クリミアーナ家の食堂に、マクゴナガルの姿があった。休暇中であるのだが、アルテシアの様子を見に来たのであろう。だがあいにくと、アルテシアは留守だった。まだ、散歩から戻っていなかったのである。応対したパルマが食堂へと通し、マクゴナガルの前に紅茶の入ったカップを置いたところだ。
「もうじき、戻ってくると思いますけどね。もちろん、お待ちになられるんでしょう?」
「ええ、待たせてもらいます。学校も始まりますし、この休暇中に起きたことを話しておくべきだと思いましたのでね」
「なにか、問題でもありましたですか。アルテシアさまも、近ごろずっと、なにやら考えておいでなんですよね」
「考えている? こちらに戻ってきてからずっと、ですか」
何も考えるなと、そう言ってあった。そんなことができると本気で思っていたわけではないが、そうしてくれることを願っていた。時間がとれたときに、2人で一緒に考えていきたかったからだ。この休暇中は忙しくなることが、マクゴナガルにはわかっていた。だから、そんなことを言ったのだ。
アルテシアを正しく導いていく、という責任が自分にはある。マクゴナガルは、そう思っている。だが正直なところ、そうすることができているのかどうか疑問だとも思っている。学年末のあのとき、アルテシアの心はかなり動揺していたのだ。そんな大事なときに自分は、アルテシアのそばを離れるしかなかった。
そんな後悔にも似た思いが、マクゴナガルのなかに広がっていく。この休暇中、アルテシアは何を考え、どんな結論を出したのか。それを聞きだすことも、今回の訪問の大事な目的のひとつなのだ。場合によっては、その軌道を修正してやる必要もあるだろう。もちろんそれは、正しい方向でなければならない。
※
「それが、不死鳥の騎士団なんですね」
「そうです。わたしも、メンバーのなかに名前を連ねています」
クリミアーナ家の書斎に場所を変え、マクゴナガルとアルテシアが話している。ちょうどいま、不死鳥の騎士団に関しての説明が終わったところである。
「いまのところ、例のあの人にはこれといった動きはありません。騎士団結成など、ダンブルドアの対処が素早かったという面はあるでしょうが、あの人のほうでも、なにやら準備中なのかもしれません」
「対決する、ということですよね。闇の側の人たちと」
「そうですが、未成年は参加できませんよ。あなただけでなく、ソフィアやパチル姉妹、あのハリー・ポッターたちも含め、生徒たちの参加は認めません」
「先生も、ですか?」
問われている意味がわからなかったのだろう、改めてアルテシアを見たマクゴナガルだが、アルテシアは、いつものように微笑んでいた。
「先生の言うとおりにします。参加しろというなら、参加します」
「そんなことは言いませんよ。認めないと言ったでしょう」
「はい。でもわたし、あの人とは会う必要があります。話がしたいんです。それは禁止しないでくださいね」
「アルテシア、あなたがそんなことを考える気持ちはわかりますが、その危険性を理解していますか。あなただって狙われる可能性があるのですよ」
「わかっています。十分に注意します」
休暇中に何を考えたのか。それを聞かなければと、マクゴナガルは思っている。そのタイミングとして、今がちょうどいいこともわかっている。聞けば答えるだろうということも、もちろんわかっている。
だがマクゴナガルは、別のことを口に出していた。重要なことは後回しとしたのか、それともアルテシアが言うのを待つことにしたのか。取り出したのは、数枚の羊皮紙と本。
「新学期の案内と、必要な教材のリストです。あらたに必要となるのは、ミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集・5学年用』とウィルバート・スリンクハード著『防衛術の理論』の2冊だけ。わたしが用意しておきました」
そして、その2冊をアルテシアの前へ。わざわざ用意してきたのは、ダイアゴン横丁へと買い物にいかなくても済むようにするためである。つまりは、クリミアーナ家を出ないようにということ。他のどんなところよりもクリミアーナ家にいたほうが安全だと、マクゴナガルはそう思っているのだ。
「防衛術の先生は、また代わるのですね。この本は、その人が指定なさったものですよね」
