ダイを拉致してから10年が過ぎ、21歳となった俺はロモスに居た。
ロン・ベルクへの武具製作依頼は思ったよりも順調に済み、ジャンクから「狂人同士気が合う」と呆れられたモンだ。
ロンを口説いた決め手は事情を見抜いた風を装いつつの「変わったモノを作るのは、目的のモノを作る役に立つ」だ。
原作知識を元にした完全なカンニングだが、お陰でロンからは鋭い洞察力の持ち主と思われている。
そんなロンに依頼した変わった武具は全部で四種、六個になる。
まず、重さと丈夫さを重視したへろへろ用のハンマー。これにはベタンを参考に重力調整機能を付け、持ち運びの負担を減らす事に成功している。
重力調整と言っても、あくまで戦闘外の負担軽減が目的で、本来の重さを越えて重くなることはない。
俺を含めた魔法を使える3人には伸縮自在の便利武器″ブラックロッド″の色違い板を造った。
伸縮させるには″コツ″が必要で、初見で使いこなしたポップの戦闘センスには舌を巻く思いである。
因みに、3人の中ではずるぼんが一番扱いに長けていたりするが、前衛には出さない。
そして、攻防一体となる俺用の籠手。甲から肘までがカバーされ、右手にはチェーンウィップにもなる剣、左手には爪が仕込まれている。魔法使用の利便性を考え指先と掌は覆っていないが、両の拳で顎を守るビーカブースタイルと言われる姿勢をとれば、体の前面を護れる盾にもなる優れものだ。
これ等は半年と掛からず出来上がったが、大枚を注ぎ込んだ″鎧化″する本命は微調整に手間取っており、未だ仕上がっていない。
一朝一夕で造れるとは思ってなかったが、武具製作から3年が経ち、大魔王降臨まで2年を切った。
つくづくアバンに出会えたのは僥倖だったと思う今日この頃である。
もし、あのタイミングで会えてなければ最悪、大魔王降臨までに武器が仕上がらなかったかもしれないし、俺は今以上に迷っていたはずだ。
それは兎も角、ゴールドを集める必要の無くなった俺は、武器が完成する迄の間に世界を巡り、時に人里を荒らすモンスター退治を請け負い、ある時はドラゴンが住まう山に入って鱗を求めて冒険し、又ある時には城の兵士にイオの同時使用を指南したりと、地道に名を広めていった。
しかし、金銭感覚がおかしくなっていたのか、割高の報酬を要求してしまい、自らの過ちに気付いた頃にはギルドメイン大陸における俺の評判はすこぶる悪いモノになっていた。
更にベンガーナの武道大会でアッサリ敗退したのも悪評に拍車をかけた。
手っ取り早く落ちた名を高めようと参加してみたが、剣のみ魔法不可の大会ルールが災いして決勝トーナメント一回戦でへろへろに負けた…という、なんともバツの悪い結果だ。
そのへろへろは決勝でホルキンスと名勝負を繰り広げた結果惜しくも敗れ、高まったのはホルキンスとへろへろの名声ってオチになっている。
失敗を繰り返した俺は、ギルドメインから勇者パーティーを率いて脱出し、ロモス城下に拠点を移して地道に魔の森のモンスター退治に励んでいる。
原作的にロモスでの失敗は許されないし、しないとも思っている。
色々変わっているが、ポップはいつの間にか家を飛び出しアバンに弟子入りしているし、パプニカ三賢者はしっかりアポロ、マリン、エイミになっているし、意図的に変えない限り原作の流れに落ち着くハズである。
念の為、報酬は要求せず王宮にゴールドを献上する事で名声を高める、といった手段も選んでいる。
まぁ、ぶっちゃけて言えば金で名声を買っているんだが、平和な世の中、一発で名声が高まる事件なんかない訳で、結局、地道が一番と言うことだ。
俺の見立では″魔の森″の一部は迷宮であり、モンスターが尽きる心配も無いだろう。
細心の注意を払いつつ、魔の森に入ってはモンスター退治に励み、金が貯まっては役人に届ける…そんな生活を送って二ヵ月が過ぎたある日のこと。
「やっと倒せたわね…。 でも、頑張って倒しても意味無いわよねぇ〜?」
魔の森を徘徊する強敵″ライオンヘッド″を倒すと同時に駆け寄ってきたずるぼんは、ゴールドを拾い上げ眺めると、溜め息混じりに軽くぼやいた。
