でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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会話だらけで解りにくいかもしれません。







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「お前、ロモスの王宮に行ってみないか?」

 

 アバンをこの島に派遣するダケなら俺にだって出来る…だが、先々の事を考えると多少強引でもダイを王宮に連れていかないといけない。

 偽物だからこそ判るんだ…ダイに有って俺に無いもの…誰かの為に立ち向かう勇気。ただ強いだけでは勇者と言えない。

 力だけで絶対的な力の持ち主、大魔王バーンに立ち向かうのは無理なんだ。

 原作のダイがそうであったように、このダイもロモス王やレオナ姫と知り合い、彼らを助ける事で勇者として闘う意味を見出だしてくれるだろう。

 

「何言い出すのよ! こんな子供連れていってどうする気!?」

 

 何故かダイが答えるよりも早く、ずるぼんがキレ始めた。

 

「コイツを未来の勇者として紹介する」

 

「・・・っバカじゃないの!! アンタ、自分よりこんな子供が勇者だって言うの!?」

 

「勇者に歳は関係ねーよ…まぞっほが何時も言ってるだろ? 勇者とは勇気ある者!…ってな。さっきのやり取りで判ったんだ…コイツには勇気がある」

 

「なによそれっ? 勇気が合っても実力が足りなければ話にも成らないわよ! 大体、アンタ今迄何の為にやって来たの!? 勇者に成る為でしょっ」

 

「いや? 俺は別に勇者に成りたい訳じゃないぞ」

 

 ぶっちゃけ、長生き出来る保証さえあれば何でも良い。

 何もしなくても良いなら何もしたくない位だ。

 

「嘘おっしゃい! アンタはねぇ…」

 

「ちょ、ちょっと待ってよっ…どうして2人が喧嘩を始めるんだよ? 仲間なんだろ? オレの事で喧嘩されたら困っちゃうよ…」

 

「ガキは黙ってな! コレはあたしとでろりんの問題だよっ」

 

 ダイが果敢に仲裁に入るもキレまくるずるぼんに一喝され、身を竦めた。

 如何な勇者でも怒れる女には勝てないらしい。

 

 てか、ダイが女性不信になったらどうしてくれる。

 

「はぁ? 俺とダイの問題だ。関係無いずるぼんこそ黙ってろ!」

 

「あたしはアンタの姉よ!」

 

「だったら何だってんだ? 俺には俺のやりようがある!」

 

 ずるぼんがどれだけお姉ちゃんパワーを発揮しようとも、ここは譲るわけにいかない。

 

 俺とずるぼんの視線がぶつかり合い、火花を散らす。

 

「なんじゃ? 騒々しいのぅ…頭に響くではないか。腹が減っておるから互いにカリカリするんじゃろうて…どうじゃ? 飯にでもせんか?」

 

 俺達の怒鳴り声で目を覚ましたのか、まぞっほは頭を押さえて起き上がる。

 

「そ、そうじゃとも。ここでお主等が言い争いをする事は無かろうて。先程の詫びを兼ねて我が家に案内するわい。ダイの事も含めてソコで話し合うのが良かろう」

 

 額に冷や汗を垂らしたブラスが短い腕を開いて、遠慮がちに提案してきた。

 

「ふんっ…勝手にしな!」

 

 ブラスの勧めに視線を逸らしたずるぼんは、起き上がらないへろへろの元へ大股で歩いて行く。

 

 ったく…何だってんだ。

 

 勇者ダイの誕生は、俺だけじゃなく世界にとっても最優先事項なのに上手くいかないもんだな…。

 

 こうして、まぞっほの提案に従い喧嘩を一時中断した俺達は、ブラス宅に向かうのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ブラス宅に招かれる事になった俺達は、船から食材や酒等の物資を運び込んで船をロモスに送り返すと、男共が手分けして室内を整え、足りない分のテーブルは木箱に布を被せて用意していく。

 室内の用意が終わると、ずるぼんお手製の料理が順次並べられ、楽しい晩餐が始まる…ハズだった。

 

 それが、どうしてこうなった…。

 

「決めたわ! この子連れて帰りましょう!」

 

 室内にあるソファーにダイと並んで座ったずるぼんは、ダイを″ぎゅっ″と抱き締め、意味の解らない事を言っている。

 

