でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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久しぶり?の会話だらけ回







37

「邪魔するぞ」

 

 夜明け前に行われた作戦会議で世界樹を離れる旨を告げ、反対を押し切って了承を取り付けた俺は、ルイーダの酒場にやって来ていた。

 俺の記憶が確かなら、ハドラーによるデルムリン島襲撃は3日目の午前に発生するハズだ。

 原作通りにハドラーが現れるとも限らないが、現れないなら文句はない。

 俺の本日の予定は、とにもかくにもデルムリン島に向かい、ハドラーが現れればコレを撃退するハードモード、現れなければレムオルかけてダイの修行風景を見届けるだけのイージーモードになる。

 ハドラーの動向次第でミッション難度が両極端に様変わりする、予断を許さない1日になる予定だ。

 

「おや? アルキードの勇者様がこんな時間に何の用だい?」

 

 太陽が昇りきった頃に開いている酒場もどうかと思うが、お陰で死地へと向かう前に落ち着く事が出来るってもんだ。

 本当の事情を知る者の前でしか俺は本音を話せない……我ながらなんとも寂しい人生である。

 

「予定まで少し時間があるから挨拶でもしとこうと思ってな……とりあえず、水をくれ」

 

「酒場で水を頼むのは感心しないねぇ」

 

 そう言いながらも手際よくコップに水を用意したルイーダが、カウンター越しに手渡してくる。

 

「コレから闘うし良いんだよ……ふぅ……俺は……今日、死ぬかも知れない」

 

 コップを受け取り水を口に含んでゆっくりと飲み干し喉を潤した俺は、頬杖突いて考えたくもない最悪の可能性を口にする。

 

 全く変な話である。

 死にたくないから、死地に飛び込む……他人に聞かれたら矛盾としか思われないだろう。

 しかし、死中に活ありとはよく言ったもので、今日何もしなければ遅かれ早かれ人類は全滅する……そんな気がしてならないのだ。

 50年後の生を掴むためにも、今は死ぬ気で立ち向かう……それを愚直に繰り返してこそ、大魔王打倒の大奇跡は起こる……筈だ。

 

「そうかい……なら、未払金を回収しておかなきゃならないのかねぇ?」

 

「アンタはこんな時でも変わらないんだな? もし俺が死んだら物資を金に変えて回収してくれたら良いさ……今なら仕入れの5倍でも捌けるだろ?」

 

 ルイーダの余りの変わらなさに″ガクッ″とずっこけそうになるのを堪えて、インサイダー的取引を提案してやる。

 

「あたしゃソコまでがめつくないさね。3倍が良いとこだよ」

 

「言ってろ……まぁ、ルイーダには散々世話になったからな……感謝してる。俺がやってこれたのは、アンタと一味の力添えがあったからだと思ってる」

 

 飲み干したコップをカウンターに置いた俺は、席を立つと一歩下がって一礼する。

 頭を上げた俺は、用は済んだとばかりに踵を返して出口へと歩を進めた。

 

「らしくないじゃないか……今日の相手はアンタの手に負えないってのかい?」

 

 ルイーダの声が扉に手を掛けた俺を呼び止める。

 

「あぁ……元魔王のハドラーだ。今の俺じゃ倒せないだろう」

 

 ルイーダに背を向けたまま不安を吐露する俺の背中には黄金の甲羅が無い。

 それが不安に拍車をかけている。

 自己修復が間に合わずヒビが入ったままの甲羅に頼るよりも、最初から持たずに相対する方が心構えとして良いとの判断だ。

 下手に頼って戦闘中に砕ければ、致命的な隙を生み出し兼ねないのである。

 

「ヤレヤレだよ……馬鹿は大きく成っても治らないもんだねぇ」

 

「ナニ?」

 

「勝てないなら誰かと組めば良いじゃないか? 勝算もなく挑むのは勇者のやることじゃないねぇ」

 

「それが出来れば苦労はねぇよ……たまたまアバンに会いに行ったら、たまたま魔軍司令ハドラーの襲撃に遭いました、ってか? そんなの誰が考えてもオカシイだろ? ただでさえ疑われてんのに頼めねーよ。それに、世界樹防衛の戦力もコレ以上は削れねぇ…俺が抜けるだけでも大変だったんだぜ?」

 

 俺が抜ける事でノヴァが西に回り、マリンとへろへろが北を担当。

 手薄になる南はメルルの危機察知と、厚めに配置された戦士達を頼りに乗り切る算段になっている。

 理由を言わない我が儘にしか見えない行動をとる俺に対する評価が大きく下がったのは兎も角、バランを筆頭に多くの人に負担を強いているのは間違いない。

 

「ナニ馬鹿な事を言ってんだい? アバンに会いに行った先ならアバンと組めば良いじゃないか……組むとマズイ理由でもあるのかい?」

 

「いや、それは・・・無い、な……むしろ、そっちの方が自然か……?」

 

 今の俺の目的はダイに1日でも長く修行を受けさせることにあり、ハドラーを倒せなくとも撤退に追い込めば俺の勝利と言える。

 その過程でアバンが戦線離脱しなくなっても何の問題もない。

 結界外でハドラーを待ち伏せようと思っていたのは、知らぬ内に原作に囚われていたということか?