「そうじゃのぅ…お主なりの考えも有るじゃろうが、いささか気前が良すぎるのではないか?」
腰をトントン叩きながらまぞっほもぼやいている。
「俺はリーダーに付いていくぜ。リーダーが居るからゴールドが落ちる。ならばゴールドの半分はリーダーのモンだ」
へろへろの金に関する計算と理解は鋭い。
彼の後押しも有って、現在のゴールド分配率は、50%が王宮への献上金として俺が預かり、残りの50%を5等分して個人的な報酬とパーティー資金に充てている。
「そう言うな…晩餐会に出たいんだろ?」
ずるぼんのいつものボヤキを聞きながら、聖石を使って五芒の結界を造っていく。
腹も減ったし回復がてら昼飯にしよう。
「そりゃ出たいけど…こんなにお金が掛かるなら、ちょっと考えるわ…これなら私達で街でも作った方が安上がりじゃない?」
俺の動きを察したずるぼんは、倒れた木に腰を降ろして風呂敷を広げ食事の準備を開始する。
声を掛けずとも判る、苦楽を共にしたパーティーの阿吽の呼吸だ。
でも俺は、コイツらの事も騙してるんだよなぁ…。 何時になったら偽りの勇者を辞められるのやら。
まぁ、それもこれも自分で選んだ道、泣いても笑っても後2年。この2年の頑張りが将来を決める。
「それじゃ只の成金の成り上がりだ…晩餐会には名声が必要だろ? ・・・こんなもんだな…邪なる威力よ退け! マホカトール!」
聖石の補助さえあればマホカトールを使える俺は、村作りに向いているかも知れない。
だが、俺にとって大事なのはロモスで名を上げる事であり、街の支配者なんかには今の所、興味がない。
結界を張り終えた俺は、倒木に座るずるぼんの横に腰を降ろして、広げられたバスケットに手を伸ばしサンドイッチを掴み取る。
「それも納得いかないわよ! どうしてでろりんが悪く言われなきゃ成らないのよ!? 竜の鱗も世界樹のしずくも、自分達で取るより安いから、自分達じゃ取れないから報酬を払ったくせにっ…後からがめついとか強欲とか…あったま来ちゃうわ!」
「実際吹っ掛けすぎたから仕方ねーよ…ロモスじゃ逆に金を献上してるんだから上手くいくさ」
「それはどうかの? 役人が横領しとらんとも限らんぞい?」
地べたに腰を下ろしたまぞっほも、カップを片手にぼやいている。
「まぞっほじゃあるまいしやらねーよ…まぁ、無視出来ない位持ち込めば良いさ…まだ、時間はある」
「時間とな? 期限でもあるのかの?」
相変わらず変に鋭いまぞっほである。
「言葉のあやだ…あと数年はまぞっほも元気だ…ってな」
「言いよる…じゃがワシは兄者の様に100まで元気にやっとるわい」
そのマトリフは最近元気じゃないんだけどな…。原作でも病を患っていたが、病の進行が早まっているのか判断に困る所である。
何度か世界樹のしずくを届けたし、無事にメドローアの伝授を終えてほしいものである。
それ以外なら俺で代用可能だし、マトリフの分までやってみせる。
「あ、そうだ! 良いこと思い付いたわ! この森には物凄く強くって、変な武器を持ったモンスターが居るって酒場のおじさん達が言ってたわ。それを倒して証拠の武器を持ってけば、王様が褒美をくれるんだって」
サンドイッチをくわえ柏手を打ったずるぼんが、1人で喋って1人で頷いている。
いや、それ獣王だから…勝てねぇし、勝ってもヤバイし。
「国が報酬出す様なターゲットは狙わねーよ。そんな化け物なんか相手にしなくたって金は稼げる…地道に貢いでりゃその内王宮にも呼ばれるさ…ってか、そういう事は言うなって前から言ってんだろ? 出てきたらどうする」
「弱気はリーダーの悪い癖だな。出てきたら倒すだけだぜ」
頼もしきへろへろは、地べたに胡座をかいて逆さに持ったハンマーで″ドン″と大地を叩き付ける。
「そうよ! ドラゴンも倒せるアンタ達3人に倒せないモンスターなんて居ないわよ! 竜王だかなんだか知らないけど、居るなら出てきて欲しいわ」
骨付き肉にかぶり付いたずるぼんは、1人興奮して虚空に向かってパンチを放っている。
その時…っ!