「そうです。いい先生であることを願うばかりですが、魔法省から派遣されてくるのだと聞いています。期待はしないほうがいいでしょうね」
「魔法省から、ですか」
「ダンブルドアでは適切な教師をみつけられない、と魔法省が判断した結果です。誰にとって適切であるべきかは別として、魔法省は例のあの人が戻ってきたなどとは認めていませんから、防衛術の教育に熱心になるとは思えません」
それからマクゴナガルは、もう1枚、羊皮紙をアルテシアの前にすべらせた。
「あなたの成績ですが、わたしは十分に満足していますよ。そこにあるように、いわば実技的な面では低めの評価となってはいますが、それは気にしなくてもよろしい」
「すみません、先生。でもこれからはずいぶん違ってくると思いますよ。杖の使い方を覚えたんです」
「覚えた? どういうことです」
自分の杖を取り出し、マクゴナガルの前で軽く振ってみせる。
「これまでは、わたしが杖の使い方を分かっていなかっただけみたいです。それに気がついたんです」
「使い方が、杖に、ですか。相性というものがあるとは聞いていますが」
「あれ? クローデル家のティアラのマネをしてみたんですよ。そしたら、すごくうまくいったんですけど」
「そう、ですか。まあ、なんにしてもよかったですね。ですが、クローデル家ですって。あなたの家とは敵対していたと聞きましたが」
「敵対だなんて、そんな。昔はいろいろあったのかもしれないけど、ティアラは」
ティアラが、どうしたのか。アルテシアは、そこで言うのをやめた。
「どうしました? そのティアラが、なんですか」
「あ、いえ。先生は、敵対していたとか、どこで聞いたんですか?」
「500年ほど前のクリミアーナの騒動では、その火種となった家だと聞いていますよ」
「わたしもです。でも考えてみれば、そのときなにがあったのか、本当のところはわからない」
「わからない?」
「ティアラやソフィアは、なにか知ってるかもしれません。でもわたしは」
それは、なぜか。残念ながら、アルテシアのなかに、その真相に関することはなにもない。当時の当主であるアティシアが、そうしてしまったからだ。子孫の誰にも、そのことが伝わらないようにしたのである。
「わたしは、魔法書が完全になれば、そのことも全部わかるんだと思ってました。魔法書に残されているんだと」
「でも違った、そういうことですか」
「そうなります。考えてみれば、わたしの魔法書は、クリミアーナ初代のご先祖が作ったものです。魔法書が残された後に起きたことがそこになくても、おかしなことじゃないですよね」
「ですが、当時の記録はあるはずですよ。あなたが知らないだけで」
それは、あるかもしれないし、ないかもしれない。アルテシアには、どちらとも言い切れない。だが2人とも、同時に思い浮かべたものがあった。魔法省の好きにしていいと、アルテシアがそう言ってしまった、ガラティアの遺品である。
「もしかすると、そこになにか、残されていたのかもしれませんね」
「かもしれません。でもあれは、ファッジ大臣の好きにしていいと言ってしまいました」
「そうですが、返してくれるようにお願いしてみましょう」
「いいえ、先生。そのときになにがあったのか知らなくても、これからのことには問題ないです。わたしだって、サー・ニコラスに少しは話を聞いてるし、たぶんソフィアとティアラは知ってるんです。でも、わたしのそばにいてくれてる。だったら、それでいいです」
「まあ、あなたがそういうのなら。大事なのはこれから、ということには賛成ですよ」
しぶしぶ、なのだろうか。マクゴナガルも、同意する。どちらにしろ、当時の事情については、いずれはわかるのかもしれない。アルテシアが、ぺこりと頭をさげる。
「先生。わたし、これまでいろいろと思い違いをしていたようです。ありがとうございます、先生」
「おや、ここでお礼の言葉が出てくるなんて、どういうことです?」
「先生は、何も考えるなと、わたしに言ってくださいました。そんなことできるはずないと、そう思いました。だからわたし、これまでのことを、落ち着いて振り返ってみようと思ったんです」
「なるほど。それでも考える、ということに変わりはありませんけど」
「そうですけど、いろいろと勘違いをしていたことに気づくことができました。そんな時間をくれたのは、やっぱり先生だと思うんです。ありがとうございます」
