でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 姫様一行がダイの案内で地の穴目指して森の中を進み行く。

 一行の先頭をアポロが進み、その両サイド斜め後方には槍を手にした神官がそれぞれ二名、一団の中心にダイ、その横に姫さんが並び、護衛兼監視役のマリンが付き従う。

 後方から荷物を背負った6名の神官がついてくるといった隊列で、俺を含めて総勢15名の大所帯だ。

 しかし、この島にやって来たのは50名。他の神官達が何をしに来たのか謎であるが、まぁ良いだろう。

 

 森の中を歩く一団の歩みは極めて遅く、いくら俺やダイが″大丈夫″と言っても聞き入れらていない。

 先頭のアポロが度々振り返ってはダイに道のりを確認し、両サイドの神官達は草を踏み締め、伸び出た枝葉を切り払い、安全を確認しながらの行進だ。

 必要最低限の言葉以外は誰も発せず、緊張感に包まれたまま草木を踏み締め進み行く。

 

 別段する事の無かった俺は″自然豊かなこの島は悪くない″等と考えながらキョロキョロと首を振り、退屈のあまり欠伸をしては、マリンに睨まれていた。

 

「ねぇ、マリン? 貴女でろりんと何を言い争っていたの? もしかして痴話喧嘩かしら?」

 

「姫様!? 違います!」

 

「ホントかしらぁ?」

 

 退屈していたのは俺だけでは無かった様だ。

 姫さんがしょーもない事を言い始め、にやけた顔で俺を振り返った。

 

「くだらねぇ…。そう言う姫さんこそダイを怒らせて無かったか?」

 

 俺の事を厄介な警戒対象と見るマリンに限ってそれはないし、余計な事を言って無駄に怒らせてほしくない。

 ブラス宅で行われた会話の全てを聞いた訳じゃないが、原作通りならレオナが挑発しダイが怒ったハズである。

 確認の意味も兼ねて聞いてみる。

 

「そうだよ! レオナ姫ったら酷いんだっ。″迷子になったら置いてく″なんて言うんだよ。オレがこの島で迷子に成る訳ないやい!」

 

「あら? 男の告げ口はみっともないわよ?」

 

 姫さんは扇子で仰ぎながら涼しげな顔でダイをからかっている。

 

「告げ口じゃないやいっ」

 

 一方のダイは割と本気で怒っている様だ。心無しか原作よりも雰囲気が良くない気がする。

 コイツらここから仲良くなれるのか?

 

 仕方ない…あまり好ましく無いが口出しの一つもしておくか。

 

「ダイ。良いことを教えてやろう…勇者たるもの女性に優しくすべし! これは昔、とある愉快な人に言われた言葉だ…覚えておくと良い」

 

「そんなの女を甘く見ているわ!」

 

「そうね。女だからを理由に優しくされても嬉しくないわね」

 

 俺の言葉にすかさずマリンが反論し、姫さんもそれに同調している。

 これはアバンの教えになるはずだが、強い女性には効果がないのか、それとも発した人物次第で評価が変わるのか。

 

「それに、女子供相手に容赦なく攻撃してきたのは誰だったかしら? どの口でそんな事が言えるのよ」

 

 古い話を持ち出したマリンはここぞとばかりに口撃してくる。

 

「え〜っ!? でろりんってそんな事をしたんだ?」

 

 ダイは″非道を行ったのが俺である″と気付いた様だ。

 ブラスとの2人暮らしで良くぞここまで会話の機微を読み取れる子供に育ったものだ。

 

 これぞダイの大冒険七不思議の一つ、教育の鬼、その名はブラス!

 

「サイテーね」

 

「いや、あの時は俺も子供じゃねーか…」

 

 冷たく言い放った姫さんの言葉に思わず反論してしまう。

 

「おチビ君。私からも良いことを教えてあげるわ…言い訳する男はみっともないわ!」

 

「そうね。姫様の仰る通りだわ」

 

「う〜ん…」

「なんだこりゃ?」

『うわぁ!』

 

 ダイが腕を組んで考え始め俺が呆れると同時に、一人の神官が叫びを上げる。

 

 見ると進行方向の木の下で、巨大な芋虫的なモンスターであるキャタピラーが丸まって眠っていた。

 

「姫様を御護りしろ!」

 

 素早く飛び下がったアポロは、姫さんとキャタピラーの直線上に陣取り大袈裟な声を上げる。

 

「アポロ様、ここは我等が!」

 

 2人の神官が果敢に槍を振り上げキャタピラーに迫る。

 

「ちっ…余計な真似を」

 

