でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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三賢者とバラン

 あれから3年の歳月が流れた。

 

 世界は何事もない平穏な日常を刻んでいる。

 現在の所キルバーンは成りを潜め、バランに対する魔王軍の接触も無い様だ。

 

 このまま何事も無く平和な日々が続いていく、そんな錯覚に陥りそうになる…世界の中で足掻いているのは俺だけかも知れない。

 

 一年前、15歳の成人を迎えたずるぼんとへろへろは、冒険者としてまぞっほと共に世界各地を回る旅に出た。

 

 ずるぼんは、カンダタ一味の元で三年近い修行に励んだ結果″なんちゃって″が取れて普通の僧侶にランクアップしている。

 一年前の旅立ちの日「あんたは子供だから連れてかないわよ」とお姉さんパワーを発揮していた。

 10歳の子供を連れ出しアルキーナを旅立ったのは忘却の彼方のようだ。

 まぁ、ずるぼんらしいと言えばらしいので応援だけして見送った。

 

 へろへろは元来の素直な性格が幸いして、教えを忠実に守りかなりのレベルアップを果たしている。

 一年前の旅立ちの日、餞別代わりに正面から正々堂々剣のみで闘ってみたら、普通に負けた…。

 まぁ、俺の本領は剣と魔法を組み合わせての騙し討ちだから別に良いし、へろへろが強くなれば頼もしい限りだ。でも、少し悔しかったので筋トレ、素振りの量を増やすことにした。

 

 まぞっほはお目付け役として同行しているが、実の所はルーラで行ける場所を増やすのが目的だ。

 マトリフ指導の元、僅かに力を増しルーラを修得した事でずるぼん達と旅立てるのを心底喜んでいた。

 まぁ、俺に比べたら全然ましな修行風景なんだが、見送りの際には「おめでとう」と言っておき、路銀として10万ゴールドを預けておいた。

 ルーラを使わず世界中を巡るには二年程度の時間を要し、その間のずるぼんの世話を頼むようなもんだし必要経費だ。

 お陰で武器作製の道のりが少し遠退いたが、まぁ良いだろう。

 

 ルイーダ達は今迄通りの生活を送っている様だ。

 姿を現してもいない大魔王相手にアタフタするのは性に合わないそうだ。

 俺の神託を信じていない訳でもないが、実に堂々としたものである。

 かと言ってルイーダ達カンダタ一味が何もしていない訳でもない。

 仕事の依頼として適切な代価を払えばそれこそ″何でも″してくれる。

 ある意味で一番動いているのは一味かも知れない。

 ラーハルト捜索もその一つだ。しかし、捜索は難航しており、年間で5万を越える費用が負担になってきている。

 そろそろ打ち切りも視野にいれないといけない…。

 まぁ、見つかれば百万ゴールド以上の価値があると分かっちゃいるが、ラーハルトが健在と限らないのが悩ましい所以だ。

 

 マトリフは「下手に動いて大魔王の警戒を招くのは愚の骨頂」との観点から原作と同じく隠遁生活を開始している。

 大魔王の警戒を気にするだけでなく、打てる手が少ないのも隠遁生活を送る理由になっている様だ。

 完成された大魔道士であるマトリフ自身の成長は見込めず、メドローアを託せる程の人材に当てもない。

 魔王軍のチェックリストに入っているマトリフが大々的に弟子を募る訳にもいかず、原作知識を元にスカウトしようにも北の勇者″ノヴァ″や″ロモスの強豪達″が強者のカテゴリーに入ってくる有り様。

 彼等は人間としてなら充分強いが、大魔王とやり合うには力不足なのは明らかで、″獣王″の異名を持つクロコダインは城の兵士を「吹けば飛ぶ」と評しており、ニセ勇者でろりんが勇者として尊敬を集められる事からも全体的な平均レベルは低い、と伺い知れる。