まさか、そんなことでお礼を言われるなどとは思ってもいなかったマクゴナガルである。そこに、照れくささもあったのだろう。すぐに話題を変えてくる。
「そういえば、杖をうまく使えるようになったといいましたね」
「はい。これからはもう少し成績をあげられると思います」
「それは、楽しみだこと。ではアルテシア。どうせなら、守護霊の呪文を覚えてみませんか」
「それって、たしか吸魂鬼を追い払うことができる魔法ですよね」
「ええ。この休暇中にハリー・ポッターが吸魂鬼に襲われるという事件も起きています。あなたも同じ目にあうかもしれない。その対処ができるようにしておくべきです。まあ、あなたの場合は別の方法がありますけど」
1度だけだが、アルテシアは吸魂鬼をにじ色の玉の中へと閉じ込めてしまったことがある。それができるのなら、必ずしも守護霊の呪文は必要ないことになるが、覚えておいて損はない。ついでというわけではないが、マクゴナガルは、ハリーが吸魂鬼に襲われた一件を話して聞かせた。
※
ブラック家の客間では、この部屋のカーテンにはびこっていた噛みつき妖精ドクシーの駆除がおわったところだ。作業の指示をしたのは、ウィーズリー家のモリー。参加者はハリーとロン、ハーマイオニーにフレッドとジョージ、そしてシリウス・ブラックである。
「さあ、これですっきりしたわ。ご苦労さま、いまお昼のサンドイッチを持ってきますから、ここで待っていなさい」
ドクシーの駆除には、午前中いっぱいかかったことになる。ほっと一息ついたところで、ハリーは、部屋の反対側の壁にかけられたタペストリーに目を向けた。そろそろと近づいていくと、シリウスもその後をついてくる。
タペストリーは色あせ、ところどころに虫食いのような跡があった。どうやら家系図であるらしい。一番上に、大きな文字で『高貴なる由緒正しきプラック家“純血よ、永遠なれ”』と書かれている。
「ここに、わたしの名前があったんだけどね。ありがたいことに母上が、わたしが家出したあとに抹消してくださったがね」
なるほど、そこには小さな丸い焼け焦げのような跡がある。
「家出したの?」
「16のころだ。まずはキミの父さんのところで世話になり、17歳になってからひとり暮らしを始めた。叔父のアルファードが、かなりの金貨を残してくれていてね。それでなんとかやってこれたよ。ポッター家にもよく行ったものだ」
「だけど、どうして家出なんかしたの?」
「そうだな。簡単に言えば、純血主義に染まることができなかったから、だろうな。両親は狂信的な純血主義者で、ヴォルデモートの考えを正しいとさえ思っていたんだ。弟は、ほら、ここに名前があるだろう」
そこでシリウスは、家系図の一番下の名前を指差した。レギュラス・ブラックという名と生年月日、死亡年月日が書かれている。
「弟は、両親の言うことを信じていた。だから『デス・イーター』に加わってしまった」
「そんな。嘘でしょう!」
「いいや、ハリー。ウソではないよ。この家を見るだけでも、わたしの家族がどんな魔法使いだったかわかりそうなものだろう」
そこでモリーの『さあ、お昼ですよ』という声が聞こえ、ロンやハーマイオニーたちがサンドイッチの周りに集まっていく。だか、シリウスの目はじっとタペストリーを見ていた。ハリーも、だ。
「弟は、ヴォルデモートに殺された。自分がやっていることに恐れをなし、身を引こうとしたらしいが、命を持ってしか『デス・イーター』から抜けることはできなかったんだ」
モリーの持ってきた大きなお盆には、山のようにサンドイッチとケーキが載せられている。昼食が始まったが、ハリーたちはタペストリーの前から動こうとしない。
「もう何年も、これを見ていなかったな。いろんな名前がある。消された名前もあるな。もちろん、その跡がということだが」
ハリーも、タペストリーに書かれた名前を見ていく。ベラトリックスとナルシッサという2つの名前の間に、焼け焦げがある。
「そこには、アンドロメダという名前があったんだ。キミをここへ連れてきた闇祓いのトンクスの母親だよ」
「トンクスと親戚なんだね」
「純血の魔法使いは、みんなそうだ。みんな親戚だと思って間違いない。このナルシッサは、ルシウス・マルフォイと結婚し、ベラトリックスは、ロドルファス・レストレンジと結婚した。どちらも純血の魔法使いだから、母上を喜ばせたよ。知ってるだろうが、ルシウスとベラトリックス、ロドルファスは、デス・イーターだ」