 食事の仕度に追われるずるぼんを、ダイが甲斐甲斐しく手伝う事でお気に召したらしい。

 

「無茶苦茶言うな…ダイにはダイの生活があんだろ?」

 

 木製の丸いテーブルに腰を掛けた俺は呆れるしかなかった。

 同じく丸いテーブルに腰掛けたまぞっほとへろへろは、我関せず飯を喰らって酒を飲んでいる。

 

「何言ってんのよ? こんな島で暮らすよりあたし達について来た方が良いに決まってるでしょ? 大体、この子を連れて行くって決めたのはでろりんじゃない」

 

「俺は″王宮に連れて行く″って言ったんだ。生活の拠点をこの島から移させる気はねーよ」

 

 ダイを連れ歩くなんてヤバ過ぎるっつーの。

 頻度こそ減っているが、バランはまだまだディーノ捜索を諦めていない。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! オレはまだ王宮に行くとか何も返事してないよ…そうだ! みんなの話をしてよ。お姉ちゃんは勇者と言ってるのに、どうしてでろりんは勇者じゃないって言うのさ?」

 

 

 不穏な空気を察したのか、ダイはずるぼんの腕の中で話題転換を試みる。

 

「おまっ…ダイになんて呼ばせてんだ!」

 

「悪い? 昔のアンタも呼んでたわよ? あーぁ…でろりんはあの頃から変わってたけど、可愛いげは有ったのよねぇ…それが、どうしてそんなになっちゃったのかしら?」

 

「余計な御世話だ!」

 

「オレっでろりんが何をしてきたのか聞いてみたいな!」

 

「坊主や…聞くだけ無駄じゃぞ? コヤツがやって来た事は誰にも真似出来んわい」

 

「そうだなっ…勇者を目指してんなら亀の甲羅は止めておけっ」

 

「余計な事言ってんじゃねーよっ! ダイ、俺が教えてやる。とりあえずこっちに来て座れ」

 

 ダイを相手に余計な講釈は言いたくないが、コイツらに話をさせるよりまだマシだ。

 

 くそっ…思うようにいかないもんだな。

 

「うん」

 

 ダイはずるぼんの腕をすり抜けると、俺の横の椅子にちょこんと座った。

 

「まぁ、俺達は勇者パーティーを名乗って色々やって来たが、大したことはやってねぇ。基本的には修行と迷宮探索、他に城の兵士に適当な魔法を教えたりしている、但しこれは有料だ」

 

「え〜っ!? お金とってるのぉ?」

 

「当然だ。俺はお前と違って金の為に勇者をやっている。そんな訳で俺は本当の勇者と言えないんだ」

 

 

「金の為と言いながら惜し気もなく国に寄付したのは何処の誰じゃったかな?」

 

「そうそう。金、金言いながら作ったのがあの甲羅よ? ダイ君は勇者を目指してもアレは真似しちゃ駄目だからね〜」

 

「余計な事は言うなって言ってんだろっ…寄付は名声を高める為、甲羅は命を護る為だ!」

 

「う〜ん? わかんないやっ…でろりんはお金の為に勇者をやってるのに、お金の使い方がおかしくって、でも自分でソレじゃ良くないと思ってるんだろ??」

 

「無駄じゃ無駄じゃ…理屈で考えてもコヤツの行動は説明がつかんわい」

 

「だなっ。命が惜しけりゃ迷宮に行かなければ良いダケだぜっ」

 

「そうよね〜。アルキーナで暮らすお金なら今でも十分に貯まってるし、甲羅を造らなかったら一生遊んで暮らせたわよね?」

 

「うるせー。

 ダイ、コイツらの言うことは気にすんな。問題はお前がどうしたいか?、だ。お前が勇者に成りたいと言うなら俺がロモス王に紹介してやる。コレが勇者への近道になる」

 

「でも…オレ、でろりんみたいに魔法も使えないし…何も良い事してないから王様になんか会えないよ。それに、勇者に近道とか無いと思う!」

 

「近道は悪い事じゃない。 いいか? 勇者は力じゃない、心だ。歳も実績も関係無い。お前が勇者に成りたいと願い、その理由が正義で有れば、お前は今でも立派な勇者なんだ。そんなお前を紹介すれば、ロモス王なら解ってくれるさ」

 

「勇者は心…?」

 

