ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第92話 「休暇前の出来事」

「あなたは、昨日の夜中になにが起こったのかご存じのはずね。それを報告しに来てくれたと、そういうことになるのかしら」

 

 自分の部屋へとやってきたアルテシアに対し、アンブリッジは、ニヤニヤと薄笑みを浮かべながらそう言った。その深夜の出来事を、アルテシアは実時間では知らない。だがアンブリッジのところへ来る前にマクゴナガルと会ってるので、おおまかではあるが内容は聞かされている。もっとも公式には、朝早くにグリフィンドールの談話室でマクゴナガルが寮生に話した内容ということになるので、それ以上のことは言えないということになる。

 

「一番の疑問は、どうやってそれを知り、どうやって学校を出たのかということなの。あなた、なにかご存じ?」

 

 アルテシアは、答えない。無言のままに歩き、アンブリッジの座る机の前へと移動。なにか話をするには、ちょうどいいくらいの距離まで近づく。

 

「なぜ、黙ってるの」

「わたしは、朝までぐっすりと寝ていたんです。真夜中に起こったことには気づきませんでした」

「あら、そう」

「朝になってから聞いた話でよければ」

 

 もちろんそれは、談話室でマクゴナガルが発表した内容に限られることになる。それくらいならアンブリッジも承知しているはずなのだが、アンブリッジは話をうながした。

 

「深夜に、ウィーズリーさんが大けがをして聖マンゴ魔法疾患傷害病院に入院したと知らせがきたそうです。それでウィーズリー家のご兄弟たちが病院に行きました。もうじきクリスマス休暇なので、そのまま滞在することになるそうですけど」

「その知らせはどこから? どうやって聖マンゴに行ったのかが気になるのよ」

「それをわたしに聞かれても、困ってしまうのですが」

 

 実際、アルテシアはそんな具体的なところまでは知らない。移動方法など聞いていないのだ。

 

「知らないとおっしゃるのね。まあ、それはいいでしょう。でもね、お嬢さん。あなたと約束した件については、ちゃんと報告してもらわないと。あなたには、その義務がおありなのよ」

「わかっています、アンブリッジ先生。いま、お時間はよろしいですか? 順序よく、お話させていただきたいんですけど」

「あら、そう。いいわ、じっくりとね。場所を変えましょうか」

 

 といっても、自分の部屋を出るつもりではないようだ。片隅に置かれた、ちょっとした来客用のテーブルと椅子。自分の分は、ふかふかのクッション付き。そこへの移動、ということである。

 そこへ腰を落ち着けたアルテシアが、まず言ったこと。それは、DAに関してのことだった。

 

「まず先生がおっしゃった、違法な組織でしたっけ? その活動場所はわかりました」

「そうなの。8階にあるということ以上の報告が聞けるといいんだけど」

「ご存じだったんですか!」

 

 これには、さすがに驚いたらしい。アルテシアが命じられた仕事なのだが、アンブリッジは任せきりにしていなかったということになるようだ。

 

「あなたの報告が正しいのか判断する必要がありますし、参加メンバーはおおよそ調べがついていると言いましたでしょ。首謀者の動きをみていれば、おのずとわかってくるのです」

「だったら、わたしなんかが調べることはなかったのでは」

 

 そうしてくれれば、どういうことになったのか。そんなことを思ったアルテシアだが、結局は同じ結果になったのかもしれない。目の前の相手を見ていると、そんな気もしてくるのだ。

 

「それで?」

 

 アンブリッジが何を知っていようとも、アルテシアとしては予定していたとおりのことを告げるのみ。ちなみにアルテシアは、まだ実際に必要の部屋へは入ったことがない。

 

「先生のおっしゃるとおり、8階です。参加者は20人ほどで、おおよそ1週間に1回ほどのペースで勉強会を開いているようです。ですが、それ以上のことは」

「あらあら。それでは約束が違うんじゃないかしら」

「すみません。でも、わたしが先生にできることは、せいぜいがこれくらい。これで納得してもらうしかないですね」

「妙に強気な物言いをするのね。どういうつもり? まさかとは思うけど」

 