『出てきてやったぞ!』
木々を″バリバリ″薙ぎ倒して、鎧を付けた大型のリザードマンが現れた!
「うげっ!? 獣王クロコダイン!?」
一応驚いてみたが、内心は″やっぱり出たか″である。
百獣魔団長にして、ダイ達の頼もしき協力者。
この森で一番会いたくない人ランキング、堂々一位のクロコダインだ。
因みに、森で一番会いたい人ランキング、堂々一位の拳聖には会えていない。
「ほぅ? 俺を知っているか…如何にも俺こそがクロコダインだ! 俺の森で好き勝手しておる者共の顔を見に来てやったわ!」
この森で活動すればクロコダインに出くわす危険が高いのは知っていた。
知っていたけど、それでも森で勇者ごっこをやらないわけにもいかなかった。
まぁ、とりあえず残りの飯でも食うとしよう。
「ちょっと、ちょっと? ピンクで可愛いのは分かったけど、アンタなんかに用は無いわ。言葉判るんでしょ? 死にたくないなら早く消えなさいな。食事の邪魔よ」
骨付き肉片手に結界を抜け獣王に近付いたずるぼんは、クロコダインの周りをぐるぐる回ってはジロジロ見ている。
どうやらピンク色が気に入ったらしい。
「なにぃ!? 俺が可愛いだとっ…?」
「そうよ。あいにくだけど、魔の森の竜王はドラゴニュートだってネタはあがってんのよねぇ。無理して強そうに見せたってアンタは可愛いワニちゃんよ。あたし達はドラゴンだって倒せる最強の勇者パーティーだし、怪我しない内に消えなさいな」
その微妙に間違った情報は何なんだ?
「ほぅ…勇者、だと?」
「ずるぼん…ちょっとこっちこい」
倒木に腰を下ろしたまま、手首のスナップを利かせてずるぼんを呼んでやる。
「何よ?」
「ソイツ″獣王″クロコダインっつってな? この森最強だ」
「…っ嘘!?」
変なポーズで飛び上がったずるぼんは、一瞬で俺の背後に身を隠した。
「如何にも俺こそが獣王クロコダイン!! さぁ勇者よ! 掛かって来るが良い!!」
「………ヤダ」
俺はサンドイッチを頬張ったまま、一言でキッパリ断った。
獣王クロコダインの性格なら何となく判っている。卑怯者を装えば、興味を無くして去っていくだろう。
「・・・なんだとぉ!? 勇者を名乗る者が臆したかっ!」
「なんとでも言ってくれ。勝てない相手とはヤらない主義なんでな。それに、俺達にはアンタと殺り合う理由がない。おまけに言葉が通じるんだ…不幸な遭遇なら話し合いで回避可能すべきだ」
「見下げ果てた勇者だな…。オレは! 星の数ほど勇者を名乗る者達と闘ってきた…。強い者も居れば弱い者も居た・・・だが!!」
クロコダインは″クワッ″と目を見開くと、斧を握り締めた巨大な拳を俺に向かって突き出した。
「戦う前から逃げを打つ、貴様の様な卑怯者は1人としておらなんだわっ!」
俺の処世術は、武人でもある獣王には判ってもらえない様だ。
目を血走らせ大きく口を開いて罵る獣王が、ノシノシ歩いて俺達の側までやって来た。
てか、なんでマホカトールが効かないんだ?