 小さな声で吐き捨てた俺は、大地を蹴って素早く移動を開始する。

 神官達を一気に抜き去りキャタピラーの前に躍り出た俺は、僅かに伸ばしたブラックロッドを水平に構えて振り下ろされた二本の槍を受け止める。

 

「で、でろりん殿!?」

「何故、我等の邪魔を!?」

 

「ふんっ。無駄に殺める必要は無い…ダイっ!」

 

「うん!」

 

 俺の呼び掛けの意味に気付いたダイが即座に駆け寄ると、眠るキャタピラーに話し掛け移動を促した。

 

 眠りから覚めたキャタピラーは、もぞもぞと動き出し森の奥へと消え去った。

 

「へぇ〜。変人さんもおチビ君も凄いじゃない? 見直したわ」

 

「おい、変人呼ばわりされてんぞ?」

 

 ブラックロッドを縮め、腰の裏に仕舞いながらダイを見下ろし言ってやる。

 

「え〜ヤだよ…オレぇ」

 

「変人はあなたよ、でろりん! あなたがおチビな訳無いでしょ!!」

 

 俺のボケにマリンは目くじら立ててマジ突っ込みをいれてくる。

 洒落の判らない奴だ。

 

「じゃぁ俺がおチビ君…? チビなんかじゃないやいっ。ダイだよっ!」

 

 自身を指差し気付いたダイが、ワンテンポ遅れて姫さんに食って掛かる。

 

「キミ他にも特技とかあるの? 魔法とかさぁ」

 

 ダイの抗議を気にもせず膝に手を突き前屈みになった姫さんが、次なる質問を繰り出した。

 

「メラとギラ! バキだって使えるさ!」

 

 ダイは姫さんにピースサインを向けて誇らしげに言っているが、コレはマズイ…のか?

 

 イレギュラーな存在である俺が居るんだから当然と言えば当然、些細な違いと言えば些細だが、会話の内容が原作とは違う流れになっている。

 

「ふ〜ん? それくらいなら私にも出来るわよ? 他に無いの? 剣技とかさぁ?」

 

 実際にこの姫さんは現時点でギラを使えるハズだし、将来的にはベホマやザオラルまで身に付ける天才だったりするから困る。

 ダイの凄さに気付いてほしいが、果たして俺が口出しして良いものか?

 

 

「無茶言うな…ダイはまだ子供だ。筋力の必要な剣技はコレから身に付けていけば良いんだ」

 

 とりあえず、無難な意見で様子を伺うとしよう。

 

「子供でも勇者ならば他にも何かあるはずよ。あなたはその年頃でイオラを使いこなしていたわ」

 

「そうだな。キミのイオラには手を焼かされたもんだ」

 

 マリンが俺の凄さを語りだし、アポロもそれに同調してくる。

 ガキの頃に何度かやり合ったのを思い出しているのだろうか。

 

「すっげぇ! でろりんってヒャド系だけじゃなくイオ系も使えるんだっ!?」

 

「それだけじゃないわ。メラ系もバギ系も使えるわよね? 見たこと無いけどギラ系はどうなのかしら?」

 

 何故か誇らしげにマリンが語るのは気のせいか?

 どうでも良いが見事に邪魔をしてくれるもんだ。俺じゃなくダイのアピールをしてほしい。

 

「んなもん企業秘密に決まってんだろ? なんで教えなきゃなんねーんだ? てか、アポロまでくだらねぇ会話に入ってきてんじゃねーよっ。お前がササッと周囲を確認して進まなきゃ日が暮れちまうわ!」

 

「あ、あぁ、そうだな…すまない。マリン、姫様の事は任せたぞ」

 

「ダイ、お前も感心してんじゃねーよ。俺に言わせりゃ、その年でほとんどの契約を済ませているお前の方がすげぇっての」

 

 アポロを追い払った俺は、ダイの才能をアピールしておく。

 

「そーかなぁ? 契約が出来ても使えなきゃ同じゃないかなぁ?」

 

「あら? そんな事ないわよ。キミは知らないのね? 魔法の契約は人によっては絶対に成功しないモノも有るのよ。ホントにほとんどの契約が出来たなら、それ才能ある証拠よ…いつか強力な魔法も使える様になるわ」

 

「そうかなっ? 俺もでろりんみたいな勇者に成れるかなっ?」

 

「えっ? でろりん…みたいな?」

 

「それは…ちょっと…」

 

 ダイが″パァっ″と破顔させて喜ぶと、姫さんとマリンは俺の甲羅をチラチラ見ながら言葉を濁している。

 

 コレはアウトだな…。

 

 ダイに慕われるのは悪い気はしないし、俺が何も知らず、何もしていないなら共に過ごす資格が有ったかもしれない。

 しかし、誘拐犯である俺にそんな資格はなく、ダイの憧れる勇者は今後の為にもアバンであるべきだ。

 

