でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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「ゆ、勇者殿っ……アレは一体…何者だったのでしょうか?」

 

 呆然と立ち尽くしミストバーンが去りガストが漂う空間を見上げていると、一人の兵士が怯えた声をあげる。

 気配が感じられなくとも目視する事で、ミストバーンのただならぬ恐ろしさを感じたのだろう。

 

「んなもん俺が知るかっ……」

 

 知ってても教えてやれないってか、ミストバーンが何をしに来たのか俺が教えて貰いたい位だ。

 

 あの野郎……マジで一体ナニ考えてんだ?

 あの去り方……どう考えたって目ぇ付けられたよなぁ…早くも″影でコソコソ不意討ちでゴー″大作戦が頓挫したのか?

 

 いや、まだだ! まだ判らん!!

 

 今からでも上手に手を抜いて″ヘタレ″に見せ掛ければっ……って、無理に決まってるっ。

 そんな舐めた真似をしていたら普通に死ねる。

 大魔王の目的がバランの足止めダケなら戦場に出ないのも有りだろう。

 しかし、現時点の情報だけでは戦闘不参加とは決断出来ない。

 

 くそっ、どうすりゃ良いんだ!?

 

「ゆ、勇者殿!? 如何なされた!?」

 

 両手で抱えた頭を振っていると、兵士が心配そうな面持ちで近寄って来た。

 

 ん?

 

「さっきから勇者って誰だよ?」

 

「貴公に決まっておる。その身のこなしに加えて回復呪文……更には我らへの激励、」

「あーはいはい。別に勇者でも良いけど、あんたら何で囲まれてたんだ?」

 

 勇者だとか貴公だとか、そんなおべっかには何の価値もない。

 うんざりしつつ騎士の言葉を遮った俺は、囲まれるに至った経緯を尋ねた。

 

 必要なのはこの状況を切り抜けられるだけの力であり、情報だ。

 ミストバーンの真意が判らないなら、せめて戦場の情報、魔王軍の戦略を少しでも仕入れておきたい。

 

「相対するモンスターめを倒し終わらぬ内に一匹、又一匹と新手がやって来たのだ……さしもの我等も最早これ迄と観念した処を貴公に救われたのだ」

 

 騎士は苦々しげに、それでも何処か偉そうに状況を語った。

 

 なるほど……。

 一撃で倒していた俺が気付かなかったダケで、戦っている最中にモンスターが近寄って来れば戦闘に加わるって事か……。

 

 ん? これって?

 

「えっーと……つまり、リンクしたって事か?」

 

「リング……ですと? 確かに囲まれてしまったが輪っかには成っておらん! 我等を見くびってもらっては困るっ、背後を取られる様なヘマはせんわ」

 

 リンクとリングを勘違いした騎士が、侮辱と感じたらしく勝手に怒り出した。

 どうやらこの世界には″リンク″の概念が無いらしい。

 ならば、リンクを利用すれば……大魔王の数にも対抗しやすいか?

 

「いや、良い……こっちの話だ……為になる情報、感謝する。お互いお国の為に頑張ろう」

 

 こうして騎士から情報を得た俺は、適当に別れの挨拶を済ませると、思い付いた作戦を実行すべく単独行動を再開するのだった。

 

 

◇◇

 

 

 騎士達と別れ、周囲に人間が居ないのを確認した俺は、幹にしがみつくフレイムを見付けるとヒャドを放ち、根っこに斬り掛かるさまよう鎧に蹴りを入れた。

 フレイムが奇声を発して此方に飛んでくると、周りのフレイムもそれに釣られる様に飛んでくる。

 空洞の瞳を怪しく光らせたさまよう鎧達も″ガシャガシャ″と音を立て一団と成り追い掛けてきた。

 

「良し! さぁっ、追ってこい! 纏めて吹き飛ばしてやるぜっ」

 

 俺の思惑通り、モンスター達がモンスターを呼び続け大挙して押し寄せる。

 

 西の空に沈みかけた太陽を背に俺は走り始めた。

 遠目には先頭を走る俺がモンスターを統率している様に見えるかもしれない。

 

 そんな俺の作戦は実に単純。

 リンクの性質を利用して多くのモンスターを引き付けて連れ回し、集めまくった処で空中に浮いてイオラで纏めて吹き飛ばす。

 時間短縮に加えて、俺が一人で大量のモンスターを抑える事により、名も無き戦士達に掛かる負担と世界樹への攻撃を減らすことが出来る。

 正に一石三鳥の我ながら良くできた作戦だろう。

 

 恐らくモンスターに与えられている行動原理は、

 

 第一に、反撃。

 第二に、救援。

 第三が、世界樹の破壊。

 

 こんな所だろう。

 1日闘い続けた俺には解る…雑魚モンスター達に自己の判断で動けるだけの知性が無いのはほぼ確実だ。

 

 知性を与えず数だけ揃え、舐めた命令を出した己の愚かさを呪うが良いさ……大魔王さんよぉ!

