でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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反省はしていない。






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 あれから1週間。

 

 俺はラーの鏡を求め船上の人となり、独り潮風に当たっている。

 視線の先にはかの有名なバルジの大渦があり、その先には巨大な島が浮かんでいる。

 原作において、″フレイザード″と死闘を繰り広げる事になるバルジ島だ。

 

 絶景かな、絶景かな。

 

 

 って観光気分に浸っている場合じゃないな。

 原作と比べる、と言うのも変な表現だが、漫画の描写よりも随分大きい気がしてならない。

 パプニカ大陸からバルジ島迄の距離だって、小舟を浮かせて吹き飛ばした位で届く様な距離じゃないんだよな…。

 アルキードに居た頃から思っていたが、この世界は広い。多分、前世の日本列島と同じ位の大きさなんじゃないだろうか?

 まぁ、前世で旅とかしたことないから根拠は全くなかったりする。でも、子供の目線であるのを差し引いても、本当に広い。

 そう、ここは″ダイの大冒険″の世界とは違う!? と思える位に広いんだ。

 

 ダイ達のロモスからパプニカ迄の船旅は″あっ″と言う間に着いていた様に思う。

 それに引き換え、アルキードからパプニカ迄は船旅で約10日。

 ずるぼんやルイーダ達に見送られ乗り込んだ貨物船は、四国に酷似した大陸を南に観ながら東に抜け、各港に立ち寄りながら、ぐるっと回り込む遠回りの航路を採っている。

 最短距離を通らず、荷物の積み卸しで港に停泊するとしても、かかりすぎじゃないだろうか?

 別に広いから何が問題って訳じゃないんだけど、この世界が″ダイの大冒険″じゃなかったら問題なんだよなぁ。

 俺の知る原作知識、言い換えるなら未来の知識。

 コレが全く役に立たないことになる。

 漫画的手法でデフォルメされてたのか?

 でも、時間経過とか考えても原作世界は広くないんだよなぁ…やっぱり違う世界なのか…?

 

 ダメだ。

 船旅も6日目になると、やることが無さすぎて、変な事ばかり考えてしまう。

 こんな風に考え込んでしまうなら、旅のお供にずるぼん達を連れてくれば良かったかもしれない。

 居れば邪魔に思い、居ないと恋しくなる、我ながら勝手な話だ。

 そんなずるぼんとへろへろは、パプニカ迄の旅に同行することなく、アルキード城下に居残っている。

 ずるぼん達は当然の様に「旅に同行する!」と駄々を捏ねたが、「馬車の百倍酔う」の一言でアッサリ引き下がった。

 

 もうちょっと粘れよな。

 

 ずるぼん達のアルキード城下での暮らしは、修行を兼ねてカンダダ一味に面倒をみてもらっている。

 修行、と言ってもそんな大したことをさせる訳じゃない。カンダダ一味が運営する孤児院で同世代に混じって勉学や運動に励む、そんな程度だ。

 俺が戻るまでの一月足らずで、どれだけ成長するのか楽しみだ。

 因みに、カンダダ一味が孤児院を運営する理由や経緯は、知りたくないので聞いていない。

 彼等が裏で何をしているのか知れば、袂を別つことになるかもしれない。

 しかし、知らなきゃ別に問題ない。

 こんな風に考えてしまう俺は、やっぱり卑怯なのかもしれないな。

 

 それにしても、ルイーダの影響力は半端ない。

 ルイーダが連れてきた子供。ただソレだけで船上の俺はVIP待遇だ。

 屈強な船乗りが″坊っちゃん″って俺の事を呼ぶんだぜ? 10歳のガキに過ぎない俺が、悠々と一人旅出来るのは殆どルイーダのお陰である。

 ルイーダ、マジ何者!?って勘繰りたくもなるが、触らぬ神になんとやら、好奇心猫を殺すとも言うし、知らないでも良いことは知らないでおくのも長生きする一つの手だと思う。

 

 と、こんな感じに悩んでは、室内でも行える筋トレで汗を流し、また悩んでは眠る。

 そんな事を繰り返しつつ順風満帆な船の旅はあっという間に過ぎていった。

 

 

◇◇◇

 

 

 船旅10日目。

 

 俺は今、パプニカ城の地下牢に繋がれている。

 

 あ、ありのまま今日起こった事を話すぜ…

 

『宮廷魔術士・マトリフに会いに来たと思ったら、泥棒の片棒を担いだ事になっていた』

 

 な、何を言っているのか判らないと思うが、俺も何をされたのか判らない…。

 

 

 ってポルポルごっこで遊んでる場合じゃないな。

 薄暗い地下牢の一室に繋がれた状況から抜け出す方法を、どうにか考えないといけない。

 でも、考える前に一言ダケ叫びたい。

 

 

「あんのっセクハラエロジジィがぁぁぁ!!!」

 

 

 な・に・が・大臣に意地悪されて嫌気がさした、だっ!!!