 アバンやその使徒達がこの世界の強さから外れた存在と言えるのではないだろうか。

 結局、ポップの成長を待ちながら、カンダタ一味にも人材スカウトを依頼して、マトリフ本人はなるべく洞窟から離れない生活を送らざるを得ない、らしい。

 俺との1分間の闘いも洞窟の地下に巨大な空間、前世で例えるなら体育館並の広さの部屋を作り、そこで行う徹底振りだ。

 マトリフの洞窟へも地下道を作り移動する念の入れようで、今は数キロ単位の地下道をいずれは数十数キロ単位に伸ばす計画だ。

 前世に比べると人の身体は頑丈に出来ているが、重機も使わず造ろうと考える発想が凄い。

 採掘作業でバレるんじゃないかと少し心配だが、そこはマトリフとカンダタ一味、抜かりはないと信じている。

 一つ問題をあげるならカンダタ一味から人員を借り受けるにも、地下道を補強する資材にもお金が掛かり、それを俺が払っている事ぐらいだろう。

 まぁ、俺の修行場所だし俺が払って当然と思える一方で、何時になったら目標金額が貯まるのか不安にもなってくる。

 生きるということは何かとお金がかかる、と身に染みた3年間だった。

 

 

 そんな俺は、ほぼ毎日地底魔城に籠っている。

 今では地底魔城の主として、俺を知らなきゃ″モグリ″と言われるほどの地底魔城の″顔″になっている…と言っても素顔はマスクで隠しているんだけどな。

 性能の良さからカンダタマスクを被り続けていたのが、今となっては幸いしている。

 と言うのも同じ場所でただひたすらに金を稼ぎ続けるのは一種異様な存在で、素顔でやっていれば噂になっていたかも知れない。

 まぁ、今も噂になりまくりで、地底魔城入口には「モンスターではありません」と俺のマスク姿が張り出されている始末。

 しかし、これはカンダタ一味としての仕事とみられているだけで、カンダタ一味が金稼ぎに精を出すのは何ら不自然ではない。

 カンダタマスクの下の素顔を知っているのはアポロ達だけなので、今後も″ニセ勇者″としての活動以外では被り続けようと思っている。

 

 アポロ達が素顔を知っている理由は実に単純な理由、偶然出くわし話し掛けられたら体格と声でバレた。

 当初は隠す目的でマスクを被っていた訳でなかったし、顔を護れるオススメ装備としてマリンに向かって力説したら、変な顔をされたのは苦い思い出となっている。

 性能さえ良ければ、見た目? ナニソレ? であるべきなのに、未来を変えるのは難しいようだ。

 

 色々あったアポロ達だが今では立派な腐れ縁。時折出会ってはパーティーを組んで闘う事が多くなった。

 パーティーを組む事で殲滅速度は倍になり継戦能力も倍になり、1人で進むより奥地迄進む事ができて、1日単位の獲得ゴールドは1人比で五倍にも達する。

 一方でゴールドを人数割りしている為、あまり意味がなかったりもする。

 アポロは何かと張り合ってくるし、マリンは何かと突っ掛かってくるし、エイミは何かと危なっかしい。

 正直1人でやってる方が楽なようにも思えるが、それもこれも金の為だ。

 余談になるがアポロ達3人は俺以上に稼いでおり、その金でテムジンの元から独立し、未だ復興途上のパプニカ再建に尽力しているそうだ。

 全く立派な行動だが、俺の金の使い途に迄″チクリ″と言ってくるのは勘弁してほしいぞ。

 

 

 最近はアポロ達も姿を見せず今日も1日平穏に過ごせる…そんな風に考えて地底魔城に入ろうとしたある日の事。

 

 超ド級の厄介事を連れアポロ達がやって来た。

 

 

「やっぱり今日も居たわね」

 

 俺のバギで切れた髪もすっかり伸び、後ろで束ねたマリンは原作とほぼ変わらない容姿に成長している。

 

 だが、そんな事はどうでも良い。

 

「うげっ!? 英雄バラン!?」

 

 世界で一番会いたく無い人ランキング、堂々1位のバランが現れた。

 ダイを拉致した後ろめたさからバーンよりも会いたくない。

 

「ほぅ? 私を知っているのかね?」

 

「ちょっと、でろりん! 「うげっ」とは何よ! 失礼でしょ」

 

 竜騎将スタイルで真魔剛竜剣を背負い、左目には″ドラゴンファング″まで着けた完全装備のバランが訝しげに俺を観ている。

 