 アンブリッジが何を思おうが、アルテシアとしては、言うべきことを言うだけ。報告を続ける。

 

「先生は、暖炉を通して、別々の場所にいる人たちが会話をすることができるのを」

「知っていますよ。常々、そのネットワークを監視していますからね。で?」

「シリウス・ブラック、という人がこの方法を使って会話を試みています。ですが邪魔をされ、その後はそんなことは起こっていません。起こらなければ、話を聞くこともできないし、ふくろう郵便についても手出しする方法がありません。なのでわたしには、これ以上の調査はできないということになります」

 

 その邪魔をしたのがアンブリッジ、なのである。アンブリッジは煙突飛行ネットワークを監視しており、シリウスがそのネットワークを使用した際に摘発しようとした。だが、取り逃がすという結果に終わっている。以来、シリウスはその方法を利用していないのだ。

 つまりアルテシアは、暗にアンブリッジの失敗が原因だとほのめかしているのである。

 

「なので先生とのお約束については、これで終わりとなります。では、失礼します」

 

 そう言って、席を立つ。だがアンブリッジが、すなおに帰らせてくれるはずもない。もちろん、アルテシアを呼び止めてくる。

 

「座りなさいな、お嬢さん。そんなにあわてなくてもよろしいのじゃなくって?」

 

 アルテシアとて、これで話が終わるとは思っていなかったのだろう。何も言わず、改めてゆっくりと腰を下ろした。

 

 

  ※

 

 

 アンブリッジの部屋を訪れる前、アルテシアはマクゴナガルのもとを訪れている。クリスマス休暇となる前のあいさつであり、アンブリッジと会う前のちょっとした報告、のようなもの。だが話題の中心は、同然のように深夜に起こった出来事となり、グリフィンドールの生徒には、ウィーズリー家の父親が大けがをして病院に運ばれロンなど兄弟とハリーとが向かった、という説明がされている。

 いったい深夜になにが起こり、今の状況はどうなのか。アルテシアはこのとき、もう少しだけ詳しい話を聞いている。始まりは、深夜にハリーが“見た”ことだったという。何を、と問うたアルテシアに帰ってきた答えは、一風変わったものだった。

 

「ヘビのなかに自分がいた、とポッターは言うのです。そのヘビの目を通して、アーサー・ウィーズリー氏が噛まれるところを見たのだと」

「それで、どうなったんですか?」

「実際、ウィーズリー氏は大けがをしています。命の危険からは脱したようですが、発見が遅かったら、つまりポッターがヘビの目で見なかったならどうなっていたか」

 

 話だけでは、想像しずらい場面だと思われる。深夜のことでもあり、ハリーはそのときベッドにいた。故に、夢を見たのだと片付けられても仕方がない状況。だがマクゴナガルは、夢だとは判断しなかった。遠く離れた場所を見る、ということ。それをアルテシアは、簡単にやってのける。クリミアーナの基本的な魔法である光の操作によって、それは実現可能となる。ハリーが同じ手段を用いたとはマクゴナガルも思っていないのだが、すぐさまダンブルドアに報告し、ダンブルドアも、その処理に手を尽くした。

 それが、深夜の出来事。仮にこの過程のどこかで少しでもちゅうちょがあったなら、結果は違っていたかもしれない。

 

「今ごろは、聖マンゴ病院にて親子が対面しているはずです」

「そうですか。でもなぜハリーも?」

「ダンブルドアの判断です。それを見たのがポッターでもありますし、事情がはっきりするまではアンブリッジ先生から遠ざけておきたいのでしょう」

 

 ハリーが見た事件の舞台は、魔法省。遠隔地にいたハリーがどのようにしてその事実を知ったのかなど不明な点も多く、それがはっきりするまでは、ということらしい。

 

