でろりんの大冒険   作:ばんぼん

35 / 69
29

「……あなた、泣いているの?」

 

「はぁ? 誰がだ?」

 

 マリンの言葉を否定しつつも目尻に触れると、そこには涙が溜まっていた。

 

 汗じゃない…?

 

 何故だ? こんなでっち上げの小芝居で泣く理由など俺には無いハズだ。

 

 指先に付いた涙を見つめ呆然としていると、ダイが最前列に出てきた。

 

「オレ、でろりんがどんな酷い目に合ったのか知らない…だけどっ、こんなの間違ってる……王様が悪くたってレオナは悪くないんだろっ? だから、上手く言えないけどっ、こんな事してほしくない!」

 

 ダイは真っ直ぐな瞳で俺に訴えかけてくる。

 

 正視に耐えない俺は、顔を背けるしか無かった。

 

「貴方の言い分には一理あるわね。でも、私は貴方の為にも殺される訳にはいかないわ。別に命が惜しくて言うんじゃないわよ? 王族の支配に問題が有ると提起するなら、一緒に考えれば良いのよ……貴方が罪を犯す必要は有りません。知ってるかしら? 正義無き力は暴力よ……暴力で世界は変えられないわ」

 

「そうよっ! 姫様がこう仰ってくれるなら一緒に考えましょう! 私達が争う理由は無いわ」

 

 知ってるも何も、世界を変えようだなんて思っちゃいない。

 

 それに、俺だって争いたくてやってんじゃないんだけどな……ダイが居て姫さんがはしゃぎ、くだらねぇ会話をマリンと交わす……悪くない時間だったさ。

 

 だけど…。

 

 大魔王が倒れるその日まで、俺は日々を楽しむ訳にいかないんだ。

 それが、世界の破滅へと歴史の舵を切った俺の責任であり、自身の生き残りを賭けて頑張るしかない。

 

「なんだそりゃ? 俺達は敵同士なのに主従揃って甘いんだな」

 

 涙を拭い捨てた俺は、正面を向き直しふてぶてしく言い放つ。

 

「敵っ!? そう……私達は敵同士なのね」

 

「マリンは下がっていなさい。でろりん、貴方が受けた屈辱は私には判らないモノかも知れません。ですが、怒りに任せて暴力を振るうなら魔物と変わらないじゃない? 人間らしく話し合いましょう! 話し合えばきっとお互い理解出来るはずよ」

 

 力が全て。

 この言葉を否定するかの様に、マリンを制した姫さんは堂々と歩み言葉をもって俺に挑もうとしている。

 毒の短剣で切り付けた事が無かったことになっているのか、俺を見る姫さんの瞳には批難の色さえ浮かんでいない。

 この姫さんなら、俺がでっち上げた問題ですら解決するかもしれない。

 

 だが、今はそんな事は全く関係無く、大魔王は言葉で倒せる相手でもない。

 事情を知るから言えるんだ……″大魔王″とは悪魔の王ではなく魔族の王であり悪ではない。

 神に虐げられる魔族の為に、確たる信念を持って地上破壊を企てる大魔王を誰が責められようか?

 大魔王との争いは結局の処、互いの存在を掛けた生存競争である。

 しかし、単純故に不可避のモノであり大魔王を否定するには″言葉″でなく″力″が必要なんだ。

 その為には是が非でもダイには強くなってもらわなくてはならない。

 

 チラリと視線を動かしアポロの位置を確認する。

 何時でも対応出来る様に姫さんの横にしっかり着いて来ている。

 この位置にアポロが居るなら大抵の魔法は″フバーハ″で防げる。

 

 言葉でダイの怒りを買うのが難しいなら行動あるのみ。ついでに言葉が通用しない相手が居ることを姫さんに教えてやろう。

 

「理解も同情もいらねーよっ……同情するなら死んでくれ! メラゾーマ!!」

 

 問答無用とばかりに会話を打ち切った俺は、レオナ姫に向かってメラゾーマを唱えた。

 

「正気かっ!? フバーハぁ!!」

 

 姫さんの前に素早く躍り出たアポロが予想通りフバーハを唱えると、ドーム状の光の壁が生まれ俺のメラゾーマを遮断する。

 この世界のメラゾーマが弱いのか、それともフバーハが強いのか?

