でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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「ふぅ……そろそろ昼か? どうする?」

 

 魔王軍の侵攻二日目。

 周囲の敵を片付け終えた俺は汗を拭い、太陽が南天に差し掛かっているのを確認すると、側で付かず離れず闘っていたマリンに話し掛けた。

 

 一人の方が殲滅に向いているが、これも詐欺行為の代償と今後の為だ。

 マリンは俺への借金となったザオラルの報酬を、俺と共に闘い稼ごうとしている。

 俺も闘い俺の影響で落ちるゴールドをマリンと折半し、それをザオラル報酬として頂く……マリンのお陰で楽に成っているのは否定出来ないが、得した気がしないのは気のせいだろうか?

 

「何の事かしら?」

 

 俺の貸し出したブラックロッドを持ったマリンが首を傾げている。

 相変わらずのミニスカートで肌の露出が多いのは何とも成らない様だ。

 

「何って……飯に決まってるだろ?」

 

 手頃な隆起に腰を下ろした俺は、修復の為に残してきた甲羅の代わりに背負っていたリュックを外し、世界樹の葉に包まれたオニギリを取り出した。

 世界樹の葉、と言っても薬効は特にない単なる大きめの葉っぱだ。

 抗菌作用はあるのか、アルキードではこうしてラップ代わりにオニギリ等を包むのに使われてきた。

 世界樹は大地を支えるだけでなく、アルキードに暮らす人々の生活に関わっていたりする。

 時として世界樹を囮にする事もあるだろう。

 しかし、必要以上に世界樹を傷付けさせる訳にいかない……マトリフの見解通り、大魔王の目的がバランの足止めに違いないとしても、だ。

 

 その為にマリンの協力が必要なのは、気のせいじゃないだろう。

 

 世界樹の防衛は重要だ……しかし、俺はそれだけに縛られる訳にもいかない。

 家庭教師アバンの動向をレオナ姫に確認した所、アバンは一昨日の午後、パプニカ城を発ってデルムリン島に向かっている。

 つまり、魔王軍の侵攻初日である昨日がダイの修行初日であり、今日が二日目……そして、明日が運命の3日目となる。

 アルキードがこうなっている以上、原作通りにハドラーの襲撃が行われるとは限らない。 限らないが黙って見過ごす訳にもいかず、出来ればアルキードを離れハドラーの足止めを行いたい。

 安心してアルキードを離れる為にも、マリンの実力″多数に囲まれる長期戦でも大丈夫か?″ コレを見極めなければならない。

 

 その為の今日だ。

 

「あなたねぇ……どうしてこんな時にそんな事が言えるのよ? 今もあっちで闘っている人が見えるじゃない?」

 

 小さくため息を吐いたマリンだったが、此方にやって来くると俺に並んで腰を下ろした。

 

「それはそれ、コレはこれだ。休める時に休んで体力の回復を図る! 無理を続けて肝心な時に闘えなければどうする?」

 

 夜明け前の軍議の結果、世界樹周辺を東、西、南、北の4つのブロックに分けて防衛する作戦が採られている。

 魔王軍の進行ルートでもある東をバランが担当し、北を″魔闘戦士″と名乗るノヴァが担当。

 南は俺のマホカトールを拠点にへろへろ達が防衛に当たり、比較的楽な西側を俺が担当している。

 突出した力の無い騎士や兵士達はパーティーを組んで世界樹の周りを固め、世界樹に取り付いたモンスターの担当だ。

 不条理な事に、大魔王の数の暴力は有効なのに、こちらは数に頼っても軍団長には対抗できない。

 恐らく、軍団長を仕留める前に全滅するだろう。

 無用の被害を生まない為に、各パーティーのリーダーには赤、青、黄色の信号弾を持たせ、半端な数の力が通用しない強敵と戦わせない様にしている。

 将はバランと闘えない……この魔王軍の戦略を逆手に取って、手強い敵…ミストバーンやフレイザードが現れたら赤の狼煙を上げてバランを呼ぶ手筈になっている。

 こうすれば、相手の方が勝手に逃げる算段だ。

 バランに掛かる負担の大きい作戦だが、カンダタマスクが功を奏したのか、昨日に比べて敵の攻勢は弱まっており、紋章の力を遺憾なく発揮して東で食い止めていると思われる。

 バランに″紋章を使ってくれ″と言えれば話は早いのだが、あの親バカぶりを見ていると恐くて言えなかったりする。

 

 黄色の狼煙はその他強敵出現の合図となり方面担当の勇者が駆け付ける。

 青は数に圧されている知らせになり、周辺パーティーが集結する合図だ。

 

 今のところ作戦は上手く機能しており、こうして飯を気にする余裕も産まれている。

 

「…? どうした? 喰わないのか?」

 

 隣合わせに座ったマリンの前にオニギリを差し出していたが受け取る気配がない。

 兵士達が闘っているのに自分だけがゆっくり出来ない……と言うことか?