「ウィーズリーさんは、そんな深夜に魔法省でなにをしていたんですか」

「その点も、あの先生には知られたくないのでしょう。不死鳥の騎士団の用事であったようですが」

「不死鳥の騎士団、ですか」

「わたしも、用件の内容は知らないのです。魔法省にあるなにかを探していたか調べていたのだと推測していますが、あの先生に知られると支障が出るのかもしれない」

「先生もご存じないことなんですか」

 

 たしかマクゴナガルは、騎士団のメンバーであったはず。アルテシアはそう理解していたのだが、なにもかも知っているということでもないらしい。すべてを知っているのはダンブルドアだけ、なのかもしれない。

 

「マクゴナガル先生、魔法省とは、どういうところなんですか」

「一言でいうならお役所ですが、そういう答えは望んでいないのでしょうね」

「はい」

 

 互いの顔に、笑みが浮かぶ。実際のところ魔法省は、いわば司法や外交などを担う行政機関であり、魔法界の秩序と安全を守る役目を担っている。そのはずだ、とマクゴナガルは笑う。そうですよね、とアルテシアも微笑んだ。

 

「いずれにしろ、重要なのは人だということです。どんなに立派な組織でも、そこにいる人次第で壊れてしまうこともある。よくもなれば悪くもなるのです。覚えておきなさい」

 

 アルテシアが、席を立つ。これからアンブリッジのところへ行くのだが、そのときどんな話をするつもりでいるのかは、マクゴナガルに伝えてある。だが、その結果など、わかりはしない。実際に話をしてみるしかないのだ。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアがアンブリッジの部屋へと向かっている頃、ウィーズリー家の兄弟とハリーは、騎士団のメンバーであるトンクスとマッド・アイとに付き添われ、聖マンゴ魔法疾患障害病院を訪れていた。もちろん、大けがをしたアーサー・ウィーズリー氏を見舞うためである。

 病院は、ロンドン中心部にある赤レンガのみすぼらしい廃虚のようなデパートのなかにあった。『パージ・アンド・ダウズ商会』との文字が掲げられ、玄関ドアには「改装のため閉店中」との看板がかかっている。すぐ横のショーウィンドーには流行遅れの服を着た奇妙なマネキンが飾られているだけ。

 もちろんそれらは、マグルが間違って入り込まないための偽装。魔法使いや魔女は、マネキンに向かって用件を告げてマネキンの指示を受け、ショーウィンドーのガラスを突き抜けて中へと入るのだ。

 アーサー・ウィーズリー氏の病室は、2階のダイ・ルウェリン病棟。特に重篤な噛み傷などの「生物性傷害」の患者が入院している病棟だ。ハリーたちが病室に入ったとき、アーサーは「日刊予言者新聞」を読んでいた。

 

「やあ、みんな。心配かけて悪かったね。あとは包帯が取れさえすれば、家に帰れるんだが」

 

 トンクスとマッド・アイは、最初は家族だけのほうがいいからと、病室にはいない。いるのは妻のモリーとフレッド、ジョージ、ロン、ジニー、そしてハリーである。

 

「ヘビの牙には毒があったらしくてね。包帯を取ろうとすると、そのたびに出血しはじめるんだよ」

 

 病院では今、その毒に対する解毒法を探しているらしい。ともあれ1時間おきに血液補充薬を飲む必要はあるものの、容態は安定しているらしく心配はいらないとのこと。

 そうなると気になるのは、そのときに何があったのか、ということになる。最初にそのことを聞いたのはフレッドだ。

 

「まあハリーが見たとおりなんだが、気になるのは、あのヘビだよ。まさか、あそこでわたしを噛もうと待ち構えていたわけではないはずだからね」

「おじさんは、そこでなにをしていたんですか」

 

 そのハリーからの質問に、アーサーが苦笑いを浮かべる。

 

「隠すなよ、パパ。おれたちみんな、心配してるんだ。話してくれよ」

「そういうことじゃないんだ、ジョージ。つまりだ。仕事をしていて、ふと思い出したんだよ」

「なにを?」

 

 夜遅くまで仕事をしていて、ふと一息ついたとき。そのとき思い出したのだとアーサーは言った。

 