 

「……だったら、アバンの近くに伏せた方がより確実か……?」

 

「そんな所でぶつくさ言ってんじゃないよ。行くならササッとお行き」

 

 扉前に立ち止まり顎に手を宛て考えていると、ルイーダがめんどくさそうに手首をスナップさせて俺を追い出しにかかる。

 

「分かってるっつーの!」

 

 叫びと共に勢い良く両手で扉を開くと、昇った朝日が出迎える様に俺を照らし出した。

 

「……死ぬんじゃないよ」

 

 ルイーダの呟きに応えずキメラの翼を放り投げた俺は、一路デルムリン島へと飛ぶのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ダイっ! その調子だぁ!!」

 

 なんだこれ?

 

 デルムリン島に到着した俺は不思議な光景を目の当たりにしていた。

 

 砂浜で目隠しをしたダイが木の棒を握り、同じく木の棒を握り締めたアバンと打ち合っているのだ。

 それを胡座をかいて頭で逆立ちしたポップが応援するという有り得なさ。

 

 いや、この行為が見えないモノを斬る空裂斬の修行の一貫とは知っている。

 ポップの体勢が魔法力を高める基礎的な瞑想ポーズだとも知っている。

 知っているが何故″今″行われているんだ?

 この時点のダイは空裂斬はおろか海波斬も扱えず、ポップは修行に本腰を入れない甘ったれたクソガキのハズだ。

 それがどうしてこんな時間から空裂斬の修行に励み、瞑想しながら弟弟子を応援しているんだ?

 上空に浮きレムオルで姿を眩まし呆然と見詰める俺の視線の先で、ダイは何度倒れても直ぐに起き上がり、的確にアバンを捉えつつあった。

 

「そこだぁ!!」

 

 ダイが気合いを上げて力強く木の棒を振り抜くと、アバンは堪らず左手で受け止めた。

 

「お見事! いやぁ〜ダイ君の成長振りには驚くしかありません。このままいけば7日も掛からず勇者になっちゃいますね」

 

 腫れ上がった左手を″ふーふー″しながらアバンが賛辞を述べている。

 

「そんな事ありません! こんなんじゃでろりんは倒せないんです……″あの時″のでろりんはもっと、もっと強かったんです! 俺はもっと強くなってでろりんを止めたいんです」

 

 まて。

 第一の目的は魔王軍打倒のハズだろ?

 

「まぁたでろりんって野郎の事かよ? ソイツは先生の名前を利用して虚勢を張る只の嘘つき野郎だって教えてやったろ? お前が見た凄い魔法力とやらも、魔法力を調整して派手に見せたんだ」

 

 は?

 何でポップが俺に敵愾心を抱いてんだ?

 

「でも、ポップだってそんな事出来ないじゃないか」

 

「俺は嘘つきじゃなく魔法使いだからそんな事は出来なくたって良い! 大事なのは見せ掛けの強さじゃなく本当の強さ!! そうですよね? アバン先生!」

 

 ダイが口を尖らせて反論すると、腕を組んだポップが強さ論を語り始め、勢いよくアバンを見ては同意を求めた。

 

「あはっ、あはははは……そ、そうですね〜。ポップも立派に成長した様で私は嬉しく思います。さぁ、早朝の特訓はこれまでにしましょう。2人は朝食の準備にかかって下さい」

 

 乾いた笑い声を上げたアバンが2人の元に向かい、背中に手を宛て″トン″と押す。

 どういう訳か、アバンは話題を変えたいらしい。

 

 一体、なんだと言うんだ?

 

「え〜やだよ、俺ぇ」

 

「何言ってやがるっ。勇者はどんな状況に陥っても生き延びられるサバイバル技術も必要なんだよ! 闘いに敗れ身を隠す事もあるっ……身を隠しても腹が減って闘えませんじゃ意味が無い! そうですよね? アバン先生!」

 

 アバンへの依存も見てとれるが、ポップは窮地の時の心構えまで身に付けているらしく、思わず頷いてしまった。

 泥を啜ってでも生き延びて最終的に生き残った奴が最後の勝利者となるんだ。

 

「その通りです。そうでなくとも健康な食事が健康な肉体を創るのです。自らの体調管理の為にも料理に精通しておくのも、又重要なのです。良いですか? 強さとは色々あります。ダイ君の戦闘能力は既に十分なレベルに達しつつあります。先程ポップが述べた事と矛盾しますが、見せかけの強さも時に有効です。見せかけの強さに敵が恐れを為して逃げ出したなら、それは勝利なのです。他にも心の強さ、人を導く事で得られる強さ、頭の良さや、生き抜く生活の知恵も立派な強さなのですよ……限られた時間しか有りませんが、戦闘能力以外の強さもダイ君には学んで頂こうと思っています」

 

「は〜い」

 

「ほらみろっ、俺の言った通りだろ?」

 

