ナルトンピース   作:マルコトロピカル

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ようやく主人公の一人が登場させられた。


2話

 第三次忍界大戦が終結して、一か月と少し、ここ木の葉の里では平穏を取り戻していた。戦死者の葬儀や、砂隠れとの同盟締結による会議などの戦後処理によってだいぶ時間が過ぎていたが、ようやくその時がきた。

 それは、新しい火影の誕生である。

 三代目火影、猿飛ヒルゼンは砂との同盟を結び終えた後をもって、火影の席を降りた。

 

「ワシは、この戦争の責任をとって辞職する」

 

 ヒルゼンがその意を表明した後、木の葉はもめることになった。

 戦争の結果は体裁状、痛み分けということになっているが、実際の敵との被害の差を考えると、木の葉のひとり勝ちと言ってもいいだろう。戦争終了後の戦利率は悪いものではなく、里内からも評価されていた。

 だからヒルゼンの辞職は誰もが驚いたものだ。というのも辞職を予想していなかったことと、彼の後釜である四代目火影候補がかなり存在したためである。

 結果として、四代目火影はヒルゼンに直々に推薦された波風ミナトに決定したが、そこに行きつくまでかなり大変だった。

 それは木の葉上層部の意見がばらばらに割れてしまったことだ。

 

 木の葉上層部ーー

 通称ご意見番と呼ばれる老人たちだが、彼らはただの老害ではない。現在は現役を引退しているが、かつての大戦で活躍し、英雄と呼ばれる者たちである。年老いたとはいえ、その実力は影クラス。決して無視できる存在ではなかった。

 そんな彼らの意見が割れてしまっては、若い忍たちは右往左往することになってしまう。

 最初は、ひとりの老人が煎餅を食いながら、言った一言。

 

「ミナトはまだ若いし、クザンの奴でいいじゃろ」

 

 上層部とは思えないような態度と発言をするこの男の名前は、モンキー・ガープ。拳骨の異名を誇る木の葉の英雄だ。「あいつの忙しそうな顔を見てみたいわい」などと、大笑いしながら話す姿は、とても英雄には見えない。

 

「おお、そいつはいい! ワシもクザンを推薦するぞぉ」

 

 そんなガープに便乗するこの男は、丸眼鏡をかけて、真ん丸の特徴的な髪形をしている。名はセンゴク。ガープ同様に煎餅を食べているこの男も、かつては知将仏のセンゴクなんて言われていた時もあったが、やはり見る影もなかった。

 

「ふざけている時ではない、お前たち。まったく気が緩みすぎとるぞ」

 

 そんなガープとセンゴクをとがめると同時に、二人から煎餅を奪い取ったのはうたたねコハル。中年の女性だ。しかし、その奪い取った煎餅を今度は自分で食べ始め、「お、コハルちゃんもいける口か」なんて声があがる。

 

「だが、ガープの言う通りミナトは若い。まだ時間をおいてはどうじゃ? ワシはだらけグセのあるクザンではなく、自来也を推したい」

 

 そう口をはさむのは水戸門ホムラ。

 ホムラの意見に、煎餅を口にしてしゃべることが出来ないコハルが大きくうなずいている。どうやら彼女も自来也を推したいらしい。

 そこまで聞いて、ヒルゼンはこの場において一言も話していない男に目をやる。それを見たのか、他の者たちもその視線に続いた。

 視線の先の男の名は、志村ダンゾウ。木の葉の里の最暗部、根のトップを張る男。右目を包帯で巻いており、机に肘を突きながら手を顎にして何か思考する姿が見えた。

 

「オレは、犬塚サカズキを推薦したい」

 

 ゆっくりと言葉を話すダンゾウを横目にヒルゼンは思った。

 

「人材多すぎて困るのぉ」

 

 うれしい悲鳴だった。

 