「もうクリスマス休暇じゃないか。なのにあのお嬢さんを、我が家にお誘いするのを忘れていた。気晴らしに自分の部屋を出て、そんなことを考えながらぶらぶら歩いていたんだよ」

「そしたら、ヘビに襲われたっていうのかよ」

「そうなんだが、ロン、どうだろう。今からでも、あのお嬢さんを我が家に誘えるだろうか」

「ムリですよ、アーサー。あなたはこんな状態だし、それに滞在先はグリモールド・プレイスですよ」

「ああ、そうだったな」

 

 たしかに、モリーの言うように現実には無理がありそうだ。ロンたちは休暇が終わるまでは学校に戻らないことになっているし、アーサーは入院中なのだ。

 

「それより、トンクスとマッド・アイが来てますよ。だからあなたたち、少し外で待っていなさい」

 

 そう言ってハリーたちを病室から追い出しにかかる。当然のように反発するかと思いきや、なんとフレッドが率先してみんなを促し、廊下へと出る。入れ替わりにマッド・アイとトンクスが病室へと入り、ドアが閉められた。

 フレッドが、ごそごそとポケットのなかを探っている。

 

「みんな、文句なんか言うなよ。このほうが、都合が良いんだ。さあ、これだ」

 

 取り出したのは、伸び耳。これで、ドア越しに中の会話を聞こうというのだ。伸び耳が、それぞれの手に渡される。

 

「親父が襲われてるんだ。オレたちだって、知ってもいいはずだ。だろ?」

 

 それぞれの持つ伸び耳が、するすると伸びていく。やがて病室内の会話が、すぐ横にいるかのように聞こえてきた。

 

「ヘビなんていなかったよ。あちこち探してみたけど、とっくに逃げちゃったみたい」

 

 これは、トンクスの声。続けてマッド・アイの声が聞こえた。

 

「アーサーがいたんで、ヘビのやつは偵察を中断したのだろう。しかし、ポッターめは全部見たというのだな?」

「ええ。おかげでアーサーの命が救われたのは事実ですわ」

「たしかに。だがモリー、ポッターは気づいておらぬだろうが、あやつは『例のあの人』から、それを見せられたのかもしれん」

「そんな、まさか」

「少なくとも今回、あの人は気づいたはずだ。なんらかのつながりによって、こんなことができるとな。ダンブルドアとも相談せねばならんが、あの坊主には注意が必要だな」

 

 まさか、そんなことが。驚いたのは、マッド・アイの話を直接聞いている者だけではない。伸び耳使用中の者たちも、同じだ。自然、目線がハリーに集まるが、すぐに病室内で続く会話のほうへと注意が向かう。

 

「クリミアーナのお嬢さんのほうは、どうなんだろう。なにもしなくていいのかな?」

「トンクス、それはどういう意味だね?」

「ダンブルドアから聞いてない? 一応、報告はしてあるんだけど」

「いや、なにも聞いてないが、どういうことだ?」

 

 トンクスが言うには、騎士団の任務での調査のおりに、その女性を見たのだという。

 

「女性だと。何者だ。なにをしていた?」

「あたしと同じことだよ」

「あのお嬢さんが、例のあの人のことを調べているというのかね? まさか、そんなことはないはずだ」

「どうしてさ。なぜ、そんなことが言えるの? あたしは実際に会ったんだけど」

「やめろ、その話はあとだ。ダンブルドアを交えて話した方がいいし、誰かが盗み聞きしているかもしれんぞ」

 

 マッド・アイの魔法の目が、伸び耳を見つけたのか。ともあれその瞬間、伸び耳は撤退を開始した。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアは、まだアンブリッジの部屋にいた。2人で向かい合わせに座っているが、お世辞にもいい雰囲気であるとは思えない。

 

「こんなことで約束を果たしたことにしようだなんて、笑わせないでほしいわね」

「ですけど、もうこれ以上わたしには」

「おーやおや、あくまでもそんなことを。いいでしょう、こちらにも考えがありますからね」

「考え?」

 

