ナルトンピース   作:マルコトロピカル

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1話

 SIDE 火の国、木の葉隠れの里。

 

 雲忍が朽木白夜に敗北を期してから約一か月。第三次忍界大戦が終結した。

 他里から集中的に狙われる事となった木の葉の里は、幾人かの他を圧倒する実力を持つ忍達の立役で、敵軍に大打撃を与えることに成功させた。

過去の大戦で名を馳せた伝説の三忍、そして木の葉の三大将は勿論のことだが、今回大きく名を轟かせることになったのは別の忍だった。

 

『木の葉の黄色い閃光』

『木の葉の千本桜』

 

 この若い忍者が更にマークされることとなる。

 しかし、そんな実力者を有する木の葉でさえも、犠牲は少なくなかった。

 

「皆の者、ご苦労だった」

 

 ここは木の葉の会議室。

 『三代目火影』猿飛ヒルゼンは木の葉の重役たちを招いて、戦後の報酬についての報告を始めていた。

 

「まずは……この大戦終結へと直接的に繋がった、不可能と思われた風の国との同盟を見事成し遂げてくれた奈良シカク。時空間忍術で物資の供給から味方のサポート、そして殲滅まであらゆる戦場を駆け巡り、敵に打撃を与えた波風ミナト。水の国からの横やりをたった一人で食い止め、木の葉に大きな戦果を生み出してくれたうちはクザン。この三人を称えたい」

 

 名を呼ばれた三人は席から立ち上がり、感謝の意を込めて礼をした。大きめの会議室から、彼らへの称賛の拍手が寂しく響いた。

 

「次に、命を張ってくれた、一族たちを讃えていきたい。日向一族……、」

 

 ヒルゼンは控えめな拍手が鳴りやみ次第、話を進める。

 木の葉の里の創世期に力を貸した名のある一族から名前が呼ばれていく。

 日向、朽木、うちは、猿飛、奈良、秋道、山中、犬塚、油目、月光……、などと有力な一族から名が挙がっていった。

 

「以上で、戦功報酬の内訳の終了じゃ。そして最後に、ワシはこの大戦の責任を取って辞任をしようと思うとる。その後釜に、ワシはミナトを推薦したい」

 

 会議の最後にこぼした爆弾発言で、有力な一族達はあわただしく動くこととなった。

 

 

 

 SIDE 雷の国、雲隠れの里

 

「ドダイよ、もう謝るな」

 

「しかし……、」

 

 ケガにより松葉杖をついたドダイが、『新雷影』の言葉にかしこまる。

 

「あれは、親父が目測を誤ったからだ。オレ等は甘く見ていたのだ、木の葉を」

 

 そうたしなめる男は、この大戦のあと新しく就任した四代目雷影、エーだった。

 

「親父は霧の忍一万の兵と戦闘して死んだ。その前にオレに、いやワシに影の名を譲った。ワシは雲の意思を継ぎ、どこにも負けない里を作る」

 

「雷影様……」

 

 前回の朽木白夜との戦いで、自殺でもしそうなほど落ち込んでいたドダイだったが、雲隠れの里にとって今ドダイを失うにはあまりにも痛すぎる。それ故に、新雷影が激励にきていた。

 

「エネルも傷は深いが、回復すれば復帰も可能だろう。それに大戦中の任務でお前たちが手に入れたあの大筒木の秘宝『悪魔の実』があれば戦力が大幅に上がる!」

 

 新しく就任した四代目雷影エーが言う任務とは、ドダイ達が白夜に敗北する直前に成功させていたものだ。その任務では、霧隠れの里が入手したとされる悪魔の実を調査し、奪い取るという任務だった。

 だが代償は大きかった。ドダイ達は無傷で成功させたのだが、霧は報復として一万の大軍を差し向けてきた。その対処ために前雷影が命を張ったのだ。

 

「ワシに策がある。世界中から忍術の情報を集めるのだ。そのためにドダイ、お前にもまだまだ働いてもらうぞ」

 

 

 

 SIDE 風の国、砂隠れの里。

 