 セクハラしまくって追放されてんじゃねぇかっ!!

 しかも、退職金代わりに宝物持ち逃げとかっ、単なる泥棒じゃねーかっ!!

 おまけに何だよっあの紹介状!?

 

『マトリフへ

 

 ラーの鏡を所望する

 

     R・カンダダ』

 

 どう見ても窃盗指示じゃん!? 本当にありがとうございました。言い訳できません。

 なんだよこれ? 罠か?罠なのか?

 こんな所でまさかの大ピンチとか笑えねぇ。

 マトリフ出奔が6日前とかどんなタイミングだ!?

 ハッ!? さては陰謀か? 俺のヤバさに気付いた大魔王の陰謀に違いない!

 

 って、んなワケねーか。

 落ち着け、でろりん。

 

 突拍子の無い発想が浮かんだお陰で、逆に冷静に成ることが出来た。

 それにしたって、今朝早く風光明媚で名高いパプニカ港に到着した後は、観光気分に浸りたいのを我慢して、広がる小麦畑を休むこと無く走破して、魔法の布装備を買いたい衝動にもぐっと耐えて、半日と掛けず一直線に王城に来たらこの仕打ちとか。

 寄り道して町の声を聞いてりゃ避けられたかもしれないのに、俺ってもしや″うんのよさ″マイナスなんじゃね?

 

「はぁ…マジどうすんだよ」

 

 門兵に話しかけ、マトリフを呼んだダケならまだ良かったんだ。

 致命的なのは紹介状。アレを見た瞬間、2人の門兵の顔色が明らかに変わったもんな。

 有無を言わさず左右から2人の門兵に両脇を極められると、問答無用で牢屋に放り込まれた。

 完璧に疑われてるし、無実を証明するだけでもどれだけかかるのやら…。

 首尾よく牢屋から出られても、マトリフ探しも相当な時間が掛かりそうなんだよなぁ。

 確か、原作におけるマトリフの住み処は、バルジ島が見える海岸沿いの何処かだったはず。

 でも、この世界で探すとなれば広範囲すぎるし、今の時点であの辺りに住んでいる保証も無い。

 それでも探すしかないし、こんな所で無駄な時間を掛けてられないし、いっそ、脱獄でもするか?

 

 …よし、そうしよう。

 

 ラーの鏡さえ手に入れば別にパプニカなんかに用はないしお尋ね者になったって構やしない。

 

 と言っても地下でイオラを使う訳にもいかないし、とりあえず、誰かが来るのを待つとしよう。

 ただ待つのも暇だし、筋トレでもやっておくか。

 小さな積み重ねって大事だと思うんだな。

 

 

◇◇

 

 

「面白い事をやっておるのぅ」

 

 筋トレ開始から体感で15分後。

 

 斜め前辺りの独房の奥から人の声が聞こえてきた。

 

「誰だっ!?」

 

 完全に油断していた。

 さっきの叫びを聞かれていたならちょっと恥ずかしいぞ。

 てか、只でさえ薄暗く辛気くさい場所なのに、居るなら魔法のランプ位点けろよな。

 

「ほっほっほ。そう身構えんでも、お互い逃げられやせんわい」

 

 しわがれた声だがどこか飄々としたイメージを覚える。

 

「誰だ? って聞いてるんです!」

 

「怒りっぽい小僧じゃわい。短期は損気と言うじゃろ? 闇が恐ろしいのかの? ほれ、レミーラ」

 

 声の主が呪文を唱えると、地下牢の壁が淡く光って辺りを照らし出す。

 照らし出されたその先には、緑のローブを着たちょび髭の男が座っていた。

 

「ま、魔法使い!?」

 

 危うく″まぞっほ″と呼びそうになる。

 原作より少し若くアゴヒゲも伸ばしていないがどう見てもまぞっほだ。

 

 ″まぞっほ″は原作において、俺こと″でろりん″のパーティーに所属する三流魔法使い。

 偽勇者一味において、最も活躍する男であり″ダイの大冒険″における影のキーマンでもある。

 いずれ、まぞっほを求め世界中を旅するつもりだったが、まさか、こんな所で出会うとは。

 

「如何にも。ワシこそが天下の大魔法使い、まぞっほじゃ」

 

 ちょび髭を横に撫でながらの自己紹介。まぞっほって見栄を張るキャラクターだったのか。

 

「へー。スゴインダネー」

 

 いずれパーティーを組む為にも、ここで悪印象を与えるワケにはいかないが、未来の姿を知ってるダケにどうしてもジト目の棒読みになってしまう。

 

「なんじゃその目は?信用しとらんのか?」

 

 信用しようにも火事場泥棒だしなぁ。

 

「ソンナ事ナイデスヨ。でもどうして大魔法使いがこんなところに居るんですか?」

 

 こんな時はおだてつつ話題を変えるに限る。

 

「可愛いげの無い小僧じゃのぅ。まぁえぇわい、兄者に用が合って来たらこの様じゃ」

 

「へー。お兄さんが大魔道士で弟が大魔法使いって凄いんだネ」

 

「お主、何故それを知っとるんじゃ?」

 

「えっ?」

 

 やべっ。

 マトリフとまぞっほが兄弟って秘密にしてるのか?

