「…グットイブニ〜〜〜〜ング!…アルキードのみなさん…!!」
全身を出現させた″男″は挨拶様にその手に持つ鎌を一閃し、妖術士の首だけを切り落とした。
「そ、そんな…」
黒い道化師のような服装に身を包み、笑いの仮面、手に持った鎌…そして肩に″ちょこん″と乗った一つ目ピエロ…。
マジかよ…コイツ…キルバーンか…?
なんでこんな所に…。
魔王軍が誇る死神″キルバーン″
大魔王の意に沿わない者を影で始末すると言われる殺し屋。その正体は使い魔と見られがちな一つ目ピエロの方で、冥竜王ヴェルザーの部下でもある。
本体である一つ目ピエロを狙えば簡単に倒せるハズだが、人形の方はアバンと互角だし迂闊に本体を危険に晒す真似はしないだろう…それに、所持するアイテムがチート級な上に黒のコアまで備えている。
もしや、バランがヤらなくてもコイツのコアでアルキードは消滅する羽目になるのか…?
てか、何だよ? その移動方法は!?
影から飛び出てジャジャジャジャーン!ってか?
コレだから移動系魔法は意味が解らん。
「貴様! 何奴!?」
妖術士の影から異彩を放つ男が突然出現した事で、妖術士を取り囲んでいた兵士達の輪が遠巻きになっている。
明らかに腰が引けているが逃げ出さないだけでも普通に凄い。
王の周囲もしっかり固められたし、野次馬達も慌てず避難を開始…って誘導してんのはカンダタ一味か?
ずるぼんもしっかり逃げた様で姿が見当たらない。
「ンッフッフッフ…ボクの事は気にしないでくれたまえ…」
おどけた口調で死神の鎌をくるくる回転させるキルバーン。笑顔を絶やさない仮面が不気味さを際立たせている。
コイツ…誰か殺る気か?
死神の鎌は、回すと方向感覚を狂わせる音波の様なモノを発したハズだ。
キルバーンは耳に聞こえぬ音波を用いて相手を無力化してから暗殺を行う。
コイツが鎌を回すという事は、衆人環視の元でも暗殺を企んでいる、という事だろう。
…あれ? これって普通にヤバくね?
動ける内に動かないと手も足も出なくなる。
だけど…身体が動かない…。
そうだっマトリフは!?
マスクの下の視線を上空に向けるも、マトリフの姿を確認出来ない。
「あいてっ」
キセルで殴られた。
「ジタバタするんじゃないよっ。みっともないねぇ」
チラリと俺を一瞥したルイーダは小さく呟きキルバーンへと視線を戻した。
いや、だから何で判るんだよ!? てかルイーダが堂々とし過ぎだ。もしや、キルバーンって判ってないのか?
「冗談は止しとくれ…そんな怪しげな格好を気にするな、なんてのは無理な相談さ…アンタが黒幕かい?」
驚き戸惑う俺を護るように、ルイーダ一歩前に出て死神と対峙する。
「…ンフフフ…ボクはそんなに偉くない…それより見事な手際だったよ…キミの眼を利用したつもりが、キミの眼に暴かれたのかな? 先ずは誉めてあげるよ…ボクとしてはそこのバラン君には死んで欲しかったけど、中々の見せ物だったよ…」
「どうだろねぇ…いずれアンタの主にもキッチリ落とし前つけてもらう、って事はハッキリ教えたげるよ」
いや、コイツの主はヴェルザーだって教えたハズだし…やっぱりキルバーンだって気付いてないのか?
「…ンフフフ…それは楽しみだねぇピロロ?」
重ねて言うがコイツらは一人二役。
種を知ってれば滑稽だが、今はそんな突っ込みを入れる余裕もない。
「キャハハハっ。おばさんは″いずれ″が有ると思ってるんだ?」
キルバーンの肩を離れたピロロがルイーダの目の前で宙に浮き小さな身体全体でバンザイしている。
「キミの眼は少々厄介だからね…ここで消えてもらうよ…」
人形の方も兵士達の囲みを悠然と抜けゆっくりと歩み寄ってくる。
くそっ…狙いはルイーダの眼か!
なんとかしないと…。
でも、どうすりゃ良いんだ!? こんなの予定に無いぞ!