「勝手に言ってくれ…兎に角、俺には殺り合う気がない、理由も無い。もし、アンタにヤル気の無い奴を殺す趣味があるってんなら・・・全力で逃げさせてもらう!」
クロコダインは弱者を嬲る趣味は持っていない、と知るからこそ言える事でもある。
「ちょっと? 倒しちゃいなさいよ? 可愛いけど調子に乗りすぎよ!」
「そうだっ。俺達なら負けないぜっ」
「そうじゃのぅ…見るからに手強い相手じゃが、負けるとも決まっておるまいに?」
頼もしく成長したのは嬉しいが、獣王に喧嘩を売ってどうする。
闘気を操る獣王を知恵無きドラゴンなんかと同列に語ってもらっては困る。
「お前等は黙ってろ…負けないかもしれないが、勝てる保証も無い。勝てない可能性のある相手を避けてパーティーを守る…リーダーとして何ら恥じる事はない」
「ほぅ…? 汚名を被ってでもパーティーを守ると言うか…面白い! 貴様の実力、試してみたくなったわ」
俺の適当な屁理屈に感心したクロコダインが、都合の良い台詞を吐いてくれた。
「ん? それなら良いぞ。 んじゃ一対一で武器は無し、コッチは魔法力は使うがギラ、イオ、メラ、ヒャド、バギ系統…要するに攻撃呪文は使わない…あぁホイミも止めとくか…。アンタは噛み付きと組技、それとのし掛かりも無しだな? そんな事すりゃ試すまでもなくアンタの勝ちだ」
喰うのを止めた俺は、背負った四本の剣、腰の裏のブラックロッド、太ももの側面にぶら下げた短剣セット、更には腰に下げた剣、そして籠手を外して地面に並べていく。
「お、おぅ…?」
俺の変わり身に獣王は驚き戸惑っている!
「それから、どちらかが敗けを認めたら終了だな。それと万一、邪魔が入ったりしても終了だ。後は…そうそう!″凍える息″とか″灼熱の息″とかブレス系も無しで頼むぜ?」
「むぅ…? つまり何が言いたい?」
「あん? アンタさっき″試す″っつったろ? 力試しなら殴り合いがシンプルで分かりやすいし、殺し合う必要も無い…っつっても交わすし、ガードもするからソコんとこ宜しく」
屈伸運動をして準備を整え、クロコダインにピースサインを向けてみせる。
ここで獣王の力を体験しておくのは悪くない。
制限付けまくったしお互い死ぬことも無いだろう。
「なるほど…身一つで殴り合うワケか…面白い!」
「ま、平たく言えばそうなる。身一つってもアンタは尻尾を使って良いぜ? まさかと思うが″試す″って言ったのはアンタだし、獣王ともあろう者に二言はねぇよな?」
「無論だ! さぁ! 勇者よ…来るが良い!」
距離を取って俺と向かい合った獣王は、真空の斧を投げ捨て両脇を締め、腰を落として身構える。
「勇者じゃねぇっつーの!!」
俺の叫びを皮切りに、獣王対偽勇者の試合が開始されたのだった。
◇◇
「せいっ!! そこだ!」
大きなモーションで繰り出される獣王の右ストレートを交わし、左わき腹に連撃を叩き込む。
執拗に繰り返した攻撃で獣王の鎧は砕け散り、爬虫類独特の高質化した皮膚が露になっている。
そこに何度もボディーブローを叩き込んでいる訳だが…鎧より硬くね?
「どうした? 勇者よ! 全く効かんぞ!」
「うっせぇ! このチートボディ!!」
勝てると思ってなかったが、ハッキリ言って無理ゲー過ぎる。こっちの攻撃はノーダメージ、相手の攻撃は常に痛恨の一撃。おまけにスタミナも無尽蔵ときたもんだ。
今のところ辛うじてガードが間に合い交わせているが、いずれ直撃を喰らうのは間違いない。
試合方法を完全に間違えたらしく、これ以上やるだけ無駄だと判っちゃいるが、外野が五月蝿く止められない。
「そこよ! でろりんっ、ぶん殴るのよ!」
いや、殴っても効かねぇし。
「ソイツは不味い! 避けろっリーダー!」
こいつダケじゃなく全部不味いし。
「今じゃ! ラッシュを食らわせるんじゃ」
食らわせてる間に殴られるし。
「ドンドン来い!」
んな事言われても行かねぇっつーの。
全くっ、4人揃って勝手な事を言ってくれる。
数分殴り合った結果、クロコダインは正々堂々がモットーだけあって、″攻撃時″のフェイントを行わない事が判っている。