家系図には、ほかにもさまざまな名前が書かれている。それらを見ながらハリーは、ふと思い出したことがあった。クリミアーナ家から嫁入りしたというガラティアの名前はあるのかということだ。
「あのさ、シリウス。ガラティアという人は、ここに載ってるの?」
「ガラティア? さあ、どうだったかな。わたしもすべて覚えているわけではないからね」
タペストリーのあちこちを見ていくが、ガラティアという名前は見つからない。ブラック家を出されたということだから、名前は消されているのかもしれない。
「ちょっとわからないが、知っている人なのか」
「クリミアーナ家の人なんだ。アルテシアの伯母さんかなにかだと思うんだけど、ブラック家に嫁いでるはずだよ」
「ほう、クリミアーナ家からね。そういえばキミのお母さんには親友がいたことを話したと思うが、その親友の娘さんがアルテシアだよ。気づいていたかい?」
「やっぱりそうなんだ。そんな気はしてたんだけど」
そんな気はしていたが、ハリーは、そのことをアルテシアと話したりはしていない。それはアルテシアにも言えることだが、このところ、話をする機会がめっきりと減っていた。
「あの子とは、学校で話したりはしないのか。実は、彼女にはこちらから連絡すると言ってあるんだ。そろそろ連絡しないといけないんだが」
「会う約束とかしてるの」
「彼女のお母さんとは、何度か会っているからね。そんな話ができるんじゃないかと思ってるよ。あの子にも話したいことがあったようだし」
逆転時計を使って時間を戻し、処刑寸前のヒッポグリフが救出され、西塔に閉じ込められたシリウスが逃げ出した、あの夜。そのときシリウスは、アルテシアに会っている。そのことを、シリウスはハリーには話していない。そのときは、それがアルテシアだとはわからなかったし、内緒にして欲しいとも頼まれていたからだ。
だがもう、そんな必要はない。そのことは、スネイプやマクゴナガルなども承知しているからだ。シリウスがあの部屋でのことを話そうとしたとき、それをモリーがさえぎった。
「そこの2人、早く来なさい。さもないと食べ物がなくなりますよ」
そういえば、昼食の時間だったのだ。食いっぱぐれるわけにはいかない。ハリーとシリウスは、苦笑しつつもサンドイッチのほうへと歩いて行った。
※
キングズ・クロス駅のホームを、アルテシアが歩いていた。ホームには多くの人がいるが、そのほとんどはマグルだろう。というのは、アルテシアがまだ9と4分の3番線のホームに入ってはいないからだ。
いつものように早い時間に駅へと来ているので、ホグワーツ特急発車までには十分すぎるほどの時間がある。アルテシアは、ホームを行き来するマグルたちを見ながら、ここで魔法を使ったらどうなるだろうかと、そんなことを考えていた。というのも、ハリーポッターがこの休みの間にマグルの前で魔法を使い、魔法省から事情を聞かれたという話を聞いたからだ。
マクゴナガルからの情報なのだが、吸魂鬼に襲われ、吸魂鬼を追い払うために守護霊の魔法を使ったらしい。結果として処罰はされなかったらしいが、魔法を使うと罰を受けるということにアルテシアは納得していない。納得はしないが、そういう規則がある以上は反発しても仕方がない、とも思っている。というのも、一応、緊急事態などの例外規定がしてあるからだ。ハリーが処罰されなかったのは、この例外規定によってやむなく魔法を使ったのだと認められたからなのだ。
それはともかく。
この件に関して、アルテシアには疑問があった。クリミアーナの森を散歩しているとき、ふと思ったのだ。未成年者が学校以外で魔法を使うと、魔法省にわかってしまうらしい。だがこれまで、クリミアーナ家の魔女はごく普通に魔法を使ってきた。多くの場合、14歳くらいで魔女の力に目覚める。そして、魔法を使う。だがそのことで、魔法省にとがめられたという話は聞いたことがない。
8歳のときより魔法が使えたという母。8歳という年齢は、もちろん未成年だ。現在進行形で未成年であるアルテシアにしても、学校以外の場所で魔法を使ったことがある。
仮にクリミアーナ家の魔法は感知できない、とすればどうか。もしそうなら、とりあえず説明はできることになる。だがその場合は、感知できない理由が気になってくる。クリミアーナ家の魔法が魔法族のものとは違う、ということを示しているようなものだからだ。