 光の壁に遮られダイと姫さんはノーダメージだ。

 

「まさかダイ君を巻き込んで攻撃してくるとは思わなかったわ……どうやら本気の様ね」

 

「そんなっ…どうして!?」

 

 暴挙としか言えない俺の攻撃に、自信に満ちた姫さんの顔が幾分か曇り、ダイは完全に混乱している。

 

「ふんっ…フバーハか…やるじゃねーか」

 

「貴様こそメラゾーマを身に付けているとはな……だが! この光の壁は突破出来んぞ!」

 

 激昂するアポロがドヤ顔で語っているが、フバーハとて万能じゃないのはマトリフから学んでいる。

 

「突破する必要がない……伸びろ! ブラックロッド!!」

 

 フバーハとは吹雪や火炎、そして幾つかの魔法を防ぐ対魔法結界である。

 その一方で物理的な攻撃に対して何の効果も果たさない。

 

「なん、だと!?」

 

 杖先を刺叉状に展開したブラックロッドでアポロの腰を挟んで浮かせると、そのまま伸ばして結界外まで押し出していく。

 アポロは両手で杖を掴みバタバタと足掻いているが、地に足着いていない状態では悪足掻きに過ぎない。

 ″地の穴″横の壁にアポロを押し付けると、ブラックロッドに更なる魔法力を送り込む。

 

「お前は寝てな! イオラ!!」

 

 ブラックロッドは杖である。如何に形状を変えようとも″杖先″から魔法を放つのは可能だ。

 打撃武器に見せかけてからの、零距離イオラ。

 コレを初見で見抜ける奴などいやしない。

 

 目論見通り、杖を握るアポロの手が離れ″だらん″と腕をぶら下げる。

 

「アポロっ!? そんなっ……今、ベホイミを」

 

「やらせねぇよ!!」

 

 杖を縮めアポロを解放した俺は、伸びきったブラックロッドを振り回し、地の穴から飛び出し回復に走るマリンを弾き飛ばした。 軽々と振るう様に見せかけているが、10メートル近い杖を振り回すには見た目以上の力が必要で、魔法力で力をブーストしなければ扱えない俺の消耗は激しく、多用の出来る技でもない。

 早目にダイの怒りを買わないと、じり貧になるのは目に見えている。

 しかし、肝心のダイは姫さんを押し倒して杖のスイングから身を挺して庇ったまま、姫さんの上から動こうとしない。

 

「ダイっ!! そこを退けっ! 俺が殺さなきゃなんねーのはお前やアポロじゃない! その姫さんダケで良いんだっ」

 

 姫さんを殺す気も0だけど、今のダイがコレを見抜くのは不可能だろう。

 不可能だからこそ、こう言えるのだ。

 ダイは退けと言って退くような奴でもなければ、如何なる理屈を捏ねても殺人を見逃す奴でもない。

 

「イヤだ! レオナだって殺さなくたって良いだろっ……何となくだけど、オレ、わかるんだっ…でろりんはホントはこんな事したくないって!」

 

 案の定首を振って否定したダイは、予定外に俺の内心を見抜いている。

 

 俺はヘマでもしたのだろうか? いきなりメラゾーマを食らわした俺を未だに信じる理由などない筈だ。

 

「……やりたい、やりたくないの問題じゃない! 大人には嫌でもやらねばならない時があるんだっ! 分かったらソコを退け! それが嫌ならお前の力で俺を止めてみろ!!」

 

 ブラックロッドを収納した俺は、腰の剣を抜いて地に伏せるダイ達にゆっくりと近付いていく。

 

「ヒャダイン!!」

 

 詠唱が聞こえた方を振り向く。 立ち上がったマリンが両手を伸ばし、問答無用でヒャダインを唱えた様だ。

 

 うん、悪くない。

 敵である俺と余計な問答など必要なく無言でヒャダインはマリンにしては良くやった方だ。

 惜しむらくは、詠唱しなければならない言葉を叫んでしまった事だろう。

 

「ちっ、黙って寝てれば良いものを! メラゾーマ!!」

 

 若干の余裕があった俺は、一歩飛び退き火炎呪文をもって相殺を試みる。

 

 ぶつかり合った魔法が水蒸気へと代わり消滅した。

 

「あなたが姫様を襲うなら、私は姫様を命に代えても護る! それが私の役目よ!」

 

「ふんっ…御立派な事だが、知らないようだな? 力無き正義は無力なんだよ! お前じゃ俺は止められねぇ! ベギラマぁ!!」 

 

「そんなっ!?」

 

 驚愕の表情で固まったマリンに、俺の放った閃熱が一直線に襲いかかる。

 マリンは腕をクロスさせて眼前を護ろうとするも、元々胴体狙いだ。

 

 土手っ腹にベキラマの直撃を喰らったマリンがその場に倒れ込んだ。

 

「退いて、ダイ君……彼の狙いは私よ」

 

 言いながらダイを押し退けた姫さんは、立ち上がって衣服に付いた砂埃を叩いている。

 

「ヤだよ…どうして…」

 

「悔しいけど、私達じゃ彼は止められないわ・・・変人さん、私が死ねば他の人は助けてもらえるんでしょうね?」

 

 唇を噛み締め俺を見据えた姫さんが、絶対に受け入れられない妥協案を提示してくる。

 

 失敗か…?