「馬鹿を言うでない! サソリが風影様を暗殺するなど……ッ!!」

 

 普段であれば静かに事がすぎる会議室だが、熟年の女性が机を勢いよく叩き立ち上がる。

 それもそのはず、自身の孫が嫌疑にかけられては冷静ではいられまい。報告した若い忍はその勢いにびくりと身震いした。

 

「し、しかし、その、現にサソリ殿の所在が分からず、調査により風影様が使ったとされる砂鉄の戦闘痕が残されております。そこにこんなものが……」

 

 若い忍が恐る恐る懐から出したのは、加工された後に大破した木材だ。そしてそれを、ことりと優しく机の上に置いた。

 

「こ、これは、傀儡の残骸っ!! それも扱いが難しいとされる宝樹アダムの断片!! これを加工する技術を持つものはワシと、あ奴しか……」

 

 木材をみて激しくうろたえる熟年の女性チヨは、この里きっての傀儡師である。その破壊された木材を見るだけで、それがどのような材料、どんな技術なのか、瞬時に判断できてしまった。

 

「当時の状況をみるに、風影様は傀儡師と戦闘を行ったのは明らかです。そ、その調査班としては、チヨ様が反逆を起こすのは考えられず……残った、あの、サソリ殿がやったとしか……」

 

「そんな……」

 

 よろよろと、力なく座り込むチヨ。その顔は見るに堪えない程青ざめていた。

 

「フッフッフッフッフッ、あの小僧とうとうやりやがったなぁ」

 

 今までの空気をぶち壊すような、軽快な笑い声が響き渡る。

 声の主は特徴的な鋭い形をしたサングラスをかけ、ピンクの羽がついたコートを羽織るように着る金髪の青年だ。

 彼はだらしなく机に脚を乗せていたが、体を前に乗り出させるために脚を正した。そして、左手で独特な片手印を作り、指さすようにチヨに向けた。

 

「サソリの小僧は確実だとして、その血縁者である者も念入りに調査する必要があるんじゃねえか? チヨさんよぉ。フフフフ……」

 

「まぁまて、ドフラミンゴ。チヨにはアリバイがある。それに今は身内で争っている場合ではない。新たな風影を決めるニョがさきだ」

 

 金髪の男、ドンキホーテ・ドフラミンゴをたしなめたのは、チヨと同期の女性グロリオーサ。通称ニョン婆。彼女は仲の良いチヨを守るためだろう、話題をすり替えた。

 

「フフフ、まあいい。しかし、サソリ如きに遅れをとるとは、風影のじじいも老いたもんだ」

 

「おい、不謹慎だぞ」

 

 仲間割れの話題は変わったが、ドフラミンゴによる自里の長を馬鹿にしたような一言は、また別の衝突を生むことになる。

 彼の左隣に座って、腕組みをしていた青年が鋭くとがめた。

 

「んん? 羅砂、おまえは風影のじじいに親身にされていたなぁ。フフフ、慕っていた風影を馬鹿にされてイラついたか? だが事実奴は小僧に消されている。影の名を背負うなら、里一番の実力がなければなぁ」

 

「貴っ様ぁ!」

 

 羅砂とよばれる青年が立ち上がり、ドフラミンゴの襟をつかむ。そして、サングラスで目元は見えないが、にやけて楽しそうな表情のドフラミンゴに詰め寄る。

 羅砂は幼少のころからドフラミンゴとは犬猿の仲である。いつも何かと衝突を繰り返す二人だが、今回は第三者による横やりで止まることになった。

 

「すこし黙れ。消すぞ」

 

 別の席に座る男が、猛烈な殺気と共に言い放った。

 静かになった後、男は懐から取り出した葉巻に火を付け、ゆっくりと煙を吐き出した。

 浅黒い肌で髪はオールバックにしている。その顔は目と鼻の間に走る傷跡も相まって恐ろしい。そして何より特徴的なのは、左手が黄金で出来たフックの義手であろう。

 彼の名は、クロコダイル。20代中盤の青年でありながら、すでに砂隠れの英雄。その実績は砂隠れだけでなく他里にまで鳴り響いている。そんな男に言われれば、さすがの二人もとまるしかなかった。