 そんな考えなど、聞く必要かあったのかどうか。だがアルテシアの性格上、それを無視してしまうのは難しい。

 

「逃がさないわよ。まさかわたくしが、あなたのことを何も知らない、なんて思ってるんじゃないでしょうね」

「どういうことですか」

「それを教えろと? 魔法省の情報ですよ。簡単に教えるわけにはいかないわね」

 

 つまりは、教える気がないということ。だが今のアルテシアにとって、それはどちらでもよかった。なぜならもう、アルテシアは心を決めている。もともとアルテシアは、魔法の勉強のために本を読めと、そう言ってくれたアンブリッジを、好意と親近感とで見ていた。だがそれも、いつのころからか消え失せていくことになった。

 きっかけは、あの図書館での出来事だと言えそうだ。そのときアンブリッジは、レイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインを処罰し、その一方でアンソニーを処罰しないからとアルテシアを呼びつけたりもしているのだ。

 今思えば、とそんなことをアルテシアは考える。この、だまし討ちのような約束反故を見逃すべきではなかったのだ。このことに気づいた時点で、行動に移すべきだったのだ。

 だが、クィディッチ・チームの再結成問題がそこに待ったをかける形となり、アンブリッジは、寮生に対し理不尽な罰則を課した。なるほど、手を出さないとした対象範囲は限られている。双子とスリザリンの4年生のみだと、アンブリッジは言うだろう。

 だがアルテシアは、そんなことを認めない。今回の処罰は、グリフィンドール寮全体に影響をあたえたのだ。あの重い空気に包まれた談話室がなによりの証拠であり、パーバティは、その重苦しい空気のなかにいたではないか。そのことを、決して許しはしない。納得など、しない。アルテシアは、そう思っている。

 

「もちろん、教えてくれなくて結構です。ではこれで」

「まあ、待ちなさい。お嬢さんが約束したのは、2つだけじゃないわ。あなたは、3つの指示に従うと約束したの。仮によ、仮に2つの約束を果たしたのだとしても、あと1つ残ってる。おわかりよね?」

「あっ」

「あきれた、本当に忘れていたようね。でもま、いいでしょう。思い出してくれたのならね」

 

 たしかにアルテシアは、そのことを忘れていたようだ。アンブリッジとのことに決着をつけてしまうつもりだっただけに、これは想定の範囲外ということになる。とはいえアルテシアは、いまさら後戻りするつもりはなかった。

 

「アンブリッジ先生。いずれにしろもう、わたしのことは忘れてくださいませんか。今後いっさい、先生とは関わりたくないんです」

「あらそうなの、つまりあなたは約束を守らないというのね。わたくしとの約束を」

「先生こそ、わたしを裏切ってくれましたよね。つまりは、おあいこです。もう、それでいいですから」

「なにを勝手なことを。それは、わたくしのセリフですわよ」

「いいえ。とにかく、これで終わりです」

「いいでしょう、あくまであなたがそう言うのなら。ただし、学校を辞めてもらうかもしれませんよ。その覚悟がおあり?」

 

 つまりは退学処分、ということだ。アンブリッジにそんな権限があるのかどうかは、アルテシアにはわからない。わからないが、あきらかにアルテシアの表情が変わった。その顔から、笑みなどの一切がなくなっている。

 

「あなた、たしか魔法省から派遣されたドローレス・ジェーン・アンブリッジ、でしたよね。いいですよ、そうしたければそうすればいい。魔法省がわたしなど不要だというなら、そうすればいい」

「まぁ、生意気な口を。冗談だと思っているのね。あるいは、誰かが助けてくれるとでも」

「誰の助けも必要ない。わたしは、わたし。思ったようにやるだけです。では、これで」

 

 今度こそアルテシアは、アンブリッジの前から立ち去った。アンブリッジの呼び止める声はしたが、聞こえなかったように部屋を出た。そのアルテシアの前に、白い影が現れる。それは、ゴーストの灰色のレディであった。

 

 

  ※

 

 

