でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 10歳になった。

 

 魔王の影響で狂暴化していたモンスター達も成りを潜め、人里を荒らすこともなくなってきている。

 平和に成ったのは良いことだが、平和に成りすぎた結果、修行に励み過ぎる俺に対して両親が良い顔をしなくなった。

 両親揃って「平和に成ったんだから無理をするな」と言ってくる。魔王が居たから俺の無茶な修行振りが容認されていたということだろう。

 前世において究極の親不孝を達成した俺としては、両親の言い付けを無下にする訳にもいかず、最近は野外での鍛練を控えている。

 漸く筋肉も付き始めたしホントはもっと素振りや模擬戦に励みたいんだけど、上手くいかないものだ。

 てか、平和に慣れるの早すぎね? 戦場にならなかったといえど、二年と経たずに驚異を忘れるのはどうかと思うぞ。

 

 まぁ、ぼやいた処で始まらない。両親に隠れて鍛える俺の毎日は、大体こんな感じになっている。

 

 6時に起床。

 ラジオ体操に始まり柔軟運動をみっちり行うと、見廻りを兼ねて村の外周をランニング。

 稀に出くわすモンスター達はメラミの一発で方が付く為、大人を呼ぶ必要がない。

 どんな原理か知らないけれど、モンスターを倒すと″チャリーン″と音が鳴って近くにゴールドが落ちてくる為、実は結構な額が貯まっていたりするんだが両親にも秘密にしている。

 お金ってこんな簡単に手に入れたらイカンと思うんだな。

 7時半に朝食を摂ると、午前中は家の仕事の手伝いに当てている。

 仕事が無い日は村の子供達を集めて行われる青空教室に通い、同世代の子供に混じって勉学に励む事にしている。

 前世と比較してどうこう言いたくないけれど、勉学方面は前世が圧倒的に優れていたように思う。

 そんな前世で辛うじて義務教育を終えている俺から視たら、この世界の授業内容はどうしても稚拙に見えてしまう。

 でも託児所としての役割も兼ねている様だし、ワイワイ楽しく机を並べて教師役の神父の授業を受けるのは悪くない。

 それに、授業の全てが役に立たない訳でもない。

 読み書きは物心ついて一年と経たない内に覚えたし、計算に至っては村の誰よりも得意だけれど、その反面、地理や歴史がどうにも苦手なんだ。

 ″ドラゴンクエストに準じた世界″との先入観があるせいか、聞き覚えのない地名に違和感を感じて仕方がない。

 前世の病床で1〜9迄のドラゴンクエストは遊んだから主な地名は知っている筈なのに、この世界の地名は何れにも該当しない。

 

 メラやギラ、ホイミやバキといった魔法が偶然一致しているだけなのだろか?

 

 12時に昼食を摂った後は遊びの時間。

 

 この時間を専ら修行に宛てていたんだけど最近はそうゆう訳にいかず、村の友達″へろへろ″達と勇者ごっこで遊ぶ事が多くなっている。

 前世と合わせれば精神年齢二十歳を越えようかという俺にとっては非常に辛い時間になる筈が、遊び始めると意外に熱中出来たりするんだから男は何時まで経ってもガキなんだろう。

 

 くたくたに成るまで遊んだら家に帰って夕食を済ませ、部屋に籠って瞑想に没頭し、眠気が来れば逆らうことなく眠りに落ちて1日を終える。

 

 こんな感じで俺の1日は過ぎてゆく。

 

 15の成人を迎える迄こんな日々が変わる事なく続いていく…そんな風に考えていたある日の事。

 

 

「でろりんの兄貴、今日は何して遊ぶだ?」

 

 隣に座る″へろへろ″が座学の途中で屈託のない笑顔を向けてくる。

 ゴリラに酷似した容姿の持ち主だが、その見た目とは裏腹にとても純朴な心根の持ち主だ。

 俺より二つも年上のくせに何故か兄貴と呼んでくる何処か憎めない奴だ。

 

「そうだなぁ・・・今日は剣術の稽古をやらないか?」

 

 ここのところ悪天候も合わさって稽古が疎かに成っていたし、体を動かしておきたい。

 それに、へろへろを鍛えたいと勝手に目論んでいたりする。

 へろへろは持ち前の優しさから争いを好む人でないと解っているけど辞められない。

 魔法の素質はからっきしだし、剣の腕前もまだまだだ。だけど、腕力に関しては俺を大きく上回る。

 俺とてたかだか10歳の子供と言えばそれまでだけど、鍛えに鍛えた俺は10歳にしてその腕力は村の大人達を超えている。

 そんな俺を鍛えていないへろへろが上回っているという事実。これは鍛えるしか無いだろう?