予備動作も大きく″攻撃″を交わすのは簡単だ。
しかし、″迎撃″となれば話は違ってくる
コチラの動きに合わせ振るわれる、一見無造作とも思える裏拳は、必殺の一撃であり、致命のタイミングだ。
下手にこっちから仕掛けるモンじゃない。攻撃後の隙を狙い、次の一撃迄の間が唯一のチャンスだ。
へろへろを軽く凌駕する力の持ち主との本気の殴り合い…一瞬たりとも気は抜けないが悪くない。
この経験が俺を僅かに強くする…そんな想いから殴り合いを続けた。
◇◇
10分後。
俺の動きを完全に捕らえたクロコダインは、見事なタイミングで尻尾の一撃を放ってくる。
「ぐはっ…」
横っ腹への直撃を受けた俺は、踏ん張る間もなく弾け飛ぶ。
地面を二度、三度と転がり脇腹を押さえて立ち上がる。全身バラバラとまではいかないが、脇腹がジンジン痛い。
「どうだ? まだやるか?」
追撃を加えず悠々と歩いてきたクロコダインはドヤ顔をしている。
「やらねぇよっ! はいはい降参、俺の負け! ったく馬鹿力がっ…ちったぁ加減しろっつーの! ベホイミ」
「ちょっと! ベホイミかけたならまだヤれるじゃない!」
倒木に4人並んで腰を掛け、呑気に観戦していたずるぼんが立ち上がって抗議している。
「あほかっ、負けたからベホイミをかけたんだ! そんな訳で獣王、アンタの勝ちだ」
「むぅ…勝った気がせんな…よもやベホイミを使えるとは思ってなかったぞ。貴様が回復を駆使しておれば勝負はまたまだ終るまい」
「いや、終わってるし、そういうルールだからっ、アンタの勝ち! 俺はもうやらねぇし、アンタもとっとと消えてくれ…人間とモンスター、馴れ合うのはお互い良いこと無いだろ?」
何でも良いから帰ってほしい。
と言うのもこの短時間で俺よりもクロコダインが成長している。見よう見まねの紛い物だが、アバン流牙殺法を使う俺の動きに触発されたらしい。
このままやり合えば、原作に影響を与えかねない。
「良かろう…今日の所は引いてやろう…だが! 次に会ったらこうはいかんぞ!」
捨て台詞を残したクロコダインは、地面に大穴開けて去っていった。
「会わねぇっつーの…」
俺は、獣王が消えた穴に向かってポツリと呟くのだった。
「呪文を使ってたらアンタの勝ちね」
いや、呪文無しルールだし。
「武器が有ればリーダーの勝ちだなっ」
それはクロコダインにも言える事だ。
「4人で掛かれば勝てたのぅ」
それを言っちゃぁお仕舞いだ。
「チミ、その動きは誰から学んだのかな?」
勇者流だな。
って!?
「うげっ!? 拳聖ブロキーナ!?」
何故かずるぼんの横にちょこんと座ったブロキーナが、カップを啜っている
「ワシ? お尻ピリピリ病を患う通りすがりの老人」
″ゴホゴホゴホっ″と咳真似をしているが仮病なのは間違いない。
丸いサングラスを掛けたこの老人こそ、会いたい人ランキング、堂々1位に輝く″拳聖″ブロキーナその人だ。
「いや、アンタ拳聖ブロキーナだろ?」
「あ、このお爺ちゃんルイーダさん家で見たことあるわ」
「ブロキーナ…確か、兄者の友人じゃったかのぅ?」
「…ワシって有名?」
「極一部でな…んで拳聖がなんでこんな所にいるんだ?」
「獣王を追ってたらキミが試合を始めたから見学してたよ〜ん」
獣王の手から人々を護っているとかそんな所か。
「暇人かよっ。まぁ、いいや…暇ついでに俺に修行をつけてくれ」
ここで会えたのも何かの巡り合わせ。押し掛けてでも指南を受けないといけない。
「えー!? アンタまだ修行すんの? もう充分強いじゃない!?」
「バランにゃ勝てねーよ。 それに籠手も作ったし拳法習いたかったんだ」
「バッカじゃないの!? あんな英雄に敵うわけないでしょ!」
「向上心が強いのも良いが、お主、いつまでそんな事を続ける気じゃ?」
「そう、だな…後2年、それでダメなら仕方無いな…とりあえず、この爺さんとこで半年程厄介になるわ」
「でろりん…あんたって・・・ホンッとバカね!! 良いわ! あと半年、それから2年! それが過ぎたらちゃんと自分の事を考えるのよ!」