 まぞっほは明らかに不審そうな目を向けてくる。

 まぞっほをパーティーに引き込めなきゃ″ポップ″の覚醒フラグが潰れてしまう。

 

「惚けよるか。まぁえぇわい」

 

「別に惚けてませんし。ルイーダって人に聞いたダケです」

 

「ふむ。それは可笑しな話じゃな? あのおなごはおいそれと情報を漏らす者ではあるまいに」

 

 げっ。

 泥沼にハマったか!?

 まぞっほはちょび髭を弄りながらニヤリとしている。

 

「そんな事言われても、教えてくれたんだから仕方ないでしょ」

 

「教えられたのなら仕方がないのぅ? じゃが、ワシはあのおなごに兄弟だと明かしておらなんだわ。無論、兄者もな」

 

 うわっ。なにそれ。

 

「ルイーダさんに聞いたのはマトリフさんが大魔道士ってだけで、まぞっほさんの話から兄者がマトリフさんって判るじゃないですか」

 

「なるほどのぅ。そうじゃとすると、誤魔化す意味が無いのぅ」

 

 なに、このまぞっほ。

 突っ込みが鋭いんですけど。

 

「別に誤魔化してませんし、勘違いしただけです」

 

「ほっほっほ。そう睨まんでも良かろう。ちぃっと意地悪が過ぎたかの?」

 

 なんだ?

 からかわれただけか?

 

「良い性格シテマスネ」

 

「良く言われるわい。

 時に小僧、ワシの弟子にならんか?」

 

「いや、意味がわかりませんし。なんでいきなりそうなるんですか?」

 

「ふむ、何故かのぅ…。ワシにもよう分からん。分からんが小僧、お主は面白い奴じゃて。先程やっておった″しゃがみ立ち運動″とでも言うのかの?アレは小僧が考えたのか?」

 

 しゃがみ立ち運動ってスクワットの事か?

 実はこの世界に筋トレはない。必要な筋肉は必要な動きで付ける。早く走りたいなら走り続け、力持ちに成りたいなら重いものを持ち、動かす。

 そんな感じだ。

 

「考えたと言うか、思い付いたと言うか…」

 

 真相は、知っていたダケのカンニングである。

 

「実に理に叶っておったわい。両の足に負荷をかけ筋の肉を鍛える…場所も要らぬし実に合理的じゃ」

 

 マジで?

 てか、それが判るアンタがすげーよ。

 でも、考えてみりゃまぞっほは、あの大魔導士の弟で修行もマトモに詰んでいた人物。

 自身も後悔していたが、心構えが今一つで小悪党に成り下がっていただけなんだよな。

 逆に心構えで大魔道士へと成長した人物も居るし、この世界だと″心″は前世以上に大事なのかもしれない。

 

「そうなんですか?」

 

「ふぉふぉふぉ、惚けよるか、お主は小手先の嘘に走る傾向があるようじゃの? じゃが、それは裏を返せば頭の回転が早いと言うことじゃ。魔法力もあるようじゃし、どうじゃ?ワシの元で大魔法使いを目指さぬか?」

 

 まぞっほの師匠が誰だか判らないが、偉大な魔法使いであったことは原作から伺い知る事が出来る。

 まぞっほ本人の実力は兎も角、修行方法はその師匠に準じた高レベルのモノになるはずだ。

 悪くない話だけど俺は偽勇者をやらなくちゃいけないんだよなぁ。

 

「せっかくですが御断りします。俺はパーティーリーダーをしてるのでいつの日か、あなたを仲間としてお誘い出来るように精進します」

 

「ほっほっほっ。それは楽しみじゃな」

 

 まぞっほは愉快げに笑っている。

 今はこれで良いだろう。

 出来れば握手くらいしておきたいが、鉄格子が邪魔をする。

 

「ところで、モノは相談なんですが…」

 

『なんじゃぁこれは!?』

 

 脱獄の相談をしようとしたその時、入り口?の方から驚きの声と共に、話声が聞こえてきた。

 

『ふんっ、レミーラも知らぬのか』

 

『閣下、其れよりも″魔封じの首輪″を着けていないのが問題かと』

 

『このっ役立たずめっ…貴様はもうよい。案内ご苦労』

 

 ″カツン、カツン″と石床を鳴らし何者かが近付いてくる。

 

「こやつらがそうか?」

 

「はっ」

 

 鉄格子の前で立ち止まったのは二人の男。

 恰幅の良い、偉そうなおっさんと、目付きの鋭い生意気そうな少年。

 

 

 こいつら、誰だ?

 




まぞっほの師匠って誰なんでしょう?

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