 そんなこんなで、木の葉では、忍による投票が行われたが、そこからは出来レースだった。

 まず、クザンは逃亡。あまりにも早かった。

 次に自来也だが、投票直前に女湯覗きの写真が流出。炎上した。

 そして、誰からも推薦されたわけでもなく、自ら火影にと立候補した大蛇丸。己の有利に事を進めるため、なにやらライバルの弱みを握るべく尾行していた模様。しかし、その努力むなしく、不気味すぎるという理由から、まったく票が集まらなかった。

 そして、残ったのが波風ミナトと、犬塚サカズキ。

 両者は初め、それなりに競い合っていた。だが、ミナトの里のからの人気は絶大であり、更に有力な一族たちがこぞってミナトに票を入れたのも一躍かって、後半には大差をつけて終了し新しい火影が誕生した。

 

 

 波風ミナトの自宅ーー

 

「えー、今日は僕の為に集まってくれて感謝します。これから火影として「新しい火影を祝って、カンパーイ!!」……」

 

 ミナトの言葉を強引に遮り、むさ苦しい男たちの楽しそうな声が響いた。

 

「ひどいよ、シカク」

 

 今回の祝賀会はミナトにとって特別仲の良いメンバーを集めておりその数六人。宴会ようの大き目の丸い机を囲むように座っている。三人暮らしのこの家の一室で、六人はいささか人口密度が高すぎた。

 

「そんなめんどくせーこと今日はなしだぜ」

 

 髪を立つように縛り上げている男、奈良シカク。そう言いながら、隣に座るミナトの肩を組んだ。

 

「見てみろ、この部屋で一番多くの陣地をもってる、あのデ、いやこれ言うと面倒くせェんだった。ほらあの男を……」

 

 顎でくいっと方向を指し示す。先にいたのはモンスターだった。

 

「うわぁ」

 

 フゴフゴと鼻息を荒げながら食事を頬ばるのは、秋道チョウザ。乾杯した酒に目もくれず、食事にふけっていた。

 とそこで、向かいの席から会話が聞こえてきた。

 

「それにしても自来也様、よく無事でしたね」

 

「むぅ、大蛇丸のやつやってくれたのぅ」

 

 淡い金髪をポニーテールにした優男、山中いのいちが、戦々恐々としながら問う。

 それに対して、もう既にこの部屋に来る前からアルコールで顔を赤めていた男が憎々しくつぶやく。

 白髪の大男、妙木山の蝦蟇仙人、自来也。ミナトの師でもある。しかし彼は、現在包帯だらけのミイラ男になっている。

 

「綱手様の入浴を覗いておいて、命があっただけでも儲けものですよ」

 

 ミナトは自来也のケガについて、始めてその顛末を聞いたときは、本当になにしてるの先生、と嘆いたものだ。

 彼は、同じ伝説の三忍の異名を持つくノ一、千手綱手の入浴を覗き、それをなぜか大蛇丸にリークされた。それを知った綱手がぶち切れ、あとは想像の通りだ。

 

「あれから、綱手が警戒しておっての……」

 

「あんたほんとにこりないな」

 

 いのいちの思わず素のツッコミに、ションボリするエロ仙人を横目に見ながら、ミナトは妻であるクシナに覗きに注意するように言おうと誓った。

 そして最後に、目かくしをしながら壁に背中を預けて、器用に酒を飲みツマミを食う男。うちはクザンが一言。

 

「それでぇ自来也、綱手の体はどうだったよ」

 

 その腹に響くようなきれいな低い声で、低俗な言葉が発せられた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしてもよ。俺達同期で子供ができるのが一番早かったのがミナトだったとは……」

 

 祝賀会も中盤に差し掛かり、酒も入り場が盛り上がってきた所。ぽつりとシカクがつぶやいた。

 奈良シカク、秋道チョウザ、山中いのいち、そして波風ミナトは同い年であり、忍者アカデミーという育成機関の同期であった。

 