 マリンが怒るのは何時もの事なのでスルーだ。

 てか名前を出すな、名前を。

 

「アルキードの者で″英雄バラン″を知らない人なんていませんよ」

 

 この3年でバランの名は世界中に広まっている。

 アルキード王は顕示欲の強い人物らしく、バランが強いとみるや否や全面的に受け入れ、最強の騎士として事ある毎に自慢しまくっているそうだ。

 アルキードの騎士として何もしていないバランが″英雄″と呼ばれるのは、一重にアルキード王のごり押しによるものである。

 近頃では新たな孫の誕生を今か今かと待ちわびているそうだが、俺はもっと待っている。

 原作のバランがディーノを諦めたのは″人類の抹殺″という目標を得たことが大きく影響していると思われる。

 新たな子供が産まれれば子育てが目標となり一先ずディーノを諦めてくれるんじゃないかと密かに期待している。

 

 酷い話だな…。

 

「君はアルキード出身なのか?」

 

「出身もなにも見れば分かるでしょ? 悪名高きカンダタ一味です」

 

「何っ? この私の前で悪だと名乗るか?」

 

「バラン様! お待ち下さい! この者は卑怯で小賢しく平気で嘘もつく自分勝手な者で有りますが、悪ではありません!」

 

 ピクリと眉を吊り上げたバランの前で、マリンが両手を広げている。

 

「いや、フォローになってねぇし…大体、英雄バランはカンダタ一味の事を知ってるハズです」

 

「許せ、戯れ言だ。いつぞやは世話になった」

 

 その髭面で冗談は止せ。

 てか、天下の竜の騎士も城で暮らせば世俗にまみれるのか?

 

「別に…一味の面子の為にした事ですから貴方が気にする必要はありません。それで? 本日は何をしに此方へ?」

 

 凡その見当はつく、ってかアレしかないが一応聞いておこう。

 

「お前達なら知っておるかも知れぬが3年前のあの時、我が息子ディーノは拐われたのだ…私は時間の許す限り探しているのだが未だ手掛かりすら掴めんでな…」

 

 長年の苦労からか、冴えない表情のバランが言葉を濁した。

 原作通りといえど、こんな表情を見せられれば流石に罪悪感を感じずにはいられない。

 

 だから会いたくなかったのに…。

 

「バラン様は助力を求めてパプニカに来られたのだ。子を思う親心に感銘を受けたパプニカ王は、即座に地底魔城の案内を僕達に下知されたんだ」

 

 バランとは対称的な晴れ晴れとした表情で、アポロは誇らしげに胸を張った。

 この3年で成人を迎え今では立派に賢者を名乗っているアポロだが、王からの勅命はこれが初めてになるはずだ。

 気合いが入るのは頷ける話だが、命令されることの何が嬉しいのかは理解できそうにないな…

 パプニカは絶対王制であり王が偉い。

 俺だって故あれば王に頭を下げもするし、下手に逆らおうとも思わない。だけど、命令に喜びを感じる事は無いだろうな。

 

 まぁ、アポロはアポロだしどうでも良いか。

 

「この迷宮の事なら私達がパプニカで一番詳しいからね」

 

 こちらも誇らしげなエイミの言葉。

 この3年で少しは成長しているがまだまだ幼さが残っている。

 

 まさかと思うが″私達″の中に俺を含んでないよな?

 

「だからでろりんの元に御足労願ったのよ」

 

「いや、だからじゃねーし、名前を出すなっ」

 

「あら、そうだったわね。ごめんなさい」

 

 非を認めれば直ぐに謝るのはマリンの良いところだと思うが、こうも素直に謝られたら追及出来ない。

 もしや俺の小物的思考を見切ってわざとやってるんじゃないだろうな?

 

「でろりん、で良いのか? すまぬがこの迷宮の案内を頼めるか?」

 

 バランは小さく頭を下げた。

 アポロ達は「お止めください!」と慌てている。

 

 最強の騎士であるバランが変なマスクの悪党に頭を下げる意味は俺にだって解る。

 

 それだけ必死なんだ…。

 

 はぁ…。

 

 ディーノは絶対に居ないけど、ここで断るのは不自然だよな…。

 でも、素知らぬ顔で案内するのは辛すぎる。

 なんでこんな目に合うかなぁ…俺が一体何をした!