「そうだ。そして、もっと大事なのは勇者に成って何をするのか?、だ」

 

「アンタねぇ…自分を棚に上げてよく言うわね?」

 

「黙ってろって。俺は間違ったことは言ってないつもりだ」

 

「そうじゃのぅ…お主が言うとる事は間違うとらん。ワシの師匠が言うておったことに通じるモノがあるわい。じゃが、だからこそ解せぬ…そこまで解っておるお主が、自らを勇者と認めようとせんのは何故じゃ?」

 

「簡単な事だ。俺は自分の為にやっている…だが、ダイは違う…そうだろ?」

 

「オレは…」

 

「ちょっと、止めなさいよ。こんな子供に理解出来る事じゃないわよ」

 

「ん? あぁ、それもそうだな…だからこそロモスに行く価値があると俺は思うぞ。人を見て、街を見て、王を見て、ダイが決めれば良いんだ…。

 さぁ、この話はこれまでだ。ダイは一晩ゆっくり考えれば良い。俺達は久しぶりの宴会を楽しもうぜ?」

 

「そうね」

 

「わかったよ」

 

 こうしてダイを説得した俺は、一晩をデルムリン島で過ごし、楽しい夜は更けていった。

 

 

 明けて翌日、王宮行きを承諾したダイはキメラに乗ってロモスに向かい、街を歩き人を見て、王と対面すると無事″未来の勇者″と認められ覇者の冠を授かるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その日の夜。

 

 ダイをデルムリン島に送り届け、細やかなお礼に″魔法の筒″を要求し手に入れた俺は、報告を兼ねてマトリフの住まう洞窟へと足を運んだ。

 

「久しぶりじゃねーか…何しに来やがった?」

 

 長い長い地下道を通り薄暗い室内に足を踏み入れると、腕組みをして椅子に座るマトリフから″ごあいさつ″を受ける。

 

「ダイに会ってきた…概ね予定通りだ」

 

「そうか…不思議なもんだな? 世界はオメェの知るモンと変わっちまったってのによぉ…。それで? 勇者として見込みはあったのか?」

 

「このまま上手くいけば無事に勇者へと育ってくれる…俺の目にはそう見えた」

 

「ふんっ…悪かねぇな…。こっちには悪い報告があるってのによぉ」

 

 マトリフは口を尖らせたそっぽを向いた。

 

「悪い報告?」

 

「あぁ…つい先日だ、バランの野郎に会ってきた」

 

「はぁ!? なんでそんなヤバい真似を?」

 

「黙って聞きやがれ…。オメェが自分の知る流れに拘るのは解らんでもねぇ。だだな? 現にバランはアルキードに居やがるんだ。オメェはこのまま大魔王が何の手も打たねぇと思ってんのか?」

 

「え? そりゃぁ…何かやって…くる? だからバランに教えに行ったのか?」

 

「さぁな…手を打たねぇかも知れねぇが、オメェの知らない事態になるのは間違いねぇだろうよ…。それにだ…まだ若ぇオメェにゃ解らん話だが、世界にゃ不穏な空気が満ちてきているのよ。未来なんざ知らなくても俺くれぇになると気付くなってのが無理な話だぜ。おまけに鬼岩城ってのか? アレも確認済みだ」

 

「ちょっ!? ナニ勝手に危ない橋渡ってんだよ!」

 

「あぁん? いっちょ前に心配のつもりか? オメェ、一度でも俺に勝てたのかよ?」

 

 眼前で一本指を立てたマトリフは″ケケケッ″とイヤらしく笑っている。

 

「…っち。それは今関係無いだろっ。俺に出来る事はアンタがしなくても俺がやってやるってんだ!」

 

「ふんっ…ヒヨコが…。ま、聞いといてやるぜ…だからオメェもこの話は心して聞くんだな」

 

 腕を組み直したマトリフが一転して真剣な表情を見せる。

 

 どうやらかなりヤバそうだ。

 

「まさか…ダイの事がバレた、とか…?」

 

「そんなヘマはしねぇ…いいか?」

 

 真剣な表情のマトリフは一呼吸おいて、絶望的な知らせを俺に告げる。

 

 

 

「バランは弱くなっている」

 

 と。

 







次回はダイ爆発。
バラン弱体化の理由はとりあえず伏せます。

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