 

「しかし、クロコさん!」

 

「おいおい、折角楽しくなってきたのに止めるなよ。先輩よぉ」

 

 まだ煮え切らない二人から抗議の声が飛ぶが、それをギロリと睨めつけることで黙らせた。

 

「ドフラミンゴの云うことは一理ある……。風影は里一の実力者がなるべきだ」

 

「フッフッフッ、あんたと意見が合うとは珍しいこともあるもんだ」

 

 クロコダイルからの養護で、彼は愉快そうに笑う。逆に羅砂は悔しそうに、拳を握り絞めた。しかし、

 

「そうだな……だが、それはお前じゃないだろう? 小物が」

 

 クロコダイルはたっぷりと皮肉を込めて、ドフラミンゴを罵倒した。

 それに対しドフラミンゴは、額に血管を浮かび上がらせ、激怒した。

 

「テメェ!!」

 

「止めんか!!」

 

 今度は、精神に落ち着きを取り戻したチヨが制止の声を張り上げる。

 

「グロリオーサの言う通り、風影の就任は急務。実力と名声の両方を持つ忍はワニ小僧、クロコダイルしかおらん。他に推薦する者はおらんか?」

 

 この会議に出ている砂の忍たちは思考する。

 次期風影候補はクロコダイル以外にもまだ何人かいる。

 一人目は、羅砂。

 三代目風影の弟子であり実力も人柄も申し分ない。クロコダイルがいなければ彼が風影になっていただろう。

 二人目は、ドフラミンゴ。

 天夜叉の異名を持つ。高い実力を誇る彼だが、素行に問題があり、里内から人気があるとは言えない。

 三人目は、チヨ。

 クロコダイルに負けるとも劣らない名声と実力を誇るが、年齢を考えると憚られる。

 それらを考え、クロコダイルを超えるものがいないことに至ると、チヨからの問いかけには頷いてで答えた。

 すなわちそれは、

 

「クロコダイル以外はありえんな」

 

「違いない」

 

 誰かぽつりとこぼした言葉に同意するように、だまって見ていた上層部の男エビゾウがつぶやく。

 そうして新しい風影が誕生した。

 

 

 

 SIDE 水の国、霧隠れの里。

 

「申し開きがあるなら聞こう、河豚鬼」

 

 二十人は座れるほどの大きさを誇るとある会議室でなんの感情も感じさせないような冷たい声が響いた。その問いかけは、身長二メートルを裕に超える巨体の持ち主である西瓜山河豚鬼に冷や汗を流し顔を青ざめさせるほどの恐ろしさがあった。

 

「君には忍刀七人衆のリーダーとして、任務を与えていたはずが……、」

 

 巨体を誇る河豚鬼を震えあがらせているのは、怪物のような容姿をしているわけではなく、子供だった。彼は左目の下に縫い後が特徴的でその傷後を除けば、ただの子供に見える。が、実年齢はとっくに成人している。

 

「七人衆を半分以上死なせその挙句……忍刀を回収もせず逃げかえってくるとは。一体何をしていたんだい?」

 

「水影様! そ、それは、敵の木の葉の忍があまりに強く、逃げるだけで、とても回収などとは……」

 

 この見た目が幼い男やぐらは、四代目水影である。第三次忍界大戦中に先代の水影が命を落としたことで急遽就任したのだ。

 水影就任の経緯は非常時ゆえに即興で選ばれてこそいるが、霧隠れの里は歴代でも里内で一番強いものが水影になる決まりがあるため実力は本物だった。

 

「なるほど……木の葉の忍が強すぎた、と。しかしなぜだろう? 木の葉からとらえた捕虜を拷問し、聞き出した結果。君たちが戦った男は万年下忍の落ちこぼれと言っていたが?」

 

 やぐらがそう言い終えたときだった。

 

「あ、ありえん! あれが下忍だと、あんなものが下忍のはずがない!!」

 