「俺はてっきり、優男いのいちがダントツで早いと思っていたが。やはりあれか、木の葉の黄色い閃光は、種も閃光の如しってやつか」

 

 酔いによって暴走したシカクの言葉に、『あらら、うまいこというじゃない』などと、笑いが生まれる。

 

「この蝦蟇仙人自来也が手塩にかけて、育てたはずなんだがのぉ。まさか、18歳で、できちゃった結婚なんぞするとは。いったい何を間違えたのか?」

 

「「「どうみても、師匠ににたんだよ」」」

 

 同期からの、厳しい指摘について、ミナトは何一つ言い返すことができなかった。

 波風ミナトの妻ことうずまきクシナは、渦の国から九尾の人柱力にするために木の葉に連れてこられた経緯を持つ。そしてクシナが17歳の時、いざ九尾を封印というところまでいった矢先に、妊娠が発覚。無論その相手はミナトである。

 人柱力は出産時に封印が弱まり危険が伴う。そのため母体の安全を考え、九尾の封印が遅れたという事件が起きた。

 これにはさすがに三代目火影ヒルゼンは激怒し、ミナトはこってり絞られた。

 そして、ミナトとクシナはそのまま結婚し、二人の子供は無事に生まれた。もう六年前の話である。

 そう、ミナトはやらかしにより一児の父である。

 

「ほら、母ちゃんの料理持ってきてやったぞ」

 

「おお、噂をすれば。あらら、ずいぶんデカくなったな」

 

 大人たちの視線の先にいるのは、たった今片手に料理を持ちながら、ふすまを乱暴に開けて入ってきた少年だ。

 短く癖の強そうな金髪に、抜けた前歯が活発な印象を与える。鼻の上に絆創膏が張られていて、やんちゃさを前面に出している。

 彼の名は、波風サボ。年齢は六歳。ミナトがやらかしたことにより生まれてきた、ミナトとクシナの実の子供だ。

 

「サボ、ありがとう」

 

「いい大人が、真っ昼間から酒なんて飲みやがって……」

 

 サボはお礼を述べた父親を無視して、「酒くせぇ」なんてぼやきながら、料理に目を輝かして催促するチョウザの元に料理を持っていく。

 

「なんだサボ、あんまり嬉しそうじゃないじゃねぇか? 父ちゃんが火影になったってのに」

 

 あまりに不機嫌そうなサボにシカクが尋ねる。

 

「別にうれしくないわけじゃないよ……」

 

「だったらもっと楽しそうにしようぜ。あんまし悩んでるといろいろ面倒だ」

 

 どうだお前も飲むか? なんて聞いてくる気楽なシカクに、更にむくれ面になるサボ。

 

「こんな時に、酒なんて飲めるかよ……ッ!!」

 

 ぶっきらぼうに言い放つサボは身を翻し、部屋から出ていこうとする。だが、酒気帯びの男たちからのダルがらみはまだ続いた。

 

「サボもまだまだだのぅ。酒を飲めるように成長せんと、ワシのように女子にもてないぞ」

 

「自来也様も、シカクも子供にお酒を進めるのはどうかと」

 

 いのいちが、まじめに自来也たちを止めようとする声が、サボ背後から聞こえてくる。

 

「ならばサボよ、デカくなるには飯をもっと食わないとな」

 

「お前さんはちと食いすぎだな」

 

 チョウザに対するクザンのツッコミに豪快に笑う男たちの声を聞きながら、サボはふすまを開けようと手にかけ少し立ち止まる。

 

「サボ?」

 

 その様子に疑問を抱いたミナトが、サボを気遣うように尋ねた。

 だが次の瞬間、サボは怒りが爆発した。

 

「俺は喜べない! オビトの兄ちゃんやリンの姉ちゃんが死んだってのに、そんな気持ちになれない!! 他にもいっぱい死んだんだろ! それなのになんでそんなに笑っていられるんだよ!」