 

「頃合いだな……」

 

 眼前に巨大な根っこを確認した俺は、″チラリ″と背後に視線を送り、群がるモンスターを確認するとトベルーラで舞い上がる。

 

「くらえっ……って!?」

 

 突然、ふわふわ浮いていたダケのガストに全方位、360度を完全に包囲される。

 その動きは俺がイオラを生成するよりも早い。

 

「はぁっ!? 話が違うぞっ!?」

 

 攻撃しなければ攻撃して来ないんじゃなかったのか!?

 

 いや、ボヤいている暇は無い。

 ガス生命体であるガストに物理攻撃力は無いが、厄介な事に魔法を封じる″マホトーン″を使ってくる。

 この状況で魔法を封じられたら洒落にならない。

 俺の眼下にはおびただしい数のモンスターが群がっているんだっ。

 

「くそがっ…ベギラマ!」

 

 咄嗟に正面のガストの群にベギラマを放って焼き払うも、焼け石に水とはこの事だろう。

 お返しとばかりに四方八方からマホトーンを受けた俺は、浮力を失い地面に向かってまっ逆さまに堕ちていく。

 

「あががひょうはへん!!」

 

 マホトーンの影響で呂律が上手く回らない。

 しかし、魔法じゃないので関係無いってか技名を叫ぶ必要すらない。

 ガストにぶつかりながらも空中で体制を整えた俺は、着地ザマに武神流奥義″土竜昇派拳″を放って周囲のさまよう鎧を浮き上がらせて、なんとか足場が確保する。

 しかし、元々浮いているフレイムやブリザードには効果が薄く、勝利を確信したかの様な余裕の笑み浮かべ、奇声を発し身体を左右に揺らしている。

 俺は……見事に大魔王の罠に嵌まったって事か……トベルーラを使う者への対処としてガストは放たれていた……魔法力の浪費を嫌い今まで翔ばなかったのが仇に成ったのか。

 

 まぁ、いい……反省は後回しだ、面倒でもトベルーラ無しで倒してやるさ。

 

「へぇーンウィッひゅ!!」

 

 右の籠手に仕込んだ鎖を目一杯に伸ばした俺は、その場で回転すると周囲全てを射ち付ける。

 

 しかし、コレも焼け石に水か……集めまくったモンスターが俺を何重にも取り囲んでいる。

 リボンを回す様にチェーンを振るい、迫るモンスターを倒していくも、倒した骸を乗り越えて次から次へとやって来る。

 

「幾らへも掛かっへ来い!」

 

 仕込み爪を出現させてポーズ決めた俺は、マホトーンの効果が和らいだのを実感しつつ、自ら招いた窮地を切り抜けるべく闘い続けるのであった。

 

 

◇◇

 

 

「鬱陶しいんだよっ! ベギラマ!!」

 

 上空から執拗にマホトーンを放ってくるガストを焼き、無言で迫るさまよう鎧を拳で砕き、踊るフレイムを爪で斬り払う……何度も何度も同じ事を繰り返した結果、漸く包囲の向こうが見え始めた。

 

 ふぅ……やっと終わる。

 

 一撃で倒せる雑魚が相手でも、コチラは動けば疲れる生身の人間だ。不意の一撃を喰らえば痛いし怪我もする。魔法力だって無限じゃない。

 ″リンクで殲滅大作戦″は二度とやるまい。

 そう固く心に誓ったその時、空から″岩″が降ってきた。

 

「何っ!? 爆弾岩か!?」

 

 ぐんぐん迫る岩の不気味な笑みに気付いた俺は、ギリギリでソレを回避する。

 

 ″ドスンっ″と音を立てて着弾したソレは、幸いな事に爆発しなかった。

 爆弾岩が自力で飛ぶなんて事は有り得ない……つまり、誰かが俺に向かってぶん投げたって事だろう。

 

 モンスターを牽制しつつ犯人を探そうとしたその時、フレイムが奇声を発して爆弾岩に飛び付いた。

 

「おいっ! バカっ、止めろ!!」

「……メガンテ」

 

 くそ……味方もろともか!?

 籠手を重ね背中を丸めて爆弾岩の自爆に耐える。

 

「ギャハハハっ! マヌケな事して笑わせてくれるじゃねーか亀野郎! どうだ? オレからのプレゼントは気に入ったか?」

 

 笑い声が聞こえた方を見上げると片膝ついて前屈みになったフレイザードが、爆弾岩を侍らせて根っこの上からニヤニヤした表情で俺を見下ろしている。

 

「テメェか! 爆弾岩を投げたのは!?」

 

「そうさっ、お気に召したならもっとやるぜっ」

 

 下品に笑ったフレイザードは次から次へと爆弾岩を投げてくる。そのコントロールは中々のモノで俺にぶつかる放物線を的確に描いている。

 卑怯だなんて言う気はない。相手の反撃を封じ遠距離から一方的に狙う……実に合理的な戦法だろう。

 

 だが、来ると判っていれば俺には効かない。

 飛んで来る爆弾岩を避け、フレイムの誘爆を誘っては、モンスターの群に突っ込んで更なる同士討ちを発生させていく。

 

「テメェ…わざとやってんのか? 味な真似をしてくれるっ、だがっコイツはどうだ!」

 

