、トイレの出入り口。その開いたままの出入り口のむこうに、人影がみえた。あれは、ハリーとロン、そしてパーバティか。アルテシアは?

 思い切って、ドアを全開。外に一歩踏みだし、右側を見る。と、そこには。

 天井にも届こうかというほどの大きな身体と、その体にみあうほどの巨大な棍棒。トロールだ。トロールがそこにいた。しかも、アルテシアめがけ、その棍棒を振り下ろしたところであった。

 

「あぶないっ!」

 

 思わず発した悲鳴のような声。振り下ろされた棍棒が、アルテシアを襲うその一瞬。すばやく右側へと身体をそらしたため、棍棒は、床に思い切りたたきつけられることになる。だがこの一撃は避けたものの、ふたたび襲ってくることはあきらか。つかの間、アルテシアの視線がハーマイオニーをみる。逃げろ、とでも言いたいのだろう。だがこの一瞬が、致命傷となった。

 アルテシアとしては、次の一撃までには、ふたたび棍棒を振り上げる時間が必要になると考えたのに違いない。だからハーマイオニーへと視線を向けたのだ。だが棍棒は、地面をたたいたそのままの勢いで、アルテシアめがけ、なぎ払うように動く。時間的余裕を与えることのないその一撃は、確実にアルテシアをとらえた。棍棒はアルテシアの胸から腹にかけてのあたりを直撃。その勢いで、トイレの出入り口付近まではじき飛ばしたのだ。ちょうど女子トイレへと到着したハリーとロン、そしてパーバティとハーマイオニーは、その瞬間を目撃した。

 出入り口近くまで飛ばされたアルテシアのそばに、なぜかトロールの棍棒があった。おそらくはトロールが、勢いのまま思わず手を離してしまったのだろう。アルテシアが棍棒を奪った、とするのは考えすぎに違いない。

 倒れたままのアルテシアが、ようやく身体を起こす。だが、上半身がやっとだ。その目が、パーバティを見つめる。

 

「アルテシア、大丈夫? 大丈夫だよね」

 

 もう、泣きそうになっていた。そんなパーバティに、アルテシアは何ごとか言おうとしているようだった。声にはならないが、その口は動き続けた。その動きと、そして右手の動き。それが、何を意味するのか。ロンもハリーも、そんなアルテシアをみていた。

 

「そうか、わかったぞ」

 

 これは、ロンの声。同時に、杖を取り出し、呪文を唱える。

 

「ウィンガーディアムレビオーサ!」

 

 突如、床に転がっていた棍棒が、ふらふらと浮き上がり、まるで生き物であるかのようにトロールめがけて宙を飛んだ。棍棒は、ボクッという妙な音とともに、トロールの頭部を直撃。そのままトロールは、大きな音をたてて倒れる。その衝撃が、またもトイレのなかを揺らした。

 

「やったぞ、ロン。トロールをノックアウトしたんだ」

 

 ハリーの歓声。ロンは、杖を振り上げたままの姿勢で、倒れたトロールを見ていた。パーバティはアルテシアに抱きついたが、ハーマイオニーは、ノックアウトされているとはいえトロールのそばを横切ることができず、ハリーたちの側へは行けなかった。

 バタバタと足音が聞こえ、そこにマクゴナガル先生が飛び込んでくる。あとには、スネイプ先生とクィレル先生が続いた。ここで繰り広げられた大騒動が、自分たち以外の誰にも気づかれない、なんてありえないことだったのだ。

 

 

  ※

 

 

「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか」

 

 口調は冷静だが、怒りが満ちていた。ハリーとロンを見すえたマクゴナガルは、明らかに怒っている。だが、今にも始まるかと思われた説教を止めたのは、意外にもスネイプだった。

 

「お話の前に、医務室に連れて行くべきだと思いますな、マクゴナガル先生」

「そのようじゃな。生徒だけではなく、先生もな」

 

 いつのまにか、ダンブルドアもここに来ていた。ダンブルドアは、胸を押さえてトイレに座り込んでいるクィレル先生に目を向ける。

 

「なるほど。では吾輩が連れて行こう。ですが、校長」

「なんじゃな」

「事の次第の報告は、あとで聞かせてもらいますぞ」

「無論じゃ」

 

 気絶しているアルテシアを抱きかかえ、スネイプはパーバティに目を向けた。

 

「ついてくるか?」

「は、はい」

 

 パーバティが、拒否するはずもなかった。スネイプは、意図的にパーバティをこの場から連れ出したのである。クィレル先生は、自分の足でしっかりと歩いていた。トロールから離れるほどに、元気になるようだった。

 

「さて、ミネルバ。このトイレの後始末はわしが引き受けるゆえ、その3人の処置はまかせてもよいかの」

「もちろんです、校長。全員がグリフィンドールの生徒ですから」

 