とはいえアルテシアは、これまでずっとそう思ってきた。違うということで、納得していた。だからこそ、マクゴナガルが初めてクリミアーナ家を訪れたとき、魔法が違うのだからと、ホグワーツ入学をいったんは断っているのだ。
だが改めて考えてみたとき、そこには疑問を感じる。これまでそんなことは思いもしなかったが、自分たちの魔法は、なぜ魔法族のものとは違うのだろう。いったい、なにが違うのか。魔法界から長らく離れていたためにそうなってしまったのか。それともなにか、別の理由があるのか。
それを、アルテシアは知りたかった。それを知るための第一歩として、杖を使いホグワーツで覚えた魔法を使ってみようと考えたのだ。魔法族の魔法を、魔法族のように杖を用いて使用してみた場合、感知されるのかどうかを試すために。
いつもの巾着袋に手を突っ込み、自分の杖を取り出す。
ハデな魔法は、使えない。使うべきではない。ここはクリミアーナ家周辺ではないのだから、不思議なことがあっても気にしないこと、などとは誰も思ってはくれないはずだ。
使うのは、浮遊呪文。自分の身体をほんのわずかだけ、浮かせてみるのだ。それくらいなら誰にも気づかれないだろうし、魔法を使ったという事実はしっかりと残る。
「なにをしようっていうんですか」
まさにいま、呪文を唱えようとしたところ。そこで声をかけられ、あわてて振り向く。
「まさか、ハリー・ポッターのマネをしようっていうんじゃないでしょうね。そんなの、ダメですからね」
「ソフィア」
「とにかく、来てください。ホグワーツ特急に乗りましょう。話したいことがいっぱいあるんですから」
「あ、待ってソフィア。ちょっと待ってよ」
だが結局アルテシアは、ソフィアによって9と4分の3番線のホームへと引っ張って行かれるのである。
※
アルテシアが早い時間に駅へと来るのは、なにも4人席のコンパートメントに、確実に席を確保したいからではない。時間に余裕を持っていたいという、ただそれだけのことだ。それでも早すぎるのは間違いないが、ソフィアの場合は、そんなアルテシアに合わせているのだろう。
そんなわけで、まだ発車までには時間があるのだが、ホグワーツ特急は、いつものように早めの時間からホームに停車していた。その列車にアルテシアを引っ張り込み4人席のコンパートメントの窓際の席に押し込めると、ソフィア自身は廊下側に座った。アルテシアを、じっとみつめる。先に口を開いたのはアルテシアだが、すぐにソフィアが先手をとった。
「ソフィア」
「聞いてもいいですか。あんなところで魔法を使おうとした、その理由を」
「うん。ちゃんと話すよ。わたしはね」
「ハリー・ポッターの裁判の話は、聞いてるんですよね?」
「え? ええ、聞いてるけど。ソフィアも知ってるの?」
知っているからこそ、そんなことを言い出せたのだろう。問題はどこから聞いたのかということだ。なんとなくだが、ソフィアが怒っているような。そんなことを思いつつ、ソフィアを見るアルテシア。ソフィアは、軽くため息。
「いいですか。魔法省は、例のあの人が復活したなんて認めてないんです。『日刊予言者新聞』だって、そんな報道はしてない」
「うん、そうだよね」
「でもダンブルドア校長は、復活したと声だかに叫び、魔法族に注意を呼びかけています。つまり、魔法省の方針とは対立している。その結果、どんなことになっているか知ってますか。それにハリー・ポッター。あんな人でもいちおうヒーローだから、彼にも余計なことを言われたくない」
「だから、処罰しようとしたっていうの?」
その可能性があると、ソフィアは言うのだ。ハリーは、マグルの街に住んでいる。そんなところで吸魂鬼がふらふらしてるなんておかしい。そうするように、誰かが吸魂鬼に指示したのだと。
「それが魔法省の誰かだと考えるのって、不自然じゃないと思いますよ。魔法省の方針に反対されるのは困る。ならば、遠ざけてしまえばいい。なにより、ダンブルドア校長には痛手となるはずですから」
「でも、例のあの人かもしれないんじゃ」
「そうですけど、可能性の問題です。あの人は、いまは自分のことで精一杯のはず。あたしたちなら、魔法書を読まなきゃいられない状態だと思うんですよね」