 俺の狙いに気付いたフレイザードは最後の一体となった爆弾岩を、大きく脚を振り上げてストレートで投げてくる。

 

「そこだっ! 落合流首位打者剣!」

 

 狙いを定め、ブラックロッドで打ち返すも弾道が低く、フレイザードまでは届かなかった。

 フレイザードの足元の根っこにぶつかった爆弾岩が自爆する。

 

「オチアイ流だぁ? 良いのかぁ? 大事な世界樹を傷付けてもよぉ?」

 

「五月蝿ぇ! テメェ何モンだっ!? 降りて来て名乗りやがれ!」

 

 聞くまでもなく、俺はコイツを知っている。

 半身が氷、半身が炎で出来たモンスター。

 魔王軍六大団長が一人、氷炎将軍″フレイザード″……ハドラーの禁呪法により産み出された岩石生命体だ。

 氷の冷酷さと炎の激しさを併せ持つその性格は、極めて合理的であり勝つためには手段を選ばない。

 マトリフをして″レベルが高ければ勝てない相手″と言わしめる、危険極まりない男だ。

 

「ヒャハハハっ! 面白れぇじゃねぇか! そんなボロボロなザマで、この氷炎団長フレイザード様とヤろうってのか!?」

 

 根っこの上から飛び降りてきたフレイザードと対峙する。

 その距離、目算で20メートル。

 魔法を避けられるギリギリの距離感……尤もこれには″残る雑魚が邪魔をしなければ″と条件が付く。

 

「氷炎、団長……?」

 

 なんだ?

 氷炎団長? 呼び名が違うのか?

 

「おうよっ! オレ様こそが魔王軍六大軍団が一つ、氷炎魔団を率いるフレイザード様よ!」

 

 俺が小首を傾げていると、フレイザードはサムズアップして立てた親指を自身に向けて胸を張った。

 その胸には原作通り大きなメダルが輝いている。

 

「なにっ!? 六大軍団だと? 他に五つも有るってのか!?」

 

「ほぉぉ? 情報を引き出そうってのか? オレ様を前にして舐めた真似してくれるじゃねぇか……オーケー、オーケー。お望み通り教えてやる……オレ様の強さをなぁっ!」

 

 聞き方が不味かったのか、マトモな情報を引き出す間もなくフレイザードが殺意を顕にする。

 

 禁呪法で産み出されたフレイザードを倒すには″コア″と呼ばれる部分を砕かなければならない。

 それには″空″の技で見極めるのが手っ取り早い。

 しかし、俺は″空″の技を使えず、正直コイツの相手は荷が重い。

 

 だが、まだ退く訳にはいかない。

 折角の遭遇戦。

 少しでも情報を得て今後に繋げる……いや、コイツを倒すなら早い方が良い……ダメで元々、全力を出して挑むべきか? 広範囲を巻き込む攻撃なら運良く″コア″を砕けるかもしれない。

 

 ……ダメだっ。

 

 下手に闘ってコイツに戦闘経験を積ませる位なら、逃げる方がいくらかマシだ……本気でヤるなら確実に勝てるダケの実力がいる。

 

「ふざけろっ! テメェが俺の強さにビビりやがれ!」

 

 迷いを振り切る様に叫んだ俺は、甲羅を構え、腰の剣を抜いてフレイザードを睨み付ける。

 

 正攻法だ。

 先ずは普通に闘い、実力を探り出方を決める。

 

「弱い亀ほどよく吠えるってかぁ? くらえっ」

 

 フレイザードは人間臭い台詞と同時に炎のブレスを吐いてきた。

 群がる雑魚が邪魔で避けきれない。

 甲羅を構えた俺は、炎を遮るも″熱さ″までは無効化出来ない。

 

「お次はコイツだ!」

 

 叫びを上げて大きく息を吸い込んだフレイザードが、続けざまに氷のブレスを吐いてくる。

 

「くそっ……交わせねぇっ」

 

 已む無く氷のブレスも受け止める。

 周囲に氷の柱が出来上がった。

 

「そらよぉ! 砕け散りやがれっ!」

 

 ブレスを止めたフレイザードが氷の肩を尖らせて突進してきた。

 

 甲羅の盾を構え、フレイザードのショルダータックルを受け止め……られるわけもなく、″パキン″と音を残して後方に吹っ飛ばされた。

 

 宙で体勢整え着地に成功した俺は、即座に甲羅の表面を確認する。

 

「テメェ! 幾らしたと思ってんだ!!」

 

 ヒビを確認した俺は、抗議の声を上げずにはいられなかった。

 値段は兎も角、これで″鎧化″は行えない。

 

 逃げるか?

 

 そんな考えが頭をよぎった時、フレイザードは俺の甲羅を指差して気になる事を話すのだった。

 

「ほぉぉ? 砕けねぇか……イイモン持ってんじゃねぇか? あの陰気クセェ野郎が調べろと言ったのはソイツの事か?」

 

 ……戦闘、続行だ。

 

 無理矢理でも情報を引き出さないと、逃げられない。

 

 甲羅を背負った俺は、両手の仕込み武器を出現させて、攻撃主体でフレイザードに挑むのだった。

 


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