「仕方ねぇリーダーだな」
「全くじゃわい…其ほどの強さを身に付けて、金にも困りゃぁせんお主が、一体何を畏れておるのかのぅ?」
大魔王に決まってる。
でも、言えないんだな。
「さぁな? とりあえずお前らは聖石を回収する前にルーラで帰ってくれ。あ、そうそう。金を渡しておくから、王宮へは定期的に貢ぎ物を送っておいてくれ」
へろへろにゴールドを預けると、合流方法などを打ち合わせ、ルーラで飛び去るパーティーを見送った。
「ワシ…何も言っとらんも〜ん」
こうして俺は、無理矢理ブロキーナの元に転がり込むのだった。
◇◇
「さてと、拳聖ブロキーナ…俺にマホイミを教えてくれないか?」
装備を装着し聖石を回収した俺は、単刀直入ブロキーナにマホイミ伝授を依頼する。
ぶっちゃけ教えてくれなくても構わない。
閃華裂光拳の仕組みを知っている俺は、自己流で身に付けていたりする。欲しいのはじっくり反復練習する時間と場所、それにパーティーを一時解散する口実だ。
閃華裂光拳とはホイミを拳に乗せて打ち込みスパークさせて、マホイミを産み出す技である。
元々イオを叩き付けていた俺にとってホイミを叩き込むのはそう難しい事でもない。
但し、動く相手にタイミング良く叩き込み、魔法力を増幅させるとなれば至難の業になってくる。
俺に出来るのは風に揺れる木の葉を枯らす位だ。
戦闘中、動き回る相手にも使えるマァムのセンスには脱帽するしかない。
「そんなの覚えてどうすんの〜?」
「どうもしないさ…基本的には使わねぇ…人間相手に使える代物じゃないからな…文字通り必殺の魔法、そんなもんを使えると知れりゃぁ人の世じゃ生きていけない…だが、奥の手は多い方が良い…ソレだけだ」
「キミはマホイミの真の恐ろしさを知っている…そんなキミがマホイミを覚えて誰に使うの?」
後ろ手に組んだブロキーナは、頭を斜めに傾ける。
マトリフといいアバンの仲間はどうしてこう鋭いんだよ。
「さぁ? 使う相手が居ないなら、それに越したことは無いんじゃね?」
実際、閃華裂光拳を使える相手は限られてくる。
ヒュンケルやクロコダインは勿論、ハドラーにだって使えない。フレイザードや親衛騎団には効かないだろう。
雑魚を相手に披露するのは下策だし、なるべく最終決戦まで隠しておきたい。
しかし、隠し続けて老バーンに喰らわせたとしても復活するし、真バーンは降臨させない予定だ。
こう考えるとマジで使い途が無さそうだが、有れば何かの役に立つかもしれない…まぁ、それもこれも完全に使いこなせてからの話だな。
「良かろう…アバン殿が信じたように、ワシもおまえの矛盾した行動を信じてみるとするかの」
「なんでアバン? ってか矛盾って何だよ?」
アバンとの繋がりは動きからバレたのか?
敵の力も利用する合気道的な要素をもつ牙殺法は、この世界主流から外れている。
「お仲間が言っておったじゃろ? おまえ1人では獣王に勝てずともパーティーなら勝てたのではないか? 名声を求めるおまえが獣王を見逃すのは矛盾しとるよ。おまけに教えを請う態度でもないのぅ…ホントはマホイミ使えるんじゃないの?」
くそっ。痛いところを突いてくる。
「そう言うアンタだってクロコダインを見逃してるじゃねーか!」
とりあえず逆ギレして論点をずらしておこう。
相性的にクロコダインではブロキーナには勝てないハズだからな。
「ワシは名声を求めとらんも〜ん」
いや、可愛くねぇし…。
こうして俺は、ダイと出合う迄の残り少ない時間も修行に充てる事となった。
思えばここまで色々やってきた。
全てが正しかったとは思っていない。
バラン健在の余波は俺の手に終えないレベルになってるし、比較のしようもないが、多分この世界の平均レベルは上がってる。
無責任な話、これがどう影響するのか俺にも分からない。
だが、それでも俺は、自分なりにやれる事はやって来たつもりだ。
全ての行いは、勇者の為に!!
これこそが俺の目的″長生き″に繋がる道なんだ。
未だ見ぬ勇者に期待を寄せて、その時が来るのをロモスで待つのだった。