 マクゴナガルは、ハリーたち3人を近くの空き教室に連れて行った。事情を聞くのに、トイレはふさわしくないと思ったのだろう。3人を椅子にすわらせ、その前に立つ。

 

「殺されなかったのは、実に運がよかったのです。そのことをわかっていますか」

 

 3人は、無言のままに頭をさげた。ハーマイオニーなどは、あの恐ろしい棍棒が勢いよく振り下ろされるところを、目の前で見ている。死なないまでも、大けがをしていて不思議ではないのだ。アルテシアは、大丈夫なのだろうか。

 

「さて、寮にいなければいけないあなた方が、どうしてここにいるのか、説明してもらえますか?」

 

「マクゴナガル先生。聞いてください――私のせいなんです」

「ミス・グレンジャー、どういうことです」

「私がトロールを探しに来たんです。私、やっつけられると思いました――あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので」

 

 ハリーもロンも、びっくりしたようにハーマイオニーをみた。あのハーマイオニーが、先生に嘘をついている?

 

「もしみんなが来てくれなかったら、私は今ごろ、死んでいたかもしれません。先生方に知らせにいく時間なんてなかったんです。あの、先生。アルテシアは、アルテシアは大丈夫でしょうか」

 

 マクゴナガルは、3人をじっと見ていた。マクゴナガルとて、アルテシアのことが心配なのだ。どうやら今回のことでは、ケガをしたのはアルテシアだけのようで、この3人は無傷だ。マクゴナガルは、小さくうなずいてみせた。

 

「よろしい。まあ、そういうことでしたら……」

 

 ハーマイオニーはうなだれていたし、ハリーは言葉もなくロンと顔をみあわせるばかり。まさか、ハーマイオニーが規則を破ったふりをして、僕たちをかばってくれるなんて。

 

「より詳しい説明を、またのちほど聞くことになるかもしれませんが、怪我がないならグリフィンドール塔に戻った方がよいでしょう。ハロウィーンの続きを、寮の談話室でやっているはずです」

 

 3人はゆっくりと立ち上がった。だが、マクゴナガルの言葉は、まだ終わってはいなかった。

 

「ミス・グレンジャー、あなたの愚かな行為により、グリフィンドールから5点減点します。よく反省しなさい」

 

 そして、今度はハリーとロンの方に向き直る。

 

「とはいえ、あなたたちの勇気ある行動が、トロールによる被害を最小にとどめたのも事実。それぞれに5点ずつあげましょう。帰ってよろしい」

 

 3人そろって、大急ぎで教室を出る。こんな程度で許されるなんて、それこそ奇跡のようだ。そして寮へと向かって歩き始めるが、3人は何も話さなかった。話すことはあったはずだか、なにから話すべきか、分からなかったのだ。

 

「点数、10点ってことかな。少ないよな」

 

 寮への入り口である、太った婦人の肖像画が見え始めた頃、ロンがぽつりと言った。すぐさまハリーが訂正する。

 

「5点だろ。ハーマイオニーの5点を引かなきゃ」

「違うと思うな」

 

 ハーマイオニーの声だった。ハーマイオニーは、ハリーとロンのすぐ後ろを歩いていたので、当然、話は聞こえていたわけだ。

 

「違うって?」

「それより、ハリーとロンにはほんとに感謝してるわ。ありがとう」

「あ、いや、そんな。ぼくらこそ、ありがとう」

 

 誰も来てくれなければハーマイオニーはトロールに襲われていたはずだし、ハーマイオニーのウソがなければ、ハリーたちは罰を受けていたかもしれないのだ。当然、あの5点だってなかった。そんな意味での『ありがとう』なのだろう。

 これ以来、3人のなかにあった妙なわだかまりは消えることになる。共通の経験が、互いを近づける。今夜のことは、そんな貴重な体験のように思われた。そしてそれは、この3人だけにはとどまらないのかもしれない。

 

「あたし、明日の朝はやく、アルテシアのお見舞いに行くわ。あなたたちも来るでしょう?」

 

 その夜、見舞いにいかなかったのは、正解であった。当然、校医のマダム・ポンフリーが許可してくれるはずなどなかった。マダム・ポンフリーは、スネイプやマクゴナガルだけでなく、ダンブルドアまでも許可しなかったのだから。

 




 トロールって、実際はどれくらいの危険度なのかとか、よく分からないところもあったんですが、ともあれ原作参考で暴れてもらうのと、その退治の回となりました。このエピソードは欠かせないものだと思ってます。
 とはいえ、原作では不思議というか違和感があった箇所なんですけどね。というのも、どんだけ広いトイレなんだってことでした。トロールの身長はどれくらい? 天井ってそんなに高いの? ロンが浮遊呪文で浮かせた棍棒はどこまで上昇した? そのあたり、初めて原作読んだときから感じてたんですが、今回、自分で書くにあたっても、その違和感から逃れるのは難しかった。自分にトロールについての知識がないことが、その原因なのかも。
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