 

 ってダイを拉致した因果応報ってヤツか…。

 

 仕方ない…。

 

 サクサク案内してお帰り願おう。

 マスクで表情はバレないし何とかなるだろう。

 

「別に案内は構いませんけど、ゴールドは貰いますよ?」

 

「貴方ってホンッと強欲ね!?」 

 

 俺の言葉にアポロとエイミは硬直し、マリンは呆れ顔で突っ込んでいる。

 

「強欲? そうか、聞き覚えのある声だと思っていたがお前はあの時のマスクの男か?」

 

 うげっ!? バレた?

 声変わりで声質も変わったし大丈夫だと思っていたが上手くいかないもんだ。

 てか″強欲″が結び付けるキーワードになるってどうよ…。

 

「さぁ? どうでしょう? マスクを被った俺達は個を捨て一味の為に動いてます。貴方の言う″あの時″が俺かも知れないし俺じゃないかもしれません。確かな事は言えませんが、一つだけ言えるのは俺かどうかに意味は無いって事ですね」

 

 自分でもよく解らない理屈を捏ねてみる。

 上手く煙に巻ければ儲けものだ。

 

「ふむ…。個を捨てる為に仮面を被ると言うか…。なるほど、人間とは面白いモノだな」

 

「バラン様! 彼の言うことを真に受けてはいけません!」

 

「そうです! この子が雄弁に話す時は大抵嘘をついています」

 

「そうよ! 嘘付きだわ」

 

「お前等…どっちの味方なんだよ…」

 

「バラン様だ」

「バラン様ね」

「バラン様に決まってるわ」

 

 全く…酷い話である。

 

 こうしてバランを連れた俺は、ディーノが絶対にいない地底魔城を案内するのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ここが最後の部屋です」

 

 バランをパーティーに加えた俺達は破竹の勢いで地底魔城を突き進み″あっ″という間に最奥の部屋へ続く扉前に辿り着いた。

 この扉の奥は恐らくアバンとハドラーの決戦の地であり、その根拠はここに続く迄の意匠とこの部屋の中の存在だ。

 

 当たり前の話だがバランは恐ろしく強かった。

 どれくらい強いかと言うと、俺の思考を変えそうになる程に強い。

 紋章の力すら使わず、圧倒的な技量のみで現れるモンスター達を葬ふ様はまさに闘神。

 俺が先手必勝、マトリフが後の先ならバランは先読みだ。1ターン後の攻撃を読み切り、敵の攻撃を無効化しつつ攻撃を加える。

 ″アルキードの騎士として何もしていない″なんて考え違いも甚だしく、この闘いぶりを見れば其れだけで英雄として崇め、味方であると思いたくなる。

 マトモな剣術を目の当たりにするのは初めてだった俺は、剣術、いや戦闘技術の大事さを改めて思い知った。

 俺の剣は我流だし、マトリフだって剣に関しては素人だ。一度、誰かに稽古をつけてもらい先人達の技術の結晶を学ぶのも有りかもしれない…でも師匠候補が居ないんだよな…。

 バランと向き合うのは精神的にキツイし、アバンと行動すれば魔王軍に目を付けられるし…あとはホルキンス、か?

 

 うーん…やっぱり強者が少ないよな…。

 

 

「そうか…。手間をかけたな」

 

 そう言ったバランは扉に手を掛け軽く押した。

 

「お待ち下さい!」

 

 アポロが止めるもバランは躊躇う事なく扉を潜り抜け、最後の部屋へと足を踏み入れた。

 

 俺達はこの部屋に何が居るのか知っている。

 以前この部屋迄辿り着いた俺は、僅かに開けた扉の隙間から鏡の角度を調整して中を覗き見た事がある。

 室内にはドラクエ3の最強クラスの雑魚モンスター″スカルゴン″が3体以上も居たのだ。

 この迷宮を徘徊するモンスターと比べ明らかな格上の存在に、この時ばかりは俺の鏡を用いた進路確認も褒められ、中に入る事なく立ち去ったもんだ。

 でも今日は既にバランが入ったわけだし、覚悟を決めて行くとしよう。

 

 

◇◇

 

