でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 パプニカを出立してから5日。途中ロモスに立ち寄った姫様ご一行は、王宮へあいさつに向かい歓迎の宴が催された。

 デルムリン島はロモスに属しているらしく、礼を欠く訳にはいかないそうだ。

 いつの世も、人のしがらみとは厄介なモノで、余計な時間をくったが船旅そのモノは順調に進んだ。

 

 俺はその5日の間、宴にも参加せず船室に引き籠っては、デルムリン島で取るべき行動に頭を悩ませた。

 前回のニセ勇者騒動で意図せずとも類似の展開が引き起こされた事から、ダイが居てレオナ姫が居れば、原作と似通った出来事が起こる可能性は高いように思える。

 一方で原作と違いすぎるメンバー構成が不確定要素となり、俺の足りない頭で考えても計算しきれないという、何とも情けない結果に終わっている。

 結局、事前の準備を終えた後は、ある程度成り行きに任せてその都度修正を加えていくしかない…そんな計画とも言えない考えに落ち着いた頃、船室のドアがノックされ神官からデルムリン島が見えた事を告げられる。

 

 神官に誘われ船室を抜け出し5日振りに日の光を浴びた俺は、レオナ姫やアポロ達と甲板に並び立ってデルムリン島を目視で確認すると、大きく溜め息を吐いた。

 

 なんで居るんだ…?

 

 潮風に髪を靡かせる想定外の人物の横顔をじっと見つめる。

 

「何かしら? 私の顔に何か付いているの?」

 

 俺の視線に気付いたのか、マリンはキツイ眼差しを向けてくる。

 

「いや、綺麗な顔をしていると思ってな」

 

 と言ってもフレイザードと対峙していないんだから綺麗で当たり前だな。

 原作での印象が薄いせいか、マリンを見ればついつい顔のキズを連想してしまうのは俺の悪い癖だ。

 

 てか、マジでなんで居るんだ? パプニカから乗り込んだ三賢者はアポロだけのハズだ。

 マリン程の実力者が加わるとなれば、5日の思案が台無しだっつーの。

 

「なになに? でろりんったらマリンの事が気になっちゃったりするのかしら?」

 

 俺の前に素早く躍り出た姫さんは、ワクワクを隠そうともせず俺とマリンを見比べノーテンキな事をほざいている。

 

「うるせー。ガキは黙ってな」

 

 隠す俺が悪いと解っちゃいても、何も知らずノーテンキに振る舞う相手には、つい苛々して声を荒げてしまう。

 三賢者相手に八つ当たりしたガキの頃から何も成長していない様である。

 これも悪い癖だ。

 

 これからいよいよ本格的に原作が開始され、悪事を行い人を傷つけ、罵声も浴びなきゃなんねーのになっちゃいない。

 今回のミッションが終わったら、疎かになっていた精神修行の為に滝行でもやるか?

 

「でろりんっ! 姫様に向かってなんて口の利き方してるの!?」

 

 案の定マリンがプンプン怒っている。

 コイツも精神修行が必要なんじゃないのか?

 

「良いのよマリン。私もね、貴女達が噂していたでろりんがどんな人か楽しみだったわ…でも、何の事ないじゃない? この人はただの変人よ。変人に口の利き方なんか期待しちゃダメね」

 

「ひっ姫様!?」

 

 姫さんの変人発言に何故かマリンが慌てている。

 昔はもっと酷いことを言ってきたくせに、何を今更取り繕ってんだ?