「ポップだって間違えたじゃないか」

 

 ポップが肘でダイをツツクと、ダイは背筋を″ピン″と伸ばして反論する。

 

 たった2日の筈がすっかり仲良く成っている様だ。

 

「ハリーアップ! 時間は有限ですよ? 私は浜辺を均してから向かいます。他の住民が足をとられてはいけませんからね」

 

「「はい!!」」

 

 小突き合いを止めない2人はアバンに急かされると、ブラス宅方面へと駆け足で去っていった。

 

 アバンは2人が去ったのを見届けると言葉通りに腰を下ろし、素早く移動しながら両手で荒れた浜辺を均していく。

 

「何時までそんな所に隠れているつもりですか? 久しぶりに会えたのです……降りてきては如何ですか?」

 

 鼻歌混じりに均していたアバンが突然、空を見て話し掛けてきた。

 

「何故、判った? ……いや、それよりどうなってやがる?」

 

 観念した俺はレムオルを解除する″スー″とアバンの近くに降り立った。

 どのみちアバンとは顔を合わせる予定だったし、まぁ…大丈夫だろう。

 

「勇者ともあろう者がバッドですね〜。光学迷彩魔法″レムオル″は光の屈折を操って人の目を欺く魔法です。したがって、人とは違う視覚能力の持ち主であるこの島の住民の目は欺けません。つまり、レオナ姫暗殺未遂犯である貴方がブラスさんに見付かれば大事になる、と言うことですね」

 

 満足いくまで均し終えたのか、アバンは立ち上がり両手を叩いて砂を払い落とすと″ニカッ″と笑って俺と向き合った。

 

「説明が長ぇよ! 質問の答えになってねぇしっ」

 

「おや? これは失礼しました。実は私……これでも狙われる立場なので真実を見抜く眼鏡をしているのです……それが、コレです! 勿論、真実を見抜くといってもでろりん君が用意したラーの鏡程ではありません。しかし! レムオルや影に潜む刺客を見抜くにはこれで十分なのです」

 

 左手で眼鏡を外して″バーン″と俺に見せ付けたアバンは、右手を握り締めて力説している。

 

「だから……説明が長いって…。 要は眼鏡のお陰で判ったんだろ?」

 

「まっ、平たく言えばそうなりますね」

 

 両手を″パッ″と開いたアバンは同意すると、腰に手を宛て″カラカラ″と笑った。

 

「ついでに俺の事は調査済み…ってか?」

 

「何の事でしょう? それよりこんな所で油を売っていて宜しいのですか? 私の予測では貴方の故郷でもあるアルキードは、魔王軍の大攻勢に遭っているのではありませんか? 如何な″竜の騎士″と言えどバラン殿お一人の力では少々厳しいのではありませんか? なんと言っても世界樹が朽ちれば、それは即ち敗北になりますからねぇ…。世界樹を護りながら闘う……言うのは簡単ですが非常に困難な戦闘が繰り広げられているのではないでしょうか? にもかかわらず貴方はこの地に現れた……それはつまり、アルキードの命運以上に大事なモノが此所にある、と考えるのは間違いでしょうか?」

 

「なげぇって……はぁ……アンタ、他に何を知っているんだ?」

 

 長台詞に混じって重要な情報をぶち込んでくるのが何ともイヤらしい。

 何でバランが竜の騎士ってアバンが知ってんだよ。

 

 真綿で首を締められるとはこの事か。

 

「そうですねぇ〜。例えば、竜の紋章を持つダイ君はバラン殿の拐われた息子である、それ位でしょうか?」

 

 胸ポケットとから取り出したハンカチでレンズを軽く拭いたアバンが眼鏡をかける。

 

 軽い行動とは裏腹に、レンズの奥の瞳が厳しさを増していく。

 

「で、それを俺に言うって事は俺を疑ってる……って事だな?」

 

「イェ〜ス! 流石でろりん君です。話が早くて助かります……さぁ、事情を話して頂けますか? でなければ人道的観点からダイ君の事をバラン殿にお知らせしなければなりません」

 

 俺は、アバンを甘く見ていたらしい。

 多少の差違はあってもかなりの部分を見抜かれているとみて良いだろう。

 少なくとも俺が何をしたかはバレているし、シラを切ってもダイの事を告げるのは止められない。

 

「ちっ……勇者が勇者を脅すのか?」

 

「滅相もありません。私は人道的見地に立って取るべき行動を予告したに過ぎませんから」

 

 舌打ちに加えてジト目で睨んでやったが、両手を腰の後ろで組んだアバンは澄ました顔でいけしゃあしゃあとほざいている。

 

「はいはい、話せば良いんだろ? だが、今は時間がねぇ」

 

 お手上げのポーズを取った俺は、話す決意を固めつつも先伸ばしを提案する。

 

「と、仰有いますと?」

 

「もうすぐ魔軍指令ハドラーが、アンタを殺しにやって来るからだ」

 

 真剣な表情を造った俺は、今この瞬間で一番重要となる情報を声を落として告げるのだった。

 


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