 

「凄い…アレは魔法力!?」

 

 ″決戦の間″に足を踏み入れた俺達四人は、バランの放つ圧倒的な何かに押され、一歩も動けずただその闘いを眺めていた。

 

 スカルゴンとの戦闘を開始していたバランの全身は光に包まれていた。

 これぞ竜の騎士の強さの秘密″竜闘気″だろう。

 

 しかし、俺の目にはドラゴニックオーラよりも″闘いの遺伝子″がチート過ぎてヤバく見える。

 スカルゴンの数は六体。

 その全ての動きを見切っているのか此方を一瞬たりとも振り返らず、まるで最初から形の決まった舞でも踊る様に華麗に交わし、一刀の元に切り捨てていく。

 背中しか見せない闘神…これはマジにダイの出番は無いんじゃないのか…?

 

 いや、バランが相手となるとバーンだって油断はしないハズだし、バランに成長は見込めない。

 やはりダイに成長してもらい確実に大魔王の力量を越えてもらう方が良いハズだ。

 そうでないと、ダイを拉致した意味がなくなるからな…。

 

「見て! アポロ!」

 

 マリンが部屋の隅を指差す。

 

 黒い霧の様なモノが立ち込めている。

 

「バラン様は気付いているのか?」

 

「いや、言ってないから知らないんじゃね?」

 

 黒い霧はモンスター出現の前兆だ。

 アレを目撃するのは結構なレアケースだから一般的には知られていない。

 地底魔城の主である俺だからこそ知っている情報だと自負している。

 

「呑気に言ってないでなんとかするわよ!」

 

 マリンは杖をぐっと握りしめ今にも部屋奥へと駆けていきそうだ。

 

「ほっといても良くね? 英雄の名は伊達じゃなかったし、余計な真似は逆に足を引っ張る事になる」

 

 仮にスカルゴンが五体発生してバランに不意討ちかましても、竜闘気有る限り無傷だろう。

 それよりもこの位置を動いたアポロ達が、バランの額に輝いているであろう紋章を目撃する方がヤバい。

 

 

「君はっ…どうしてそう人任せなんだ!? ゴールドだけを回収して恥ずかしくないのか?」

 

 バランは勿論、何もしていないアポロ達もゴールドを要求してこないので、本日は荒稼ぎだったりする。

 

「んな事言ったって俺の目的は金稼ぎだから、金を集めて何が悪いんだよ? 俺が自分の時間を潰して何の見返りもなくバランを案内する理由はないぞ。案内ついでにゴールド回収するのは当然じゃねーか」

 

 とりあえずバランの戦闘が終わるまで、喧嘩でもして時間を潰すとしよう。

 

「姉さんもアポロも、でろりんなんかに構ってないで攻撃しましょうよ? どうせこの人は危なくなったら手を貸してくれるわよ」

 

 うげっ!?

 まさかのエイミ?

 普段は冷めた目で俺達の喧嘩を見てるクセにそんな風に思ってたのか?

 

「そうね」

 

「そうだな…いくぞ! メラゾーマ!!」

 

 エイミの言葉にマリンと顔を見合せ頷き合ったアポロは、俺より先に覚えたメラゾーマを唱えた。

 

 下手に突っ込まず遠距離を選んだのは悪くない。

 

「メラミ!」

「メラミ!」

 

 合わせて姉妹も黒い霧に向けてメラミを唱える。

 

「それじゃ足りないっつーの! イオラオラぁ!!」

 

 俺は遅れて二つのイオラを投げ付ける。

 出現するのが二体程度ならこれで倒せるハズだ。

 

 ″ドォーン″と爆音上げてイオラが着弾し、室内を振動が走りパラパラと小石が天井から落ちてくる。

 

「ちょっと、それ止めなさいよ!? 崩れたらどうするのよっ」

 

「大丈夫だって。ここは魔王ハドラー最後の地だろ? こんな程度じゃ崩れねーよ」

 

 魔王ハドラーはイオナズンを使えるんだ。

 イオラの二発程度で崩れたら今頃この部屋は存在していない。

 

「それはそうかも知れないけど、ここがそうだと限らないし迂闊な事に変わりはないよ」

 