 河豚鬼は更に体を震わせ取り乱し始めた。二メートルを超える男がみっともなくわめき叫ぶ様は、見るにたえないものではあるが、その対峙した下忍の凄まじさを物語っていた。

 

「河豚鬼、君の言いたいことはわかった。本来であれば君たちを処刑して新しい忍刀候補を探す所だけど……今は人手不足でね。それに、生き残った他の七忍衆である十蔵達の証言と一致するし、今回は運が悪かったとして特別に許そう」

 

 河豚鬼を下がらせ、会議室に静けさが戻る。

 陰鬱な静寂の中でぽつりと重役の忍の一人が呟く。

 

「しかし、また木の葉ですか……」

 

 彼の名前は青。歳は26歳にしてすでに霧隠れの重役のポジションにいる。前水影の時から信頼も厚く、新しい水影であるやぐらも彼を側近として起用していた。

 

「ああ、さすがは忍の神と謳われた千手柱間とうちはマダラが作った里だ。優秀な忍が本当に多い。先の大戦で苦渋をなめさせられた三大将のうちはクザンもしかりね」

 

 やぐらは無表情でそう話すが、その言葉の節々にはわずかに悔しさをにじませていた。

 

「その、うちはクザンについてなのですが……」

 

 別の忍が木の葉の三大将うちはクザンの話題がでたことで話を付け加えた。

 

「クザンと戦い生き延びた忍達が、奴の化け物じみた強さにトラウマを感じているようです。多くの忍が生きたまま凍らされ、その体を砕かれました。生き残った者も体の一部を失ったものも多い。そんな経緯もあってか、里内で氷遁を使う者への迫害する事案もあがっています」

 

 大戦中、島にある霧隠れの里は敵地に攻め込むためには海を超える必要があった。

 故に、移動には船が用いられるのだが、木の葉の誇る三大将の一人、クザンにより海面を凍結させられ船での移動を制限されるだけでなく、何人もの忍が葬られた。

 

 「クザンはうちは一族でありながら、火遁を使えず代わりに氷遁を使うと聞きます。水影様、氷遁は元は霧の雪一族の血継限界です。それが他里で発現したとなれば、よりいっそ厳しく管理する必要があります」

 

 クザンの話題が出た瞬間、それを期に便乗させるように集まっていた多くの忍達が血継限界の話題を展開していく。「血継限界はやはり、排除すべきです」「先代様は正しかった」などと次から次へと膨らんでいく。

 

「そこまでだ!!」

 

 青が大きな一言で場が静まった。

 

「その件は、やぐら様が血継限界も公平に扱うと決めたことだぞ。これ以上は反逆の意思があるとみなす」

 

 霧隠れの里は他里から血霧の里と呼べるほど残酷な処置をとる。この里で反逆行為、もしくはその意思さえあれば、情状酌量の余地なく即死刑は当たり前である。

 

「それはわかっております。しかし、現に敵国からかくまっていたかぐや一族が、突如我らを裏切りました。かぐや一族も血継限界をもつ一族だというではないですか?」

 

 しかし、処罰されるリスクを取ってでも主張する忍がいる。彼らは先代の三代目水影の崇拝者で、三代目は大の血継限界嫌いで有名だった。そのため霧隠れの里では血継限界への根強い差別が残っていた。

 先代水影を推す彼らの大きな声に、目をつむりながら耳を傾けていたやぐらが、ゆっくりとした口調で問いに答えた。

 

「確かに、君たちの云う通り僕らの里では血継限界をもつ一族との折り合いが悪いのも事実だ。だが、今彼らを消す時じゃないのは明らかだ」

 

 やぐらは更に続ける。

 

「さっき河豚鬼にも云ったことだけど、人手不足が深刻なんだよ。忍刀七人衆の半壊しかり、うちはクザンによる虐殺然り。そしてなにより、悪魔の実を奪われるだけでなく、雲隠れの雷影に、一万人の忍を投入したのにも関わらず、三日三晩粘られ、弱った所を奇襲して、ようやく最後は先代と相打ちだ。そう考えると先代の采配はあまりにも無茶をしすぎた」

 