「止めとけ。偽物を目指してどうする…ダイ、お前は本物の勇者になれ」

 

 中途半端に関わったのが間違いだったのだろう…俺は、でろりんとしてきっちりと幻滅されておくべきだったんだ。

 

「えー? 偽物とか本物とか解んないよっ」

 

「その内解るさ…とにかく、お前は俺の様には成るな…さぁ、安全確認も終わったみたいだ。ササッと進んで終わらそうぜ」

 

 再出発を促した俺は、一人密かに決意を固めたのだった。

 

 

◇◇

 

 

「アレがそうだよ」

 

 ダイは鬼の口を思わせる″地の穴″の入り口を指差して、目的地に到着した事を告げると、″ふぅ″と溜め息ついて手頃な岩に腰を下ろした。

 神官達は″地の穴″の奥から流れ出る異様な空気に戸惑っていたが、アポロが場を仕切り全ての神官達を引き連れて洗礼の準備をすべく地の穴に潜っていった。

 レオナ姫はダイに近付いてパプニカのナイフを抜くと、二言三言ことばを交わしている。

 

 少し離れて壁にもたれて腕を組んだ俺は、その光景を不思議な気分で眺めていた。

 やはり、過程が違っても原作と同じ様なイベントは発生するらしい。

 もしかしたら、もう何もしなくても全ては上手く行くのかもしれない……つい、そんな事を考えてしまいそうになる。

 いや、そもそも根本的に間違えたのかも知れない…アルキードを見捨て何もせず、ただでろりんとしての役割ダケを果たしていれば、こんなややこしい事には成らなかったハズだ。

 

「浮かない顔ね? 何か都合が悪いのかしら?」

 

 ダイと話し込むレオナに気を使ったのか、マリンが探りにやって来た。

 

「別に…ただ、俺はどうすれば良かったのか? と思ってな…」

 

「急にどうしたの? そんな漠然と言われてもわからないわ」

 

「そう、だな…すまん、忘れてくれ」

 

「あなた…やっぱり、姫様が仰るように…」

 

『うわぁぁ!! ド、ドラゴンだぁ!!』

 

 マリンが何かを言いかけたが、神官の叫びに遮られ続きは聞けなかった。

 どうやら、仕込んだドラゴンと無事に遭遇したようだ。

 

「ドラゴンだって? どうしてデルムリン島にっ? オレ、見てくるよ!」

 

「あ、待ってよ、ダイ君」

 

 姫さんの制止を振り切ったダイが地の穴に突入していく。

 

「いけません、姫っ」

 

 ダイを追うとするレオナの前に両手を広げたマリンが立ちはだかる。

 

「退きなさい、ドラゴンが出たならアポロ達を放っておけません」

 

「ダメです! 姫様を危険に晒す事になります」

 

「ならばマリンが行ってあげて。ヒャド系を得意とする貴女が行けばドラゴンの打倒が楽になるわ」

 

「ですが、姫様をお一人にする訳には…」

 

「パプニカの王女として命じます! 海の賢者マリンは太陽の賢者アポロと協力してドラゴンを倒しなさい! 大丈夫よ…ここには変人さんが居るわ…そうよね?」

 

 王女として凛々しく命じた姫さんは、俺を見て意志の確認をしてくる。

 すっかり変人さんで定着してしまった。

 

「ん? そうだな俺は地の穴に行かねーからな」

 

 ダイが心配と言えば心配だが、四肢の短いドラゴンの攻撃能力はそれほど高くなく、迂闊に近寄らず吐かれる炎に気を付ければ即死の危険は高くない。

 むしろ厄介なのは鋼鉄より堅い皮膚と言われるその防御能力であり、生半可な攻撃や初級魔法ではゲームと違ってノーダメージだ。

 魔法主体のアポロ達なら自然と距離を取り、効き目の薄い魔法で時間を掛けて闘うだろう。

 つまり、ドラゴンは賢者の足止めにうってつけのモンスターなのだ。

 

「わかりました…でろりん、姫様にもしもの事が有れば私はあなたを許しませんから」

 

「そうかよ…そんなことよりダイの事も頼んだぜ」

 

 姫さんに一礼して地の穴に駆けていくマリンを見送った。

 

 さてと…おあつらえむきに姫さんと二人きりになれたし、もう一手打つとしよう。

 

「漸く二人きりになったわね…さぁ変人さん、あなたは何を企んでいるのかしら?」

 

 姫さんは俺が手を打つよりも早く、王者の表情で俺をじっと見詰め、核心を突いてくるのであった。

 


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