でろりんの大冒険   作:ばんぼん

18 / 69
17

 地獄の猛特訓が始まってから早数ヵ月。

 バランの身柄を抑えられ処刑を明日に控えた状態でも猛特訓は終らない。

 

「今日ほどオメエを大したこと無い奴だと思った事はねぇぜ」

 

 胡座をかいて岩の上に座るマトリフは顔を片手で覆い、ため息混じりにお馴染みとなった台詞を呟く。

 

「何時も思ってる癖にっ」

 

 息も絶え絶えで泉から這い出た俺は、短く言い返すのがやっとだ。

 

 本日のメニューは″ルーラ修得、地獄の水行″となっている。

 その内容を簡単に説明すると、後ろ手にキツく縛られた状態で重しを付けて泉の中に放り込まれる、といった正気の沙汰とは思えないモノだ。

 元々この特訓を終える方法は、溺れ死ぬかルーラで脱出するか? の二つしか想定されていない。

 水に放り込まれた俺はそんな極限状態の中で、魔法力を″力″に変えてロープを引き千切り脱出に成功したのだった。

 

「でろりんよぉ? この数ヵ月でお前さんの魔法力はちったぁ増してトベルーラも使えんだ。何故ルーラを唱えずバイキルトもどきで逃げる? この特訓の主旨を解ってんのか?」

 

 俺が引き千切り投げ棄てたロープを拾い上げ「もっと強く縛るか」とマトリフはぼやいている。

 

「ルーラが便利って解ってますけど俺にルーラは無理! 魔法の力が欲しければまぞっほにルーラを覚えてもらいますよ。それがパーティーってもんでしょ?」 

「ちっ…ガキの癖に正論吐きやがって」

 

 正論ってかマトリフ語録からの引用だからな。

 傍若無人と呼ばれるマトリフでも自身の持論に反論する様な真似はしない。

 

「これ以上強くなるのも成長するまで多分無理!」

 

 自慢じゃないがこの数ヵ月で俺のレベルは16にまで上がっている。

 驚異のハイペース! やれば出来る子…と思っているのは俺だけで、マトリフは不服な様だ。

 だがちょっと待ってほしい。

 俺って11歳なんだぜ?

 身体が出来上って無い状態で一体これ以上なにを望むというのか?

 客観的に見ても11歳時点なら原作のダイよりも強いっての。

 

「お前さんの言うところの成長限界か…だがなぁ? そんなモンは甘えだぜ」

 

 腕を組んだ何時ものポーズで″ギロリ″と睨んでくるが、いくら怖くてもこればかりは譲れない。

 猛特訓から逃げたんじゃないんだ。

 課せられた特訓をこなした上で成長が見込めないなら、限界に達しているとみるべきだ。

 

「そんな事言ったって現に強くならないじゃないですか? 成長期を迎えるまで猛特訓は無し!」

 

 腕をクロスさせ大きなバッテンマークを作ってアピールしてみた。

 

「口の減らねぇガキだぜ…だが、オメエの言い分にも一理ある…暫くの間しごくのは勘弁してやるが、代わりにコイツを集めてきな」

 

 渋々折れたマトリフが袖の下から何かを取り出すと″ポイ″っとコチラに投げてくる。

 

「何ですか? コレ」

 

 放物線を描いて俺の手に収まったモノをしげしげと見詰める。

 大きさは五百円硬貨並みだが厚みがあり大きさの割にズッシリ重いそのコインは、手の中で眩いばかりの光沢を放っている。

 

「ミリオンゴールドだ」

 

「はぁ!? 1億円金貨ぁ!?」

 

 てか、100万ゴールドコインとか買い物で使えないんですけど。

 

「その″円″とやらに換算する癖は直らねぇのか? まぁいい…先に鍛え上げてからにしてやろうと思ってたが、オメエはコレからの10年でソイツを集めろ」

 

 ん? 強くなってから俺の特性を活かして金を稼ぐ計画でも有ったのか?

