私の召喚サークルがバグってる件について。 作:シーボーギウム
「何でやァァァァァ!?」
どうも、現在絶賛獣人共と追いかけっこ中の黒谷悠です。
助けて(切実)
何故か私だけ森の中にレイシフトし、しかもねーちんもいないハード仕様。
助けて(二度目)
「クッソ!!」
目の前に狼の獣人が現れる。乱雑に振り下ろされる斧を半身で避け鳩尾に拳を放つと、獣人は情けない悲鳴を上げて斧を手放した。私は斧を地面に落ちる前に掴み取り、その勢いを利用して回転を加えつつ獣人の喉元へ斧を叩き込んだ。首の皮一枚で繋がって頭がストラップの様になったのを流し目に私は血濡れの斧を片手に再び走る。
今回の場合、森という走り難い土壌な上、相手がこの森に慣れ親しんだ獣人であるというのがこの状況を非常に厳しいものにしている。総数はスケルトンの比べるまでもないとはいえ、多少なりとも知能があるが故に回り込んだりしてくるのが凄まじく鬱陶しい。
生物だからスケルトンよりは殺しやすいのが救いか。
走り行く先の茂みが音を立てる。下手人が顔を出す前に手元の斧を投擲すると、丁度ジャガーの獣人の脳天に斧が突き刺さった。そいつの持っていた槍をすれ違いざまに奪い、後ろにいた獣人が雄叫びを上げるのを見計らって喉元へ槍をぶち込んだ。
(メーデー!メーデー!こちら黒谷悠!至急救援を求む!!)
(マスター!?ご無事で(令呪を以て命ずる!こっち来い!!)え、ちょ!)
雑に令呪で命令を飛ばす。私の令呪も藤丸と同じくカルデア式、毎夜毎夜一画ずつ復活する仕様だ。そしてそれ故に本来の冬木式の令呪に比べて効力が薄い。冬木式なら今頃ねーちんは私の目の前に転移していただろう。とはいえ腐っても令呪だ。ねーちんは聖人のスペック全力でこちらに向かってきているはずだ。
ひとまず、ねーちんがここに現れるまで耐えるとしよう。
◇
「ん…………」
唐突の光に、思わず手をかざす。足元からカルデアの床とは違った、土の柔らかさが伝わってくる。どうやらレイシフトは成功したようだ。
私達の今回の構成は、私、悠、所長の三人と、マシュを含めたサーヴァント六人だ。これまた電力的な問題で六人しかサーヴァントを連れて行けないらしい。
サーヴァントは私の方がマシュとエミヤと李書文先生、所長がクーフーリンとタマモキャット、悠が神裂さんだ。
「あれ?悠h『しまった!!』うぇ!?ダ、ダ・ヴィンチちゃん……?」
およそ彼女が出すとは思えない大声に困惑する。所長やマシュも何事かと通信に耳を傾けている。
『私としたことが、ぬかってしまった!』
『ちょ、レオナルド!一体どうしたんだ!?』
『黒谷君だ!彼女の起源のせいで彼女自身と神裂君のレイシフト地点が
思わず絶句する。何が起きているのかも分からず、しかも戦争真っ只中のフランスで一人きりという状況はあまりにも絶望的過ぎる。
「早く助けに行かないと!!」
「ロマニ!悠の位置を教えなさい!至急向かいます!!」
『ダメだ!位置を特定出来ない!』
「な!?それはつまり…………!!」
私の周りでどんどん話が進んでいく。ただただ状況が悪いことしかわからないのがひどく歯がゆい。
『マシュの予想通りだ…………存在証明が、出来ていない…………!』
「何……それ…………出来てないとどうなるの!?」
所長が苦しげな表情をする。ここにいる全員の表情がよろしくない。
そして所長は、決定的で、
「早くしないと…………悠は消滅してしまうわ……………!」
最悪の事実を口にした。
◇
(ご無事ですかマスター!?)
(大分キツイ!!12体位殺したけど未だに湧いて出てくるからキリがない!!)
マスターの言葉に焦燥が募る。相当遠い場所にいた為、ただ走って向かうだけでも結構な時間がかかるというのに途中でワイバーンの群れに襲われるなど更に時間がかかっていた。
(オラァ!三匹纏めて死にさらせぇ!!)
(あの、マスター、女性としてそういうことを言うのはどうかと………)
(んなこと言っとる場合か!泥と返り血で臭いがフライアウェイしてんだよ!乙女として終わりだっつーの!オラァ!)