 

 サボは振り返り声を精一杯張り上げたところ、うるさかった部屋は一瞬で静まり返った。そして、吐き出した空気を入れるため大きく息を吸って、言い放つ。

 

「もうここには居たくねぇ!!!」

 

 ふすまを、来た時よりも乱暴に開閉するサボに、ミナトは「まってサボ」と制止の声を上げるが――

 

「ミナト、行かせてやれ。あいつは子供、割り切るにはまだ時間がかかるのぅ」

 

 自来也がいい終えたと同時に、家の玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 

「あー、わりぃなミナト。あいつの気持ちまで考えてなかったなぁ」

 

「まあ、なんつうか、子供ってのはめんどくさいな」

 

 そんな言葉がつぶやかれた。

 

 

 「あそこには居たくねぇ」

 

 そう心の中で叫びながらサボはがむしゃらに走っていた。時々、知り合いらしき人に名前を呼ばれたり、「あれが新しい火影様の……」なんて声もあったが、わき目もふらず走り去った。

 

(なにが火影だ! なにが英雄だ! 自分の部下だった仲間を二人も守れていなかったじゃないか!!)

 

 波風ミナトのスリーマンセル第七班のメンバーである、はたけカカシ、のはらリン、うちはオビトの三人は、よくミナトの家に食事を取りに来ていたことがあった。

 その一環で、サボはその三人と知り合い、仲良くなっていった。とくにオビトとは相性が良く本当の兄のように慕っていた。

 サボは一度も止まらず、一度も振り返らず、無我夢中で走り続けた。そしてついに息がきれて立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ、ここは……」

 

 木に片手をつきながら、肩で息をする。そして辺りを見回したサボはここがどこであるのか理解した。

 

「戦争で死んだ人たちの慰霊碑か」

 

 息を整えて、その慰霊碑に近づいていく。近づいていくたびに、慰霊碑の一番上に刻まれた大きい文字が読みやすくなっていく。

 

『木の葉の英雄ここに眠る』

 

 目の前まで近づき確認すると、サボは一つ一つその下に刻まれた英雄たちの名前を読んでいく。

 今年で六歳になったサボは母であるクシナに文字の読み書きを教わっていた。まだわからない字もあるため読めない名前ももちろんある。

 だけど、友達の名前はわかる。なぜなら、本人達から教わったからだ。勉強中のサボにちゃちゃをいれ、「俺は将来火影になる男だ。そんな男の名前を書けなくてどうすんだ。あ、あと結婚した時の火影の妻の名前もな」と無理やり覚えさせられた。

 

 うちはオビト、野原リン。

 

 そして遂にその名前を見つけ出した。

 

「くぅ、なんでだよ……火影になるんじゃなかったのかよ! 勉強した成果がなんで慰霊碑なんかで役にたたなきゃいけないんだよ」

 

 サボは慰霊碑の前で膝をつき、涙を流す。

 

「サボ」

 

 泣いていたからか、サボは後ろから近付いてくる陰に声を掛けられるまで全く気が付けなかった。

 

「カカシ……」

 

「さんを付けろ。一応年上ね、オレ」

 

 後ろにいたのは銀髪で上半身から鼻まで覆われた黒いマスク、そして、額当てをわざと斜めにつけて、片目を隠している少年だった。

 名は、はたけカカシ。ミナトの部下の内生き残った最後の1人だった。

 

「んで、こんなところでなにしてんのさ?」

 

「な、なんもしてねぇよ!」

 

 突然現れたカカシを見て我に返ったサボは、泣いていた事を悟られないように急いで目をこする。

 

「そ、そういうカカシこそ何しにきたんだよ」

 

 ごまかすように、質問を返すサボに呆れながらカカシは右手に持った二輪の花を目前に掲げ、

 

「なにしにって、花を供えに」

 