 確かに厳しく鍛え上げれば後々の金稼ぎは楽になる…厳しかったのはマトリフなりの優しさか?

 

 すっげぇ解りにくいんですけど…。

 

 それに…。

 

「金なんか集めてどうするんですか? 大魔王に通用する武器なんか売ってませんよ?」

 

「大魔王を殺るにゃぁメドローアを当てるのが手っ取り早い。弾くのは当たれば効く事の証明みてぇなモンだぜ」

 

「…? それはそうですけど、当たらなければどうという事は無い! って昔の偉い人が言ってましたし、俺は多分メドローアを使えませんよ?」

 

 今一つマトリフの言いたいことが解らない。

 散々話し合った結果、アルキード救済後の基本戦略は、原作から外れすぎない範囲を保ちつつ″影でコソコソ不意討ちでゴー″だ。

 マトリフにとって原作沿いに大した意味はなく、俺が伝えた中では出来事よりも敵の戦略や能力を重要視しており、大魔王の戦略の裏をかいて戦力を整え、バーンパレス浮上時にノコノコ現れるであろう大魔王を殺れるなら過程の差異はどうでも良いらしい。

 しかし、肝心の大魔王の倒し方までは煮詰まってなかったし、メドローアは兎も角ゴールドが何の役に立つんだ?

 

「オメエさんにメドローアを伝授する気はねぇ。大体オメエのセンスの無さは何だ? あんな闘い方しやがって…種がバレりゃぁ使いモンにならねーぜ」

 

 サラリと酷いことを言われているが、泣いてなんかやらない。

 多分、イチイチ口答えするのが気に食わないのだろうが、こっちだって命が掛かってる。

 マトリフが優れた人物って事は身に染みて解っているが、原作知識に関してのみ俺の方が上だ。

 いくら話して書き出してみても微妙なニュアンスまでは伝わっていない。

 言いたいことは言わせてもらい、言い争いの中でより良い案が見付かれば良いんだ。

 まぁ、大体マトリフの発案が通るんだけどなっ。

 

「マトリフとやり合う内に勝手に身に付いてましたからね…俺だってもうちょっと何とかしたいと思ってますよ?」

 

 

「ふんっ…元々、大魔王の相手はオメエに期待しちゃいねぇさ。メドローアを当てる役はポップって小僧だ…会ってもねぇ奴に託すのは癪だが俺じゃ警戒されちまうからな…大魔王に当てる為には隠し通すのがキモになってくるだろうよ」

 

 マトリフは大魔王の実力を高く評価している。

 戦闘能力は元より、いや、むしろ慎重で用意周到な戦略を最大限に評価しており、勇者アバンにも神託を告げず、俺とルイーダの三人ダケで動くのも大魔王の警戒を恐れているからだ。

 表立って精力的に動けば大魔王の警戒を招き動きが読めなくなる処か、万が一にも大魔王の計画を知っていると知られれば手の打ちようがなくなってしまう。

 原作における大魔王の戦略のキモは、強者を一所に集め一網打尽にする事にあり、ダイ達が殺されなかった要因の一つがコレだ。

 しかし、それを知る者がいるとなれば殺す事に主眼を置いてくるだろう。

 そうなれば、正直太刀打ち出来ない。

 

 原作沿いを重視しないマトリフが原作沿いに進める理由はこの辺りにある。

 原作に従えば大魔王の動きが読みやすく、又ポップがメドローアを修得する確率も高くなる。

 

「″大魔王戦その1″迄はポップにメドローアを撃たせないって訳ですか? 不意討ちは良いですけど、それとゴールドに何の関係が?」

 

「黙って聞きやがれっ」

 

 ミリオンゴールドを取りに来たマトリフに″ゴチン″と拳骨を落とされた。

 

「ポップって小僧は敵さんに侮られている…だったな?」

 

 言葉に出さないものの、自身が産み出した秘呪文を授ける相手が現れると思ってもいなかったマトリフは、未だ見ぬポップに興味深々だ。

 

