でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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色んな意味で禁断の手法。
アバンによる独白。
話は全く進みません。








アバンの視点

『強欲の勇者でろりん』

 

 この世界に住まう人々の噂の種と成り続けた、善悪定まらぬ人物にして私の自慢の二番弟子です。

 尤も、彼は私の弟子である事を頑なに拒み、又、契約が在るため私の口からは何も言えないのが残念でなりません。

 彼との関係をポップに聞かれる度に私は冷や汗モノです……聞けば、今から凡そ四年前、私と出逢う二年前に、ポップはでろりん君と出会ったというではありませんか。

 その時彼は、どういう訳か「家庭教師のお陰で強く成った」等と私との関係を仄めかす事を自ら発し、それを信じたポップが偶然出会った私への弟子入りを強硬に願い出たのです。

 ポップから何度でろりん君との関係性を聞かれても、契約が在る以上「私とでろりん君は面識が無い」と言わねばならないのです。

 お陰でポップは″私の威を借る偽物″であるとでろりん君を認識してしまいましたが、コレは私のせいではありませんね。

 私は彼と違い嘘は得意でないのです。

 

 私の自慢の二番弟子は噂に事欠かない人物であるのは間違いありません。

 

 彼の軌跡を辿ってみれば、古くは幼少期にまで遡る事が出来ます。

 幼き頃から神童と呼ばれ、その知性と魔法のセンスは他の追随を許さないモノであったと伝え聞きます。

 そんな彼の評価は英雄バラン殿の登場と共に、アルキード王の謀略により一転して地に落ちました。

 バラン殿が圧倒的な強者であると知ったアルキード王は、王女との結び付きの強いバラン殿を確実に手に入れる事を優先し、その価値を高める為にも「神託を授かった」との噂もあったでろりん君を″バラン殿を囮にした処刑劇″の一幕を利用して「強欲者である」と世に広めたのです。

 この頃を境に暫くの間、でろりん君は人前に姿を現さなくなったのです。

 

 世の人々は姿を現さなくなったでろりん君を「強欲者でも恥はあるらしいぜ」と、口々に罵りました。

 しかし、彼はそんな世間の評価などどこ吹く風とばかりに、時にアポロ殿達の力も借りてただひたすらゴールドを求めて地底魔城に籠っていたのです。

 

 今なら判ります。

 彼はこの頃から、たった独りで足掻き続けていたのでしょう……。

 どうして私は、彼に会いに行って救いの手を差し伸べてあげられなかったのでしょうか……今でも悔やまれます。

 この頃、出逢えていたなら彼も素直に話してくれた……そう思えてならないのです。

 

 さて、ミリオンゴールドを集めていたでろりん君でしたが、彼は15の成人を迎えた頃を境に、独創的な衣装に身を包んだパーティーを率いて、世間の目に留まる様に活動を再開した様です。

 しかしながら、一度落ちきった評価と活動頻度の少なさも相まって、思うような評価は得られなかったのが、後の高額報酬を要求する焦りに繋がったのではないでしょうか。

 

 この頃、ルイーダさんの協力を得られた私は、でろりん君との対面を果たす事になりました。

 ですが、遅きに逸したとは正にあの事でしょう。

 全身から悲壮感を漂わせたでろりん君は心を閉ざし、自分を責め、そして、確たる決意を秘めており、私の言葉は彼には届きませんでした。

 彼が″何か″を恐れ、それに備えようと足掻いているのは火を見るより明らかでしたが、当時の私は其が何なのか気付いてあげる事が出来なかったのです。

 私に出来たのは「自分に出来ることをやれば良い」との彼の言葉に従い、でろりん君の恐れる″何か″の正体を突き止める為に彼の痕跡を追いかけ、検証を重ねる事だけでした。

 

 私との修行を終えたでろりん君は、精力的に活動を始めましたが、その迷走ぶりは今でも酒の肴になる位に酷いものでした。

 良い事をしたかと思えば高額報酬を要求し、ドラゴン討伐で強さを示したかと思えばパーティーメンバーに敗北し、お金を稼いだかと思えば関係の薄いロモス王国に寄付を始める。

 彼の行動には一貫性がなく、極めつけに黄金の甲羅です。

 世間の人々は「気でも狂ったか?」と嘲笑いましたが、其がミリオンゴールドであると知る私は、驚愕に震えたものです。

 一国の王ですら躊躇うであろう金額を一個の武具、それも武器ではなく盾に注ぎ込む……それは防衛本能の現れでしょうか?

 

 彼の形振り構わぬ行動を知った私は、最早時間が無いことを悟り、形振り構わず彼に縁のある人物を頼って話を聞くことにしたのでした。

 その過程でバラン殿から己が竜の騎士であると告げられ、「あの少年は私が竜の騎士であると知っている節がある」と聞かされたのです。

 ここに至って漸く私は、でろりん君が神託を授かったのは、根も葉も無い噂やデマではなく真実であると気付いたのです。

 学者の家系である我が家でさえも、竜の騎士に関する情報は殆ど伝わっていないのです。

 普通の村に育った子供が竜の騎士を知ること等、出来よう筈もありません。

 そして、魔王軍の侵攻が始まった事で神託の中身も見当が付いた私は、己の不甲斐なさを恥ながら、でろりん君が勇者と認めるダイ少年の元へと向かったのでした。

 

 デルムリン島で出会ったダイ少年は、素晴らしい資質と心の持ち主でした。

 人の俗世に紛れては、これ程の純心さは保て無かった事でしょう。

 奇跡の様な少年との出逢いに感動を覚えたのも束の間でした。

 修行を開始したその日、ダイ君の額に竜の紋章が輝いたのです……竜の騎士は一代限り、そして、同じ時代に2人の騎士は現れないのです。

 私は即座に理解しました……ダイ君こそが十数年前に拐われたバラン殿の息子である、と。

 しかし、そうであるならモンスターに拐われたダイ君が、デルムリン島に居るのは不可思議としか言えなくなります。

 こんな事が出来るのは、やりかねないのは、私の知る限りたった1人でした。

 

 そして今日……でろりん君が姿を現した事で全ては繋がりました。

 この場においてアルキードを護る以上に大事な事……それはダイ君以外に考えられません。

 魔王の襲来を知る彼は、竜の騎士親子を護る為に全てを掛けて闘ってきたのでしょう。

 幼きダイ君を拐わったのなら、それは決して誉められた事ではありません。

 しかし、神託を知るでろりん君には、そうしなければならない事情があった……今はそう信じたいと思います。

 彼は善人とも言い切れませんが、親と子を引き離して平気でいられる程の悪人でないと、師である私には良くわかるのです。

 

 ならば私も彼の師として、彼に恥じない行動を取らねばなりません。

 又、この様な手段を講じた弟子に成り代わり、バラン殿に誠意を持って真実を告げなければなりません。

 

 悲壮感が消え、精悍な顔付きのでろりん君がハドラーの襲来を告げるのを聞きながら、私はそう決意するのでした。

 











幾つか思い違いもしてます。
因みにアバンの調査能力と世間の認識にはズレがあります。

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