 そういって、瓶に入った二輪の花を置き、目をつむった。

 その表情はマスクと額当てでほとんど見えなかったが、どんな気持ちを抱いているか、子供のサボですら想像できてしまった。

 

「んで、お前さんは、あいつらを思って涙を流してたわけだ」

 

「な、泣いてなんかねぇって! そんなんじゃねぇ……」

 

 不意打ちのツッコミにサボは激しく反論するが、その勢いは徐々に落ちていく。

 

「オレも質問に答えたんだから、そっちも答えてくれよ。なんかあったのか?」

 

 そういわれては逃げ場がないと思ったのか、サボは事の顛末をポツリポツリと話し始めた。

 

 

「なるほどね。先生が自来也様たちと火影就任祝いのパーティーをしていた。そんでお前さんは、戦争で人が死んだのにへらへら笑っているのに納得できなかったと」

 

「だってオビトの兄ちゃんとリンの姉ちゃんが死んだのに、そんな笑えないよ」

 

 二人で慰霊碑を前にして座り込みながら話をしている。サボの話を聞いたカカシが、「まあ、気持ちはわかるけど」そういってサボに返した。

 

「でも、先生たちを責めないでやってくれ。オビトとリンが死んだのは……オレのせいなんだ……」

 

「それは……」

 

 カカシからの突然の謝罪にサボは戸惑う。右隣に座るカカシの横顔を見るが、眼帯の役割をしている額当てで顔は見えなかった。

 

「オビトはオレが一人で突っ走らなきゃ助けられたかもしれない。それにリンは……オレが殺したんだ。オビトとの最後の約束を守れずにオレは……ッ!!!」

 

 カカシは今にも崩れ落ちそうな雰囲気で続ける。そのありようは、子供のサボの目から見ても、突けば、積み木のように崩壊しそうな脆さを含んでいた。

 

「だから、すまないサボ。恨むならオレを恨め。恨まれる理由は十分ある」

 

「なんでカカシが謝るんだよ。一番つらいのはお前だろ!」

 

 サボの方を向いたカカシは、マスクで隠しきれない程、寂しそうに笑っていた。

 

「なんで俺だけ泣いてんだ、クソっ。父ちゃんもカカシもなんで笑っていられる! もう一生会えないんだぞ」

 

 サボは自分なんかよりずっと激しい後悔に苛まれているであろうカカシが、本心を隠して笑う姿を見て涙があふれる。

 なんで父さんがオビト達を助けてくれなかったのか、どうしてカカシが悲しまなければいけないのか、そしてなにより、なぜ自分は何もできなかったのかーー

 そんな想いがサボの心の中を締め付けた。

 

「俺は弱い自分が、子供の自分が悔しくてたまらねぇ!!」

 

 サボは子供ながらに、爪が食い込むほどの力で作った握りこぶしを思いっきり地面に叩きつける。 しかしそれは、地面に軽いこぶしの後を付けただけにとどまり、サボの手から血を出すだけだった。

 そこで、続けて地面を殴りつけようとしたサボを、カカシは手首をつかむことで止めさせた。

 

「サボ、もうやめろ。お前がオレの失態を庇い、あいつらの事を思ってくれている事は感謝する」

 

 カカシは、そこで軽く頭を下げた。

 そして、顔を上げた後続ける。

 

「だが、一つだけ言わせてもらう……。うぬぼれるな! お前程度が戦う力を持っていてたとしても結果は変わらなかったよ。それほど酷い戦争だった。それに……オビトとリンは……オレが殺したんだから……」

 

 サボはカカシの言葉を聞いて、カカシがにつかまれた手首を振り払おうとしていた力を緩める。

 カカシはサボの右手が力を失っていくのを感じて、そっと手首を離した。だらんと右腕が落ちて、うなだれるサボをみながらカカシは続けた。

 

「それに……悔しいのはサボだけじゃない。先生も、オビトとリンが死んだと知った時、陰で泣いているのを見た。隠しているみたいだったけどね。あんな先生を見るのは初めてだった」