「最後の方は注目されますけどね」

 

 現時点で大魔道士の注目を浴び、期待のハードルが激しく上がっているポップには御愁傷様と言っておこう。

 

「侮らせたまんま最後にしてやるのさ…ポップが倒すべき敵はオメエが相手してやれ。バランを敵に回さねぇ以上厄介な相手は限られてくる」

 

 マトリフは、アルキード消滅を阻止しても魔王軍の動きはさほど変わらず、バランが超竜軍団長にならなければ他の者が軍団長の座に就いて12年後に地上侵攻を始めるダケだと自信満々に言い切る。

 その根拠は黒のコア。

 大魔王の本命は黒のコアによる地上消滅であって、魔王軍なんてモノはオマケであり、大魔王にとって魔王軍の勝敗には大した意味がなく、強者を炙り出せればそれで良いのだ、と。

 そして、黒のコアの準備が整うのが12年後であり、それまで大魔王が動く事は無いだろう、とも言い切っている。

 

「そうですね…バランの代わりの軍団長がバランよりも強いって事は無いでしょうし、竜騎衆も結成されないし、厄介なのはオリハルコン軍団、ハドラー親衛騎団位ですか?」

 

 永久不滅の金属と言われるオリハルコン。

 最終的にバキバキ砕けまくっていたが、それは相手が悪かっただけで、親衛騎団が厄介な相手である事に変わりない。

 チートなラーハルトは味方に引き入れておきたいけれど、何処で暮らしているか記憶に無いんだよな。

 カンダダ一味に捜索願いを出しているが、あまり期待していない。

 

「そうだ。全身オリハルコンの軍団を相手にするのはちっとばかり骨だろうよ…そこでだ、対抗する為の武具をコイツで造る」 

 

 マトリフの掌中のミリオンゴールドが日の光に照らされキラキラと輝いている。

 

「だから売ってませんって」

 

「聞いてなかったのか? 武具の素材はコイツだ。極限まで密度を高めたゴールドはオリハルコンにも匹敵する金属になる。コレを鍛えられる奴を見つけるのも骨だが、お前さんにゃぁ心当たりがあんだろ?」

 

 マトリフは″ニカッ″と笑い、その笑顔の横でミリオンゴールドが眩しく輝いている。

 

「ロン・ベルグですか…そうなると、やっぱり真魔剛竜剣を貢ぐ必要もありそうですね」

 

 魔界の名工と呼ばれる″ロン・ベルグ″あの偏屈魔族を味方に引き入れるにはモノで釣るのが楽そうだ。

 

「交渉はオメエが勝手にしな。装備一式で百枚も有れば十分だろうよ。ヒャヒャヒャっ」

 

「百枚ってあんた…。1億Gって百億円ですよ!? 十年で何とかなるんですか?」

 

 てか、百億円の装備に身を包むとかブルジョワ過ぎるだろ…。

 いや、そこまでの大金を注ぎ込まないと偽勇者は原作のステージに立てないってことか?

 

「死にたくないならせいぜい励みな。オメエはコレからの十年で修行と金稼ぎ、稼げねぇってんなら魔界にでも放り込んでやるぜ…後は偽勇者ごっこだな。分かってると思うが大魔王に目ぇつけられるヘマはすんじゃねーぞ?」

 

 装備に一億ゴールドって発想がすげぇわ。

 まぁ、無為に10年過ごすよりちょっとでも生き残れる可能性が高まるなら金策に励むべきか…。

 でも一億は無理じゃね?

 武器だけでも造りたいけど何枚要るんだ?

 

「はいはい…。言われなくたって大魔王なんかに注目されたくないし、死にたくないからヤれることはヤりますよ」

 

「そいつは良い心掛けだ。…さて、無駄話はここまでだな。明日の役割について詰めておくか…」

 

 

 真剣な表情に戻ったマトリフのルーラでルイーダの酒場に戻った俺達は、ルイーダ達を交えて″バラン救出作戦″の詳細を話し合うのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。