 

 アポロ達は虚を突いて一時的に無力化したに過ぎず、意識を取り戻せば自己回復後に挑んでくるのは明らかだ。

 しかも、次はアポロ達も完全に本気になるだろう……それこそ俺の命を奪う気で。

 

 そうなれば手加減せねばならない俺は、圧倒的に不利な立場に陥ってしまう。

 これ以上暴れてもダイの怒りが爆発しないなら、そろそろ撤退を視野に入れないといけない。

 

「あぁ……約束しよう。ダイは下がってろよ?」

 

 状況的にコレが最後のチャンスになる。

 内心の葛藤を隠し冷たく告げる。

 

 左手に火炎を産み出した俺は″怒ってくれ!″と願いを込めて立ち上がったダイをじっと見据えた。

「そんなっ……どうして……」

 

「俺の為だっ……俺が平穏に暮らす為にはどうしても必要なんだ……退け、ダイ! お前の事は気に入っている……出来れば死なせたくない!」

 

 ダイに語りかけている間にも、視界の端にモゾモゾ動くマリンが映るのを確認できる。

 

 もう、時間がない。

 

「オレはっ、レオナにも死んでほしくない!!」

 

「そうか……残念だ……死ねっレオナ!! メラ…ゾーマ」

 

 直前でホップして上空に消えていくよう狙いを定め、産み出した火球のスピードを調整し慎重に放った。

 

「レオナが、死ぬっ!? ………うぉぉ〜〜っ!!」

 

 雄叫び上げたダイの周りに空気の渦が巻き起こる。

 

 覇者の冠で隠され額の確認は出来ないが、ダイの身体が薄い光に包まれる……それに、この感覚……いつぞやのバランと同じだ。

 

 紋章が発現したとみてまず間違いない。

 

「バッ! ギッ! グロース!!!」

 

 頭上でクロスさせた腕を降り下ろしながらダイが叫ぶと、クロス状の真空派が発生し俺のメラゾーマを切り裂き迫り来る。

 

「良しっ! 盾よ! 魔法を喰らえ!」

 

 甲羅を脱いで左手で構えた俺は、前面に翳して真空派を掻き消した。

 

「バギクロス!? 凄いじゃないっ……あら?」

 

「へへっ…オレも驚いてるよ」

 

「へぇ〜? そうなんだぁ〜」

 

 ダイが驚き姫さんの称賛に照れているが、誰よりも喜び称賛してやりたいのは俺だったりする。

 自身の経験に照らして考えれば、あの年頃で最上級の魔法が使えるなど有り得なく、ダイの非凡な才能の証明に他ならない。

 素直に喜べないのが実に残念だが、このチャンスは見逃せない。

 

 ダイの紋章が発現している内に、更なる戦闘経験を積んでもらう必要がある。

 

「バギクロスか……だが魔法じゃ俺は倒せねぇ!! 邪魔をするならお前から先に倒す!」

 

 左籠手から仕込み爪を出現させ、右手の剣と重ね合わせポーズを決める。

 細い円錐形のこの爪は先端こそ尖っているモノの、突き攻撃を繰り出さなければ殺傷力は高くない。

 つまり、手加減するのに打ってつけだ。

 

「これ以上暴れさせない! オレが……止めてやる!!」

 

「ガキがっ…調子に乗るなっ!」

 

 左肩に背負ったナイフを抜いたダイが、一瞬で距離を詰め突きを入れてくる。

 右の籠手で受け止めた俺は、無造作に爪を振るって反撃に移る。

 

「ほらほら、どうした? そんなんじゃ俺は止められ無いぞ!」

 

「くそっ…」

 

 連続で繰り出す俺の攻撃を必死に避けるダイであるが、その避け方は褒められたモノではない。

 一言で言うなら動きが大きすぎるのだ。

 一歩下がるだけで避けられる攻撃まで、大きくステップして跳び跳ねては身体全体で避けている。

 戦闘経験の無さから類い希なる身体能力と紋章の力が全く活かされていないのである。

 