 

 サボはそこで顔をあげてカカシをみた。

 

「シカクさんだって、自来也様やクザン様も、みんな戦争で大事な人を失ってる。悔しいし悲しいに決まってる。みんな死者を忘れて笑っているわけじゃない、悲しみを紛らわす為に笑って生きようとしていると思う」

 

「カカシも……そうなのか?」

 

「オレは、少し違うかもな。でも、言えることはオレ達の命は簡単に失っていい命じゃない。あいつらを救えなかった償いに、これからもっともっと仲間の為に命を張るよ。オビトにそう教えられたから……それに他の人達だって同じ気持ちさ。じゃなきゃあんなに里の為に頑張れるわけがない。だから、あんまり怒らないであげてくれ」

 

 そしてカカシはしゃがみこみぽんっとサボの頭に手を置いた。

 

「もうわかったよ……俺も少し言い過ぎてた」

 

 落ち込むサボを見ながらカカシは、更に二回ほどサボの頭をポンポンと軽く頭を叩いて、そのあと直ぐに手を離し立ち上がる。

 

「ほら、きっと先生達が心配してる。お子ちゃまは帰る時間だ」

 

 そういって、カカシはサボに手を差し伸べた。

 サボはしおらしく、小さな声で「うん」という返事とともに、手を取り立ち上がる。

 

「カカシ……その、ありがとう」

 

 感謝を述べるサボの姿は、いつもと比べて別人のようにおとなしく、まだ歳相応の可愛さがあった。そんなサボを見ながら、カカシは「やっぱりまだまだこどもだねぇ」なんて心の中の感想にふたをしつつ――

 

「はいよ」

 

 軽い返事を返した。

 サボはその後身を翻し、カカシの元から歩いて去っていく。そして、十歩は歩いただろうか。急に何かを思い出したのように立ち止まり、振り返った。

 

「あと、俺はお子ちゃまじゃねぇ!」

 

 そう叫んで、今度は軽快に走っていった。

 

「やれやれ」

 

 最後には、とても十代の少年とは思えないようなため息が残った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「長居してすまねぇなミナト、クシナ。そろそろ帰らないと、妻がこえー」

 

 サボが飛び出して直後、詳しい状況を聞いたミナトの妻クシナが、鬼の様に男たちに説教をした。

 その後、ある程度は怒りが収まったクシナは、この祝賀会に加わっていた。

 日も夕刻でいい時間と判断したのだろう。シカクが謝罪の言葉と共に帰宅の準備に取り掛かる。しかし、酔いが回ってへべれけだ。

 それに続き、いのいち、チョウザも帰宅の準備を始めた。

 

「なんだもう帰るのか。嫁なんて、束縛されるだけでめんどくさいのぅ」

 

 そういって、波風家に入り浸ろうとしている自来也にクザンが一言。

 

「お前は、まず病院いけよ。ナースのボインに酒をついでもらえ」

 

 その提案に、よく思いついたと言わんばかりに「よいのぅ、よいのぅ」などと呟き、調子よく準備を始めていた。

 

「あはは、クザンさん、ありがとうございます」

 

 酒と女におぼれた、厄介な仙人をどうにかしてくれたクザンに、ミナトは礼を述べる。

 

「まあ、こっちもいろいろ悪かったな。お前さんはサボを探しに行きたいんだろ?」

 

「ええ、まあ。でも僕の為に、祝賀会を開いてくれて感謝してます。すこし、元気が出ました」

 

 ミナトはクザン達に頭を下げた。

 

「さっきはああ言って怒ったけど、サボもいつかきっとわかってくれる」

 

 ミナトに続いて妻クシナも言葉を紡いだ。

 というのも、サボが家を飛び出した後、クシナの怒りはそれはもう烈火の如く響いたのだ。木の葉の赤いハバネロと恐れられたその貫禄をいかんなく発揮して、酔っぱらう男たちを正座させ説教をした。