(えぇ……)
実は余裕なんじゃないかという疑問が湧いてくるほど逞しいマスターの声を聞きながら、ともかく足を動かす。これまた何度かワイバーンに妨害されながらも、ようやくマスターがいると思われる森が視界に入った。
(マスター!森が見えました!!もう少しでっ!?)
(ねーちん!?どうした!?)
突如巨大な何かが高速で飛来する。横っ跳びしてそれを避けると、
四本の角に六本の脚、トゲの多い亀の甲羅のようなものと蠍の如き尾をを持った
見た目からして…………
「聖女マルタが倒したという悪竜、リヴァイアサンの仔、タラスクですか…………」
ワイバーン然り、目の前のタラスク然り、竜種がこの時代にいるとは思えない。恐らくこれらの竜種がこの特異点が特異点たる理由なのだろう。
これに妨害されては、無視してマスターを助けに行ったとしても状況が悪くなるだけだ。先に倒してしまおうと七天七刀に手を掛ける。すると、
「へぇ、見たところあの人の力の一端を振るっているのね」
「貴女は…………」
露出度高めの修道服と篭手を身に付けた、同性である自身から見ても美しい女性だ。その手には十字架型の杖が握られている。
タラスクに十字架、もはや疑うべくも無い。彼女は、
「聖女、マルタ…………!」
「正解。タラスクのことも一目で分かったみたいだし、てことはアンタは聖職者か。さっきまでの様子からしてこの森にマスターがいるのかしら?」
「何故、敵対するのでしょうか…………?貴女は聖女で私は信徒。敵対する理由が見つかりませんが」
「別に、理由なんて無いわよ。今の私が多少
狂ってる。そう言う割には随分と理性的に見える。力の歪み方からして、何かしらの影響を受け、それを無理矢理精神力で押さえつけているといったところか。流石は祈りのみであの竜を撃退した聖女だ。
「ま、
彼女が杖を振るのと同時に、私を中心に光が集まってくる。反射的にそれを避けるように跳ぶと、元々私の立っていた場所で閃光が爆発するように散った。
「
再び彼女が十字架を振るう。瞬間無数の光弾が現れ、こちらにかなりの速度で迫る。それと同時に、彼女も杖を構えて突っ込んできた。私は鞘に収めた七天七刀で光弾を弾きつつ
「くっ……!」
「タラスク!!」
かの悪竜が上から落ちてくる。それを後ろに飛んで回避しつつ、悪竜へ七閃を放った。予想通りではあったが、いくら何でもワイヤーによる斬撃は効かないようだ。悪竜が大口を開けて突進してくる。私は右足で思い切り顎を蹴り上げ、それで僅かに浮いたことによって見えた腹部に全力の拳を叩き込んだ。
「ガアァァァ!!?」
悪竜が悲鳴を上げる。そこでようやく気が付いた。彼女の十字架に、かなりの量の
「はぁっ!!」
「がっ!?」
彼女が十字架で地面を叩くと、初めとは比べものにならない威力の閃光が私の目の前で弾けた。吹き飛びつつ空中で体勢を立て直す。着地と同時にワイヤーで立体の魔術陣を作り出し、そこから生み出される氷によって悪竜のブレスを防いだ。
「へぇ、やるじゃない」
返事を返すことなく突貫する。立ちはだかる悪竜を鞘に収めたままの七天七刀で殴って退かし、
「ぐっ……!ちぃ!タラスク!!」
吹き飛ぶ彼女を追おうとするも、悪竜が間に入り妨害される。今度は悪竜に連撃を放つが、どういう訳か先程までとは違い、ひっくり返ることなく少し後退るのみにとどまった。
(信頼関係、といったところでしょうか…………)
例え彼女が狂っていても、その信頼関係が綻ぶことはないのだろう。彼女を守ろう、彼女の信頼に応えようという意思が、先程まででは吹き飛ばされていたであろう攻撃を、あの悪竜、いや竜に耐えさせたのだろう。戦いにおいて、それはある意味最も厄介なものだ。今更ながら、分の悪い戦いだと再確認する。
「ふざけてんの?アンタ」
「っ!」
「さっきの攻撃、抜刀してれば私は今頃死んでた。なのにアンタは鞘に収めたまま攻撃してきた。どういうことかしら」
やはり、見抜かれている。
私は本心を伝えるべきか少しだけ悩み、結果正直に口にすることにした。
「…………貴女は、狂っている」
「ええ、そうね」