 

「慌てないの。この人は完っ璧に変人だけど悪い人じゃないわ…そうよね? でろりん」

 

「あん? 変人は兎も角、どこをどう見たら悪人じゃない…ってなるんだ?」

 

「ロモス王から聞いたのよ。あなた、覇者の剣の授与を断ったそうじゃない? 悪人なら辞退なんかしないし、そもそも授けようって話にならないわよ。ちょっと見直したわ」

 

 完璧な小悪党に授けるのがロモス王クオリティなんだが、知る術のない姫さんは人差し指を立ててウィンクしている。

 

 てか、その話はしてほしくないぞ。

 辞退したのは覇者の剣の存在を完全に忘れていた故のミスであり、長い年月をかけて武具を造った今となっては、ハドラーの強化や武術大会フラグの為にロモスに残した方がマシ…との打算に過ぎない。

 最初から覚えていれば多分ミリオンゴールドを集めなかっただろう。

 

「覇者の剣なんかなくたって、俺には甲羅とこの籠手がある」

 

 俺は姫さんに見せ付ける様に籠手をクロスさせるとポーズを決める。

 

 結果的にオリハルコンを手に入れ損ねたが、これ等の武具も悪くない。

 

「それは防具でしょ。覇者の剣を越える武器なんか無いのに断るのは何故かしら? それに、覇者の剣を使わないにしても売ればお金になるわ。…いえ、あなたは百万を越える寄付をしてロモス経済の安定に協力したとも聞きました。 お金が目的でもないなら一体何をしたいのかしら? ホンッと変人の考える事は解らないわね」

 

 喋るだけ喋ったレオナ姫はお手上げのポーズをとると、満足したのか俺の武具自慢を聞こうともせず、マリンを連れて船内へと戻って行った。

 

「…なんだってんだ?」

 

 取り残された俺は、姫さんが消えた扉を指差してアポロにぼやく。

 

「悪く思わないでくれ。姫様はきっと、自分を王女として見ない人に会えて喜んでいるのさ」

 

「ふーん? アポロは俺が不敬な口を利いても良いのかよ」

 

 マリンと違い和やかな雰囲気を保つアポロに、素朴な疑問をぶつけてみる。

 不敬と知りながらタメ口を利くのはどうかと思うが、年下の姫様相手に媚を売るのは性に合わないみたいだ。

 

「それが姫様のお望みなら我等は従うまでさ」

 

「ご立派な事で…そりゃお転婆にもなるわ」

 

 信頼しているが故のイエスマンだろうが、皮肉の一つも言っておこう。

 

「それは誤解だ。姫様は王宮においては立派に勤めを果たされている…幼い頃より次期国王としての期待を背負った姫様の苦悩は我々には計り知れないのだ。でろりんにあの様な態度をなさるのは、王宮を離れた旅の開放感もあるのだろう」

 

 パプニカ王は病弱な人物で、最近では余命一年も無いと噂されている。

 一人娘であるレオナ姫には自然と期待が集まっているのだろう。

 

「まぁ、どうでも良い話だな。さぁて…姫さんに絡まれない内に、一足先に行くとするか」

 

 姫には姫で苦労があるらしいが、姫さんの事情なんか知ったこっちゃない。

 いや、俺には気にしてやれる程の余裕はない。

 パプニカ王家の事情にかまけて大魔王対策が疎かになれば、本末転倒も良いところだ。

 

 俺は魔法力を纏うと″ふわり″と浮き上がり、直立姿勢のまま船の速度に合わせて並走する。

 

「ルーラを使えぬキミがトベルーラか…本当に変わっているな」

 

 僅かに眉をピクリとさせたアポロは、それ以上取り乱すことなく俺を見上げた。

 

「ふんっ…ルーラは誰かに頼めば代用が効くじゃねーか? だがトベルーラはそうはいかねぇ…戦闘においてコレが使える、使えないで大違いだ。お前等こそトベルーラを覚えるべきだな」

 

 余計な助言は原作を変えるがパプニカに関しては今更だし、アポロにトベルーラの有用性を説いてやる。

 俺が見た限り太陽の神殿では教科書通りの修練しか行わず、応用であるトベルーラには手を出していなかった。これは他の神殿でもそう変わらないだろう。

 