 やぐらは先代へのあきれと、若干侮蔑のはいった言葉を漏らす。まるで、ほんとやってくれたね、なんて心の声が聞こえてきそうだ。

 

「とりあえず、今は蓄える時期だ。大丈夫、ぼくには考えがある。そのためにも血継限界持ちの一族にも働いてもらわないとね。消すのは彼らの働きぶりを見てからでもいいんじゃない?」

 

 やぐらはそういって会議を締めくくった。

 

 

 

「しかし、水影様。策があると云いましたが一体どのように立てなおす予定なのですか? 忍刀七人衆の穴は大きすぎるほどです」

 

 会議が終わり、現在は青と水影のやぐらしかこの場にはいない。青は正直に一番気になっていたことを問いかけた。

 

「忍刀のいくつかは紛失してしまったが問題ないよ。新しく別の刀を作ればいい。そのためにわざわざ、異大陸から科学者を招き入れたのだからね」

 

「あの、シーザーと呼ばれる男ですか。私にはあの男信用できません」

 

「青、人柄は関係ないよ。彼のおかげで、不明だった七本の忍刀のルーツを知ることが出来たのだから。悪魔の実を物体に食べさせる技術なんて、誰も思いつかないし彼にしかできない」

 

 この世界には、はるか昔、六道仙人が生きていた時代から宝具とも称される忍具が存在する。うちはマダラが所持していた芭蕉扇や、雲の金閣、銀閣らが盗み出した琥珀の浄瓶などがあげられる。そして霧隠れの里の七つの忍刀も同じく宝具とされてきた。その数々の伝説の忍具はベガパンクという人物によって生み出されたという伝承が残っている。

 雇われの科学者シーザーは長らく謎とされていた宝具の作り方『物に悪魔の実を食べさせる』という事実を解明し、実験をも成功させている。その革新的な技術は間違いなく力になるとやぐらは確信していた。

 故に、

 

「情報が必要になるね」

 

「情報……ですか?」

 

 やぐらの言葉に青はわずかに首を傾けた。

 情報を制したものが戦に勝つとまで言われているほど大事なモノだが、それはわかりきっていることだ。だからどの里も潜入やスパイへの警戒や育成に躍起になっている。要するにいまさら感が否めないのだ。

 

「この里には悪魔の実が必要となる。しかし、現状悪魔の実についてわかっていることはすくない。世界にどれほど悪魔の実を食したものがいるのか、どれほどの種類があるのか、どこに生えているのかなど全く分からない。それらすべての情報を把握するには世界の至る所に諜報員を派遣するしかない」

 

「確かにそれが出来れば他里より悪魔の実によるアドバンテージを得ることができます。ですが、我が里の現状では……」

 

「まぁ無理だろうね……、」

 

 やぐらの展望を青は、云いずらそうに進言しようとするが、やぐらが反対意見を遮ることで最後まで言い切ることが出来なかった。

 

「……だから一から作るのさ。あらゆるところに派遣して長期的な潜入を行い信頼を勝ち取らせ、そのあと内部から崩しそして……潜入先の悪魔の実の情報を霧隠れの里に持ち帰らせる。そんな諜報機関をね」

 

 やぐらの考える諜報機関は実現すれば戦争に限らず、外交や貿易にも多大なメリットがある。しかし、ことが大きすぎて現実感がない。

 

「それでは裏切られた時のリスクが大きすぎます。ましては忍と云えど人間、必ず心があります。なにより心を完全に殺すことは不可能です……」

 

「青……」

 

やぐらは青の言葉を遮った。ほんの少し間を置いて続けた。

 

「君はここをどこだと思ってる?」

 

 やぐらの問いに青はぞくりと鳥肌がたった。どこか楽しそうに放つ一言に全ての思いが詰められていたから。子供が無邪気に虫を殺して楽しんでいるような雰囲気に、不気味さと不安が押し寄せた。そしてその感覚が正しかったと気がつくのはだいぶ先。青はこの場でやぐらを止めなかった事を後悔することになる。

 