 立派な心構えだが、それを堪えて休息をとってくれなければ、西方面を安心して任せるコトは出来ない。

 

「……このオニギリ、あなたのお姉さんが作ったのよね?」

 

「ん? あぁ、そうだな。心配しなくても毒なんて入ってないぞ」

 

 毒……あれか?

 自分の発言でふと気付く。

 ウヤムヤのままマリンとこうしているが、姫様暗殺未遂を腹に据えかねているのか?

 

「あなたのお姉さん……良い服着てたわよね?」

 

「……は?」

 

 服ってか装備だろ。

 何を言い出すんだ?

 

「それに、コレとお揃いのロッドも持ってたわ……私や姫様にはあんな酷いことしたのに、お姉さんのコトは随分大事にしてるのね」

 

 コメカミに青筋浮かべたマリンは、俺の手からオニギリを強引にブン取ると世界樹の葉を荒々しく捲っていく。

 

「パーティーの装備を整えるのは当たり前だ……まぁ、あの時はやり過ぎたな……大丈夫だったか?」

 

「大丈夫じゃないわよ! 貴方のお陰で私達のプライドはボロボロよっ! そうだわ! このロッド、私に譲ってくれないかしら? コレが有れば貴方にも負けないわっ」

 

「良いけど……450万ゴールドだぞ? 払えるのか?」

 

 マリンとブラックロッドの相性は良く、半日と掛からず使いこなしていた。

 俺のロッドは新たに作るとして、利益を乗せて正式に譲り戦力の強化を図るのも悪くない。

 

「な、なんなのよ!? お姉さんにはプレゼントしたのに私からはお金を、それも法外な金額を取ろうっていうの!?」

 

「法外じゃねぇっつーの……大体、なんで俺がお前にプレゼントしなきゃなんねーんだ? ・・・ひょっとしてお前、俺の事好きなのか?」

 

 我ながらズルい方法だが希望的観測から軽くカマをかけてみる。

 

「な、なんで私がでろりんなんかをっ!!」

 

 マリンは顔を真っ赤にして怒りソッポを向いた。

 

 俺がやってきた事を考えれば″なんか″扱いを受けるのも仕方ない。

 自業自得とはいえ、人生とは儘ならないモノだな。

 

「そうか……残念だ……俺は、お前のコトを嫌いじゃなかったみたいなんだけどな……まぁ、姫さんにあんなことしたら嫌われるのも当たり前か」

 

「……え?」

 

「変な事言っちまった……忘れてくれ。過去に色々有ったが今の俺達は共通の敵、魔王軍に立ち向かう同士だ。革命なんざしている暇はねぇ……姫様を狙うことも無いと約束しよう……パプニカも大変なのは分かっているが、世界樹防衛に協力してくれれば助かる」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように長々と話した俺は、立ち上がって深々と頭を下げマリンに協力を依頼する。

 

「え? あ、も、勿論よ」

 

「そうか、助かる。ロッドを譲る訳にいかないが暫くの間は使ってくれ」

 

「は、はい。で、でも良いのかしら?」

 

 細いロッドを″ギュッ″と抱き抱えたマリンが遠慮ガチに確認してくる。

 

「俺にはこの籠手がある……ロッドはまぞっほから借りても良いしな。さぁ、無駄話はコレまでだ……しっかり食って午後からも戦うぞ!」

 

 こうして軽く失恋した俺は、軽く食事を済ませると再び戦場に戻るのだった。

 

◇◇

 

 

「見て、でろりん!」

 

 微妙に気まずい空気の中、闘い続けること数時間。

 北東の方角に黄色の信号弾が上がった。

 黄色の信号弾はミストバーンやフレイザード以外の強敵の知らせ……弱いとも限らない未知の強敵の知らせだ。

 

「あれは!? 行くぞ! マリン!」

 

 気を引き締めマリンの手を握り締めた俺は、トベルーラで現場へと急行する。

 

 昨日と同じ轍は踏まない様に、ガストは優先的に倒している。

 数分と経たずに現場に到着した俺達が目にしたのは、焼け焦げた戦士と氷付いた戦士達……そして、北を担当する勇者ノヴァと対峙する敵。

 

 アイツ…誰だ?