「トベルーラが便利なのは認めよう。しかし、主流から外れた技は基本の修練の妨げになる…それに、トベルーラの使用中は呪文が使えない欠点もある…我等にとって身に付ける優先度は低いと言えるんだ」

 

 一般的に呪文の同時使用は超の付く高等技術とみなされている。

 故に応用であるトベルーラを使いながらの呪文使用となれば、常識はずれもいいところになると知ったのは最近の話になる。

 つまり、原作での闘いを当たり前として見ていた俺には高等技術との認識がなかった。そして、コレこそが修得出来た秘訣になる。

 

「同時に呪文が使えない、ねぇ?……イオ!」

 

 俺は右手にイオを産み出すと海に向かってぶん投げると″ザパーン″と派手な音を上げ水柱が出来上がる。

 

「ばっ、馬鹿な!?」

 

 アポロは驚きとまどっている!

 

「基本は大事だが教科書通りってのはどうなんだ? 為せば成る、為さねば成らぬ何事も…ってな」

 

 為さぬは人の怠けなり…だったか?

 

「…アルキードの教えかい? 面白い考え方だけど、我等は賢者だから出来ない事は出来ないのさ。出来ないならば他の魔法に目を向け、より多くの基本魔法の修得に励むモノだ」

 

「そうかぁ? 賢者だから魔法しか出来ないってのは諦めが良すぎだろ? まぁ、かく言う俺も、昔はやる前から無理だって決めてたな…でも、やってみたら案外なんとかなるもんだぞ」

 

 肩を竦めて軽く言ってやる。

 

 固定概念とでも言うのだろうか? この世界では、魔法使いは力が弱いだとか、戦士は魔法が使えないだとか、それに縛られ可能性を狭めている。

 偽勇者でもメラゾーマを使えるんだ…才能差から限界は違っても、固定概念を捨てれば何だって出来るハズだ。

 

「キミはつくづく惜しい男だな…そう言えるのは強欲で嘘つきであっても、でろりんが紛れもない勇者だからだ。キミが正義に目覚めるのを楽しみにしている人がいるのを忘れないでもらいたい」

 

「くだらねぇ…。勇者だとか正義だとかどうでも良いぜ…俺は俺の為に動くダケだ」

 

 そう…俺は勇者である必要も正義である必要もない…そんな事はダイと姫さんに任せれば良いんだ。

 大魔王を倒せるなら悪党でも構わない。

 

「あら? 正義が下らないなら、あなたは一体何を目指すのかしら?」

 

 イオの音で出てきたのか、マリンを連れた姫さんが真剣な表情で俺を見上げている。

 

「…ちっ。五月蝿い姫さんが来やがった。…俺はもう行くぜ? ダイには知らせといてやるよ」

 

 姫さんから逃げるべくゆっくり上昇した俺は、可視化する程の魔法力に身を包み一気にスピードを上げると、デルムリン島の森の奥深くを目指して飛ぶのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「こんなもんか…? アポロが鍛えた神官達なら死にはしない…よな?」

 

 地の穴で″デルパ″を唱え、魔法の筒から呼び出したモンスターを眠らせると、俺は独り呟いた。

 

 ″グォォォ″と寝息の聞こえる薄暗い地の穴から抜け出した俺は、ダイを探してデルムリン島を飛び回る…迄もなく、原作通り断崖の上から望遠鏡を覗くダイと合流する。

 流れは変わっているはずなのに、何とも不思議な感じだ。

 

 ダイと数ヶ月振りの再会を果たした俺は、簡単に事情を説明してブラス宅に向かい、覇者の冠を装着させてダイの身支度を整える。

 正直似合っていないが、まぁいいだろう。

 

 こうして、事前の準備を終えた俺は、緊張するブラスも連れて浜辺に移動すると、3人並んで静かに船の到着を待つのだった。









マリンはロモスで合流。
予めルーラでロモスに先行して準備していた感じです。
姫をキライ、船室に引き籠ったのが災いしています。

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