「心を壊し、支配するのは血霧の得意分野だ。この里を立て直し、頂点を取るにはこれしかないよ。名前はそうだな……諜報機関サイファーポールってのはどうだい?」

 

 血霧の里はこれより更に加速していくことになった。

 

 

 

 SIDE 土の国、岩隠れの里。

 

「シキの奴、うまくやってくれたようじゃぜ」

 

部屋の中心に大きな文字で『岩』と書かれた柱が特徴の部屋、土影室にてポツリと、悪そうな笑みで呟く老人が一人。

 

「どういうことだ親父!!」

 

 それに対して激怒するのは大柄な男。

 老人の身長がもはや子供といっていいほど低い事もあるのだが、それを抜きにしてもこの男が巨体である事には変わりない。

 この部屋には現在この二人しかいないようだが、『親父』と叫んでいた事もあってこの二人は親子なのだろう。

 

「全て、計画通りじゃ。何をあせっておる、黄土よ」

 

「なぜだとッ!? シキのおじきが里を裏切ったんだぞ! そのせいで親父にも不満の目があふれてる。それに木の葉に対して大した戦果も挙げていない! このままじゃ、親父……土影の責任問題に!!」

 

 そう。この小さな老人は『三代目土影・オオノキ』。その小柄さと、年老いた年齢からは想像もできない程の力を持っていて、これまで数多くの敵を葬ってきた老兵である。

 オオノキを怒鳴りつけているのは、彼の実の息子黄土だ。まだ若いが、流石は土影の息子。才能は折り紙付きで、既に波の上忍では歯が立たない実力を有している。

 第三次忍界大戦で岩隠れは、砂隠れの長こと、風影が行方不明になった直後に風の国に対して宣戦布告した。

 理由は簡単。何でも良かったのだ。ただ切っ掛けが欲しかった。

 それまで長く続いた戦争に民は疲弊しており、不満がたまっていた。そのため、土影であるオオノキへの長としての能力も疑問視する声が上がったっていたのだ。

 

『なぜ木の葉はあんなにも豊かなのだ』と。

 

 だが、それでは大義がなく木の葉に対して戦争を仕掛けるわけにもいかない。そこで、ちょうどよく起った大きな事件。三代目風影の行方不明という情報が流れた。

 それにいち早く反応した土影は、砂隠れに対し『風の国の砂漠が岩の国に舞い飛び、作物をか枯らしている』というでっち上げで宣戦布告を行ったのだ。

 もちろん狙いは風の国ではない。

 戦争の混乱に乗じて、あちこちで工作を行い雲隠れを焚き付けて、木の葉にぶつける。そして岩隠れ自身も雲と共に木の葉をハサミ打ちにするという作戦が本命だった。

 

「ワシに対する不満の声など、織り込み済みじゃ。他里に気づかれず、『ヤツ』らと手を組むには他に方法はないんじゃぜ」

 

「それは、どういう……?」

 

「いいか黄土、これは戦争。多少の犠牲は付き物じゃぜ。シキの奴には、わざと里抜けさせたんじゃ」

 

「なん……だと……?」

 

 しかし、土影が誰よりもまさる老練な知恵を絞って行った作戦も、最強の木の葉には届かなかった。

 土影の脳裏には常にとある記憶がフラッシュバックする。

 まだ自分が土影を名乗っていなかった時。まだ、師である二代目土影が存命していた時の記憶だ。

 木の葉の伝説うちはマダラとの対峙。あの時尊敬する師、二代目土影・ムウですら赤子扱いされていた。トラウマの如き強烈に刻み込まれた敗北の記憶を打ち払うように、オオノキは叫んだ。

 

「じゃが、そうでもしなきゃ、木の葉を出し抜けん! 奴らを崖に突き落とすためなら、どんな悪泥も被る覚悟じゃぜ!!」

 

 老人とは思えない程の覇気ある発言に押された黄土は、悔し気に握りこぶしを握った。

 何もできない、力のない自分を罰するように。

 この老人が平和に余生を暮らせるように、また民に無駄な犠牲が出ないように。そんな安全な里にするために強くなろう。黄土は、そう心の中で強く誓った。

 

 


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