「ですがその"狂う"というのは、バーサーカーのサーヴァントが持つクラススキル、『狂化』と似たものなのではありませんか?」
「…………」
「相対して、確信しました。貴女はこんな状況で、黒幕に付く様な人ではない。であるならば、どうにかその『狂化』を取り除けれ「ふざけんな!!」っ!?」
唐突の怒声に、思わず身体が強ばる。視線を前に向けると、烈火の如き形相の彼女がそこにいた。
「アンタは!この森にいるあの娘のサーヴァントなんでしょう!?あの娘がどういう状況か知ってるはずだろうが!なのに敵である私を救おうとしてる?ナマ言ってんじゃないわよ!!」
「それ……は………」
「戦いも知らないはずの女の子が戦ってんのにアンタはなに!?サーヴァントが!マスター一人すら救えてない状態で敵に加減してる場合じゃないだろうが!!」
否定も、反論も出来ない。そうだ、私が今最優先すべきはマスターの救出。でも、どうしても彼女を、聖女マルタを救うことを諦めきれない。自身より遥かに上の、聖女である彼女を救うなどと言うのが、傲慢なことは理解している。それが、どれだけ甘い考えであるかも。
「そんな甘っちょろい考えのままなら、私は今すぐアンタを殺す!そうすればあの娘も死ぬ!それは、アンタが招いた当たり前の結末よ!!」
彼女の十字架に
(宝具…………!)
どうする。このままでは、彼女どころかマスターまでも救えない。
どうする、どうする、どう―――
(ねーちん)
「マス………ター……………?」
(好きにやっていいよ)
まるで、頭をハンマーでガツンと殴られたかのようだった。私と彼女は、まだ出会って一週間も経っていない。だと言うのに彼女は、自身が厳しい状況にありながら、戦いなど知らないはずの、ただの少女でありながら、
私は、こんなにも信頼してくれている彼女を、裏切ろうとしていたのか。
それは、ダメだ。
「…………っ!そう、ようやく本気を出すのね」
七天七刀を腰だめに構える。
もう、迷いは無い。
そうだ、言ったではないか、「貴女を必ず救う」と。
ならば、マスターを、あの少女を救わなければならない。
「
その名を、告げたのだから。
チンッと、留め金が音を鳴らす。
私の目の前には、息絶えた竜と、斜めに大きな切り傷を負った聖女マルタがいた。
「はぁ、何よ。やれば出来るじゃない」
「…………ありがとう、ございます」
「何が…………とは言わないでおくわ…………」
今思えば、彼女は私を試していたのだろう。抗い難い狂った衝動を、私の覚悟を、この戦いに挑む覚悟を試す為私に向けた。初めの竜の突撃も、ブレスであれば死なないまでも大きなダメージを負ったはずだ。
「―――――」
「それは…………?」
「アンタ達に協力するであろうサーヴァントの居場所」
「…………何から何まで、ありがとうございました」
一礼し、森へ駆ける。
「ごめんね、あと、ありがとねタラスク」
そんなか細い声が、私の耳に届いた。
◇
「マスター!?ご無事ですか!?」
「ねー…………ちん………………?」
そこにある光景は信じ難いものだった。
マスターは、槍を杖代わりにギリギリのところで立っていた。そしてその周りには、頭を貫かれ、あるいは首を切断され、あるいは、真っ白な螺子に身体中を貫かれ
「これは………どういう…………っ!マスター!」
体力の限界か、マスターは私の目の前で気を失った。額に手を当てるが、熱などはないようだ。そして、マスターの気絶と同時に螺子が塵のようになって空間に溶けるかのように消え去った。獣人達の肉体には、螺子と
確か、マスター自身があの螺子に物理的な攻撃性は無いと言っていた。だと言うのに、この状況はどういうことなのだろう。
「…………いえ、今はマスターを休ませられる場所を探すのが先決ですね」
マスターに負担にならないよう抱え上げ、走り出す。
「本当に、不思議な方ですね…………」
あまりにも歳不相応な強さを持つ少女は、しかしあまりにも普通に、穏やかな寝息を立てていた。
ねーちんってこんな感じだよね?
意見聞かせてください。
私的には、今回みたいに割と甘い考えの持ち主だと思ってます。