 玉座っぽいのも在るし、どう見ても″決戦の間″なんだけどな…原作知識が無いと解らないか。

 

「はいはい。それよか油断するのはまだ早いぜ? いつも言ってんだろ? あぁやって爆煙の中で死んだフリされてたらどうすんだ?」

 

「あなたじゃないんだからそんな卑怯な真似はしないわよ…」

 

「気を付けるに越したことは無いけど、その理屈はちょっと無いんじゃないかな?」

 

「だから! でろりんなんか真面目に相手したらダメだって」

 

 3年目の新発見。

 エイミは俺に冷たい。

 

 てか、名前を呼ぶなっつーの。

 

 

 そうこうしている内にスカルゴンを倒し終えたバランが、抜き身の剣を持ったまま此方に歩いてきた。

 

 当たり前だが紋章は浮かんでいないし一安心だ。

 

「アレはお前達がやったのか?」

 

 剣先を爆発後に重なる骨に向けて問うバラン。

 こんな動作にも隙が見当たらない。

 

「はい。差し出がましいかと思いましたが…」

 

「いや、その若さで見事なものだ…特に、マスクのキミだ」

 

「そうですか? 貴方の強さには全然及ばないと思いますけどね」

 

「褒められた時くらい素直になれないのかしら?」

 

「全くだよ」

 

「でろりんだからね」

 

「強さではない。戦場における心構えの事を言っているのだ…人間は直ぐに死ぬ…臆病なくらいで丁度良いのだ」

 

 剣を納めたバランが寂しげな瞳をしながら語っている。

 

「さすがはバラン様、肝に命じておきます」

 

 未来の三賢者は恭しく頭を下げている。

 

 いや、俺が似たような事を言っても聞かないクセになんだその態度の差は!?

 

「俺は心構えより強さが欲しいですけどね」

 

「あら? あなたが欲しいのはお金じゃ無かったのね?」

 

「金は強さを得る手段だし、強さも目的を達成する手段だな」

 

「あ、でろりんの目的ってちょっと興味あるかも?」

 

 幼さの残るエイミが目を輝かせて聞いてくる。

 

「別に大した事じゃないぞ? 長生きしたいだけだからな」

 

「ほぅ。それは面白いな。長生きしたいと言いながら戦場に身を置くか?」

 

 やべっ!?

 エイミに答えたハズがバランの興味を引いてしまった。

 

「…色々あるんですよ。金は稼げる内に稼いだ方が楽ですから。城に住まう貴方には解らないかも知れませんね」

 

「そうであるな…人間は金が無いと何かと不自由な生き物だ…。それにしてもルイーダといい、カンダタ一味と言うのは実に面白い人間達だな」

 

「そうですか?」

 

 てか、バランの″人間″発言が気になるぞ。

 

「お前は面白い。今日の礼に稽古をつけてやるから何時でも城に来るが良い」

 

「折角ですが必要ありません。お礼はこの部屋のゴールドと、貴方の闘いを見れただけで十分です」

 

 バランの稽古は魅力的だが、素知らぬ顔で師事できそうにない。

 

「そうか…世話になったな…では戻るとしよう」

 

 肩を寄せ合い″リレミト″の準備に入る四人。

 リレミト嫌いな俺はその輪に加わることはない。

 

「一つ良いですか?」

 

 魔法力に包まれていくバランを呼び止める。

 

 余計な口出しかもしれないが、言っておこう。

 

「何かね?」

 

「貴方は強い。強すぎるくらいです…そんな貴方が″人間″と呼ぶのはどうかと思いますよ? …人間は臆病ですからね」

 

「むっ…そうであるな。覚えておこう」

 

 顔をしかめたバランは短く答えた。

 アポロ達は変な顔をしていたし、上手く伝わったかどうかは解らない。

 

 解らないが今日1日で得たものは大きい気がする。

 

 主に、ゴールド的な意味で…。

 

 

 こうして、アポロ達はバランと共に″リレミト″で去り、1人決戦の間に残った俺はゴールドを回収し、気になった所を調べ、強くなったら又来る事を誓って部屋を後にした。

 

 

 

 

 ソアラ王女が懐妊した報せを受けたのはそれから間もなくの事であった。

 


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