 

「ノヴァ! 大丈夫か?」

 

「酷いわ……」

 

「でろりんさん!? マリンさんも?」

 

 ノヴァの横に降り立つとマリンは俺達から離れ、倒れた兵士に元へと駆け寄った。

 

「やったのはアイツか?」

 

 腰の剣を抜いて魔族に切っ先を向けて警戒しつつ″チラリ″と横を見た俺は、ノヴァから事情を聞く事にした。

 

 赤と青の変な配色の鎧に身を包んだ金髪の魔族……その手には両端に魔法力を増幅させる細工の施された白い棍とも、杖とも言える武器が握られている。

 顔が白いマスクで隠されているのを抜きにしても、俺はこんな奴を知らない。

 闘うにしても何らかの情報は欲しい。

 

「分かりません。僕も今来たところです」

 

 しかし、ノヴァも把握していないようだ。

 

 北を担当する勇者″ノヴァ″……原作では、壮絶に自己中心的とレオナに評された性格に難のある人物であったが、バランを師と仰ぐ目の前のノヴァはとても礼儀正しく、かなり強い。

 西よりも敵の攻勢が激しい北を任されていることからも、現在のバランの評価は俺よりノヴァの方が上であるといえるだろう。

 

「そうか・・・テメェ! 何者だ!」

 

 小さく頷いた俺は、正面の魔族を睨み付け名を問い質す。

 

 上手く事情を引き出せれば良いのだが、どういう訳か俺の誘導尋問は直ぐにバレる。

 

「俺こそは魔王軍六大将軍が一人、氷炎将軍ブレーガン様よ!!」

 

 は? マジで何者だ?

 

 名乗ってくれたのは有難いが、その名に全く聞き覚えがない。

 そもそも六大将軍ってなんだよ!?

 

「六大、将軍!? な、なんだそれは!」

 

 呆ける俺に変わって一歩前に出たノヴァが、驚きながら問いかける。

 

「フハハハハ! 知らぬなら教えてやろう! 魔王軍はモンスターの性質により六つの軍団に別れている! 即ち!・・・」

 

 ブレーガンがドヤ顔で魔王軍の陣容を語り出した。

 マスクをしているのにドヤ顔と言うのも変な話だがとにかくドヤ顔だ。

 

 百獣魔団……妖魔士団……不死騎団……氷炎魔団……魔影軍団、そして超竜軍団。

 

 耳障りな声でブレーガンは語り続け、ノヴァは軍団名を聞く度に驚いている。

 

 六大軍団は俺の知る陣容とほぼ同じ。

 てか、超竜軍団もしっかり有りやがる……一体、軍団長は誰なんだ?

 

「我々を統括するは、元魔王の魔軍司令ハドラー! そして、豪魔軍師ガルヴァス様だ!!」

 

 超竜軍団長も気になるが、最大の違いは六大将軍の存在と、ガルヴァスなる男の存在か。

 

「んで? お前等の主は誰なんだ?」

 

 知っているが一応聞いておこう。

 

「む? このブレーガンを舐めてもらっては困る! そう簡単に喋るとでも思っているのか!」

 

 いや、さっきは妙に聞き覚えのある耳障りな声でペラペラ喋ったじゃねーか。

 

「そんな聞き方したらダメですよ! もっと驚かないとマヌケでも話してくれません」

 

 ノヴァがこう言うって事は驚いていたのはワザとか?

 中々の演技派の様だ。

 

「そ、そうか?」

 

「マヌケだと!? それは一体誰の事だ!!」

 

 俺とノヴァは黙ってブレーガンを指差した。

 

 てか、そのマヌケに見抜かれた俺は大マヌケか?

 いや、考えたら敗けだ。

 

「お、おのれ〜! マタロウの前に貴様等から始末してくれるわ! デルパっ!!」

 

 俺の偽名を叫んだブレーガンが、懐から魔法の筒を取り出して解放の呪文を唱えた。

 ″ポワン″と煙の後に、四本足に青いボディのマシーンが現れた。

 

「アレはキラーマシーンですね」

 

 背中から剣を引き抜いたノヴァの全身に闘気がみなぎる。

 

 キラーマシーンは兎も角、ブレーガンが″マタロウ″を知っていると云うことは、この襲撃はフレイザード辺りの指金か?

 

「だな。キラーマシーンはお前に任せて良いか? 俺はアッチを殺る」

 

「任せて下さい! マヒャド!!」

 

 二つ返事で答えたノヴァがマヒャドを放つと、剣を構えてキラーマシーンへと突撃する。

 

 原作と違い素直だ。

 しかし、原作でも最終的には勇者として成長していたし、本質はあまり変わっていないのかも知れない。

 

「ってな訳でお前の相手はこの俺だ……掛かってきな!」

 

 ノヴァの背を見送った俺は、ブレーガンに不遜な視線を向け″ちょいちょい″と手招きする。

 

「貴様!? たった一人で俺に敵うとでも思っているのか!? シャァーっ!」

 

 白い棍を三つ折りにしたブレーガンは、その両端から炎と氷を発射する。

 棍か杖だと思っていたが三節棍らしい。

 分割する事で相反する属性の同時使用が可能な高性能アイテムの様だ。

 

 是非、欲しい。

 

「こう仕向けたのはお前だろうがっ! ヒャダイン!!」

 

 ブレーガンの天然な台詞に反論した俺は、ヒャダインを唱え氷と炎を纏めて凍らせると、未知の敵との戦闘を開始するのだった。

 









でろりんは2つの思い違いをしています。

バウスンの息子ノヴァは、早い段階で上には上がいる事を知り、真っ直ぐな好少年?に育った様です。

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