 いくら紋章が発現していようとも、戦闘技術の全く無い今のダイなら余裕をもって追い詰められる。

 振るう爪の速度を早め、飛び退く先にメラを放っては体勢を崩していく。

 

 避けきれなくなったのか″キンッ″と音を響かせ、ダイがパプニカのナイフで爪を受け止めた。

 

「頑張ったがコレまでだな?」

 

 パプニカのナイフと爪で鍔迫り合いを演じながら、右手に持った剣を振り上げる。

 

「あぶないっ! ギラっ!」

 

「…!? 姫さんか!?」

 

 声の方を振り向くと、側面に回り込んだ姫さんの両手からギラの閃熱が産み出されている。

 右の籠手でギラの閃熱を受け止めるも、俺の鳩尾に蹴りを放って間合いから逃がれたダイに、距離をとられて体勢を整えられる。

 

「…魔法が…はじかれ……!?」

 

「邪魔を、するなっ……イオ!」

 

 戸惑う姫さんの足元にイオを放って牽制を試みる。

 

「姫様!」

 

「コレ以上はやらせん! メラゾーマ!!」

 

 ゾンビの様に復活を果たしたマリンが姫さんを庇い、アボロは遠距離からメラゾーマを唱えてくる。

 

「ふんっ……次から次へと」

 

 焦る事なく上空に浮き上がった俺は、悠々と火線を下に見てやり過ごす。

 俺の神官達に対する絶対の自信は、トベルーラと甲羅の盾に依るモノで、コレが有る限り単発の魔法は怖くない。

 俺という目標物を無くした火炎がそのまま進み、壁に着弾して掻き消えた。

 

「貴方、何でも有りなのね? 変わってるのソコまでいけば大したモノよ」

 

「鍛え方が違うんだよ。力が全てのこの世界……生き抜く為に、これくらい鍛えて当然だ」

 

「それは違うわ。力の無い人が平和に暮らせるように、力を得た者はその力を使うのよ」

 

「勝手に言ってろ…アンタと問答する気はない」

 

 てか、闘う気すらもう無いんだが……さて、どうしたものか。

 

 空中で胡座をかいた俺は高度を上げて下の様子を伺いつつ、甲羅の裏から魔法の聖水を取り出して魔法力の回復を図る。

 

「そ、そうだわ! 姫様っ、この場は一旦退きましょう!」

 

「ダメよ……彼の目的がハッキリしない限り野放しには出来ません。ここで止めるのよ」

 

「しかし姫様っ! 彼はトベルーラを使いながらでも魔法を駆使できます! このままでは一方的な攻撃を受ける事になります」

 

「それに、でろりんの目的は姫様を害する事では…?」

 

 アボロとマリンが姫さんの元へと集い、思い思いの考えを進言している。

 

「それが判らないのよねぇ……殺そうとしているのも間違いないと思うんだけど、最初に言ってた事と違うのよね……それに、ダイ君は本当に才能有るし……」

 

「姫様…?」

 

「オレは、闘うよ……でろりんをこのままにしておけないっ……闘ってみて思ったんだ、何だか呪われてるみたいだって」

 

「呪われている、だって?」

 

「うまく言えないけど、酷い事しようとしてるけど、それを止めようとしているみたいなんだ」

 

 ダイ流の考察によると俺は呪われている、らしい……言い得て妙だな。

 やりたく無くてもやらなきゃならない…自分の意思と違う行動をとる俺は、″呪われている″と言えなくも無いが、こんなの前世じゃ当たり前だった。

 やりたい事だけやって思い通りに過ごせる程、世の中甘く出来てない。

 

「ダイ君……そうね、みんなで止めましょう!」

 

「はいっ姫様!」

 

 今一つ要領を得ないダイの説得が通じたらしい。

 姫さんが三人の顔を見回して決意を語ると、マリンが嬉しそうに答えている。

 

「いや、お前等じゃ止められねーよ。力が無くちゃ何も叶わない……闘いは非情さ」

 

 相談が終わったのを見計らって、高度を下げて声をかける。

 

「そんなのやってみなくちゃ解らないだろ! みんなっ一斉に攻撃しよう!」

 

「えぇ、行くわよ! アポロ!」

 

「任せろ! メラゾーマ!」

「ヒャダイン!」

「ギラ!」

 

 四人が横一列に並び、バラバラの呪文を唱えた。

 

「無駄だっつーの!」

 

 種類が違えど来る方向とタイミングが判っていれば何も怖くない。

 三種の魔法を右に左に移動して軽々と避けるが、言い出しっぺのダイは指笛鳴らして攻撃してこない。

 

「ベ・ギ・ラ・マぁ!!」

 