ここでキルバーンを倒して良いのか!? いや、そもそも俺じゃ勝てないっ。
「おい! バラン!」
いつまでも二人の世界に浸ってんじゃねぇ!
バランに目を向けるとソアラが頭を押さえ、心配そうにバランが声をかけている。
やべっ!?
もう死神の鎌の効果が出ている!?
見るとキルバーンを取り囲んでいた兵士達も槍を手放し頭を押さえている。
暗殺用だと思っていたが集団戦でこそ威力を発揮するんじゃないのか?
「″いずれ″が無いのはどっちかねぇ?」
そんな中でルイーダには効いていないのか、微動だにせずキセルを吹かしている。
「ンフフフ…強気も良いけど見てみなよ? キミ以外動ける人はもういない…頼りのバラン君はキミに構ってる暇は無さそうだね…この鎌を首筋に突き付けた時、キミの目がどう歪むか見物だと思わないかい?」
人形が言うように、この広場で動ける者は俺を含めて誰もなく、兵の囲みを抜けたキルバーンを遮る物は何もない。
「キャハハハ。泣いても許してあげないよ」
暗殺達成を確信しているのかピロロは人形から離れルイーダをからかい続けている。
アイツだ。
アレさえ殺れば!
いや、でもピロロを狙えば不自然か?
違うっ、今はそんな事を気にしている暇は無い!
動けっ俺! 何故動かんっ!?
ここでルイーダを救えないなら最初から何もせず、ニセ勇者だけしてれば良かった事になる!
「くっそぉぉ!!!」
盾を眼前に構えてルイーダの背後から飛び出た俺は、ピロロにタックルをぶち当てるも足が縺れてそのまま倒れ込む。
その瞬間、
動きの止まった人形に天から光の矢が降り注いだ。
なんだ?
メドローアか?
人形が居た大地には円状の穴がぽっかり空いて煙一つ上がっていない。
残された鎌と、ソレを握り締める手首が人形の消滅を物語っている様だ。
「そ、そんなぁ…消えちゃったぁ…誰だよ! こんな酷い事をする奴は!」
俺から離れたピロロが上空を睨み付けるも、既にマトリフの姿はなくルーラの光だけが輝いていた。
マジか?
こんな簡単にキルバーンを倒しても良いのか?
そもそも黒のコアってメドローアで消滅するのか…? 現に跡形もなく消えてるんだけど誘爆の危険もあったんじゃね?
てか、この手際の良さやルイーダの台詞、マトリフが上空に残った事を考えれば計画通りなのか?
俺は何も聞いてないぞっ。
「耳の穴かっぽじってよーくお聴き…カンダタ一味に舐めた真似したらこうなるのさ」
「許さない…絶対に許さない…」
ヨロヨロと穴に歩いたピロロは残された鎌を拾い上げぶつぶつ呟いている。
「はんっ。オチビちゃんに何が出来るってのさ? あたしゃルイーダさ。文句があるなら何時でも来なっ」
いや、コイツ暗殺専門だから…って、そんなの問題じゃないんだろな…ルイーダにアバンのしるしを持たせたら″覚悟″の光が灯りそうだな。
…俺は、なんだろう?
アバンのしるしを手にしたら光るんだろうか?
なんて他愛ない戯れ言を考えている内に、ピロロは人形の腕だけを回収し音もなく消え去った。
予定外のハプニングが起こったモノの、こうして″バラン救出作戦″は成功に終わり、ソアラは王女として城に残り、バランは王女を支える最強の騎士として名を広めていく事となる。
そして、アルキードに暮らす人々も平凡な日々を送っていくのであった。
アルキード消滅阻止により、バラン最強伝説の幕開け、キルバーンと黒のコアの消滅…この先の展開は不透明になってきている。
俺の原作知識はもう役に立たないかも知れない。
それでも俺は、このアドバンテージを元に精一杯足掻いてみせる。
全ては長生きの為に!!
人知れず、そんな決意をカンダタマスクの下で固めるのであった。
× 死神の鎌
○ 死神の笛
説教部分は全面カット。
王女としての心構えがうんたらかんたら、バランは騎士として王女を支えてどうのこうの、お礼に剣をくれ!→なんと強欲な! 騎士にとって剣は命とかなんとか。
真魔剛竜剣の取得は失敗。
死神の笛は回収してます。