「そう、だよね」
ほんとうは誰のせいなのか、それはわからない。なので予想するしかないが、それがより正確であればあるほど、適切な対応をしていけるということになる。
「魔法を使おうとしてましたよね。あんなところで杖なんか出して」
「そうよ。ちょっと確かめたいことがあって」
「まさか、魔法省にみつかるかどうか、とかじゃないですよね?」
「ああ、ええと」
まさに、そうだった。アルテシアの表情からそのことを読み取ったソフィアは、もう一度ため息。
「リスクが高すぎです。仕方なく魔法を使った、なんて誰も認めてくれませんよ」
「そうかもね。でもクリミアーナでは、普通に魔法を使ってきてるのよ。なのにこれまで、魔法省から怒られたって話は聞いたことがない」
「ウチの家でもそうですけどね。気持ちはわかりますけど、いまはもっと慎重であるべきです。なにかあってからでは遅いんですよ」
さすがにアルテシアも、ソフィアの言おうとしていることは理解できた。なにも危険なのは、ヴォルデモートだけではない。デス・イーターたちに限った話でもない。魔法省にも注意が必要、ということだ。それはともかく、ソフィアはなぜこんなに詳しいのだろう。
「ねえ、ソフィア。あなた、お休みの間は何してたの?」
「なにも。アルテシアさまのことを考えていただけですよ」
「でも、どうして。ハリーのことは、わたしもマクゴナガル先生から聞いただけよ。それこそ、予言者新聞で報道なんかされてない」
「なのになぜ知ってるのか、ですか。調べたのは、ティアラさんです。例のあの人のことにも気をつけてくれてるんですけど、いまのところ、動きはないみたいだって」
「ティアラが?」
「アルテシアさまのためです。アルテシアさまがなにもされてないのは、あの夜のこと、誰にも知られていないからですよ」
あの夜とは、ヴォルデモートが復活を遂げた夜のこと。その夜、ホグワーツの生徒であるセドリック・ディゴリーが殺されている。その場にはアルテシアもいて、自身の身体を手に入れたヴォルデモートを目撃しているのだ。考えてみれば、そのときにも魔法は使っている。だが魔法省には感知されていないのではないか。それは、なぜか。
「ティアラさんが、いろいろ調べてくれることになってるんです。もちろん、ちゃんとお知らせします。だからムチャなことはしないでください。こんなときですから、弱みを握られたらまずいと思うんですよね」
「ティアラが、なんですって?」
「ティアラさんが情報集めとか対外的なことをやって、あたしがアルテシアさまのそばで補佐をする。そうすることにしたんです。ポッターが魔法省のウィゼンガモット法廷で裁判にかけられた。そこでどんな話がされたのかまではわかりませんけど、無罪になったのは確かです」
「ティアラが、そんなことを調べたの」
どうやって、と問う必要はないのだ。自分ならどうするかを考えれば、だいたいの答えは出てくる。光の操作は、クリミアーナの魔法の大きな要素のひとつ。ティアラのクローデル家も、きっと光学系の魔法を使うのだろう。それにしても、いつのまにそんな役割分担を決めたのだろうか。もしかすると、500年前にばらばらになってしまう前も、それぞれの家にそんな分担があったのかもしれない。そのあたりのことをアルテシアは知らないが、ソフィアたちもそうだとは限らない。
「とにかく、いまはおとなしくしてたほうがいいと思います。魔法を使うと見つかるのかどうかは、実際にやって確かめるんじゃなくて、なにか資料とかから見つけ出すべきです。マクゴナガル先生には聞いてみましたか?」
「ううん、聞いてないわ。そうね、学校に着いたら聞いてみる」
「そのほうがいいです。とにかく周りじゅう敵だらけなんですから。ホグワーツにいるから安全だと思うなってティアラさんも言ってました」
「味方は少ないってことだね」
もちろん、ソフィアはうなずいてみせた。そして、考える。アルテシアにとっての味方は、どれほどいるのだろう。コンパートメントのドアが開けられ、まったく同じ顔をした2人が、笑顔をみせる。
「おひさしぶり!」
「元気だった?」
この双子は、間違いなく味方だと、ソフィアはそう思った。他には、誰がいるだろうか。パチル姉妹とアルテシアとが再会を喜んでいるようすを見ながら、学校に着くまでゆっくり考えてみようと、ソフィアはそう思うのだった。