 

「アンタねぇ、お父さんに言い付けるわよ?」

 

 聞き耳を立てていたのか前に座る″ずるぼん″が振り返って凄んでくる。

 ずるぼんは俺の二つ上の姉さんだ。

 父譲りの黒髪を持つ俺とは違い、母譲りの紫色の髪を長く伸ばしたお洒落さん。黙って座っていれば美人に見えないこともないんだけど、喋ったら性格のキツさが如実に表情に現れる。

 その残念美人っぷりは既に村中に広まっており、この村で過ごす限り姉さんが理想の相手に巡り合う事は無いように思える。

 これは本人も気付いている様で、最近では「早く村を出て良い男を見付けたい」が口癖になっており、おしとやかに見せるためダケに僧侶としての修行も行っている。

 でも、多分無理。

 大体からして僧侶を目指す動機が不純すぎる。

 

「そうだで。無理は良くねぇだ。今日は兄貴が勇者アンパンで、おでが魔王バトラーをやるだ」

 

 ここぞとばかりにへろへろが遊びを押してくる。

 鈍重そうな喋りをしているが意外と機に敏感なのもへろへろの特徴だ。

 

 てか、勇者アンパン?

 顔が濡れたら力が出なくなりそうな勇者だな。

 

「へろへろ君、勇者はアバン様で魔王はハドラーですよ」

 

 教師役を勤める神父が清ました顔で訂正する。

 

「あぁ!そうだっただ」

 

 ばつが悪いのか大袈裟に驚いたへろへろは立ち上がると頭をかいた。

 瞬間、周りの子供達から″どっ″と笑いが起きる。

 

「それより、遊びの相談は授業の後でお願いしますよ」

 

「へい」

 

「やーい、怒られてやんのー」

 

「ずるぼんさん、あなたもです」

 

「はーい」

 

 怒られた二人が肩を小さくして″シュン″となる。

 

 一連のお約束的なやり取りをボンヤリ眺めていたが、俺は内心で焦りまくっている。

 

 勇者アバンに魔王ハドラーって、ダイの大冒険じゃねーか!

 どうして今まで気付かなかった!?

 

 何を隠そう前世の俺がドラゴンクエストに興味をもったきっかけこそ、ダイの大冒険だ。

 父が所有していた漫画の一つ。なんとは無しに読み始め一月と掛からず読みきったのは前世で今と同じくらいの年の頃だったはずだから、大体15年前に呼んだ漫画になる。

 懐かしいな。

 通りでドラゴンクエストなのに余り馴染みが無いわけだ。

 

 って、そうじゃない!

 

 俺達が暮らすのはアルキード王国だ。

 確か、作中で滅んだ国もアルキードだったような?

 

「でろりん君、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」

 

「あ、いえ、大丈夫、です」

 

 でろりん君、か・・・それにずるぼん、へろへろって俺は偽勇者かよっ!

 

 って、そんな突っ込み入れてる場合じゃない!

 落ち着いて思い出せ。

 

 ダイの大冒険は、モンスターが暮らす島で育った少年ダイが、地上の消滅を企む大魔王バーンを倒す物語だ。

 紆余曲折はあるものの当初からの目的、大魔王の打倒を果たす迄が描かれていた。

 この世界がダイの大冒険だとすると、別段何もしなくてもダイ達勇者一行が大魔王を倒し平和が訪れるって算段だ。

 

 問題なのはアルキード王国の消滅をどう乗り切るか、だな。

 

 なんだよ、この超ド級の死亡フラグは・・・。

 てか、陸地ごと消滅ってマジなのか? 子供ながらに周辺の野山を駆け巡った俺には解る。

 この世界はそれなりに広い。

 それを消し飛ばすとか竜の騎士マジパねぇッス。

 

「ちょっと、でろりん? ホントに大丈夫なの? ホイミかけたげよっか?」

 

「いいよ。ネェちゃんのホイミは効かないしさ。

 それよりこの前ネェちゃんが言ってた王女様のスキャンダルってなんだっけ?」

 

 どんなネットワークがあるのか、ずるぼんは色恋沙汰なら宮中の事まで知っている。

 

「急にどうしたのよ? アンタやっぱり変じゃない?」

 

「良いからっ! 王女様の相手教えてよ!」

 

「ふーん? やっぱりアンタも興味あるんじゃない。 ソアラ様の玉の輿に乗ったのは、″バラン″って行き倒れの騎士らしいわ。

 良いわよね〜。玉の輿、憧れちゃうわ」

 

 ネェちゃん・・・。

 憧れる視点が微妙にずれてるんだけど。

 まぁ、ネェちゃんがあの″ずるぼん″だとしたらソレも納得か。

 って!?

 

「あぁーっ!!」

 

 思い出したぁー!!

 偽勇者ってダイの大冒険に置ける悪役第一号じゃないか。

 え? ってことはアレか? 俺は12や其処らの子供にイオラをぶっ放す役割を演じなきゃなんないのか!?

 

「ちょっと、何よ!? 急に大きな声出さないでよ! ってアンタ顔赤いし、熱有るじゃないの!?」

 

 素早く額に手を宛てて来たずるぼんに指摘され、知恵熱を出していると認識する。

 急に大量の前世の記憶を思い出した事で、子供の脳がオーバーヒートを起こしたようだ。

 不思議なモノで熱が有ると認識した途端、目が回りだし不覚にも倒れ込みそうになる。

 

「これはイケませんね。でろりん君。キミは今日の処は帰った方が良さそうですね」

 

 身体を気遣ったのか、授業を邪魔する悪童達を追い払いたかったのか、神父から退場を命じられた俺は、へろへろに背負われて青空教室を後にした。

 

 俺は朦朧とする意識の中で、「なんだこの無理ゲーは!!」と悪態をつくのだった。

 


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