 ミナトは自身が火影に決まったのは良いのだが、大切な部下であったうちはオビトと、のはらリンを失ったことにより落ち込んでいた。

 それを励ますために企画したのがこの祝賀会であり、クシナはそのことに関しては感謝していた。しかし、まだ6歳の子供がいる前で、昼間から酒を飲んで盛大に酔っ払う姿は見せるべきではなかった。ましてや戦争のあと、サボとも仲が良かったオビトやリンが死んだのに笑いこけているとなれば、真実こそ違うが、サボに死者の存在を忘れて楽しんでいると判断されても文句を言えなかった。

 

「父ちゃん!」

 

 帰りの準備をしている一行に突然、玄関のほうから扉を開ける音と共に大きな声が聞こえてきた。

 どたどたと、酒盛りをしていた畳の部屋に近づいてきた者は勢い良く畳を開けた。

 

「サボ……」

 

「父ちゃん……それとみんな、ごめん。カカシからいろいろ聞いたんだ。俺、みんなの気持ちなんもわかってなかった。みんなだって悲しいのに……」

 

 その先の言葉はクシナに抱きしめられ言うことが出来なかった。

 

「サボはいい子だってばねぇ」

 

「か、母ちゃん、なにすんだよ」

 

 急な抱擁に赤面したサボと、愛おしく息子の頭をよしよしとなでているクシナを、ミナトはまとめて抱きしめた。

 

「サボ、こっちこそごめんね。今日は落ち込んでいた僕を元気づけるために皆が集まってくれたんだ」

 

 ミナトの言葉に集まった男たちは、極まりが悪そうな顔を浮かべていた。自分たちの真意が明らかになって、照れているのか、頬をかいているいる者もいた。

 

「でもそんなことサボには関係ないことだったよね。ごめんサボ」

 

 ミナトはそう言って、抱きしめた家族から手を放し、律義に一歩下がり頭を下げた。

 そして再び顔をあげ宣言する。

 

「だから今度から誓う。僕が火影になったら、この里の皆をもっともっと、精一杯守るよ。サボが悲しまないように」

 

 力強い視線をサボから離さず、ミナトは続けた。

 

「かつて、『忍の中でルールや規則を守れない奴はクズ呼ばわりされる、でも仲間を大切にしない奴はもっとクズだ』そう言い放った忍がいた。僕自身もそう思う」

 

「そのセリフ、カカシから聞いたオビトの兄ちゃんの……」

 

「里の人たちは、中には酒ばかり飲んでる人や、だらけてる人、めんどくさがりな人や、食いしん坊な人もいる。勿論ちゃんとしたまじめな人もいるけど。でも皆、落ち込む僕を励ましてくれたり、勇気付けてくれたりする優しい仲間なんだ。だからそんな優しい仲間と、それと僕の愛する家族の為に強い火影になりたい。いや、なるんだ!!」

 

「とうちゃん……」

 

 ミナトの顔には、迷いや、落ち込んだ表情は一切見られなかった。そんな父親に触発されたのか、サボも涙を流しそれに答えた。

 

「俺も強くなりてぇ! 父ちゃんより立派な忍になって、もう誰も失わないように。そのために俺は火影になる!」

 

「ああ、楽しみにまってる」

 

 父と子の会話を嬉しそうに聞いていたクシナは、ミナトの最後の言葉を皮切りに、今度はミナトも抱き寄せた。

 

「あらら、見せつけてくれちゃって」

 

「……なんつうかさ、面倒クセェけど、子供っていいなぁ」

 

「「ああ」」

 

 それを見ていた男たちは(一人酔っぱらって意識がなかったが)、生暖かいい視線を向けていた。この後ちょっとしたベビーブームが起こるのだがそれはまた別のお話。

 

 




サボが一人目の主人公です。
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