 ワンテンポ遅らせたダイが両手を使った独特な構えからベギラマを放った。

 

「何っ!?」

 

 タイミングを計ったのか、移動した先にダイの放った閃熱呪文が迫り甲羅での防御を余儀なくされる。

 視界を遮ぎる形に成った甲羅をずらし、眼下を確認するもダイの姿が見当たらない。

 

「ダイが居ない…? 上かっ!」

 

 咄嗟に見上げると、パピラスから飛び降りたダイがパプニカのナイフを下に構え急降下してくる。

 

「うぉぉぉお!」

 

 雄叫び上げて迫るダイの攻撃を、甲羅の盾を翳して受け止めた。

 

「そんなっ!?」

 

 ダイが驚くのも無理はない。

 ダイの攻撃は俺に盾を使わせ死角を産み出す見事なモノだった。

 俺はダイがパピラスに飛び乗る瞬間を確認していない。にもかかわらず攻撃を察知して防いでみせたのは原作知識のお陰である。

 

「惜しかったなっ」

 

 甲羅に弾かれバランスを崩したダイに回し蹴りを放つ。

 ダイが腕を使ってガードする。

 竜闘気に覆われた腕の何とも言えない感触を感じながら、ガード諸とも上段から下段に脚を振り抜いた。

 

 宙に浮くダイは為す術なく地面に向かって吹っ飛んでいく。

 

「ダイ君っ!」

 

 大地に激突したダイの元へ姫さんが走り寄る。

 

「くそっ…なんて強いんだ……」

 

 膝に手を当てフラフラ立ち上がったダイは、意志の宿る瞳で俺を見詰めるが、身体を覆う光″竜闘気″は失われている。

 ここらが潮時だな。

 

「ハッハッハ! 俺が強いだって? 馬鹿を言うな! お前等が弱ぇんだよ!」

 

 ここまでやった以上今更後に退けず、高笑いでノッてみせた俺は、何処からどうみても悪役だろう。

 最後に適当な問答を行い捨て台詞でも吐いて逃げるとしよう。

 二度の紋章発現、ライデインにバギクロス。

 ベギラマまで使ってくれた上に俺は″ニセ勇者″としてしっかりダイの記憶に刻まれただろう。

 

「キミはそれ程の力を身に付けながら悪に走ると言うのか!?」

 

 拳を握り締めたアポロが如何にもアポロらしい批難の声をあげる。

 悪にしか見えない俺をまだ説得するつもりらしい。

 

「ふざけろっ。俺は世界を救うために力を身に付けたんだ」

 

 今は理解されなくとも、いずれはコイツにも判る筈だ…その時が来る迄、今は袂を別つとしよう。

 

「こんな事して何になると言うのよっ…もう、止めてっ」

 

 マリンは潤んだ瞳で俺に自制を促してくる。

 

「ダイが強くなる。強くなったダイは俺の目的を叶えてくれるのさ」

 

「あら? 貴方の目的は何なのかしら?」

 

 姫さんはいつの間にか冷静さを取り戻しており、澄ました顔で何度目かとなる質問をぶつけてくる。

 

「教える必要がねぇな? ダイ! 俺に手を貸せ!」

 

 手を貸す筈が無いと解っちゃいるが、逃げるまでがニセ勇者。

 しっかり最後まで演じきろう。

 

「イヤだっ! オレは、でろりんを止めてやる!」

 

 止めてやる、か……。

 

「くくく……」

 

 どいつもこいつも揃いも揃って甘過ぎる。

 この後に及んで未だ俺を敵と見なさない様だ。

 

「何が可笑しいんだっ!?」

 

「出来もしない事は言うもんじゃないぜ……俺を止める? 今のお前が、か?」

 

 残った魔法力を全解放してその身に纏う。

 ダイが俺を止めると言うならば、力を見せて壁に成ろう。

 こうする事でダイが少しでも強くなるなら、それはそれで有りだろう。

 

「なんだっ!? その魔法力は……」

 

 驚くアポロを無視して俺は両手を左右に広げた。

 

「最低でもコレくらい出来るようになってから言ってくれっ・・・イオナズン!!」

 

 その場でゆっくり一回転してみせた俺は、全方位に魔法力を放出していく。

 

 眼下ではダイ達が驚き戸惑っているが、長居は無用だ。

 

「今日の所はダイに免じて退いてやる……ダイよ! 俺を止めたきゃせいぜい強くなる事だ!」

 

 我ながらよく解らない捨て台詞を吐いた俺は、キメラの翼を取り出してデルムリン島を跡にしたのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。