 灰色のレディに誘われるまま、アルテシアは西塔の一番上へと来ていた。レイブンクローの談話室にもほど近い場所である。灰色のレディは、ここに自分の部屋を持っている。

 

「いいの、あんなことで。本当に学校を辞めることになるわよ」

「聞いてたの? 全然気づかなかった」

「そりゃそうでしょう。その辺は、ゴーストの能力ってことで納得しなさいよ」

 

 アルテシアがホグワーツにいると気づいて以来、常に見ているのだと、灰色のレディは言う。だから今日も見ていた、そして黙っていられなくなったということらしい。

 

「わたしが学校を辞めると、ゴーストのあなたはホグワーツを出られないだろうから、これが最後ってことになるわね」

「そう思ったからこそ、こうして出てきたんだけど」

「でも、大丈夫。さすがにあの先生も、そこまではできないと思うから」

「でも退学だって言われたら… どうするつもり? 辞めるんでしょ」

 

 退学にするかしないかは、アンブリッジが判断することだ。だがあの人は、どうやって言うことを聞かせるか、そんなことを考えているはずだと、アルテシアは思っている。

 

「きっとあなたは、そうするはず。だって昔、そんなことをした人がいたんだから」

「昔のこと、なにか思い出したのね」

「さあね。でもこれじゃ、母はがっかりするでしょう」

「え?」

 

 母とは、灰色のレディの母親、つまりロウェナ・レイブンクローのことである。そのロウェナが、なんだというのか。

 

「だって、そうでしょう。せっかくホグワーツに戻ってきたのに、このまま何もせずに逃げ帰るなんて。それで、クリミアーナの魔女だなんて言えるの。母だけじゃないわ。わたしだって同じよ」

「言ってくれるわね。でもそういうことは、わたしの話を聞いてからにしてよ。ここには大切な人がいるのに、逃げ帰ったりすると思う?」

「いいわよ、その話とやらを聞くわ」

「わたしには、やりたいことがある。なのにいま、帰れると思う? ええ、チャンスならまたあるかもしれない。でも今を生かせないなら、次も同じ。いずれは、あきらめてしまうのかも。でもね、ロウェナ。わたしはずーっと考えてるの、自分にできることは何か、いま何をすればいいのか、わたしはずーっと考えてるのよ」

 

 苦笑、と表現すべきだろう。灰色のレディが、笑っている。おそらくは、ロウェナという名で呼びかけられたからか、それとも他に意味があるのか。

 

「だけど、考えてるだけじゃ意味なんてないわよ。その答えは? いつごろ、答えは出るの?」

「大丈夫、答えはもう出てる。もう決めた。でもムチャはしないよ。とりあえず今できること、そこからだね」

「ふうん。でもそれ、教えてはもらえないのね?」

「そんな必要ある? ロウェナなら知ってるはずでしょ」

 

 またもや、灰色のレディが苦笑を浮かべた。

 

「なるほどね。でも残念、わたしはロウェナじゃないの。ロウェナは母の名前だから」

 

 今度は、アルテシアが苦笑いを浮かべる番となった。最初は戸惑ったような顔もしてみせたのだが、それもわずかの間だけ。

 

「ヘレナ、クリミアーナの魔女はね、守ると決めたものは、絶対に守るのよ。守ってみせるわ、どんなことをしても」

「まあね。昔の、わたしの知ってるあなたなら… ふふっ、いいわよ。それを見せてもらいましょう」

 

 すーっと、灰色のレディの姿が薄くなっていく。もともと半透明の体だが、それが透明へと近づき、消えた。

 

 

  ※

 

 

 クリスマス休暇を、アルテシアはマルフォイ家で過ごすことに決めた。なにしろ、ウィーズリー家は大変な状況にある。他人がのこのこ顔を出せる状況ではないだろう。

 そのことをドラコに告げ、3日後にダイアゴン横丁で待ち合わせることを約束する。学校から直接マルフォイ家に行くことは避け、いったん家に帰ることにしたのだ。もちろん、ゆっくりと森を散歩したいからである。

 

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